天使で悪魔






連携攻撃っ!






  どうしようもなく強大な敵。
  強い。
  強すぎる。

  だけど恐れる必要はない。
  何故ならあたしは1人ではないからだ。協力して戦えるあたし達が負ける理由なんてどこにもなかった。





  四大弟子戦が終了。
  あたしはファルカーを倒し、アルラさんはパウロを倒し、フォルトナちゃんはカラーニャを倒した。
  勝利後、合流するべく急ぐ。
  虫の王と1人で対決しているフィッツガルドさんの援護の為に急ぐ。


  虫の王は雷撃で出迎えの洗礼をした。
  直撃。
  その場にいた全員は気絶した。
  ただの気絶?
  そうじゃない。戦場においては、敵の前で気絶するという事は戦死したと同じ事だ。気絶は戦死へと自動的に移行するからだ。


  あたしは打ち所が良かったのだろう、わりとすぐに眼が醒めた。
  意識が飛んでいたのは数秒だったらしい。
  長くても一分程度。
  まだ目覚めていないフィッツガルドさん達の為にも時間稼ぎが必要。あたしは虫の王マニマルコの前に立ち塞がった。
  伝説の死霊術師との対決。


  当然ながら単独では足止めも出来なかった。
  だけどあたしに魔剣ウンブラがある。
  魂を食らう魔剣を駆使して何とか対抗、仲間達の復活の為の時間稼ぎをする。しかし決定的な能力の差を覆す事は出来なかった。
  次第に追い込まれていく。
  その時っ!


  その時、新たなる介入者が現れた。
  黒の派閥だ。
  総帥デュオスの勅命により虫の王の首を取りに来たらしい。
  派遣されて来たのは『双剣のエルフ』リリス、『白面の悪魔』セエレ、『血煙の狂戦士』阿片、『黒き狩り人』。その4名、誰もが2つ名を持つ幹部クラス。
  虫の王抹殺の為の編成された精鋭刺客部隊。
  あたしは一時的に組む事にした。
  黒の派閥と同盟締結。


  リリス達は強かった。
  やっぱり黒の派閥の幹部であり総帥直属の親衛隊でもあるイニティウムだ。特にリリスは強かった。
  あたしは何故かリリスに付け狙われている。
  何故?
  それはよく分からない。
  あくまで今回は暫定的な同盟であり仲間になったわけではない。いずれは敵対する。だからリリスの力量を冷静に見てたけど……凄い強い。
  勝てるかな?
  結構微妙だと思うなぁ。


  虫の王はリリス達を目障りと感じたらしい。
  戦い辛い相手だと認識。
  それはそうだと思う。だってデュオスは虫の王の能力を考慮した上でリリス達刺客部隊を送り込んで来た。虫の王の能力を知った上での派遣である以上、
  虫の王にとってやり辛い相手なのは当たり前だ。結局虫の王はリリス達を洞穴の別の場所に転送してしまった。
  あたし達と共闘する展開を嫌ったらしい。
  再びあたしは単独で虫の王に挑む展開になったけど……その時、フィッツガルドさん達が復活っ!
  怒涛の反撃ですっ!






  一斉に武器を構えて悠然と立っている虫の王に挑み掛かるあたし達。
  魔剣ウンブラ。
  あたしが持つこの魔剣こそが虫の王を唯一効率的に倒す事が出来る必殺の武器。一太刀。一太刀でも当たれば虫の王の魂を大幅に削れる。
  連携攻撃っ!
  これこそが虫の王を圧倒的に上回るあたし達の最大の攻撃。
  どんなに最強の攻撃力を誇っていても虫の王は1人、それに対してあたし達は4人いる。決して負けない。
  負けるもんかっ!
  肉薄するあたし達。
  その時、虫の王は杖を掲げた。
  「無益っ!」


  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

  雷撃が踊り狂う。
  あたし達はそれぞれに後方に吹っ飛ぶ。
  ごろごろとあたしは転がりながらも体勢を立て直し、立ち上がる。威力は大した事はない。
  間合を保つ為の魔法。
  うん。
  多分そんな感じだと思う。
  どうやら虫の王は近寄って欲しくないらしい。誰の力を恐れてるんだろ?
  ……。
  ……ま、まあ、あたしじゃないよなー(泣)。
  だけどそれでもいいんだ、あたしは。
  別に群を抜いて強力な力なんてなくたっていい。もちろん、あればあったでいいんだけど(苦笑)。ともかく別に群を抜いた能力を持っている必要はない、あ
  たしはあたしの出来る事をやればいいんだ、全力で。それが連携攻撃、それが仲間と一緒に戦うという事。
  それでいいんだ。
  虫の王マニマルコは忌々しそうに吼えた。
  「何故貴様らはそこまでして立ち向かうっ! 煩わしいっ! 目障りっ! 忌々しいっ! ……ええい、消えるがよいっ!」
  雷撃が虫の王の手に宿る。
  さっきのより大きいっ!
  一気に勝負を決めるつもりらしい。あたしには虫の王の魔法を阻む力なんてない。
  だけど……。

  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  「くあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  今度は虫の王が吹っ飛んだ。
  さっきのお返しです。
  虫の王が魔法を放つ前にフィッツガルドさんの雷の魔法が虫の王の体を焼いた。
  そう。
  これが連携攻撃。それぞれの得意な能力を駆使して、足りない部分を補い合えばいい。……あたしは足りない部分ばっかだけど(号泣)。
  虫の王がゆっくりと立ち上がった。
  「満足か?」
  死なない、か。
  虫の王は体内に3000もの魂を取り込んでいる。手にしている虫の杖にもさらに3000。つまり合計で6000もの魂を保有している事になる。もちろん今までの
  戦いでそれなりに保有している魂は減っているだろうけど、それでも5000回ぐらいは生き返るんだろうなぁ。
  だけど。
  だけどだから何?
  あたしはそう思う。だから何、と。
  絶対に滅びないわけではない。あと5000回ぐらい倒せば虫の王は滅する。絶対に滅びないわけではない。決して勝てない相手ではない。
  あたしはそう思うのだ。
  フィッツガルドさんも同じ思いなのだろう、虫の王に対してまったく恐れていない。
  不敵に彼女は笑った。
  「ええ。少しは気が晴れた。ありがとう、わざと死んでくれて。……あれ? もしかしてわざとじゃなかった?」
  「……小賢しい小娘だっ!」
  「そりゃ失礼」
  「礼儀のない者は嫌いだよ。余に逆らう者は特に嫌いだ」
  「お互いに嫌い合う仲。実に結構だと思わない? 何の情も挟まずに殺し合えるわけだからね。お前殺すよ」
  「小娘っ!」
  「フォルトナ」
  虫の王は突如としてズタズタに切り裂かれる。
  これがフォルトナちゃんの力っ!
  ……。
  ……えーっとフォルトナさんの力ですか?
  わざわざブレトンの少女の名をフィッツガルドさんの名を呼んだ、次の瞬間虫の王はズタズタ。フォルトナちゃんの力と考えるのが妥当だろう。
  それに視えた気がする。
  フォルトナちゃんの指から何か糸状のものが放たれて虫の王を切り刻んだ瞬間が視えた気がする。
  うーん。
  ファルカー戦から妙な感覚なんだよなぁ。
  もしかしてあたしってばニュータイプなのかもっ!
  視える、あたしにも敵が視えるぞ……みたいな格好良い台詞を言いながら戦える日が来るかもしれないっ!
  ヾ(〃^∇^)ノわぁい♪
  「一気に畳み掛けるわよっ!」
  『はいっ!』
  フィッツガルドさんの号令にあたしとフォルトナちゃんは応える。だけどアルラさんは無言のまま。
  どうしてだろ。
  そういえばアルラさんも魔法の名手なのに虫の王戦では魔法使ってないなぁ。
  もしかして四大弟子戦で消耗してるのかな?
  「行くよ、フォルトナちゃん」
  「はい。アリスさん」
  ともかく。
  ともかくあたし達は虫の王に挑まないとね。それぞれの能力を考えた結果、あたしは戦士として接近戦を挑むのが妥当。戦士の適正は白兵戦。
  虫の王と接近戦を繰り広げ、フォルトナちゃんの不可視の攻撃で隙を衝き、フィッツガルドさん達の魔法攻撃でトドメを刺す。
  それが一番の作戦。

  タタタタタタタタタタタタタタタっ!

  あたしは走る。
  「フォルトナちゃんはあたしの少し後方から援護してっ!」
  「はい。アリスさん」
  並走せずにあたしが先行。担当としてはあたしが魔剣ウンブラで斬り込み、フォルトナちゃんが不可視の特殊攻撃で援護。
  それがベストだと思う。
  「はあっ!」
  「ちっ」
  斬り込む。

  フッ。

  魔剣ウンブラと正面きって戦いたくはないらしい。虫の王は空間転移をした。
  だけど無駄ですっ!
  何故かファルカーとの戦いからあたしは妙な能力に開眼した。……唐突だなぁ……。
  今のあたしには魔力の流れが読める。
  正確には視える。
  虫の王の出現場所は……。
  「あそこっ!」
  「分かりましたっ!」
  指差す場所にフォルトナちゃんは手を振る。瞬間、不可視の強力な力が発生、それは虫の王目掛けてまっすぐに進む。視認して放つよりもある程度の予
  測の上で放つ方が相手の意表を衝く形になる。もちろん命中率に関ってくるんだけど……フォルトナちゃんの不可視の攻撃は軌道修正可能みたい。
  不可視の攻撃は出現した虫の王の胸元を貫いてた。
  これで虫の王は一回死んだっ!
  「魔力の糸よっ!」
  フォルトナちゃんが叫ぶ。
  不可視の攻撃の正体は魔力の糸なんだぁ。
  ……。
  ……魔力の糸って何(焦)?
  ま、まあ、それはおいといて。だけどフォルトナちゃんの能力も特殊だけどあたしの能力も大概特殊だと思う。これが能力という範疇なのかは分からないけど。
  虫の王曰く『鷹の目』らしい。
  うーん。
  魔力の糸も意味不明だけど鷹の目も意味不明だなぁ。
  だけど今までのあたしの戦いの中から察するに魔力の波動が読めるもしくは視えるという能力なんだろうな。
  つまり?
  つまり魔力の糸も何となく見えるし空間転移の出現場所もなんとなく視える。
  この戦いには一番相応しい能力なんじゃないかな。
  バックアップ可能な能力だと思う。
  攻撃的な能力じゃないけどナビにはなるし、あたし自身は白兵戦の能力を持ってる。魔剣ウンブラの効果が一番大きいんだろうけど接近戦が出来る。
  よしっ!
  一気に叩くぞーっ!
  「フォルトナちゃん、あたしが進む先が常に虫の王の転移先っ! そこを狙ってっ!」
  「分かりましたっ!」
  虫の王は空間転移で間合を一定に保つ。よっぽど魔剣ウンブラとの直接対決を嫌っているのだろう。
  ……。
  ……あたしを恐れて、じゃないのが痛いなぁ。
  はぅぅぅぅぅっ。
  「虫けら風情が。果てよっ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  雷撃っ!
  あたしフォルトナちゃんはそれぞれ左右に回避。直線に進むしかない一撃は横に飛ぶだけで回避出来る。もちろんその時の状況によっては回避出来
  ずに直撃はあるけど、状況もいともないまま一直線に放たれる一撃を避けるぐらいの力量はあたしにはあるつもり。
  「フォルトナちゃんっ!」
  「はいっ!」
  放たれる魔力の糸。

  フッ。

  直撃の瞬間に虫の王は空間を渡った。気のせいか段々とせこくなってる気がするな、虫の王。
  あたし達が攻め辛い相手と化している?
  そうかもしれない。
  何様だ、と言われるとあれなんだけど……あたしを含めフィッツガルドさん達も単独では虫の王の絶対的な魔力の前には足元にも及ばないと思う。
  幾千もの魂を保有する虫の王。
  その魔力は強大というレベルではない、絶対的なレベル。
  なのに今あたし達は少しずつではあるけど虫の王の魂のカウントを削っている。この期に及んで虫の王が手加減しているとは思わない。
  つまり。
  つまり本当に虫の王は攻め辛いのだ、あたし達が。
  自身の力だけを過信して単独の虫の王。それに対してあたし達は自分達の弱さを認めた上で連携を組んでいる。虫の王にしてみれば『雑魚だから徒党
  を組んでいる』と取るのかもしれないけど、自身の弱さを認めれるからこそあたし達は一緒に戦える。
  そこが虫の王とあたし達の決定的な差。
  「魔力の糸よっ!」
  あたしの進行方向に出現した虫の王の心臓に攻撃を叩き込むフォルトナちゃん。
  あたしが攻撃を読み、フォルトナちゃんが的確な攻撃。
  うん。
  結構いいコンビかも。
  「ええいっ! いい加減目障りだな、ダンマーの戦士よっ! 身の程を知れぃっ!」
  虫の王の両手に今までにない出力の雷が宿る。
  まずーいっ!
  だけどどう動いてもこの距離では回避出来そうもない。かといってあたしの攻撃の間合にはまだ少しある。虫の王を殺す事は出来てもすぐに復活する、フォル
  トナちゃんがどう振舞ったところで虫の王の攻撃を中断させる事は出来ないだろう。あたし達に出来るのは魂のカウントを減らす事だけ。
  そして……。

  「覇王・雷鳴っ!」
  
バチバチバチィィィィィィィィィっ!

  雷撃が踊る。
  「な、なにぃっ!」
  空しく虫の王の声が響く。雷撃はことごとく遮断される。虫の王のすぐ目の前で雷撃は遮断、そこから先には届かない。
  あたし達には届かない。
  虫の王が手を伸ばせば渾身の雷撃が遮断されているところに手が届くだろう。
  凄い力を感じた。
  発動元は後方から。
  きっとフィッツガルドさんとアルラさんの防御魔法か何かだろう。あたしはスピードを殺さずにそのまま駆ける。
  滑り込むように斬り込むっ!
  「やあっ!」
  「小賢しいわぁっ!」
  バッ。
  両手を勢い良く掲げた。

  
ゴオオオオオオオオオオオっ!

  物凄い衝撃波が生じた。
  虫の王を中心にこのフロア全体を衝撃波が襲う。当然フォルトナちゃんも後方で魔法私怨をしてくれたフィッツガルドさん達にも影響が及ぶ。
  「くっ!」
  せっかく間合い詰めたのにーっ!
  あたしの見せ場がーっ!
  はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  衝撃波であたしは後ろにズザザザザザと滑りながら押しやられる。本気で魔剣ウンブラとの対決を拒んでるな、虫の王。気持ちは分かる。ウンブラで斬
  られた時、虫の王は恥も外聞もなく苦痛の咆哮をあげたから。魂を食われるのはとても苦痛を感じる事らしい。
  だから。
  だから直接対決を避けている。
  虫の王は痛みという概念がご無沙汰だったのかもしれない。今までは帝王然として踏ん反り返っていれば万事順調に進み、それだけで良かったんだろう
  けど今回はあたし達が立ち塞がっている。挑みかかっている。フィッツガルドさんと敵対した以上、踏ん反り返ってもいられない。
  虫の王は確かに強い。
  魔法に関してはど素人なあたしだけど……虫の王の魔法って当たっても死なないのは意外だったな。直撃したらそりゃ痛いけど消し炭になる事はない。
  あたしの魔法耐性はそう高くない。
  ダンマーの特性とソロニールさんから貰った魔力アイテムのお陰で炎系に関しては向うに出来る。でも雷系はそうじゃない。そうじゃないのに虫の王の
  一撃を何度か食らっているけど死んでない。生きてる。こうして虫の王に何度も食らいついて行っている。
  もしかしたら虫の王の魔法攻撃の威力はそう高くない?
  そうかもしれない。
  手加減しているのではなく元々高くないのかもしれない。
  そうじゃなければあたしが生きている理由にはならないわけだしね。つまり虫の王には決定打となる攻撃力はないのだ。
  あるのは生命力だけ。
  だったら勝てるっ!
  ……。
  ……ううん。そうじゃない。勝つんだ、勝たなきゃっ!
  ファルカーと約束した。
  そしてそれ以上にあたしは実感している。
  虫の王マニマルコの能力はこの世界にとって良くない。他者の魂を取り込み生命力と魔力を増幅しているこの伝説の死霊術師は世界にとっての天敵。
  勝たなきゃっ!
  「無事?」
  「大丈夫です、フィッツガルドさん」
  「問題なくってよ」
  「フィーさん、問題ないです。いつでも行けます」
  全員特にダメージはないみたい。虫の王は杖を手にし忌々しげに舌打ちをした。
  やっぱりだ。
  この人、あたし達を倒す決定打はないんだ。
  強大な魔力と絶大な生命力を有してはいるものの絶対的な攻撃力がなければ鉄壁の防御力もない。攻守は完全に紙切れ同然。ま、まあ、フィッツガルド
  さんとアルラさんの防御魔法がなければあたしは死んでたんだろうけどね。すいません四大弟子3人倒して調子に乗ってました(泣)。
  ともかく。
  ともかく虫の王が誇っているのは魔力と生命力。
  それだけだ。
  つまりタフさが取り得、と言うべきかな。
  あとは魔力が高いわけだから手数は多いんだろうけど、それでもメチャメチャ強いってわけじゃないみたい。
  少し意外だったなぁ。
  もっと凄い魔法をビシバシ操る魔術師だと連想してたのに。
  「ふっ」
  フィッツガルドさんは鼻で笑った。
  嘲笑。
  魔術や剣術だけがフィッツガルドさんの得意技ではない。話術もまたこの人の力。話術では……勝てそうもないなぁ。あたしは頭の回転早くないし。
  それに多分同じ言葉を言ったとしてもフィッツガルドさんの言葉のようには相手に響かないと思う。
  何故?
  多分フィッツガルドさんの言葉には裏打ちされた何かがある。経験とか体験とか。
  あたしにはそれがない。
  だから話術では勝てないと思う。
  ……。
  ……というか勝てないジャンル多過ぎるなぁ。
  あっ。
  でもモグラ検定とかだったらあたし勝てそうっ!
  モグラ勝負したらきっとフィッツガルドさんは『とほほ(泣)』とか言ってあたしに屈するんだろうなぁ。
  次回更新から『モグラ戦記アリス』という作品に代わればいいのにぃー。
  さて。

  「びびってんの? 私達に?」
  「トレイブンの養女よ、余に対しての暴言は許さぬ。いかに貴様が希代の魔術師だとしてもこの肉体の持ち主には遠く及ばぬ」
  「……?」
  「余はお前達魔術師ギルドの祖だと言ったらどうする?」
  「はっ?」
  「この肉体、ガレリオンなのだよ」
  「どういう意味?」
  「余はあの時、ガレリオンに敗北した。しかし余は奴の肉体を乗っ取った。死の間際にな。……考えてみよ。何故ガレリオンは余の遺産を破壊せずに
  隠匿したと思う? 分かるかな? お前達は結局は余の計画したシナリオ通りに舞っているに過ぎぬ」
  「……」
  「次第に余に取り込まれ狂っていくガレリオンの魂は美味であった。余は魔術師ギルドを鍛えた、余の部下である死霊術師とぶつけた。何年も何十年も。
  結果として魔術師ギルドの魔術師達は鍛え上げられた、魂の質が向上した。それを余は取り込んだ。結果として余の生命と魔力はより高まった」
  「……」
  「その後、余は……いや、ガレリオンはこの世を去った。永遠に居座るのは無理なのでな、死んだ振りをした。今度は余は黒蟲教団を鍛え上げて、魔術師
  ギルドにけし掛けた。戦いの中で魂の……くくく、以下略だ。余は同じ事を何度も繰り返してきた。分かるかな? 今回の一件もまた同じ」
  「……」
  「そうともっ! お前達が命を賭けているこの戦いも何度も繰り返されてきた、他愛もないイベントなのだよっ!」
  「あんたの生贄の儀式ってわけ?」
  「そうなるな」
  「それでスケール大きいと威張れると思ってるわけ?」
  「何?」
  「そんなに死ぬのが怖いのか、この腰抜け」
  「……何だと?」
  「だってそうじゃない?」

  えっと。
  すいませんフィッツガルドさんと虫の王マニマルコの会話はまったく?の会話なんですけど。
  フォルトナちゃんを見る。
  彼女もまた同じように顔してた。
  よかったぁ。
  ただアルラさんは少し表情が硬かった。
  うーん。
  凄いシリアスな会話なのは分かるんだけどあたしは魔術師ギルドの人間ではないし内情もよく分からないから意味不明、かな。部外者だし。結局のところ
  今回参戦しているのはフィッツガルドさんへの恩返しとか友情とか義理といった感情でありそれ以外の内情はよく分からない。
  フィッツガルドさんは静かに微笑んだ。
  微笑?
  ううん。
  それは限りなく冷たい、侮蔑を込めた冷笑だった。
  ゾクッとした。
  この人の真骨頂はこういう冷酷なところなんじゃないかと一瞬思ってしまった。もちろん心底酷薄じゃない人なのは分かってる、今までだって何度も助けてくれ
  たしあたしの窮地を救ってくれた。しかし思う。フィッツガルドさんの心の奥底には決して祓えない闇があるんじゃないかって。
  考えてみればあたしはこの人の半生を知らない。
  どんな過酷な事があったんだろ。
  そう、勝手に深読みしてしまうほどに冷たい微笑だった。
  虫の王は咎める。
  「何だ、その笑いは」
  「あら敏感なのね。やっぱり弱虫の王は人の侮蔑には敏感なのかしら?」
  「……貴様……」
  押し殺した声で恫喝。
  アルラは小さい声で呟いた。
  「……あなた、このトークは何の意味ですの?」
  「時間稼ぎ」
  「……時間稼ぎ? それは挑発って言うんですのよ……」
  「あら失礼」
  「まったく」
  同意しますーっ!
  火に油を注ぐようなものだと思う今日この頃(泣)。
  だけど他の人が言った台詞なら戦々恐々とするんだろうけどフィッツガルドさんの言葉だとどこかやっぱり頼もしい。
  彼女は続ける。
  「無敵の死霊術師、伝説の死霊王、誰もが恐れて震える虫の王マニマルコ……だけどその実態はただの臆病者ってわけだ。あんたって噂ほどじゃないわね」
  「……何?」
  「聞こえなかったわけ? 噂ほど大した事ないって言ってんのよ、小物」
  「小娘っ!」
  「吼えるしか能がないってわけ? あんたの囀りは聞き飽きたわ」
  「囀りだと?」
  「わざわざ聞き返さないで。それとも何? あんた耳が遠いわけ? 隠居すれば? そろそろさ」
  「小娘っ!」
  力強く足を踏み鳴らす虫の王。
  怒ってるよーっ!
  はぅぅぅぅぅぅっ。
  案外大した敵ではないとは思うけどやっぱり伝説級の相手、そう凄まれると怖いかもっ!
  一瞬だけど『コロールでモグラ指導してりゃ良かったー』と思ったもんっ!
  だけど無敵のブレトン女性は続ける。

  「何をびびってんの? 無敵の存在なんでしょう? だったら大物らしくデーンと構えたらどうなの? 私は思うのよ、あんたは結局死を恐れてるってね」
  「死を恐れる? 馬鹿な。余は死を超越した……」
  「その発想がそもそもおかしい。本当に死と向かい合えるのであれば、超越はおかしいの。だって越えるべき対象ではないでしょう、死は」
  「何が言いたい?」
  「死とは受け入れるもの。越えるべき事ではないわ。その発想をした時点でお前はただの落伍者でしかない」
  「撤回せよ」
  「いいえ。むしろ繰り返す。あんたは、ただ、死を怖がってるだけに過ぎない。あんたの同類の死霊術師もそうよね。死を越える、死を否定する、その定義は
  そもそもが過ちそのもの。死は超えるべきでも否定すべきでもない、受け入れてこその、強さなのよ」
  「ではお前はトレイブンの死を受け入れたというのか? 死は悲しむべきではないと?」
  「そうは言ってないわ」
  「ではお前に問おう。トレイブンの養女よ、お前は死を身近な存在としたいというのか?」
  「それはおかしな質問ね。死は私達の一部。私達は生れ落ちた瞬間から死の抱擁を免れる術などない。ただ私達は死を人生の一つとして、生活の一部とし
  て受け入れるしかない。人生を送っていく内に私達は死の観念を学ぶ。それが正しい人間としてのあり方。不老不死などただの逃げ道でしかない」
  「死を否定して何が悪い?」
  「死を否定する為の代価は何? 何を等価交換した? ……あんたはね、自分以外の命を代価として払って生きているに過ぎない」
  「それが悪か? 自分だけが幸せでありたいと思うのは悪か? 競争なのだよ、全ては。勝つ者がいれば負ける者もいる。真理だ」
  「真の理、なるほど、それは真理足りえる。だけど外道に落ちた者が言うべき言葉ではないわね」
  「何?」
  「死を越えようと行動した瞬間、お前はこの世界の全ての敵となった。私は死を否定するお前を、否定するまでよ」
  「余を否定するだと?」
  「ええ」
  「それはつまり、不老不死となった、つまりは死を超越した余を殺すという事か?」
  「ええ」
  「……やれるものなら、やって見せるがよいっ!」
  「アリスっ!」

  あたしの名を鋭く叫ぶ。
  瞬間、あたしは動いた。魔剣ウンブラを手に駆ける。フィッツガルドさんの意図が分かったからあたしは躊躇わず走る。
  あたしの特性は接近戦。
  そんなあたしの名前を呼んだ、それすなわちあたしに『行けーっ!』という意味だと思った。
  体力?
  体力は充分。
  完全には当然ながら回復していないけどフィッツガルドさんと虫の王の会話が結構長かった。多分それが時間稼ぎという意味なんだろうなぁ。誰もが連戦
  で消耗している、だからこそ延々と長話をしていたのだ。体力の回復の為に。そして虫の王を挑発し、冷静さを失わせる意味の為に。
  あたしは戦士。兵法の類も学んでる。戦士たる者、情報分析も必要だからね。
  その本にはこう記されていた。
  真の兵法家は一つの行動で二つ以上の効果を発揮するものらしい。フィッツガルドさんはその真の兵法家だと思う。
  あたしは所詮は戦士。
  連携戦では頭の良い、戦略に長けた人の言葉で動くべきだと思ってる。
  それぞれの人物にはそれに相応しい特性があり、命令に従うのをあたしは別に恥辱だと思わない。

  タタタタタタタタタタタタタタタッ。

  虫の王に向って疾走する。虫の王、杖を手にして警戒する。
  魔剣ウンブラは唯一効果的に虫の王を殺せる武器となるのだから当然。虫の王は虫の杖を再び足元に突き刺して両手で身構えた。
  さっきのあの雷の魔法だっ!
  一気に勝負を決するつもりらしい。
  あたしは走るスピードを落とさない。むしろ可能な限り速度を上げる。もっとも体力が回復しているとはいえ完全ではない。疲労は蓄積されている。途中で足が
  縺れて転びそうになるものの、それでも力の限り、可能な限り速度を上げた。
  信じてる。
  あたしはフィッツガルドさんが捨て駒としてあたしを利用する事はないと信じてる。
  信じているからこそ全力で戦えるっ!
  その時、フィッツガルドさんはもう一度叫ぶ。
  「アリス、魔剣ウンブラをこっちにっ!」
  「分かりましたっ!」
  躊躇いなんてない。
  急ブレーキ。
  抜き身の魔剣ウンブラを宙に放った。大きく孤を描きながら魔剣ウンブラは舞う。全員の視線が魔剣ウンブラに集中した。虫の王もだ。
  特に虫の王は切実だ。
  だって唯一効率的に自身を滅ぼす武器、それば魔剣ウンブラ。
  どんなに放言しても分かってる。虫の王は心底魔剣ウンブラを恐れているのだと。そうじゃなきゃ、あたし相手にあんなに間合を大切にしない。正確には
  あたしに恐れていたわけではなく、魔剣ウンブラを手にしたあたしに恐れていただけどね。
  魔剣ウンブラは宙を舞う。
  フィッツガルドさんに向って。
  ……。
  ……だ、だけど、抜き身なんですけど大丈夫なんですか?(汗)
  フィッツガルドさんがキャッチし損なって刺さったら笑うなぁ。心配するとか以前に多分間抜けすぎて笑うと思う。
  あれ?
  そしたらあたしが主役?
  そ、それはそれで……い、いえっ!
  そんなわけないじゃんっ!
  うーっ!
  あたしってば意外に野心家なのかもっ!
  フィッツガルドさんに取って代わるだなんて……それに仲間がポカミスで戦死を想定するなんて不謹慎すぎるぅーっ!
  はぅぅぅぅぅぅっ。
  「ちっ」
  舌打ち1つして虫の王は手の雷を消した。
  あたしを殺すか、魔剣ウンブラを奪取するのか、どちらかを決めたらしい。脅威は魔剣ウンブラ。そう判断したのだ。手を魔剣ウンブラに向ける。
  当然ながら届くはずがない。
  だけどあたしには分かる。それは念動の力。四大弟子であるファルカーに念動の能力与えたのは虫の王。本家本元の念動の力で魔剣ウンブラを奪おう
  という腹らしい。あたしは大きく後ろに飛び下がる。あたしの役目は魔剣ウンブラで相手の気勢を殺ぐ事。そして注意を逸らす事。そう認識してる。
  役目を果たした以上、下がるとしよう。
  無手だし。
  誰もが魔剣ウンブラに集中した。
  あたしも。
  アルラさんも。
  フォルトナちゃんも。
  虫の王マニマルコでさえも。
  視線は集中する。
  ただしフィッツガルドさんはただ1人倒すべき敵、虫の王マニマルコを見据えていた。そして叫ぶ。
  「フォルトナ、魔力の糸で魔剣を奴にっ!」
  「分かりましたっ!」
  フォルトナちゃんが動く。
  手から魔力の糸を紡いで宙を舞う魔剣ウンブラを絡め取る、その魔剣ウンブラは一直線に虫の王に向って突き進む。この間、わずか数秒。
  一直線に進む魔剣ウンブラ。
  「おのれぇっ!」

  バッ。

  虫の王、両手を突き出した。しかし今回は雷は宿らない。
  ただ魔剣ウンブラの動きが止まった。
  魔力の流れがあたしには視える。虫の王マニマルコの手から不可視の魔力の波動が発せられていた。それが魔剣ウンブラに伸びている。
  そして魔剣を絡め取る。
  念動だっ!

  カタカタカタ。

  魔剣ウンブラが揺れる。
  少しずつ。
  少しずつ向きを変えようとしている。
  念動と魔力の意図のぶつかり合い。どちらも魔剣ウンブラのコントロールを奪おうと、主導権を奪おうとしている。しかし次第に魔剣ウンブラの軌道が
  変わりつつある。力と力のぶつかり合い、その均衡が崩れつつあった。虫の王のコントロールがフォルトナちゃんを凌駕している。
  そこはさすがだと思う。
  やっぱり伝説の死霊術師の異名は伊達じゃない。……ま、まあ、敵を誉めるのもどうかと思うけど。
  だけど。
  だけど、防御が甘いかな?
  念動にほぼ全ての魔力を投じているような気がする。攻撃に魔力を全て回しているから防御が甘い。それをフィッツガルドさんに言おうとすると……。

  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  雷撃が虫の王を焼く。
  ……。
  ……うわぁ容赦ない(泣)。
  って今回あたしってばフィッツガルドさん非難ばっかしてるっ!
  ちょっと調子に乗ってるのかなぁ、あたし。

  カタカタカタ。

  魔剣ウンブラは次第に軌道を変えつつある。
  虫の王に?
  ううん。
  フォルトナちゃんに。
  フィッツガルドさんの雷の魔法で虫の王は多分一回死んだ、だけど虫の王は気にしていない。魔力の集中は衰えていないし乱れてもいない。おそらくその
  程度の魂の消失のリスクは仕方ないと思っているのだろう。多少の魂の消失と引き換えにあたし達を倒したいのだ。
  まずい。
  フィッツガルドさんはさらに雷の出力を上げるけど虫の王は怯まない。

  「アルラっ! 手伝ってよっ!」
  「うるさいですわ」

  アルラさんは攻撃に加わらずに何かの踊り……ううん、印を切ってるのかな?
  魔法に精通していないから何のジャンルの魔法を使用しているのかが分からないけど……現在の戦闘状況を考慮すると破壊か召喚……かなぁ?
  フィッツガルドさん、さらに雷撃を放つ。
  あたし?
  あたしは指示待ち。
  武器ないし魔法は山賊すら倒せない威力だし。フィッツガルドさんという最高のリーダーにして叡智の軍師がいる以上、あたしはその指揮下で動く方がいい。
  虫の王マニマルコに対抗する為にはその方がいい。

  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  虫の王は怯まない。
  多少の魂の消失というリスクは既に仕方ないと決心しているのだろう、虫の王は念動の力を弱めない。防御に魔力を回さない。
  あたしに出来る事。
  あたしに出来る事。
  あたしに出来る事。
  何だろ。
  雷、雷の魔法、何か引っ掛かる。
  フィッツガルドさんの指示で動くという事に異論はないし、人の命令で動く事に関しては別に恥辱は感じないけど……自主的に動くというのも時には大事。
  ……。
  ……あっ!
  そうだ、あの方法だっ!

  タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ。

  走る。
  あたしはフィッツガルドさんの左隣まで急いで走る。虫の王は気にも留めないしフォルトナちゃんは忙しい、フィッツガルドさんも雷撃放ってる最中だし
  アルラさんも何かの印を切っている。この中で唯一、あたしは戦闘能力がない状態。誰も気に留めない。それでいい。
  何故?
  それはつまり誰もあたしがしようとしている行動に見当がついていないという事だからだ。
  意表を衝く。
  それが最大の攻撃力となる。
  物言わずあたしはフィッツガルドさんの左腰に差してある鞘から剣を引き抜いた。
  雷の魔力剣。
  右手でそれを構えて、そして虫の王に向って投げ付けた。
  無断借用ごめんなさいっ!
  後で弁償しますーっ!
  「やあっ!」
  短い気合とともに魔力剣は一直線に飛んでいく。コロール時代に一杯修行した。剣を投げて正確に対象に当てる、これは自信がある。
  コロールにいた頃、縁日では『射的のアリス』として名を馳せたなぁ。
  ともかく。
  ともかく雷の魔力剣は虫の王の胸元に吸い込まれるように突き刺さった。
  魔力障壁で弾かれない。
  それはつまり虫の王は魔力剣の原理をまったく知らないという事になる。知っていたら防御したはずだ。取るに足らない攻撃だと判断したからこそあたし
  の攻撃を完全にノーマークだった、というわけだ。まあ、あたしもどうして『ああなるのか』の原理はまったく知らないけど。
  知ったのはレヤウィンのブラックウッド団本部での戦い。
  フィツガルドさんが黒の派閥の幹部イニティウムの1人サクリファイスを倒した時に見せた攻撃方法だ。
  微笑するフィッツガルドさん。
  意図を汲んでくれた。
  「裁きの天雷っ!」
  さらに雷撃の出力を高める。
  そして……。

  
バチバチバチィィィィィィィィィィっ!

  突然、突き刺さった雷の魔力剣から雷撃が踊り狂う。
  そう。
  あたしが望んだ展開が、これだ。
  原理は知らない。
  原理は知らないけど魔法と魔力剣の属性が同じの時、同属性の魔法同士が掛け合った時、爆発的な威力が発揮する。
  もちろんその際に魔力剣の永遠に魔力は失われる。
  つまり剣に封じられていた魔力全てが放出される、半永久的(あくまで人間が作製した一般的な魔力剣のみ。魔剣ウンブラなどの伝説級は例外)に効力
  を失わない魔力剣に込められた魔力全ての放出による爆発的な威力が発揮される。
  虫の王はそれを知らなかった。
  それが決定的な差となる。
  だけどっ!

  カタカタカタ。

  だけど魔剣ウンブラはまだ揺れている。まだ念動の力は消えていないっ!
  踊り狂う雷撃の中でも虫の王は念動を行使していた。
  退けないのだ。
  虫の王にしても退く事は出来ないのだ。
  意地と意地のぶつかり合い。
  その時。

  ゾク。

  「……っ!」
  その時、あたしは寒気がした。虫の王から異様な雰囲気が飛んできたわけじゃない。
  異様な雰囲気は後方からだった。
  敵?
  そうじゃない。
  後ろにいるのはアルラさんだ。思わず振り返る。
  炎が具現化していた。
  その炎、まるで生き物のように感じられた。トカゲのようなフォルムにも見える巨大な業火。ゆらゆらと揺れながら灼熱の業火で存在感を示していた。
  なんなのあの炎はっ!
  強大な魔力を感じる。少なくともこの場にいる全ての人物の魔力を超えている。多分アルラさんが召喚した精霊か何かなんだろうけど召喚者である
  アルラさんよりも強大な存在だ。何なんだろう、あの炎は。鋭い声でアルラさんは命じた。

  「火の精霊王よ、紅蓮の吐息をっ! 我が意に従い敵を焼き尽くせっ!」
  
ゴオオオオオオオオオオオオっ!

  圧倒的で。
  絶対的で。
  強大な炎が完膚なきまでに虫の王マニマルコを包んだ。
  火の精霊王っ!
  ……。
  ……それがなんなのかは知りません(焦)。
  だけど瞬間的な攻撃力は虫の王マニマルコを遥かに凌駕がしている。フィッツガルドさんの絶大な雷撃とアルラさんの地獄の業火、さすがにこのコラボに
  は虫の王マニマルコも耐え切れなかった。念動の力が、力の場が消失する。魔剣ウンブラのコントロールはフォルトナちゃんが制した。
  物凄いスピードで魔剣ウンブラは一直線に飛んでいく。
  虫の王マニマルコに向って。
  いっけぇーっ!
  雷撃と業火に包まれている虫の王の顔に焦燥と驚愕の念が浮かぶ。
  そして。
  そして悲鳴を上げる間もなく虫の王マニマルコは魔剣ウンブラに貫かれた。
  勝ったっ!