天使で悪魔





騎士達の休日




  休息。
  休暇。
  休憩。
  休日。
  世の中、息抜きが必要だ。
  一心不乱に全力で職務をこなすより、休む時間を挟む事でより効率的に物事をなす事ができる。

  ある意味、飴と鞭。
  休む時間は、心身を癒し、友人達との絆を深めるのに最適だ。まさに、都合が良い。
  しかしどんなに心地良い安らぎでも忘れてはならない。
  休日の後には再び職務が待っている事を。

  そして、知るべきだ。
  ……世界は安らぎだけでは出来ていない事を。





  「随分と活気が戻ったと思わないか、アリス」
  緑色の友人は、レヤウィンを見回り中に誇らしそうに言う。私も笑顔を称え、同意した。
  あれから三日。
  レヤウィン周辺を仕切っていたブラック・ブルーゴはあたし達白馬騎士団に討ち取られ、彼が率いたブラックボウという
  盗賊団は瓦解しつつある。

  今までその傘下にあった賊達は反旗を翻し、盗賊同士による抗争に発展。
  昨日、再び白馬騎士団は出動。
  それに呼応する形でレヤウィン都市軍も鎮圧に部隊を繰り出し、白馬騎士団&レヤウィン衛兵隊の合同部隊は盗賊達を
  各個撃破。街道や都市周辺の治安は一気に回復した。

  もっとも。
  ブラックボウは今だロックミルク洞窟にかなりの規模の戦力を残しているらしい。
  近いうちに討伐命令が出るだろう。
  「マゾーガ、そもそもあいつらなんなんだろうね」
  「出所不明の資金の事か」
  「そう」

  見回り、と言っても昨日の活躍の報酬として、今日は騎士団員は全員非番。
  見回りという名の観光、何だけど色気のないお話なことで。
  でも、手にはアイスクリームを装備してたりするのは、女の子の特権でしょう。マゾーガ卿は三段アイス。
  さすが豪快なオークだなぁ。……ははは、関係ないか。
  角を曲がる。
  戦士ギルドレヤウィン支部の建物が眼に入る。その真向かいには、新興の何でも屋集団であるブラックウッド団。
  戦士ギルドの半額以下の料金だから依頼人はそちらに流れているっているし、この街はアルゴニアンやカジートが多い。
  ブラックウッド団は基本、亜人で構成されている。
  ここでは亜人は差別階級。
  伯爵夫人が毛嫌いしている為だ。私の種族、ダンマーも差別の対象。
  基準が分からないけど、伯爵夫人はトカゲであるアルゴニアン、ネコであるカジート、緑色のオーク、ダンマーを嫌っている。
  最後のダンマーを嫌う理由。多分、耳の形と肌の色。両方兼ね揃えている為だ。
  どういう意味?
  簡単よ。
  アルトマーもボズマーもエルフ種だから耳がダンマー同様に尖ってる。でも肌の色は人間種。
  レッドガードは肌の色が褐色もしくは黒。でも姿形は人間種。
  ダンマーは耳は尖ってるし、肌は青い。
  どれを取っても人間種ではないから、嫌われているらしい。
  別に万人に好かれる、という自信も傲慢もないけど、種族だけで毛嫌いされるとあまり嬉しくない。むしろ沈むし凹む。
  この街でブラックウッド団が勢力を伸ばし、基盤を築けたのもその為だ。
  差別階級という劣等感が連帯感となり、ブラックウッド団は職務に励み、この街の亜人達は彼らを支持する。
  ここで戦士ギルドが失脚するのは、多分時間の問題だったと思う。
  「もぬけの殻、というやつだな。そう思わないか、アリス?」
  「もぬけって……」
  「別に戦士ギルドに何の感情はないが、ここでは既にブックウッド団の牽制には及ぶまい」
  「マゾーガ酷いっ! おば様や叔父さんだって頑張ってるのにっ!」
  「……? 何を怒る?」
  ひっそりとした戦士ギルド会館。
  ひっそりとしているのは、引き払ったからではない。叔父さんだ。レヤウィンで仕事のなくなったレヤウィン支部の面々にコロール
  の任務をそっくりそのまま回した。だから、ここにはいない。仕事に出ている。
  だけどそれはマゾーガに分からない。
  それに、私が実は戦士ギルドの人間で、白馬騎士団加盟の真意はブラックウッド団の監視。
  毎日毎日、巡察を買って出てるのも監視の為だ。
  もちろん休憩中も、何かにつけてこのあたりウロウロしているし聞き込みだってしている。
  「マゾーガはブラックウッド団、どう思う?」
  「直接的には関係ないから、どうでもいい」

  「冷たい奴ぅ」
  「色的には、アリスの方が冷たいぞ」
  「くっ! 気にしてる事をっ! あ、あんたなんか光合成してればいいじゃんそれが地球温暖化の対策よっ!」
  「人が気にしている事をよくも言うなアリスっ! わ、私だってもう少し濃い緑ならいいなと思ってるんだっ!」
  「……あっ、怒るとこそこなんですね……」
  マゾーガの怒りは収まらない。人目を気にせず口喧嘩を吹っ掛けてくる。
  あたしだって収まりつかない。
  肌の色は結構、気にしてる。この街にいるとね、気になる。
  前述に戻るけど差別されてますから、ダンマー。そこはマゾーガも同じだと思うけど。
  「アリスみたいな子供にこの緑の良さが分かるわけないか。……ふっ、お子ちゃまだもんなぁ、くくく」
  「だ、誰がお子ちゃまよっ!」
  「声が震えてるぞ? ふっ、私なんぞ言い寄る男の処理に大変だ。……まあ、大抵はろくでもない奴らで始末に大変だが」
  ろくでもない奴?
  あー、ブラック・ブルーゴも何か昔の元彼みたいなノリだったなぁ。
  容赦なく裁断したけど。
  この場合の裁断は始末ね、始末。
  「マ、マゾーガは知らないだろうけどあたしだって言い寄られて大変なのよっ!」
  「へぇー」
  「な、なにその馬鹿にしたような響きの受け答えはっ!」
  「いやぁ別にぃー」
  ム、ムカつくーっ!
  この言い方なんかすげぇムカつくよーっ!

  あの名を、出すしかない。あの忌まわしい真実を口にするしかないぃーっ!
  「……フォースティナ」
  「……?」

  「そう、フォースティナ。あ、あたしは同性愛者に言い寄られて、今現在も狙われてるんだからねっ!」
  「……」
  「あ、あたしも悪い気してないし、むしろ襲って欲しいって感じ?」
  「……」
  ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
  お、往来で、街の真っ只中で大声で宣言。
  はぅぅぅぅぅぅっ。
  妙な見得、というかマゾーガの敵対心から叫んじゃったけど、自己嫌悪だよぉー。

  何て事を言ってるのよあたしはぁー。
  はぅぅぅぅぅぅっ。

  言ってはいけない事を大声で叫んだあたしは、穴があったら入りたい心境。さらに上から土被せて埋めて欲しいっ!
  恥の骨頂っ!
  恥の頂点っ!
  ……あたし、もう駄目。マゾーガも笑ってる……。
  「お見それしましたぁーっ!」
  「はい?」
  がばぁー。
  その場に土下座するマゾーガ卿。
  おお、唯我独尊女のマゾーガがあたしの前に平伏してる。そ、それだけ威力持ってるんだ同性愛って。

  ……すげぇ。
  「い、いいのよマゾーガ。分かってくれたら」
  「アリスがまさか同性愛を駆使するとは……ま、まさに騎士の鑑っ! 私でさえ達していない領域に達しているとはっ!」
  「……もう言わないで何か惨めになるぅ……」

  ちくしょう。ちくしょう。ちくしょうーっ!
  変な事を言わなきゃよかったぁ。
  あぅぅぅぅぅぅっ。
  「アリス、私はこれより新たな道を開拓すべく、修行に行く。白馬山荘でまた会おう。……生まれ変わった私を見るといい」
  「ちょ、ちょっとマゾーガ?」
  「さらばっ!」
  ふっ、そう笑いマゾーガは風の如く走り去る。風、と言ってもどすどすと足音立ててるけど。
  マゾーガの後姿を見て思う。
  ……道、踏み外さなきゃいいけど……。

  「さ、さて任務続けよう」
  さっきの『あたし同性愛です♪』宣言で妙な人目を惹いたけど、人目が痛いけど、あたしは木陰にもたれ掛かりながらブラック
  ウッド団の建物を見張る。その為にここに来たのだ。あたしは隠し目付け。
  「ふぅ」
  人の出入りは多い。かなり多い。
  聞き込みで得ている情報では既に100人を超えるメンバーがレヤウィンにいるらしい。シロディール全域では、分からないけど
  この事実から察するにレヤウィンでの戦士ギルドの挽回はかなり無理に等しい。
  ……というか無理でしょう。
  よっぽど妙なスキャンダルでもない限りブラックウッド団の権勢は動かない。
  ただ。
  「繋がってる、のかなぁ?」
  仲間内では『夢想家の評論家』と呼ばれていた衛兵曰く、盗賊ブラックボウはブラックウッド団のヒモ付きらしい。
  出所不明の潤沢な資金は、ブラックウッド団から出ているとも。
  その真意。
  それは、レヤウィン周辺に世情不安を作り出す為。
  確かにここ近隣の治安悪化を踏み台にして、ブラックウッド団は急成長した。

  そう。
  そう考えれば辻褄が合う。何の確証もない、ただの憶測だけど。もちろん噂話を叔父さんに報告書を送ったとしたら?

  ……。
  あぅぅぅぅぅっ。
  きっとレヤウィンにまで乗り込んできたあたしに拳骨するんだろうなぁ。

  それに……。
  「いくらなんでも、そこまでしないと思うし」
  つい、口に出す。
  あたしが世間知らずなのもあるだろうけど、世情不安作り出す為に盗賊を裏で操るなんて話、あるのかな?

  ちょっと想像つかない。
  「貴方、そこで何してる?」
  「あ、あたし?」
  ……違う。
  シシリーさんだ。でも、声を掛けた相手は違う。見た事ない、陰気そうな人だ。シシリーさんはあたしに気付いてない。
  魔術師ギルドの友達なのかな?
  彼女はアルケイン大学の、何とかという評議員の高弟。当然、大学ではかなりの立場なのだろう。
  その人が今は白馬の騎士。

  度肝を抜かすような事をしたい、そう志望動機を語ってたけど、本当なのかな?
  少し、説得力ない。
  ともかく、聞くつもりはないけどここにいるとついつい聞こえてしまうし聞き入ってしまう。立ち去ろうとすると……。
  「シシリー、フィッツガルドとかいう奴が大学から来ている。ダゲイルの件で聞きまわっているんだ、どうしたらいい?」
  フィッツガルド?
  男性の口にした名前は、フィッツガルド・エメラルダさんの事なのかな?
  アルケイン大学から来た、と言ってるしそれに結構珍しい名前だ。多分、あたしの知ってる同一人物。
  へぇ。レヤウィンに来てるんだ。
  「ダゲイルの件で……貴方、この間はうまくやってると言ってたでしょう?」
  「いや、そうなんだが」
  「カルタール。失敗すればどうなるか分かっているの? ……貴方は長い休暇になる、それは理解していて?」
  「お、脅すな」
  「脅しと思うならそれで結構。……それで? 何か問題があるの?」
  「アミュレットを探してる。ダゲイルの能力を制限する、石だ。それは俺が持ってる。以前調べたんだがブルーブラッド砦に
  ダゲイルの親父のアミュレットがあるらしい。それをあの女が気付いたんだ」
  「そこまで分かってるなら貴方も行きなさい。いいわね? 失敗すれば永遠の休暇よ楽しみにしてなさい」
  「わ、分かってる」
  ……。
  ……結局、全部聞いちゃった。
  カルタール、という陰気臭い男はシシリーさんに脅される形で、そのまま走り去る。
  話の内容は陰謀全開。
  魔術師ギルドの内情は、そもそも属してもいないあたしにはさっぱり分からない。会話の流れからしてフィッツガルドさんが
  危ない目に合うような響きではあったものの、もしかしたら違うのかもしれないし、組織が違うとよく分からない。
  「どうしよう、声掛けようかな?」
  シシリーさんに。
  でも、何気に声掛けそびれた感もするし、どうしよう?

  ぽろろーん。
  ……?
  ぽろろーん。
  聞き覚えのある竪琴の音。視線をめぐらす。……ああ、いたいた、レノスさんだ。アルトマーの没落貴族。
  シシリーさんを見つけると、大きな声で……。
  「おお愛しの人よ。君のいない時間を過ごした僕の心は乾き、脆く、儚く崩れ行く砂の城の如く。君は何て罪深い人なんだ」
  「貴方馬鹿?」
  ぽろろーん。
  「馬鹿……そう、僕は馬鹿。君の愛に溺れ、君の愛を欲する。……愚かで、馬鹿な、そんな愛の流浪人……」
  「……付き合いきれないわね」
  ソッポを向いて歩き出すシシリーさん。
  竪琴を掻き鳴らし後を追うレノスさんと、その彼を守護しているヴァトルゥスさんも悠然と従う。
  レノスさん、彼女に気があるみたいだけどいつも玉砕してる。それでもめげずに、口説き落とそうだなんて健気なのかそれとも
  あきらめ切れないしつこい奴なのか、あたしには判断しかねる。
  ……?
  「あれ、レノスさん愛を謳ってた。まさか本気狙い?」
  愛を歌う吟遊詩人ではない、そう公言してた。
  愛を歌うのは、愛する人にだけと言ってたけど、本当に愛してるのかな?
  うーん。どうなんだろ?
  「あの若造も、懲りぬのぅ」
  「あっ、オーレンさん。こんにちわ」
  「おチビちゃんはデバガメかの?」
  「ち、違いますよ。これは、そう、ただの偶然です。偶然、居合わせただけです」
  「まあそれはよいのじゃが緑の嬢ちゃんはどうしたのじゃ? 手当たり次第女性に声を掛けているが?」
  「さ、さあ、なんででしょうねー……」
  ……マゾーガ卿。同性愛に手を出さなくても人は騎士になれるし大人になれますよ?
  はぅぅぅぅぅっ。
  あたしの一言の所為で、友人が道を踏み外したー。
  「おチビちゃんはここで何してるんじゃ?」
  「おチビちゃんはやめてくださいよ。背丈は、ボズマーの貴方より高いんですから」
  ボズマーは総じて、身長が低い。
  ……もちろん、必ずしもそうではないし多分思い込みもあるだろうけど、あたしの知る限りでは背丈が低い人が多い。
  種として全体的に見たらどうかと言われたら答えられないけど。
  オーレンさんはシシリーさんとレノスさんのやり取りを見ながら溜息混じりに呟く。
  「無駄じゃな」
  「無駄?」
  「あの若造に落とせる女ではないな。あの魔術師の嬢ちゃんは、死臭がする。おそらく死霊術師じゃろう」
  「何で分かるんです?」
  「死体の臭いに目がないんじゃ♪」
  「……」
  「冗談冗談。ほっほっほっ、そんなに引いた目でワシを見るな。まっ、人生経験で死臭に敏感と言っておこうかの」
  オーレン卿は、元々はヴァレンウッドで将軍だった、軍人だった。
  人の生き死にに対してたくさん接触して来たに違いない。
  その関係で、死臭にも詳しいのかな?
  ……まあ、あんまり詳しくはなりたくないだろうけど。
  「死霊術師かぁ」
  「おそらくはの。元なのか隠れなのかは不明じゃがな」
  「……? どこがどう違うんです?」
  「ふぅ。近頃の若い者は、そんな事も知らぬのか」
  「す、すいません」
  「シロディールにおいて死霊術はご法度。もっとも、それはアルケイン大学の評議長が代替わりしてからじゃ。それ
  以前に死霊術を学んだ者は多い。元々は死霊術も、魔術の一つであり推奨されていたものじゃからな」
  「へぇ」
  死霊術師=悪だと思ってた。
  「いくら禁止しても、身につけた技能を禁止出来ても抹消は出来ない。つまり、技能を封じた連中を元死霊術師であり現在
  進行形で死霊術を使う連中を死霊術師、大学に在籍しながらも研究をしているのが隠れ死霊術師じゃ」
  「へぇ」
  「……で、話は戻るがあの魔術師の嬢ちゃんがどれに分類されるのかは、知らんがの。少なくとも生きた人間に興味がある
  ようには見えんの。最初に言ったのを覚えておらんか? 生身の人間に興味ないと、言った記憶があるの」
  「ああ、それで」
  何となく覚えてる。
  死霊術を学んだ経験上、死体愛に目覚めたのかな?
  でもシシリーさんも、レノスさんに言い寄られてまんざらでもないように見えるけど……気のせいかな?
  ふぅ。
  オーレン卿は嘆息し、それから暗い面持ちで俯いた。
  「とかく世の中は裏が多いの」
  「はっ?」
  「あの魔術師の嬢ちゃんも思惑付じゃろう。魔術師ギルドは現体制と死霊術師の間で抗争が発展しておる。白馬騎士団に
  来たのも何か意味があるのかもしれん。例えば、レヤウィンの同志に連絡を取る為とか、な」
  「……」
  「あの没落貴族の若造は、御家再興じゃな。負債が幾らかは知らぬが、騎士になって名声を高めれば再興は容易い。名声さえ
  あれば、少し世間を利用すれば簡単にかつての地位に戻れるからの」
  「……」
  皮肉。
  皮肉を込めて、オーレン卿は続ける。
  その嘲りは自分自身にも向けられていた。皆、思惑がある。
  打算?
  計算?
  いいえ。全ての意味に、全ての行動に思惑はあるものだ。例え自身を犠牲にした行動でも、思惑はあるものだ。
  どんな?
  簡単。自分は身を捨ててでも、人々の為に生きるんだー。……はい、思惑です。
  「この中で一番純粋なのは、おそらくマゾーガ卿だけじゃな」
  「マゾーガ? あの、ヴァ……」
  「あのノルドの用心棒は、没落貴族の若造の使用人。しかし今では肩を並べる……もちろんかつての義理もあるじゃろう。しかし
  身分で言えば主と対等じゃ。今の待遇に、満足しておる。しかしそれは騎士に惹かれて、ではないのじゃよ」
  「オーレンさんは、どうなんです?」
  「ワシか?」
  「ロキサーヌって誰です?」
  「……ワシは……そう、おチビちゃんと愛を謳う為に来たのじゃ♪」
  「はっ?」
  「ほっほっほっ。言っておくが、ワシも恋愛攻略キャラクターじゃぞ? ワシにも恋愛EDもあるしイベントも盛りだくさん。しかも亀の
  甲より年の功、長年生きているから『愛の生き字引♪』と呼ばれておる。お子様なお主にとって最高のお相手じゃ♪」
  「……」
  「ワシなんてどうじゃ? これでもプレイボーイとして、有名じゃ♪ ほっほっほっ♪」
  こ、この爺抜け抜けと何言ってやがるとっくに現役終わってるだろうがあたしに相応しいかボケーっ!
  ……。
  ……はっ!
  い、いかん。ダンマー風な口調で罵るところだった。しかも思いっきり睨んでたし。
  危ない危ない。
  あたしは、礼儀正しいダンマーになるって心に決めたのにぃー。
  あぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「ほっほっほっ。冗談じゃ冗談」
  「……」
  当然だこの爺っ!
  「もちろん、お主がその気なら……うむ、付き合って進ぜよう。ワシは罪な男じゃなぁ」
  「……」
  抹殺だこの爺っ!
  あたしは、大きく深呼吸。すーはーすーはー。
  気を落ち着けないと暴言吐きそうで怖い。心の優しい、礼儀正しいダンマー目指してるけど、あたしも根はダンマー。
  世間一般のダンマー像になるのは、常に紙一重。
  「そ、それでオーレンさん。あたしは、何の思惑だと思います?」
  純粋な騎士はマゾーガだけ。
  彼はそう断言した。それはつまり、自分自身も純粋ではないと断言下も同義だけどそこにはあたしも含まれている。
  騎士。
  そうね。あたしは騎士になりたかったし、英雄への道だと思ってる。
  それは夢。
  それは道。
  あたしはそこに到達する事を願ってた。騎士は夢であり、その先にある場所へと導く道だ。
  何を純粋と定義するにもよるけど、あたしは純粋だと思う。
  ……それが志望理由ならね。
  今のところ、それは第二の目的。今現在、第一目的にあるのはブラックウッド団の監視であり、戦士ギルドの任務として
  あたしは白馬騎士団に加わった。レヤウィンで、合法的に監視し、お上の特権も駆使できる。願ったり叶ったり。
  動機としては、不純ね。
  「お主は……ふむ、なるほどの。ワシの名声に惹かれて、ここに来たわけじゃな」
  「はい?」
  「ほっほっほっ。ワシもまだまだ若いのぅ。分かった、おチビちゃんの真意はワシに結婚を申し込みに来たのじゃな。ああ分かっ
  てる分かってる、何も言わんでいい。こういう時は、沈黙して抱き合うものじゃ。カモンカモーン♪」
  「……」
  ガンっ!
  あたしは物言わず、抱きつこうとしたオーレン卿を投げ飛ばした。
  ……こんな奴らしかいないのかよっ!
  「あたし、帰りますっ!」
  ……はぁ。
  安易に叶った騎士への道。
  やっぱり地道に名声上げなきゃ、いかがわしい騎士にしかれないのかなぁ。
  少なくとも白馬騎士団は、騎士とは言えない気もする。
  ……ふぅ。






  あたしが白馬騎士団を愛おしく思い。
  あたしが白馬騎士団を懐かしく思い。

  あたしがその短い限られた騎士団の日々を思い、かけがえもない仲間たちとの日々を想うのはそれからすぐだった。
  もちろん今は気付かない。
  ……今はまだ。
  愚かな事ね。失って、初めて気付くなんて……人は何て愚かなんだろう……。















  「何か異変はないかの?」
  「これはオーレン卿」
  ボズマーの、小柄な老将軍改め、現在は白馬騎士団長のオーレン卿はレヤウィンで最近懇意にしているアルゴニアンの
  情報屋に金貨を数枚手渡す。騎士になる際に支払われて支度金を方々の情報屋に与え、何十名も手懐けてある。
  レヤウィンに来た理由。

  もちろん思惑付だ。自身で自身を動機が不純だと断言した理由。
  それは……。

  「それで深緑旅団は、ロキーサヌの動向はつかめたかの?」
  「確かに卿の仰る通り深緑旅団は既にシロディールに入ってますね。ここから東の未開の地域が餌場となってます」

  「ふむ」
  深緑旅団。
  ヴァレンウッドを荒らし回った集団で、構成員はボズマー。
  ボズマーは知能の低い生き物を支配する能力を持っている。深緑旅団のメンバーはその能力がずば抜けており、百以上の
  トロルの軍勢を引き連れて移動している。

  恐れを知らず、情け容赦ない肉食性のモンスターであるトロル。
  それを軍勢とする深緑旅団にヴァレンウッドでは当惑し、打つ手なしと判断され、罪科の抹消と引き換えに穏便に追放した。
  それが今、シロディールに。
  それもレヤウィン近隣にいるのだ。

  「他に何か情報はないかの?」
  「今のところ。……ただ、未確認ですけど……噂程度ですけど、ブラックウッド団が接触してると」

  「ふむ?」
  「ほら、オーレン卿達がブラックボウ潰したでしょう? だから、今度は深緑旅団と手を組んで世情不安作って自分達の足場を
  固めるつもりなんですよ。世情が不安になれば、民衆が頼りにしますからね。まあ、噂ですけど」
  「分かった。また何かあったら、教えてくれ。ワシは白馬山荘におるから」
  「かしこまりました」

  「……緑の軍勢を率いる悪魔め……次はどう出る……?」