天使で悪魔






アリスとリリス





  昨日の敵が今日も敵とは限らない。
  味方にもなり得る。

  もちろんその味方が明日も味方とは限らないけれども。






  「デュオスの若造はどうした? ……まあ、奴に余の前に立つ度胸はないか。奴に死霊術を授け、仮初の不死を与えたのは余なのだからな」
  「殿下の勅命によりお前を殺す」
  「まさに喜劇っ!」
  黒の派閥の幹部が勢揃い。
  ……。
  ……まあ、全員で何人いるかは知らないけど、現在ここには4名いる。結構な人数だと思う。
  何しろ全員が幹部。
  親衛隊イニティウムだっけ?
  その実力は高い。
  すっごく強い。
  レヤウィンのブラックウッド団本部では『炎の紡ぎ手サクリファイス』、クヴァッチ闘技場では『鉄壁の鬼人グレンデル』と戦ったけど強かった。
  その強過ぎる親衛隊がここには4名(1人は虫の王の影の中にいるけど)いる。
  ここにいるメンツ。
  それは……。

  双剣のエルフ、リリス。
  白面の悪魔、セエレ。
  血煙の狂戦士、阿片。
  黒き狩り人(名前と通称が一緒らしい。まあ、名前というよりは通り名なんだろうけど)。

  錚々たる面々。
  そして現在あたしは虫の王抹殺の為に派遣されたチームを仕切っているリリスと一時的にではあるけど組んでいる。
  つまり?
  つまり同盟締結完了。
  今まで強大な敵だったけど、一時的とはいえ最大の仲間。
  まあ、問題は……。

  「……」
  返事はない。
  ただの屍のようだ(ドラクエ風味)。

  虫の王の雷撃で阿片という気味の悪い喋り方の幹部がいきなり果てちゃったんだけどね。
  完全に黒焦げ。
  「一匹は片付けた。それで? デュオスの若造に命令のままにここで死ぬのか? それよりもどうだ? お前ら余の新たな四大弟子にならぬか?」
  勧誘?
  虫の王にとって四大弟子ってきっと腹心とか幹部とか側近というよりは使い勝手の良い駒って事なんだろうなぁ。
  待遇悪そう。
  ……。
  ……ま、まあ、もちろん待遇良くても虫の王には付かないけど。
  あたしは正義の味方でいよう。
  ずっと。
  「我らは殿下のお言葉にのみ動く。……節操のないアリスは知らないけどね」
  「あ、あたしのどこが節操がないんですかっ!」
  「ふん」
  「……」
  むきーっ!
  何かリリスの言い方、刺々しい。
  まあ意味は分かる。
  敵だもん。
  それもあたしの命を付け狙っている敵。付け狙われる理由は……うーん、よく分からないけど。
  虫の王、顎を撫でながら呟く。
  「余に仕えぬか。ならば価値などないな。死ぬか?」
  コン。
  虫の杖で足元を付く。
  礫が来るっ!

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  石の礫が虫の王を中心に四方八方に飛び散る。
  威力?
  多分それほど高くはないと思う。
  礫の大きさは小石程度。目視するには小さ過ぎる。それに洞穴内は薄暗いので回避は困難。とりあえずあたしは機敏に後退する。目で見て的確に回避
  出来ない以上、とりあえず行動した方がいい。そしたら出遅れる事もないわけだし。
  だけど後退したのはあたしだけ。
  リリス、剣を交差させ……。
  「虚空斬波っ!」

  ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  自分の立っているすぐ近くの足場に剣から発せられる衝撃波を放つ。
  瞬間、爆風。
  そして衝撃が生じる。石の礫が勢いを失い、その場に落ちた。白面の悪魔セエレが動いた。手には一本ずつ斧が具現化する。
  異界から武具召喚した。
  「双斧乱舞(そうぶらんぶ)っ!」
  セエレ、虫の王目掛けてその斧を投げ付ける。
  回転しながら斧は突き進む。
  「下らぬな」

  フッ。

  虫の王、空間転移。
  斧の軌道から離れた場所に虫の王は出現した。
  だけどっ!
  「実に甘いですな、虫の王マニマルコっ! 私の攻撃能力を舐め過ぎですっ!」
  「召喚と念動の合わせ技か」
  セエレの投げた斧は軌道を修正、虫の王目掛けて追尾する。
  そして……。
  「児戯っ!」

  フッ。

  再び掻き消えた。
  斧は標的を見失って何もない空間を通り過ぎる。少し離れた場所に具現化した虫の王は雷撃を手から放ち斧を粉砕。
  「双斧乱舞っ!」
  「まだ分からぬか? 雷光の調べ」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  再度雷撃がセエレの投げた斧を粉砕。
  だけどその時、既に新たな斧を召喚、投げ付けていた。
  「双斧乱舞っ!」
  「ああ。そういう事か」
  虫の王はしたり顔で呟いた。
  あたしにも理解出来た。
  セエレの担当は虫の王の可能な限り足止め。まあ、相手の力量が上なので足止めにはなってないけれど引っ掻き回すという効果にはなっている。
  そして攻撃要員はリリスと阿片。
  ……。
  ……まー、阿片はいきなり死んじゃったけど(焦)。
  虫の王の影の中にいる真っ黒な人は多分セエレ同様に相手の動きを牽制する役目、そしてあわよくば相手の命を奪う役目なのかなぁ。
  それが黒の派閥が送り込んだ『虫の王抹殺チーム』のそれぞれの役割分担なのかな。
  多分ね(苦笑)。
  「さあ行くぞ、アリスっ!」
  「うん。リリスっ!」
  リリスの掛け声であたしは走る。
  現在、本来の攻撃要員の阿片が行動不能(多分死んじゃってると思うけど)になっているのであたしが代替要員。結局のところ一時的とはいえ同盟締結に
  なっているのはそういう意味合いが強いんじゃないかな。阿片の脱落でチームとして成り立たないからだと思う。
  もちろんそれならそれでいい。
  味方が欲しいのはあたしも同じだからだ。

  タタタタタタタタタタタタタタタタタタッ。

  走る。
  あたしは魔剣ウンブラを構え、そしてリリスはショートソードを手にして。リリスは二刀流、走りながら横目で見ると少しずつ剣の長さが違う。
  同じように見えて長さが違う。
  なるほど。
  長さを揃えない事により相手の視覚に錯覚を与えるんだろうなぁ。
  最初に少し短い方で攻撃、その後に長い方で攻撃、対戦相手はリーチを読み違えるって寸法かな。
  あたし達は虫の王に向って走る。
  その間にもセエレの斧の攻撃は続く。飛来する斧は虫の王を追尾する。もちろん全てが回避、撃墜される。
  それでも。
  それでも虫の王のあたし達への注意力は多少とはいえ散漫になっている。
  一気に間合いを詰める。
  そして……。

  「アリスぅーっ!」
  「ちょっ!」

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  「な、何するんですかっ!」
  「貴様の顔を見ていたらやはり腹が立つ。ここで死ねっ!」
  いきなりリリスが攻撃してきたっ!
  斬る?
  斬るわけにいかない。一時的とはいえ同盟締結してる、つまり暫定的とはいえ仲間。あたしはそう認識しているので斬るに斬れない。
  もちろん斬れるとは思ってない。
  リリスの方が強いかもしれない、あたしは内心ではそう思ってる。斬られるのはあたしの方かもしれない。
  ともかく。
  ともかくあたしは斬る意思は見せない、つまりは攻撃の意思は示さない、あくまで防戦一方。
  「リリスさんっ!」
  セエレが非難の声を上げる。
  そりゃ上げますよー(泣)。
  目の前に最悪な敵がいるのに内輪揉めやめようよーっ!
  「馬鹿か、お前ら?」
  虫の王が嘲る。
  ……。
  ……そりゃ嘲りますって。
  はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「貴様ら余を馬鹿にしているのか? それともそんなに余裕があるのか? 気に食わんな、死ぬがいいっ!」

  フッ。

  虫の王が消えた。
  空間転移。
  ファルカー戦あたりから魔力の流れが読めるっぽい能力が開花したあたし。虫の王の出現場所が分かる。
  これは……まずいっ!
  「リリスっ!」

  ドン。
  
  双剣をあたしに向って振るうリリスに向かってあたしは体当たりをした。
  その際に右肩に痛みが走る。
  リリスの剣の切っ先が方を掠ったらしい。
  リリスはその場に倒れる。
  そして今の今までリリスが立っていた場所のすぐ後ろに虫の杖を振りかぶる虫の王が具現化した。リリスを真っ先に襲うつもりで転移したのだろう、出現
  場所にリリスがいないので面食らった顔をしていた。どうやら空間転移している間は状況が把握できないらしい。
  虫の王は振りかぶった杖をあたしに向って振るう。
  打撃が襲ってくる。
  「貴様から死ぬか、ダンマーの戦士よっ!」
  「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  リリスを守る為に、彼女突き飛ばすのに全力を注いでいたので防御も回避も間に合わない。
  まともに受けてしまう。
  鉄の鎧が悲鳴を上げて軋み、そして金属の砕ける音が響いた。
  鎧が砕けたっ!
  あくまで鎧でガード出来てたけど衝撃は緩和出来ていない、あたしは倒れたかったけど……次の打撃を恐れて後ろに大きく飛び下がる。

  フッ。

  ま、まずいっ!
  「ここで詰みだな。そうではないか? うん?」
  「……っ!」
  目の前に虫の王が出撃。
  手には魔法の光り。
  空間転移が読めても回避できなければ意味がない。相手の攻撃もまた然り。
  ま、まずいっ!
  「死ね」
  「虚空斬波っ!」

  ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  虫の王の体が突然爆ぜる。
  び、ひびったーっ!
  リリスが虫の王の背後に必殺の一撃を放ったのだ。それをまともに受けた結果として虫の王の上半身が吹き飛んだんだろうけど……グロイっす(号泣)。
  それにしても凄い威力だ。
  「アリス、貴様を殺すのは私だ。そんな奴に殺されては困るな」
  「……ははは」
  「何がおかしい?」
  「……別に」
  リリスの所為じゃん、あたしのピンチっ!
  虫の王は上半身が吹き飛んだものの、下半身は何事もなかったように地面に立つ。その二本の足で。
  そして数秒で肉体を再構築、復活した。
  「やってくれるではないか」
  セエレの猛撃は続く。
  「双斧乱舞っ!」
  「もうよいっ! 児戯に付き合ってはられぬっ!」

  「隙だらけですよ」

  虫の王の影から具現化した人影が、虫の王の心臓をナイフで突き刺した。
  「影人がっ!」
  「……」
  影の中にまた戻る黒き狩り人。
  そうか。
  こういう連携の方法もあるのか。
  全力を出して正面から攻撃するのではなくトリッキーに攻撃する方法もまた可かな。勉強になるなぁ、あたしも学ばないと。
  「チョロチョロと小賢しいネズミどもだ。ならば全員纏めて屠ってくれようぞっ! 神罰っ!」
  「……っ!」
  フィッツガルドさんの魔法っ!
  雷撃が踊り狂う。
  リリスが静かにセエレに呟いた。
  「魔力障壁を形成するぞ」
  「了解です」

  
バチバチバチィィィィィィィィっ!

  思わず目を瞑ったあたし。
  だけど雷撃は届かない。
  あたしにも、黒の派閥にも、そして気絶しているフィッツガルドさん達にも。リリスとセエレが強力な魔力障壁を形成しているので雷は遮断される。
  もしかしてリリスって強力な魔法も使える?
  ……。
  ……ば、万能過ぎる。反則です(泣)。
  まさか防がれるとは思っていなかったのだろう。雷撃が全て遮断された虫の王は驚愕の顔。
  「くっ! ただの偶然だ。次は仕留めるっ!」
  負け惜しみキターっ!
  結構虫の王って弱い?
  そうやって見ると貫禄がない気もしてきた。
  「死ねぃっ!」
  「あんたがねぇ」

  その時、虫の王の背後から抱きつくように飛び込んだ影があった。
  刃が虫の王の腹部から突き出る。

  ごぅっ!

  突然、その刃が炎上。
  もちろん当然ながら刃と連結している虫の王の肉体も炎上。
  誰の攻撃っ!
  攻撃者は不気味に笑う。


  「意表を突いた攻撃ってやつですか? いっひひひひひひひっ! あんたの刺し応えは堪んないねぇっ!」

  阿片っ!
  雷撃で死んだんじゃなかったのっ!
  親衛隊イニティウムにしては弱いとは思ってたけど……もしかして……不死身?
  虫の王も驚愕の模様。
  炎上しながらも後ろから突き刺してきた阿片を虫の王は睨みつける。
  「……貴様、死んだはずでは……」
  「いっひひひひひひっ! 不老不死があんたの専売特許だとでも思ってたのかい? この阿片様も不死身なのさっ! 燃え尽きなぁっ!」
  「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「魔剣ウンブラも伝説だろうけど、私の持つ魔剣ゴールドブランドもまた伝説級の武器っ! あんたを殺すには充分だろっ!」
  「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「私が今回の刺客メンバーに選ばれた理由が分かったかいっ! ええ? 無能の王さんよ? いっひひひひひひひっ!」
  虫の王の苦痛の叫びは続く。
  ……。
  ……さっきも思ったけどこの人実は結構弱い?
  魔法は連打してくるしその出力と威力は多分高いんだろうけど……案外打たれ弱いしすぐに死ぬ。
  まあ、弱いとは言わない。
  だけど『うわぁ絶対に勝てないよーっ!』という印象は受けない。
  もちろんあたし1人だと簡単に負けてたとは思う。
  うーん。
  だけど絶対的な強さは感じないなぁ。
  どんなに魔力が高くても魔法の威力には限界があるのかもしれない。もっとも魔術師ではないのであたしにはよく分からないけど。
  「調子に乗るなよ、虫けらどもっ!」


  フッ。

  「えっ?」
  突然、姿が見えなくなった。
  誰が?
  背後から突き刺していた阿片が。
  厳密には阿片だけではない。セエレもリリスも姿が消えた。この場からいなくなった。
  虫の王は笑う。
  「影人も余の影の中から追い出してやった。これでお前を助ける者は誰もいないぞ、ダンマーの戦士よ」
  「リリス達は……」
  「デュオスの手下どもか? この洞穴の別の場所に転送しておいた。後で追い詰めてやる、貴様を始末した後でな。目障りなのだよ、ちょろちょろとな」
  「別の場所に?」
  「そうだ。この肉体では一掃出来ぬ事が分かった。しかし余を圧倒出来るという道理にはならない。あくまで目障りな程度。それでも邪魔なのでな、別の
  場所に転送させてもらった。それでダンマーの戦士よ、まだ余に勝てるつもりでいるのかな?」
  「くっ!」
  黒の派閥、強制退場っ!
  この場にいるのはあたしだけだ。この場にいるのは、かなり消耗しているあたしだけだ。
  フィッツガルドさん達は気絶中。
  まだ時間稼ぎが必要。
  「散々偉そうに言ってくれたな、戦士殿。それで? 次はどうする? 口から火でも吹くか? カンフーでもしてみるか?」
  「……」
  「鷹の目かも知れぬが……ふぅむ、殺すには惜しいが貴様は余に対して逆らい過ぎた。殺さねば余の気分は済まぬ」
  「……」
  また言った。鷹の目って何?
  「そうだ。こうしよう。ここでお前を殺す。死体でも構わぬ。虫の杖で蘇生は出来る。その際に精神を弄ってやろう。精神などただの現象に過ぎぬ。余の新
  たなる四大弟子の1人として余に仕えるのだ。未来永劫、永遠にな。どうだ? 光栄であろう?」
  「その申し出、辞退しますっ!」
  「やはり精神は弄る必要ありだな。……さて。そろそろ遊びにも飽きたな。殺すとしようか」
  「……」
  ジリジリと下がる。
  魔剣ウンブラを構えながら下がる、虫の王のプレッシャーを跳ね返すだけの気迫はもうない。
  頭がズキズキと痛む。
  何だろ?
  消耗してるからじゃない気がする。
  偏頭痛。
  もしかしたら魔力の流れが分かるようになったのと関係があるのかもしれない。この能力の副作用かもしれないけど……別にあたしは魔力の流れを感じ
  取ろうと思ってやってるわけではない、勝手に発動してる能力。これが頭痛の原因なら嫌だなぁ。
  「ダンマーよ。貴様を殺したらそこで転がってる小娘どもを殺す」
  「させませんっ!」
  「お前にそんな能力があるのか?」
  「それは……」
  「お前を殺す、そこの女どもも殺す、デュオスの手下どもも殺すよ、そして外で遊んでる連中も全員始末する。連中は余が形成している魔法陣の上にいる。
  魂を全て奪う手はずは整っているのだよ。くくく。魔方陣が発動すれば結果としてその上にいる存在は全員死ぬ」
  「あなたの部下はどうなるんですっ!」
  「トレイブンの養女と同じ事を言うのだな。そんなお前にはこの言葉を送ろう。他人の心配をする余裕などあるのかな? さあ、死ねっ!」
  「……っ!」
  虫の王の手に雷撃が宿る。
  駄目だ。
  魔法の軌道は何となく頭の中に浮かぶけど……この至近距離では避けようがない。
  当たるっ!
  「さあ、盛大に死ぬがいいっ!」
  「……っ!」
  そして……。


  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  「えっ?」
  突然飛んできた雷撃に虫の王は吹っ飛んだ。
  殺しても魂のストックが尽きない限りは死なないけれど虫の王は意外に打たれ弱い。
  それと隙があり過ぎる。
  多分殺しても死なないから、それが油断に繋がってるんだろうなぁ。
  危機意識の欠如?
  そうだね。
  そんな感じかな。

  「随分と待たせたわね、アリス」

  「遅いです。フィッツガルドさん」
  雷撃を放ったのは完全復活したフィッツガルドさん。そしてアルラさん、フォルトナちゃんも起き上がっていた。黒の派閥の虫の王撃破チームは壊走した
  けどまだ戦いは終わりじゃない。
  今度はこのチームで虫の王と対決だっ!
  まだ終わりじゃない。
  まだっ!
  虫の王はやれやれと言いたげに呟いた。
  「健気にも食い付いてくる小娘どもだな。まだ分からぬか? 顔ぶれが変わろうがどれだけの数で来ようと余は決して殺せぬ。余こそ史上最強の存在なりっ!」
  「やってみなきゃ分からないわ。そうよね、アリス?」
  「はいっ!」
  「アルラ、フォルトナ、アリスを全力で援護して。アリス主力でこの戦いを乗り切るわよっ!」
  「えっ?」
  フィッツガルドさんの宣言、一瞬意味が分からなかった。
  他の2人は静かに頷く。
  「仕方ありませんわね。その魔剣はウンブラ、倒せる可能性があるとしたらそれを使いこなせる彼女だけ。今回だけは裏方に徹して差し上げますわ」
  「フィーさんの指示に従います。アリスさん、援護は任せてください」
  えっと……どんな展開?
  あたしが主力?
  ええーっ!
  「そ、そんなフィッツガルドさんを差し置いて……っ!」
  「アリス。あんたがエースよ。虫の王と今の今まで張り合ってたんだからね。……まあ、あくまで暫定エースだけどね。負けないわよ、私もね」
  「……」
  微笑するフィッツガルドさん。
  信頼されてる。
  信頼されたらそれに応える義務が生じる。あたしはその義務に喜んで応じよう。
  「援護、お願いしますっ!」


  最後の戦いに突入っ!