そして天使は舞い降りた
悪女の才能
〔Black Widow〕「ねぇ、ジャンプスーツのチャック下げてくれない?」
「……?」
視界が暗い。
息苦しい。
……。
……深呼吸。
すーはー。
自分の息が顔の周りに留まり続けている。
夜ってわけではないのか。
布団を被っている、いや、そうじゃないな、何かで顔を覆われている。首のあたりに違和感があるから何かを被せられている?
最近こんな感じあったな。
頭を撃ち抜かれた時だ。
あの夜の記憶はなくて、でもこんな感じだったのは何となく体が覚えてる。
「……」
えっ?
私今やばいの?
耳を澄ます。
ぼそぼそと何か聞こえる。
「しかし、兄貴、これでよかったんですかね?」
「今更言うな。にしても8人か、どんだけお前ら女とやりたいんだよ」
やりたい、どう変換すればいいんですかね?
殺る?
それとも、あっはっはっ、やべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
待て。
待て私、少し冷静になろう。
これでよかったんですかね、という発言は何やら意味深ではあるな。
不本意ってことか?
だとしたら、それはどういう意味で?
今の言葉から読み取れるのはそれ以上はないな。
それで今の私の状況だ。
袋か何かを被せられているんだろう、まだ服は来てる。転がされてるけど、視界が効かないからバレてるのかは分からないけど、分からない程度に少し手足を動かしてみる。
拘束はされてない。
銃の重みは感じられない。
ここがどこかは分からないけどヒンヤリしてる。空気も、床も。
「兄貴、ジョー・コップたちにはどう言い訳を?」
「そんなに長くは掛からん。別にバレることはない、気にするな。あいつら男色だからな、事が成ればここの女は皆殺しにされちまう。エディーが来る前にな」
エディー?
確かパウダーギャングだったな、名前しか知らないけど。
ジョー・コップはリンゴ引き渡せとグッドスプリングスに来ていたパウダーギャングどもを仕切っていた奴だ。
それにしても事が成れば、皆殺し?
この街を攻める算段を付けたのか?
そうか。
思い出したぞ。
昨日働きまくったけど貧乏暇なしで、今日はサニーの見回りの手伝いを別行動でしてて、そしたら……ここにいるってわけだ。
誘拐されたのか、私。
……。
……貞操まずくないですね。ガクブル。
いやでもきっとグリン・フィスが助けに来て……誰だよグリン・フィスってっ!
まずい、テンパってる。
うー。
とりあえず分かったこと。
私を誘拐したのは、実はまずいことらしい。
グッドスプリングスに責める算段がなった。
ここにいるのは8人。
やる、は殺るではないってところぐらいかな、分かったのは。最終的には殺すのかもしれないけど、とりあえずはそういうわけではなく、そして意識ない時点では何もされていないってことだ。
変な話、ただの本能野郎ではないな。
私の体に何一つしていないわけだから何らかの目的もあるのだろう。
まあ、された後でも困るんですけど。
どうする?
このまま死んだ振りしててもまずいな、相手が何もしていないならアクションしなくては。
間が長引けば何しだすか分からないし。
ジタバタと手足を動かす。
「兄貴、こいつ目を覚ましたぜっ!」
今までで学んだこと。
男はボルト女を従順で無知だと思ってる。
ならば。
「な、何これ、どうして……? 助けて、殺さないで」
演技。
悪のノドにいた2人は殺したから口封じ出来てるし、こいつら相手に特に目立ったことは……あー、サバイバル講座の時に銃を突きつけたような。
でもあれはあの距離だし、相手も油断してたってことで切り抜けれるか。
あの時の奴がいないことを願おう。
いないなら、容易いだろ。
「しーっ! 安心しろ、殺しはしないよ、大人しくしてろ、袋を外すだけだ」
「う、うん」
視界が開ける。
目の前に飛び込んできたのは蛍光色のモヒカン男だった。
兄貴って奴だろう。
30ぐらいか、青い目をしているけど右目だけ動いていない。よく見ると義眼のようだ。視界が開けたので周囲も見てみる、手下は7人。髪型は色々だけど半裸で短パン、パウダーギャグ雑魚組。
それに対して蛍光色モヒカンは薄汚れた灰色のジャケットを着てる。
幹部になると服が着れるのか?
ジョー・コッブはスーツだったし。
兄貴の手には9oピストル、腰にはマチェット。半裸どもはダイナマイト巻いている以外は刃物を腰に帯びている。
ただ、1人だけ警戒役なのかいつでも私に撃てるように少し離れて9oマシンガンを構えていた。
それにしてもここはどこだ?
冷たい灰色の床、部屋全体がコンクリで出来るている。
薄明るいのは蛍光灯が一応は生きているから。
窓はないな。
光が少し差している、出入り口は向こうか。外に出るにはこいつら全員をかわす必要がある。現実的ではないな。
私は倒れている体勢から座り込むという体勢に変え、立ち上がろうとすると……。
「立つな」
これ以上はダメか。
私の握力は凄いものがある、この蛍光塗料野郎を握り潰すのは容易だけど……数がなぁ。
ゲッコー程度なら蹴り殺せちゃうわけだし、半裸な男たちでも問題はないだろう。
問題なのは銃?
うーん。
マシンガンは確かに怖い、だけどそれ以上に怖いのは持久力だ。
貧弱なお嬢ちゃんなのです、私は。
全部殺せる自信がないな。
体力的な問題で。
「あ、あなたたちは誰? 私に、私に何をするつもりなの?ガクブル」
「俺はカルロ、こいつらの兄貴分だ。俺らの目的はただ一つ、お前とお楽しみすることさ」
「……」
どストレートのエロ野郎どもかよっ!
だけどそうなると起きるまで何もしなかった理由って何だ?
意識ある状態で致す為?
いや。
皆殺し云々は攻め込んで占領した後のことだろう、エディーって奴の思惑を無視してジョー・コップがやらかしたいことらしい。女皆殺しも、おそらくエディーの思惑ではないようだ。
つまり、エディーがボスで、ジョー・コップは現場指揮官ってところか、カルロはそいつの傘下に入っている幹部ってところか。
そしてカルロたちは私を殺したくはない。
これでよかったんですかねと言った手下の発言から察するに、下半身事情だけではないようだ。下半身事情だけならあの発言はおかしい、事が済めば私を殺せば良いだけなんだから。
これ、私を殺すつもりがないってことか?
でも下半身的にはお付き合いしたい。
……。
……なーんか嫌な予感しますね、つまりこいつら私をここで飼う気か?
それはそれで嫌だなぁ。
「あの」
「何だ」
蛍光塗料野郎は私から離れ、距離を少し保って9oピストルを右手に持っている。安全装置は外れてる。
あれ、私のか。
「殺すん、ですか?」
「殺しはしないよ、お嬢さん。お前さんはいたいけなボルトの女だからな。ボルト……21? それがどこだか知らないが、どうせここでこき使われてるんだろ? 俺らが贅沢させてやるよ、お前にな」
ジャンプスーツのナンバリングを見ながら男は心底同情したように言った。
ああ、前も同じこと言われたな。
ボルト=世間知らずというのは定着しているようだ。
定着、常識、それらは命取りになる。
思い込みや決め付けは隙。
もちろん当方といたしましてはそれは実に助かる展開でございます。
「ここ、どこですか?」
「ガソリンスタンドさ」
「ガソリンスタンド」
どこだ、それ?
いや、待て、確かトルーディがリンゴを廃棄されたガソリンスタンドに匿っていると言ってたな。まず見付からないと。
私はここに住み始めてたけど、確かにガソリンスタンドは見たことなかったな。
立地的に分かり辛いところのようだ。
あれ?
だとするとリンゴはどうした?
捕まった?
「あの」
「何だ、まだあるのか?」
「私、知ってます。ここってリンゴって人がいたところじゃ……」
「あいつはもうここにはいないよ、古巣に帰ったのさ。俺らは悪党だが、大企業っていうのはもっと悪党でね。リンゴは古巣の命令でここの情報を売り、帰って行ったってわけだ」
「……」
ちょっと待て。
それってつまり、クリムゾンキャラバン公認でパウダーギャングは攻め込む手筈を付けたのか?
何考えてるんだ、その企業っ!
ここをギャングの街にして、ギャングどもに恩を売って交易路の安全を確保したいのか?
そうか。
それもあるけど、それ以上にパウダーギャング程度にキャラバン隊を潰されたことを隠蔽したいのか。パウダーギャングを潰すにしてもNCRに通報するにしてもクリムゾン的にはよくないのだろう。
手懐け、事件を消し去り、ついでにリンゴの件を知るグッドスプリングスも闇に葬る気か。
ふざけやがって。
「ボルトの女」
「は、はい」
「お前は運が良い。そのおっぱいに感謝しな」
「……」
どう反応したらいいんだ、それは。
うーん。
「俺らはリンゴの情報を元に奇襲するのさ、サニースマイルズが厄介な相手と聞いている。街に火を放ち、その後本隊が攻撃する手筈となってる。だがお前は余所者だし、何よりもただの女だ。対象外だ」
「……」
無力っすか、私。
わりと一番面倒な相手だとは思いますけどね、両手で首絞めたら首千切りそうで怖いです。
「ジョー・コップって奴かいる。そいつは潔癖な男色でな、エディーが来る前に女も皆殺しにする気だ。だがあんたは新参者だ。あんたぐらいなら目こぼしてもバレることはない」
潔癖な男色って何だ。
「えっと、つまり、私は見逃してくれるってこと?」
「ああ」
よし。
だとしたらある程度は大胆になれる。
抵抗したら殺すだろうけど、しなければ殺すつもりはないわけだし、手はある。
「ただし条件がある。俺らの女になることだ」
まあ、そう来るでしょうね。
生臭い話は反吐が出るけどある程度は話を合わせてあげるとしようか。
それも手段の一つだ。
「でも」
「あん? でも、だと?」
「バレるわよ、こんなの。皆殺しにしてここに住むでしょう?」
カルロ。
悪党ではあるけど、救う価値無しの悪党ってほどではない。それなりには紳士的ではあるかな、要求していることは、まあ、無法者ヒャッハーな時代だし分からないではない。応じる気はないですが。
手下どもも似たようなものかな、完全に頭空っぽな殺戮と暴力だけやってる奴らよりはマシだ。
「大丈夫だ、こんなところにリンゴがいるなんて俺らもずっと気付かなかったんだからな」
「だけど、それは余所者だったからでしょう、あなたたちが。ここに住めばいつかは気付くし、そしたら私は殺される。あなたたちも、ただでは済まない」
「……」
カルロは口をつぐんだ。
バレたらやばい。
つまり、それが最初のこれでよかったんですかねぇに繋がるわけだ。今のところここの連中は私を殺すことには反対している立場にある。
殺さない理由、私が余所者で、この街にいた形跡が薄く、そしておっぱいだからだ。
……。
……何なんだよ、生存条件がおっぱいって。
クソ、何か腹立つわ。
「それに」
「それに、何だ?」
両手を挙げ、撃たないように態度と目で訴えた後にゆっくりと立ち上がる。
少し下がり、続きを口にする。
「ここってお風呂がないわ」
「ああ。天蓋付きのベッドもないな。あとで執事に運ばせよう」
ニヤリとカルロは笑う。
ある程度のジョークも可能、か。
見どころはある。
それなりには。
「私を、その、ここに囲うんでしょう? 殺さないで生かしたまま。私はここで暮らして、あなたたちを待つ。それは分かったけど、その、お風呂ないと……嫌われちゃうかなって」
「確かに、切実だな」
こいつらはいい。
用がない時は街で暮らしてればいいんだから。
私はどうなる?
囲うって、つまりはそういうことだ、しかもここから出たら殺されるわけだしここで汚れて暮らすのか?
ごめんですわ。
相手もそんな女を囲い続けるか?
「お前はどうしたいんだ?」
ここから出たいです。
他に何が?
「気に障ったらごめんなさい。その、ギャングって抜けれないんですか?」
「何?」
「例えばプリムとかで暮らしたり」
「パイソン・スティーブ・ホテルのことを言っているのか?」
「……?」
そんなのがあるのか?
それは知らなかった。
ただ、カルロたちは揉めだした。私の提案に対してではなく、今の在り方について揉めだした。
「兄貴、確かにそれはそれでありな気が……」
「そうっかよ」
「確かにNCRから労働力としてここまで移送されて、逃げ出す際にはエディーに従いましたけど、別にあいつとつるまなくても……」
「クリムゾンもやけに愛想良すぎます、嵌められるんじゃ?」
「エディーはのこのこ奴らの支社に乗り込んで交渉してますけど、考えてみたら裏ありますよ、これって」
「俺は賛成かな、離脱は」
「良いベッドで寝て、清潔な部屋で過ごすのは悪くないですぜ」
「おっぱいおっぱい」
こら待て最後の奴は何だ。
カルロの顔を見る。
心動かされている感じはするな。それにこいつら何してNCR本国の刑務所に入れられたかは知らないけど、脱獄まではエディーと組んでいたって感じはある。現状は惰性でしかない。
それに確かにクリムゾンの動きは妙だ。
企業は俺らよりも悪党、ね。
どう転んでもクリムゾンは得するように動くだろう、そういう意味では田舎ギャングは利用されているだけだ。
「ボルトの女」
「何?」
「つまり俺らの女になって、旅をするってことだぞ? いいんだな?」
「ええ。ここから救ってくれるんでしょう?」
「もちろんだ」
気付いてないようだ。
口調から怯えがなくなっていることに。
それとも心を開いているとでも思っているのかな?
どちらにしても、甘い。
「カルロ、だから、今日はお預けでもいいかな? その、汚れちゃうし」
「ああ。仕方ないな」
「あなたたちはどうするの?」
「お前は知らないかもしれないが街の周りには俺らのテントが幾つもある。俺らが行動するのが3日後だ。今逃げようとすれば捕捉されちまう、そうなればギャングと一戦やることになる」
「3日後」
これは幸運かもね。
誘拐されなければいきなり攻撃されてお終いだった。
ああ、前段階でサニーが殺されるのか、そして街に火が放たれてから戦闘開始。完全に後手で、どうしようもなくなるところだった。
ならば称賛しなければなるまい。
称えよう私の胸を。
くっじょぶMyおっぱいっ!
「攻撃のどさくさでお前を連れて逃げる。それでいいな?」
「分かった」
攻撃のどさくさ、つまりはサニー殺す&放火は既定路線か。
なるほどなるほど。
「名残惜しいが今回はお預けだな」
私にキスしようとするけど私は身をよじって逃げた。
どストレートなえろ野郎どもだけど御し易くはある、会話で制御できるんだからまともな部類ではある。悪党にしては、って意味だけど。
「行くぞ、お前ら」
「待って」
帰られても困る。
ここに居られても困るけど、3日後の総攻撃の為にサニー殺しと放火されても困る。
「何だ」
「1人ぐらいなら、良いかなって」
「はあ?」
「カルロ、部下の人たちは我慢できるかな」
「何をだ?」
「私とあなたの、その、してるとこ見て」
「……」
ハアハアうるさいんですけど。
少しジャンプスーツのチャックを下にずらしてみる。
見えそうで見えないチラリズム。
「カルロ」
「な、何だ?」
〔Black Widow〕「ねぇ、ジャンプスーツのチャック下げてくれない?」
「へ、へへへ。こんな良い女初めてだ」
スピーチスキル成功っ!
右手には9o、それは手放さそうとはしないけどもう撃つ気はないだろう。左手が私の胸元を解放するチャックに伸びる。部下たちは手ではなく鼻を伸ばしている、しかしサブマシンガンはこちらを向いたまま。
カルロが近付く。
近付く。
近付く。
カチ。
私の左手が動き、それから右手でマチェットを掴み、それをそのまま9oサブマシンガン男に投げた。
マチェットはサブマシンガンに直撃、落ちる。
カルロは速かった。
次の瞬間には引き金を引いていた。
「なっ!」
いや。
引いたつもりだった。
だけど残念、マチェットを抜く前に左手で安全装置を掛けた。引き金が引けるわけがない。それにしてもなかなか良い動きでした、殺すのに躊躇いがなかった。
こいつらの頭を張ってるだけはある。
ボキ。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
無理に腕を捩じり、9oを奪い取る。
右手折れちゃいました?
ごっめーん。
安全装置を外して微笑を浮かべたまま私は引き金を引き続ける。
そして……。
「お終い」
パウダーギャングたちは、カルロを除くパウダーギャングたちは等しく右足を射抜かれて転がっている。
まだ弾倉に残ってる。
「殺せ」
「ふぅん」
「ミスティさん、ここにいたんです……ぶはぁっ!」
「あらランディ」
駆け込んできたのはランディ。
ショットガンを手にしていたけど……何でいきなり鼻血ダラダラなんだ?
見たことない小太り男もいる。
そいつもショットガン持ってた。そしてそいつは顔を真っ赤にしてこちらを見て……ああ、何だかんだで限界までチャック下ろされたからか。
悪いことしたな。
「んー」
これでよしっと。
「ランディ」
「……」
「ランディ」
「すいません、刺激強過ぎて。マシュマロおっぱいが凄すぎて……ってっ! この野郎ども、ミスティさんに何しやがったぁーっ!」
ああ。
怒ってくれるのか、優しいな。
「ミスティさんが誘拐されるのを見たって人がいるんです、実際行方不明だったし。それで探してたんですよ。大丈夫ですか? その、変なこととかされませんでした?」
「大丈夫、素敵な保安官が来たから助かった。ところで彼は誰なの?」
「マシューです、保安官代理です。僕の友人ですよ」
「ハイ、初めまして」
「……その、お姉さん、すごいっすね」
「どうも」
褒められたのか?
うーん。
「ランディ、パウダーギャングがここを襲う手はずを整えてる。バレないように何とか準備しないといけない。トルーディに話を通せばいいの? プロスペクター・サルーンに集まるように手筈付けてくれない?」
「分かりました」
あそこなら。
あそこなら街の憩いの場所だし、集まってもおかしいとは思わないだろう。
すぐにはね。
ここにいるカルロたちは作戦実行する為に街に潜んでる連中だ、帰らなくても3日経つまではバレることはない。
既に覚悟を決めているようだ。
「あの、おっぱいお姉さん」
「ぶっ殺すわよっ!」
セクハラはうんざりだ。
本日はセクハラ成分高過ぎる。
「で、何、マシュー」
「こいつらはどうします?」
「どうもしない」
「えっ?」
「悪いけどマシュー、ミッチェルさん呼んできてくれない? 止血だけはこっちでしとくから、最安値の治療だけお願いしてきて。それぐらいの持ち合わせてあるんでしょ、あんたら?」
カルロたちに言う。
それなりにキャップ持ってるだろ。
持ってないにしてもマシンガン売ればなんとかなるでしょ、多分ね。
「お願い、マシュー」
「ランディ、いいのかい?」
「ああ。ミスティさんの言うとおりにしよう。この場を収めたのはミスティさんなんだから」
「分かった。ひとっ走り行ってくる」
そう言って彼は駆けて行った。
止血するかな。
とはいっても大量出血しないように動脈は避けて撃ったから、見た目ほどの出血はないな。まあ、それでも時間が経てば死ぬだろうけど。
戸惑うギャングたち。
「何故だ?」
「カルロ、何が?」
「殺せただろ、俺たちを」
「そうね」
「なのに殺さず、治療までしようとしている。何故だ?」
「私に好意を持ってくれたから」
平然と言い返した。
たぶんこの辺りが謎の運び屋が言ってた、私の欠けてる部分なんだろう。
好意の有無で判断してしまう。
好意があれば、こいつらも殺さずに助けてしまう。
確かにこいつらは私に妙なことをしようとしてた、下心全開だった。街で虐殺もしようとしてた。でも、思惑はどうであれ私を助けようとしていた。その点に関しては感謝してる。下心付きであるにしても。
撃った理由?
そりゃ街を攻撃しようとしてたからだ。
その辺りはお仕置きですね。
「カルロたちは私を殺さないようにしてた、そこは評価してる。だから私もそのように返礼しただけ。でも忘れないで、3日後敵として行動するなら次は殺すから」
「……」
手当終了。
9oサブマシンガンを拾い、ランディに手渡した。
「治療代足りなかったらこれ売って。それとカルロ、武器の類を全部外してこちらに渡して。一発逆転狙って行動してもいいのよ? でもその場合治療受けれずに、緩慢に死ぬだけ。ご自由にどうぞ」
「……分かってるよ、お前ら、武装解除だ」
『へい』
よしよし。
無力化成功。
いざとなればマシンガンで一網打尽に出来るし、鎮圧は出来る。
「ランディ、ちょっと外の空気吸ってくる。ここ頼める? すぐ戻るから」
「分かりました」
抵抗しようがないだろ、カルロたち。
このまま大人しくしてくれればいいけど。
「なあ」
「ん?」
「あんたミスティって言うのか?」
「ええ。それが?」
「あんた良い女だな」
「そりゃどうも」
だけど義理は返した、後はそっちで決めて頂戴な。
敵なら殺そ。
私は外に出る。
「んー」
良い天気だ。
こんなところにあったのか、ガソリンスタンド。
ふぅん。
確かに街から離れてるし、分かり辛いかな。
カチャ。カチャ。
マガジンを外して、撃った分を装填する。
散財だ。
治療費払ってもまだ手持ちがあいつらあるなら取り立てんと。
「ふぅ」
その場に腰を下ろす。
外は暑い。
だけどさっきの場所が居心地良いかと言われれば、そうでもないな。
銃をホルスターに戻す。
現在までの自分の状況を把握してみる。
@馬鹿力。
A銃も卒なく撃てる。
B面倒臭いまでに裏を読める。
C状況に応じて女の武器も使えたりする。
Dかと言って最後までするのには抵抗があったりする。
Eぐっじょぶおっぱいっ!
こんなところか。
ああ、後は包帯の巻き方が手際良かった気がする、それ以上のことは出来そうもないけど応急処置ぐらいは出来るのかな。
ほんと、何者なんだ、深紅の幻影さんは。
「おっ」
マシューが戻ってくる、ミッチェルさんを連れて。
何故かサニーもいた。
「すいません、呼んでしまって」
私は立ち上がり、ミッチェルさんに頭を下げた。
「ざっくりとだがマシューに話は聞いた。殺さなかったのは偉いことだ。よくやったと思うよ。それで、どういう状況だ?」
「右足を撃ち抜きました。動脈はされてます、止血も一応は」
「分かった。後はこちらでやるよ」
「マシュー、お願い。あなたも中に入って警戒して」
「分かりました、おっぱい姉さん」
……。
……こいつ確信犯か?
うー。
何か今日はおっぱい連呼されてるなぁ。
希少価値なのか?
私の胸は?
前作ミスティやフィーさんは貧乳連呼でざまぁWWWとは思ってたけど、巨乳なら巨乳で面倒なのか、とメタ発言してみる。
ともかく。
ともかくミッチェルさんはマシューとともにガソリンスタンドに消える。
残ったのは私とサニーだけ。
「シャイアンは?」
「トルーディのとこに残してきた」
ああ。
彼女もざっくりとは聞いているのか。
おそらくピートはいつもの定位置、つまりはプロスペクター・サルーン前で飲んでいるのだろう、彼は銃を持ってるし、門番としては充分だ。
「ミスティ、あんたは知ってたのね」
「ごめん」
リンゴの件だろう。
「たまたまなのよ、たまたまトルーディが口を滑らせたの。口止めされてたし、その、ごめん」
「いいさ。何でもかんでも口外するのが正しいわけじゃないから。彼女は町長だし、それが必要だと判断したからそうしただけだ。別にあんたが悪いわけじゃない。それで」
「うん?」
「それで、連中の計画は?」
「3日後に総攻撃してくる。でもその前段階に、サニーを殺すって」
「私を? 名指しなわけ?」
「この街で一番厄介だと踏んでるみたい。それから街に火を放って、総攻撃。ちなみにその手筈を付けるのが、中にいる連中」
「何人いたの?」
「8人」
「誘拐されたんでしょ、私の手伝いの巡回中に。どうやって倒したのよ? 武器取り上げられてたんでしょ?」
「おっぱい見せた」
「ぷっ。何それっ!」
笑われた。
大人なミスティ、爆誕です。
「それでプランはあるんでしょうね、ミスティ」
「3日後に攻めに来るんだから、その前にこっちから仕掛けるのってどう? ダイナマイトたくさん押収できたし、何より3日後の手引きは中にいる連中のお仕事。外の連中はそれにまだ気付いていない」
「奇襲ってわけか」
「そう、それ」
中の連中から情報聞き出せば何とかなる。
数も分かる。
何よりパウダーギャングのボスはクリムゾンキャラバンの支社にいるらしいし、ここにいるのは現地指揮官。
どこまで権限があるのか。
どこまで慕われているのか。
こっちの攻撃次第では柔軟には動けない。
というか今のところカルロたちは色香に迷っただけで造反しようとしてたし、意外に大したことのない統率なのかもしれないな。
「で、中の連中はどうするの?」
「情報源」
「それは分かる。最終的には、どうするの?」
「事が終わるまでは閉じ込めとく。別に今のところは何もしてないから私はどうこうするつもりはないけど」
「NCR脱走兵をあっさり殺したかと思えば、今度は甘い対応」
「悪い?」
「悪くないけど、極端よね。残酷なのか、慈悲深いのか、ミスティはどっちなんだい?」
「ふむ」
考える。
考えてから、私は肩を竦めた。
「堕天使なのね、私」
「堕天使?」
「元天使であり、現悪魔なの。だから両極端な特性を持ってるんじゃないかな」
「ぷっ。中二病」
「笑うことないじゃんっ!」
「トルーディのとこに行くわよ、事の顛末を聞きたがってる。それと、先に釘を刺しておくけど、撃たないようにね」
「誰を?」
「酒場にいるリンゴを」