そして天使は舞い降りた







真夜中の殺意





  1発の銃声。
  それが彼女の人生の終わりであり、そして始まりとなる。





  人は過ちを繰り返す。

  地球が核の炎に包まれた時、人々は中のシェルターに閉じこもり、息をひそめた。
  やがて彼らはシェルターの扉を開き新たな村を、暮らしを、部族を作る為に荒廃した世界へと旅立っていった。

  数十年が過ぎかつてアメリカ南西部と呼ばれていた地域は旧世紀の価値観、民主主義や立法を掲げる新カルフォルニア共和国の旗の元に統一された。
  共和国は欲するがままに拡大を続けた。
  無慈悲なモハビ砂漠に領土を求めて東へと偵察部隊を送り込んだ。
  そして彼らは核の被害を免れた都市とコロラド川を横断する巨大なダムの壁を発見したのだった。
  共和国は直ちに東に群を差し向けてフーバーダムを占領。
  稼働できる状態にした。
  
  だがコロラド川には異なる旗の元に異なる社会が生み出されていた。
  86もの部族を平定し多くの奴隷を要する戦闘集団シーザー・リージョン。
  4年もの間、共和国はリージョンから辛うじてダムを護っていた。
  しかしリージョンも退く気はなかった。
  川の対岸で戦力を結集篝火が焚かれ、太鼓が鳴り響いた。

  その一方、ニューベガスは両軍の戦争で落とす金で繁栄を続けていた。
  謎に包まれた支配者Mr.ハウス。
  戦う訓練を受けた三大ファミリーや警察ロボットからなる精鋭たちによってベガスは第三勢力としてその力を両軍に見せつていた。

  その頃、運び屋の集団であるモハビ・エクスプレスに属する運び屋がニューベガスまで荷物を運ぶ仕事を受けた。
  簡単な仕事になるはずだった。
  しかしベガスの闇が忍び寄っていた。





  ザッ。ザッ。ザッ。

  何かの音がする。
  何の音だ?
  何も見えない。

  ザッ。ザッ。ザッ。

  顔に何か掛かった。
  私は……ああ、そうだった、迂闊だった。まさか不意を衝かれるとは。
  面識こそなかったが奴は知っている。
  攻撃してくるとは思ってなかった。
  依頼人の腹心が荷物を奪いに来るとは思ってもなかった。

  「仕事は済んだろ? 金払えよ」
  「そう急くなよ、相棒」

  腕は、動かない。
  足もだ。
  折られていたりするわけではないな、拘束されているとみるべきか。
  目を開く。
  ゆっくりと。
  随分と痛む。
  最初にいきなり殴られたからだ。
  状況が分かってきた。
  思い出した。
  不意に攻撃され、気を失い、どうやら私は生き埋めにされるところらしい。顔を動かす。随分と浅く掘ったものだ。チェックの白いスーツの男がこちらに背を向けて煙草を吸っている。
  あの位置からなら煌びやかなベガスの街が見えるだろう。
  夜なら尚更に。

  「おい、こいつ目を覚ましやがったぞっ!」

  ショベルで私に土を掛けている男が叫んだ。
  土が止まる。
  白いスーツの男がこちらに向き直る。
  その傍らには汚らしい革ジャンの、袖のない革ジャンを着る男がいる。グレートカーンズ呼ばれる、この地方で最も古い部族だ。それが数人いる、6人か。
  私も甘くなった。
  まともに戦えば勝てるのに。
  「じゃあ殺るか」
  白いスーツの男が囀る。
  その隣でカーンズの男、おそらくここのカーンズ集団を仕切っている奴だ、そいつが息巻いた。
  「さっさと殺っちまおう」
  「相手に敬意を払わないのがカーンズ流かもしれないが、変わり者なのでね、俺は」
  そう言ってスーツの男は胸ポケットから何かを取り出した。
  金属製のチップ。
  あれが私の運んでいた代物だ。見るなとは言われたが、確認はしてある。
  使い道?
  さあね、それは知らない。それを知る為に運んでいたと言ってもいい。
  ポケットにそれを戻し、今度は銀色の銃を引き抜いた。
  オートマチックピストル。
  「お前は立派に仕事を果たしてくれた。巻き込んでしまって申し訳ない」
  「そう思ってるならこんなことしないでしょ」
  「こんな状況に置かれたら自分の運の悪さを恨むかもしれないが、そいつはお門違いってもんだ。自分を恨まなくていい。俺もだ。誰に対しても恨む必要などないんだよ、子猫ちゃん。誰も悪くないのさ」
  銃口を私の頭に向ける。
  どうしようもない。
  この状況では。
  「この結末は最初から神が決めていたんだからな」
  銃声。
  それが私の最後の音。
  それが……。