天使で悪魔
黒魔術師ハーマン
最初から仕組まれていた。
そういう出会いもある。
「黒の派閥っ!」
「黒の派閥? 何それ? でも素敵な響きね」
「はっ?」
えーっと。
また訳が分からなくなった。
ハーマンはベッドに飛び乗って横になって足をバタバタさせている。子供っぽいといえば子供っぽいんだけど……結局何者なんだろ、この子。
黒の派閥ではないみたいだけど黒魔術師って何?
……。
……あっ。そういえばハーマンがマーティンさんの事を『黒魔術師マーティン』とか言ってたなぁ。
魔術師内では一般的な名称なのかな?
あたしには分からない。
ハーマンは足をバタバタさせるのに飽きたらしく仰向けになって天井を見つめてる。
別に敵意は感じない。
聞いてみよう。
「ハーマン」
「駄目」
「はい?」
「駄目」
「質問が?」
「うん」
「ど、どうして?」
「言葉遣いがなってないから」
「……ハーマン親分、質問してもよろしいですか?」
「敬意がこもってない。なんだったら床に顔だけ出して体を埋めてあげたら思い出す?」
「質問させてくださいお願いしますハーマン様っ!」
「いいよ」
この子嫌いだーっ!
はぅぅぅぅぅぅっ。
「黒魔術師が何か聞きたいの?」
「そ、そう」
「簡単よ。外法使いって知ってる?」
「よく知らない」
「はあ。やれやれ。ダチョウ並みの脳味噌仕様ってわけか。最初から説明するのは面倒だからざっくりでいい? アリスの頭でも分かりやすく教えてあげるから」
「……お願いします」
うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
すっっっっっっごい頭にキターっ!
罵りたいっ!
罵りたいけど……あたしは礼儀正しいダンマー目指す女の子。
それにこの子はあたしよりかなり年下だし。
そんな子に怒るなんてあたしの誇りとして許されない。
我慢我慢。
「簡単に言うと外法使いは、過去の遺産である禁術習得したいという連中。自身の能力強化を最上の悦びとしているのよ、連中はね。そして未知の禁術を
得るのが最高のエクスタシーなわけ。実のところ外法使いも黒魔術師もここまでは同じなの」
「同じ?」
「そう。だけど前半が同じでも後半は別。聞きたい?」
「うん」
「腹踊りが見たいな」
「はっ?」
「腹踊り」
「……」
どこまで横暴なんですか(泣)。
腹踊り。
腹踊り。
腹踊り。
ハーマンはあたしに何かを投げて寄越した。羽ペンだ。
「それで愉快な顔をお腹に書いてね」
「ひーんっ!」
「ちょっ! 本気で泣かないでよーっ! なんか私が苛めてるみたいじゃんっ!」
苛めてるんです。
苛めてるんですよハーマン。
うわぁぁぁぁぁん(泣)。
追い詰められたあたしは全力で涙を流します(号泣)。
はぅぅぅぅぅぅっ。
ハーマンはベッドから起き上がってあたしに近付いて背中を摩り、頭を撫でる。
ナデナデ。
「泣くなんてお姉ちゃんらしくないわよ」
「だって、だってぇー」
「はいはい。いい子いい子。飴ちゃんあげるから元気出しなよ。私のお姉ちゃんなんだからもっと強気になってくれないと困るんだけど」
「……はい?」
何かすごい事をサラッと言ったけど。サラッと。
お姉ちゃんって何?
「私の正式名はハーマン・グラスフィル。あんた妹だから。よろしく」
「はい?」
「妹」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーっ!」
「うるさい」
いもいもいもいもいもいも石焼芋ー……ってそうじゃなくてーっ!
妹ぉーっ!
「だ、だってあたし一人っ子だよっ!」
「何十年前にモロウウィンド出奔して叔父さんの家に居候してんの?」
「つ、つまりその間に……」
「そう。パパとママ頑張ってあたしが生まれたってわけ。パパ+ママ=ハーマンなの。分かった?」
「……」
「叔父さんに容貌とか性格とか聞いてたから私はあんたが姉だって途中から気付いてたけどね。クヴァッチとアンヴィルではまだ分からなかったけど」
「だ、だけどどうしてシロディールのコロールに?」
「あんたの所為」
「あたし?」
「そう。戦士の家系を引き継ぐあんたがいなくなったから私が継ぐ事になり掛けたってわけ。だけど私は黒魔術師志望だから戦士なんて真っ平。お小
遣い貯めて船でモロウウィンド離れた。その後叔父さんの家に居候してるのよ。あんたはレヤウィン支部長としてトイレ掃除してた頃にね」
「……」
「こんな間抜けが姉だなんて人生最大の汚点だけど我慢してあげる。嬉しい?」
「……」
「子分アリス」
「ご、ごめん。呆気に取られちゃって」
妹かぁ。
唐突過ぎて何の感情が湧いてこない。こういう感情もあるのかと少し驚き。
ずっと一人っ子だと思ってた。
だけど妹がいたなんて。
それもすぐ目の前にいる。何気に叔父さんの家に居候してるみたいだし。えーっと、つまりそれはコロールに住んでるって事だよね?
だったら叔父さんも手紙とかくれたら良かったのに。
「感動の出会いを終わらせて話を元に戻していい?」
「ど、どうぞ」
感動ですか?
あたしは驚愕過ぎて何の感情も湧いてこないんだけど……ハーマンは感動してくれてるのかなぁ?
……。
……いやぁ。それ微妙かも(泣)。
「何?」
「いえ」
「言いたい事があるなら言いなさい。溜め込むと不幸になるよ」
やたら大人びてるなぁ。
どっちが年上なのか分かりません。
「話戻すよ。どこまで……ああ、黒魔術師の話か。黒魔術師は外法使いとは対照的に能力を振るわないの。極力ね」
「能力を、つまり使わないって事?」
「それ以外に何があるのよ。馬鹿じゃないの。というかアホじゃないの」
「……」
うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
スキンシップの振りして殴っちゃ駄目ですかぁーっ!(問題発言&幼児虐待)
突き刺さるっ!
突き刺さるんです悪意ある言葉のナイフがっ!
ふぇぇぇぇぇぇぇぇん(号泣)。
あたしの内心は無視して淡々とした声でハーマンは続ける。
この子できるっ!
さすがダンマーだなぁ。
「黒魔術師はスキルを増やすのが好きなの。それだけ。その能力を悪用しようとかは思わない。ただだれも知らない技術を習得したいだけ。だから
外法使いの馬鹿どもとは別物。それとアリスの頭脳では知らないと思うけど、禁術封印集団『狩神』も元は外法使いだから」
「狩神?」
「考えなくていいよ。脳がショートするから。むしろ既にショートした? ていうか脳をメンテするならもっと質の良い脳と総入れ替えしたほうがいいよ」
「……」
キラ様、デスノートにどうかこの子の名前をっ!(切望)
はぅぅぅぅぅぅぅっ。
「理解できた?」
「まあ、一応は。つまりマーティンさんも黒魔術師なの?」
「そうよ。黒魔術師内で知らない者はいないわ。強大な魔力と無数の未知のスキルを扱う者として名高い。そして魔王サングイン信者で乱交好き、魔王
シェオゴラス信者でゲテモノ食いマニア、歩く性犯罪、ロリコン野郎、タヌキ顔といった様々な呼ばれ方で伝説と化している人物よ」
「すいません後半はかなり悪口ですよね?」
ノル爺曰く、あたしが黒蟲教団と決戦している時には既にロリコンで逮捕されてたみたいだけど。
嫌だなぁ。
「そ、そうだ、ハーマン」
「何?」
「マーティンさんに何かされなかったっ! 変な事されてないよねっ! もしも何かされてるんなら言ってね。あたしがマーティンさんぶっ飛ばすからっ!」
「少しはお姉ちゃんらしいこと言ってくるのね。そのお返しに私の事はハーたんって呼んでくれてもいいわよ」
「ハーたん」
嬉しいかも。
愛称で呼べば自然と距離は縮まる。何だかんだで姉妹なんだから仲良くしたいし。
「ところで話変わるけどアリス、思い切った事をしたわね」
「何が?」
「呪い」
「ああ。別に大した事ないよ。気だるいだけだし」
「今はね」
「今は?」
「一ヶ月もしたら剣も持てなくなるから。二ヶ月で鎧は諦めた方がいいわね。三ヶ月で小粋なギャグも言えなくなるから」
「はい?」
三ヶ月目の意味が分かりません。
世代の差?
世代の差があるから分からないのかなぁ。
うーん。
「その呪い、アリスの直系全てに関係するから。つまりアリスから伸びていく家系は全て呪いの影響を受ける。ハードな夜の営みは諦めた方がいい」
「はい?」
「呪いの解き方も知らないのに肩代わりする。理解不能な行動。だから観察してて面白い」
「あ、ありがと」
誉められてるのかなぁ。
微妙です。
「アリスがお姉ちゃんでよかった」
「……ハーたん……」
「習得した禁術の実験台になってくれそうだし。そうだ。この間覚えたばかりの禁術メガンテの効果がよく分からない。代わりに使ってみて。お姉ちゃん☆」
「……」
この子最悪ですっ!
はぅぅぅぅぅぅぅっ。