私は天使なんかじゃない






Answer






  そして導き出された答え。
  それは……。





  「私が、戦士ギルドに? 何故に? というか帝都軍巡察隊はどうなったの?」
  「巡察隊は知りませんけど、戦士ギルドのメンバーです」
  「アイリス……えっと」
  「アリスでいいです」
  「アリス、ね。分かったわ」
  ハートの女王撃破。
  結局あいつが何だったのか謎のままの幕引きとなった。
  そして、どうしてここに彼女らがいるのかも。
  さらに言うのであれば時間軸がことごとくずれている面々でもある。数年のずれというよりは数か月のずれという程度だが、自分が知る限り、その数か月のずれが彼女たちにとっては
  大きなずれでもある。何しろ今年は彼女らにとって大きな変革の年だからだ、少なくとも自分がこちらに飛ばされる直前の、闇の一党からの情報ではそうなっていた。
  今は?
  さあな。
  自分はこちらに飛んできてしまった、既にシロディールの情勢は分からない。
  変革は終わったのか。
  それとも大きなうねりとなってさらに面倒になっているのか。
  興味はある。
  興味はあるが、それだけだ。
  今の自分はキャピタル・ウェイストランドの安定を願っているだけだ。
  「私が戦士ギルドねぇ」
  フィッツガルド・エメラルダは納得いかないように呟いた。
  現在彼女が一番古い時代から来たようだ。
  ハートの女王を倒したら元の世界に……という展開にはならず、彼女たちは未だ先ほどの場所に残留中。しばらくはダラダラしていたが現状を把握すべく話し出したところだ。
  「あ、あの」
  「何? アリス?」
  「じ、実はですね、あたしは、その、先輩なんです」
  「戦士ギルドの?」
  「は、はい」
  「まあ、そうね。今まで縁も所縁もない組織だし。それが何?」
  「そ、それでですね、フィッツガルドさんはあたしのことをアリス先輩って呼んでるんです」
  「ああ、そうか、ごめんね、アリス先輩」
  「ふにゃーっ!」
  「……?」
  「勝ったっ! あたしフィッツガルドさんにとうとう勝ったっ!ウルウル」
  泣くほどか?
  泣くほどなのか?
  というかそれは勝ったことになるのか?
  謎だな。
  「何だかよく分からないけどおめでとう。それでアリス先輩は戦士ギルドで何を?」
  「今は白馬騎士団に属しています」
  「騎士なんだ? 聞いたことない騎士団だけど……」
  「レヤウィンに新設された騎士団です。目的は盗賊団ブラックボウの討伐です」
  「ブラック……あー、あいつらか。巡察隊も手に焼いてる。へぇ、じゃあエリートなのね。頑張ってくださいアリス先輩……あー、アリス卿」
  「エリートっ! アリス卿っ! 生きててよかった、叔父さんあたし勝った、勝ったよーっ!ウワーン」
  ……。
  ……何と戦ってるんだ、何と。
  色々と難儀なダンマーだな、彼女は。
  一応闇の一党はフィッツガルド・エメラルダ抹殺の為に動いていて、その一環で彼女の交友関係も把握していた。しかしここまで天然とは記されていなかったな。
  さて、話を戻すか。
  彼女は白馬騎士団云々言っているから、まだ深緑旅団とはぶつかっていないようだ。
  今のところフィッツガルド・エメラルダが一番古い時代、というわけだな。
  「まことに言いにくいんですけど白馬騎士団は解散しましたわよ」
  「……っ! 嘘っ!」
  「魔術師的に考えると、あんまり未来のことを話すのはよろしくないことですわ。歴史狂うとわたくしたちにも影響ありますから。ただ、用済みになって解散した、とだけ言っておきますわ」
  「あたしの春がっ! 勝利がっ! はぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
  「はふ。落ちぶれても先輩は先輩だよ、アリス先輩」
  「フィッツガルドさんっ!」
  「負け犬のアリス先輩、サルモの店の焼きそばパン買って来てよ☆ 走って行ってね☆」
  「……はぅぅぅぅぅ……シクシク」
  下剋上か、早いなー。
  冗談なのか?
  にこにこしながら弄っている。
  いずれにしても容赦ないなー、フィッツガルド・エメラルダは。
  「わたくしは灰色狐の元で動いていますわ、最近は王宮絡みで忙しいですわ」
  ほう?
  グレイフォックスの元で、か。
  だとするとアルラが一番最新の時代から来ているな。
  王宮への強奪目前か、もしくはその準備に入りつつあるのかは知らんが、現状一番最新から来ている。
  アリスが沈黙している少女に話を振る。
  「フォルトナちゃんは?」
  「……」
  沈黙、か。
  ここに現れた時にフィフス云々と言っていたな、確か。
  フィフスはアイレイドの人形。
  自律型人形であるマリオネット。
  そしてその中でもマリオネットナンバーズと呼ばれる五番目。番号が若いほど強力であり、量産型とは異なり知性と自我を有している。
  自分が知る限り、フィフスは失われたはずだ。
  クヴァッチ支部壊滅の前後に。
  その彼と行動を共にしているようなことを口走っていたからな、フィッツガルド・エメラルダとどちらが古いのか。
  最新の彼女は社交的で多弁で大飯食らいとの報告があったが、闇の一党時代は心を殺していたらしい。
  自分にとって、そして彼女たちにとってもこの話は特に意味はない。
  何となくだ。
  あくまで現状の把握、そして暇潰しの会話に過ぎない。
  自分も興味はない。
  流すだけだ。
  ……。
  ……闇の一党時代なら、な。
  だが今は違う。
  主と共に行動し、そして人らしく生きて来たと思う。そう思いたい。アルラが言ったのは正しい、余計なことを言えば時代を変えることになりかねない。
  自分は口を開く。
  「フォルトナ」
  「……」
  「一方的な話す、マシウ・ベラモントという男が聖域に派遣されたはずだ。いや派遣されるはず、というべきか。どちらだ?」
  「……」
  表面的には何の感情も走らなかったが、フォルトナは身構えた。
  指先が、人差し指が伸びた。
  魔力の糸を振るうか。
  話を続ける。
  「伝えし者ルシエン・ラシャンスの命令で奪いし者が来たかどうかと聞いている」
  「……何者……?」
  返答を間違えば敵対するか。
  「どうして内情を、役職を、あなたは一体……」
  「悪夢は終わるさ」
  「……?」
  「2度に渡って崩壊する。ブラックハンドは全滅。彼女、フィッツガルド・エメラルダを敵に回して組織は完全に潰れる。嘘じゃない。元締めの蛇神も退場するという流れさ。復活はあり得ない。自由になれる」
  「……あなたは、預言者、なの?」
  「ただの男さ」
  「……そっか、終わるんだ」
  「ああ」
  「ふふふ」
  納得したのか、それとも気休めと受け取ったのかは分からない。
  まあいいさ。
  微笑が見れたのだからな。
  「よく分からないけど、励ましたんでしょ? 良いとこあるね、グリン・フィス君」
  「ありがとうございます」
  主に恭しく頭を下げる。
  戸惑う主。
  ダメだな、癖になっている。
  それにしてもグリン・フィス君、か。
  素敵な響きだっ!
  ふと考える。
  何故にこの主はともかくとして、今の主はそう呼んでくれないのだろう?
  自分と出会う前に何かあったのか?
  「主」
  「それやめてよ、グリン・フィス君」
  「あの、特に他意はないのですが、嫌なこととかってなんですか?」
  聞いてみる。
  主がこうならなかった理由が分かるかもしれない。
  「嫌いなこと? んー、そうだなー、お金に汚い男の人かな。あと、平気で嘘つく人」
  「……」
  コリン・モリアティが主の心に不信感を植え付けやがったのかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
  さっさと斬ればよかった。
  くそぅっ!
  「おいおい楽しそうなとこ悪いんだが、俺には何も聞かないのか? 退屈なんだが」
  「悪いがあんたは知らない」
  アルディリアの迷宮なんて聞いたことはない。
  カガミ、という男の名は知っている。
  傭兵だ。
  旅ガラスという傭兵団のリーダー。
  魔道と剣の腕はかなりのものとは聞いている。実際、彼は魔法戦士として有能なレベルだ。
  「俺を知らないとはな。くそ。まあ、スカイリムで最近は仕事してたしな」
  「今いるのはアルディリアの迷宮、だったか?」
  「ああ。最近出現した迷宮なんだとさ。有名なんだぜ? ああ、俺の最近と、お嬢さん方の最近はどうも掛け離れているようだがな。だが年代は同じなんだ、となると俺が一番新しいのか?」
  「だと思うよ」
  「この現象は何なんだ?」
  「分からん」
  「お前さんはここに長いのか? えっと、キャピタル何とかってところにさ」
  「長くはないが経緯の密度は濃いな」
  「俺はここに居着くつもりはないんだがなぁ。俺らも残留みたくなるのか?」
  「何とも言えん」
  存在している年代は同じ。
  過去の踏破された迷宮ではない。
  そうなると彼の言うとおり、彼が最新なのだろう。
  だが分からんな。
  このバラバラの時間軸は何なのだろう。わりと他のメンツは……主は除くが……他のメンツは、わりと近い時間軸だが、カガミに関しては自分よりも先の時間から来ている。
  特に意味はないのか。
  まあ、考えるだけ無駄か。
  「えっと、アルラ、だっけ? 魔術師的に、これって記憶持ち越せると思う?」
  「分かりませんわ」
  フィッツガルド・エメラルダとアルラが話し始めている。
  口論は休戦ってところか。
  「ところで没落した後はどこに住んでるの?」
  「喧嘩売ってます?」
  「ううん。純粋に気になっただけ」
  「今はアンヴィルですわ。ベニラス邸を買い取りましたの」
  「ベニラス邸……」
  「いいところですわ」
  「いや、建物は知ってる。だけどあそこって幽霊屋敷じゃなかった? 確か昔は死霊術師がいたような」
  「無賃で居座っている不届き者は立ち退いてもらいましたわ。貴族らしく、淑女らしく、建設的な話し合いってやつですわ。一応言いますと、その前は帝都のスラム街に居ましたわ。アーマンドの隣の家」
  「……」
  「あら? どうなさいましたの?」
  「アーマンドってちょっと尊大なアーマンド?」
  「それが何か?」
  「そこ、私の家なんですけど」
  「そうなんですの? あらあら、じゃあ帝都の地下監獄に収監されたのって……いえいえ、未来は言ってはいけませんわね、大犯罪人さん。おほほーっ!」
  「……マジか、ってかマジか……」
  おお、へこんでるな、さすがに。
  一応この中で一番新しい時代なのはカガミ、次は自分、アルラ、アイリス・グラスフィル、だな、たぶんフィッツガルド・エメラルダよりフォルトナの方が新しい。
  これで何とか把握できた。
  ……。
  ……で?
  この会合はいつ終わるんだ?
  自分は早く主の元に行かなければならない。

  「ようやく準備が終わったからさよならの時間じゃ」

  声が響く。
  老人の声が。
  姿はない。
  シェオゴラスだ。
  ハートの女王に滅ぼされたわけではなかったようだ、まあ、分かっていたことだが。
  過去からの来訪者たち(カガミは厳密には未来だが)の体が薄れ始める。
  主もだ。
  送喚、か。
  「アリス先輩、じゃあまたね」
  「はいっ! フィッツガルドさん、またお会いしましょうっ! ……あー、あたしはもう会ってるんだった。あはは」
  「それでは皆様、御機嫌よう」
  「楽しい未来か、いつか叶うといいなぁ。グリン・フィスさん、ありがとう」
  「ちっ。金貨一枚にもならなかったが、まあ、楽しかったぜ。じゃあな、あんたも頑張れよ」
  「グリン・フィス君」
  「何でしょう?」
  「すぐ会えるの?」
  「倒れている見ず知らずの人がいたらどうします?」
  「助けるけど?」
  「すぐに会えますよ」
  消えていく。
  その場限りの、本来会えなかった者たちとの出会いが、終わっていく。
  そして。
  そして、この場には自分だけが残された。
  「出て来い、シェオゴラス」
  これでも暗殺者だ。
  感傷をいつまでも留めては置かない。
  声を押し殺し、殺意を放つ。
  「ここに、いる」
  「ここに?」
  声はする。
  だが姿がない。
  どこだ?
  どこにいる?
  「悪いが実体を見せれないほどに消耗しておってな。……これでどうじゃ?」
  「ああ。見える」
  シルエットだけが浮いている。
  かろうじて杖を持った透き通った人影が見える。
  だが何故ここまで消耗している?
  こいつは魔王だ。
  それもかなり強力な部類の魔王のはずだ。
  「ハートの女王のダメージがでかいのか?」
  「ふん。あのクソ女の攻撃なんぞヌルイわい。こちら側に飛ぶ為に開いた門の維持に魔力の大半が消耗しておる。現在98.385%の魔力を門に投じておる」
  「何故そこまで魔力が消耗する?」
  「ここには魔力の流れがないからな、というか魔力そのものがない。何かするなら全て自前ということだ。あと、ここは本来別次元にある世界だからな、ここに門を繋げるのはワシとて無理があるのじゃよ」
  「魔力がない」
  確かに。
  確かに魔力の流れはないのだろう。
  自分も魔法が使えない。
  だが彼女たちは使えた。地下にいた聖職者もだ。
  どういうことだ?
  「魔法を使うにはどうしたらいい?」
  今後の為にも使えたら便利だ。
  主の為にも。
  エンクレイブとの最終決戦には不可欠なものだ。
  「九大神や魔王の加護を得ることじゃな」
  「どういうことだ?」
  「加護、まあ、庇護と言ってもいい。それがある者はな、その対象から魔力が供給されるというわけじゃ。後は魔王に魂でも売るんじゃな。売るか? もしくはワシの加護を得るか?」
  「代償を求められることはしたくないのでね」
  「代償がない物など何もない。だろう?」
  「……」
  「何じゃ?」
  「狂気、と聞いていた。自身も気が触れている魔王だと。かなりまともな言動だな」
  「周期が近いからな」
  「周期?」
  ハートの女王もそんなことを言っていたような。
  まあいい。
  「彼女たちは全員加護があるということか? だから魔法が使えたのか?」
  「ダンマーの戦士は加護などない。あの時間軸の彼女はまだ魔法が使えないからな、だから気付きもせんというわけじゃ。人形姫は神じゃからな、人工とはいえ。だからこそ魔力がある」
  「この際全て聞きたい」
  「よいぞ。時間が許す限りはな。早く言え」
  「何故異なる時間軸から連れてきた? いや、そもそも何故連れてきた?」
  「ハートの女王が暴走したからな、ワシは門の維持で手一杯で奴を滅ぼす力がなかった。だから呼んだ、とはいえ最新版ほど呼ぶのに魔力が消耗するのでな、だから昔の奴らを呼んだ」
  「カガミは? 奴は新しいだろう?」
  「奴はあの世界では、現在というジャンルに位置している。最新版じゃよ。ただ奴とワシは相性がいいのでな、呼べたというわけだ」
  意味が分からん。
  「主は?」
  「何となく呼んだ」
  「ふざけるな」
  「ふざけてはいない。つまりは、そうじゃな、ワシが選んだ後継者たちの顔合わせてというやつじゃ。お前さんもそうじゃよ」
  「後継者?」
  「ここからが本題じゃ」

  こん。

  杖を床に打ち付ける。
  屋内が一瞬で屋外になる。キノコのような木々、色鮮やかを通り越して毒々しい花、それらが生い茂る世界が広がる。
  何だ、ここは?
  「シヴァリング・アイルズにようこそ。あくまで、幻影じゃがな」
  「意外に普通だな」
  「期待に沿えなくてすまんかったの」
  「わざわざこんなものを見せる意味は何だ?」
  「単刀直入に言おう。ワシの後継者となり、シヴァリング・アイルズの魔王となって欲しい」
  「待て」
  「いきなり待てか、何じゃ?」
  「自分で決定なのか?」
  「そうではないが決定してくれるならそれら越したことはない。周期が近付いてくる、間隔が短くなっている、ワシがワシでなくなりつつある、シロディールの動乱が終わるまでは待てんかもしれない」
  「よくは分からないが、動乱が終わるのを待つ必要があるのか?」
  「お前さんはこちら側にいるから既に関係ないかもじゃがな、シロディールはデイゴンのアホが侵攻しつつあるし、ヴァーミルナやメリディアも同様に侵入しつつある、アズラもいるしな」
  「……魔王のオンパレードだな」
  「あの者たちは魔王の侵攻に気付いてはいないがな、勘付いてはいる。いくらなんでも片付くまで放って来ることはないじゃろ」
  「なるほどな。それで自分か?」
  「それと赤毛の子じゃな。あの子は特に見どころがある。時間を操作する、か。ワシと同じじゃな」
  「だが分からんな、何故ここなんだ?」
  「特に理由はない。空間に歪みが入っていてな、それに気付いた。だから繋げた。それだけじゃ。歪みはワシの与り知らないことじゃ、ただ、よくあること、と言っておこう」
  「あの地下の奴は何なんだ?」
  「あれか? 九大神の下僕じゃ。発している空気が神聖だったろ?」
  「九大神だと?」
  おいおい。
  神々も介入してたのか。
  すごいな。
  「九大神は基本世界に干渉できない。だからといって敵に回すつもりはないがな、特にアカトシュ。あの下僕は九大神が使える、わずかな手駒の内の1人じゃ」
  「そんな奴がここで何を?」
  「歪みの修正じゃ」
  「何の為に?」
  「ワシがそれを利用してここに来ているのがばれてな。よからぬことと判断したのであろう、だから奴が来た。もしくはこの世界の為か? 歪に長時間さらされると化け物になるらしい」
  「化け物」
  ああ。
  ウェディンググールとか、主がルックアウトで倒したジェイミ辺りはその産物なのかもしれないな。
  だが気に食わないな。
  「シェオゴラス」
  「何じゃ?」
  「下僕を自分に始末させたな」
  「奴が歪みを閉ざせばワシですら帰れんからな。さすがのワシもここで死ねばどうなるか分からん。シロディールで死んでも100年単位で介入できない程度だが、ここで死ねば滅ぶかもしれんしな」
  「何故だ? 何故ここでなら滅びる?」
  「お前さんたちの世界と魔王たちの世界、密接しておる。故に神話として我らが出て来る。同じ価値観で繋がっている。しかしここは違う。全く別次元の場所。繋がっているのが奇跡なんじゃよ」
  「ふん」
  銃を引き抜き、相手に向ける。
  「ここで滅ぶか、魔王」
  「短気じゃな」
  「主を待たせるのは本意ではない」
  「なら諦めろ。この建物に入った瞬間からお前は別の空間にいる。外では既に数日経っているぞ?」
  「な、何っ!」
  「因みにお前さんの主は車が吹き飛ばされるわハザー壊滅に巻き込まれるわで激おこじゃ」
  「……」
  殺される。
  殺されるな、自分。
  「話を元に戻そうかの。まず試験も兼ねて九大神の下僕を殺させた、扉毎での台詞はワシじゃ。特に意味はない。放課後悪霊クラブの人形の化け物、あれはお前さんの主じゃよ」
  「……?」
  意味が分からない。
  主だと?
  「どういうことだ?」
  「ちょっとした幻術を人形に掛けてもらって人間に見せた。それを人狩り何とかって連中に壊させた。お前さんの主の前でな。結果として憎しみ、殺意を人形に込められたってわけじゃ。たくさん
  の怨嗟もな。それを元に禁呪であの人形を化け物にして貰ったってわけじゃ。ここまではいいかの? 時間はあるようでない、先に進ませねばな。よいか?」
  「ああ」
  今の口振りだと立案しているのはこいつだが、魔物化させたのは別人ということか?
  ハートの女王?
  そうかもしれない。
  「結論を言うとしよう、これは決定じゃ。ワシの世界は直に滅ぶ」
  「話飛び過ぎだ」
  「まずは結論から言おうと思ってな」
  「それを阻止する為にあの女は反逆したのか?」
  「そのようだが、それは愚かなことじゃ。魔王と領域はリンクしておる。ワシが死ねば、正確には完全に滅べば、ワシの領域であるシヴァリング・アイルズも消える。あのバカ女はそれを知らんかった」
  「本末転倒ということか」
  「そういうことじゃ」
  「グレイマーチとか言ってたな、あの女は。何なんだ、それは?」
  「変革の時じゃよ。一定周期で訪れる。それそれそれが起こる。ジャガラグという名を知っておるか?」
  「ジャガラグ、知らんな」
  「だろうな、数千年前の魔王で秩序を司っていた魔王。人間どもに知られる前の魔王だ、よほどのマニア以外は知らんというレアものじゃよ。そいつがワシの世界を破壊する」
  「襲撃してくるというのか? それで手駒を増やしているのか?」
  「違う。ワシがジャガラグとなるのじゃ」
  「……突飛過ぎて分からん」
  「順を追って話すとしよう」
  「頼む」
  「ワシは元々秩序を司るジャガラグという、強大な魔王だった。それを妬み、恐れたデイゴンを始めとする何体かの魔王どもがワシの呪いをかけた。その結果、ジャガラグはシェオゴラスとなった」
  「……」
  「ワシらは人間が思っているほど容易ではなくてな、権勢や野心もあるが、それ以上に自らの属性に引っ張られる。狂気という属性を与えられたワシはそのように振る舞うしかないのじゃよ。そして
  シヴァリング・アイルズは狂気を詰め込んだ宝箱となった。しかし呪いとはそのことではない。グレイマーチじゃ。それはある周期のことを差す。その周期が来ればワシはジャガラグに戻る」
  「秩序と狂気の反発か」
  「秩序の魔王は世界を滅ぼす。シェオゴラスを崇める者、ジャガラグに付く者と二分する。だが狂気陣営に勝ち目はない。何故なら従うべきワシは、秩序の魔王とかしているのだから。そして秩序側
  も同じこと。ジャガラグから見たらそれも異物。利用するだけして滅ぼす。そしてしばらくしてシェオゴラスに戻り、空っぽの世界に狂気で埋め尽くすのじゃよ。数千年の間この繰り返しじゃ」
  「それは……」
  言いかけて言葉を飲んだ。
  茶番?
  いや、地獄だな。
  「お前は記憶を受け継いでいるようだが?」
  「ワシは全て克明に記憶している。ジャガラグもだ。ワシらは意識を共用している。何度も回避しようとした。本当じゃ。じゃが奴は、ジャガラグはそんなのお構いなしじゃ。もう1人のワシとはいえ
  本当に石頭の鉱物野郎じゃよ。ワシのように素敵な杖も持ってないしな。そこでじゃ、ワシの後継者になって欲しいのじゃよ」
  「聞き入れると思っているのか?」
  「まったく思ってない」
  くくくとシェオゴラスは笑った。
  意外だな。
  「あくまでお前さんは持ち駒の1つじゃ。そしてこの世界と我々の世界は完全に分断されつつある。ここはもうお前の世界じゃろう? 片道切符で行きたがるわけないしな」
  「ふん」
  見透かされているか。
  「つまり自分ではなくあの連中に決めるということか? 誰にするんだ?」
  「選ばれなかった嫉妬かの?」
  「参考までにだ」
  「基本連中は加護持ちだからな、下手に手を出せば加護している奴を敵に回すことになる。アカトシュの女、さすがに九大神主神を敵に回すつもりはない。干渉できんにしてもな。デイゴン絡みが
  終わるまでは触れないのが実情じゃよ。フィッツガルド何ちゃらのことじゃ」
  「何と」
  あいつアカトシュの加護持ちなのか?
  つまりは皇族?
  なるほど。
  シシスが勝てないわけだ。
  「アルラという女は精霊王を操る。精霊王どもは怖くはない、所詮はただの元素の塊じゃからな。問題はノクターナルが背後にいるということじゃ」
  「盗賊が信奉する魔王か」
  「女自身は信奉していないようじゃがな。ようは、ワシが狙っているのをノクターナルが知って加護しているのじゃろう。奴はわざと盗ませて呪いを掛けてくる陰険婆じゃからな、見れ以上呪いはごめんじゃ」
  「女は怖いな」
  「怖いついでに言うが、カガミという男もドツボじゃ。ヴァーミルナとアズラと三角関係じゃからな。さすがにワシが手を出して四角関係にはなりたくない」
  あの男、そんなに大層な奴だったのか?
  見掛けによらんな。
  「フォルトナは?」
  「あやつはアイレイド文明が作り出した人工の神。まがい物とて神は神。魂を分断しておいたが……さすがに神に手を出すのもなぁ……」
  「カガミをドツボと言ったがお前のほうがではないか?」
  「ふん。ダンマー女は何の加護もないが鷹の目を持っている。全ての事象を見通す目。問題は、あの女は性格がまとも過ぎるからな、狂気の世界なんぞ見たら三秒で精神は破綻する。それに」
  「それに?」
  「約束じゃしな」
  「……?」
  「まあよいわ。ワシはこれで帰る。お前さんはお前さんでこの箱庭の世界で楽しむといい」
  箱庭の世界?
  どういうことだ?
  「神や魔王は必ずしも人の形をしていない、ということじゃ」
  意味が分からん。
  意味が……。
  エンクレイブのことを言っているのだろうか。
  「そうそう。最後に一つだけ」
  「何だ」
  「後はお前さんに任せるからな」
  「はあ?」
  そして。
  そしてシェオゴラスは消えて行った。
  気配が消えた。
  何もその場には残らない。
  ダンウィッチビルはこの瞬間、ただの取るに足りない、崩壊したビルに戻ったようだ。
  静寂が支配する。
  夢か?
  夢だったのか?
  かもしれないな。
  だがシェオゴラスが言ったことが正しいのであれば既に世界では時間がかなり経過していることになる。
  まずいな。
  主に殺される。
  しかも車が爆破されたとか言ってたからな、どう考えても自分が車の傍を離れたからだろう。
  まずい。
  まずいですよ、これ。

  「ちょっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ! マジでーっ! 散々手助けさせておいて自分だけ逃げるとか……奴の世界ごと消してやろうかぁっ!」

  「……?」
  今度は何だぁ?
  女の声。
  いや。子供の声。
  姿を現したのは顔色の悪い、可愛らしい女の子。ただ表情は可愛らしいだけではなく、どこか全てを見下したような印象を受ける。
  顔色が悪い?
  違う。
  これは……。




























  「ダンマー?」
  「そう。ダンマーのハーマン・グラスフィル。今後ともよろしく。帰れないのです」
  「はあ?」
  「鈍い奴は蛙にするよ。つまり、帰る手筈が整うまでは養ってほしいわけ。言うこと聞いてくれたらアメちゃんあげるけど?」
  「……」
  やれやれ。