そして天使は舞い降りた







パウダーギャングをぶっ飛ばせっ!





  この時代、過剰防衛は存在しない。





  誘拐事件から3日後。
  時刻は夜の22時。
  今夜、パウダーギャング32名がグッドスプリングス攻撃の為に乗り込んでくる。
  私たちは万全の備えで立ち向かう。
  さあ、戦いだっ!



  「そこで止まれ」
  警告。
  私は、いや、私たちはそこで止まった。
  グッドスプリングスの井戸。
  そこに彼らはいた、パウダーギャングたちだ。場所的にはサバイバル講座で井戸巡りした、最後の井戸だ。一番街から離れている。
  男たちが群れている。
  焚火を囲み、テントを建て、半裸の男たちが群れている。
  ……。
  ……視覚的に既に犯罪だな、これ。
  半裸の馬鹿どもは目の毒だ。
  「おい、撃つなよ」
  そう言ったのは蛍光色モヒカンのカルロ。
  彼とその部下たちはこちらに転んだ。
  いや、正確には中立を約束した。手下たちはここにはおらず、この第一次接触遭遇が終わった際に、そのどさくさでここから立ち去る。手下たちはその脱出ポイントで待ってる。
  「カルロ、こりゃどういうことだ?」
  言ったのは知らない奴だ。
  まあ、パウダーギャングで諳んじている顔の奴なんていないけど。
  私はとりあえず手を挙げた。
  武装はいつも通りしてる。
  カルロは腰にマチェットを差しているだけ。
  それに対してパウダーギャングたちは体にダイナマイトを複数巻きつけるという、パウダーギャングの正式装備している。火力で言うならば相手の方がはるかに高い。ただ、ダイナマイトは懐に
  入り込まれたら使いづらいわけだし、範囲内にいたら敵味方た関係なく吹き飛ぶ、そういう意味では今のところは無効化している。それだけ私らは近くで対峙している。
  ダイナマイト以外の装備は大したことない。
  今まで雑魚を見てきたとおりの装備。
  ナタだったり、包丁だったり。
  銃を帯びているのは服を着ている奴だけ、それが3人いる。
  この田舎ギャングどもにとって服を着るのは幹部クラスだけのようだ。どこの蛮族だよ、文明化していないようだ。その銃にしても私と大差ない、単発銃だ。
  これ勝てるな、簡単に。
  服着てる幹部2人は初めて見たけど、もう1人は知ってる。
  黒いスーツ着てるジョー・コップ。
  プロスペクター・サルーンで見たことのある、ここの現場指揮官だ。
  ふぅん。
  カルロの言葉通りここに全員集結しているようだ、32人いるか数えてはないけど、最高幹部と思わしき奴は確かにここにいる。
  さあ、始めるか。
  「おい、何で火が上がらねぇ? サニー何とかって奴は殺したのか? それと、その女は何なんだ?」
  騒いでいるのは幹部の1人。
  黒人で、ジョーではない奴。
  何って奴だろ?
  「私が説明するわ」
  「ああ? 説明するわ、だと? パウダーギャングに女はいねぇし、必要ねぇ。女ってのは股間にサソリを飼ってやがる、堕落の魔女め失せろっ!」
  「……」
  酷い言い様だなー。
  ジョー・コップは女嫌いで女皆殺しにするつもりらしいし、この騒いでいる奴の反応を見る限り、パウダーギャングって男色の集まりなのか?
  ありえるな。
  カルロたちが離反しようとしていたのもその絡みなのかもしれない。
  「まあ待て、カーター」
  「だが……」
  「待て」
  ジョー・コップに言われ、黙るカーター。
  拗ねた顔をしている。
  えっと、彼氏が女に話しかけるのが嫌、とか?
  いじらしいっすね。
  「お前、見たことがあるな」
  「プロスペクター・サルーンでね」
  「ああ、トルーディのとこに来た奴だな。それで、何だ? 話っていうのは何だ?」
  「立ち去ってほしい」
  「ああんっ!」
  叫んだのはカーター。
  メンチ切るな。
  「どういうことだ?」
  その点、ジョーは冷静だ。頭を張るだけはある。
  心底は知らないけど。
  「言った通りよ」
  「まあ、待て。その前に聞きたい。カルロは何だってお前の、そうだな、仲介役ですみたいな顔をしているんだ?」
  「交渉したの、平和的に」
  「ふん」
  鼻を鳴らすジョー。
  顔に出さないようにはしているけど、表情の端には侮蔑があった。
  たぶん、私とカルロに対しての。
  男女の関係があったとでも勘繰ってるのかしらね、私が篭絡したとでも考えているのだろうか?
  奴の手下たちを見る。
  同じような顔をしている奴もいるし、目が血走っている奴もいる。戦闘前だからってだけじゃないのか、あの血走りは。ともかく全部が全部男色ってわけでもないらしい。
  カーターが男色代表で叫んだ。
  「爛れた関係だな、汚らわしいっ! ねぇっ!」
  「……」
  キモいんですが。
  ねぇっ!とジョーに共感を求めようとしてるのがキモいんですけど。
  お姉系かよ。
  まあいいや。
  話を戻す。
  「取引したいの」
  「取引、ね」
  「クリムゾンキャラバンがどうしてここを欲しがっているか知らないでしょ? 幾らで飼われてるの? どうせ低賃金で労働してるんでしょう? ここの地下に何があるのか知らないんでしょう?」
  「地下に? 宝でもあるっていうのか、お嬢さん」
  「ええ」
  「ふん。そんな下らん話……」
  「ボルト21がある」
  「何?」
  「ボルト21がある。上の街はカモフラージュ。おかしいと思わなかったの? クリムゾンがあんたらを許して、使おうとしていることに」
  「……」
  「企業はボルトを奪おうとしている、あんたらは労働力で、使い捨て。全部終われば始末される。少し考えたらわかるでしょう?」
  「いや、分からんな。何をどうしたくて、そんな話をしている? 何をくれる?」
  「手を組みたいの」
  ゆっくりと足を進める。
  カーターともう1人の幹部は銃を構えようとするもののジョーは手で制した。
  信用されてる?
  いや。
  完全に怪しまれてる。
  そりゃそうだ。
  ボルト21のジャンプスーツを着た女がペラペラ喋っているだけだ、信用する材料はどこにもない。材料、まあ、私が着ているジャンプスーツだけ。これだけで信用するのであれば聖人君子になれる。
  私は続ける。
  「どう? 私を庇護してみない?」
  「……」
  ジョーのすぐ間近で止まり、彼のあごを右手の指で撫ぜた。
  カルロは動かない。
  よしよし最初の計画通りだ。

  ガッ。

  私の右手を掴むジョー。
  「甘く見たな」
  「えっ?」
  「カーターの言うとおりだよ、女は信用ならねぇ。お前は信用ならねぇ。そんな三文芝居に引っ掛かるほど俺は馬鹿じゃねぇ。つまり馬鹿にしてるんだよな、てめぇ?」
  「ちょっと、話してよ。ここ紳士と淑女として、ね?」
  「ビッチが」
  密着する。
  奴は私を押さえつけようとし、私はもがく。
  よし、これでよしっ!

  「気を付けろそいつはお前を拘束しようとしてるぞっ!」

  「なっ!」
  カルロの野郎、裏切りやがったっ!
  ジョーを人質にして後退し、ダイナマイトを投げ、包囲して潰す、それが作戦だった。交渉出来るとは最初から考えてない、要は相手を拘束できる位置に行けたらそれでよかった。
  私は馬鹿力だ。
  それは可能だった。
  なのに、くそっ!
  「クソ女がっ!」

  ドン。

  突き飛ばされる。
  その私をカルロが左手で羽交い絞めにし、いつの間にか抜いた右手に持ったマチェットを私の首筋に当てた。
  参った。
  完全に拘束された。
  私の方が、だ。
  「よくやった、カルロ」
  「どうも」
  演技ってわけではなさそうだ。
  演技ならする必要なかった。
  それともより安全に脱出する為の方便……いや、脱出するだけならそもそもこんな距離まで出張ってこない。ジョーを人質にして逃げ、田舎ギャングどもを攻撃ポイントまで引き込むのが作戦だ。
  これじゃ意味がない。
  「カルロ、離して」
  小さく囁く。
  「お前、お人好しだな」
  「えっ?」
  「好意だけでここまで信用するなんてな。忘れたのか? 俺はてめぇと一発やりたいだけなんだよ」
  「……」
  ぎゃははははとパウダーギャングたちが笑う。
  カーターは侮蔑を隠そうとしない。
  「ビッチが。ざまぁみろ」
  「……」
  私は力を抜き、カルロに体を預ける形で立っている。
  力なく項垂れた。
  「ジョー・コップ、こいつ貰っていいですよね?」
  「好きにしろ。だが最後は殺せよ」
  「ええ、当然です」
  辛いな。
  辛いな、こういうの。
  裏切られるのは嫌いだ。こういう時、どんな顔していいのか私は分からない。
  笑えばいいのかな?
  顔をあげて笑う。
  儚い笑み。
  もう決まってしまった。結末は決まってしまったんだ。これはBAD END。覆しようのない、残酷な結末。
  私は思う。
  もう、諦めよう。
  「来い」
  「カルロ」
  「なんだ?」
  「私は決めたわ」
  「何を?」
  「ここにいる奴ら全部皆殺しにする。つまり、あんたも」
  「はあ?」
  諦めた。
  あなたを殺さないでおくことを。
  good-byカルロ。
  「うりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「なーっ!」
  振り解き、カルロを投げる。
  パウダーギャングたちに向かって。巻き込み、弾き飛ばし、バタバタと倒れる。
  「しゃーっ! ストラーイクっ!」

  ダッ。

  足で地面を強く蹴り、名の知らない幹部に肉薄。
  ストライクに度肝を抜かれていたその男は完全に対応が遅れ、私の肉迫を許してしまう。銃を構えようとしたときには私は既に拳を繰り出していた。
  「10点ゲーットっ!」

  ボス。

  間の抜けた音と同時に拳は顔を突き抜けた。
  えっと、はい?
  えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ馬鹿力過ぎるだろーっ!
  そ、そういえば本気でパンチしたことなかった。
  加減なく攻撃したことなかった。
  ……。
  ……あ、あれ?
  私ってば普通に武器いらなくね?
  やべぇっ!
  腕力のステータスに数値全振りしてるぞこれ誰だよこんな数値振りした奴はっ!
  持久力にも分けておくべきでしよっ!
  さすがに現実離れした状況を目にしたパウダーギャングたちは動揺し、一部腰を抜かし、まともに行動できないでいる。
  私もだ。
  これはちょっとビビった。
  結婚して夫婦喧嘩したら相手を殺してしまうな、気を付けなきゃ。
  というかこんな私の頭を撃ち抜いた奴はどんな奴だよ、どんな凄腕だよ。何気に真相を追う場合は、怖いな、相手は私を出し抜くほどの奴なわけだし。
  もうちょっと試してみよう。
  考えてみたら全力でパンチとかしたことないし。
  「はあーっ!」
  パンチのお試し要員となったパウダーギャングの男は泣きそうな顔をした。そしてその泣きそうな顔は彼方ら自身の表情を世に知らしめるべく飛んでいく。
  すげぇっ!
  首から上がもげたぞっ!
  何か怪力とかそういうのを逸脱してる気がする。
  私本当に人間か?
  自信ない。

  「ご、ごりら女だっ!」

  誰がゴリラだ誰が。
  名の知らない雑魚手下が叫ぶ。それを聞いて私はようやく冷静になり、ここで留まるべきではないとようやく認識する。
  9oを引き抜いて全弾発射。
  当然ギャングどもに向かって。
  何人に当たり、何人倒したかは見てない、トリガーを連打しつつ私はこの場から逃げた。
  数十秒遅れでジョーが何か叫び、追ってくる音。
  よしよし。
  少し展開と違ったけど追ってくるか。
  カルロめ。
  覚えとけよ。
  「はあはあ」
  毎度お馴染みの体力切れ。
  ちょっと休憩。
  「はあはあ」
  持久力なさ過ぎだろ。
  完全にステの振り方間違えてんじゃん、真紅の幻影さんよぉー。
  くっそ。
  こんなんじゃまともに旅なんて出来ないぞ。
  「あー」
  そろそろ行くか。
  サバイバル講座で、あと何度かサニーに頼まれて見回りしているから道は分かってる。岩場が多く、登るのも困難な岩場もある。伏せるにはもってこいの場所だ、この一帯は。
  ゲッコーは少し前に掃除したし、今夜は人間同士の戦いが繰り広げられるってわけだ。

  「いたぞっ!」

  見つかった。
  パウダーギャングが私を視認、追撃してくる。
  馬鹿め。
  わざわざ分かるように移動しているんだ。
  周囲は岩場が多く天然の障害物。
  気付いてないようだけど連中はどんどんと罠に飛び込んできている、自分から進んで。

  「あの女を……っ!」

  その時、ジョーの頭が吹き飛ぶ。
  私じゃない。
  サニーの狙撃だろう。
  さらにダイナマイトが周囲から投げ込まれている状況だ、まあ、グッドスプリングスの住人たちは別に戦闘訓練されているわけではないからなかなか有効な場所に届かない。目測定めて投げても
  なかなか相手を巻き込む位置には届かないものだ。パウダーギャングたちは右往左往しているだけで、爆音と砂塵だけが辺りを包む。
  だがそれでいい。
  要は気勢を削げればそれでいいのだ。
  下手に身を乗り出して投擲したら、逆にカウンターを受けかねない。何しろ連中はパウダーギャング、ダイナマイトはこちらだけの十八番ではないのだ。
  それに。

  「ぎゃっ!」

  こっちには有能な狙撃手がいる。
  右往左往している状況でサニーの狙撃、それも現在は夜。サニーは長距離から撃ってる、反撃されようがないし、つまりはこの狙撃はパウダーギャングが視界から消えない限りは続く。
  リーダーのジョーの死亡も痛いですね。
  知ってて撃ったのか、スーツ着てるから幹部っぽいから撃っただけなのかは知らないけど、パウダーギャングは頭を失って混乱している。
  所詮は田舎ギャングだ。
  もしも全員が銃を装備していたのであればこんなに簡単にはいかないし、返り討ちもあったろうけど、こいつらは鉄道会社から強奪したダイナマイトがメインの武器としている集団。
  武器のチョイスがなってない。

  「カーター、どうするっ! 退くのか、行くのかっ!」
  「行くに決まってんだろうがっ! 俺のジョーを、よくもっ!」

  ああ。
  ジョーはカーターのパートナーでしたか、それはすいませんね。
  ダイナマイト投擲組は連中の追撃を知って逃げたことだろう、これも当初の作戦通りだ。私は身を乗り出して9oを連射。雑魚ギャングの頭を吹き飛ばす。
  「見つけたぞっ!」
  違う。
  見つかるようにしてあげたのよ。
  数発撃ち、それから逃げる。
  相手は完全に頭に血が上っているようでどこまでも追撃してやろうという気になっているようだ。
  だけど今のギャングの中にカルロはいなかったな。
  どういうことだろう。
  力任せに投げただけだし、その時点では生きてた。
  ……。
  ……あー、奴の手下7人と合流しに行ったのか?
  ありえるな。
  全員で最初から裏切る、いや、元々パウダーギャングだし私が勝手に信用していただけだから裏切るも何もないのか。カルロたちは最初から向こう陣営のままだった、ってだけだ。
  ただ分からないのは今の展開だ。
  全容は教えてなかったけど罠を張ってあるとは教えた、教えたっていうか勝算はと聞かれたから、勝つ為の罠は張ったと教えただけ。まあ、それも軽率でしたけどね。問題なのは罠があるのを
  知っているのに突撃してくるパウダーギャングの行動だ。何なんだ、何で闇雲に追撃してくるんだ?
  これ、カルロ教えてないパターンじゃないのか?
  分からん。
  あいつの立ち位置が分からん。
  だけど私を拉致してあの場から離れたのは、私にスケベーすることなわけだ。いや、息遣いがハアハアしてたし、あれ完全にその気だった。
  まあいい。
  敵として立ちはだかった以上は、叩き潰すだけだ。
  叩き潰す、そりゃ物理的にですわ。
  「さてっと」
  私は立ち止まる。
  そして追い付いてきたパウダーギャングの方に向き直った。
  数は半分に減っていた。
  逃げたのか、死んだのか。
  現在指揮しているのは最後の幹部のカーター、やはりカルロはこの場にいない。
  「よくもジョーをっ!」
  「先に攻撃しようとしていたのはそっちでしょ、だから先制攻撃したってわけ。殴られるの分かってるんだから、先に殴ったっていいじゃん」
  「クソビッチがっ!」
  「さあ、皆、攻撃開始っ!」
  ここが最終地点。
  お前らはこっちの仲間に囲まれている。
  撃つ。
  撃つ。
  撃つ。
  パウダーギャングの何人かが声をあげて倒れた。
  狙って撃ってはいるけど、この状況だ、私の弾がどれだけ当たっているのか、何人倒したのかは分からない。
  既に乱戦だ。
  鉄の男アパッチはマシンガンを乱射しながら走り、パウダーギャングの1人に肉薄する。
  斧を手にカチコミとか、白兵戦が得意らしい。
  血煙が舞う。

  カチ。

  弾丸がなくなった。
  すぐさまマガジンを交換、ダイナマイトを振りかぶったパウダーギャングの頭を撃ち抜く。
  転がるダイナマイトには導火線に火が着いている。

  ジジジ。

  導火線は燃え、次第に短くなっていく。
  「消せっ!」
  ギャングの1人が叫び、別の奴が近付こうとした瞬間に爆発。
  ダイナマイトは脅威だが、さらに脅威がある。
  それはパウダーギャングの標準装備がダイナマイトってところだ。全身に括り付けていたわけだから、火を消しに近付いた奴はさながら人間ダイナマイト。
  大爆発し、炸裂し、近くにいたパウダーギャングが吹き飛ぶ。
  よし。
  一気に数が減ったっ!
  こうなるとこちらの優勢は揺るがない。
  サニーは遠くから狙撃しているし、トルーディ、ランディ、マシュー、街の有志たちもパウダーギャングを包囲して掃射している。囮役の私はともかくとして他の面々はあらかじめ防御を講じており、
  誘い込まれたパウダーギャングは防御がままならない、遮蔽物を利用することすらままならない状況だ。そして時刻は夜。夜の闇が包んでいる。
  的だ。
  的でしかない。
  結果としてパウダーギャングは行くことも退くことも出来ずここでバタバタと倒れていく。

  「ふんっ!」
  「ぎゃっ!」

  アパッチは斧でギャングの頭を叩き割り、逃げようとした別のギャングを至近距離からショットガンで撃ち抜いた。
  容赦ないですね。
  頼もしい限りだ。
  だから。
  だからここはもう任せてもいいだろう。
  「ランディ、ここは任せた」
  「どちらへっ!」
  「ケジメ付けてくる」
  「分かりました、お気をつけて」
  「うん」
  見つけたのだ、乱戦を傍観している奴を。
  蛍光色のモヒカンを。
  私は9oを手にして戦場を走る。
  パウダーギャングはもはや風前の灯火で降伏を叫ぶ者もいる。もっともそれを街の住人が許さないわけだが。
  残虐?
  これは後顧の憂いを断つ為だ。
  必要なことだろう。
  そして私は痛感する、それは正しいことなのだと。少なくともあの時殺しておけば、こんなことにはならなかった。裏切られることもなかった。戦場にカルロが介入することもなかった。
  私に気付いたカルロは背を向けて逃げる。銃は持っておらず、手にはマチェットとがあるだけだ。
  邪魔をする敵はいない。
  その余裕が連中にはない。
  私はカルロを追い、カルロは逃げ、そして岩山でついに追い詰めた。
  「これまでよ」
  執拗に私を付け狙っていたカルロの背中に9oピストルの照準を合わせる。
  ビクンと体を震わせて彼は取った。
  周りには誰もいない。
  私たちだけだ。
  「こっちを向きなさい」
  「あ、ああ」
  振り返る。
  静かに私は微笑。
  カルロは何か言いたげだったが、私が先に言葉を発した。
  「武器を捨てなさい」
  「……」
  「まあ、私の持ってるのは9oだ、頭を貫通しても生きてられるわ。大丈夫、ここに実体験した女がいるから。それで、どうする? あなたもトライしてみる? 主人公になれるかもよ?」
  「……へへへ」

  カラン。

  マチェットを彼は捨てた。
  手を挙げる。
  「ここまでのようだ」
  「ここまでね」
  「あんたを敵にしたのは本意じゃないんだよ、分かるだろ?」
  「分かると思う?」
  「分かるように、説明はするさ」
  「その努力はした方がいいと思う、出来る内にね」
  この体勢を維持。
  周囲では次第に喧騒が静まっていくのを感じる。
  パウダーギャングの本隊は32名。
  数の上ではこちらを上回っていたけど、地の利ではこちらが完全に有利だった。そして展開は私たち有利で進み、終息した。
  何しろ面白いように敵はこちらの策の通りに動いてくれた。
  ……。
  ……カルロを除いては、ね。
  こいつの行動は想定していなかった、私としては、グッドスプリングス的には承服しかねる雰囲気ではあったものの、私としては部下ともどもカルロは見逃すつもりだった。
  何故こんなことをした?
  「ミスティ」
  「うん?」
  「愛してるんだ、お前を。そうさ、俺はお前を愛しちまったんだ」
  「どうも」
  乾いてる。
  私はどこまでも乾いている。
  心は静かなまま。
  カルロの言葉は私の心には届かない。
  相手の紡ぐ台詞がどれほど熱を帯びていようとも、だ。
  彼は続ける。
  「お前ほど良い女はいない、今まで飽きるほど女を抱いてきたが、お前はまるで天使のような女だ。お前の誘惑は脳天突き付けちまった。イカれちまったんだよ、お前にさ。だからあそこで襲ったんだ」
  「ごめん、意味分かんない」
  周囲を警戒。
  こいつの手下がいる可能性がある、連動している可能性がある。
  トークは時間稼ぎだろう。
  そうでなけりゃこいつは相当イカれてる。
  「ああ、すまん、襲ったっていうのは変な意味じゃない。だが心底殺そうとしたわけじゃないんだよ、それは信じてくれ」
  「暗がりに連れ込もうとしたのに?」
  「違う。逃がそうとしてたんだ、俺と、お前とで逃げようとしていたんだ」
  「追撃して来たわ、連中」
  「そりゃお前が俺を信じて体を預けなかったからだ。それで少し厄介になった。だが、むしろあれでよかったんじゃないか? お陰で泥沼化しただろ」
  「泥沼化?」
  「あいつら焚きつけて皆殺しって寸法だよ。現にそうなった。パウダーギャングは全滅だ。それは、俺の愛の成果だ。だろ?」
  「……」
  これ、私の誘惑が利き過ぎたってことか?
  効果は抜群だっ!ってことか。
  まずいな。
  想定してなかったな、ここまで男を惑わせるとは。
  あの場を切り抜けるだけの方便だったし、別に楽しんでやってたわけじゃないし、あの時は仕方なかった。
  こんな結果を招くとはな。
  うーん。
  「手下どもを殺したのもその為だ、あいつらミスティに何かする気満々だったろ? お前は俺だけのモノなんだっ! 俺は、お前の為だけに生きてるんだ。そこでだが、提案があるんだ」
  「殺した?」
  「ジョー・コップたちがお前を追撃している時にな」
  「ああ」
  それでジョーが頭を撃ち抜かれた時はいなかったのか、手下を処分しに行ってたのか。
  不意打ちにしても全員殺せるんだからこいつなかなかの使い手だ。
  完全に狂ってるけど。
  「提案って何?」
  「このままパイソン・スティーブ・ホテルに行こう。プリムでカジノしたり、美味いもの食ったり、ショッピングしたりしてよ。俺らは恋人だ、お互いに、その、へへへ、色々と楽しいこともしたりしてさ。不
  自由はさせねぇよ、何だってしてやるぜ、何だってだっ! へへへっ! だがお前もお返しに何だってしてくれよ? その、すげぇことをよっ!」
  「……」
  媚びた笑い。
  下品な顔。
  最初に会った時はまだまともだった、どストレートなどスケベではあったけど、溺れてはなかった。
  良い兄貴分で、手下にも慕われてた。
  それが、今はこんな感じだ。
  手下まで皆殺しにした。手下はこいつを信じてたのに。
  ……。
  ……私の誘惑ってそんなに効果あるのか?
  それともただこいつの好みに私がストライクしただけなのか?
  あの場では仕方なくで好きで誘惑したわけではないけど、普段はしないようにしよう。もちろんする理由はないんですけど、この間調子に乗ってランディいじめちゃったしな、悪いことした。
  誘惑は基本、封印スキル。
  仲間がそれで狂ったら悲しい。
  「全部死んだ、ここで逃げても誰も追ってこない。なぁに、襲撃が失敗したらエディーはクリムゾンに売られてお終いだ、組織のないギャングなんて、ただのチンピラだからな。取引相手にはならないし
  そのまま丁重にお帰り頂くってわけにはならないはずだ。まあ、どっちにしろパウダーギャングは終わりだ。誰も俺たちを追っては来ないさっ! さあ、行こうぜっ! 可愛がってやるよっ!」
  「何か勘違いしているようだけど」
  銃口は向けたまま。
  私の顔にもう笑みはない。
  微笑も。
  冷笑も。
  何もない。
  表情が完全に消えたのを見て、彼は戸惑い始め、混乱を始める。
  「さらって欲しいって私は頼んでない」
  「待て、待ってくれっ! 俺はお前を愛しているんだ、脳天を駆け巡ったあの衝撃は忘れられないっ! お前だけを愛しているんだっ! それにっ!」
  「それに?」
  「それに、俺はパウダーギャング枠の仲間としてこの小説には必要……っ!」
  「意味分かんない」

  ばぁん。

  撃った。
  脳天を駆け巡るその衝撃を大切にしろアホンダラ。
  信じられない、そんな顔をしたまま彼は果てた。どうやら彼は私のように悪運は強くなかったようだ。
  パウダーギャング枠の仲間?
  要らんだろ。
  「裏切られるのは嫌いなのよ、私」
  冷たく吐き捨てた。





  Mr.ニューベガス。
  モハビ・ウェイストランドの全ての女性の心を掴むDJ。

  『皆、Mr.ニューベガスだ。今夜の君は、特に素敵だね。おおっと、ニュースをお送りしよう』
  『ジョークのような話が入ってきた』
  『パウダーギャングがクリムゾン・キャラバンの支社に出向き、自分を歓待しろと要求してきた。勇気ある支社長のアリスは彼らを手厚くもてなしたそうだ、きっと今頃はNCRCFバカンスしているだろう』
  『NCRは勇気あるこの行動に勲章を贈ると表明している』
  『ニュースはここまで』
  『もう1つのニューベガス、プリムっ! この放送はプリムの提供でした』
  『さて、ここで心温まる曲を流すとしよう』