天使で悪魔






騎士団の英霊達






  志は受け継がれる。





  魔剣ウンブラを背負ってあたしは地下に降りる。
  左手には松明。
  右手はすぐにでも魔剣ウンブラが抜ける体勢であたしは階段を降りていく。ずっと階段は指輪で封印されていたわけだから先客がいるとは思え
  ないけど何らかの怪物がいる可能性もある。まあ、可能性は低いと思うけど。
  あるのは地下墓所みたい。
  日記にはそうあった。
  「わぁ」
  着いた場所は鍛冶場&訓練場。
  へぇー。
  ここまではハーマンの魔法(かどうかは知らないけど)で新築化してないのかぁ。蜘蛛の巣が張ってるしボロボロ。
  だけど設備がここまで揃っているというのはいいなぁ。
  物資の補給をするにはスキングラードの都市から離れているけど、畑とかを外に作れば自給自足も可能かもしれない。そしてここが魔術王ウマリル
  打倒の為の拠点になる。殺人事件の捜査が現在は聖戦士装備の探索に変わってる。展開が大きくなった。というか大きくなり過ぎ?
  もちろんあたしは栄光とか勇者はどうでもいい。
  本当に魔術王が戻って来たのであればそれに従う者達も現れるだろう。その対抗の為に聖戦士装備を探す人達がたくさんいる……かは知らないけど
  あたしやロドリク卿のような人達がまだいると見た方が普通かな。いつか集って魔術王に対抗する、そんな日が来るかもしれない。
  九大神修道院はそういう人達の拠点になり得る。
  「扉?」
  鍛冶場&訓練場の奥にさらに扉がある。
  そうだね。
  今すべき事は別にある。
  地下墓所に行って日記にある情報の真偽を確かめなきゃ。
  進む事にする。
  ハーマンは上の階で寝てる。
  ……。
  ……不思議な子だなぁ。
  結構凄い事言われてるんだけど不思議と腹が立たない。
  あの子の子分だから?
  そ、そうかもしれない(号泣)。
  はぅーっ!

  ガチャ。

  古びた木の扉を開いた中に入る。
  その途端……。

  バタンっ!

  「うひゃっ!」
  物凄い音を立て扉が閉まる。
  自動ドア?
  開けてみようとするけどまったく扉は動かない。まさか閉じ込められたっ!
  まったく動かない。
  この世界の法則として力でなんともならない現象は全て魔力が関係していると見た方がいい。結界か何かなのかな?
  まあいいか。
  とりあえずゆっくりと振り返る。
  「……」
  神聖ではあるけど寒々とした感じがする。
  完全にここは墓所。
  コロール聖堂の地下にも墓所があるけどそことまったく同じ雰囲気。墓所特有の冷え冷えとした感覚はどうにも好きになれない。
  とりあえずあたしは松明の炎を消して床に転がす。
  何故かここは明るい。
  壁か床が発光してるのかな?
  そうかもしれない。

  コツ。コツ。コツ。

  あたしは奥に進む。
  視界の中に鎧掛けがあり、そこには鎧が掛けられているのが見えた。日記には地下墓所には聖戦士のキュイラスがあると記されていた。
  まさかあれが?
  胸が高鳴る。
  もしもあたしの憶測が正しければあれは有史以前のアイレイド文明に存在していた代物だ。
  ……。
  ……ま、まあ、バケツみたいな兜も同じ年代物なんですけどねー。
  ちなみにバケツは上においてあります。
  そもそも兜被る習慣ないし。
  確かに装備する事で頭部を護れるんだけど慣れてないと逆に危ない。特にあれはフルフェイスだから視界がどうしても制限されてしまう。
  装備し慣れた人でなければ逆に枷となってしまう。
  ま、まあ、フォルムも微妙なのもあるけどね。
  バケツだし(笑)。

  「九大神の力と導きにより問う。この聖地に踏み込み聖戦士のキュイラスを探す者は誰だ?」

  「誰ですか」
  あたしは立ち止まり静かに問い返す。
  誰もいない。
  気配もしない。
  右手で背負った魔剣ウンブラの柄を握る。幸い地下墓所は広い。大立ち回り出来るだけの広さがある。

  ブォン。

  瞬間、目の前に突然白い半透明の存在が浮かび上がる。
  幽霊っ!
  その幽霊は剣と盾を身に付けていた。鎧も着込んでいる。だけど人相までは分からないし種族もどうもよく分からない。白くて半透明だから表情は曖昧。
  すぐ目の前にいる。
  そして気付く。
  周囲にもいるという事を。
  囲まれたっ!
  視線だけを動かして周囲の動きを見極めようとするあたしに対して目の前の幽霊は淡々と告げる。
  「前へ出よ、冒険者。そして我ら一人一人と名誉の決闘を行え。生ある時に汚してしまった誓い、我らは今死者としてそれを護らねばならん」
  「決闘?」
  「我ら九大神の騎士の承認なくしては何人たりともこの聖なる遺品に触れる事は許されない」
  「じゃあ……」
  この人達は九大神の騎士達の幽霊なんだっ!
  死してなお聖なる遺品を護っている?
  すごい。
  なんか感動しちゃう。
  だけど……。
  「待ってください」
  「臆したか冒険者」
  「そうじゃないです。決闘はいいんですけど……あたしが手にしているのは魔剣ウンブラです。あなた方は九大神の騎士団の英霊。教えを与え導く
  存在ですよね、新たな騎士団を。魂を食らうのは、その、先達者を失う事になるので、何というか本末転倒というか」
  「勝つつもりでいるのか、真面目なのか、ただの馬鹿なのかは知らぬが……よかろう、受諾しよう」
  「あっ」
  宙に銀製のロングソードが現れて、浮かぶ。
  「使うがいい」
  「ありがとうございます」
  その剣を掴み、あたしは鞘から抜いて構える。
  一歩。
  一歩と下がる。
  丁度あたしは旧騎士団の円陣の中心に位置するように下がる。
  「用意はいいか、冒険者よ」
  「受けて立ちますっ!」
  「よろしい。グレゴリー卿、君の剣の冴えを見せてやれっ!」
  物言わずに突然背後に動いた気配っ!
  あたしは振り向き様に剣を一閃、相手の攻撃を回避して胴を薙ぐ。まるで何の手応えもない。実体がないからなんだろうけど手応えがないと
  倒したかどうかよく分からない。
  「グレゴリー卿、そなたの負けだ。カシミール卿、前へ」
  ああ。
  なるほど。
  肉体がある事を想定した上での致命傷を与える一撃が相手に当たればあたしの勝ちなのかな?
  グレゴリー卿と呼ばれた幽霊は円陣の元の位置に戻る。
  それと入れ替えに別の幽霊が動く。
  ちょ、ちょっと誤解してた。決闘って言ったから互い名乗り合うのかと思ったけど問答無用なのかぁ。現に次のカシミール卿も半透明の刃を手にして
  こちらに突っ込んでくる。相手の大振りの一撃をあたしは後ろに飛んでかわす。敵はさらに追撃して刃を振り上げる。

  タン。

  力強く足元を蹴ってあたしは体当たり。
  相手が振り下ろすよりも早く。
  「やあっ!」
  相手を突き飛ばす。カシミール卿は体勢を大きく崩す。
  あっ。銀の武器じゃなくても物理攻撃当たるんだ。あたしは通り抜けるのかと思ってた。もちろん体当たりが成功したとしても別に問題はない。相手は
  大きく体勢を崩している。剣を一閃させる。肉体があればあたしのこの攻撃で相手の首は飛んでいるだろう。
  正面の騎士は静かに宣言する。
  「見事だ。カシミール卿を倒すとはな。では次の相手はラルヴァス卿だ」
  相手が動くよりも早く。
  あたしは護身用のナイフを相手の眉間に向けて投げた。
  また勝ったっ!
  だけど結構弱いと思う。
  もちろんその理由は分かる。
  相手には肉体がないからだ。つまり心臓貫かれようが首を刎ねられようが死なない。肉体ないわけだし既に死んでるわけだし。つまり肉体がないから
  危機意識が薄い。絶対に心臓は護ろうとかいう意識は当然ないわけだから隙が大きくなる、のだと思う。
  それが攻撃が面白いように当たる理由。
  「ラルヴァス卿、あなたの負けだ。下がって残りの者達に委ねよ。ヘンリック卿、そなたの実力を見せてやれ」
  今度の相手は悠然とあたしに近付いてくる。
  この人は強いっ!
  「……」
  ジリジリとあたしは後ろに下がる。
  ヘンリック卿はゆっくりと、焦れったくなるぐらいにゆっくりとこちらに迫ってくる。
  「やあっ!」
  剣の鞘を投げる。

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  相手は半透明の剣を鞘を弾いた。
  今だっ!
  「そこですっ!」
  今度は剣を投げる。一直線に刃は飛んでいく。ヘンリック卿は腰を沈め、それから鋭い一撃で剣を弾いた……瞬間に大きく後ろによろけた。護身用の
  ナイフの鞘が頭にまともに直撃したからだ。あたしは全力で走って相手の間合に飛び込み接近する。

  ブンっ!

  立ち直ったヘンリック卿は剣を一閃、しかしあたしはそんな彼の足元にスライディングを叩き込んでいた。
  溜まらずに引っくり返るヘンリック卿。
  素早く立ち上がりあたしは倒れた彼の首を思いっきり踏みつける。もっとも寸止めしたけど。本当に叩き込んでいたら相手の喉は潰れている。いくら
  あたしが女で、力がないとしても喉を潰すぐらいは出来る。まあ相手は幽霊だから寸止めする必要はなかったのかもしれないけど。
  「ヘンリック卿。君の負けだ」
  よかったぁ。
  攻撃叩き込まないとあたしの負けだったらどうしようかと一瞬思ってた。助かったぁ。あのまま続行だった場合、相手の剣で足は斬られてたと思う。
  寸止めは危なかったのか(汗)。
  リーダー格の幽霊騎士は感嘆を込めて呟く。
  「我々の半数を打ち倒し、まだ立っていられる者がいようとはな。そなたの腕前、カイアス卿によって試させてもらおう」
  「……っ!」
  剣を拾って……あうーっ!
  一直線にカイアス卿は突っ込んでくる。あたしまだ剣を拾ってないんですけどーっ!
  騎士道って過酷です(泣)。
  あたしは別方向に向かって走り出す。
  つまり?
  つまり敵前逃亡。
  相手はさらに全力で追ってくる。あたしは突然立ち止まり……。
  「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  左手で右の二の腕を力強く掴んで固定、突っ込んでくる相手にラリアートを叩き込む。
  相手は喉を強く殴打してそのまま引っくり返った。
  痛ぁっ!
  幽霊なのに重量あるんだ、めっちゃ痛いよー。
  「カイアス卿、君の負けだ」
  「はあはあ」
  あたしは少し息が上がってきてる。
  ゆっくりと剣を拾う。
  残りはリーダー格を含めて3人。
  あれ?
  九大神騎士団だから9人いると思ったけど……8人しかいない。
  どうしてだろ。
  「久しいな。このように激しい情熱を持つ者を見るのは何世紀振りであろうかっ! しかし次の相手はジュンカン卿だ」
  次の相手が動く。
  さっきのラリアートであたしの右腕は痺れて感覚がない。動くけど剣は握れそうもない。左腕で剣を構えるけど利き腕ではないので心許ない。
  ジュンカン卿はこちらに切っ先を向けた。
  どうやらそれが構えらしい。
  動いたら一気にあたしを刺殺するという構え、かな。
  完全に待ちの体勢だ。
  持久戦。
  「……」
  「……」
  別にそれならそれでもいい。
  ただ問題は相手が肉体がない幽霊だという事だ。どうしても持久戦では分が悪くなる。相手は24時間持久の構えでいれるけどあたしはそうじゃない。
  ならば。
  「煉獄っ!」
  感覚はないけど右手は動きます。
  手のひらに炎の球が宿り相手に向って飛んでいく。
  魔法を使ってはならないというルールはなかった。そもそも一体多数なんですから魔法は許してもらいたいものです。

  ドカァァァァァァァァァンっ!

  ジュンカン卿の背後で爆発。
  彼はあたしが動いた瞬間に突きの体勢のままあたしの間合に飛び込んできた。
  速いっ!
  だけどその攻撃スタイルは実に都合が良い。利き腕ではないあたしが出来る唯一の攻撃方法を効率的に出来る。

  すっ。

  体を横にあけて相手の攻撃をかわした。相手は何もない空間を、あたしのすぐ横を通り抜ける。もちろんすぐに反撃してくるだろうけど、あたしは既に左腕の
  剣を大きく振り上げていた。勝負ありですっ!
  そのまま斬撃を振り下ろした。
  もしも肉体があれば真っ二つで即死。リーダー格の幽霊は宣言した。
  「ジュンカン卿。そなたの負けだ。トロロフ卿、北方の戦士の恐ろしさをその者に教えてやれ」
  北方の戦士?
  ノルドっ!
  純然たる戦士の種族であり基本的にパワーファイター。右腕の感覚はまだないけど敏捷性には自信がある。
  刃を振り回して肉薄してくる相手をひらりひらりと回避。
  一気に魔法で片を付けるっ!
  「煉獄っ! 煉獄っ! 煉獄っ! 煉獄っ! 煉獄ぅーっ!」
  5連発。
  そもそもの威力が低くてもこれで5倍の威力。つまりフィッツガルドさんの本来の煉獄の威力とほぼ同等。

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  北方のノルドはまともに煉獄の火力を受けて吹っ飛ぶ。
  勝ったっ!
  リーダー格の幽霊は満足げに呟いた。
  「そなたは九大神の騎士と渡り合い、そして勝利した。しかしまだ最後の相手が残っている。心せよ。最後の相手は私、アミエル卿だ」
  「あなたがアミエル卿」
  日記の人だ。
  剣を身構えて相手の動きを見る。
  「……」
  す、凄い人だ。
  隙がない。
  この世にはあたし以上の人がたくさんいる。きっとあの世も含めたら凄くたくさんいるんだろうな。
  四大弟子を倒して少し調子に乗ってたけどまだまだ上がいる事を知った。
  だけど。
  だけど絶望なんてしませんっ!
  上がいるならあたしもっと努力すればいい。それだけの話。
  うん。
  簡単な理屈だよね。
  「さあ。始めましょう、アミエル卿」
  「……」
  「アミエル卿?」
  「ポジティブなのか愚かなのか……いや、君のその情熱を正しく評価しよう。過去に縛られている我々では未来を見る君には勝てぬ」
  「えっ?」
  「私の負けだ」
  静かに彼は剣を下げた。そして右によけた。
  あたしの視界の先には聖戦士のキュイラスがある。
  「若き騎士殿。この300年もの間我らと戦い生き延びたのはそなたが初めてだ。さあ、前に歩み出て。そなたが勝ち取った鎧を手にするがよい。それにし
  ても九大神よ。これほどの強き志を持つ若き騎士はまさか……い、いや、そんなはずはない。そなたは優秀な騎士に過ぎぬはずだ」
  「……?」
  何を驚いてるんだろ?
  ともかく。
  ともかくあたしは勝ったらしい。よ、よかったぁ。これ以上の連戦は実は限界でした(泣)。
  アミエル卿は言う。
  「九大神の騎士団は元々は聖戦士の遺品を守護する目的で結成されたのだ」
  「はい」
  「しかし我々はその任務に失敗した。そして我々はここで待っていた、新しい世代の騎士を」
  「あたしはただ預言者様の言葉に従ってるだけで勇者ではないです」
  「謙譲かそれとも本心か。気に入ったぞ」
  「ありがとうございます。それでその、8人しかいませんよね?」
  「最後の1人はベリック卿だ」
  「ベリック卿」
  「最強の騎士であった。彼が騎士団に加わった時、我々の名声はさらに高まったものだ。しかし私と意見を違えて騎士団を去った。以来会っていない」
  「そうですか」
  「ともかく我々と戦って生きてここを出るのは君が初めてだ。君は聖戦士の装備を探してくれるのか?」
  「はい」
  「騎士達の中には在り処を知っている者もいる。しかし我々はここから動けぬ。ご苦労だが君に委ねるしかない。カシミール卿」
  「はいアミエル卿」
  「若き騎士殿に篭手の在り処を教えてあげて欲しい」
  「御意」
  聖戦士の篭手?
  あっ。
  知ってる。あたしはコロールに住んでるからよく知ってる。有名な話だもん。まさか自分がその篭手を求める事になるとは考えてもなかったけど。
  アミエル卿に促されてカシミール卿が口を開く。
  まあ、問題は誰が誰だかよく分からないのが問題かな。小柄大柄で判別すればいいのかな。少なくとも顔では分からない。白くて半透明、全員に共通
  する事だ。ハッキリ言って表情は曖昧。うーん、それ以前に顔がないのかなぁ。輪郭が朧でよく分からない。
  ともかく。
  ともかくカシミール卿は言う。
  「聖戦士の篭手がどこにあるか知っている、何せかつてあれを所有していたのはこの私、カシミール卿なのだ」
  「あなたの物? そうなんですか?」
  「ああ。場所に関しては既に篭手の場所は多くの者が知る事になっているはずだ」
  「あたしも知ってます。コロールの聖堂にありますよね?」
  「そうだ。依然誰の物にもなっていないようだな。あれは普通の者には手にする事が出来ない代物なのだ」
  確かに。
  あたしも何度かトライしたけど持ち上げる事すら出来なかった。
  「騎士団が崩壊した時、私はベリック卿を追って戦場に赴いた。やがて戦争は終わり、私はシロディールに戻った」
  「レッドダイヤモンド戦争?」
  「そうだ。私は聖堂に赴任して九大神への務めに従事していたのだが……戦争は私を変えてしまっていた。戦場で多くの敵を殺し続けた私の心には弱き
  者や苦しむ者に対しての哀れみの心が消え去ってしまっていたのだ」
  「……」
  戦争で彼は慢心したってこと?
  「聖堂にいた間、私は神の教えを広めるというよりもむしろ神の存在を否定していた気がする。私はその時、自ら呪われるべき事をした」
  「呪われる事とは?」
  「ある物乞いが毎日聖堂にやって来て私に助けを乞うた。何度も何度も。そしてついに私は我慢の限界を超え、彼を殴ってしまった」
  「えっ?」
  「私の一撃は意図した以上に強かった。彼は床に崩れ落ち、二度と動かなくなった。私は慈悲の神の聖堂で人を殺したのだ。私は当然聖堂を永久に
  追われた。しかし罪の代償は確実に訪れた。私の力は弱まり、疲労し、やがて全ての情熱と気力を失った」
  「……」
  それが呪い?
  それが……。
  「篭手は男を殺した際に私の両腕から自然に床に落ちた。それは岩のように重くビクともしなかった。私は自分が神から見放されたのだと悟った。その呪い
  は私の血統に取り憑いた。私の子孫達はまだ呪いの洗礼を受け続けている。篭手を手にすればどうなるか、その影響は分からん」
  「……」
  「それでも君は……」

  「行くわよね。間抜けだもんあんた」

  ハーマンの声。
  それと同時にアミエル卿の鋭い声が響いた。
  「ここには入れぬように神のお力で結界を張った、どうやって結界を突破した部外者よっ!」
  「神の結界? 紙の結界じゃんあんなの」
  どんな魔道技術をお持ちなんですかハーマン親分(汗)。
  彼女は先代騎士団の視線を簡単に受け流しながらあたしの手を引っ張って促す。
  「私は帰るのコロールに。とっとと行くわよ子分」
  「……はーい」


  ともかく。
  ともかく目指す地はコロール、目的は聖戦士の篭手っ!