そして天使は舞い降りた
プリム
もう一つのニューベガスっ!
プリム。
ジェットコースター跡地のある街。
主な収入源はカジノ。
ピッキ&ヴァンスというカジノがあり、またニューベガスを仕切る三大ファミリーの経営するカジノ兼ホテルと同等クラスのホテルがある街。ホテルの名前はバイソン・スティーブ・ホテル。
元々は栄えた街ではあったものの現在街の西側はNCRが駐屯し、重税を掛けている為に急速に衰退している。
現在の住人は100名弱。
近隣にある収容所NCRCFはここにある駐屯所の管轄となっている。
モハビの併呑に血道を上げているNCRにとってこの街はNCRとモハビの国境地帯である前哨基地を起点とした制圧地帯であり、NCRが北に勢力を伸ばす為に必要な街。
また、この街にはモハビ・エクスプレスの支店がある。
「ここが、プリムか」
到着。
ここに至るまでの問題点?
特になし。
ガラの悪い拾い物はしたけど特に支障もなく到着した。
戦前の代物だろう、鉄格子の塀に覆われている街。全体がかは知らないけど、見る限りでは塀が張り巡らされている。どうやら防御は完璧らしい。
なるほどな、グッド・スプリングスよりも上等の街のようだ。
ここからでも大きな建物が2つ見える。
カジノとホテルかな?
今までに聞いた限りでは、そうなのだろうな、多分。
「マスター」
「行きましょうか」
アリスに促されて進む。
ガラの悪い同行人は特に何を言うでもなく付いて来るだけ。
まあ、口を開けば汚い言葉が出てくるだけだから別にいいんだけどね、会話がなくてもさ。
門を抜け、街に入る。
「ん?」
しばらく歩いても第一住人発見できず。
何だこれ?
寂れてるのか?
「質問。あれは何ですか?」
「あれ」
街の西側に無数のテントが立ち並び、旗が翻っている。そこに行くには橋を渡る必要があるようだけど、どうにも近付けないようだ。
陣地が構築され、兵士が歩哨に立っている。
NCRだ。
連中が駐屯しているのか。
……。
……あー、NCRCFとかいう収容所はここの駐屯地の管轄だっけっか?
聞いたような聞かないような。
人がいないのってまさか戒厳令とかじゃないだろうな?
罰金とかあったら嫌だなぁ。
「プリムへようこそ。くっくっくっ」
「はあ?」
肩掛けホルスターにある9oピストルを引き抜くものの、私は面食らってしまう。
間合いは充分。
仕掛けられる前に撃てます。
ただ、問題なのは、私の眼前に立ち塞がった……いや、私の前後を挟む形で現れた男どもの恰好がいささか問題なのだ。
アメフトのヘルメットに防具に身を包んだ、小振りの片手斧を手にした4人組。
何だこいつら?
パウダーギャングも大概アホな恰好をしてたけど、それでもギャングらしい武装ではあった。
だけどこの4人組はそうじゃない、斧しか持ってない。
馬鹿なのか?
まあ、馬鹿なんだろう。
前後挟まれてはいるけど私なら瞬殺だ。
「ここを通りたきゃ有り金全部置いていきなっ!」
「うん、断る」
こっちも金持ちってわけじゃない。
慈善家ですらない。
誰が払うか。
まさか街に活気がない、人気がないのはこいつらの所為か?
この街を仕切ってるギャングか何かか?
んー、それはないよなぁ。
防具は厚そうだけど銃の前では意味がないし、そういう意味では暑いだけの恰好だ。私ならワンパンで潰せそうだ。となるとこいつらはただのチンピラってことか。街が衰退する原因って
わけではなさそうだけど……NCRは何やってんだろ。取り締まろうぜ、こんな連中。
「てめぇらっ! 通行人からカツアゲかよっ!」
おお。
ガラの悪いスエゴ君、格好良い。
彼に何とかしてもらうとしよう。
私は忙しいのだ。
「……はははっ! 考えやがったなぁ」
んん?
流れが変わったぞ。
どこか同調するような感じだけど、まさか……。
「よしよし。ギャングっていうのはそうでなきゃいけねぇ」
「スエゴの旦那っ!」
仲間かよ。
ちぇっ、やっぱりガラの悪い奴は助けるべきではなかったな。とはいえ大した連中には見えないけど。
「マスター」
「様子見ましょう」
「了解」
万に一つも負けようがないだろ、私たち。
連中は勝手に話を進める。
いいですともいいですとも、勝手にやっとけ、内輪で盛り上がっとけ。
「どこ行ってたんっすか、心配したんっすよ」
「まっ、どこだっていいじゃねーか。それよりもベニシオの兄貴は? もうここまで来てるのか?」
「ついさっき旦那を探しにお出かけに。行き違いってやつで。でももう直ここに戻ってくるはずでさぁ」
「世話掛けたな。ほれ、約束の10キャップだ」
チャリーン。
毎度あり。
小銭だけど積もり積もって大金だ。
ミッチェルさんはケンを保護しろとは言ったけど、グッドスプリングスに連れて戻る意味はない。彼の街ではないし、彼の目的はそこにはない。それは分かってる。私ももう戻るつもりはない。要は旅に
付き合え、ってことだろう。私の目的は現状はグラップラーへの報復で、ケンと目的が同じ。つまり復讐の旅仲間ってわけだ。気軽で気長な旅でもないから小銭でも現金収入はありがたい。
ともあれこいつとの旅は終わりだ。
ミッション終了。
お疲れっしたー。
「アリス、行くわよ」
「了解」
「待て待てって。一緒に酒でもどうだぁ? ええ? 巨乳のねーちゃんよぉ」
やらしい目で私の乳見るな。
大した悪党でもなさそうだから仕留めるまでもないとは思ってるけど、イラッとするのは止められない。
素っ気なく断る。
「その申し出は拒否するわ。私にも相手を選ぶ権利っていうのがあると思うの」
「あいあいっ! わーったよ。そう怖い顔するなって。じゃあな、あばよ。……行くぞお前ら。カツアゲした金で一杯やりながら兄貴を待とうぜ」
スエゴも別に強くは求めていなかったようで、そのまま4人組を引き連れて街の奥に消える。
何だったんだ、あいつらは。
「提案。追いますか?」
言いたいことは分からないではない。
だけど別に殺すほどの因縁はないだろ、単にガラが悪いだけって理由では殺せない。殺さないにしても、叩きのめすにしても理由は弱い。
「行きましょう」
「了解」
さてさて。
どうしたもんかな。
スエゴはもうどうでもいいんだけど、ケンを探すにしてもどう説得したものかな。顔見知りってだけだ。説得できる状況ですらない。
まあ、共闘でも申し出ればいいのか。
少なくとも私がグラップラーでないことは分かってるわけだし、あの戦いでさ。
「発見」
「いた?」
アリスは指差す。
その先にはショボくれたおっさんだった。
あー、街の住人見つけただけか。
そもそもアリスはケンを知らないわけだし見つけようもないか。
ともかく第一住人発見。
情報源だ。
私たちは近付く。
「あのー」
数少ない住人に声を掛けてみる。
少なくとも近くにいるのは、声を掛けれる範囲にいたのは彼だけだ。黒いレザーアーマーを着て、357口径マグナムを腰にぶら下げてる。
「ん? 俺かい?」
「はい」
「何か用かい?」
悪い男には見えない。
見た感じ的には頼りない男ではあるけど、悪人ではないだろう。
「すいません、お伺いしたいことがあるんですけど」
「ああ、構わないよ。俺は保安官代理だからね」
「保安官代理」
ならもっと気軽に口調に変えようか。
彼にとって道案内は業務みたいなものだろうし。
「旅人かい?」
「はい」
「まあ、だろうね。見たことないから。それで、どうしたんだい?」
「ここって人が少ないんですね」
本題とは少し外れる。
だけど気になった。
グッドスプリングスにいた頃はここは大都市みたいに聞いてたからね、まるでそんな面影がない。確かに街はでかい、それは分かる。だけど何というか活気がまるでない。
まあ、グッドスプリングスよりは大都市には違いないけど。
「街の西側は見たかね?」
「はい」
「そこにNCRが駐屯している。大部隊だ。最近そいつらが街の運営に口を出し始めてね、税金を掛けてるのさ。それを嫌って大半は出て行った、それだけの話さ。それに」
「それに?」
「君はどの程度この辺りの地理を知っている?」
「うーん」
「あまり知らないようだね」
知らないのか忘れているのか、まあ、今の私は知らないでいいのか。
「NCRはここの軍隊ではない、砂漠を超えてやって来た連中だ。そいつらが砂漠という境界線を越えて最初に作ったのがモハビ前哨基地って場所だ。連中はそこから軍隊を出し入れしている。
そして北上して最初に制圧したのがニプトンで、ここはニプトンを超えて次に制圧した場所だ。で今じゃニューベガスの街にいたるまでの周辺には奴らの拠点が出来ているのさ」
「あー、それで税金ってわけですね」
「そうだ」
実質的な勝利宣言、制圧宣言ってところかな。
NCRはモハビでの地盤を固めた。
そういう意味合いで税収を得ようとしているのだろう。
戦争は金がかかる。
つまりは、そういうことなのだろう。
「奴らの旗はそれなりに意味がある、ギャングどもは襲ってこないからな。庇護に入る意味合いは確かにあるが税金以上に厄介なことが……」
「厄介?」
そこまで言って保安官代理は急に我に返る、私に右手を差し出した。
「自己紹介を忘れていた、ビーグルだ」
「ミスティです」
「そうか、よろしくな」
「どうも。それで、厄介って?」
「リージョンだよ」
「ああ」
NCRの対抗馬だ。
ほぼ同時にモハビに侵攻してきた、コロラド川の東側を支配している軍団。
なるほど、NCRの庇護ってことはリージョンにとって潰すべき場所ってわけだ。何しろここはNCRの駐屯地であり、各方面に展開している部隊と繋ぐ補給基地のような場所だろうし。少なくとも
ここにNCRf一時的にも軍隊や物資を入れ、ここから往来しているわけだから、リージョンに狙われる可能性は常にあるだろう。
まあ、でも、そうなる時は全面対決の時だろうな。
緒戦ならともかく現在は各戦線が構築されている、停戦状態。全面対決直前の状態なわけだから、補給路一つ潰そうと動いただけで連鎖的に全面対決になる気がする。
だけど今はどうでもいいし、私には関わり合いのないことだ。
戦争は戦争屋がやればいい。
職種が違う。
私は、運び屋だ。
「君はここに何しに来たんだい?」
「職務質問?」
「いや、何となく興味を持っただけだ。そうだな、君は運び屋に頼んで前線にいる旦那に何かを運んで欲しいんだろ? それで子連れでここまで来た。違うかい?」
全く違う。
掠りすらしていない。
だけど、運び屋に頼むってどういうことだ?
まさか……。
「モハビ・エクスプレスは向こうだよ。ははは、名探偵だろ、俺は?」
探偵ではなく保安官助手だろうよ。
それに、名探偵ではなく迷探偵の部類だけど、言っていること自体は興味深い。
「モハビ・エクスプレス」
運び屋を統括する会社。
私もそこに属していた。
少なくとも、そのエンブレムを持っている。
ふぅん。
なかなか旅とは面白い、そして人生とは複雑怪奇ではあるけど、色々と紐解いていくのは楽しそうだ。
私は過去を奪われた。
銃弾で。
だが通り過ぎた過去は立ち止まり、思わせ振りな態度で私を誘っている。
行ってみるべきだ。
モハビ・エクスプレスに。