私は天使なんかじゃない







ファーストコンタクト





  ボルト101。
  メガトン。
  例え場所がどこだろうと人がいる限り出会いがある。そして別れも。
  人と人との交わりは必然であり偶然。

  私は会う。
  今後の人生に深く関わってくる人達に……。






  「うーん。その異邦人、解剖してみたかったなー☆」
  「……」
  「なんて名前の人だっけ?」
  「グリン・フィス」
  「んー☆ 改造意欲湧く名前よねー☆ そう思わない?」
  「お、思いません」
  「そう? 感性の違いよね、きっと」
  「か、感性の問題かなー」
  末恐ろしい事を言う人だ、モイラ嬢は。
  ここはクレーターサイド雑貨店。私達がいるのはその店の二階。現在店は休業中。……ま、まあ、2人して世間話してるだけなんだけど。
  一階では傭兵がモイラの財産を護るべく壁を背にして突っ立ってる。
  ……私にはサボっているようにしか見えないけどさ。
  ともかくここはメガトン随一のインテリ(自称)であるモイラ・ブラウンが経営するお店だ。
  扱う品物はガラクタから銃火器までと幅広い。
  この街で唯一日用品が購入出来る場所でもあり大繁盛している。もっとも当人は商売はオマケで、実際には色々な研究がメインらしい。
  今、私はこの人に依頼されている。
  スーパーウルトラマーケットの実態を調べるのが任務。その真意はどの程度の戦前の物資が残っているかの調査。
  何故?
  モイラはウェイストランドのサバイバル本を執筆している。
  調査はその一環だ。
  もっとも自身には戦闘能力が皆無なので調査は私がするわけだ。もちろん私には私の事情がある。キャップの持ち合わせが少なく武器の満足
  な修繕が出来ない。調査を交換条件として私は調査を受けた。
  多少モイラは変人……いやまあ、控えめに変わり者にしておこう。ともかく少々変わり者ではあるものの親切な人だと思う。
  寝床まで貸してくれたし。
  さて。
  「それでー? その人、どうしたの?」
  「病院に担ぎ込んだ」
  「なんでここに運ばないのよっ!」
  「はっ?」
  「色々と実験したかったなぁ。どの程度の出血で人は死ぬのか、脳を弄ったらどうなるのかとか試したかったのに」
  「……」
  「あっ、ミスティ。怪我したら私が治してあげるからね。無料で☆」
  「絶対に嫌っ!」
  力一杯否定する。
  こ、こいつ、親切なんじゃなくて、ただのマッドサイエンティストな気がしてきたぞ。
  ……外の世界って怖いなー……。
  ……悪気がない分、レイダーよりも性質が悪いかも。
  おおぅ。
  「ちぇっ。ミスティって意外に付き合い悪いのね。人の善意は受けなきゃ。ボルトの人間って付き合い悪いのねー」
  「つ、付き合いの問題かな」
  「あーあ」
  「……」
  「私の実験にちょっと付き合ってくれたら100mを3秒で走れるぐらいの身体能力にしてあげるのに」
  「……」
  こえぇーっ!
  こいつ危ないぞーっ!
  ここで仮眠している間に既に何か改造されているのかもしれない。
  ガクガクブルブル。
  「あっはははははははははははっ。冗談よ」
  「……」
  気分を察したのだろう。
  モイラは弾けるように笑った。
  しかしすいませんモイラ嬢貴女のさっきの瞳には全然冗談がありませんでした限りなくマジっ!
  ……まともな奴はいないのかこの世界。
  はぁ。
  監督官が絶対に許さないのは分かってるけど、パパと一緒にまたボルト101に戻りたい。
  絶対にありえないけどね。
  生活的な問題からは帰りたいと思うけど、監督官はジョナスを殺した。
  ふん。許されたって帰るかボケ。
  「ねっ? ねっ? その人、どんな人だったの?」
  「拾い物の男の事?」
  「そうそう」
  「銀髪の男だった。妙な黒い服着てたな。……ローブってやつ? あとは折れた剣」
  「へー」
  眼帯の伊達男ビリー・クリールにスーパーウルトラマーケット調査の手伝いを頼み、その後散歩を兼ねて街を歩いていると男を拾った。
  グリン・フィスとかいう奴だ。
  職業(なのか?)は与えし者、らしい。
  キャピタルウェイストランドには妙な仕事があるみたい。
  まあ、どんな仕事かは想像も出来ないけど。
  ともかく。
  ともかく私はそいつを拾った。
  どこで誰が死のうと基本知った事ではないんだけど、救えるのに救わないのは私のポリシーに反するので拾って病院に担ぎ込んだ。
  ……難儀なポリシーよね。
  まあいい。
  いずれにしても私はそいつを拾って病院に放り込んだ。
  それだけだ。
  別に大した事をしたわけではないし、大した事を知っているわけでも、大した繋がりでもない。
  それが私が言える全てだ。
  「んー」
  モイラはそれが不服らしい。
  野次馬根性?
  確かにメガトンは大きな街だけど娯楽ってのに飢えていそう。少しでも変わった出来事が生き甲斐なのだろう、きっと。
  話題を変えよう。
  「ねぇ。私の武器、修理できた?」
  「出来てるわよ」
  「よかった」
  「持って来ようか?」
  「まだいいよ。保安官助手が来るまではさ」
  腰を浮かしかけたモイラにそう言うと、再び腰を下ろした。
  武器の修繕感謝。
  10oサブマシンガンとハンティングライフル。それが私が前回のスプリングベール小学校で手にした戦利品であり主要装備。
  火力の面ではまだ心許ないのは確か。
  最低でもアサルトライフルが欲しいけど、まあ、無理だ。
  買えばいい?
  そうね。
  モイラの店にはアサルトライフルがある。
  しかし購入すると高い。
  私の持ち合わせはそれほど多くはない。銃そのものは買えるかもしれないけど弾丸まで手が回らない。弾丸のない銃なんて邪魔なだけだ。
  いずれレイダーから接収するまではこの装備で頑張ろう。
  「整備ありがとう」
  「いいわよ別に。それに代金としてミスティの臓器の一部を抜き取ったしさ。……くすくす。抜き取られたのによく生きてるわよね?」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「……冗談よ」
  「怖いからやめて怖いからやめてーっ!」
  ガクガクブルブル。
  涙目で私はモイラに縋りつく。
  だってこいつマジ怖いもんっ!
  ボルト101時代から強気で勝気ではあったものの、外の世界に出てから少し丸くなりました。今では私は可愛げのある女の子☆
  上には上がいる。
  ……外って怖いなー。
  おおぅ。
  「そ、それよりも保安官助手ってどんな人?」
  話題を転じる。
  肉体改造とか内臓抜き取るとかリアルに怖いし。その話題には固執したくありません。
  ……私ってば弱気になったなー。
  「保安官助手?」
  「そう」
  「確かヒスパニック系の二十代前半の女の人。栗色の長髪。なかなか個性的な人だと思うわ」
  「へー」
  個性的ね。
  まあ、あんたには劣るでしょうけど。
  ……。
  い、いやっ!
  モイラの性格は個性で済ましてもいいのだろうか?
  結構こいつ危ないしなー。
  個性も色々。
  その時、下から傭兵の男の声が響いた。
  「オーナー。客が来たぞ……はぐぅっ!」
  ……?
  はぐぅって何?
  思わず私達は顔を見合わせる。
  ギシ。ギシ。ギシ。
  階段を誰かが上がってくる。
  チャッ。
  私は護身用のナイフを引き抜く。この街、丸腰では歩けない。何かしらの武器は常に携帯しておくに限る。
  「ここにいて」
  声を押し殺して腰を静かに上げる。
  強盗?
  そうかもしれない。
  でもだとするとかなりの腕よね。客を装って店に入って来た。偽装。傭兵の隙を衝く為の偽装。しかしあの傭兵、結構の手錬だ。
  隙を衝いたとはいえ倒すとはなかなかやる。
  ナイフで勝てるかな?
  ギシ。ギシ。ギシ。
  階段を上がってくる。足音を忍ばせる事もしていない。……ま、まあ、そもそも隠密には不向きな軋んだ階段なんだけどさ。
  モイラが顔色を輝かせて呟く。
  「銃を持った強盗相手に戦いを挑み、何発撃たれたら死ぬのかを証明しようだなんて。献身的な行いね☆」
  「殺すわよまずあんたをっ!」
  「冗談よ☆」
  「……全然冗談じゃないでしょうにー……」
  「ばれた?」
  「……」
  うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
  キャピタルウェイストランドの悪意キターっ!
  こいつがラスボスっ!
  決定っ!
  ……はあ。まともな奴いないのかよ。
  ……やれやれだぜー。
  「モイラ、隠れてて。来たわ」
  「分かった」
  さすがに強盗相手に軽口を叩く気はないのだろう。
  素直に隠れる。
  い、いや、もしかしたら私が射殺されるのを観察する気なのかも知れない。冗談では済みそうもないモイラの性格だから怖いです。
  私が死んでもそれをネタにしそうだなー。
  おおぅ。
  「来た」
  ナイフを身構える。
  そして……。
  「整列っ!」
  「うっわびっくりしたーっ!」
  「私語をするなっ! 上官の前であるっ! 口を開くなっ!」
  「誰が上官……」
  「黙れ一兵卒っ!」
  「一兵卒って」
  「上官への不敬罪として銃殺刑でもよいのだぞ、兵卒っ!」
  「すいませんでしたっ!」
  よく分からんけど私は謝る。
  軍帽を被った女性が目の前に現れた。身長ほどもある銃を背に担いでいる。スナイパーライフルの類だろう。
  傭兵の服(トラブルメーカー)を着込んだ栗色の髪の女性。
  凛とした雰囲気?
  ……。
  んー。どっちかというと威圧的?
  鬼軍曹かこいつは。
  「あのー。どちら様ですか?」
  「上官に対する敬語がなっていないぞ一兵卒っ! 軍法会議ものだなっ!」
  「すいませんでしたっ!」
  「自分はクリスティーナ保安官助手である。ルーカス・シムズ閣下からの特命により貴様の上官に就任する。敬礼はどうしたーっ!」
  「いえっさーっ!」
  ……意味分かんねぇ……。
  上官ってなんだ上官って。掴み所がないとか言ってたけどただの軍隊マニアだろうが。
  美形なんだけど勿体無い。鬼軍曹の性格は救われない。
  まあいいや。
  「私は……」
  「貴様の事は閣下から窺っている。これからは我が軍の一兵卒として編入する。心して掛かれっ! 掛け声用意っ!」
  「……えいえいおー……」
  「声が小さいぞっ! 腹から声を絞り出せっ!」
  「いえっさーっ!」
  逆らうだけ無駄っす。
  ともかく保安官助手と合流。あとはビリー・クリールと合流するだけだ。
  「あの、どうして傭兵を叩きのめしたのですか?」
  「不敬罪だっ!」
  「そ、そうですか」
  こいつも危ない。
  まともな奴をお願いします神様まともな奴をここに送り込んでーっ!
  「俺も仲間に加えてもらおうか」
  ん?
  「救われた以上、恩義を返す必要がある。俺の名はグリン・フィス。……今後は君に従うとしよう」
  



















  今回の話は『次元を超えた者』と対の話です。なお『次元を超えた者』の視点はグリン・フィスです。
  お読み頂ければ分かり易いかと思われ。