私は天使なんかじゃない







グリン・フィスの憂鬱






  忠誠。
  忠義。
  忠実。

  崇高にして一途、そしてある意味でシンプルな生き方。
  仕えるべき主の為に殉じる覚悟。

  それが彼の強さの秘密。
  そして生き方。






  今回の話はグリン・フィスの視点です。
  また<旅は道連れ世は情け>の話と連動してます。何故グリン・フィスのテンションが低かったのか、的な話です。





  「そこっ!」
  足元を思い切り蹴って俊敏に相手との間合いを詰める。相手が剣を構えるよりも先に自分の剣が相手の胴を抜いていた。
  彼の肉体は強靭だった。
  だが見せ掛けだけだ。
  訓練の成果で肉体は出来上がっていこそいたものの実戦という経験はまだの新兵。
  「それまでっ!」
  トレーナーの声が響く。
  自分は軽く相手に目礼、相手は深くお辞儀した。
  ここは要塞と呼ばれる場所。
  主達と一緒にここに匿われて既に3日が経つ。
  確かこの要塞はかつて国防総省とかペンタゴンとか呼ばれていた場所らしい。シロディールの帝都に比べると小さいが堅牢さでは同等程度だと思う。
  本来なら主に付き従うのが自分の役目。
  だが主は3日間意識を失ったまま。
  ……。
  ……自分が弱かった所為であり自分の非力の所為。主に負担を掛けてしまった自分の責任だ。
  強くならなければ。
  その為に要塞の中庭の一角を借りて剣を振るっていたら一手ご指南頂きたいというトレーナーの要望を受けて、トレーナーの相手をした。
  結果?
  かなりの実戦経験こそ積んでいたものの白兵戦はさほど得意ではなかったらしく倒した。その結果、トレーナーに頼まれて新人の訓練をしていた。
  良い汗を流せた。
  自分は剣を……もちろん双方ともに模擬刀……をトレーナーに返却してその場を後にした。



  「ふぅ」
  要塞の廊下を歩く。
  シャワーとかいう代物で汗を流した。さっぱりした体で廊下を歩く。シャワーとかいう代物はシロディールにはなかったが、快適な代物だと思う。
  思うにここアカヴァル大陸……いや、アメリカ大陸は荒廃しているものの快適さはシロディールの比ではない。
  魔道文明とは別の文明が発達しているようだ。
  特に銃火器。
  当初は軽視していたが結構便利な代物で自分も1つ持っている。
  32口径ピストルとかいうやつだ。
  もっとも最近の戦闘ではパワー不足は否めない。
  ふぅむ。
  主の持つ44マグナムとかいう銃のようなパワーのあるものが欲しいものだ。
  要塞を仕切るBOSとかいう連中に頼めば譲ってくれるだろうか?
  強い銃の入手の必要性は可及的速やかにしなければならない。
  そうすることで主の役に立てる。
  ……。
  ……しかし、まあ、やはり自分にとってしっくりくるのは剣だな。
  ジンウェイ将軍を名乗る人物が持っていた武器を鹵獲して自分のモノにしたが剣の方が使い勝手が良い。
  銃はあくまでサブ。
  剣がメインだ。
  
  コツ。コツ。コツ。

  歩く。
  歩きながら主のことを考える。
  「……」
  どんなに強くても。
  どんなに信念があっても。
  主は人間。
  限界という者は当然あるし打たれ弱さだって持ってる。万能を求めるのは酷というものだ。いやそもそも万能を求めるべきではない。
  支えなければ。
  自分が全力を持って主を、1人の女性であり1人の人間である主を支えなければ。
  それが自分の意味。
  それが自分の……。
  「ん?」
  主がBOSに借りている部屋の扉の前まで来ると声が聞こえてきた。
  聞こえてくるのは主の声。
  だが1つではない?
  サラ殿か?
  そうではないな、男の声だ。ならば盟友アンクル・レオ……いや、これは……ああ、ブッチとかいう小僧の声か。
  ちっ。
  主はお疲れなのだ。
  にも拘らずあの小僧め休息を邪魔しているのか。
  扉に手を掛けて開けようとする。
  だが自分の手はそのまま止まる。聞こえてくる会話の内容に自分は戦慄した。

  「ブッチ。リアルなスネーク、私初めて触っちゃった☆」
  「ちょっ! 強く握んなよっ!」
  「可愛い。……あっ、何か出た」
  「強く握るからだろっ!」
  「ふー」
  「息吹き掛けんなってっ!」
  「おー。お怒りモードですな(笑)」
  「妙な挑発すんなっ!」
  「あれブッチもしかして震えてるの? もしかして初めて? ……私も初めてだけど意外に男より女の方が平気なものなのかな?」
  「……感性の問題じゃないか?」
  「うっわ反り返ってるねー」

  なななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななな何やってんですか主ーっ!
  こ、これは何犯ってんだと変換すべき……いや、漢字は危険だっ!
  ここは正義のサイトっ!
  犯るはNOっ!
  ただし殺るはOKという、ある意味でCERO並の適当な基準ではありますが正義のサイト「天使で悪魔&私は天使なんかじゃない」をよろしくお願いします。
  って関係ねぇーっ!
  落ち着け。
  落ち着け自分っ!
  再び耳を済ませる。

  「ねぇブッチ」
  「なんだよ?」
  「こういうことしても良いよね?」
  「ちょっ! ……おいおい痛いな歯を立ててんぞっ!」
  「ごめん」

  あるじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
  ま、まずい。
  完全に扉の向こうではやってる、これはやってるぞ騙しなし状態だっ!
  何をってやってるかって?
  そこは読者諸君の想像力に任せるとしよう。
  「……」
  そ、それで自分はどうする?
  選択肢はいくつかある。
  自分が考え付いた選択肢は3つだ。
  @世の理を説いて不純異性交遊を禁止する。
  A主は自分のものだと主張する。
  B混ぜてくれと懇願する。
  ……。
  ……馬鹿な。他の選択肢などありえない。
  @だろ、これは完全に。
  @しかないだろ。
  常識的に考えて@しかない。ここは大人の視点で2人を正論で諭すとしよう。
  その間にも扉の向こうの展開はヒートアップしていく。

  「ごめんブッチ痛かった? ……ね、ねぇ、何で無言で近付いてくるの?」
  「……」
  「怒ってるの?」
  「ミスティっ!」
  「いやぁっ!」
  「おらおらおらーっ!」
  「い、痛いよっ!」

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  扉を蹴破る。
  部屋に乱入して自分は叫ぶ。
  「主、敵を今すぐ排除しますっ! 読者の味方を気取る不埒者ブッチめ、ショックソードの錆びにしてやるっ!」
  刃を引き抜く。
  そして見る。
  指から血を流している主を。
  ……。
  ……あ、あれ?
  思ってたような展開ではなかった。
  何故か主の指には小さな蛇が噛み付いている。血はそいつの所為だろう。よく見るとブッチの指からも血が出ていた。
  あ、あれ?
  何だこの展開は?
  「グリン・フィスどしたの?」
  「主」
  「ん?」
  「この展開は一体……?」
  「この展開って、まあ、リアルなスネークを見たからテンション高くなってただけなんだけどそれが何? 蛇見るの初めてだったからテンション高くなっただけだけど?」
  「……何か出てるとか反り返ってるとか……」
  「えっ? ああ、加減間違えて強く握ったらシャーって舌を出して威嚇してきたの。息吹きかけたら鎌首もたげたり反り返ったりしたの。それが何?」
  「……歯を立てるなとかは……」
  「ブッチに手渡したら蛇が噛んだのよ彼の指を。でブッチが仕返しに怒りモードの蛇を私に手渡したわけ。当然噛まれたわ。それが何か?」

  がくり。

  自分はその場に崩れ落ちる。
  何て紛らわしい会話なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!





  グリン・フィスの憂鬱 〜完〜