私は天使なんかじゃない






Another world





  それは異世界からの挑戦。





  「神ノー? 御許ヘー? ……YOU・SHALL・DIEっ!」
  「魔法、だとっ!」
  雷が4つ降り注いだ。
  能力者、か?
  ……。
  ……いや。
  能力者がこんな攻撃をするのは少なくとも今まで見たことがない。
  大体が能力強化系だった。
  戦闘能力を向上させるのが大体だった。
  主のように能力は、まあ、いささか特別なんだろうが、雷を落とすなんて能力は少なくともありえなさそうだ。あくまで身体強化、それが自分の能力者に対しての見解だ。
  雷を何もない虚空から落とす。
  ふむ。
  おそらく自分の見解通り向こう側の世界の住人、だろう。
  4つ腕の聖職者風の男。
  見た感じは悪魔なのだが発している空気、この場に満ちている魔力、それはオブリビオンの悪魔のモノではない。
  むしろ逆だ。
  聖なる感じがする。
  何者だ?

  「Hooっ!」

  「ちっ」
  指を一本こちらに向ける。
  瞬間、雷が落ちてくる。
  だが容易いのは容易い。一直線に落ちてくる、さっきまでいた場に。
  つまり。
  つまり絶えず動いていたら当たらないだろう。
  実際避けれた。
  雷撃は空しく地面に直撃する。
  神父はさらに三本の腕の、人差し指を向けてくる。
  ふぅん。
  四条の雷撃を駆使して攻撃してくる、か。
  時間差で落としてくるが動いていたらまず当たらない。それに初っ端に4連発受けたが大して痛くない。わざわざ受けるつもりもないがな。事実威力は大したことない、地面は抉れてすらいない。
  牽制程度の攻撃だろうか?
  まだ相手の攻撃パターンが分からない。
  慎重に行くか。

  「Hooっ!」

  さらに時間差で四条の雷撃。
  威力は軽いし雷の軌跡は読みやすい。こちらの動きを見越して攻撃してくる、というわけでもない。
  向こうは向こうでこちらの様子見か?
  それとも距離を置きたがっているのか?
  雷撃で間合いを保ちつつ自分を倒そうとしている?
  ……。
  ……だとしたら容易いな。
  はっきり言って攻撃が向こう風、タムリエル風だったので若干驚きはしたものの、攻撃そのものは銃よりもはるかに軽い。
  レイダーよりも弱い?
  正確にはレイダーとどちらが強いかは判別し難い、自分に魔力耐性があるから攻撃が軽いだけかもしれないからだ。こちら側の世界の住人ならもしかしたら痛いのかもしれない。
  まあいい。
  相手もこちらの攻撃方法を探り、様子見ならそれはそれでいい。
  様子見の内に屠るっ!
  銃を、45オートピストルを引き抜いて弾丸を叩き込む。

  ばぁん。

  剣で斬り込まない理由。
  純粋に向こう側の奴に銃が利くのかが興味があったからだ。
  だが、銃は下手だな。
  当たらない。
  相手の肩に掠っただけだ。
  だが傷付けれるのは確かなようだ。
  まあいい。
  遊びはお終いだ。
  斬る。
  抜刀の構え。
  距離はあるが間合いに飛び込むのは容易いし、自分の得意な攻撃スタイルだ。

  「神に・逆らう・不届き子羊っ! そんな・奴には・誓ってもらHuuっ!」

  「……?」
  叫ぶ聖職者。
  言っている意味が分からんが、まあ、ご立腹なのは分かった。
  指をこちらに向ける。
  雷撃が断続的に降り注ぐ。
  ふん。
  甘い甘いっ!
  左右にステップを踏むだけで回避は可能。
  やっぱりだ。
  こいつこれしか攻撃方法がないのだろう。
  ならば容易い相手だっ!

  「ワタシを撃たないと誓いナ・サーイっ!」

  「……?」
  雷撃を落としながら宣言。
  何を言っている?
  「誓え、だと?」
  どういうことだ。
  よく分からないが特に体に違和感はない。
  ……。
  ……駄目だな、主が側にいないからか、どうも試してみたくなってしまう。普段は主の安全第一で行動し敵を排除するが、今は主が側にいない。
  誘惑に負けてしまった。
  銃を構え撃つ。
  「くそ」
  外した。
  やはり銃は苦手だ。主のように100発100中というわけにはいかない。時間を止め、命中率を高めている面があるにしても、主の射撃の命中率は目を見張るものがある。
  だが特に体に変調はない。
  ハッタリか?
  ハッタリなのか?
  まあいい。
  テストはこれでお終いだ、戦いを終わりにしよう。

  「ワタシを斬らないと誓いナ・サーイっ!」

  ハッタリだ。
  駆け、間合いを詰める。

  「走らないと誓いナ・サーイっ!」
 
  「……っ!」
  な、何だ?
  全身が鉛のように重く、全身が生ける彫像のように動かなくなる。
  走らないと、誓え?
  くそっ!
  そういうことかっ!
  誓約系の魔法か、あれはっ!
  それを破った時にのみ発動するという魔法か、銃を撃つなということが誓約ではなく、弾丸を当てるなというのが誓約だった、だから発動しなかった。剣にしても斬るまでは発動しなかった。
  そして今走ったことに対しての制約を破ったことに対してのペナルティで金縛り状態だ。
  甘く見ていたな。
  こいつの知能の高さ、戦略性をも誤っていた。
  銃弾をミスったのは見通せなかっただろうが、次の斬るなについては間合いが、距離があり過ぎたにも関わらずだ。この制約を意味のないものと、こっちがハッタリだと思って間合いを詰める
  こと前提でのことだろう。そして走るなという誓約。完全に向こうはこのコンボでこちらを狙っていたはずだ。

  「導いてやる・子羊メーンっ! 天罰デッドナーウっ!」

  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バチバチバチっと全身が痺れる。
  攻撃方法は見えない。
  金縛りと同時に全身に電流が走ったような感じだ。そしてその電流は先ほどの雷撃とは全く比べ物にならない。
  柄にもなく声を上げてしまった。
  「くっ!」
  その場に膝を付く。
  金縛りが解けた、か。

  「Hooっ!」

  指をこちらに向ける。
  その場を飛び退く。
  誓約系と雷撃系が攻撃方法というわけだ。誓約系はそれを破らない限りは発動しないし、雷撃系は攻撃が読める。問題は近付けないということだ。走ればカウンターが来るし、歩いて間合いを詰め
  ることも可能と言えば可能だろうが攻撃時に誓約系のカウンターが来ることは容易く想像できる。

  「Hooっ!」

  回避の際に走るが……走れる……のか。
  誓約は短期のもの?

  「ワタシを撃たないと誓いナ・サーイっ!」

  わざわざ宣言するということは効果が消えている?
  やはり短期と見るべきか。
  それとも誓約は重複は出来ないのか?
  やはり見極めは大切か、しばらく様子を見た方がいいのかもな。降り注ぐ雷撃を避ける、これだけなら容易いのだが……これだけでは、攻撃に転じれない。
  どれだけ避けたのだろう。
  聖職者は叫ぶ。
  苛立たしそうに。

  「HEY MENっ! SO MENっ! HERE SO MENっ! 神の言葉を信じない、そんな奴はJU-ZAI-NINっ! 迷える子羊・縛り上げ、誓いをSO MUCH 改心せYOっ!」

  いちいち言い方が妙だ。
  ラップ?
  ラップなのか?
  だが、迷える子羊を縛り上げるの駄目だろ……。
  「決めるっ!」
  地を蹴る。
  相手の攻撃パターンはおぼろげだが既に分かった。
  雷撃は威力がない。
  当たらない。
  となると向こうが勝つにはカウンター狙いでしかないが……雷撃系なら、例え走るなと言われても走らずとも回避可能だ。このままではどちらも膠着状態で決着が付かない。自分としてはさっさと
  ケリを付けて主の元に行かねばならない。こいつが何なのか、老人が何だったのか、扉ごとの声は何だったのか、色々と疑問はあるがケリを付けたい。

  「走らないと誓いナ・サーイっ!」

  速度を緩める。
  直後に雷撃を落としてきたがこんなのには当たらない。回避しながら、揺るかな速度で進みながら銃を向ける。剣ではまだ間合いがあるからだ。
  撃つ。
  一発今度は相手の脳天に……当たればよかったのだが……帽子を吹き飛ばしただけ。もう一発撃つ。今度は右耳が消し飛んだ。
  誤差を次第に修正。
  段々と当たるようになってきた。
  そして自分の予想が正しいことが分かってくる。誓約は重複できないようだ。弾丸を叩き込んでもカウンターが来ない。
  次は顔のど真ん中を……。

  「私を撃たないと誓いナ・サーイっ!」

  来たっ!
  走る。
  よし、銃を撃つなという誓約で、走るなという誓約が消えている。
  重複は出来ない。
  それが分かれば容易い。
  走るなという誓約が消えたから走り、走るなという誓約が来たら銃で撃ち、その繰り返しだけで相手に近付き、そして面倒な制約を重複という形で消していく。
  最終的には?
  最終的に接近して剣で斬る。
  斬るなと言われたら銃で撃つ、誓約の重複は出来ない。雷で倒そうにも威力はない。
  ふふん。
  詰みだな。
  自分は抜刀の構えのまま肉薄し、そして……。

  「とにかく色々と誓いナ・サーイっ!」

  「……っ!」
  そんなのありかっ!
  走ってもいるし剣も半ば抜刀している。
  くそっ!
  このまま抜刀し、一撃を加えて屠れば……っ!

  「導いてやる・子羊メーンっ! 天罰デッドナーウっ!」

  体が動かないっ!
  くそっ!
  そして体に流れる電流。

  「悔い改めナ・サーイっ! Hooっ!」

  さらに指をこちらに向ける。ちくしょう、すぐ側にこいつがいるのに、体が動かないっ!
  雷撃が降り注ぐ。
  神父は宙を滑るように……実際若干浮いているのだが……宙を浮いて後退する。間合いを保ちながら雷撃を落としてくる。自分はまだ動けない。雷撃そのものは威力が軽いが受け過ぎて
  気持ちが良い物ではない。カウンター後、おそらく数十秒後なのだろうが、拘束が解けたので降り注ぐ雷撃を回避。
  「はあはあ」
  こちらの拘束が解けたと同時に向こうは雷撃を落とすのをやめた。
  誘っている?
  だろうな。
  またカウンターしてやるぞということか。

  「聞こえて来たかい神の声っ!」

  確かに聞こえてきそうだ。
  そのまま昇天しそうだ。
  ダメージは蓄積されている。かなりでかい、ダメージだ。神父の勝利宣言は続く。

  「信じる者は救われる、救われないのは君の所為っ! 御許に行くにはまだ早い、憐れみたまえこの運命(さだめ)っ! ……神の救いを、YES AGAPE……」

  祈りを捧げる仕草をし、雷撃を落とすのを再開。
  避けるのにも体力がいる。
  まずいな。
  次第に動きが落ちてくる。

  「とにかく色々と誓いナ・サーイっ!」

  来たな。
  また、来たな。
  この誓約がどこまでの誓約かは分からない。
  剣で斬るな、銃を撃つな、走るな、他にもまだ含まれているのか?
  ……。
  ……待てよ?
  斬るなにしても撃つなにしても攻撃そのものは出来るわけだ。走るなは走った途端にカウンターで何も出来なくなるが、少なくとも剣にしろ銃にしろ一撃は無条件で入るわけだ。当たらない
  限りは誓約はないわけだし、むしろこれに賭けてみるべきかもしれないな。そして銃弾は奴に利く。
  深呼吸。
  そして45オートピストルを両手で構える。

  「神の祝福デースッ! Hooっ!」

  降り注ぐ雷撃。
  避けない。
  敢えて当たる。
  動けばかわせるものの銃弾が当たらない。動きながら当てるのは自分ではまだ荷が重い。
  雷撃を浴びながら照準を合わせる。
  心臓?
  いや、心臓があるのかが分からない。
  オブリビオンの悪魔と言えども心臓はあるが、あいつがそもそも生物の範疇なのかが分からない。
  ならば頭を狙うか?
  いや、口の若干上あたりを狙うか。
  誓約系のあの攻撃である『〜誓いナ・サーイっ!』は口上たれないと意味がないのかもしれないし、違うにしても顔のど真ん中あたり撃てばまず死ぬだろう。死なないにしても口上は防げる。
  狙う。
  狙う。
  狙う。
  そして……。
  「そこっ!」

  ばぁん。

  弾丸は飛び、相手の顔のど真ん中に穴を開ける。
  よしっ!
  雷撃を受け続けた甲斐があった。
  神父は自分の顔を触り、そしていのる仕草で天を仰いだ。
  カウンターか?
  カウンターが来るのか?

  「導いてやる・子羊メーンっ! 天罰デッドナーウっ!」

  「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  バチバチバチィィィィっ!
  カウンターが来たっ!
  くそ、こいつ耐えやがったかっ!
  神父は高らかに宣言。

  「神の声が聞こえマースっ!」

  そして。
  そしてそのまま塵となった。
  その場にはもう何も残らない。
  「はあはあ」
  膝を付く。
  どうやる最後のカウンター、だったらしい。
  残念ながらこっちの体力が若干上回ったから道連れにはならなかったが……実際危なかったな。
  久々に危険な相手だった。
  結局何者かは分からなかったが、まあいい。
  エンクレイブ相手よりも疲れた。
  橘藤華よりも弱かったが攻撃方法が面倒だった。多分彼女でも苦戦した相手だろう。逆に主なら……ふむ、誓約の前に時間を止めて頭を吹き飛ばせれる相手なわけだから容易いのかもしれないな。
  さて。
  「帰るか」

  ぞくり。

  その時、背筋に寒気が走った。
  周囲を見渡す。
  洞穴内に変化はない。
  だが包む波長が変わった。
  聖なる気配が消えた。
  何なんだ?
  ここに長居をしない方がいいと判断し、痛む体を引き摺って扉に向かい、扉を開いた。
  唖然とした。
  誓ってもいい。
  さっきここを通った時はウェディンググールがいた小部屋だった、ベッドもあった、今は長い長い通路が伸びている。果てが闇に包まれて見えない。
  まだ何らかの冗談の最中なのか?
  そうらしい。
  ひらひらと目の前に何かが降ってくる。
  紙切れだ。
  見ろ、ということなんだろうな、天井は……ないな、少なくとも果てしない闇が転がっているだけだ。天井はないとみていいだろう。仮にあるとしたら、数階分の高さはありそうだ。
  そんなところから降ってくる紙切れだと?
  思わせ振りすぎる。
  無視してもいい。
  無視してもいいが何らかの意思表示なのは確かだ。
  見てやろうじゃないか。
  降ってくるそれを掴み、書かれていることを見る。
  それはチケットだった。
  点線が刻まれたチケット。帝都の劇場に暗殺任務で潜入した際に購入したような、チケット。
  こう記されていた。

  『放課後悪霊クラブ、特別ご優待券』

  やれやれ。
  神はジョークが好きらしい。
  悪霊、ね。
  たぶんこの催しの概要のようなことだろう。
  「楽しんでやるさ」