そして天使は舞い降りた







グッドスプリングスの洞窟





  生きている限り、目的は常に更新されていく。





  「また珍しいモノを持ち込んだものじゃな、ミスティ君」
  「どうも」
  アリス2070を私はグッドスプリングスに持ち帰り、その足でDr.ミンチの研究所に持ち込んだ。
  意外に骨だった。
  悪魔のノドを這い上がるまでは自分で動いていたんだけど、その後停止した。
  なので荷車に載せてここまで来たってわけだ。
  ウルフとは途中で別れました。
  彼が部下に、眼帯のスキンヘッドハゲの部下に命じてお礼として100キャップくれた。これで今回の収入はリッキーに集られた32キャップ、NCRに払った市民税30キャップを差し引いても238キャップゲット。
  幸先良いなぁ。
  ダイナマイトも6本、357口径マグナムも入手。
  売ればそれなりの額になるだろう。
  さて。
  「それで、Dr.ミンチ、これは何です?」

  「コーヒーですだ」

  「あっ、ありがとう」
  イゴールがコーヒーをくれたので一口啜る。
  うん。
  めっちゃ苦い。
  砂糖とミルクが欲しいところだけど添えてはない、たぶん私はブラックでも飲める大人だと思われているのだろう、なら格好良い大人としてこのまま飲むしかあるまい。
  「それで、これは一体?」
  もう一度繰り返した。
  博士は人形をまじまじと見ている。
  「こいつはビッグ・エンプティ産の代物だな」
  「ビッグ……はい?」
  「科学の墓場と呼ばれた場所にある、戦前の研究施設じゃよ。何故それがこんなところにあるのかは知らんが……ふぅむ……」
  「あと、それを餌にしてなんか人を殺している奴がいたんですけど。石像を使って」
  「石像、ああ、トラップじゃな。下敷きにしたり」
  「いえいえ。動いてました」
  「ジェットか何かキメてたとかではなく?」
  「ジェットが何かは知れませんけど、何もしてないですよ、私。キメる、ああ、麻薬か何かですか? 何もしてないですよ、はい。それでこれは一体どんな代物なんですか?」
  「コピードールじゃな」
  「へぇ」
  よく分からん。
  ただ、強いのは分かった。石像瞬殺だし。
  「ミスティ君」
  「はい」
  「治すのは簡単じゃが、キャップが掛かるぞ。1000キャップは欲しい」
  「ええ、その額でいいですよ……いやいやいやっ! 私が払うんですか? 私はそれを博士に売りに来たんですけど」
  売るのに私に払えと?
  理不尽だっ!
  「悪いが変えん。雑貨屋に売っても二束三文だろうな、バラバラにされてパーツごとに売られるだけじゃ」
  「直して使えばいいんじゃ?」
  「直してもお前さん以外には使えんよ」
  「何故」
  「お前さんの生体データを登録しておるな、これ。お前さん以外には従わん。これはリセット不可だ。再起動の為に手近にいた君の網膜からデータを登録、お前さんをマスターとしている」
  「はっ?」
  何だそれっ!
  「つまり、仮に博士に売っても……」
  「ワシには懐かんということじゃ」
  「マジか」
  「残念ながらな。だから、修理はしてやるから、1000キャップ欲しいということじゃ」
  「1000かぁ」
  「さすがに悪いが慈善するほどの余裕はなくてな。電撃は実験の一環だからよいのじゃが、こいつの修復となるとそれは別物じゃ。どうする? バラバラにして売るのかね?」
  「こいつのスペックって高いですよね?」
  「1000キャップ以上はするな」
  「うーん」
  確かに。
  確かに石像を粉砕する力は素晴らしい。
  「これ、私を裏切ったりします?」
  「中身を見てみないことには何とも言えないが、その辺りはちゃんと調整しておくから問題はなしじゃ」
  惜しくはある。
  この人形は使える、惜しい。
  だけど今回かなりの収入があったとはいえ1000キャップは持ち合わせていない。
  「博士」
  「うん?」
  「しばらく預かってもらってていいですか? お金作ってくるので」
  「置くだけなら金も掛からんし気にするな」
  「ありがとうございます」
  「あと、新鮮な死体を見つけたら必ず持ち込むのじゃぞ? いっひひひひひひひひっ!」
  「……」
  そうでした。
  こういう人でした。



  とりあえずその日は人形預けて私は診療所に帰宅するべく足を向ける。
  ああ、そうか。
  荷車返さないと。

  ごろごろ。

  荷車を引いて雑貨屋に。
  ついでにダイナマイトと357口径マグナムも売ってしまおう。銃は弾丸買えば使えるけど、手元に置くにしても弾丸を使い分けるほどの持ち合わせはない。
  当面は9oでいいや。
  その気になれば診療所にこの間の10oあるし。弾は100発。ストックとしては充分だ。
  「どうもー」
  チェットの雑貨屋に到着。
  扉を開けると彼は閉店の準備をしていた。
  「何だ?」
  相変わらず不機嫌そうですな。
  「荷車返しに来ました」
  「ああ。外に置いておけ。傷つけてないよな?」
  「大丈夫です」
  戦利品をカウンターに置く。
  「買い取りか?」
  「はい」
  「30だな」
  「……」
  安いのだろう、たぶん。
  即答だったし。
  「不服か?」
  「その額で良いので9o弾13発をオマケに付けてください」
  マガジン1本分使ったし。
  「つまり13キャップ分不満てことだな。最初からそう言えばいいんだ」
  戦利品とキャップを交換。
  それから弾丸を貰った。
  本日の収入268キャップとなりました。とりあえずこれで終了だ。
  「そういえば」
  「あん?」
  「取り寄せ頼むたいんですけど」
  「ああ。そういえばこの間もそんなこと言ってたな。あの時は悪かったな、金持ちの客そうだったから向こうを優先したんだが、シケた客だったよ」
  「へー」
  お嬢様みたいな人だったな、確か。
  何買いに来たんだろ。
  「それで、何が欲しいんだ?」
  「実は」



  「ふぅ」
  雑貨屋を出る。
  本日はこれにて終了。
  さて、どうしたもんかな。
  このまま帰ってもいいんだがそれでは芸がない。人形の件で新たに費用が必要になった、ミッチェルさんの医療費と合わせると4000欲しい。儲かったとはいえ私の全財産は1000もない。
  だけど今日はそれなりには儲けている、いやいや、私の人生で最高の収益額だ。
  何かお土産買って帰ろうかな。
  夕飯に一品足す程度なら帰って帰っても大丈夫だろう。
  足をプロスペクター・サルーンに向ける。
  「あー」
  足が痛い。
  今日は疲れたなぁ。
  あの石像は掛け値なしにただの石像だった、あの餓鬼は何者なんだ?
  妙な因縁を深めた気がする。
  嫌だなぁ。

  「やあ、ミスティさんっ!」

  少し痩せ気味の青年。
  私を手を振る。
  「御機嫌よう、保安官」
  「へへへ」
  嬉しそうな顔をするランディ。
  腰にはホルスターを巻き、私があげた32口径ピストルを差してある。それとは別にショットガンかな、それを背負っていた。
  服装も西部劇の保安官のようなものになってた。
  形から入ったようだ。
  「お疲れ様でした。今日も街の為に働いていたんでしょう?」
  「街の為というか、借金あるからかな」
  「あの」
  「ん?」
  「この街に、暮らすんですよね?」
  「ええ、まあ」
  何か妙な空気発してるな。
  あー、ピートが彼は私のおっぱいに興味があるとかなんか言ってたなー。
  ……。
  ……不意打ちに揉みに来るのか?
  胸を守りつつ一歩下がる。
  「ミスティさん?」
  「何?」
  「警戒してます?」
  「だっておっぱい揉みに来るんでしょう?」
  「しませんよっ! したいけどっ!」
  「ああ、したいのね。どうぞ」
  「はっ? はっ? はっ?」
  顔を真っ赤にして逃げて行った。
  ふむ。
  からかい過ぎたかな。
  誤解されて刺されなきゃいいけど。
  反省反省っと。
  反省しつつ私はプロスペクター・サルーンに足を運ぶ。
  「よお、お帰り」
  「ただいま」
  店の前には相変わらずのピートがいた。
  楽隠居ってレベルかな?
  知る限りでは毎日ここにいるぞ。
  時間帯問わず。
  うーん。
  「悪魔のノドはどうだった?」
  「大量の銃火器や弾丸があったけど、全部使い物にならなかった。あれって売り物になるの? 鉄屑として再利用できたりする?」
  「どうだろうな、俺が採掘してたのは高級なのだったからな。どこかで買取してくれるのかもしれんが、残念ながらそれがどこだか分からんよ。一応伝手は当たってみるよ。売れたら、山分けだぞ?」
  「あはは。了解」
  「ところでランディが顔を真っ赤にして走ってたが、何かあったのかい?」
  「おっぱい触るか聞いてみた」
  「……あのな、それはやめろよ。あいつは純情なんだぞ」
  「ピートじゃん、おっぱいに興味があるって言ったの」
  「……触らせろとは言ってないだろうが」
  「フォローしといて」
  「ああ、分かったよ。そういえば店に入るのか?」
  「えっ? ええ、今日はちょっと儲けたから夕飯に一品付け足すぐらいのお返しをしようかなって。何かあるの、店に入ると?」
  「人探しの依頼が舞い込んでいるらしい」
  「へー」
  興味あるな。
  冷やかし程度には話を聞いておこうかな。
  まあ、本日は石像と戦った後だ、あんまり疲れる依頼だと途中で確実に力尽きるだろうなぁ。

  ガチャ。

  「いらっしゃい。ああ、ミスティ」
  「どうも」
  店に入るとトルーディがカウンターでグラスを磨いていた。
  おっ。
  サニーがいる。
  そして見知らぬ男性がいた。
  「ミスティ」
  サニーが手を振る。
  ああ、彼が依頼人か。
  「何してるの、サニー」
  「仕事の依頼だよ。この近辺に精通している人を探していたんだよ、この人は。つまりは私ってことだ。あんたもどうだい? ミスティなら銃の扱いもうまいし、力になると思うんだけどね」
  「勝手に人数増やしてもいいの? それは依頼人の決めることじやないの?」
  「いえ、こちらとしてもサニースマイルズさんの推薦であるならばお受けしようと思っています。彼女はこの近辺に精通していますから」
  ふぅん。
  サニーってそれなりに有名人のようだ。
  依頼、か。
  受けてもいいかな、サニーがやるなら。
  男性に挨拶。
  「初めまして、ミスティです」
  「どうも、ヘクトルと言います。キャシディキャラバンの者です」
  「キャシディ……」
  「知らなくても仕方ないとは思いますよ。小規模のキャラバン会社ですから。モハビで活動しているキャラバンの大半はクリムゾンキャラバンに合併されてますし、わが社は細々とやってます」
  「それで、依頼とは?」
  「この近辺でうちのキャラバン隊が行方不明となっています。依頼とは隊員の安否確認、荷物の回収です」
  「なるほど」
  ちらりとサニーを見る。
  彼女は頷いた。
  「それで、条件は?」
  「基本料金として100キャップ支払います。隊員を助けた場合、荷物を回収した場合はプラスして報酬をお渡しします。いかがですか?」
  「分かりました。お任せください」
  人助けして、高額の報酬、悪くないですね。
  体力的にへとへとだけどもうひと踏ん張りするとしようか。
  「早速ですがミスティさん、サニースマイルズさん、よろしくお願いします。私はここでお待ちしています。……すいません、戦闘向きではないので」
  「構いませんよ。さあミスティ、仕事の時間だよ」
  「了解」
  ミッションスタートっ!



  夜になった。
  グッドスプリングスを東に私たちは進む。サニーはバーミンターライフルを手にし、腰には小型拳銃とコンバットナイフ。
  私は松明を左手で持ち、右手に9oピストルを持って進む。
  先導するのはシャイアン。
  わんこは進む。
  東に。
  「サニー、この先に何があるの?」
  「このまま行けば洞窟ね。私たち街の者はグッドスプリングスの洞窟と呼んでる。まあ、そのまんまね」
  「洞窟」
  「何? 怖いの?」
  「いや、そうじゃないけど、何かいそうかなって」
  「コヨーテの巣窟だよ。銃があれば簡単に追い払えるはずだ。奇襲されるか、よっぽどコヨーテの数が多くない限りはね。問題なのはそこじゃない、どうしてキャラバン隊が洞窟方面にいるのかってことだ」
  「まさかパウダーギャング?」
  「その可能性は高いね。連中に襲われ、洞窟に逃げ込んで身動きが取れないのかもしれない。普通はキャラバンは襲わないものだ、NCRは勿論のこと、リージョンだって保護料さえ払えばむしろ
  NCRよりも手厚く旅の道中を護ってくれるって話だ。護衛を付けたりしてね。キャラバンはモハビを豊かにする連中なんだ、それが物流だ。田舎ギャングはそれが分からないのさ」
  「ふぅん」
  そういうものですか。
  「お喋りはお終いだ。この辺りからコヨーテの縄張りだ。こちらから手を出さなければまず襲ってこないけど、キャラバン隊が攻撃した後なら、そうもいかない」
  「分かったわ、警戒する」
  「良い子だ」
  何その言い方。
  別にいいけどさ。
  岩山が見えてきた、その麓には夜の闇よりも濃い闇がわだかまっている。
  「あれが洞窟?」
  「そうだよ」

  ウー。

  シャイアンが立ち止まり、牙をむき出しにして唸る。
  敵?
  これは……。
  「囲まれてる」
  「ミスティ、何を言って……」

  「こいつは驚いたな。我々は闇に潜んでいたっていうのに」

  銃口が無数にこちらに向けられる。
  銃は捨てず、手を挙げる私たち。
  素早く目で追う。
  数は9人。
  この武装は……。
  「どうやらNCRのようだけど、何だってこんなところにいるんだ?」
  サニーは独語。
  そう。
  私たちを包囲しているのはNCRの兵士たちだ。
  あっ、この間市民税を取り立てた奴らもいる。
  「まずは挨拶をしよう、市民」
  軍帽を被った大柄の男が一歩前に出た。軍帽の階級章は……階級は分からんな、階級持ちなのは確かだけど。その両脇はサービスライフルで固めて兵士2人。
  はいはい、手出ししませんよ。
  「俺は第19小隊のラムサス少佐だ、イカレたグールのカルトを追っている」
  「ミスティよ。こっちがサニー」
  「そうか。ここで何をしている?」
  「行方不明のキャシディキャラバンの隊員たちを探している。依頼でね、頼まれたの」
  「それで、そこの洞窟にいると?」
  「シャイアンはここまで私たちを導いた、その可能性はあると思う。ラムサスさん……」

  「少佐と呼べっ!」

  兵士の1人が叫んだ。
  面倒臭いな。
  「ラムサス少佐、私たちは依頼を果たしたいのですがよろしいですか? 他の傭兵たちも会社の依頼で動いてます、早い者勝ちなのでね、ここに別のが来る前に完遂したいんですけど」
  「ふむ」
  そのまま沈黙する少佐。
  サニーが何か言いたそうだったが、私が目で騙された。
  他の傭兵なんていない。
  少なくとも私たちはヘクトルにそのようには聞かされていない。
  牽制みたいなものだ。
  制服着てるからって、その組織所属だと考えるほど私は優しくない。
  「ライラ少尉」
  「はい」
  「部下3名を連れて援護せよ」
  「少佐、悪いけど援護なんて……」
  「聞け市民。カルトはそこの洞窟に逃げ込んだ。我々はだからここに張っていたんだ、出るのを待っている。後続がまだ到着していないむのでね、待機中だ」
  「ああ、なるほど」
  向こうも牽制か?
  かもね。
  後続がいると思わせているだけかもしれない。
  ……。
  ……わりと面倒な性格だな、私。
  裏を読み過ぎてる。
  まあいいさ。
  読み過ぎて失うのは相手の信頼だけど、読み違えて失うのは命だ、ドライに考えると優先するのは後者だ。
  「ライラ少尉らが援護する。カルトはかなり強力なレーザー兵器を所持している、躊躇わず射殺することを進める」
  「どうも」
  さて。
  行くか。



  グッドスプリングスの洞窟。
  コヨーテの巣窟、と聞いていたけど現れるのは死体だけ。死屍累々のコヨーテの死体。
  カルト呼ばわりされていたグールが片付けたのかな?
  楽でいい。
  楽でいいけど、私らの後ろに展開している4人はどこまで信用できることやら。
  先頭を歩くのは私ら。シャイアンもいる。
  私は左手の松明で暗闇を削りつつ、右手に9oを握って警戒しつつ進む。
  銃を構えて歩きながらサニーは小声で呟いた。
  私にしか聞こえない。
  「どうして嘘ついたのさ?」
  「他の傭兵の話?」
  「そう」
  「あいつら、どこまで信用できるかなんて分かったものじゃないし」
  「偽物ってこと?」
  「かもね。警戒して外れたにしても、気疲れするだけで済むじゃない? 警戒せずに偽物だった場合、私らはお陀仏ってわけ。相手は殺す気、こちらは信用してる、勝てるわけがない」
  「あんた、意外に面倒臭い性格してるね」
  サニーは苦笑した。
  失礼な。
  自分でもさっきそう思ったけど、言われると少々面白くはないな。
  「そうだサニー、聞きたいことがあるんだけど」
  ひそひそを続ける。
  警戒こそしているもののいきなり撃たれることはないと思ってる、敵だとしてもね。夜の荒野で遭遇したわけだし、こいつらがギャングか何かならここまで回りくどいことはしないだろ。
  躊躇わず殺して身包みを剥ぐ。
  偽物でも攻撃しない場合?
  その場合は身包み剥ぐ以前に何かさせたい場合だ。
  それをしない場合は、殺されることはない。
  ……。
  ……あはは、サニーの言う通りですね、私は面倒臭い発想だ。
  さて。
  「ミスティ、聞きたいことって?」
  「実は悪魔のノドに行く前に後ろの奴らに会ってるのよ。市民税ってやつを取られた。取られるものなの?」
  「さあね。話自体はよく聞くよ、チェットはプリムによく行くけど、取られると言ってた。でも真相は知らない。私はグッドスプリングスからほとんど出ないし」
  「真相って?」
  「そういう命令がNCR兵に出ているかは知らないってことさ。あくまで軍内の方針なわけで、それを私らモハビの人間が諳んじているわけがないってことだよ。兵士たちが個人的に懐を潤す為に
  やっているのか、そういう命令が出ているのか、偽装兵がやってるだけなのか、分からないってことさ。徴収している兵士に聞いたところで結局真偽なんて分からないわけだし」
  「ふぅん。じゃあ、一応は前例があるんだ」
  「そういうことだ」
  よかった。
  世間知らずで私だけが取られたわけではないのか。
  安心安心。

  ジャジャジャジャジャっ!

  赤い火閃が幾条も飛んでくる。
  私たちは物陰に隠れてやり過ごした。
  なるほど。
  あれだけの兵士が外で手をこまねいていた理由が、これか。確かにこれを相手にするのは骨だ。外ならまだ相手にもできるだろうけど、洞窟内という閉鎖空間では損害が大きい。
  そして私らを先行させている理由もこれか。
  ラムサスは自分の部隊の消耗を避ける為に、私らを体よく利用しているってわけだ。
  だけどこちらにとっても都合は良い。
  私とサニーだけでは苦戦は必至。
  とりあえずは利害は一致してる、あいつを何とかするしかない。
  あいつ、カルトとか称されている奴だ。
  「どうする、ミスティ」
  「サニー、相手が見える?」
  「見えるわけがない」
  「ここの奥行きは?」
  「終着点ってところだろうね、この辺りは。これ以上奥はそうない」
  「ふぅん」
  長距離掃射されているのであれば手はない。
  だけど近付けれる距離なら。
  「ライラ少尉」
  「何?」
  「私が突っ込む。だから合図で一斉に撃って。私が松明投げたら、後は私がやる」
  「分かった」
  「ミスティ、何を……」
  「一斉掃射で相手の動きを封じてから私が松明投げて、一気に距離詰める。相手の姿が照らされさえすれば近付くのも容易」
  「私らの当初の目的とは違う流れ……」
  当初の目的。
  キャラバン隊の捜索。
  それは分かってる。
  「サニー、まずはあいつを何とかしないとどうしようもない。それに、この状況だ。分かってるでしょ?」
  「まあ、ね」
  キャラバン隊は生きてはいまい。
  あんなイカレた奴がこの洞窟にいるのであれば排除しなきゃいけない、グッドスプリングスまで来られても困る。
  「じゃあ、よろしく」
  「その前に市民、いいか?」
  「ん?」
  「NCRモハビ方面軍に正式配備されているこのサービスライフル、見た目はアサルトライフルだ。もちろん威嚇用にそういうデザインなのだが、実際にはセミオートのライフルだ」
  「ええ、分かってる」
  NCRの武装はハリボテだ。
  単発なのは知ってる。
  ……。
  ……だけど何で知ってるんだ?
  ライラは重大な告白のつもりで手の内を明かした、だけど私は知ってた。
  まあ、過去の記憶ってやつですね。
  運び屋だったらしいし、それなりに世故長けた奴だったんだろう、真紅の幻影って人は。
  さて。
  「じゃあ、よろしく」
  「了解したっ! 撃て撃て撃てっ!」
  ライラの部隊は銃撃。
  サニーも撃つ。
  シャイアン吠える。
  連続した銃撃に赤い火閃は鳴りを潜め、私はその隙に松明を投げる、松明の光は周囲を照らし、そして逃げて行く人影を捕らえた。
  いたっ!
  私は飛び出す。
  それと同時に銃撃が止んだ。勿論予定通りだ。後ろから撃たれるのは勘弁っ!
  走り、走り、走り、そして9oを構えて叫ぶ。
  「止まりなさいっ!」
  「……」
  薄汚れたローブを着た奴は、グールのカルトは私に後姿を見せたまま手を挙げた。
  レーザー銃を手にしたまま。
  「ミスティっ!」
  サニーが駆けてくる。
  私が投げた松明を拾って来た彼女は、辺りを照らした。
  死体が2つある。
  近くにはダッフルバック。
  キャシディキャラバンの隊員だろうか。
  「あなたが殺したの?」
  そう言った時、NCRの兵士たちが現れた。
  複数に背後を見せているグールは動こうとするものの私はそれを制する。
  「こちらにもこちらの都合がある、NCRとやり合うのは別にいいけど、その前に答えなさい。2人を殺したのはあなた?」
  NCRの任務なんか知ったことではない。
  故にこの2人を殺害したのではないのであれば、私が手を出すつもりはない。
  「私はミスティ、グッドスプリングスに住んでる。キャシディキャラバンの隊員の捜索を頼まれてる。それだけで、あなたには用がない。犯人でないのであればね」
  「俺は、ラット、ブライト教の者だ」
  「ブライト教?」
  知らないな、まあ、知るわけがないか、記憶ないんだし。
  「そう、ラット、よろしく。それで質問の答えは?」
  「犯人ではないよ」
  「ふぅん」
  私は歩く。
  ラット、には興味がない。彼は武装解除していないけど私がNCRと無関係なのは分かって貰えたと思う。
  撃とうと思えば撃てたし、撃つのが普通だ。
  私はそれをしなかった。
  殺す意思がないのは分かって貰えただろう、たぶん。
  「撃たないでよ、私はあなたに興味ないんだから」
  死体を検分。
  ふぅん。
  遺体は5.56o弾で撃たれたってところかな。
  少なくともレーザーで貫通した損傷ではない。この2人はおそらく銃で撃たれ、ここに逃げ込み、そして死んだとみるべきか。
  「ラット、この2人はあなたの後に来たのよね?」
  「何で、分かった?」
  「コヨーテよ。コヨーテを掃除したのはあなたでしょ? あなたより前にこの2人が来てたなら、コヨーテに食い殺されてるはず。でもその様子はない」
  「ああ、そうだ、俺は何もしてない。しばらくは話も出来た、そいつらを撃ったのは……」

  「我々って寸法」

  そう言ったのはライラ少尉だった。
  私は微笑して彼女らを見る。
  彼女を含めてサービスライフルを構えている。だが私は動じない。ラットはレーザー銃を手放していない、あの連射性はサービスライフルでは手が負えない。撃ち合えば兵士たちが負ける。
  全面的にそもそも信じていないし、だから私も即座に撃てるように動いてた。
  「ライラ少尉、誰が生き残るかやってみる?」
  「いや」
  「いや?」
  「手を組みたい、こんなのはもう真っ平なんだ」
  「はあ?」
  彼女を含めて兵士たちはサービスライフルを下ろし、捨てた。
  少なくとも。
  少なくともこの行動は彼女らの中では決まっていたことなのだろう。騙し討ちするのにライラが銃を下ろす、兵士が空気読んで下ろす、なら分かる。だが一斉に捨てた。
  「何のつもり?」
  「ミスティ、やっちまおうっ! 外の連中と合流される前に……っ!」
  「サニー、少し黙ってて。それで、何のつもり?」
  「我々はNCRの脱走兵なんだ」
  「脱走兵」
  「NCRがモハビで優勢なのはまやかしだ。リージョンは撤退し、コロラド川の東側に戦力を集結させている。モハビ侵攻の拠点としてコットンウッド・コーヴという港町も抑えている。我々は対岸で警戒
  任務に当たってた。霧の夜だった。突然銅鑼が鳴り響き、川を渡ってきた。私たちは撃ちまくった。そして朝になって気付いたんだ、NCR兵の捕虜たちだった。それは士気を削ぐ、連中の作戦……」
  「ライラ」
  「私たちはリージョンを恐れ……」
  「ライラ」
  「何?」
  「あんたらのトラウマなんかどうでもいい。ここで何してる、何をやってた?」
  「まずは弁解させてくれ。私らは市民税を徴収してた、その、要は平和的に小遣い稼ぎしてたんだ」
  「平和的。それ私も今日徴収されたよね。どうする? バラ肉にして売られたい? それとも自主的に返す?」
  「キャップはない、少佐、いや、ラムサス軍曹が持ってる。あいつは使ったと言ってた、何に使ったかは聞いてない。だけど色を付けて返せる、その為には協力してほしいんだ」
  「ちょっと待って。軍曹?」
  「ああ、あいつは少佐じゃない、勝手にそう名乗ってるだけだ。あのベレー帽に付いてる階級章は確かに少佐のモノだが、上官殺して奪ったモノなんだ」
  「ふぅん」
  同じ脱走でもスタンスが違うのか。
  ライラたちはリージョンの恐怖から、ラムサスは上官殺したからか。何で殺したかは知らないけど、虚栄心がある奴のようだ。わざわざ少佐の階級章を使い、少佐を自称しているわけだから。
  「ライラ、要約するとここの洞窟の一件は知らないってことね」
  「そうよ」

  「ふざげんなっ! いきなり撃ってきた奴らの仲間の分際でっ!」

  ラットがレーザー銃を構える。
  止めるとしよう。
  「待って、ラット」
  「うるさいっ!」
  「うるさいはやめて。私は淑女として冷静に話した。あなたに危害を加えるつもりは毛頭ない。それは、分かってくれるでしょう?」
  「……」
  「ラット」
  「……ああ、そうだな。ヒューマンにしては、礼儀正しかった。分かった、あんたは信じるよ、だから今はやめておく」
  「ありがとう。それでなんで狙われたか分かる?」
  「分かるさ、このレーザーRCWを寄越せと言われたのさ、断ったら撃ってきた。そしてここに逃げ込んだ」
  「レーザーRCW? それ珍しいものなの?」
  「レーザーマシンガンだ、珍しくはないが、値は張る。キャラバンの連中も同じことを言ってたよ、荷物を寄越せと言われて撃たれたとね。荷物にスティムがあれば助けれたんだが、あいにくなかった」
  「そう」
  「それでミスティ、どうするのよ?」
  「そうね。ライラ。あなたたちは徴収組、なのにどうして今回はここに突入してるわけ? 命令された理由は?」
  「徴収組だからよ。私らはリージョンとの戦いで戦闘に及び腰になってる。それで徴収組に回されたんだけど、ラムサスはあんたらを私たちに殺させて、戦闘のレベルを上げさせたいんだと思う」
  「ふぅん」
  相手はサービスライフルを捨てている。
  腰に銃はあるけど、どこか安堵しつつある。空気が緩んで来てる。話し合いって大事だもんね、言葉を交わせば回避できるものだってある。
  まあ……。
  「それで、プランは?」
  9oピストルの照準をライラの額に合わせた。
  彼女の顔が凍り付く。
  「ラット、サニー」
  心得ていたように2人も構えた。
  さっきと状況は違う、撃てばこっちが被害ゼロで勝てる。
  「ま、待ってよ、あんた私らの立ち位置を理解してくれたんじゃないのっ! それでグールに撃たないように、止めてくれたんじゃないのっ!」
  「少し違う。手ぐすね引いて待ってる連中対策に生かしてるだけ。あんたらの立ち位置とか、境遇とか、知ったことじゃない」
  「待ってよっ!」
  「言いなさい、後続の部隊はいるの? あれはハッタリ?」
  「す、少なくとも私は知らないっ! だけど脱走兵自体は増えてる、徴収して回っている間にそいつらを引き込んでいる可能性もあるっ! お願いよ、撃たないでっ!」
  「……」
  目の奥を見る。
  見つめる。
  恐怖。
  そこには恐怖が宿っていた。
  「いいわ、信じる」
  私は銃を下ろした、あっさりと。サニーは少し遅れて下ろし、ラットは私とサニーを見比べてから少し不服そうに下ろした。
  ライラたちは策ではあるまい。
  策ならあそこまで恐怖を宿すことはない、あからさまにビビり過ぎてる。
  「し、信じてくれるのね?」
  「ええ。ごめんね」
  「い、いいわ、信じてくれるだけありがたい」
  素直に謝る私に彼女は強張った顔で懸命に笑おうとした。
  笑えてませんよ、ライラ少尉。
  「いいのかい、ミスティ?」
  「いいんじゃない、サニー」
  「だがヒューマン……」
  「ミスティ」
  「ああ、分かった、ではミスティ、本当にこいつらの言い分を信じるのか? 俺はここまで追い立てられ、殺されかけたんだぞ。承服できん」
  「無理に承服しなくてもいいと思うわよ。でも外では手ぐすね引いて待ってる。今のところはライラたちと組むのは得策だと思う。数の上で、互角になれるからね。その後は好きにして、私が口出すことじゃない」
  「……ふっ」
  「何よ? 今の笑い」
  「ミスティは話が分かるようで、暖かなようで、かなりドライだな」
  「割り切ってるって言って。ああ、同じか」
  「同じだな」
  ラットは笑った。
  「それでライラ、どれだけ稼いだの? 稼げるんでしょ、ラムサスのやり方」
  「さあ、分からないな」
  「分からない?」
  「確かに稼いでいるとは思うけど、わずかな分け前だけで、大半はラムサスが独占してる。何に使っているのか、ため込んでいるだけなのか、私には分からない」
  「ふぅん」
  聞く理由、2つある。
  1つは私のローンでござる(号泣)
  奪えるなら上前は頂きたいところだ。
  もう1つは仲間がいるかどうか。
  それだけ儲かるなら別の仲間がいてもおかしくない、ライラが知らないだけでラムサスも使われているだけかもしれないのだ、さらに上がいると面倒だ。
  まあいい。
  外にいる奴らを全て殺せば厄介払いだ。
  全部片が付く。
  ローンも、ラムサスの仲間の件も。
  皆殺ししちゃえば私らがやったとは特定できないし、足がつかない。
  「ライラ」
  「何?」
  「10oピストル貸して」
  「えっ?」
  「10oピストル」



  グッドスプリングスの洞窟を出る。
  ライラたちが先頭。
  彼女の話では、私たちに何もせずに洞窟に入れたのはラットを始末させるための道具にすることで、その後はライラたちの度胸試しの為の生贄。
  だからライラたちに先行させた。
  私を見たら即座に撃ってくるだろうし、最悪ライラたちが寝返って私たちは挟撃される。
  そしてもう1つ。
  先行させたのはライラたちを盾に出来るから。
  どこまで本気でこっち側に付こうとしているのかはしらないけど、私たちが後ろにいたら裏切れまい。
  ラットのレーザーマシンガンもあることだし。
  偽NCR部隊は5人。
  こっちは私、サニー、ラット、ライラと部下3人、計7人。
  数の上で勝ってる。
  策もあるし、対して向こうはライラたちがまだ仲間だと思ってる。
  容易いな。

  「少尉、やったか?」

  その時、私が動いた。
  右手に9o、左手に10o持って躍り出る。月明りを頼りに敵に照準を合わせて次々とトリガーを引く。
  攻撃する意思の私。
  完全に舐め切っていた敵。
  勝負にすらならない。
  相手は脱走兵とはいえNCR兵で、軍隊経験もある、だけどこういう場合はどうしようもないだろ。
  全て倒れた。
  全て。
  「ミスティ、私の出番は?」
  「ないわね、サニー」
  敵は沈黙。
  私は9oをホルスターに戻し、10oを右手に持ち替えて死体を全て撃つ。
  まあ、一応、確認の為に。
  「それでライラ、市民税返す算段って?」
  「賞金だよ、私らは雑魚過ぎて賞金は掛かってないけど、ラムサスは上官殺しだからね。確か150NCR$は掛かっていたはずだよ」
  「ふぅん」

  「少尉っ! あいつの死体がありませんっ!」

  ライラの部下たちが死体を検分、その内の1人が叫んだ。
  死体がない?
  数はあってた、5人殺したし、5人分転がってる。
  最初遭遇した時は9人いた。ライラたち4人が抜けて、残りは5人。うん、数はあってる。となると……。
  「ライラ、まだ仲間がいたのね?」
  「私が知らない奴だ、本当だ、嘘じゃないっ!」
  「……」
  私は黙る。
  ライラは私が不機嫌になって、不興を買ったのでないかと怯えているような感じはするけど、そんなのはどうでもいい。
  面倒だな、一番面倒なのが逃げやがった。
  ラムサスは貯め込んでる。
  それで足を洗ってどこかに引っ込むか、それとも……。
  「ミスティ、追跡する? シャイアンがいるから追おうと思えば追えるけど。ただし、リスクもあるね」
  「そうね」
  まだ敵がいる可能性もある。
  問題なのはラムサスがどこまでここにいたかだ。
  今の戦闘を離れて見ていたのであれば私らにもアタックしてくるだろうけど、見ていないのであれば報復先は特定できない。私とサニーがグッドスプリングスにいることは最初の段階で言ったのは
  間違いだったな、だけどライラたちの死体もなければラットの死体もないのであれば、報復先は分散する。いや、まずはライラたちに向くか。
  そうなるとライラたちには逃げ回ってくれないと困る。
  脱走兵たちにある程度のコミュニティというかネットワークはあるはずだ、現NCR兵が大量に徘徊するであろうモハビだ、そのようなネットワークとかがあるから生き延びれるのだろう。
  ラットは大丈夫だろう。
  ブライト教とかいう連中と合流するのであれば、レーザーマシンガンなんか持っている団体だ、はぐれ教徒じゃない限りはラムサスは手も出せまい。
  「なあヒューマン、じゃなかった、ミスティ」
  「何?」
  「そいつらも殺していいか?」
  「ふむ」
  ライラたちだ。
  怯えた顔をするライラたち、それもそうだろ、9人がかりで持久戦しようとしていたラットだ、正確にはそれだけ厄介だったレーザーマシンガンだ。
  脱走兵4名とはいえ勝てるとは思えない。
  「ミ、ミスティ、その、私らはあんたに悪いことはしたわ。それは認める。だけど、お互いに生き残る為とはいえ共闘……」
  「言わなくていいわライラ。私はあなたに悪意はない。市民税分働いて」
  「どういうこと?」
  「逃げて」
  「はっ?」
  「逃げて。あなたたちが生き残れば生き残るだけ、ラムサスの報復対象はあなたたちになる確率が高い。あいつにどれだけのことが出来るかは知らないし、そこまでしつこいかは知らないけど」
  「ちょ、ちょっと待って、それって私らが囮ってことっ!」
  「そうとも言う。だけど現状ラムサスはここにはいないし、どうしようもないのが現状。ここにいたらラットに殺されるのよ、選択はお互いにないでしょう?」
  「……」
  「ライラ、ラットに対してもそうだけど、私はあなたたちに対しても淑女として対応してる。それを分かってくれると嬉しいな」
  「……確かに、確かに撃たれてても文句は言えないよね、あいつらの仲間だったわけだし」
  「ラット、お願い、聞き分けて。彼女らは生かしておいた方が、得よ」
  グールのを目を見る。
  サニーはどちらかというとラットに近いものがあるかな、復讐とかじゃなくて、生かしておいたら面倒だという考え。
  間違いではない。
  間違いではないけど、死なれても面倒なのだ。
  ラムサスが死ぬまではライラたちに固執して貰わないと困る。
  「ラット」
  「分かったよ。あんたには助けられた。それに俺は生きてる、ここに追い込まれただけで仲間がやられたわけでもない。こいつらに腹は立っているが、ここは聞き分けよく引いておくよ」
  「ありがとう」
  「いいさ。俺もあんたに助けられたわけだしな。運が良かったな、脱走兵ども」
  「というわけでライラ、さっさと行って。そこの死体から剥げるものはお好きにどうぞ。NCR製の正式装備、売れるのかもしれないけど、余計な厄介になりそうだから私はいらない。サニーは?」
  「いらないわよ、私も」
  「俺もいらんな」
  これからライラたちは逃げ続けるだろう。
  NCRから、復讐する気があるならラムサスからも。だが私の知ったことではない、自分たちで選択したことだ。選択には必ず責任がついてくる。どれだけ逃げても逃げれない場合がある。
  「あのさ、ミスティ」
  「何、ライラ」
  「あなたには感謝してる。その、落ち着いたらまた会えたらなって思う」
  「そうね」
  嫌いではないけど。
  「そろそろ行くけどラムサスが前に言ってたことを思い出したんだよ。確かプリムで酔った時だったと思った。名前なのか、組織なのか、何か意味がある単語なのか、仕切りにそれを口にしてた。
  私らも酔ってたから何の話だったかはよく分からないんだけど、不意にそれを思い出したんだ」
  「ふぅん。何て言ってたの?」
  「エデン」



  グッドスプリングス。
  私たちはライラたちと別れ、ラットとも別れてプロスペクター・サルーンに戻ってきた。
  ヘクトルはカウンター席でトルーディと何か話していた。
  「ただいま」
  私がそう言うとヘクトルがこちらを向く。
  何か言いかけて、それからサニーが持っているダッフルバックを見て、察したようだ。
  感情を殺して事務的に言った。
  「ご苦労様でした。報酬の件に移ります。基本報酬100、それと安否確認と荷物の回収で200、1人当たり300キャップです。よろしいですか?」
  「構わないよ」
  えっ?
  えっ?
  えっ?
  最初に提示されたのは1人当たりの報酬だったのか、2人で分けろだと思ってた。
  結構良い報酬だ。
  助けれなかったのは残念だけど、あれはどうしようもなかった。
  時間的に手遅れだった。
  「私もそれでいいです」
  「このたびはキャシディキャラバンにご協力いただきありがとうございました」
  悪魔のノドの一件。
  グッドスプリングスの洞窟での一件。
  全て本日の出来事。
  働き過ぎですね。
  「サニー」
  「ん?」
  「チェットの雑貨屋で荷車借りてきて。私それに乗って帰る。荷車引いてくれたら5キャップ払うわ。足が笑ってる、大爆笑してる、もう歩けない」
  「這って帰れ」
  「……」
  サニーってたまに冷たい。
  うー。






  その頃。
  グッドスプリングス近くに野営しているパウダーギャングのテントの1つ。
  「サニースマイルズ、こいつが一番の難敵、か」
  「兄貴、ジョー・コップから早くしてろとせっついてきてますけど」
  「分かってる」
  「俺らが厄介な奴ら殺して、街に火を放つ、それが攻撃の合図なわけですから……」
  「分かっていると言ってるだろ、ロス。でアルバ、お前の意見って? 何か話があるんだろ、何だ?」
  「ボルトの女がいるんでさ、兄貴」
  「ボルト、ああ、あいつか。あのおっぱいか。それが?」