天使で悪魔






2つの騎士団







  勇者と呼ばれるべき者が2人いる。
  選ぶのは誰?






  「こんなもんかなぁ」
  あたしは大きく伸びをする。
  うー。
  労働したぁ。
  お庭のお手入れ終了。
  これで大分見映えが良くなったなぁ。体を照らす陽光が気持ち良い。
  ここは九大神修道院。
  地理的にはスキングラードの管轄だけどかなり人里離れている。
  「アリス」
  「あっ。シシリーさん」
  「内装も終わったわ」
  「ご苦労様でした」
  あの後。
  魔王メリディアを崇拝する邪教集団<蒼天の金色>の襲撃をコロールで退けた後、あたしはここに足を運んだ。
  こここそが九大神騎士団発祥の地。
  復活を果たした(とされている)魔術王ウマリルを倒すべき者達が集う場所。
  既に篭手、ブーツ、キュライス、兜、合計4個の聖具を手に入れた。
  幸先良いなぁ。
  仲間も出来たしね。
  シシリー卿、ジェメイン兄弟、そして妹のハーマン。騎士団のメンバー。
  ……。
  ……問題はまだ勇者様が現れていないことかなぁ。
  神々の聖具は手に入ったけどそれを身につける者がいないというのもあれだなぁ。
  「アリス」
  「はい」
  「そろそろ腹を決めたら?」
  「……?」
  「あんたが勇者でいいんじゃないの?」



  修道院に入って今後の行動について仲間と話し合うべくあたし達はテーブルを囲んでる。
  掃除や修繕は終わり。
  畑も耕してるし花壇の手入れも終わり。
  長い年月ここは放置されていたけど少しずつ自給自足の状況になりつつある。
  まあ、完全なる自給自足はしばらく先だろうけど。
  野菜が実るには当然時間が掛かるわけで。
  現在はスキングラードから物資を購入して衣食住に回してる状況。全員分の馬も購入したし、お揃いの武具と防具も揃えた。
  とりあえず騎士団としての体面は保ててる、かな。
  鍛冶場も作ったし職人もいる。
  武具と防具はそこで生産された。武器は銀製の剣。これは既存の銀の剣と同じフォルム(ただし銀の比率が異なるので既存の物より強度が高い)だけど
  鎧と盾は完全なるオリジナル。正確には旧九大神の騎士団の防具を元にしたフォルムになってる。
  予算の出所は戦士ギルド。
  叔父さんが特別に予算を組んで出資してくれた。
  応援されてるんだなぁ。
  頑張らなきゃ。
  あっ、今さらだけど呪いのレオタードも猫耳も前回までの展開なので今回はその流れを引き摺ってませんし装着してません(笑)。
  あしからず。
  さて。
  「今後どうしましょう?」
  あたしは誰に言うでもなく呟いた。
  テーブルを囲んでいるのは4名。囲んでいるのはあたし、ジェメイン兄弟(兄ギルバートさん、弟レイナルドさん)、シシリーさん、この4名。
  ハーたん?
  さっき自分の部屋でゴソゴソ何かしてた。
  何してるんだろ。
  「今後どうしましょう?」
  もう一度呟く。
  ジェメイン兄弟、シシリーさんはあたしの顔を見て唖然としてた。
  ……。
  ……唖然と?
  何で?
  「アリス」
  「はい。何ですか、シシリーさん」
  「だから外でも言ったけどあんたが勇者でいいんじゃないの? ……いえ、むしろあんたが勇者じゃないと困るんだけど?」
  「どうしてですか?」
  「はあ」
  溜息。
  同様にジェメイン兄弟も等しく頷いた。
  何故に?
  「シシリーさん」
  「あのね、あんたが勇者じゃないと困るでしょ。あんたを見込んで集まったんだからさ、私達は」
  そういうもんなんだろうか?
  地下の霊廟にいるアミエル卿達は誰が勇者かまでは知らないみたいだし、どうやって探せばいいんだろ。時期が来ればこの場に現れるのだろうか?

  「アリスにそんなこと言っても無駄。基本的に欲がないお人よしなんだから」

  ハーたん登場。
  外套を纏ってる。ハーたんのお気に入りの外套だ。
  「出掛けるの?」
  「見た通りだけどそれが何か?」
  「……」
  クールな妹様です(泣)
  淡々としてるなー。
  あう。
  「それでどこ行くの?」
  「モルグ」
  「モルグ?」
  「それってアイレイドの遺跡のことよね?」
  シシリーさんがハーたんに言う。
  博識だなぁ。
  あたしなんてアイレイドの名前を覚えられない。だって舌噛みそうだしややこしいし。元々アイレイド語が語源となっているから仕方ないのかもしれないけど。
  「そうよねハーマン?」
  「だったら?」
  「あそこには何もないはずよ。遺跡の廃墟すらない。スキングラード伯によって異界に封印されたからね。白骨のザギヴと一緒に」
  「だったら?」
  「何しに行くのかしら」
  「干渉するつもり? だったら意味ない。私は誰にも縛られないもの」
  ……。
  ……すいません仲悪いんですけどこの2人ここに住みだしてからずっと。
  何なんだろ。
  インテリ同士だから?
  うーん。
  「ハーたん」
  「もう、何よ」
  「何しに行くの?」
  「外法使い狩り」
  「はっ?」
  「あの近辺にザギヴって奴の手下が集結するの。ちょっと狩ってくる。じゃ」

  フッ。

  手を振るとハーたんの姿は掻き消えた。
  シシリーさん呟く。
  「空間転移か。……あの幼児、やるわね……」
  何なんだろ、シシリーさんとハーたんの関係。
  ライバル意識?
  うーん。
  「まああんな餓鬼放っておいて話を先に進めましょう」
  「餓鬼って……」
  あたしの妹なんですが。
  「巷では九大神の騎士団が再建されたって評判なの知ってる? 黒馬新聞に載ってたけど」
  「知りません」
  「2つ再建されたって評判よ」
  「2つ?」
  「どうやらもう1つ存在してるみたい。そしてここからが本題。その騎士団がレヤウィンに向ってるわ」
  「レヤウィンに?」
  「ええ」
  シシリーさんは頷いた。
  「どうしてですか?」
  「有名な話よ。レヤウィンのゼニタール聖堂には聖具があるって評判なの。今まで誰も見つけられなかったけど行ってみる価値はあるわ」
  「聖具が?」
  「ええ」
  レヤウィンかぁ。
  聖戦士の遺物がレヤウィンにあるらしい。
  向かう?
  向かうべきだと思う。
  魔王メリディアを信奉する<蒼天の金色>の動きも気になるし、どういう理由で同盟組んでいるのかは分からないけど<レリックドーン>という
  盗掘集団も動いているこの状況なわけだから聖戦士の遺物をあたし達が押さえる必要がある。
  「……レヤウィンか」
  呟いたのはシシリーさんだった。
  誰に対しての呟き?
  きっと自分に対してだと思う。
  レヤウィンは白馬騎士団発足の場所であり、あたしとシシリーさんにとっては追憶の場所。
  深緑旅団との激戦があった都市だ。
  シシリーさんはあの戦いで最愛の人レノスさんを失った。
  色々と思うことがあると思う。
  あたしだってそうだ。
  ……。
  ……いや。むしろあたしの方が追憶多いかな。ブラックウッド団絡みであまり好きな都市ではないかな、レヤウィン。それでも一時期は戦士ギルドの
  レヤウィン支部長として出向してたけどやっぱり追憶に縛られてしまう。ヴィラヌスを始め大勢がブラックウッド団に殺された。
  やっぱり行けば思い出すし、やっぱり辛くなる。
  それでも。
  それでも向かう必要はある。
  もう1つの騎士団が気になるし協力し合えるかもしれない。

  レヤウィン。
  ゼニタール聖堂。
  そこに神々の加護を受けたメイスがある。
  「アリス、指示を」
  「はい」
  シシリーさんに促され、あたしは頷く。
  形はどうであれ総意で騎士団長に推された。あたしが相応しいかどうかはともかく推された以上は、引き受けたいと思う。
  それに確かに集団を纏める役は必要だろう。
  「九大神騎士団、出撃しますっ!」
  『おうっ!』


  九大神騎士団、レヤウィンに遠征。