天使で悪魔





平穏と不穏の狭間の上に成り立つ日常






  平穏。
  不穏。
  どちらもまったく異なる事柄。対極だ。
  二律背反。
  それぞれの命題が互いに矛盾し合い、成立しない……それが二律背反。

  しかし世界はそもそもが二律背反なのだ。
  矛盾。
  人々はその法則の上に生きている。

  ……だからこそ、悲劇は終わらない……。





  「ふぅ」
  静かな午後か訪れる。
  眼を覚ましてから既に3日。記憶は一向に蘇る気配はない。
  しかしまるで焦りはない。
  ……。
  記憶喪失者の気持ちは、こんなものか?
  よく分からない。
  いずれにしても私にはどうしても思い出さなければならないという強迫観念はない。不安感もない。
  まあ、いい。
  「ふぅ」
  二階に宛がわれた部屋で、私は溜息をついた。
  この3日間、体を休めて傷を癒す一方で読書三昧の日々。色々と常識を身に付けた。
  知らなかった事……というか忘れていた事を、得た。
  ……。
  まあ、元々無智だった可能性もある。
  そもそも知らない可能性も。
  トントントン。
  階段を上がってくる足音。
  「ああ。起きてたんだ」
  「おはよう」
  「おはよー♪」
  元気な酒場の名物女将アイリーン・クェス。
  面倒見が良い女性だ。
  現在未婚。
  ここは小さな村ではあるものの、村中の男性は彼女にゾッコンだ。この村に農業開発の為に雇われているアイスマン&
  カイリアス・ロネィヴォも惚れこんでいるらしい。
  お陰様で私は睨まれている。
  ……。
  そういう関係ではないのだがな。
  私は完全にただの隠居爺。毎日本読んで暮らしているに過ぎない。
  さて。
  「傷はどう?」
  「ああ。まあまあだな」
  「じゃあ、散歩しておいでよ」
  「散歩?」
  「うちは貧しいの。いつまでも養ってあげられない。……ただ飯食らいはね」
  「……?」
  「早く元気になって、用心棒の仕事してもらわなきゃ。割に合わないわ」
  「……」
  可愛いだけが売りじゃあないらしい。
  私は苦笑し、立ち上がる。
  彼女の手当てが良かったので歩く程度には回復している。
  「よっと」
  この村に来てから、初めて外に出るな、そういえば。
  私にとって初めての世界だ。



  トォルーソー。
  それがこの村の名前だ。村の名前には意味があるらしい。
  ヴァレンウッドの方言で《灰色の村》。
  何故、灰色なのか?
  そこは知らん。アイリーンに聞いたけど知らないといっていた。……大した意味だよ。
  
  トォルーソーは人口200人の村だ。
  ボズマーの出身地ヴァレンウッド。その北東部に位置する、小さな村。
  地図に記載されてはいるものの旅人は立ち寄らない。
  交易ルートから完全に外れている為だ。

  農業が中心の村。
  牧畜もしているものの、主流は農業。主要な作物はジャガイモとトウモロコシ。
  しかしここ近年、旱魃が続き収穫量は低迷。
  旱魃が終わった後も作物の不作は続く。
  その関係でシロディール地方のアルケイン大学からカイリアス・ロネィヴォを、サマーセット島から至門院のアイスマンが招かれた。
  2人とも知識の塊のような人物。
  ……。
  性格は白と黒で対極、まるでオセロのような人物ではあるけれども。

  わずか北にはシロディールから派遣されて来た帝国の貴族が砦を構え、陣取っている。
  交易ルートからは外れているものの、軍事的には要衝。
  その為、帝国軍はヴァレンウッド地方に睨みを利かす為に砦を構えている。ここもその一つだ。
  
  砦の主は若い子爵。
  享楽的な人物で、横暴を絵に描いたような帝国貴族の一般的な人物。
  この村の領主的な立場であり重税を課している。
  従えている兵力は50名。

  変哲もない村。
  帝国の圧政はここに限った事ではない。
  皇帝の善政も統治もあくまで帝国人の視点でしかない。他地方の人々から見たらただの侵略者。
  ヴァレンウッドは帝国に首根っこを掴まれている。
  圧政の続く村。
  そんな、変哲のない村。



  「良い天気だなぁ」
  大きく伸び。
  外に出たのは、この村に来て初めてだ。
  太陽が燦々としていて心地良い。
  アイリーンから聞いていたし、二階の窓から村を眺めていたけど……確かに貧しい村だとは思う。
  しかし緑は美しい。
  自然と一体化した……というか共存した村。
  村に人影は少ない。
  畑に出ているのだろうか?
  ゆっくり歩きながら村を見て回る。体はまだ本調子ではない。右足が痛い。アイリーン曰く、刺された傷らしい。
  何に刺されたのか?
  それは私にも分からん。
  つまり、お手上げというわけだ。
  「小さな村だな」
  第一印象。
  こうやって村を見て回ると、アイリーンの経営する酒場は極めて大きい。……他の建物と比べるとな。
  だがそれも納得がいく。
  娯楽がない村。
  唯一の娯楽が酒場であり、仕事が終わったら酒場で友と語らい、一日の疲れを癒すのだろう。
  「あれは……」
  この間酒場で会ったボズマーがこちらに向かって歩いてくる。
  オーレン卿だ。
  ……。
  ……ああ、違うか。
  オーレン卿は老人の方だったな。じゃああいつは……そう、ユニオだ。
  最近この村に流れて来たボズマー。
  旅人なのか?
  定住してるのか?
  そういえばそこまでは聞いてなかった。
  ただ服装は村の住人よりワンランク上のレベルだ。つまり作業着に毛の生えたような代物。
  腰にはナイフが一振り。
  冒険者ではないようにも思えるが……。
  「やあ。こんにちわ」
  「……」
  無言で素通るユニオ。
  愛想の欠片もない奴のようだ。
  まあ、フレンドリーを期待していたわけではないが少し気分を害する。
  その時、後ろから声を掛けられた。
  「やぁやぁ。あんたが噂のアイリーンの情夫? 村の男どもは殺気立ってるよー」
  「い、いやそういうわけじゃないんだが……」
  カジートだ。
  外観ではよく分からんが、声の質は男性のモノ。多分男なのだろう。
  紺色の汚れたエプロンをしている。
  「俺はクレメンテ・ダール。姉貴のマデリーン・ダールと一緒に鍛冶屋をやってんだ」
  「鍛冶屋」
  「ああ。腕は超一流だぜ? ……まあ、こんな村じゃ農具作ったりとかしか仕事ないけどな」
  「ふぅん」
  「まあ、よろしく頼むぜ。えっと……」
  「マラカティだ」
  「よろしくなマラカティ」
  握手。
  こっちはフレンドリーなネコだ。
  さっきのボズマーの事を聞いてみる。
  「ユニオ? ああ、あいつか」
  「どういう奴なんだ?」
  「さあな。俺もよく知らん。つい最近ふらりと村にやって来たんだ。何するでもなくブラブラしてるな。冒険者には見えんし、旅人に
  しては雰囲気違うし。よく分からんよ。ただ金だけは不自由しないだけ持ってるみたいだな」
  「ふぅん」
  「あんたが運び込まれる前の日にやって来たんだ」
  「へぇ」
  「ちなみに倒れてるあんたを発見したのはアイリーンだが、運んだのは俺と姉貴とエルズなんだぜ」
  「そうか、助かったよ。ありがとう。……ところでエルズって?」
  「信心深い冒険者さ。村で雇ったんだ」
  「雇った?」
  アイスマンとカイリアスも雇われている。2人は農地改革の為だ。
  信心深いエルズ。
  何の為に雇われたんだろう?
  「マラカティは深緑旅団を知らんのか?」
  「知らないと言うか記憶がない」
  「ああ、そうか。……深緑旅団ってのはトロルを軍勢にしたボズマーの組織でな。この近辺を荒らし回ってる。去年は金貨20000枚賭
  けられていたに過ぎないんだが今現在では5倍に跳ね上がってんだよ。それだけ物騒な連中なんだ」
  「じゃあエルズは……」
  「自警の為に雇ったんだ。オーレン卿がこの村にいるのもそういう意味さ。あの爺さんの場合は私怨晴らす為にいるんだがな」
  「なるほど」
  深緑旅団か。
  物騒な連中が徘徊しているようだ。
  しかし思うに……。
  「すぐ側に帝国軍が駐留してるんだろ? 何を恐れる? 襲われたら助けてもらえばいい」
  「はぁー?」
  クレメンテは大きく見開いた目で私を見る。信じられないものを見た、そんな目付きだ。
  それから激しく笑った。
  「何がおかしい?」
  「マラカティそりゃすっげぇジョークだぜっ! 笑えるぅーっ!」
  「何故だ?」
  「帝国から来た貴族なんざ俺らから搾取するしか能がないんだよ。賭けてもいいぜ、帝国は助けてくれないのさ」
  「そういうものか」
  「ああ。そういうものさ」
  「……そういうものか……」
  ズキリ。
  頭が痛む。
  帝国という言葉に過敏に反応しているように、痛む。何か違うと感じている。
  この違和感は何だ?
  この……。
  「クレメンテっ! 仕事サボってんじゃないよっ!」
  「まずい姉貴の声だ。マラカティ、またな」
  「ああ」
  急いで走り去ろうとするクレメンテではあるものの、何かを思い出して立ち止まる。
  「そうそう忘れてた。マラカティ、あんたの剣は俺の家にあるんだ」
  「剣?」
  「アカヴィリ刀だよ。あんたのだろ? 俺の家……まあ、鍛冶場なんだけどよ、そこにあるんだ。大分刃毀れしたりしてるから打ち直
  す為に預かってんだ。終わったらアイリーンの家に持ってくから」
  「しかし俺は金が……」
  「気にすんな。剣があればあんたも戦えるだろ? こういう村には強い奴が必要なんだ。じゃあな」


  散歩終了。
  「ただいま」
  疲れた。
  まだ傷は癒えていないし、正直これ以上歩きたくはない。
  アイリーンの経営する酒場に戻る。
  「ああ、もう戻って来たんだ」
  「体がまだ本調子じゃないんだ」
  それは本当の事だ。
  ついでに文句を……いや拾われた身で贅沢なのは分かってるが……肉系を食べていない所為でどうにも力が出ない。
  いや贅沢なのは分かってる。
  だから口にはしない。
  「こんなに早く戻ってくるとなんて、丁度良かった」
  「……?」
  「これ」
  カウンターにバスケット。
  「……?」
  「サンドイッチと飲み物が入ってるの」
  「ふぅん」
  「届けてきて」
  「はっ?」
  「村を北に向って出ると小高い丘があるの。そこにアイスマンさんとカイリアスさんがいるから。お昼届けてあげて」
  「……」
  私が言った事を聞いてなかったのだろうか?
  疲れているのだが……。
  「はいはい働く働くー。働いたらご飯がおいしいしお風呂も楽しみになるよー。よく眠れるしね」
  「……了解ボス。」
  「うん。よろしい♪」
  逆らえる道理はない。あくまで《養って》もらっている身だ。
  行くとするか。






  「ぜえぜえ」
  疲労。
  疲労。
  疲労。
  ……疲労?
  ひーろーうーっ!
  「ぜえぜえ」
  距離を言っとけ距離を。
  村を出て……まあ、そこはいい。
  しかし小高い丘までがひたすらに遠いぞっ!
  二キロは歩いたのではないだろうか?
  「ぜえぜえ」
  最悪なまでのリハビリだな。
  こりゃ食事がうまいとか風呂を楽しむだとかの余裕はない。よく眠れるに関しては……同意するがな。
  きっと今夜は爆睡出来る事請け合いだ。
  ……はぁ。
  「ぜえぜえ」
  一面緑色。
  自然が多い地方のようだ。
  小高い丘に2人の人物がいた。デリバリーを頼んだ連中だ。
  この場所が好きらしくよくここで昼食を取っているらしい。
  ……。
  この距離をアイリーンは届けてるのか?
  すごいな。
  ただ、デリバリー料金が結構が掛かるそうなので、アイリーンにしてみれば嬉しい限りなのだろう。
  「やあ」
  アイスマンが私を見つけ、手を振る。柔和な笑み。
  綺麗な顔立ちだ。
  服装さえ女物にしたら、女性にも見える。
  ……。
  い、いやっ!
  女装した男に興味はないぞっ!
  「何だお前か。いつになったら俺のアイリーンから離れるんだ?」
  そう言ったのはカイリアスだ。
  仲が良いのか悪いのか分からん二人だな。よくツルんでいるらしい。
  まあどうでもいいが。
  「……運んできたぞ」
  バスケットを手渡す。
  ここまで来れたのはいいんだが帰りも当然あるわけだよな。
  疲れるなぁ。
  「これはご苦労様です。……ご一緒にいかが?」
  「私もか?」
  「ええ」
  「だが……」
  「いいじゃないですか。記憶喪失な方との会話も学問的には有意義ですしね。……カイリアスさんも問題ないでしょう?」


  結局、一緒に食べる事にした。
  空腹を思い知らされる。
  座ったと同時に疲れがムクムクと体を這い上がってくる。疲労は限界だ。
  「ふぅ」
  ゴクゴク。
  オレンジジュースを飲み干す。
  「ふぅ」
  「溜息ばかりですねぇ」
  「疲れてるのさ」
  へっ。その言い方が気に食わなかったのかカイリアスは鼻で笑った。
  無視する。
  特に怒るべきではないだろう。
  挑発のつもりだったカイリアスは当てが外れたらしく、仏頂面のままサンドイッチを頬張っている。
  「珍しい指輪ですね」
  アイスマンが指に嵌められている指輪に興味を覚えたらしい。
  咄嗟に俺は手を後ろに隠した。
  「……あっ、す、すまん」
  「いえ別にいいんですよ。それは貴方のものだ。見た私が悪かったようですね」
  「……すまん」
  居心地が悪い。
  どうも指輪に関しては私は神経質になり過ぎている。
  「……」
  「……」
  「……」
  しばらく無言。
  飲み食いする音、風の音だけが耳に届く。
  ここは良い場所だ。
  ……遠いのが難だが。
  風も気持ち良いし、見晴らしも良い。ピクニックするには最適の場所だろう。……眼下の建物がなければ。
  建物がある。
  石造りの壁……まあ、城壁だろう。
  広大な敷地に張り巡らされた石造りの城壁。そこに囲まれた大規模な木造の屋敷。チグハグな感じがする。
  壁も低い。
  異様なのは河だ。
  川が山の方から伸びている。その川が、屋敷を通っている。屋敷を通り抜け、川が伸びている。
  要は川の上に屋敷を建て、城壁を張り巡らせているのだ。
  何なんだあの建物は?
  「あの建物が気になりますか?」
  「えっ? あ、ああ」
  頷く。
  アイスマンが答えようとすると、カイリアスが引き継いだ。
  「シロディールから赴任し、村を仕切ってる貴族様のお屋敷だよ。村の存亡の諸悪の根源だな」
  「諸悪?」
  どういう事だろう?
  「カイリアスさん。それは……」
  「いいじゃねぇか。この野郎はどうせこの村に居着くんだろ? なら教えておいてやろうぜ」
  アイスマンは黙り、静かに目を伏せる。
  「そうですね。この村がもう駄目な事を知っておいた方がいいのかもしれません」
  「駄目?」
  「ああ、駄目なのさ。俺とアイスマンで調べた。作物が育たないのは、貴族の所為だ」
  「所為?」
  話の全貌が見えてこない。
  ただ、まだアイリーン達が知らない話なのだろう。知らないからこそ毎日を懸命に生きている。何とかなると信じているからだ。
  話の先が聞きたい。
  「どういう事だ?」
  「あの建物にいる貴族……ピエットって奴なんだけどな。爵位は子爵。奴は錬金術師崩れでよ、試験薬を川から流してんだよ。それ
  が村の地下に広がる、農業用水用の地下水に浸透しちまってる。農地は既に死んでんだ」
  「な、何?」
  「カイリアスさんの言うとおりです。作物の品種改良ではどうにもなりませんね。土地は死んでる。それが結論です」
  「……」
  領民を護る為の貴族が、領民ほ逆に虐げる。
  それがまかり通るのか?
  それが……。
  「ある程度力をつけると支配者は無意味に領民を虐げ始めます。意味なんてないんです」
  「……」
  アイスマンの言う事は正しいのだろう。
  ある意味真理。
  しかし。
  しかし……。
  「どうするんだ?」
  「今夜アイリーン達に話すさ。俺とアイスマンでな」
  「……そうか」
  「ピエットは知らないんだろうが、水ってのは繊細なんだ。そしてどこまでも地下で繋がってる。どこまで被害が出ているのかは
  俺達にも分からんよ。薬が混ざり、浸透し、広がっていく。その悪意はどこまでも続くのさ」
  「……何だって川を屋敷に通す?」
  「そりゃ知らねぇ。俺はピエットじゃねぇからな。……要はゴミ捨てるのに丁度良かったんじゃないのか?」
  「……そうか」
  静かに眼下の建物を見る。
  低い石の壁。
  木造の建物。
  流れる川。
  「あの壁と建物に意味はあるのか?」
  「意味?」
  カイリアスは怪訝そうに見るものの、アイスマンは静かな瞳に聡明さを湛えて口を開く。
  「壁が高いと視界が遮られる、それを嫌ったのですよ。建物が木造なのは香りです。あの木材はレイラィスという非常に心地良い
  香りを発するのですよ。ある意味では麻薬に近い香りでしょうね。しかしそれが何か?」
  「……」
  「マラカティさん?」
  「……落とせるな」
  「ほう?」
  あれなら簡単に落とせる。
  もちろん反乱を意識しての言葉ではない。つい口にしてしまっただけに過ぎない。
  アイスマンは興味を抱いたものの、カイリアスは手を振った。
  「よせよせ。そいつの前で反乱とかの話はよせよ。至門院は反乱推奨組織としても有名だしな」
  「反乱とは何です。我々は知識を蓄え、望む者に与えるだけです」
  「反乱望む連中にか?」
  「知識は知識です。そこに正しいも悪いもないんですよ。使う側の問題です。我々はそこには関知しない」
  「そこが問題だろうが」
  「私はそうは思いません」
  幾分か怒った口調でアイスマンは抗議した。
  反乱、か。
  ……。
  無駄だな。
  反乱を起こして貴族の屋敷を落としたところで意味がない。次の貴族が来るだけだ。
  そして押さえ付けが強くなる。
  しかし抗わなければ押さえ付けはいつまでも終わらない。
  抗えば?
  無意味だ。
  いつまでもサイクルは続くだけ。
  いつまでも……。
  ガサ。
  誰かが草を踏んでその場を離れた。後姿を見る。後姿を見る限りでは……。
  「ユニオ?」
  聞かれたのだろうか?
  今の話を。
  カイリアスをは眉を潜める。
  「あの野郎か。何か探ってるよな、いつも。……帝国の犬か?」



  世界は平穏と不穏の狭間で揺れている。
  そこにリアルに住む私達にしてみれば大問題だ。
  完全なる平穏はない。
  だが不公平な事に、完全なる不穏はあるのだ。そして不穏が極致に達した時、戦争が始まる。
  ……考えない事だ。
  ……考えない……。

  しかし確実に不穏は近寄りつつあった。
  ……私がそれを持ち込んだのだろうか……?