そして天使は舞い降りた
企業の理由
巨大企業は儲かる算段を付けた。
ただし問題もある。
そこには彼女がいた。
愛と勇気と友情により私は、私を誘拐したカルロたちパウダーギャングの先発隊を拘束。
ガソリンスタンドに閉じ込めた。
治療済み。
武装を取り上げ、全員を縛り上げ、その上でマシューと街の住人3名がそこに詰めている。逃げれるわけがない。
そして私はプロスペクター・サルーンにて会談を始める。
議題、パウダーギャングに対して。
総攻撃は3日後。
そして……。
プロスペクター・サルーン内。
「申し訳ないっ!」
そう深々と頭を下げたのは、リンゴだった。
後ろに屈強の男がいる。
レザーアーマーに身を包み、腰には手斧と10oサブマシンガン、背中にはコンバットショットガン。ショットガンの弾帯を肩から下げている屈強の男。
長くボサボサな黒髪。
蛮族っぽいな。
今回の会合でここにいるのは私、サニー、トルーディ、そして珍しくピートが中でお酒を飲み、保安官ランディ。
街の有力者で発言力のあるミッチェルさんとチェットはここにはいない。
さて。
会合スタートです。
「どうも、ミスティです。逃げたものだとばかり」
「確かに、確かに会社からはそう言われた。だがそれでは不義理になってしまう、だから俺は傭兵を雇ってここに来たんだ」
「ふぅん」
「お初にお目に掛かる。鉄の男と異名を取る、アパッチだ」
「よろしく」
傭兵か、彼。
そういえばパウダーギャング対策にトルーディも傭兵を雇ったとかミッチェルさんが言ってたけど、それは本当なのかな。
「トルーディ、あなたも傭兵雇ったって聞いたけど」
「ええ。誰に聞いたかは知らないけど、確かに雇ったわ。隼のフェイって人。残念ながらまだ来てないし、今回の襲撃計画とは無縁の絡みで雇ったのよ、だから間に合うかどうか」
「ああ」
牽制用に雇ったのか。
パウダーギャングとの戦いに間に合うといいけど。
頭数は大切だ。
とりあえず私も座る。サニーも座った。
「何か飲む?」
「じゃあ、お酒……」
「駄目っ!」
マジ怒られた。
トルーディ、私が飲んじゃ駄目な人間と断定した模様。
「オレンジジュース」
「それでいいの。それで、サニーはどうする?」
「スコッチ」
「はいよ」
出された飲み物を飲む。
これ、奢りかな?
「んー」
冷たくておいしい。
何気に誘拐されて貞操の危機だったり、バッドエンド行き寸前だったりと、何気に厄介なイベント回避の為に働いていた私。
疲れてます。
さて。
「それでー、誰から話す?」
促す私。
私が得た情報は大体のことは伝わってる、要はパウダーギャングが攻めてくる。
まずはリンゴから聞こうか。
「リンゴ、話してくれる?」
「はい」
何かいびきが聞こえるな。
見たらピートがカウンターに突っ伏して寝てた。
まあ、いいか。
「では経緯を話します」
「よろしく」
「まず、うちの会社について。その、モハビ支部の支社長からの命令は、グッドスプリングスの内情を教えろというものでした。その後ここを離れろと。パウダーギャングには話を通してあると」
「ああ」
そういうことか。
それでサニーが一番厄介だとパウダーギャングは言ってたのか。
最初はギャングどものリサーチの結果かと思ったけど、リンゴがその情報を流していたのか。
だとしたら納得できる。
連中は私のことを知らなかった。
少なくともリンゴの危険人物評に私は入ってなかった、そりゃそうだ、私は彼を一度も見たことがないんだから。今回以前にもリンゴはキャラバン隊の行き先をわざわざ曲げてまでここに来てい
たとトルーディは言ってた、サニーを知っているのはその為だ。サニーが厄介だと評価して教えたのは、おそらくギャングどもも街を徘徊していたからだろう。
全くのデタラメを教えても、ギャングはギャングである程度はグッドスプリングスの人物評がある。
つまり、下手にデタラメを言うと何らかの面倒が怒ると考えたのかな。
だけどご愁傷さま。
リンゴにしてもパウダーギャングにしても、新参者の私のことは知らなかった。
私、馬鹿力ですのよ?
持久力ないのがタマに傷だけど、戦力としてはそれなりになると思う。
「教えた後、俺はここを離れました」
「僕は保安官のランディです。質問があります、クリムゾンキャラバンの目的は何なんですか?」
「交易路の確保だ」
やっぱりか。
ギャングを飼い慣らして、交易の安全を得ようとしているのか。他にもうまいギャングの使い方を考えているのかもしれない。
これ敵はパウダーギャングだけど裏には大企業がいるって寸法か。
「ふん、聞いてたら虫唾が走るわよ、まったく」
サニー、お怒りのご様子。
忌々しそうに酒を飲む。
そりゃそうか。
名指しで暗殺指令出されているわけだから。
「落ち着いて、サニー」
「落ち着けって?」
「ギャングのことだけ考えましょう」
そう。
私らが相手するのはパウダーギャングであって、背後にいるクリムゾンはあくまでパウダーギャングの一件を利用しているに過ぎない。
この一件が片付けばこの辺りに対しての興味なんてなくなる。
聞く限りではパウダーギャングのボスはクリムゾンの支社にいるとか。
どう転んでも得するように動いてるな、企業。
結局のところ田舎ギャングは走狗に過ぎない、どう追及したところで田舎ギャングを切り捨てる。
それだけだ。
NCRが介入してこようと、私らがここで勝とうと、知らぬ存ぜぬで通すだろう。
証拠なんて何もないんだから。
告発?
意味ないでしょ。
そういう意味ではカルロたちがパウダーギャングから脱しようとしたのは、いや、正確には切り捨てようとしたのは正しい。
私ら勝てばエディーって奴は拘束されてNCRに引き渡されるだけだ。
表彰されるかもね、ギャングのボスを策を弄して捕らえた優良企業ってさ。
トルーディが心配そうに言った。
「リンゴは、この件に対して……」
「最後まで付き合います。責任ですから、俺の。嫌な顔せずに扉を開いて匿ってくれたトルーディを裏切れませんよ」
人助けはするものね。
リンゴの戦闘能力はともかく、鉄の男アパッチは強そうだ。
今度は私に話を振るトルーディ。
「ミスティ、あなたはここに来てまだ間もない。でもサニーに聞く限り、雑貨屋での一件を聞く限りでは相当強い。手を、貸してくれる?」
「ここを故郷にしたいんです。だから、当然です」
「あなたは良い人ね。お酒飲んだら脱ぎたがるのはいただけないけど」
「えっ? 脱いでませんよ?」
「でもそわそわしてたわ、この間詐欺師といる時。駄目よ、それは治さなきゃ」
「……善処します」
露出魔という称号を頂きました。
私にぴったりじゃん☆
あっはー☆
……。
……違うんです、私は暑がりなだけなんです。
この街は好きなんだけどモハビ・ウェイストランドの気候はどうも私には合わないようだ。
そうなると、私はモハビの出ではないのか?
可能性はあるな。
「ランディ、さっき尋問した結果はどうだったの? 相手の数は?」
「32人だそうです」
「32人。トルーディ、迎え撃つってことで、良いのよね?」
「ええ」
彼女は肩を竦め、それから首を横に振った。
「話し合いたいのは山々だけどクリムゾンのお墨付き貰ったギャングどもは私たちを皆殺しにするでしょうね。勝手に企業がこの街を自分たちの財産扱いするのは、正直腹が立つわ」
「まったくだ」
同調したのはサニー。
戦闘、ね。
「それでトルーディ、その場合どれだけの人が戦えるの?」
私、サニー、リンゴの雇った鉄の男アパッチさん、ランディも保安官として戦うのかな。マシューもか?
こちらの数が分からない。
「他の街の人は戦ってくれるの?」
「年配の人が多いし、若い人は少ない。若くても必ずしも戦ってくれるってわけじゃない。10人ぐらいかしら」
「10人、私ら入れても20人にも届かないわね」
「僕は保安官です、戦います。だからミスティさん、当てにしてくださいね」
「ええ。楽させてもらうわ、ランディ」
「マシューにも話しておきます」
「町長の私も数に入れてくれてる? これでもライフルの扱いは上手いのよ」
「トルーディも?」
「数では負けてるけどここは私たちのホームで、パウダーギャングからしたらアウェイ、どうせ連中は近くにいるんでしょう? 地元民の私たちの方が有利よ」
確かに。
確かにそれはあると思う。
パウダーギャングはこっちを完全に舐めてる、カルロたちはこっちに転んだわけではないけど、本隊から隔離した。
「サニー、何か案はある?」
「案か。確かチェットがこの間取引で街を離れた際に新しいレザーアーマーを手に入れたとか言ってた。ミスティ、非常事態と言ってあなたがそれを借りて着たらどう?」
「私が?」
「ボルトスーツじゃ防御力なんてないでしょ」
「まあ、確かに」
ボルトスーツ。
汚れにくく、意外にも丈夫だったりする。
だけど防御力は皆無。
そもそも戦いを想定した代物ではない。
レザーアーマーかぁ。
ナイフやゲッコーとかなら充分なんだろうけど、田舎ギャングとはいえ連中は銃を持ってる。数は少ないけど。レザーアーマーじゃ銃弾は防げない。
アーマーの裏側に金属でも仕込んでカスタマイズすれば豆鉄砲ぐらいなら対処できる……いや、私は体力ない。
下手に防具着たらバテる。
そして話が戻るけど、レザーアーマーは銃相手にはあまり意味がない。
そうなると着ない方がいいなぁ。
「ふわぁぁぁぁぁ」
欠伸。
ピートが起きたらしい。
「やあ、紳士淑女の諸君、おはようっ!」
「おはよう」
「ミスティ、話はまとまったのかい? 何の話かは忘れたが、ドンパチとかドカーンとやるんだろ?」
「分かり易い。そう、それ」
「昔採掘していた時の必須品が俺の家に大量にあるんだ。俺はこの歳だし戦えん。だからそいつを皆に提供するとしよう」
「大量に?」
何の話だろ。
「大量に、何があるの?」
「ダイナマイトさ」
「それって、どのくらい?」
「そうさなぁ。100本はあるんじゃないかな。ちゃんと保管してるから充分使えるぞ」
「100本って、すご」
もしかしてパウダーギャングより在庫多くないか?
人数で負けてる私らとしてはこれは大変嬉しいギフトだ。人数では負けてるけど、ここは地元、大量にダイナマイトもある、作戦の立て方次第で数の差は関係なくなる。
まとめて吹き飛ばせるダイナマイトの威力はとても心強い。
「じゃ、ミスティ、行って来なよ」
「どこへよ? サニー」
「雑貨屋」
「雑貨屋ねぇ」
武装を何とかして来いってことだろう。
私としては防具よりも銃火器を何とかしたいんだけどな、バージョンアップしたい。
とりあえずはサニーの勧めに従うとしよう。
「行って来ます」
雑貨屋へ。
「そろそろ来る頃だと思ったよ」
「どうも」
埃っぽい雑貨屋に入る。
チェットはカウンターで暇そうに肩肘を付いて私を見ている。
「それで? 正義の味方は俺からどんなものを接収するって腹だい?」
ああ。
大体の察しは付けてたのか。
当然彼もパウダーギャングの件は知ってる、知らせてはある、その上でプロスペクター・サルーンに来なかっただけだ。ピートがどういう基準で街の有力者なのかは分からないけど、チェットの場合は
唯一の雑貨屋の経営者で、彼がいなければ日常品も弾丸も手に入らない。なので彼が街の有力者なのは私も理解できる。
「レザーアーマーを入荷したって聞いた」
「パウダーギャングが来るからいたいけで善良な俺から奪おうってことだな。話は分かった、とっとと帰れ」
「違う違う。欲しければ買う」
「ほう?」
「ちょっと手に取らせてほしいのよ。重みを知りたい」
「ああ、虚弱体質だったな、お前」
くくくと笑ってチェットはカウンターにレザーアーマーを置いた。色は黒だ。全部この色なのか、それとも別の色があるのか、まあどっちでもいいか。
手に取ってみる。
「ふぅん」
それなりには重いな。
動きに制限はないだろうけど、まあ、それでも柔軟な動きは出来ないか。
「で?」
「やめとく。ありがとう」
返す。
買えないわけではない、今は結構持ってる。買わないのは特に買うメリットがないからだ。
銃撃戦向きではないな。
「リペア用にレザーアーマーの部位が幾つかあるぞ。そいつならどうだ? 買うか?」
「部位か」
それはそれでありだろう、部分装備。
だけど今のところ必要性は感じられない。
「チェット、そういえば靴ってある?」
「靴、ああ」
2つ靴をカウンターに並べる。
ランニングシューズに、黒いレザーブーツ。
「その黒いのは幾ら?」
「8キャップだ」
「買うわ」
「まいど」
黒いレザーブーツ購入。8キャップ。
防御力を期待しているわけではなく、こういう靴なら動きやすいなと思っての購入。
何だかんだで私の体力は低い。
メタルアーマーとかコンバットアーマーなんて着れない、それがパーツばら売りの購入して部分装備するにしてもだ。
もっとも、そんな高級装備はないみたいだけど。
「他には何か欲しいか?」
「うーん」
サニーのようにレザーアーマー着るのもなぁ。
今のところ私の持ち味は俊敏性だ。レザーアーマーなら着ても重みで死ぬってことはないだろうけど、柔軟な動きは削がれる。そして繰り返すけど銃相手の防御は期待出来ない。
「おい、幾ら持ってる?」
「さあ。最近計算してないけど500はある」
悪魔のノドの件。
キャシディキャラバンの依頼。
たんまり稼がせてもらいました。
「300出すなら良いの売ってやる」
「300」
結構な値段だな。
そう言ってチェットが取り出したのは……。
「革ジャン?」
「ああ。イカすだろ」
受け取って、手触りを確かめる。
使い込まれてるな。
これで300?
ビンテージモノとかいうやつか?
あっ。
裏地に防弾チョッキ仕込まれているのか、豆鉄砲ぐらいなら何とかなりそうだな。
「丈夫な作りでな、ある程度は防刃も可能だ」
「ふぅん」
レザーアーマーよりは軽いか、普段はチャック閉めなければ通気性も良いし。
元々なのかチェットが改良したのか、防弾チョッキのお陰でレザーアーマーよりは防御力はあるし、体力のない私でも手頃な品ではある。
たぶんこの店で最高の代物だろう。
それ以上を望むのであればプリムって街に足を延ばすしかないか。
ただ……。
「高くない?」
「ああ?」
喧嘩腰の店長ってどうよ?
柄悪いなぁ。
「あんた、目は確かか? 背中の絵を見てみろ」
「見た」
蛇が描かれている。
だから、何だ?
怪訝そうな顔をチェットはしていたが、それから不意に合点が行ったようにニヤリと笑った。
怒ったりほくそ笑んだり忙しい人だ。
「ああ、そうだったな、お前さんは記憶がなかったな」
「そうだけど」
「記憶喪失者っぽくないからついつい忘れちまうよ」
それについては自覚がある。
世間的に見て私は記憶喪失者っぽくないと思う。
過去に何の執着もない。
不安にもならないし、別に思い出そうという意思もない。
特殊なのかねぇ。
「ミスティ、覚えておけよ。そいつはな、キャピタル・ウェイスランドで最高にクールでホットなギャング団の革ジャンなんだよ。この間の取引で手に入れた品だ。誰もが欲しがる品だぞ、喜べよ」
「へー」
と言うしかない。
さっぱり分からない。
「それを、売ってくれるの?」
看板商品な気もするけど。
あっさり手放そうって腹は何なんだろ。
「知ってるか?」
「何を?」
「ここはツケが出来ないんだ」
「それは知ってるし、ちゃんとキャップで買うけど……それが、何?」
「つまりだな、街の連中はツケでは買わないし、俺もそうさせない。だがパウダーギャングがちゃんとお行儀よく金払うと思うか? 請求した結果、笑顔でダイナマイトを店に投げ込まれても困るんだよ」
「ああ、なるほど」
要は彼にしてもパウダーギャングに占領されると困るんだ。
商魂逞しい彼なら連中相手でもひるまないとも思ったけど、現実問題として暴力で訴えられたら勝ち目がないか。
何しろ住民皆殺しにしてここに住もうって連中だ。
良識なんてあるわけもない。
「で、どうする? 買うのか? 買わないのか?」
「買う」
「良い判断だ。……ふっ」
「……?」
何故笑う?
勝ち誇った顔をチェットはした。
「どうしたの?」
「お前は300払う」
「えーっと、うん、そうね、それがどうしたの?」
「つまり俺は一日の売り上げでお前に勝ったってわけだ。何しろ俺は商売の天才だからな。教えてやろうか、商売のコツ?」
「……」
この間私に一日の売り上げで最高記録を抜かれたから根に持ってたのか?
子供っぽいというか、餓鬼だろ、こいつ。
私はお金を払い、革ジャンを羽織り、ついでに靴も履き替えた。
やべぇ。
今の私超格好良いな。
「ああ、忘れてたよミスティ、ほらよ、頼まれていた品だ。色はそれでいいんだよな? 俺にはさっぱり分からん、言われたとおりに取り寄せただけだ。取り寄せ料込みで30キャップだ」
「どうも」
モノを受け取って支払う。
さて。
「プロスペクター・サルーンに戻ろうかな」
「ただいまー」
プロスペクター・サルーンに戻る。
作戦を詰めていたようだけど、私が戻ると一同こちらを見た。
チェットはこれは誰もが欲しがる、と言っていたな。
ポーズを決めながら背中のマークを見せる。
ふふん。
イカした蛇のマークに酔いしれろっ!
「あの、ミスティさん、何してるんですか?」
「……何でもないです」
全然羨ましがられないじゃないですかチェットさんよぉーっ!
ちっ。
パウダーギャングを誘導してあいつの店をダイナマイトで吹っ飛ばしてやろうか。
「ほら、さっさと座んな」
「はいはい」
サニーに促されて椅子に座る。
「どこまで進んだの?」
誰に言うでもなく私は呟いた。
作戦は大切だ。
地の利はこちらにあるし、パウダーギャングがグッドスプリングスに押し寄せてくるのは事前に察知している、だから対応が出来る。
勝てるかと言われれば勝てる、かな。
問題なのは死傷者だ。
「さっき先生が来てたのよ」
「ミッチェルさんが?」
「ええ」
ふぅん。
入れ違いか。
「何しに来たの、トルーディ」
「戦いは不本意だけど医療品は回すって。先生は争いごと好きじゃないから不干渉かと思ったけど、医療品はありがたいことだわ」
「そっかぁ」
医療品の有無は大切だ。
ミッチェルさんは平和主義者なのかな。
「それでサニー、作戦は?」
「ランディが引き出した情報によるとパウダーギャングは決行の日、つまりは3日後までは野営地がばらけてるらしい」
「3日後まで、ね?」
「さすがってところね、ミスティ。頭の回転が速い」
「襲撃の日にどこかに集結するのね。それどこ?」
「井戸よ。井戸のどこか」
「井戸?」
何だってそんな場所に?
まあ、井戸は分類上はグッドスプリングスではあるけれど、街からは離れているし、そんなところに大勢集まっても街からは分からない。夜間に集結なら尚更だ。
リンゴが口を開く。
「そこで揉めているんだ、3日後に一網打尽にするのか、分散している間に各個撃破にするのか。あんたは、どう思う?」
「一網打尽」
即答した。
3日すればまた状況が変わるだろうけど、各個撃破したところで最終的には押し切られてしまうと私は思っている。
こちらの戦える数は20名もいない。
幾つ野営地があるかは知らないけど、少ない戦力をさらに分散しても意味がない。
その旨を私は言った。
不服そうにサニーは反論した。
「あんたさっきは奇襲だって言ったじゃないか」
「分散してるとは思ってなかったのよ」
一塊になっていないのであれば難しいと思った。
状況に応じて策は変える必要がある。
「アパッチさんはどう思います?」
「俺は傭兵だ。戦えと言われれば戦う。口出しはしない」
「そう、ですか。ピート……は酔い潰れてる」
ダイナマイト提供者ではあるけど、何しに来たんだこの人は。
お爺ちゃんはスヤスヤ。
「あの、ミスティさん、ここは無難な策を取って分散せずに各個撃破したらどうですか? それなら……」
「ここにいるのが全員暗殺者ならそれもいいかもね。音もなく殺していく、実にエキサイティングっ! でも実際それ出来ると思う? 必ずドンパチする、結果別の場所の連中はどうすると思う?」
「僕たちを、包囲する?」
「それもある。一番厄介なのは街に乱入すること。戦力全部出してるのに、街に突入されたら止めようがない。それじゃあ意味がない」
「ご高説はありがたいんだけどね、ミスティ。一網打尽って言ったって数は向こうの方が多い。30人はいるんだ、どう戦うのさ? 奇襲するにも策は必要だ、勇気だけじゃどうにもならないんだよ?」
「そこが人間の知恵の見せ所ってね」
微笑した。
カルロに確かめる必要があるけど、おそらく襲撃は夜だ。
夜間に井戸に集結して、それから攻めてくる。
日中?
日中はないだろ。
そんな時間に井戸の近くに展開してたらさすがに誰かが気付く、サニーや私が巡回もしてるし。
3日間の猶予の間に他のギャングどもが来るってことは多分ないだろ。
頻繁に繋ぎつけてたらカルロたちの行動が露見するかもしれないからだ、仮に来たにしてもカルロたちは手引という大仕事が待っている。連絡要員が街に入り込んでもカルロたちは決行直前まで
街のどこかに潜んでいるらしく会えませんでした的な流れになるだろう。いや、少なくともなる可能性がある。さすがにその辺りはこちらで手の加えようがない。運が絡む要素ではある。
ともかくだ。
「各個撃破する余裕はこっちにはない、一網打尽にして終わらせましょう」
策はある。
策が必ず成るってわけではないけど、この策なら一方的に勝てる。
危険な、囮役が必要ではあるけれど。
「トルーディ、私に策がある」
「あなたがどこの誰だか知らないけど」
そこで一度言葉を区切り、それから言葉を続けた。
「ここまでの討論であなたは場慣れしているのが分かった。言っていることは頓珍漢なことではなかった、と思うわ。話し合いは必要だけど、雛形はあなたが出して。そこから詰めていきましょう」
「場慣れ」
私は苦笑する。
ミスティという存在の前の私は真紅の幻影とかいう運び屋だったらしいけど、一体何者なんだろ。
原型だった人は何者?
「サニー、何かある?」
「ないよ。あんたに任せるよ」
「じゃあみんなで気合入れる為に鬨の声しよう。じゃあ、せーの」
私が音頭を取る。
こうなったら突っ走るだけだ、後には引けないし、こちらが優勢なんだ。
正義は我らにありっ!
「パウダーギャングをぶっ飛ばせっ! おーっ!」
『……』
「声が出てないぞっ! おーっ!」
『……おー……』
勝利条件パウダーギャングの殲滅。
ターン制限。3ターン以内。
ミッション、スタートっ!