天使で悪魔






人魚の涙 〜前編〜





  人魚の涙。
  それは誰もが求める、悲しくも美しき涙石。






  南方都市レヤウィンをあたし達は離れた。
  そこには潜んでいた。
  ドッペルゲンガー。
  相手の記憶、姿、能力を写し取る(体力と魔力は反映されない)という非常識なスキルを持つ魔法生物。
  ハーたん曰く「1体作るのに戦士ギルド一年分の費用」が掛かるらしい。
  ともかく。
  ともかくレヤウィンにはそんな非常識で恐ろしい相手が潜んでいた。
  そしてあたしを逮捕、投獄させた。
  真意?
  不明のまま。
  どうも「強過ぎる」という理由であたし達を排除しようとしていたらしい。
  意味不明。
  合計で4体のドッペルゲンガーを撃破。ハーたんの推定では大体この数が限度らしい。製造にも掛かるけど維持にもかなりの額が掛かるみたいなので
  4体ぐらいが精一杯。もちろんこの推測は魔術師が個人的に画策したらの場合で、組織として動いたのであればまた数は変わる。
  本当は調査したかった。
  追跡調査。
  ただハーたんが脱出の際に城を半分吹き飛ばしているのでレヤウィンには留まれないという負い目があった(汗)
  ……。
  ……べ、別に指名手配はされていないし、あのゴタゴタだったから誰がやったかなんて分からないだろうけど。
  それでもやっぱり居辛かったので脱出。
  逃げたとも言う。
  あ、あたしの英雄伝説の1ページがなんか最悪になっていくー。
  既に前科持ち決定っ!
  はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。



  きゅっきゅっ。
  あたしは聖戦士の聖具を綺麗に布で磨く。
  あれから3日後。
  あたし達一行はレヤウィンの東に流れる川を渡ってそこから街道を北上、シェイディンハル入りしていた。
  現在あたし達はそこで宿を取り今後の対策を練っている。
  昼食が終わるとジェメイン兄弟は聖戦士の聖具の情報を集めに街を歩き、シシリーさんは魔術師ギルドのシェイディンハル支部にある資料を閲覧しに
  行ってる。ハーたんは午後のお昼寝の時間らしく寝てる。あたしがいるこの部屋で。
  借りている部屋は2部屋。
  男部屋。
  女部屋。
  宿に部屋は人数分空いているけど借りる余裕はない。
  九大神の騎士団を立ち上げ、九大神修道院を拠点にしているもののあたし達は別に元老院に認可された公的な機関ではなくあくまで私設団体。
  どこからもお金は出てこない。
  だから。
  だから今のところ全部実費。
  今後どういう形になるのかは知らないけど今の所は自腹なのであまり無理は出来ない。
  遠征すれば宿代だけではなく物資の必要も掛かる。
  もちろん修道院にいても食料や消耗品にもお金が掛かるし修道院の改築費と維持費の問題もある。建物の方の費用は自腹で何とかなるという桁ではないの
  で一応は叔父さんに肩代わりしてもらってる。正確には戦士ギルドの方で予算を組んでもらってる。
  ……。
  ……お金掛かるなぁー……。
  食費に関しては自給自足すればある程度はいいけどその他の費用は抑えようがない。
  そう考えるとロドリク卿はいいなぁ。
  向うの九大神騎士団は各都市の聖堂のバックアップで成り立ってる。
  現在あたしが率いている九大神騎士団は修道院の空き地に畑を作って自給自足をするのが精一杯の節約術。かといって収入はない。
  あたし達も聖堂の後ろ盾が欲しいなぁ。
  うーん。
  どうやったら援助してもらえるんだろ。
  今度皆で討論してみよっと。
  「こんなもんかなぁ」
  磨くの終了。
  現在あたし達の騎士団が有している聖具はキュイラス、籠手、兜の3つ。
  ロドリク卿の創設した騎士団(世間的にはこちらを正当派としている。主な理由はロドリク卿の戦争で得た名声)はグリーブ、ブーツ、メイスの3つ。
  元々ブーツはあたし達が保有していたんだけど偽レイナルドさんがロドリク卿に売ってしまった。
  何故売ったかは不明。
  わざわざ聖具を必要とするロドリク卿に売却した、ということはこれがブーツが聖具だと知っていたということになる。でも何故売ったんだろ?
  そこがよく分からない。
  聖具に興味がなかった?
  そうかもしれない。
  本物のレイナルドさんが監獄に収容された際にブーツは偽者に横流しされたけど、もう1つの聖具は押収品の箱の中に無造作においてあった。
  あたしの魔剣ウンブラも。
  うーん。
  ドッペルゲンガーの目的も真意も不明。
  南方都市レヤウィンの状況も。
  もっとも……。
  「当分戻れないなぁ」
  そう。
  ハーたんが城を半分吹っ飛ばしたし、あたしはあたしで脱獄しちゃってるから調査には戻れない。
  叔父さんにばれたら押入れに閉じ込められるーっ!
  容赦ない人だもんなぁ。
  はぅぅぅぅぅぅぅっ。

  「くしゅん」

  お昼寝しているハーたんがくしゃみ。
  シェイディンハルは気候的に涼しい。それはいいんだけど3日前まで亜熱帯のレヤウィンにいたから寒暖の差が激しいのかもしれないな、ハーたんにしてみたら。
  どんなに凄い魔術師でもまだハーたんは子供。
  体調には気を付けなきゃ。
  あたしは掛け布団を一枚出してハーたんに被せてあげた。
  「風邪ひかないでね」
  すやすや眠るお姫様にあたしは微笑。
  可愛いなぁ。
  ずっと妹が欲しかった。
  あー、今のあたしはお姉ちゃんかぁ。
  そう思うと自然と顔が綻んでくる。
  フィッツガルドさんもアントワネッタさんやフォルトナちゃんとこういう風な関係を築いているのかなぁ。
  微笑を浮かべたままあたしは椅子に座る。
  武器や防具の手入れはお終い。
  特にすることはない。
  ジェメイン兄弟とシシリーさんは情報収集、あたしはお留守番。ハーたんがお昼寝してるし、この子を1人に残すのは良くないと思って残ってる。
  あたし達は関与していないけどレヤウィンのゼニタール聖堂内で聖戦士のメイスを巡ってロドリク卿率いる騎士団とルミナス卿率いる邪教集団蒼天の金色
  がぶつかったという話はここにまで届いている。丁度あたし達がドッペルゲンガーと戦ってた頃の話だ。
  ルミナス卿は逃亡。
  彼は聖戦士の聖具を持つ者を敵視している、つまり隙さえあればあたし達にも祟ってくる。
  実際ルミナス卿は過激な行動をするし単独行動は控えた方がいい。
  だから。
  だからあたしはここに残ってる。
  シシリーさんは現在単独行動だけど魔術師ギルドに行っているわけだから問題ないと思う。
  魔術師ギルドの施設内にいるのは全部元同僚なわけだし、いざとなったらギルドメンバーが助太刀してくれるだろうし。
  ……。
  ……まあ、ストレートに聖具があるここを狙うかなぁ。
  手薄だし。

  「おう邪魔するぞひよっこっ!」
  ガチャ。

  ノックもなしに部屋に入ってきたのは豪快なオークの戦士はシェイディンハルの戦士ギルド支部長のバーズさんだ。
  相変わらず豪快だなぁ。
  「しー」
  口元に指を当ててあたしは呟く。
  一瞬怪訝そうな顔をするバーズさんだけどあたしの視線の先を見て納得したらしい。
  ハーたんが寝てるから静かにしないと。
  あたしはバーズさんに椅子を勧め、2人とも座ってから、出来るだけ声を抑えて喋る。
  「お久し振りです」
  「おう。であの子はお前の娘か? 奥手奥手だとは思ってたが出産してたのか? ……まあ、奥手な奴に限って目覚めるとはまっちまうらしいからな」
  「……?」
  どういう意味だろ。
  「……ああ、いや、忘れてくれ。どうやらてめぇは完全なる奥手らしいのがよぉく分かった」
  「……?」
  「それよりシェイディンハルに来てるなら俺に挨拶ぐらい来たらどうだ?」
  「すいません立て込んでたので」
  「立て込んでた?」
  「はい」
  聖戦士の聖具をこれからどうするのかとか話し合ってた。
  正直次の目的地が不明。
  残る聖具は剣と盾。
  その場所がまったく分からない。
  一度修道院に戻って英霊であり先代騎士団長のアミエル卿に聞きに戻るか、独力で探し出すのか、その答えは結局出なかった。
  今後の聖具のあり方にも議論が発展してる。
  つまりロドリク卿の持つ聖具をどうするかという問題。騎士団を合併するにしても誰を騎士団長に立てるべきかとか色々と揉めた。あたしは気にしてないんだ
  けどハーたんは「騎士団長はアリスお姉ちゃんがいい」と言い、シシリーさんやジェメイン卿もあたしに膝を折った以上別の騎士団長は嫌と言ってた。
  信頼されてるんだなぁ、あたし。
  その信頼に応えなきゃって思うけど経歴で言えばロドリク卿が上なのも確かだ。かと言って喧嘩して聖具を奪えばアミエル卿が危惧する先代の失敗をあたし達
  がまた演じることになってしまう。色々と難しい問題が山積していて戦士ギルドに顔が出せなかった。
  そして最大の問題。
  それはいつになったら勇者は再来するのかってことだ。
  それはいつ……。
  「おい無駄飯ぐらい、俺の話を聞いてるのか?」
  「す、すいません最近ちょっと疲れてて」
  「疲れてる? そういえば顔色が悪いな。真っ青だ。飯食ってるのか? 何なら医者でも呼んでやるか?」
  「いえこれは元々の色です」
  「紛らわしい奴だ」
  「……」
  絡みたいだけ?
  絡みたいだけかもーっ!
  現在戦士ギルドを放れている身だけど一応あたしの階級はバーズさんと同じ。アンヴィルのアーサンさんとも同じ。もちろん年功序列というのもあるから同じ
  階級でも対等とはいいがたいのは分かるけどあたしの扱い雑だなぁ。
  はぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「そ、それでバーズさんはあたしに何か御用でした?」
  挨拶に来ただけとは思えない。
  シェイディンハル入りしてからあたしは宿から出てない。宿に入る姿をバーズさんがたまたま見て今日挨拶の為にやってきたとは考えにくい。
  聞いてみよう。
  「バーズさんはあたしを探してたんですか?」
  「ほう? ひよっこの愚図にしちゃあ良い観察眼だ」
  「……ぐ、愚図」
  傷付くなぁ。
  最初の新入りの頃と対応変わらない。
  もちろんこれはこれでバーズさんらしいんだけど……一応同格なのでやさしくして欲しい今日この頃。
  「おい愚図。あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ。お前みたいな奴は今の時期が一番やばいんだ。あまり浮かれるな。今は気を引き締める時期だ」
  「えっと……」
  あれれ?
  雲行き変わった?
  照れ臭そうにバーズさんは笑った。
  「お前は今まで俺が見てきた愚図にしちゃう最高の部類だ。まあ、足元掬われない程度にはしゃげ。いいな?」
  「はい。頑張ります」
  あたしは素直に頷いた。
  そうか。
  バーズさんなりにあたしを気遣ってくれてるんだぁ。
  嬉しいなぁ。
  「さてそろそろ仕事の話でもするとしようか」
  「仕事、ですか?」
  「おう」
  あたしは現在戦士ギルドの管理から離れてる。在籍こそしているものの離れてる。
  叔父さんの了承も得てる。
  見聞を広める為に今はフリーで動いてる。
  別に仕事はしてもいいんだけど……問題はタイミングが悪い。聖戦士の聖具探しの最中にあたしだけ抜けるっていうのも問題あると思う。戦士ギルドの
  仕事を軽視しているわけではないけど騎士団長という立場上、今はあまり仕事という形で抜けるのは良くないと思う。
  何か言おうとするあたしをバーズさんは制する。
  「ああ。分かってる。今のお前は騎士団長様だ。タイミングが悪いのは分かってる。だがこいつはギルドマスター直々の仕事だ」
  「ギルド……フィッツガルドさんの?」
  「そうだ」
  それは聞かなきゃいけないよね。
  戦士ギルドの任務から離れているとはいえ脱退しているわけではない。つまり私は戦士ギルドの人間だ。
  勅命任務であるのであれば。
  指示に従うのが普通。
  それに。
  それにギルドの運営は叔父さんがしてる。なのにフィッツガルドさんがわざわざ直々に指示を下しているという事はかなりの大事だ。
  あたしも動かなきゃいけない。
  「で? 聞く気になったか?」
  「はい」
  バーズさんがニヤニヤしながら聞いてくる。
  皮肉屋。
  だけど根は叔父さんと同じだとあたしは思ってる。
  つまり?
  つまり信用してる。
  わりと付き合い長いしバーズさんが悪い人じゃないのは分かってるつもり。
  「よし。受けるんだな、愚図。最初からそう言えばいいんだ」
  ……。
  ……た、たぶん、良い人だと思います。
  はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「そ、それでどんな任務なんですか?」
  「正確に戦士ギルドの仕事じゃねぇ。少なくとも本来の任務じゃあねぇな」
  「……?」
  「魔術師ギルドが主体となって動いている。この街の衛兵達も魔術師ギルドの指示で動いてる。うちもな。今回の山は魔道法により連中が主導権を持ってる」
  「魔道法」
  「当然、知ってるよな?」
  「魔法絡みの法律ですよね。それに違反した場合、帝都軍や都市軍ではなく魔術師ギルドが強権を発動できる法律……でしたっけ?」
  「概ね当たりだ。まあ魔法っていうのは被害が半端ないからな。で魔術師ギルドが強権を行使して対処するように元老院によって制定された法律だ。魔法は
  プロに任せろっていう意味合いだな。ともかく今回の任務は魔術師ギルドの支援ということになる。不服か?」
  「結局フィッツガルドさんが仕切るんだから特に支障はないです。ですよね?」
  「まあな。あいつは魔術師ギルドの親玉であると同時にうちの親玉でもあるからな。結局マスター命令だから特に問題はねぇ」
  「それでどんな任務なんです?」
  「最近この街では連続猟奇殺人事件が起きている」
  「猟奇殺人、ですか?」
  「全員目玉が抉られて死んでいる」
  「……」
  うわ。
  猟奇キターっ!
  「シェイディンハルの街を中心に起きている。他の集落にはまだ波及していないが周辺の街道を行き交う旅人や帝都軍巡察隊も犠牲となってる」
  「犯人の目処は?」
  「アホかお前は。魔道法が適用されてるんだ、魔術師に決まってるだろうが」
  「……」
  やっぱりこの人は口が悪いぞーっ!
  「魔術師ギルドの見解はこうだ。何らかの薬を使ってる奴が犯人だ。何故薬を使ったら両目が抉られるのかは知らん。ともかく犯人は複数いると連中は見てる。
  もしくは犯人1人、共犯複数という説らしい。どうも連中は戒厳令を敷いているな、情報が曖昧すぎる。まあそこはどうでもいい。俺らは犯人を捕まえるだけだ」
  「それはそうですけど、情報少な過ぎますよね」
  「確かにな。ただ魔術師ギルドが言うにはかなり大きな屋敷が必要なんだとさ、その薬の精製にはな」
  「つまり」
  「つまりこの街の金持ちとか貴族が関わってるらしい」
  うーん。
  確かに情報が統制されてる。
  魔術師ギルドの憶測だと探索の範囲はかなり狭められてる。真相に近付いていると言ってもいい。
  でも詳しい事は不明。
  この指示、フィッツガルドさんらしくない。
  「直接指揮を執ってるんですか?」
  「マスターがか?」
  「はい」
  「いや。マスターは別件でレヤウィンに向ったらしい。今もそこにいるかは知らんがな。今回はラミナス・ボラスとかいう奴が仕切ってるらしい」
  「なるほど」
  ラミナスさんかぁ。
  前に何度か会ったことがある。
  死霊術師の決戦の際に指揮を取ってた人だ。確かバーズさんもその際に会ったことがあると思うけど印象薄いのか当時は名前を知らないのかな?
  まあ興味がないだけかもしれないけど。
  「それで他に情報は?」
  情報が少ない。
  特定するには少な過ぎる。
  現在の情報はあくまで推測でしかない。金持ち、魔術師、キーワードはそれだけだ。真相をバーズさんが知っているとは思ってないけどもう少しキーワード、
  もしくは推測が欲しい。何しろバーズさんはこの街の出身者。あたしでは知りえない、知らない情報を持っているに違いない。
  「他に、か」
  「はい」
  「知らん」
  「はい?」
  「何の為にお前に命令してると思ってるんだ。てめぇで勝手に探せ、この無駄飯ぐらいが」
  「……」
  すいません1発殴っていいですか?
  相変わらずだなぁ。
  おおぅ。
  「俺は何も知らんぞ。首が危うくなるからな」
  「首が?」
  妙な言い回しだ。
  バーズさんはあたしから視線をそらして、呟く。
  「リバービュー邸では連日ドンチャン騒ぎだそうだ。知ってるかは知らんがこの街ではしばらく前まで悪徳衛兵隊長が幅を利かしていた。まっ、罪が明らかに
  なって帝都の監獄に送られ、その後は脱獄して最悪な末路になったけどな。そいつが幅を利かしてたときでもリバービュー邸はお咎めなしだった」
  「……」
  「ウルリッチは強欲だったよ。貴族だろうが高官だろうが構わずに賄賂を強要してた。それでもリバービューの野郎は安全だった」
  「……」
  あたしは質問しなかった。
  何故?
  だってこれはバーズさんの独り言なんだから。
  聞きながらあたしは何となく読めてきた。
  ウルリッチって人は直接知らないけど賄賂の鬼みたいな人だっていうのはこの街に滞在してから何度か聞いた。バーズさんの独り言のように貴族だろうが
  高官だろうがお構いなしだったみたい。リバービュー邸のことも何度か聞いた、この街最大の貴族で資産はシェイディンハル伯爵を超えるという。
  そんな人から何故毟り取らなかったのか?
  簡単だね。
  そんなを出来る相手ではなかったということだ。
  法を執行する役職を悪用したとはいえ衛兵隊長は衛兵隊長だ。限界がある。おそらくリバービュー邸は法が適用されない……んー、語弊があるかな、訂正、
  法が適用しにくい相手だということかな。中央、つまり帝都と繋がりがある貴族なのか、もしくは……。
  「伯爵家と繋がりがある」
  あたしは独語する。
  そうか。
  バーズさんが公然と批判するのを避ける以上、この街縁の権力者。つまりリバービュー邸は伯爵家と関係がある?
  考え込むあたしを尻目にバーズさんは手を挙げた。
  「じゃ、後は任せるぜ」
  「分かりました」
  九大神の騎士団を率いてこの街に来たのは聖具の情報収集。でもあたしは戦士ギルドでもある。
  任務はこなさないとね。
  それがギルドの掟。
  そしてあたしという存在の定義、信条。
  久し振りになじみのフレーズを口にした。同じ戦士ギルドのバーズさんに言うにはいささか意味が違う気がするけど。
  「戦士ギルドにお任せを」