私は天使なんかじゃない






select





  選択は常に自由意志。





  自分は何をしている?
  自分は何をしている?
  自分は何を……。
  「……」
  どれだけ同じ言葉を心の中で反芻したことだろう。
  答えはない。
  少なくとも自分の中には。
  ……。
  ……いや。
  答えは常にあるのだ。
  要はそれが自分の中で導き出せないということ。答えは、常に近くにある。
  だがこの状況は何だ?
  分からない。
  自分は老人に付いて歩いている。
  見たのはダンウィッチビルというところの前でだった。主には見えていないようだったが確かに自分の目には映っていた。
  金色の目。
  紫色の異装の衣服。
  手にしている杖。
  その場はそれで終わった、例え自分の目にしか映っていないにしてもただの錯覚だとしても、その時はそれで終わった……はずだった。
  バザーと呼ばれる場所に主と向かった。
  正確な地名は違ったがよく覚えていない。
  別にそこに問題はなかった。
  自分にとっての最優先は常に主であり、主がそれを望んだ以上、それでよかった。
  車を停車し、BBアーミーとかいう素人のような軍隊が車の周りをうろちょろしていたので主は自分に車を見ているように言い、そしてバザーに消えた。
  ここまでは、いい。
  ここまでは。
  だがその後再び老人が現れた。
  そして手招き。
  自分は主からの言い付けを忘れ……いや、正確には忘れたわけではないのだが、老人が気になり、そして後を付いて歩いている。
  何故こんなに気になるのか。
  それは分からない。
  だが自分はこの老人を知っている気がするのだ。
  知り合い?
  そうではないな。
  確か、そう、シロディールにいた時に見た顔だ。
  好々爺のような老人。
  だがその笑みはどこまでも作り物だった。
  少なくとも表現として好々爺という表現を使ってはいるが、人のような感じはしない。
  「何をしているのだ」
  ふと自分で独語する。
  こいつは何らかのミュータントなのだろうか?
  スーパーミュータントみたいな。
  ただの人間ではない、そう認識している。どんなに足を早めても追いつかない、相手は走ってもないのに。逆に遅めても離れない。常に一定の距離だ。
  次第にダンウィッチビルが近付いてくる。
  ここに自分を招きよせているのか?
  何故自分を?
  何故?
  この時、老人に異変が起きつつあった。
  進める足の動きは変わらないものの今度はどんどんと離れていく。老人が自分から離れていく。
  必死になって走るものの老人は豆粒になって遠ざかる。
  そして視界から消えた。
  「来いということか」
  目の前に建物がある。
  荒涼たる荒野のど真ん中にある、古びたビル。
  まるで建物は中から迸る闇を必死に抑えているような感じで、窓という窓から闇が飛び出ない様に耐えているようだった。
  ふと思い出す。
  ポイントルックアウトでここ出身のグールと主が戦ったということを。
  主曰く、不死身に近い化け物だったと。
  ここに何かあるのだろうか。
  まあいい。
  武器はある、腰にはショックソード、ホルスターには45オートピストル、自分にとっての完全武装。
  問題はあるまい。
  建物に近付き、そして扉を押し開ける。


  ……ダンウィッチビルにようこそ。



  闇。闇。闇。
  建物の中は完全なる闇だった。
  一寸先も見えない。
  だが自分は足を進めている。
  どう進む?
  さあな。
  よく分からないが進むべき方角が分かる、そんな感じだ。視界はないのに不思議なことだ。
  これは勝手に足が進んでいる?
  そうかもしれない。
  誘導されている、そんな感じだ。
  だが……。
  「ふむ」
  足は、止めようと思えば止めれる。
  自由意志というわけだ。
  誰だか知らないが自分は選択を与えられ、それを選択するかは自分自身で決めれるということか。
  「気に食わないな」
  勝手に選択を与えられるということが気に食わない。
  自由意志は確かにあるのだろう。
  だが、こんな訳の分からない催しに付き合わされるということは心底面白くない。
  では主の元に元せるか?
  それはそれで癪か、訳の分からないこととはいえ自分はこれに巻き込まれてしまっている、今更引き返すのも面白くない。難儀な性格だがこれが自分なのだ。
  歩く。
  闇の中を導かれるように歩く。
  何も見えないし気配が異様に濃い。闇が……違うな、闇の力だ、闇の力が濃すぎる。
  隣に敵がいても気付かないだろう。
  そして思うのだ。
  これは本当にミュータントなのか?
  自分はこの状況を知っている。
  それはブラヴィルでのことだ、闇の一党ダークブラザーフッドの最終決戦のことだ。フィッツガルド・エメラルダに最後の戦いを挑んだ時のことだ。
  あの時と雰囲気が似ている。
  闇の神シシスの世界と。
  だが顛末こそ知らないものの闇の神シシスは敗北したはずだ。
  だからこそ自分はこのアカヴァル大陸……いや、アメリカ大陸とやらに飛ばされたはずだ。
  分からない。
  分からないが、まあいい。
  今更シシスの復活はあり得ないだろうが喧嘩を売られたのなら買うまでだ。シシスは魂を貪るらしい、つまりは自分の魂を貪る為にここに招き入れたのかもしれない。
  「しかしあの老人、どこかで……」
  思い出そうとする。
  駄目だ。
  こっちでの生活が長くて向こうでの知識は次第に薄れつつある。こっちでの常識が強くなってきているのだろう。
  まあいい。
  敵なら排除する、それだけだ。
  今までと同じだ。
  シンプル。
  そう考えると楽になる。
  問題は、どう主に謝るかだ。
  自分にとってはそちらの方が大きな問題だ。
  それにしても、だ。
  「自分はどこに向かっているか、だ」
  この闇の中だ。
  どこに向かっているのか分からない。だが足を止める気はない。誘導はされているのだ、向こうは自分を誘う気満々なのだろう。どういう理由かは知らないが処方箋は後で考えればよかろう。
  下に下に向かっている?
  階段はまだないが下り坂だ。
  下、ね。
  最奥にはどんな化け物や魔王がいるのやら。
  「扉」
  鉄製の扉が不意に現れた。
  本当に不意にだ。
  仰々しい扉というわけではなくどこにでもある鉄製の、1人が通れる程度の扉だ。
  来いと言うことか?
  扉に手を伸ばすと……。

  「ようこそ迷える子羊さん」

  「……っ!」
  声。
  声がした。
  まるで機械の音声のような、主の家にいたワッズワースのような感情の籠らない声。
  不意打ちに備え抜刀の構え。

  「はじめましての人も、はじめましてじゃない人も、どうもこんにちは」

  「……?」
  一方的?
  一方的なのか?

  「ここは簡単な質問で進むべき道が分かってしまう画期的な場所なのだ。君はやってもいいし、やらなくてもいい」

  「ふん」
  どうやら一方的らしい。
  まあいい。
  進むだけだ。

  「それでは最初の質問だ。君は進んでもいいし、進まなくても……」

  「くだらん」
  ガチャリと扉を開き、扉を潜り抜ける。
  階段がある。
  地下か。
  地下墓地でもあるのか?
  声は聞こえなくなる。
  例え聞こえたとしても特に問題はないしどうでもいい。
  自分は進む。
  下に下にと。
  進んで行く。
  不思議なことに時間の感覚が感じられない、体感的にも分からない、不思議な感覚だ。
  どれだけ進んだことだろう。
  それにしても。
  「進むべき道、か」
  最終的な自分はどこに行くのだろうか、ふと考えてみる。
  どういう因果かは分からないが自分はここにいる。
  そして主の側にいる。
  時折戸惑っている主を知っている、おそらく人助けなど大したことではない、という感じなのだろう。だがそれは主にとって自分にとってはそうではないのだ。そして今のキャピタル・ウェイストランド
  でならともかく、あの当時のキャピタル・ウェイストランド的に見ても奇特な行為だったんだと思う。何気ない人助けだが、それは主にとってであり、自分にとってはそうではないのだ。
  ふん。
  進むべき道、か。
  くだらんな。
  わざわざそんなものに頼らずとも自分には分かっている。
  自分の進むべき道は……。

  「どうもどうもこんにちは」

  「うざいな」
  再び扉にぶち当たった。そして響く声。
  面倒だ。
  だが声はこちらには反応しないのか、そもそも反応する気がないのか、さてどっちだ。

  「先ほどは質問を完全に無視してくれてどうありがとう。さて次の質問、いや、選択だ。扉を進めば進むほど君は後戻り出来なくなるだろう。君は進んでもいいし、進まなくてもいい」

  「後戻り? どういうことだ?」
  質問は無駄か?

  「進んでもいいし、進まなくてもいい、と言っているぞ。さあ進むのだ」

  「……結局進むのか、ふん、そのユーモアは、なかなかだな」
  扉を開く。
  階段がある。躊躇うことなく自分は足を進める。
  その時変化に気付いた。
  雰囲気が変わった?
  闇は闇だ。
  一寸先は完全に闇。
  だが何だろう、雰囲気は、どこか和らいでいる。
  奥に向かって進んでいるからか?
  かもしれないな。
  だとすると最奥にいるのは何な者だろう。
  ダンウィッチビルに入った時は悪魔やら魔王がいる雰囲気だったが、今はそうではない。進めば進むほど闇の力が削がれていくのであれば、最奥にいるのは何者なのだろうな。
  そんなことを考えながら進む。

  「どうやら辿り着いてしまったようだ」

  また扉だ。
  そしてこの声。

  「ここは運命の相手と巡り合った恋人たちが愛を語る場所のようだ。この先どんなことが待ち受けているのだろう? 好奇心と恐れを胸に足を踏み出してもいいし、踏み出さなくてもいい」

  運命の相手?
  恋人?
  何を言っている?
  「それは一体どういうことだ?」
  無駄を承知で声にする。

  「踏み出してもいいし、踏み出さなくてもいい、と言っているぞ」

  無駄だったな。
  無視して扉を開く。また階段……かと思えば、そうでもない。小さな部屋だった。視線の先には扉があるが、その扉を妨げるようにイーゼルに乗った何かがある。
  絵か?
  たぶん額縁に入った絵だろう。白い布が掛かっていて絵は見えないが。
  この部屋は視界が利く。
  照明が頭上にあるからだ。
  それはまるでイーゼルだけを照らしている、そんな感じ。

  「すると突然ご列席の皆様方にお知らせがあるぞ」

  見ろということか?
  布を外せと?
  この声が自分に何をさせたがっているか分からなくなってくる、最初から分からないが、これはただの座興で、そもそも意味などないのかもしれない。
  考えないことだ。

  「前方に見えてきたのは、幸せに包まれた、愛のメモリアルフォトグラフだ。君はご覧になってもいいし、ならなくてもいい」

  愛の……?
  下らない。
  とりあえず布を取って絵を見ろと言うことなのだろう。布を取り除き、絵を見る。
  「あ、主っ!」
  そこに書かれていた絵はウェディングドレスに身を包んだ主を、お姫様抱っこしている自分の絵だった。
  どどどどどどどういうことだっ!
  ま、まさか、これは主が仕込んだ壮大な結婚式なのか?
  くっ!
  何ていじらしいっ!

  「さあ、お待ちかねだよ。いよいよ新婦とのご対面だ。君は結婚してもいいし、しなくてもいい」

  次の扉を蹴破って飛びいる。
  そこもまた小部屋。
  ご丁寧にベッドまである。
  そしてこちらに背を向けて蹲って座っている、ウェディングドレスを来た女性がいる。
  ……。
  ……しょ、初夜だな。
  いささかムードに欠ける場所ではあるが、ふむ、主はお忙しいお人だ。メガトンとかでは何だかんだで邪魔が入るのを嫌っているのだろう。
  ふっ。
  何ていじらしい人なんだ。

  「あ、主?」
  「キシャーっ!」
  不意に振り返りこちらに飛び掛かってくるのはグール。フェラルか。ウェディンググールはこちらに飛びかかってくる。
  そして部屋に響く声。

  「何ていじらしい人だ、なんて、考えていたぞ」

  「黙れぇーっ!」
  怒りとともにグールを斬り伏せる。
  くそっ!
  くそ雑魚の分際でぇーっ!
  グールは頭部の半分を失ってその場に転がる。くだらん。

  「2人の初夜はまだ始まったばかり。じっくりねちねちと続いていくぞ。さあ、2人の愛を確かめ合うのだ」

  「何? ……何だと……?」
  グールは起き上がる。
  馬鹿な。
  アンデッドというわけではないはずだ。
  何故動ける。
  今度は首を刎ねる。これで動かない。そのはずだ。何故なら生き物だからだ。
  だが首がなくても動き出す。
  ……。
  ……そういえばルックアウトのグールも動いていたと主が、ふむ、ここ由来の敵は生物の枠を超えているのかもしれない。だがそれが何だ?
  殺せないかは知らん。
  だが四肢を全て落とせば動けまい。
  全て斬り落とす。
  ふん。
  多少驚いた程度だ。それにしても主との結婚を連想させやがって、ムカつく敵と、そして主催者だ。
  斬らねばならんな、全員。
  扉に向かう。

  「君は数々の選択を乗り越え、ついに最後の扉にたどり着いた。手に汗握り、君は最後の扉の奥がどのようなものか待ち構えていることだろう。だがその前にやらなければならないことがある」

  「やらなければならないこと?」
  何のことだ?

  「最後の確認だ」

  こっちの言うことは聞こえているのだろうか。
  おそらく聞こえているな、これは。
  ただ、こちらの質問に答えるつもりがないのだ。
  敵か?
  敵なのか?
  ここまで来ると完全に闇の息吹のようなものは感じられない。周囲は相も変わらず闇だが、これはただの闇であって、そこに力はない。

  「というわけで泣いても笑っても最後の扉だぞ。君は進んでもいいし、進まなくてもいい」

  「進むしかないだろうが」
  吐き捨てる。
  苦笑してもいいのだろうが、そろそろ面倒だ。主に元に戻らなければならないしな。
  時間の感覚が分からないからな。
  数分なのか数時間なのか分からない。
  ……。
  ……ま、まずいな。
  主に殺されてしまう。
  早く戻らなければ。

  「君はある1つの答えを自らの意思によって選択した。人の進むべき道に正解はなく、ただ、君の後ろには進んできた道があるのみだ。君は自由意志によってこの道を選んだ。さあ、進みたまえ」

  そのフレーズは気に行った。
  良いこと言うな。
  結局誰だか分からなかったが。
  最奥にいるであろう奴の言葉か?
  かもな。
  扉を開いて、最後の扉を開いて自分は進む。階段がある。さてさて、何があるのやら。
  あの老人がここにいる親玉なのか。だがなぜわざわざ扉を俺に……いや待て、まさかあの老人は何らかの思念体で、本体はこのビルの最奥にいて、自分を使って扉を解放させたってことか。
  その場合扉は封印ということになる。
  だが何だろう、この違和感は。
  禍々しい物が封印されているのであれば納得も行くが扉を開けば開くほど、そう、清浄な空気が満ちてくる。
  訳が分からない。
  それに。
  それにここはシロディールではない、どういうわけかこの世界にはドレモラやモンスターの類はいない。魔力の波動もない。となると、そうだな、能力者か、能力者が待っているのか。
  何の為にかは知らん。
  まあいいさ。
  敵なら斬るまで。
  今まで通りだし、これからもそうするだけだ。
  最下層に到達。
  そこは広い空洞が広がっている。
  岩肌の、広大な空間。
  何らかの地殻変動で建物と繋がったのか……いや、階段があったんだ、ここを作った奴は洞穴を認識した上で建物を建てているのだろう。何の為にかは知らんがな。その証拠に完全に
  手付かずの洞穴というわけではなく、頭上には、かなり高い岩肌の天井には幾つかの照明があり、光が洞穴内を照らしている。
  中央に誰かいる。
  「聖職者?」
  帽子を被り、黒い包囲を纏い、棒状の岩に対して祈っているように見える。あれは何らかのオペリスクの類だろうか?
  ここには元々カルト教団がいたと聞く。
  あれが信仰対象?
  聖職者はそのカルトの仲間か?
  自分の存在に気付いたのだろう、振り返ってこちらを見た。

  「病めるトキモー? Huuっ!」

  振り返った聖職者の顔は異質だった。
  帽子の下が金髪なのはいい。
  糸目状の目もいい。
  問題は口だった、糸か何かで縫われている。どこから声を出しているのやら。

  「健やかなるトキモー? Hooっ!」

  そして異質はそれだけでは終わらない。
  腕が4本ある。
  ミュータント、ではないだろう。
  かといってオブリビオンの悪魔ってわけでもなさそうだ。気配は悪魔という感じはしない、むしろその反対だ。聖なる空気を発している。あの謎の声でも建物まで導いた老人ってわけでもない。
  何者だ、こいつは?
  一体全体どう繋がるんだ?
  聖職者は4本の腕の、指を1本ずつこちらに向けた。
  瞬間降り注ぐ。
  自分の頭上から雷が降り注ぐ。
  「くぅっ!」

  「神ノー? 御許ヘー? ……YOU・SHALL・DIEっ!」

  「魔法、だとっ!」
  ミュータントではない。
  能力者でもない。
  こいつ、タムリエル側の生命体かっ!


  VS慈悲深い聖職者戦、スタートっ!







  ※注意。

  今回の台詞はPersona Qの第二迷宮ごうこんきっさの物です。一部変えていますが。
  下層にいる敵は慈悲深い聖職者というボスです。
  万人向けするゲームではありませんがよろしければどうぞな代物です。

  第四迷宮あたりからひじょーに長丁場な迷宮なので、だれてきますけどー。