そして天使は舞い降りた







出会いと別れと出会いと出会い





  人は出会いと別れを繰り返す。





  「ここから先は未知の世界だ」
  道を歩きながら私は呟く。
  プリムへ通じる道。
  プリム、それはグッドスプリングスよりも大きな街で、大きなホテルがあり、そしてこの辺りで唯一カジノがある街。グッドスプリングスにいた頃には何度か耳にした街だ。
  まさか行くことになるとはね。
  それも、故郷が壊滅したからという理由で。
  もちろん理由はそれだけではない。
  ケンだ。
  女傭兵で不死身の女ソルジャーという異名を持つマリアさんの養子。
  彼がプリム方面へと去ったということをミッチェルさんに聞き、彼を連れ戻す……いや、それは表向きな理由だな、別に無人となる予定のグッドスプリングスに連れ戻しても意味がないし、彼に
  とっては養母に防衛任務という依頼の為だけに連れられて来られた街になんか要があるまい。それはミッチェルさんも分かってるだろう。
  つまり?
  つまりは、私を彼のお目付け役にしたいのだ。
  旅の友とも言う。
  まあ、いいさ。
  私自身もバイアス・グラップラーには思うところがあるし、復讐したいとも思ってる。
  ケンも全身大火傷という死線を潜りながらも養生するよりも旅立ちを選んだということは、そういうことなんだろう。聞けば実の両親も奴らに殺されてる。
  復讐、かな。
  違うにしても合流はしたいな。
  見捨てるには忍びない。
  「ふぅ」
  空を仰ぐ。
  お日様カンカン、私を照らす。
  暑い。
  暑いですな。
  服装は今まで通りにボルト21のジャンプスーツ、その上に東海岸で有名なギャング団の革ジャンを羽織ってる。脱げばまだマシなんだろうけどこの革ジャンの裏地には防弾チョッキが仕込んである。
  旅立つわけだし、これぐらいの防御は最低限しておかないとな。
  肩掛けホルスターには9oピストル。
  腰にはコズミックナイフ。
  チェットは生き延び……まあ、私が目覚めた時にはとっくに店を引き払っていなくなってたけど……無人となった店に残されていた廃材を使ってコズミックナイフの鞘は自作しました。あとナップ
  サックを頂戴して背負ってる。中身は缶詰を少々、水の入ったペットボトル、フライパン、調味料、わずかばかりの生活用品。着替え。そして換金用の10oピストルと弾丸。
  腰に巻いているウエストバッグには弾丸とキャップ。
  キャップは掻き集めて500はある。
  墓場での別離の後に「イリットとカイによろしく」と言いつつ結局一度診療所に戻った、まあ、旅立ちの支度もあるし。
  そして貰った物がある。
  「いいな、これ」
  左腕に装着した機械を見る。
  ハイテクだ。
  そして現在ではオーバーテクノロジーというやつだ。
  PIPBOY。
  腕に装着する端末で、未だ生きている衛星の恩恵でGPS機能が使え、さらに無線を傍受したりする代物。あいにく傍受は出来ても交信は出来ないようだけどさ。
  ただミッチェルさん曰くボルト生活者向けの代物で軍用モデルのPIPBOY3000に比べたら耐久性が弱かったりするとか言ってたな。まあ、私にはその違いが分からないけど。
  ともかく素晴らしい代物だ。
  これがあれば迷わずに済む。

  「よお、相棒」

  「……?」
  何だ、こいつ?
  声を掛けられたので振り返ってみると、そこにはロボットがいた。
  足が一輪車になっているロボット。
  胴体部分には液晶モニターがあり、そこにはカウボーイハットを被った男性の顔がある。スカーフをし、煙草を咥えた顔。陽気過ぎるし、あの画像も親しげがあり過ぎる。何か胡散臭いな。
  反射的に銃を抜こうとするものの、やめた。
  二本の腕の先端はガトリングになっていたからだ。
  実弾かレーザーか。
  いずれにしても喧嘩にはならない。
  「嘘臭いほど元気そうだな、頭を撃たれたって聞いたぜ」
  「どうも」
  私を知ってる、か。
  だけど私はこいつを知っているのか?
  当然私は知らない。
  そう、今のは私は。
  前の私の知り合いか?
  相棒、そう言っているしそうかもしれない。
  記憶を失っていることを言った方がいいのか迷うものの、判断材料がなさ過ぎる。
  言わない方が良さそうだ。
  とりあえず微笑。
  「まずは自己紹介だ、俺はヴィクターって言うんだ」
  「どうも」
  初めまして、らしい。
  沈黙は金ですな。
  様子を見るか。
  相手の反応を確認しつつ、状況を把握しつつ、話さないと。
  記憶がないってことは、私の頭を撃ち抜いた奴が目の前にいても分からないってことであって、なかなか面倒なものだな。こいつが私を撃った奴ではないのだろうけど、別件での敵かも知れないわけだから。
  「それで、何か御用?」
  「待て待てって。もう少し自己紹介させてくれよ、相棒。俺のバージョンはセキュリトロンのロブコ・セキュリティ・モデル2060-Bだ。同じ形の兄弟たちに会ったらヴィクターは元気だと伝えてくれ」
  「分かった」
  ロブコは覚えてる。
  ロブコ社。
  戦前のロボットメーカーだ。
  こんなのがまだ何体もいるのか、敵ならば面倒だな。だけど当面は話し合いってことらしい。殺すつもりならとっくにしてるし、遠距離からガトリングされたら私は欠片も残らない。
  会話で終わるならそれでいい。
  終わらないなら?
  逃げる。
  こんなのと喧嘩するつもりはない。
  ……。
  ……今はね。
  装備が整っていたら、敵対するならそれでもいいけど、今は無謀すぎる。
  「で?」
  「警戒すんなって、相棒」
  「相棒」
  何が目的なんだ、こいつ?
  「俺はあんたの雇い主の部下さ。つまり、俺たちは共通のボスを持つ相棒ってことだろう?」
  「……」
  私はさりげなく半歩さがった。
  こいつ、依頼人の手下か。
  何が目的だ?
  依頼の催促……いや、違うな、私の頭を撃ち抜かれたのは分かっているようだし、それが依頼絡みでの一件だと想定するのは難しくない。そうなると奪われたのは分かっているはずだ。
  何を奪われたのかは、私は知らないけど。
  知らずに運搬の支援?
  ないな。
  今更来るには遅すぎる。
  となると……。
  「始末しに来たってわけ?」
  どういう経緯かは知らないけど私が息を吹き返したのを知って、依頼人が送り込んだ可能性があるる
  いや待て。
  それはないか。
  ガトリングで遠距離から連打したらそれで終わる。
  接触するにはそれなりの意味がある。
  「始末?」
  「ええ」
  「始末しに来たって? おいおい、Mr.ハウスはそんな野暮なことは考えないぜ」
  「……へぇ?」
  Mr.ハウス。
  ふぅん。
  私の依頼人は、奴か。
  真紅の幻影の人となりは知らないし、私的には別の人間扱いだけど、なかなか見どころがある奴だったようだ。
  これは良い置き土産だ。
  遺産と言ってもいい。
  つまり私はMr.ハウスに近付ける算段が出来ているってことじゃないか。
  奴に恨みはない。
  必ずしも大それたことをするつもりもないけど、ラッキー38に入れる資格さえあったならば、奴の地位もしくはそれに準ずる地位があるのであればモハビ・ウェイストランドの悲劇を変えれるかもしれない。
  偉くなくても正しいことはできるだろう、しかし偉ければより大きな正しいことができるのも確かだ。
  私はロマンチストではない。
  リアリストだ。
  少なくとも、自身の目的に関してはそうありたいものだ。
  その時、謎の男のことを考える。
  あいつは言った。
  素性をばらせばモハビが殺しに来ると。
  モハビ、つまりはMr.ハウスか?
  なるほど。
  確かにMr.ハウスはモハビそのものと定義することはできる。
  「それで、私にどうしろって?」
  こちらから情報は出さないことにしよう。
  どこまで信用できるか不明だ。
  まあ、そもそも出せる情報はないんだけどさ。
  「ボスはこう仰せだ、まずはベガスに来てくれと」
  「無理ね」
  間髪を入れずに答えた。
  ケンのことがある。
  Mr.ハウスとは別件だし言うだけ無駄だ。だからそれは言わずに私は別のことを言った。
  「知ってるんでしょ、モノが盗まれたって」
  「まあな」
  奴は隠さない。
  もちろん少しでも思考能力があれば誰だってそう思うだろう。
  特にこいつはMr.ハウスの部下だ。
  モハビの支配者の部下だ。
  直々なのかは知らないけどMr.ハウスに雇われるぐらいの運び屋の私が、依頼品持った状態で襲われたと知れば、それが依頼品の絡みだと簡単に推測できるだろう。
  「奪還しないと会わす顔がない」
  「それは殊勝な考えだな、相棒」
  北の街道は、ベガスに最短の街道はクリーチャーによって封鎖された、と聞いている。
  私を撃ったスーツの男とその取り巻きはそれを避けて南に迂回しつつベガスに向かっている、らしい。
  しかしいくら遠回りしているとはいえ追い付くはずもない。
  私は北に向かっているわけではないのだからね。
  ケンの絡みでまずはプリムに行く、つまり強奪者たちと同じ道順。北を突っ切れば先回りできる……いや、いずれにしても無意味だ、相手の顔すら知らないのだから。
  どちらにせよ奴と同じ道順をたどるしかないのだ。
  そこで情報を得る。
  何らかの人物像も得られるだろう。
  そうする必要がある。
  今は、ケンの絡みが最優先だけどさ。
  「ヴィクター」
  「何だ」
  「犯人の心当たりは?」
  「さあな、Mr.ハウスは何も言ってなかったよ。まずはあんたを連れて来いってさ」
  「ふぅん」
  「だがあんたの言い分も一理あるよな」
  「でしょ?」
  ただのブリキの人形ではないのか。
  頭はあるのか。
  自律して考えているのか、こいつ。
  「ヴィクター、私に同行して探す?」
  正直に言うと邪魔。
  正確に言うと怖いですね、心底が分からな過ぎる。
  言葉なんて当てにならない。
  少なくとも初対面の言葉ほど当てにならないものはない。いや、もっと言うなら私がそこまで純粋じゃないってことだ。こいつの言うこといきなり全部信じられるか?
  無理だ。
  「いや、無理だな。行動限界だ」
  「どういうこと?」
  「俺たちには行動範囲があるのさ、この辺りが限界なんだ。だからここであんたと会えてよかったよ」
  「へぇ」
  となるとここから先に進めばテリトリー外か。
  干渉がないならそれに越したことはない。
  まだ私の準備が整ってないからだ。
  装備にしても、人脈にしても。
  どういう自分になるにしても今はまだ大物に会うには早すぎる。その干渉も今の私には選択肢がなさ過ぎる。
  「だが相棒、どうしたもんかな。Mr.ハウスの命令が優先される、それを俺の一存でどうにかするのもな」
  「まあ、妥当ね」
  「連絡させてくれ、すぐに終わるよ、ミス・リューゲ」
  「ちょっと待って」
  「何だい?」
  「今、なんて言った?」
  「連絡させてくれ」
  「違う、その後」
  「すぐに終わる……」
  「その後」
  「ミス・リューゲ」
  「……」
  リューゲ?
  それが私の名前か?
  「ヴィクター」
  「んー?」
  「私のデータ、持ってる? その画面に映せる?」
  「言っている意味が分からないんだけどな」
  「簡単よ。あなたが本当にMr.ハウスの手下なら私の情報ぐらい持ってるでしょ? 要は確認、要は保険よ」
  「やれやれ。あんたは本当に一流の運び屋だな」
  失敗したけどね。
  「分かったよ、ほら」
  いとも簡単に奴はそれに応じた。
  記憶がないのは言わない方がいいな。
  少なくともMr.ハウス系統の奴にそれを言うと利用される恐れがあるし、余計な侮りを生む。
  「……」
  映し出される内容。
  名前はリューゲ・ブージア。
  面白みのない名前だな。
  これならミスティで通すか、私の知り合いに名前が違うと言われれば改名したとか偽名だとか言えばいいか。ミスティが私にはしっくり来てるし、使い分け間違える可能性もあるし統一しよう。
  表示される情報は多くはない。
  ほほう?
  胸はFカップか。
  フィーさんキャピタルミスティさんマジざまぁ私の勝ち組www
  一応巨乳のレベルですな、肩が凝ると思ったぜー。
  「ん? これは」
  大した情報はない。
  実質名前と巨乳だと分かった程度だ、素性等は謎、出身地も記されていない。
  だけどこの身元保証人っていう欄は何だ?
  そこに記されている名前、誰だ?
  3人いる。
  アリス・マクラファティ、カチューシャ・ヴァン・グラフ、ジュリー・ファーカス。
  最初の2人は知らないけど、最後は知ってる。
  アポカリプスの使徒のリーダーだ。
  ふぅん。
  同じ組織のアルケイド・ギャノンは私の素性を知らないとか言ってたけど、彼女の方は私と旧知ってことか?
  ……。
  ……あー、待てよ、最初の奴も知ってるぞ。
  確かクリムゾン・キャラバンの支社長だ。
  パウダーギャングと組んで街を潰そうとしてた奴だ。
  「ヴィクター」
  「どうしたんだ、相棒」
  「保証人って?」
  「おいおい、そこまで俺を試すのか? 素性が分からない奴なんてモハビ・エクスプレスが雇うわけないじゃないか。大切なモノを運ぶんだ、素性は大切だろ?」
  「そうね」
  おそらくそれ+で持ち逃げした場合にはその保証人に文句が行くんだろうな。
  結果、依頼人と保証人から刺客が送られるのだろう。
  しかしこれってMr.ハウスが運び屋集団を間接的に支配してるってことじゃないのか?
  運び屋の個人情報にアクセス出来るってことは、そういうことなんだろう。それとも依頼を受ける際にモハビ・エクスプレスが運び屋のデータを送るのか?
  まあ、それもあるか。
  「しかしあんたは凄いよ」
  「どういうこと?」
  「保証人さ。クリムゾン・キャラバンの支社長、本国にいるヴァン・グラフ・ファミリーの社長、アポカリプスの使徒のリーダーが保証人なんだからな。稀な経歴だぜ、相棒」
  「どうも」
  ヴァン・グラフ、か。
  ミッチェルさんの授業を思い出した、シルバーラッシュとか経営してる奴だ。そこの経営者が保証人……いや、ミッチェルさん曰く、各地に店が展開してるとか言ってたな。本国云々とヴィクターは
  言っているしベガスのことではないのかもな。何しろシルバーラッシュは貧民街にあるらしいし、各地に展開してる本店だとは思えない。つまり私が誰か確認できる保証人はモハビに2人か。
  ジュリー・ファーカスがいい。
  彼女になら記憶がないことを言っても問題ないだろ、既にアルケイド・ギャノンを通じて知ってるだろうし、アルケイド・ギャノンの人となりを考えるとアポカリプスの使徒は信用できる。
  ミッチェルさんの使徒に対する信頼感を見ても、信用してもいいだろうと思える。
  「それで相棒」
  「何?」
  「おや」
  「……?」
  ヴィクターはこちらに両手を向ける。
  ガトリングを。
  はっ?
  つまりはここで私を消すようにMr.ハウスに連絡が来たってことか?

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  そのままヴィクターは盛大に後ろにひっくり返った。
  液晶画面に穴を開けて。
  えっと……。
  「私?」
  気付かない間に手が出ちゃった?
  ……。
  ……そんなわけないか。
  さすがに気付かない間に攻撃して機体を貫通させるなんてありえない。いや、多分私の腕力ならそれは出来るんだろうけど、意識しないで攻撃するならてあってたまるか。
  意識しないで無意識に誰かを攻撃する、それは怖過ぎる。
  「ヴィクター」
  返事はない。
  ただのスクラップのようだ。
  うーん。
  どうしたらいいんだ?
  プリムまで引っ張って行けば廃材として売れるのだろうか?
  私の腕力なら引き摺るぐらいできるだろ。
  「しかし何だって壊れたんだ?」

  「回答。私が攻撃しました」

  「……?」
  声がした。少女の声だ。
  近くには誰もいない。

  ヴォン。

  微かな音を立ててその場に少女が現れた。
  黒髪の、長い髪の女の子。
  空色のワンピースを着ている。
  唖然としている私に少女は口を開いた。
  「紹介。アリス2070です、よろしくお願いします、マスター」
  「あー」
  ようやく納得する。
  悪魔のノドで拾ったロボットだ。
  ふぅん。
  ホログラムで擬態するコピードールっていう機械人形だっけ?
  頭を撫でてみる。
  なるほど。
  Dr.ミンチが言うように触り心地も人間そのものだ。
  「何でここにいるわけ?」
  預けたままになってたけど。
  「報告。博士に修復され、行ってもいいと言われて来ました。言われなくても来ましたが」
  「そうなんだ」
  優しいな、Dr.ミンチ。
  無償で修理してくれたんだ。
  感謝感謝だ。
  「それにしてもそれは誰の姿なの?」
  「報告。博士に写真を見せてもらった少女の姿です。ただし背面は想像にすぎません」
  「……?」
  「私がコピー出来るのはあくまで見たものだけです。立体的に見たわけではないので、それ以外はあくまで想像に過ぎません」
  「じゃあ声もそうなのね」
  「否定。声は元々のものです。私は女性型として作られています。もちろん男性の姿にも擬態できますし、声質も変換できますが、私のバージョンの基本設定は女性型です」
  「へぇ」
  男性型、女性型と分けて作られてるのか?
  よく分からないけどわざわざ分けて作られるのは男性的な考え方、女性的な考え方が出来るようにするためのものなのか?
  「それでそろそろ聞きたいんだけど、どうしてヴィクター潰したわけ?」
  別にいいけどさ。
  いや、良くないのか?
  Mr.ハウスに私が反逆したと思われるのはまずいのか。
  困った。
  「否定。機体を潰しただけです」
  「どういうこと?」
  「回答。データは逃げました」
  「データは逃げた」
  「はい」
  となると機体から機体へと飛び回っているのか、ヴィクターというデータは。
  奴は特殊なのか、それが標準なのか。
  いずれにしてもここに転がっている機体の主は逃げたってわけだ。となると顛末はMr.ハウスに伝わるだろう、少なくとも私が不意打ちしたわけではないのは分かって貰えてるってわけだ。今後この子
  を同行させる言い訳必要だけどさ。Mr.ハウスの元にはいずれ行くんだ、何か考えとかないとな。共謀してさっきの行動したと思われたくはない。
  「でー、どうして攻撃したわけ?」
  「不明。私はステルスで透明化して近付いただけなのにいきなりロックオンされたのでやむなく攻撃しました」
  「……」
  「マスター?」
  「……いい、何でもない」
  常識教える必要がありますな。
  「アリスって呼べばいいかな?」
  「マスターにお任せします」
  「じゃあ、アリスで」
  「提案。オプション性格を起動しますか?」
  「どういうこと?」
  「性格をアリスモードにすることができます。そうすることによりオブリを書いている気分になり、読んでいる気分になります。錯覚ですが、それなりに効果があるかと思われます」
  「意味分かんないから」
  何語だ?
  やれやれだぜ。
  「アリス、私に付いてきてくれるの?」
  「肯定。はい、その通りです」
  これはラッキーかな。
  ヴィクターを倒せるんだ、戦力として充分だろう。旅の話し相手にも事欠かない。それに彼女の能力は使える、擬態と透明化。それが役立つ時もあるだろう。
  ただ、聞いておくこともある。
  「リモコン反太郎は何なの?」
  「不明。言っている意味が分かりません」
  知らないってことか?
  あいつが勝手にアリスに触って奴を殺すっていうマイルールでやってただけなのか?
  質問を変える。
  「あなたは何なの?」
  「アリス2070、コピードールです。それ以上のデータは破損している為、お答えできません。ただ……」
  「ただ?」
  「何かに対抗する為に作られた、と思います」
  「思う、ね」
  記憶の断片にそれが残っているってことか。
  2070って2070年ってことだろう。
  現在は2281年。

  ヴィクターは2060とか言ってたな、となるとアリスの方が新しいのか。
  「マスター」
  「ん?」
  「質問。あれは、何ですか?」
  「あれ」
  指差す方向を見る。
  指差さずともすぐに分かることになっただろう、大声を上げているからだ。  

  「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇそこのあんた助けてくれぇーっ!」

  大声を上げながら走ってくる人影。
  男だ。
  誰だか知らないけど、今度はどんなイベントだ?