そして天使は舞い降りた







知識の探究者






  生きるには知識が必要。





  「へぇ。なるほどっ!」
  プロスペクター・サルーンで私はグラスワインを両手で持って飲みつつ、ビリヤードを興じている男性の話を聞いていた。
  ゲッコー退治から一日後だ。
  バートン・ソーンの件はこの街の町長であるトルーディには報告済み。
  さっき報告した。
  そしたら客のいない酒場で彼がビリーヤードを興じていた。
  誰って?
  歴戦の、冒険者だ。
  「それで、それからどうしたんですか?」
  「まあ、待てって」
  額まで後退した髪型、サングラスをした男はビリヤードのキューをボールに照準を合わせながら口元に人差し指を当てた。
  さすが。
  さすがは、歴戦の冒険者だ。
  ボルトの青いジャンプスーツを着て、腕にはPIPBOYという携帯型端末機をしている。
  スーツのナンバリングは22。
  彼はこの店に喉の渇き潤す為に現れ、そして私がやって来たってわけだ。
  向こうから知識の教授を申し出てくれた。
  私をひよっこと見抜き、教えを与えてくださる、良い人ですな。
  いやぁ。
  タメになるなぁ。
  「お嬢さん、俺の仕事を知りたいか?」
  「運び屋?」
  
  カッ。

  ビリヤードのキューでボールを弾く。
  さすがっ!
  さすがは歴戦の冒険者だ。
  ルールは知らないけどボールを床に落とすのは高得点なのだろう。
  「運び屋だって?」
  イゴール曰くエリートらしい。
  彼には相応しい。
  しかし男は首を横に振った。
  「そんなちゃっちなもんじゃない。いいか、俺はな、やりたいようにやる屋だ」
  胸がときめく笑顔。
  いや、まあ、実際にはときめきも何もないけど、多分記憶を失わずに現実世界を知っていたら胸キュンしてしまう笑顔なのだろう。
  ……。
  ……自信ないけど。
  「俺は唯一無二の男。あちこち旅して色々なことをやったぞ。あらゆることをっ!」
  「おおっ!」
  「そんでもって殺しに関しちゃ、俺はさながら死のハリケーンってとこだっ!」
  「ハリケーンって何ですか?」
  「それは、いいんだ、気にするな」
  「はあ」
  「リッキーに逆らう愚か者は男だろうが女だろうが目ん玉の間をズキューンっ! ……あっ、俺の名前はリッキーね、よろしくね」
  「ミスティです、どうも」
  段々と興に乗って来たのか、男は、リッキーは口調が興奮してくる。
  私もそれに応える必要があるだろう。
  ワイングラスを両手で持って一口。
  ああ。
  酔いますわぁ。
  「目ん玉の間を撃ち抜くのが得意過ぎて、正直なところそれが俺の仇名でね。ズキュンと撃ち抜くデッドアイ・リッキー……すげぇだろっ!」
  「素敵、抱かれたい。ハァン」
  酔いで顔が上気してくる。
  私、お酒に弱いのか。
  とりあえずヨイショしておく。
  情報源として役に立つんだ、それぐらいはしなきゃね。情報はそれを活用できないにしても、知識にはなる。はっきり言ってリッキーの冒険譚は高度過ぎて私にはよく分からないが、冒険のプロの
  話をいきなり噛み砕けるわけもない。とりあえずはよく聞き、覚え、自分の血肉にすることを頑張ろう。
  抱かれたい云々?
  ヨイショです。
  ヨイショ。
  気持ちよく話して貰う為の、ヨイショ。
  彼ほどの冒険者ならそれを見抜きつつも、あえてヨイショに乗ってくれるだろう。
  実際、彼は相好を崩した。
  「ふふふ、どう思う? 俺は目ん玉の真ん中を撃ち抜けるのさ。ズキューンってっ! すげぇだろっ! ……そこでだ。今夜お前さんをズキューンと撃ち抜きたいんだが、どうだい?」
  つまり?
  つまり実戦講習ってこと?
  「実戦を教えてくれるんですか?」
  「ああ。ズキューンってな、昇天させてやるぜ?」
  「是非とも。アッハァーン」
  駄目だ。
  ちょっと酔ってきたな、顔が熱い、目が潤んできた。
  リッキーは生唾を飲んだ。
  そしておっぱいを見てる。
  何故に?
  うー、ヨイショって疲れるな。
  しかし撃ち抜くとか言ってたよな、今、考えてみたら撃ち抜かれるのは勘弁したい。
  頭撃ち抜かれて死んだばっかだし。
  「あの。ウッフーン」
  「な、何だ? ベッド行くのか? 今すぐ行きたいのか?」
  「いえ、そうではなく」
  「じゃあ艶めかしい顔と声やめろ、それとさりげなくおっぱい強調するなっ! 猛々しいバラモンが俺の体を今この瞬間にも飛び出しそうなんだよ、クソ女っ!」
  「はあ、どうも」
  何か急に切れたな。
  よく分からん。
  「それで、何だ」
  「その服」
  「ああ、よく見抜いたなイーグルアイっ! もちろんこいつはValtスーツとPitboyだ。それがどうした?」
  「ボルトスーツ、あれ?」
  「おいおいお前はどこの田舎ヴァルト出身だ? こいつはヴァルトスーツだ、覚えとけ。世間知らずは罪だぜ? そんなんじゃそこらのギャングに殺されちまうぜ?」
  「はあ、すいません」
  ミッチェルさん発音違うのか。ボルトだと思ってた、ヴァルトね。
  後で教えてあげよう。
  「俺はヴァルト22で育ったんだ。昔はお前みたく世間知らずだった、だから特別にお前にいろいろと教えてやってるんだぜ」
  「ありがとうございます」
  深々と私は頭を下げる。
  「それで?」
  「はい?」
  「その、今夜俺とどうだい? お前みたいな良い女と寝れるなんて滅多にない……じゃなかった、色々と教えてやりたいからな」
  「教えてください。ァーン」

  「すいませんけどお代はどちらが?」

  「あ、ああ、今日は頼む。お前に任せた。じゃあなっ!」
  リッキーは突然現れたトルーディを見て我を忘れたようにそのまま逃げだした。
  店内からいなくなる。
  残念。
  色々と教えてもらいたかった。
  「ミスティ」
  「ああ、うん、払うよ。幾ら?」
  「32キャップ」
  「えっと、はい」
  手渡す。
  サニーが巡回のお給金を自分の取り分も取らずにそのまま私に回してくれたし、雑貨屋でのバイト代、昨日の岩山でゲットしたキャップもある。
  払えるだけは持ってる。
  贅沢する余裕はないけど、今回は良い勉強代だったと思います。
  知識って大切。
  「ミスティ」
  「なぁに?トローン」
  頬杖をし、酔いで知らず知らずに頭を下がっていく。
  自然上目遣いでトルーディを見る形になる。
  「ミスティ」
  「はい。ウッフーン」
  「私を誘ってる? そういう趣味はないけど、少しキュンとするんだけど」
  「えっ? はっ? トルーディ、大丈夫?」
  「それはそのままあなたに返すわよ。意識してるならやめなさい。意識してないなら色々と学んで大人になりなさい。あなた、あいつにお持ち帰りされそうだったのよ? 貞操観念はある?」
  「あるに決まってるでしょ。私は恋愛結婚したいなぁ。ハァハァ。アーン」
  「……」
  「何?」
  「あなた、酔うとかなりエロい。やめなさい、その表情と仕草。バーベキューソース塗ってオオカミの巣穴に飛び込む羊のようなものよ、さっきのあなた。私が止めに来たからよかったものを」
  「えっと……」
  つまり?
  つまりは……。
  「あの、私もしかしてあいつに、その、玩具にされそうだった?」
  「ズキューンとね」
  「……」
  ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ顔から火が出るーっ!
  9oピストルを引き抜き彼女に渡した。
  「何よ、これ」
  「頭を撃ち抜いてズキューンとっ!」
  「あのね」
  「死んだらミッチェルさんに治してもらって、それからDr.ミンチに電撃ビリビリで心臓動かしついでに記憶消してもらいますっ!」
  「帰りなさい、今すぐにっ! 酔い冷めるまで家から出ちゃダメっ!」
  「は、はいーっ!」
  「自覚したら自覚したで悪女の才能ありそうで、なかなか難儀ね。何というエロい顔してるのよ、あなたは」
  「それ、私の所為でしょうか?」
  「ランディに会ったら顔隠して家に急ぐのよ。彼はあなたにお熱なんだから。まったく!」
  何か怒られた。
  世界って理不尽だ。



  「うっぷ」
  太陽が黄色い。
  プロスペクター・サルーンを出た時、まだ太陽は高かった。
  それはそうだろ。
  そもそもはバートン・ソーンの件でトルーディに話に朝一で来ただけだ。
  今日も暑いなぁ。
  ジャンプスーツのチャックを下に下げたい衝動に駆られる。
  ……。
  ……駄目だ。
  今の私はトルーディ曰くエロい顔らしい。そう言われてもどんな顔しているかはピンと来ないけど、そんな顔でチャックを下げようものなら18禁小説に鞍替えしなくてはならない。
  「何だ、お早いお帰りだな、ミスティ」
  「まあね」
  相変わらず店の前の椅子に座っているピートは、酒瓶を口に当ててグイグイと飲み干す。
  お酒に強いようだ。
  この場合はどっちがいいんだろうなぁ。お酒に弱くて安上がりにするか、お酒強くてガンガン飲まなければならない酔わないから必然的に酒量も価格も跳ね上がるか。
  どっちが正解なんだろうなぁ。
  「何か男が逃げ出しが何かあったのか?」
  「大丈夫」
  何で逃げたんだろ。
  トルーディ曰く、ミスティは騙されて酒代を巻き上げられた、らしい。
  そうなのか?
  彼から得た情報の真偽はどう判断したらいい?
  うーん。
  「ミスティ、仕事はどうなんだ? 儲かってるか?」
  「ボチボチですね」
  持ち歩いてはいないけど、岩山で死んでたスカベンジャーの10oピストルと100発の弾丸は診療所に宛がわれた部屋に置いてある。
  売ろうかとは思った、
  ただ、9oピストルしかないし、一応予備として温存しておこうかと。
  必要になれば換金してもいいし。
  結構な値段で売れそうだ、弾丸も多いし。
  換金アイテムとしてキープ中。
  携帯食料は全部イリットにあげた。初任給で奢ったわけではないけど、まあ、私の仕事の成果だ、それを全てイリットに譲渡することで食費を助けようってわけです。
  あとどれだけ滞在できるんだろ、あそこに。
  早急に対処を考えないとな。
  「何か稼ぎ口ありません?」
  私は出来る女。
  何でも出来る。
  ただ元手がないから、天才的な商売のセンスがあってもチェットの雑貨屋には太刀打ちできない。店作るお金がないからだ。
  サニーみたく狩りすればいいやとも思ったけど、狩りは腰を据えて稼ぐ代物だ。
  生活の基盤がないままでは根無し草みたいなものだ。
  何か仕事ないかな。
  何か……。
  「悪魔のノドには行ったかい?」
  「ううん、まだ」
  初級者向けの採掘場。
  巨大な縦穴に廃棄されたトラックがあるとか何とか。
  お宝はないだろう。
  だけどお小遣い稼ぎぐらいにはなると思う。
  荷車借りるか何かして今度行くとしよう。
  「Dr.ミンチにはもう会ったかい?」
  「一度だけ」
  「彼はパソコンのパーツを買い取ってくれるぞ。使えるか使えないかは向こうの判断任せだが、それなりの稼ぎになるだろうな」
  「へー」
  良い情報だ。

  「くそ、何だってあいつら……」
  「しばらく身を隠そうぜ」

  「うん?」
  半裸のダイナマイト男たちが逃げて行く。
  パウダーギャングだ。
  「何かあったの?」
  「近くにNCRの部隊がうろちょろしているらしいよ。何のためにいるかは知らないが」
  「あいつら捕まえに来たって発想は?」
  「ないな。この辺りの駐屯所はプリムだが、ここまで出張るとは思えないし、刑務所は規模の縮小の連続でここまでは部隊を送れない。何か探しているんじゃないかな」
  「何かねぇ」
  まあいいや。
  私の人生にNCRとかいう国家や軍隊は関わってこないだろ。
  そろそろ戻るとしよう。
  「またね」
  「ああ。またな」
  彼は瓶を高く掲げ、それから口に含んだ。
  手を振って別れる。
  「NCR、ね」
  まさか私絡みか?
  謎の自称運び屋曰く、私は大物と取引していたらしい。
  NCRとか?
  モハビが殺しに来るぞとか脅されたし、失敗した私の抹殺に来ているという可能性もあるのか。
  気を付けなければならないな。
  診療所に到着。
  カルが外でボールで遊んでいた。
  「お帰りなさいっ!」
  「ただいま」
  「あーあ。ミスティが僕の本当のお姉ちゃんならいいのになー」
  「あはは」
  懐かれてるのかな。
  嬉しいことだ。
  「そしたらお小遣いくれる人増えるのに」
  「……あはは」
  懐かれては、ないのかもなー。
  拝金主義者なのか、まだ五歳児なのにっ!
  モハビは怖いです。
  おおぅ。

  ガチャ。

  「ただいま戻りました」
  診療所に入る。
  いつもならイリットがお帰りと言ってくれるのだが反応はない。出ているのだろうか。
  リビングに入る。
  ミッチェルさんが椅子に座って雑誌を読んでいた。
  私に気付いて顔を上げる。
  「ああ、お帰り」
  「ただいま戻りました。イリットは?」
  「さっき出掛けたな。友達のところだろう。お前、顔が赤いな。飲んでいるのか?」
  「ええ、ちょっと」
  「そうか」
  咎めている風ではない。
  そうだ。
  「座ってもいいですか」
  開いている席を差す。
  「座ればいいだろう、わざわざ聞くまでもない」
  「どうも」
  座る。
  雑誌を閉じ、テーブルの上に置いて私に向き直る。
  「どうした、何かあったのか?」
  「ちょっとトルーディのところで飲んできました」
  「見れば分かる」
  「ちょっと有意義な会話をしてきたんです。リッキーって人と」
  「リッキー? 聞かない名だな。放浪者か」
  「偉大な冒険者です」
  「断定する根拠は分からないがお前さんはお人好しな部分があるからな。詐欺師のような奴らも多い、気を付けることだな」
  「大丈夫ですよ。その人はヴァルト22の出身で、腕にPitboyをしている人でした」
  「……すまん、もう一度言ってくれ」
  「ヴァルト22」
  「はあ」
  大きくため息。
  何故に?
  「そんなに持ち上げるってことはそいつを尊敬か何かしているんだろうな? 何かしてやったのか? そうだな、奢るとか何か」
  「32キャップ使いました。人生の勉強料です」
  「そうか。そう認識しているならそれは正しい。安く済んだな。その程度の投資なら立ち直るのも早かろう」
  「失敗? えっと、はい?」
  「さっき言ったろ、お人好しの部分があると。そいつは詐欺師だ。どこ行った? まだいるのか?」
  「トルーディが話し掛けたら去って行きましたけど」
  「彼女に感謝しろ。大火傷しなくて済んだんだからな」
  「どういうことでしょうか」
  「特にお前は女だ。もっと自分を大切にしろ。まあ、自分を安く切り売りするなら話は別だがね。好きにしたらいい、自分の人生だ。だがそのつもりなら出て行け、孫たちの教育によくないからな」
  「あの、詐欺師という根拠は何でしょうか? ボルトをヴァルトとネイティブに言うからですか?」
  「それがネイティブなのかは知らんが私が詐欺と断言するのはそこではない。ボルト22は150年前に崩壊している。それはモハビに住む者なら大抵知っている」
  「……」
  「それと、Pitboyではない。Pipboyだ。そいつは多分どこかからそれを手に入れただけの奴なんだろうな。安心しろ、ただのチンケな小悪党だ。酒代せびるぐらいしかできない奴だ、殺される心配はなかった」
  「……」
  慰めてくれてるんだろう。
  だが、それだとつまり、私はそんな小悪党に酒代せびられ、体まで奪われようとしていたわけだ。
  間抜け?
  間抜けです☆
  うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいつぶっ殺してぇーっ!
  「大丈夫か?」
  「無理です」
  「やれやれ」
  彼は立ち上がった。
  「そこで待ってろ。ランディに言ってくる」
  「ランディに?」
  何をだ?
  「あいつ友達のマシューって奴と保安官の真似ごとを始めたんだ。別に許可制じゃないし、保安官は必要だからな。トルーディは承認してる。詐欺師がいるから注意するように促しておく。もういないだろうが」
  「それは、どうも」
  だがミッチェルさんは足が悪い。
  場所を聞いて私が行くとしよう。
  「駄目だ」
  立ち上がろうとすると彼はそれを遮った。
  何故に?
  「ランディは良い奴だが、女に耐性がない。ここは寂れる一方だしな。自覚ないかもしれないが今のお前は奴には毒だ」
  「はあ?」
  意味が分からない。
  「胸元のチャックを5センチぐらい下げてランディに何か頼んでみろ。あいつは何でもするぞ。つまりは、そういうことだ」
  「はあ、まあ、はい?」
  よく分からん。
  ああ、エロいってことか?
  記憶がないからなのか、いやそれ以前に男性の趣向はよく分からん。
  「ともかくそこで待ってろ。お前に必要なのは知識だ」
  「知識、ですか」
  「そうだ。ゲッコー狩るにしても雑貨屋手伝うにしても、今後の生活の為には学習が必要だ。最低限は教えてやる。そこで待ってろ」



  戻ってきたのは30分後だった。
  私は机に突っ伏して寝てた。
  ごしごしっと。
  渡された布巾でテーブルを拭く、何というか私の涎だらけだったからだ。
  「綺麗になりました」
  「では、始めるか」
  「はい」
  お互いにテーブルを挟んでマンツーマンで勉強会開始です。
  コーヒーの入ったマグカップがある。
  私は自分の分のコーヒーに砂糖をガッポガッポ入れて混ぜた。よし、控えめな甘さだ。ミッチェルさんは何か言いたそうだったが軽く首を横に振り、それから口を開いた。
  「ギャングについて話すとしよう」
  「ギャング」
  地元にはパウダーギャングがいる。
  トルーディも言ってたし、ギャングはそこら中に蔓延っているのだろう。
  「ミスティ、ギャングについてどういう印象がある?」
  「悪党」
  即答する。
  他に定義なんかあるのか?
  「正解だ。だが世の中には良いギャングというものが……」
  「いるんですか?」
  「いないな」
  「はあ?」
  言いたいことが分からない。
  「ギャングは悪だ、キャピタル・ウェイストランドにはワルを自称するギャング団がいるらしいが……まあ、それは他所のことだ。モハビにいるギャングは悪党だ。だが民衆にーの側に立つギャング
  もいる。一皮剥けば利権を追う奴らだが、領分を侵さない限りは敵にはならないというギャングだ」
  「つまりは民衆らしく振る舞ってれば味方ってことですか?」
  「そうだ。まあいい。ざっとギャングを説明するとしよう」
  「はい」



  <チェアメン>

  Mr.ハウスに従う三大ファミリーの1つ。
  ザ・トップスというカジノを経営。
  カジノ内に劇場を設置している、ニューベガス随一のハイセンスなカジノ。



  <オルメタ・ファミリー>

  Mr.ハウスに従う三大ファミリーの1つ。
  ゴモラというカジノを経営。
  カジノの経営の他に多数の奴隷を有しており、奴隷を使った風俗経営をしている。



  <ホワイトグローブ協会>

  Mr.ハウスに従う三大ファミリーの1つ。
  ウルトララグジュというカジノを経営。
  美食やリラクゼーション重点を置いており、カジノ経営よりもそっち方面が好調であり、セレブ感溢れるカジノ。



  <ザ・キングス>

  ニューベガスと隔離された貧民街を拠点に置くギャング団。
  貧民保護を目的としており他のギャング団とは異なり攻撃性は低い。同じく保護を目的としているアポカリプスの使徒とは懇意であり、協力関係にある。
  ただし官僚的なNCR駐屯部隊とはそりが合わない様子。



  <フィーンド>

  ニューベガスの外にあるアウターベガスと呼ばれる一帯を支配するギャング団で、ボルト3を拠点にしている。
  出所不明の光学兵器を使いNCRにゲリラ的な攻撃を仕掛けている。
  NCRがボスと幹部全員に賞金を賭けている。



  <ヴァン・グラフ・ファミリー>

  ニューベガスと隔離された貧民街に拠点がある組織。
  厳密にはギャングではなくマフィア的要素のある組織で、シルバーラッシュという光学兵器専門店を西海岸各地に展開している。
  ポイントルックアウトに大々的に乗り込み、経営失敗の煽りを受けて近年規模が縮小傾向にある。
  クリムゾンキャラバンと提携を結び、新たに傭兵事業を展開した。



  <マルデ・ギャング>

  ニューベガスと隔離された貧民街に拠点があるギャング団。
  Mr.ハウスが行った選別の日によってベガス外に追い出された難民たちが組織したギャング団で、公然とMr.ハウスに抵抗している数少ないギャング団。
  Mr.ハウスによって賞金が賭けられている。



  <バイパー団>

  かつては西海岸一体を蹂躙した大ギャング団の残党。
  既にNCRに大半が駆逐され、弱体化し、勢力が縮小傾向にある。
  モハビ全域の街道筋で活動しているものの勝手にそれぞれがバイパー団を名乗っているだけで横の繋がりはなく、それぞれの小規模なグループが組織名を名乗っている過ぎない。



  <スコルピオンギャング>

  ウェイストサイドにある雑居ビルを拠点にするギャング団。
  規模そのものも知名度も低く、ウェイストサイドの付近限定で活動しているギャング団。



  <ジャッカルギャング>

  モハビ砂漠周辺で活動しているギャング団。
  既にNCRに大半が駆逐され、砂漠にまで追い詰められた壊滅間際のギャング団。
  ただ活動地域が砂漠であることからNCRは完全掃討を放棄しており、砂漠を旅する旅人やキャラバン隊には脅威となっている。



  <パウダーギャング>

  NCRから労働力として移送されてきた囚人たちが列車から脱走し、その際に列車会社からダイナマイトを奪って結成された、モハビで一番新しいギャング団。
  ダイナマイトを使って列車強盗やクリムゾンキャラバンを襲撃しつつ南に逃れている。



  <グレート・カーンズ>

  最古のギャング団。
  自分たちの歴史の深さを重んじている為、それ故に独立志向が高く、周辺に喧嘩を売りまくった結果レッドキャニオン山脈の奥地まで追い詰められている。
  NCRに挑発行為を続けたことによりかつての住居だったビタースプリングスで女子供が虐殺された過去がある。
  現在ビタースプリングスはNCRの統制下。



  「そんなに、いるんですか?」
  「確認されていない若い組織はまだあるかもな」
  「うへー」
  世の中悪党ばかりか。
  平和とは程遠いな。
  だけど賞金、か。
  ピチピチブラザーズにも賞金が掛かってたし、賞金稼ぎっていうのも悪くないな。そんなに賞金首がうようよしているとは思わないけど、1人倒しただけで当分は暮らせそうだし。
  要検証ですね、賞金稼ぎってお仕事。
  「あとは」
  「まだいるんですか?」
  うんざりだ。
  「ギャングではないが、ガレットツインズと呼ばれる姉弟がいる。ベガスの貧民街、フリーサイド地区にな。アトミックラングラーという酒場兼カジノを経営している。儲かっているようだ、大抵の連中は
  ベガスのバカ高い通行料は払えないからな。そこのカジノに落ち着くってわけだ。警備の一環で私兵を多数従えている。ザ・キングス、ヴァン・グラフと勢力がせめぎ合っている場所だ」
  「行く時は気を付けます」
  世の中物騒だ。
  これにプラスして三大ファミリーを従えるMr.ハウス、NCRとリージョンの戦争も含まれるわけだ。
  モハビ・ウェイストランド。
  混乱と殺戮の坩堝だ。
  悪の温床。
  だけど。
  だけどここには信じられる人たちがいる。
  私はここに留まりたい。
  笑っているのもその一環。
  偽っているわけではないけど、取っつき易くなるとは思ってる、だから笑ってる。もちろん笑顔でいられる要素がたくさんあるっていうのもある、ここは平穏で平和な場所。
  ここにいる為なら何でもしてやる。
  悪党?
  敵は皆殺しだ。
  「そういえばミッチェルさんはパウダーギャングについてどう思ってるんですか?」
  「お前さんは知ってるんだったな、リンゴのこと」
  「どうしてそれを?」
  「トルーディさ、口を滑らせたって言ってたよ。リンゴのことは口外無用だ、言えば住人がパニックになる。戦うのは必要に応じてすることだ、誰でもな。だが今回の件はそうはならない。お前ならどうする?」
  「戦い以外でってことですか?」
  「そうだ」
  「リンゴを差し出す、ですか?」
  「その動きも出るだろう。問題は差し出してもおそらく何も変わらないだろうってことだ」
  ああ、この人は分かってるのか。
  街そのものも狙いつつあるかもってことを。
  さっきの話ではパウダーギャングは南に移動し、逃げてる。ここに逃げ込んで住み付く腹があるかもしれない。
  「安心しろ、何とかなる」
  「何とかって」
  どうするんだ?
  リンゴがクリムゾンキャラバンに逃げてお終いって、なるかな?
  その、平和的に。
  「トルーディも馬鹿じゃない、馴染みの傭兵を雇った。まだ来ていないが来れば充分な力になる。サニーもいるしな」
  「私もいます」
  「なら、もう少し常識を付けなきゃな?」
  そう言って彼は笑った。
  詐欺師にスケベされそうになってたミスティです☆
  ……。
  ……笑えないな、うん。
  今度リッキーに会ったら殺そう、黒歴史は消去の方向ですっ!
  「ミスティ」
  「はい」
  「数多の悪党を言ってはきたが、これは最悪な連中の話だ」
  「まだ、いるんですか?」
  その瞬間、ミッチェルさんの顔な陰が濃くなった。
  陰鬱そうな、そんな顔。
  「これは厳密にはギャングではないのだろうな。モハビ三大勢力に確実に食い込む、モハビで最も古い組織がいる。人間狩りを定期的に行い、ここにも何度も来たことがある戦闘組織だ」
  「そんなのが、いるんですか?」
  「バイアス・グラップラー、奴らには近付くな。絶対にな」