天使で悪魔
魂の記憶
刻まれている。
全ての記憶は、その魂に。
<蒼天の金色>
<概要>
魔王メリディアを信奉するカルト教団。
創設は320年前。
オブリビオンの魔王を信奉する組織の中では動員力は<深遠の暁>に次ぐ。構成員は魔術師が多い。
主な活動はアイレイドの遺跡に潜って研究をしている事が多い。
不用意に遺跡に侵入してきた者に対しては敵意を剥き出しにして排除、抹殺する。
冒険者達からは<コンジュラー>と呼ばれ恐れられている。
組織のイメージカラーである蒼い法衣に身を包んでいる。
<指導者>
フルネームはルミナス・ヴィラ・ウィライン。アルトマーの男性。
蒼い法衣を纏い、フードを被っている。
通称ルミナス卿。
元々は魔術師ギルドに属していた魔術師であり評議会のメンバーだった。しかし10年前に大学を出奔し蒼天の金色に入信、卓越した魔道の才能と
政治性を駆使して組織の頂点に立つ事になる。元々は九大神を篤く信奉していた。
<組織力>
所属の魔術師は200〜300と言われている。
大抵は遺跡に潜っているものの一般人として各地の都市に潜んでいる者も多い。
実戦派の魔術師は少なく、研究肌の魔術師が多数であり動員出来る人数こそ多いものの<深遠の暁>よりも質は劣る。
<復活した魔術王ウマリルに対しての関係>
魔術王ウマリルが魔王メリディア配下の魔人となっている為、臣従の態度を取っている。
現在はまだ満足に動けない魔術王ウマリルに代わって聖戦士装備の発見と破壊の任務を実行中。
特に魔術王に対して忠誠心は持っていない。
あくまで信奉する魔王メリディア支配下というラインに魔術王がいる為に従っているだけであり完全なる従属ではない。
<盗掘集団レリックドーンとの同盟関係>
遺跡発掘能力を買っているので同盟を組んでいるだけであり信頼関係は皆無。
ただレリックドーン側は聖戦士装備に込められた魔力を欲しており(魔力を抽出したら聖戦士装備はただのガラクタとなる)双方の利害は一応は一致し
ている為、関係性は友好ではないものの敵対とまでは行っていない。
蒼天の金色は魔術師戦力なのでレリックドーンの鎧戦士を戦力として借りている場合が多い。
<レリックドーン>
<概要>
盗掘集団。
主にアイレイドの遺跡を荒らしている。
ウンバカノを始めとする個人コレクターから魔術師ギルドに至るまで、アイレイド遺跡に関する人々からは<三流の盗掘家>として認識されている。
発掘能力は高いが基本的に武力で横取りというスタンスを取っている。
レリックドーンの結成は非常に古く、一説ではアイレイド文明崩壊直後には存在していたとも言われている。
あまり歴史の表舞台には出てこない謎の組織。
<指導者>
車椅子の老紳士。
正式名称は不明でありその素性も不明。
ただ莫大な資産を持つ資産家との噂もあるが根拠は不明。
<組織力>
ドワーフ製の鎧に魂を込めたリビングメイルの戦士を基本戦力としている。
その数は不明。
リビングメイル技術は魂を込めた鎧の質によって能力が上下し、また鎧一式を揃えるという資金的な問題から現在は廃れている一昔前の死霊術。
古臭い過去の技術をわざわざ引っ張り出してきた真意は謎に包まれている。
基本戦力は鎧戦士ではあるが、中身がいる(人が入っている)鎧戦士も存在している。
また、<車椅子の老紳士>の側に侍っている女性達は強力な魔術師。
戦力のバリエーションは蒼天の金色を超えている。
<魔術王ウマリルに対しての関係>
レリックドーンは宗教組織ではなく、また魔王メリディアの信奉にもまったく関与していないので魔術王ウマリルに対して特に何の感情も抱いていない。
ただしそれは組織としての立場であり<車椅子の老紳士>自身は魔術王ウマリルを見下している。
<蒼天の金色との関係>
聖戦士装備に関しての知識を蒼天の金色は保有しているので現在同盟を締結している。
レリックドーンは聖戦士装備に込められた魔力を欲しており、それを得る為の見返りとして蒼天の金色に戦力を貸し与え、聖戦士装備発見の為に遺跡
の調査などを全面的に行うなどの援助をしている。
蒼天の金色&レリックドーンの混成部隊が叔父さんの家を襲撃して3日後。
あれ以来、連中は姿を見せなくなった。
まあ、あれだけハーたんに完膚なきまでに壊滅させられれば次の部隊を派遣してくる根性はないと思うけどね。
禁術って怖いなぁ。
「ねぇアリス」
「何?」
うららかな午後。
あたしはハーたんと一緒に叔父さんの家で過ごしている。叔父さんは戦士ギルドの仕事でギルド会館に行ってる。あたしも戦士ギルドのメンバーだけど
現在は休職中な感じかな。武者修行の為にレヤウィン支部長の地位も返上したし。
それに。
それに体がだるい。
どうもステンダールの呪いが影響してるみたい。
その関係でここ3日ほどはお休み中。
あたしはベッドに横になってハーたんの診察を受けてる。
「起きていいわよ」
「うん」
身を起こす際に手近に置いてあったシャツを手に取って、着る。最近は気候は良いけど、家の中だけど、半裸だとやっぱり寒い。それとも呪いだから?
ゾクゾクする。
うーん。
「診断結果、聞きたい」
「うん」
「妊娠八ヶ月だね」
「はっ?」
「元気なアルゴニアンの子供を生んでね」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーっ!」
「うるさいアリス」
「……」
毎日毎日弄られてますこれがあたし達の姉妹愛。
麗しい愛だなぁ☆
……。
……そんなわけないですね(泣)。
はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
「ごめんねアリス。せめてカジートが良いよね?」
「すいません出来たら話を先に進めて貰ってもいいですか?」
「おやまあ妹に敬語ですか? 私、お姉ちゃんは人には媚びない気高い人だと思ってた。なんか残念だな。首括って死ねば?」
「……」
うるうる。
最近涙もろい今日この頃。
「また泣くの? はいはい、飴ちゃんあげるから泣かないで」
赤い飴を受け取る。
口に入れるととても甘い。リンゴ味かなぁ。
……。
……この子、優しいんだか意地悪なんだか謎なんですけど。
うーん。
まあ、中間って事で。
「さてアリス。この3日あんたの体を隅々まで調べた結果、あんたは敏感肌と判明しました。良かったね不感症じゃなくて。てか敏感過ぎるのもあれなんですけど」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
「うるさいよアリス。姉じゃなかったらぶっ飛ばしてるところよ」
「……」
はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
「アリス。牛乳飲みなって。カルシウム足りないから怒りっぽいんだよきっと。いい? 今日から毎日10リットル飲みなさいよ」
「……多いんですけど」
「血液が全部牛乳になるまで飲みなさい。これ命令」
「……」
横暴です。
横暴ですこの妹ーっ!
「だ、だけどハーたんも大丈夫? この間腕が干乾びてたし」
「禁術や禁呪って魔力の消費量が半端じゃないの。アリスの豆鉄砲の消費が1だとして、私が敵を炎上させた禁術は消費量10000だから」
「えっ!」
「だからこの間のはぐれ魔術師のダンマーから魔力を没収したように、魔力を増強してるってわけ。そもそもアイレイドの遺産である禁術や禁呪の類は今の
魔法とは系統が別物だと思った方がいい。フェレットガルドとかいう奴が有名みたいだけど、私とは別枠のジャンルね」
「ふぅん」
フェレットガルドって……フィッツガルドさんなのかな。
「ハーたん、あの炎上って炎の魔法?」
「相手の体を人体発火させただけ。鎧を溶かしたのは、まあ、お茶目心かな」
「そ、そう」
「さて話を元に戻すね。私の見立てでは、アリスの魂に刻まれたステンダールの呪いは本物。スタミナに影響する呪い」
「持久力が低下するって事?」
「最初はね」
「最初は?」
「低下するだけ低下したら今度は全身に激痛が奔るようになる。戦士としてはもう役立たず決定。解除する方法は不明。私は古今東西の禁呪に精通してい
るけどこんな陰険な呪いは始めて見る。本当に神様が掛けたのかって疑問にも思う。神様って陰険なんだね、きっと」
「そうだね」
カシミール卿に罪があったとしてもその子孫には関係ない。
どうしてこんな呪いを掛けたんだろ。
「アリスの呪い、治療は出来ない」
「そっか」
「なんなら私が肩代わりしてあげようか?」
「えっ?」
「ステンダールの呪いは肩代わりする事だけが唯一の解除方法。私が貰ってあげるよ、なかなか興味深い呪いだし。自分の魂に刻んで、調べてみたい」
「駄目っ!」
思わずあたしは叫ぶ。
冗談なんだと思う。
冗談なんだと思うけどハーたんの冗談は、危険な冗談。姉として叱らなきゃ。
一瞬ハーたんはびっくりした顔をするもののすぐにいつもの冷静な顔に戻った。
「ふぅん、怒るんだ。少しは姉らしく叱ってくれるのね」
「えっ?」
あの言動は構って欲しかったから?
「だけど子分の分際で生意気。今度私に意見したら生きたまま内臓を融解させてやるから」
「……」
うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
生きたまま内臓融解ってマジ怖いんですけどーっ!
そ、そういえば前に深緑旅団の首領ロキサーヌには『生きたままゾンビにしてやる』って言われたなぁ。ハーたんも同じ線上のタイプ?
怖いなぁ。
はぅぅぅぅぅぅっ。
「ところでアリス。この間から思ってたんだけど……あんた寝言多いわよね」
「寝言?」
「そう」
意識してない。
まあ、寝言は寝ている間に言うものだからあたし自身が記憶しているわけがないけど。
「どんな寝言?」
「お姉ちゃんごめんなさい」
「お姉ちゃん?」
「アリスの上にはいないと思うけど、誰?」
「さあ?」
あたしがお姉ちゃんと呼ぶ人物は……確かにいないなぁ。
一体誰だろ。
だけど。
だけど微かにだけどそういう人物がいたような気もする。
「つっ!」
ズキッと頭が痛くなった。
頭痛。
「アリス会った時から思ってたんだけど、あんた妙なプロテクト掛かってるね、魂に」
「はっ?」
「魂っていうのは一番正しい情報を有する記憶媒体。脳に記憶している情報っていうのは別の情報に影響され易いの。それに時間とともに劣化、改竄
されていく。だから基本的に私のような禁術を使う者達は魂を見るってわけ。一番的確な情報源だからね」
「はっ?」
「禁術、まあ、禁呪でもいいけど、この手の類を扱う者達は魂を本とか書とか表現する場合もある。魂とは無数の記憶が刻まれた読み物ってわけね」
「はっ?」
「これだけ丁寧に教えてあげてるのに分からないの? あんた頭の中に入ってるのは脳味噌じゃなくて軽石じゃないの?」
「……」
酷い言われようだーっ!
はぅぅぅぅぅぅっ。
ピキーンっ!
「はぐぅーっ!」
突然舌が痺れた。
舌だけじゃない。
体もだ。
パタリとその場にあたしは倒れる。
「はれ? なんら、かららがひびれるんらけろ」
「あれ? なんか体が痺れるんだけど……って言ったの? まあ、痺れるわね。飴ちゃん痺れ薬だもん」
「な、なんれ」
「アリスの魂を調べてみたかったから。ああ、別に魂抜き取るわけじゃないから安心して。……うーん。誰がプロテクト掛けたのか気になるなぁ」
「……」
この一件終わったらモロウウィンドに送り返してやるーっ!
はぅぅぅぅぅぅぅっ!