天使で悪魔
不気味な結末
誰もが待っている。
解決の時を。
南方都市レヤウィン。
マリアス・カロ伯爵が領主として治める都市。
呪われているのかただの偶然なのか。南方都市レヤウィンは様々な動乱が立続けに起きていた。
深緑旅団戦争。
ブラックウッド団による帝都転覆未遂。
ソウルイーター襲撃。
様々な動乱がレヤウィンを疲弊させた。
火災により家屋の半分は焼失。
伯爵の失政。
特に深緑旅団戦争の際に真っ先に逃亡(側近にも告げずに抜け道から単身で逃亡)したことにより批判の声が上がっている。動乱の損失だけではなく
為政者の対応のまずさによって税収の低下、人心は荒れ、それだけではなく自身の失政を部下であるシーリア隊長に押し付けた。
結果シーリア・ドラニコス隊長は解任、追放。
それに異を唱える衛兵達は次々と退職。
残った衛兵達も既に職務怠慢(これ以上の衛兵が退職すると街を維持できなくなるので怠慢でも伯爵が見て見ぬ振りをすると踏んで)をしている。
街は完全に機能していなかった。
だから。
だから奴らは来たのかもしれない。
だから……。
まだら馬2頭が曳いた馬車が城の前に止められていた。
貴人が乗るような代物ではなく旅の商人が使うような馬車。荷台を見る。パッと見では城に食料を納める為の馬車みたい。
おそらくハーたんが城を魔法で半壊させた際に乗り主は驚いて逃げて馬車だけ放置されているって感じかな。
ともかく助かった。
レイナルドさんを運ぶのも聖戦士の聖具を運ぶのも大変だから馬車があれば楽。
ハーたんは笑う。
「私の日頃の行いが良いからよね。ラッキー♪」
「……」
無邪気に笑うハーたん。
あたし?
あたしは一応無言。
確かに良い子なんだけど……わりと日頃の行いは……微妙な気がする。わりとあたしに辛辣だもんなぁ。
はぅぅぅぅぅぅっ。
「アリス、何考えてるの?」
「う、ううん。別に」
「さっさと背中のナマモノを馬車に乗せてよ。ほんとアリスって愚図なんだから。あたしの姉じゃなかったら今頃芋虫にしてるところよ。私の姉であること感謝してよ」
「は、ははは」
ツンデレってわりと最悪ーっ!
と、ともかく。
あたしはハーたんの呪いで仮死状態のレイナルドさんを場所に乗せた。
誤爆?
うーん。
ハーたんって掴みどころないからわざとなのかも(汗)
「誰も来ないね」
あたしは呟く。
追っ手はない。大広間の時点で既に衛兵は打ち止めらしく誰も追ってこない。
でもこの静けさは異様だ。
静寂。
静寂。
静寂。
ただ、この静寂は嵐の前の静けさといった感じで余り心地良くない。
あたし達は大広間以降まったく誰とも会わずにレヤウィン城のここまでやって来た。
何だろ、この嫌な感じは。
「ハーたん、どう思う?」
「分かんない」
「分かんない?」
「私を神だと思ってる? 必ずしも全部分かるわけじゃないよ。……まあ、奴隷のアリスにしてみたら私は神だろうけど。這い蹲って足舐めろ♪」
「うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああこの子最悪だーっ!」
「最悪って……アリス5ポイント減点」
「げ、減点?」
「合計で10ポイント減点でアメーバーまで退化させてやるから覚悟してね、大好きな大好きなアリスお姉ちゃん♪」
「……あたしも大好きだから勘弁してください……」
「仕方ないなぁ。本当に仕方ないなぁ。今晩手を繋いで寝てくれたから特別に許してあげようかなぁ」
「……」
可愛いんだけどツンデレって面倒だーっ!
はぅぅぅぅぅぅぅっ。
「ところでアリスは馬車は扱えるの?」
「大丈夫。ずっと前に戦士ギルドの仕事で引越しの手伝いしたことあるの。馬車での運搬はあたしの任務だったから」
「それ戦士ギルドの、戦士の仕事?」
「び、微妙」
やれやれというようなニュアンスで彼女は首を振って馬車に乗り込んだ。
あたしも乗り込む。
……。
……だけど勝手に借りて大丈夫かな?
ごろごろと車輪は音を立てて前に前にと進む。
あたし達はレヤウィンの街を馬車で走る。
人通りは少ない。
というかまったくない。だからスピードを出しても特に問題はない。……もっとも、そもそもあんまりスピード出ないけど。
人がいない、多分それは治安の問題だと思う。
夜間は物騒。
衛兵が仕事を放棄しているので現状では戦士ギルドと魔術師ギルドが治安維持をしているようだけど人手が足りていない。どちらのギルドも大きな
動乱があったからだ。ブラックウッド団、黒蟲教団との戦いで双方のギルドは奇しくも大幅に人員が減ってる。
だからおそらくどちらもレヤウィンに送れる戦力は限られている。
その為完全に治安維持出来ていない。
それが夜間の通りに人がいない理由だと思う。
……。
……ま、まあ、現在のところの最大の理由はハーたんが城を吹っ飛ばしたからだと思うけどね(汗)。
城を半壊させるほどの爆音を聞けば誰だって閉じ篭ります。
あとから修理代請求されても払えないなー。
お、叔父さんに殺されるーっ!
はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
「アリス、次の通りを右ね」
「分かった」
馬車を走らせながらあたしは頷く。
えっと、ここを右ね。
それにしても……。
「魔法って便利だね」
「まあね」
現在あたし達はシシリーさん達と合流するべく宿屋に向ってる。問題はその場所をあたし達が知らないってことなんだけど、ハーたんはギルバードさんが
持っている聖戦士の聖具の魔力の波動を感知、そうすることであたし達はシシリーさん達の場所が分かる。
「……おかしいなぁ」
不思議そうにハーたんは呟いた。
「どうしたの?」
「聖戦士の聖具の数は足りない。ブーツの波動だけ……聖堂の方。聖堂にはブーツを含めて3つの聖具の波動がある」
「シシリーさん達?」
「違う。聖堂で感じる波動はブーツ以外はこちらの手持ちじゃない」
「じゃあ……」
何だろう?
意味が分からない。
もしかしたらロドリク卿が率いている騎士団かもしれないなとは思った。ロドリク卿も聖具を集めているからあたし達が入手できなかった物を持っていても
おかしくないし、おそらく聖堂で新たな聖具を手にしたにしても話は成り立つ。でもどうしてブーツがそこにあるんだろ?
シシリーさん達も聖堂にいる?
それはないと思う。
ブーツ以外の他の聖具を残して聖堂に行くとは考えられないしシシリーさんとギルバードさんが別れて動いているとも考えにくい。
ブーツが聖堂にある理由が分からない。
不思議。
「ここよ。到着」
「うん」
あたしは馬車を止める。
荷台のレイナルドさんはまだ仮死状態。正確にはハーたん曰く「時間を止めている」状態みたい。馬車からあたしは降りる。
「アリス、抱っこして降ろして」
「はっ?」
「昇り降り大変なの」
「ふふ。そうだね」
乗る時も一苦労だったもんなぁ、ハーたん。
受け止めようとした時……。
「ア、アリスっ! 大変よっ!」
宿から転げるようにしてシシリーさんが出てきた。
血塗れで。
「ど、どうしたんですかっ!」
「さ、探しに行こうと思ってたところなのよ。た、大変よ。色々と大変だから……何から話していいか……っ!」
「落ち着いてください」
冷静にあたしは言う。
こういう時は落ち着きを払った方がいい、フィッツガルドさんとの付き合いであたしはそう学んだ。
「落ち着いてください」
もう一度言う。
シシリーさんは何度も勢いよく頷き、深呼吸。
「どうしたんですか?」
「レイナルドが裏切ったのよ奴はロドリク卿に聖戦士のブーツを売り渡したっ!」
「……えっ?」
意味が分からない。
何故ならレイナルドさんはここにいるし、そしておそらくあたしが投獄される前には既に牢獄にいた。売り渡せる時間なんてなかった。
そしてあたしは既に知っている。
ドッペルゲンガーの存在を。
つまり……。
「お粗末ですね」
「アリス?」
「あたしの目を節穴だと思ったんですかっ!」
「うん。節穴だね」
「はっ?」
ハーたんは荷台の上でシシリーさんを見てる。
「その人は本物だよ」
「えっ?」
本物なの?
状況が飲み込めていないシシリーさんも、あたしが何かを勘違いしている事に気付いたらしい。
「アリス何か申し開きがあるなら頭が高いんじゃない?」
「うにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああシシリーさんすいませんでしたーっ!」
「毛虫を眉毛の代わりにしてあげるから覚悟することね」
「……地味に辛いですそれは。すいませんでしたごめんなさいっ!」
「まあいいわ。それより……つっ!」
シシリーさんは倒れた。
血煙を上げて。
後ろから斬られたっ!
「シシリーさんっ!」
「だ、大丈夫よ」
斬られる瞬間にわずかに体をずらしたから致命傷ではないけど……無視できる容態じゃない。
魔剣ウンブラを抜き放つ。
タッ。
あたしは駆ける。
そしてシシリーさんを斬った相手に斬り込む。相手は思ってたよりも素早い動きで後ろに飛んだ。
「……」
構えたままあたしは相手を睨みつける。
レイナルドさんだ。
レイナルドさんがいる。ショートソードを2本持ったレイナルドさんがいる。
「ハーたんっ!」
「そいつは偽者だね。荷台にいるのが本物」
「シシリーさんをお願い」
「うん」
最初の切り込みは別に偽者を倒す為ではなくシシリーさんを護る為。こいつがシシリーさんにトドメを刺すにはあたしをまず倒すしかない。
壁になるのが目的。
だから不用意には踏み込まずに留まった。
ズルズルとシシリーさんを引き摺るハーたん。遠ざけてくれた方が戦い易いしシシリーさんの治療も出来る。
任せたよ、ハーたん。
「何者ですか?」
「何者ですかぁって俺はレイナルドだぁ。酔っ払ちっまったぜぇ」
「何者ですか?」
「しつこいしつこいきひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!」
異様な笑い声を上げて偽者は飛び掛ってくる。
二刀流。
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
二刀流で乱撃してくる偽者。
あたしはそれを魔剣ウンブラで受け流す。剣の数が多いから向こうの方が手数は多いけど鋭さは特に無い。
一歩、一歩とあたしは後退。
相手は乱撃してくる。
もちろんこれはわざとで相手の隙を突く戦法。
ぞくっ!
背筋が凍る。
殺気が突然後ろで膨れ上がった。
「指輪泥棒だー、なんてね。きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!」
ど、どういうことっ!
敵がいきなり増えたっ!
あたしは背後からの殴り掛かってきた指輪おばさんに蹴りを叩き込み、偽者レイナルド&指輪おばさんから距離を保つ。
シシリーさんに治療を施しながらハーたんが言う。
「ネズミがいきなりそいつになった」
「ネズミが?」
「迂闊だった。というか知らなかった。まさか動物にも変身できるなんて。アリスごめん」
「気にしないでハーたん。特に面倒な展開じゃないから」
そう。
特に面倒ではないと思う。
あたしの逮捕のきっかけになった指輪おばさんの容姿を持つドッペルゲンガーは無手。変身しても武器の調達はまた別問題みたい。ハーたんに聞いた
説明ではこいつらは魔法は使えない。コピーした相手の能力はスキルしていても使ったと同時に死んでしまう。
だからそう怖くはない。
「……」
『きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!』
慎重に相手を見据える。
慎重に。
一番先に倒すべきは偽者レイナルド。無手の指輪おばさんは次に倒す。もちろん偽者レイナルドの武器をあいつが手にする前に。
頭の中でシュミレーション完了。
タッ。
あたしは駆ける。
その瞬間に偽者レイナルドの姿形が変わった。
「虚空斬波っ!」
リリスっ!
ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
2本の剣から放たれた剣圧にあたしは吹き飛ばされる。
まさかリリスの姿もコピーしていた後なんて。
そしてまさか自分が死ぬのを覚悟で使ってくるなんて想定していなかった。リリスの姿を写し取る、それはつまりこれは黒の派閥の差し金?
もちろんそうとも言い切れない。
ドッペルゲンガーが街にずっと巣食っていたのであれば、そして普段は市民として徘徊していたとすれば。
通りでリリスとすれ違っていてもおかしくない。
デュオスやヴァルダーグの姿も写し取っていたとしてもおかしくない。
……。
……前言撤回。
厄介です。
リリスに変身した奴は技を使ったと同時に溶けて完全に液体と化していた。
残りは一体。
「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!」
あたしの動揺を衝いて指輪おばさんが武器を拾って斬りかかってくる。
魔剣ウンブラを手に立ち上がる。
あ、あれ?
手には何もない。
どうやら吹き飛ばされた際に剣を手放してしまったらしい。
視線を巡らせて探す。
「アリスお姉ちゃんっ!」
ハーたんの声が響く。
指輪おばさんが剣を片手に迫ってきていた。
魔法を放つには距離が近過ぎる。
巻き込まれるのが怖いんじゃない、この距離だとまず当たらない。放つ瞬間にあたしの懐にもぐりこむ、大体そんな距離。それに巻き込まれるほどの
威力はあたしの煉獄にはない。フィッツガルドさんの煉獄の五分の一程度の威力。巻き込まれようがない小爆発。
あたしは手を地面に向ける。
「煉獄っ!」
ドカァァァァァァァァァァァァァンっ!
小爆発。
爆炎と土煙が周囲を支配する。
目くらまし。
ぶわっと煙を掻き分けて指輪おばさんがあたしに挑みかかってくるものの、煙を掻き分ける動作で位置が丸分かり。あたしはパンチを叩き込む。
「ぐぅっ!」
呻いてふらつく指輪おばさん。
武器をあえて奪おうという危険なことはしない。あたしは目くらましの外に出る。
魔剣ウンブラは一メートル先に落ちている。
視認。
そして走る。
魔剣ウンブラを拾い、あたしに向って再び突進してくる指輪おばさんに対して構えた。
迎え撃つっ!
「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!」
「相手をしてあげますっ!」
指輪おばさんは剣を振り上げ、そしてあたしに目掛けて振り下ろす。
「はあっ!」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
澄んだ音を立てて刃が飛んだ。
魔剣ウンブラで相手の剣を両断。それでも指輪おばさんの顔には闘志は消えていない。顔には……。
「あたしアリス。よろしくね♪」
「なっ!」
一瞬にしてあたしの顔になる。
さすがに目の前に自分が現れたので驚き、そのわずかな隙で指輪おばさんは……いえ、偽者のあたしは間合いを取った。
偽者レイナルドさんのもう1本の剣を拾って展開は元に戻る。
わりと面倒だな、この敵。
あたしは相手を見ながら対峙する。
もう1人のあたしは魔剣ウンブラ以外は同じ格好。鉄の鎧を着てる。ただあれは見映えだけなのか鉄の鎧の防御力があるのかは謎。
まあいいかな。
魔剣ウンブラなら鉄の鎧を着てても意味がない。
「元気一杯な戦士として売り出し中。憧れの人はフィッツガルドさん。剣の修行に励むあたしは18歳。胸の小ささは局地的敗北だから気にしなーい♪」
「うるさーいっ!」
ドカァァァァァァァァァァァァァンっ!
相手に向って煉獄を放つものの回避された。
こいつ思ってたより機敏っ!
「きひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「忘れられては困るね」
偽アリスの背後には斧が深々と突き刺さっていた。
斧を投げた相手を恨めしそうに見ながら偽アリスはその場に崩れ落ちた。そして溶けていく。
「ギルバードさんっ!」
「騎士団長、すまなかった。まさか弟が……偽者だったとは……不覚だったよ」
ところどころ傷を負ったギルバードさんは苦痛を噛み殺しながら言う。
よかった。
無事だったんだ。
「う、ううん」
シシリーさんが呻く。ハーたんの回復魔法で意識を取り戻したらしい。
ハーたんは肩を竦めた。
「これが限界かな。私は回復魔法は得意じゃないから。で? あんた元気?」
「世話を掛けたわね……ってアリス、気をつけてっ! そいつは……っ!」
「偽者の片割れよー♪」
「……っ!」
ギルバードさんはシシリーさんに変身してあたしに飛び掛ってくる。
手には小振りのナイフ。
魔剣ウンブラに比べるとお粗末な武器。それでも刃物は刃物。
「我ハーマンの名の元に命じる。死せる者に毒蛇の報いを」
「ぐべごべばぁーっ!」
「私の所有物のアリスに手を出そうだなんて百億年早い。精々苦しんで死ぬのね、お馬鹿さん♪」
肉を食い破って2匹の毒蛇が現れる。
監獄の時と同じだ。
偽者は全身を食い破られながら苦悶のうめきを発している。
シシリーさんが微かに震えて呟いた。
「毒蛇の法か。カラーニャ様だってこんな陰険な外法は使わなかったってのに……」
カラーニャ?
ああ、そうだった。
シシリーさんは死霊術師だったっけ。そういえば昔所属は黒蟲教団とか言っていたなぁ。当時は意味が分からなかったけどカラーニャの部下なのか。
巡り合せが悪ければあの決戦の時に敵だったのか。
そう考えると怖いな。
「ハーたん、ありがとう」
「別に無問題よ。その気になればこんな変身簡単に見破れる。二番煎じが私に通じるわけないのにこいつら馬鹿だよね。それよりも……」
「……?」
「逃げた方が良さそうね。衛兵が出張ってきた。多分あいつらは本物。城を半壊させたのがばれるとアリスだけ死刑だし」
「な、何であたしがっ!」
「妹の罪は姉の罪、姉の罪は姉の罪♪」
「……どこのジャイアニズム?」
はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
こうしてあたし達は馬車(積荷は置いてきた)に乗り込んでレヤウィンを後にした。
あの街がどういう状態なのかは不明。
どうしてドッペルゲンガーが多数潜伏していたのかも分からずじまい。
調査しようにも城を半壊させているので滞在は不可能に近いし当分は近付けない。
だから結局真相は闇の中。
シシリーさんの傷は癒え、偽者レイナルドにシシリーさん同様に襲われたギルバードさん(宿屋の一室で気絶していた)も復活。
ただレイナルドさんは今だ仮死状態(笑)
聖戦士の聖具に関しての損失は大きい。
ブーツはロドリク卿に売却(偽レイナルドによって)され、手にしたブーツにより彼らはメイスを手に入れた。既にグリーヴも手にしている。
対してあたし達の手元にはキュイラス、小手、兜。
残りは盾と剣。
分割という形で所持している聖戦士の聖具をどうするかという将来的にどうするかという問題も残ってる。
勇者は今だ現れない。
だけど魔術王ウマリル復活を目論む蒼天の金色は確実に暗躍している。ルミナス卿率いる一団が聖堂を襲ったらしい。まだ戦力を保持していたのも
驚きだけど連中は既に形振り構ってない。この先どんな妨害をしてくるかは分からない。聖堂に関してはロドリク卿に追い払われたらしいけど。
そして。
そしてかつての剣友がロドリク卿に従っていることをあたしはシシリーさんから聞いた。
マゾーガが向うにいる。
今後どうなるのだろう?
今後……。
レヤウィン城。
城壁の上。
「よろしいのですか若、返してしまわれても?」
「魔力は足りている。ここで聖戦士の聖具を強引に奪えば騎士団も関わってくる。……いや、鷹の目のダンマーが関わってくる。奴は、強すぎる」
「ダンマーの魔術師もですね?」
「そうだ。それにタネは撒いた。聖戦士の聖具を手に入れる手筈はしてあるさ」
城壁に立つ者、黒の派閥の総帥デュオス。
その腹心<モロウウィンドの英雄>ヴァルダーグ。
そんな彼らの後ろに無数の人々が集まってくる。
城には一般人の立ち入りは禁じられている、にも拘らず城壁の上には衛兵だけではなく老若男女の市民もいた。
デュオスは彼らに向き直った。
そして笑う。
「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!」
『きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!』
彼ら彼女らの姿は一定ではなく次々と変わっていく。
南方都市レヤウィン。
人ならざる者達が住まう都市。
既に入れ替わってしまっている。本物と偽者が。
その都市、擬人街。