そして天使は舞い降りた







バイアス・グラップラー





  そして物語は序章を終える。





  「大変だトルーディー、グラップラーが来るっ!」
  叫びながら街の住人が飛び込んできたのは今から3時間前のことだった。
  私?
  私はたまたまここに飲みに来てた。
  まあ、他に娯楽ない街だし。
  結果としてサニーに雇われることになった、街の住人を逃がす防衛力として、ね。
  もちろん頼まれなくても買って出る。
  私だって街の住人だ。
  力になれるのにならないのは、主義に反するし。
  酒場に屯するのは私、同じように雇われたサニー、そして傭兵のフェイ、アパッチ、ガルシア、昨日フェイが売り込んだマリアって人はまだ来ていない。
  バイアス・グラップラー。
  この間ミッチェルさんが言ってた、絶対に関わるなという組織。
  ……。
  ……この場合はどうなるんだ?
  向こうから関わってきてるわけなんだが。
  うーん。
  前回のミッチェルさんの話はギャングに関することだった。どうもグラップラーという連中はギャングというよりは軍事組織のようだ。
  モハビで最も古い組織、らしい。
  「サニー、今から来る奴らって強いの?」
  「……」
  「サニー?」
  「……別に悪い意味じゃないし皮肉ってるわけでもないけど、私もあんたみたく記憶喪失になりたいわ」
  「はっ?」
  「グラップラーのことなんて考えたくもない」
  「ふぅん」
  恐ろしい連中のようだ。
  定期的に人間狩りをしている組織、まあ、確かに恐ろしい組織だ。何しろNCRもリージョンも積極的に関わり合いを持とうとしない組織だ、国家や軍隊が避けるってどんな奴らだよってレベルですね。
  無知故に私は平気でいられる。
  なるほど、サニーの言はもっともか。
  「前回襲撃してきたのは2年前なのよ」
  そう言ったのはトルーディ。
  心なしか顔が蒼褪めている。
  まだ避難しないでいいのだろうか?
  「2年前?」
  「そうよ。今までなら、こんなに早くは来ないんだけど……」
  「前回はどうしたの?」
  「傭兵を雇ったわ、今回みたいに。被害は出たけど、何とか追い返した。ミスティには分からないかもしれないけど、戦うよりも傭兵を前面に出すのが一般的なのよ。どこの街でもね」
  「別に意見する気はないわ」
  人間狩り、か。
  数年置きにグラップラーが各街々にしている残虐行為。
  さながら収穫だな、これ。
  人間の収穫だ。
  さらってどうしているのかは知らないけど、増えるのを待って収穫し、そしてまた増えるまで待つ。
  傭兵メインで迎撃し、住民は逃げるという行為が一般化するわけだ。
  聞く限りではグラップラーは数百年この方法を繰り返している、人々は生き残る為に敢えて戦わずに逃げている。
  戦えばいい?
  そうね、相手の規模と拠点が分かっていたらそれでもいい。
  だけどそれすら分からず、現状モハビに出張っているNCRとリージョンの軍隊もそれを避けている。
  天災だ。
  住民は息を殺し、それを避け、多少の犠牲でそれで良しとし、生きている。
  モハビの影の側面だな、これ。
  「ねぇ、サニー」
  「今度は何だい?」
  「前にNCRとかMr.ハウスが賞金を懸けているとか聞いたことがあるんだけど、グラップラーにも懸かってるの?」
  「一攫千金狙いっていうなら……」
  「いや、強さの判断基準にしたいだけ。前に聞いたピチピチブラザーズっていうのが500NCR$だったよね、グラップラーのボスは幾ら懸かってるの?」

  「そいつは誰も知らないことだよ。、グラップラーは200年この地にいるけどね、誰もボスを知らないんだよ。本拠地がどこなのか、人間狩りが何の意味があるのかもね。謎なんだ」

  「フェイさん」
  「すまないが女将さん、スコッチを頼む」
  「はい」
  空き瓶を渡し、未開封のスコッチを受け取る隼のフェイと名乗る傭兵。
  ボスを誰も知らない?
  「そうなの、サニー」
  「ああ。その通りだよ。だよね、トルーディ」
  「考えたこともなかったわ、特に」
  200年、か。
  随分昔からいるわりには誰もその概要を知らない組織、か。
  「Mr.ハウスと同じぐらい前からいる組織なんですよね、そいつら。仕切っているのが分からないなんて、不思議です」
  「仕切っているのは分かってるよ、お嬢さん」
  「……?」
  「ボスは分からない、だがグラップラーを指揮しているのは四天王と呼ばれる連中だ」
  「四天王」
  「四天王筆頭はテッドブロイラー、次席がブル・フロッグ、三席がカリョストロ、末席がスカンクス、こいつらが中心メンバーで、グラップラーを指揮している。いずれも化け物のような奴らだ聞いた
  ことがある。こんな化け物どもが仲良く手を組んで組織を運営しているとは、到底考え難いけどね」
  「賞金は、その四天王に懸かっているんですか?」
  「ああ。聞けば目玉が飛び出るぐらいの額だよ」
  「幾らなんですか?」
  「ははは。君は随分と無邪気なんだな。分かった、教えるよ。狙わないのこしたことはないがね」

  テッド・ブロイラー。250000NCR$。
  ブル・フロッグ。75000NCR$
  カリョストロ。50000NCR$。
  スカンクス。25000NCR$。

  聞くんじゃ、なかった。
  何なんだよテッド・ブロイラーだけ桁違うじゃんかっ!
  「ごめん、サニー」
  「ん?」
  「無知でごめん、これは怖い連中でした」
  「分かってくれて嬉しいよ」
  この額を聞く限りで分かったこと。
  四天王3人掛かりでもテッド・ブロイラーの方が強いってことか?
  怖いわー。
  フェイは幾分か同情している口調で言った。
  「まあ、そんなにビビる必要はないよ。人間狩りに四天王は出てこない、それは確かだ。それにこれは強さのバロメーターというよりは厄介さのバロメーターと言った方がいい。テッドの野郎は
  中心人物だからその分金額も上がるんだよ。それに額だけ言えば赤い悪魔と呼ばれるレッド・フォックスの方がはるかに高い。200万だ、テッドの8倍だ」
  「……」
  がく。
  私はカウンターに突っ伏す。
  怖い。
  怖い世界だ、モハビ・ウェイストランドっ!
  片田舎で暮らそう。
  グッド・スプリングスに永住決定そして天使で舞い降りた完結っ!
  サニーが呟いた。
  「赤い悪魔の話は聞いたことがあるね。賞金稼ぎで、稼いだ額を自分の首に懸けた奴じゃなかったっけ?」
  「その通りだよ。最強の賞金稼ぎにして最凶の賞金首。さてと、戦いまではまだ時間がある。酒を飲むのに戻るよ、またな」
  「どうも」
  自分の席に、アパッチさんとの相席に戻るフェイさん。
  世界は広い。
  真紅の幻影、賞金に換算したらどの程度になるんだろうな。
  気になるところだ。

  「ちっ! どいつもこいつもしけた顔しやがって。もっとよぉ、楽しいこと考えられねーのかよ。賞金の使い道とかよっ!」

  柄の悪いガルシアが叫ぶ。
  確かに。
  確かに戦う前から士気が落ち過ぎてるのは当たってるし反省しなければ。
  彼に対しては柄の悪さから親近感が持てないけど、何だかんだでキャップの為とはいえ命張るわけだから、勇敢な奴なのだろう。命知らず、まあ、そうとも言うけどさ。
  だけどそれは私らだって同じだ。
  フェイさんとアパッチさんが酒を飲みながら喋っている。

  「傭兵は4人雇ったと聞いた。もう1人がまだ来てないようだが?」
  「もうすぐ来るさ。最高のソルジャーがな。金金金とか言えない奴とは雲泥の差の傭兵だよ」
  「何だとこらぁーっ!」
  「相棒の払った前金寄越せと3年前の話を蒸し返すてめぇーだよガルシアっ!」

  お通夜気分もあれですけどうるさいのもどうかと思う。
  その時、酒場の扉が開いた。
  視線が集中する。
  真っ先に口を開いたのはフェイさんだった、言葉に喜びが混じっていた。
  「マリア、来てくれたかっ!」
  赤い髪の女性だ。
  砂塵避けなのかマントを羽織っている、コンバットアーマーを着込んだ女性。アサルトライフルを担いでいる。
  酒場内の人間を一瞥し、フェイに向き直った。
  「聞いてた話と違うじゃないか。グラップラー相手とは聞いてないけど?」
  「すまんな、俺も雇われた時と状況が違うんだ」
  元々はパウダーギャング残党対策。
  その為に雇われた。
  アパッチさん、フェイさん、マリアさんは雇われた経緯が違う。ガルシアさんは、いや、柄悪い奴だから呼び捨てで良いか、ガルシアだけはグラップラーが来るということで急遽その対策で
  雇われた。つまりガルシア以外は雇われた経緯と今の状況が一致していない。
  「おい姉ちゃん、その餓鬼は何だっ!」
  ガルシアが叫ぶ。
  マリアさんの後ろには阪だった金色の髪を持つ、少年が立っていた。
  15歳ぐらいか、大体その前後ぐらいかな。
  おそらく砂塵避けには適さないであろう丈のマントを羽織っている、純粋に砂塵避けというよりはファッションなのかもしれないな。着ている服も何らかの拘りがあるのか、袖のない黒いレザージャケットと
  Kいズボンは擦り切れて半ば半ズボンになっている。腰にピストルを差している。
  誰だろうな、あの子。
  傭兵の数が合わなくなる。
  「トルーディ、1人追加した?」
  「いいえ」
  知らないらしい。
  マリアさんが勝手に連れてきた新しい傭兵ってところかな?
  ただフェイさんはその子のことを知っているようだ。
  「マリア、まさかこの子は……」
  「ケンよ。ほら、挨拶して」
  連れ子にしては大きいよなぁ。マリアさんはどう見ても30代ぐらいだし。
  それにしてもフェイさんとマリアさんは2人は親密だな。
  ただの傭兵仲間ってだけではなさそうだ。
  「どうも、ケンです」
  「君のことはマリアから聞いているよ。そうか、大きくなったな。仲間の元に留まらずマリアと一緒に行動しているということは……君もマリアと同じ道を歩むんだな?」
  仲間?
  マリアさんには何らかの仲間がいるようだ。留まらずってことは、どこかにマリアさんが属している傭兵団の拠点とかあるのかな?
  ケンは静かに頷いた。
  「そうか、無理もない。母親がグラップラーに殺されたんだからな」
  となるとマリアさんは養母ってところか。
  もしかしたら師匠なのかもしれない。
  「マリアは強いソルジャーだ、彼女から学べ。それが成長する近道だ」
  「はい」
  ふぅん。
  年のわりには落ち着いているな、寡黙な感じのする少年だ。
  ただ、それと同時に何か影を感じる。
  母親を殺された、つまりはそれが起因としている。復讐が彼に纏わりついているのだ。
  ガルシアが茶化す。
  「おいおい、まさかその餓鬼が戦うっていうんじゃないだろうな? 年増女に、ケツの青い子供ぉ? おい姉ちゃん、おっぱい欲しがってるぞその餓鬼っ! 授乳してやれやっ!」
  柄悪過ぎるだろ、こいつ。
  だけど現実的に考えると人では欲しいところだ、無下には出来ない。
  忌々しい奴ではあるけども。
  「子連れの傭兵か」
  成り行きを見ていたアパッチさんが口を開いた。
  ガルシアのように卑下がない、ただ別に好意的に見ているわけでもない。傭兵としての立場だけでここにいる。もちろんそれは間違ってない。
  「不死身の女ソルジャーのマリア、聞いたことがある。俺はアパッチだ」
  「あんたがあの鉄の男か。よろしく頼むよ」
  「ああ」
  良いな、通り名があるのって。
  不死身の女ソルジャー、マリア。
  隼のフェイ。
  鉄の男アパッチ。
  暴走バギーのガルシア。
  私も通り名が欲しいところだ。
  ……。
  ……ああ、あったわ、そういえば。真紅の幻影でしたね。
  忘れてました。
  「それでフェイ、そっちの彼女らも傭兵なのかい?」
  「いや、住人だ。戦うそうだ」
  「へぇ」
  その、へぇ、はどう取ったらいいんだろ。
  トルーディが口を開いた。
  「私が雇い主よ。状況が変わったのは申し訳ないわ、こちらも想定してなかった。報酬は訂正する、2倍払うわ」
  「3倍だ。ひゃはははっ!」
  釣り上げたのはガルシア。
  確かに。
  確かに背に腹は代えられない。
  「分かったわ」
  トルーディは簡単に頷いた。ガルシア、少し当てが外れた顔をしているかな?
  どうやら彼女的には3倍の相場は想定内らしい。
  そして安いのか?
  私は傭兵たちが受け取る額は知らないけど、それだけグラップラーは恐ろしいのか。そしてその額でこの傭兵たちを繋ぎ留めれるのは、安いのだろう。腕に覚えがある人達みたいだし。
  大体通り名は腕に覚えがないとただのジョークにしかならない。
  こうやって臆面もなく名乗るってことは、強いんだろうな、ガルシアを含めて。

  「ミスティさん」

  ガチャリと扉を開けて入ってきたのは保安官ランディ。助手で友人のマシューもいる。
  2人とも腰に銃、ショットガンを手にしている。
  「どんな感じ?」
  「避難は順調です。それで、傭兵はそろったんですか?」
  「たった今ね」
  「僕たちも戦います」
  視線が交差する。
  住民たちを避難エリアまでエスコートする役は必要だけど、ここで敵を食い止める役も必要だ。食い止めることにより、住民たちが避難エリアまで移動する時間稼ぎにもなる。
  この場合はどうするか。
  食い止める、べきか。
  「分かった、よろしく頼むよ、保安官」
  「はいっ!」
  「あの、おっぱいお姉さん」
  「……何よ」
  サニーが笑ったのが聞こえた。
  がるるーっ!
  「ショットガン、使いますか?」
  「ショットガン?」
  「はい。俺のやつ。保安官事務所、要はランディの家なんですけど、戻ればライフルありますし。よかったらこれ使いますか? その、おっぱいお姉さんは知らないかもしれませんけどグラップラーの
  装備の充実度はNCRの比じゃありません。組織の規模はNCRより小さいですけど、局地戦ならNCRもリージョンも勝てないぐらいに充実してます」
  「そうなの?」
  「はい」
  「おいおいこの小娘やぺぇぞー? ひゃはははははははっ!」
  うるさいなガルシア。
  貧弱な装備なのは事実なんだけど、あいつの嘲りで頭が痛くなってくる。
  だけど、そうなるとフェイは軽装じゃないか?
  ケンも軽装?
  まあ、彼の場合は見習いのようだしレベル1の初期装備でもおかしくなはない。
  「フェイさんも軽装ですね」
  「俺か? 俺の9o2丁はカスタマイズしてるからな。お嬢さんの初期型とは別ものだよ、使ってる弾丸も貫通弾だしな」
  「へー」
  カスタマイズか。
  なるほど。
  この銃は気に入ってるしカスタマイズすれば今後も使えるなぁ。
  「なあ、モハビのミスティさんよっ! キャピタルのミスティに比べちゃ雑魚だな、お前っ! 通り名は何だ? ひよっこか? 卵の殻がまだ頭にくっついてんぞ、ひよっこさんよぉっ!」
  「通り名は真紅の幻影よ悪いかっ!」

  シーン。

  あっ。
  まずい、言ってしまった。
  モハビが殺しに来る云々を思い出す。
  あれ?
  これってまずいフラグじゃね?
  「真紅の幻影、聞いたことがある。へぇ。あなたがねぇ」
  興味深そうにマリアさんは呟いた。
  心なしか全員の私に対しての視線が少し変わっている。畏敬ってやつか、これ。ガルシアの顔には畏敬よりも羨望が勝っている。
  記憶を失う前の私ってどんな奴だ?
  結構な大物だったようだ。
  サニーは耳打ちしてきた。
  「ハッタリはやめておきなって。後で恥かくよ?」
  「は、ははは」
  ハッタリではない。
  第三者であるアルケイド・ギャノンの証言だし。少なくとも私が思い込みで勝手に言っているわけではない、アルケイド・ギャノンが嘘言ってたらそれまでだけどさ。
  まあいい。
  「マシュー、ショットガン貸して」
  「どうぞ」
  「ありがとう」
  銃を受け取り、予備の弾丸も受け取る。

  「来たーっ! 来たぞーっ!」
  「ひぃっ! お助けーっ!」
  「バイアス・グラップラーの人間狩りだーっ!」

  外が騒がしくなる。
  住民の避難はまだ済んでいない。
  早い。
  早すぎるっ!
  「トルーディ」
  「分かった、私も避難するわ」
  サニーが促すとトルーディはライフル片手に立ち上がる。
  去り際に彼女は言った。
  「また、後でね」
  これでここに残ったのは私たちだけ、戦闘組だけだ。
  「サニー、連中はどう攻撃してくる?」
  「物量で押してくる」
  「ふぅん」
  分かり易いな。
  「数で押し合えば負けるだけってわけね。ランディ、マシュー、ハンティングライフルは保安官事務所にある? それで狙撃して。サニー、あなたもそれでいい?」
  「妥当ね」
  避難は完了していない。
  
何とか敵の動きをまず止める必要がある。もちろん狙撃だけでは止まらない、正面切って戦う役も必要だ。
  つまり?
  つまり、私は正面組となろう。
  私はその旨を口にした。
  「私は傭兵さんたちと一緒に正面から戦うわ」
  「ですがミスティさんっ!」
  「お願い、ランディ」
  「危険です、だったら僕も……っ!」
  「お願い、ランディ」
  「……」
  「向こうの数は知らないけど、下手すれば10倍はいることになる。数では負けてる。勝ち目はない。後方支援が必要なの」
  「だったら全員で……っ!」
  「ミサイルランチャー持ってたらどうするの? 複数で撃ってきたら全員が吹き飛ぶだけ。効果的な戦うには、配置が必要なの。だから、お願い」
  「……分かりました。マシュー、用意しよう」
  「わ、分かった」
  ハンティングライフルの用意の為に2人は店を出て行った。
  勝手にカウンターの向こう側に行き、酒を飲み始めたガルシアが下品な笑いをこちらに向けた。
  「何?」
  「勇ましい姉ちゃんだ」
  「どうも」
  「知ってるか? 勇気と蛮勇は違うってことをよ? お前さんも後方支援という名目でガタガタ震えててもいいんだぜ? 頭でっかちのボルト女め」
  「カチーン」
  「……ミスティ、そういうギャグ要らないから」
  場を和ませようとしてるのにサニーってばノリが悪いですな。
  その時、マリアがケンに笑いかけた。
  「ケン、戦いのコツを教えてあげようか」
  「コツ?」
  「戦いとはまず相手の気勢を削ぐこと、機敏に動いて先制攻撃することが重要だ。こんな風に」

  バキィィィィィィィィィィィィィっ!

  カウンターを乗り越えてマリアがガルシアの顔に拳を叩き込む。
  不意を受けたガルシアはそのまま酒棚に懐くが如く激突した。
  ……。
  ……ああ、お酒が勿体ない。
  トルーディがブチ切れるだろ、これ。
  「おやおや酔っぱらって足滑らせちゃって。これ、あいつの不注意だね」
  マリアがこの場にいる全員にそう言って笑いかける。
  乗ったのはフェイだった。
  「そうだな、あいつが勝手に足を滑らせちまった」
  共犯ですね。
  乗っとくか。
  「トルーディに怒られますよ、ガルシアさん」
  「てめぇらっ! 良い度胸だなっ!」
  「来たぞ」
  一触即発というところでアパッチさんが止めた。
  外が静かになる。
  そして排気音が多数。
  車?
  車両を複数所持しているのか、バイアス・グラップラーは。
  「サニー、あなたも後方支援に」
  「分かったよ」
  和気藹々のお話会はお終い。
  ここからは戦いの時間。
  「おい、女ソルジャーさんよっ! せいぜい後ろから撃たれないように気を付けなっ!」
  「ふん、あんたなんか眼中にないよ。行くわよ、ケン」
  「ああ、分かったよマリア」
  「そういうわけだ、アパッチさんも行こうぜ。あんたもな、ミスティ」
  「了解した」
  「ええ、行きましょう」


  VSバイアス・グラップラーっ!