天使で悪魔






白馬の騎士団





  レヤウィン。
  シロディール最南端に位置する、亜熱帯な気候風土の都市。
  近年、治安の悪化が悩みの種となっている。
  出所不明の潤沢な財力を背景に勢力を伸ばしているブラック・ブルーゴというオーク率いるブラックボウ。
  ヴァレンウッドで罪科の抹消と引き換えに追放に応じた、深緑旅団。
  更に皇帝の死という大事件は全土を震撼させ、治安の悪化に輪を掛けている。
  野には盗賊。
  海には海賊。
  山には山賊。
  さらに夜の闇には暗殺者達が。
  この事態を打開すべく帝国元老院は躍起になってるし、各都市の領主達も策を講じている。
  ここレヤウィンでは一つの騎士団が創設された。
  白馬騎士団。
  その目的はブラックボウの壊滅。






  ただ騎士団、とは聞こえがいいけど結局は外郭部隊。
  使い捨てとも言う。
  白馬騎士団の宿舎はブラヴィルに通じる北の街道沿いにある、白馬山荘という建物。レヤウィンからかなり離れている。
  何故こんな場所に?
  答えは簡単。
  ブラックボウの拠点である『ロックミルク洞窟』のすぐ近くだからだ。
  マリアス・カロ伯爵はあたし達を最前線部隊として、盾代わりにするつもりなのだ。
  誰も騎士に応募しなかったわけだ。
  今、白馬山荘に居を構えている騎士団員は全員で6名。
  ざーざーざー。
  雨が降っている。あたしとオークのマゾーガは、窓の外を眺めながら溜息。
  「今日は訓練できないね」
  「雨の中で剣を振るう、それはそれで心地良いが今体調を崩すのはまずいからな」
  同意してくれる、緑色の友人。
  白馬騎士団のメンバーである、オークのマゾーガ。

  卓越した剣の使い手であると同時に、その怪力を防げるものはまずいない。剣の腕だけなら対抗できるけど、まともに受けるとその
  まま真っ二つにされる勢いではある。

  この騎士団の中で、意外にも唯一の盾の扱いに秀でている人物でもある。
  「アリス、いつまで待機だ?」
  「あたしに言われても困る」
  「……ふむ、あの爺さん次第か」
  「オーレンさん次第、というより情報次第じゃないかな」

  繰り返すけど、白馬騎士団の最大の目的はブラックボウの壊滅。
  しかしどんなに一芸に秀で、衛兵達をも軽く叩きのめせる精鋭集団であってもたった6名。対してブラックボウは50から上の人数で
  ありその武装は都市軍と同等かそれ以上とも言われている。

  まともに本拠地を攻めたらまず潰される。
  ただし、勝機はある。まず敵の頭を潰すのだ。

  この近辺の賊は、ブラックボウに支配される形となっており、上納金を納めている。
  それを頭目であるブラック・ブルーゴが回収に出張るのだ。威圧の為か馬鹿なのか、知らないけど。
  そこを狙う。
  今現在その行動パターンの、調査。

  「早く行動したくて、うずうずしてるよ」
  「マゾーガは何の為に戦うの?」
  今更何を、という顔をした。
  彼女は騎士に憧れていた。それは知ってる。亡き親友の為に、仇を討つ手向けとして本当の騎士になろうとしていた。
  それは知ってる。
  でも既に仇は討った。これ以上、戦う真意が分からない。
  「アリスは何の為に戦う?」
  「騎士だから、かなぁ」
  あたしにはもう一つ、意味がある。
  それは戦士ギルドの対抗馬として勢力を伸ばしているブラックウッド団の監視として、ここにいる。
  もちろんそれは口に出来ない事だけど。
  「私も騎士だ、アリス。騎士は無辜の民を護る盾であり、剣。騎士とはそういうものだ」
  「なるほど」
  「我々には政治も見得も体裁も関係ない。騎士らしくあろうではないか、友よ」
  「あたし達、似てるね」
  「似てる? 私はアリスみたく青くない。まったく、どういう生活してたらそんな色になるのか」
  「種族の色よダンマーの皮膚の色っ! マゾーガなんて後ろから見たらキャベツじゃないのっ!」
  「せめてレタスにしろレタスにっ! 斬るぞっ!」
  「レ、レタスにこだわるんだ」
  騎士らしくあろう。
  英雄らしくあろう。
  それはそういう高潔な精神から生まれるものなのだろう。
  あたしは今、真の友を得た。
  そして思う。
  ……民の脅威となる、敵を討つべく行動を早く起こしたいと。






  白馬騎士団のメンバーは6名。
  騎士団長は最年長で退役軍人である、ボズマーのオーレン卿。白馬将軍という異名を持った歴戦の英雄。
  主な武器は弓矢。腰にはショートソードが差してある。


  レノス・レス・スフォルツェンド。アルトマーの没落貴族。下手な詩と竪琴を好む、吟遊詩人。
  主な武器は片手斧。あまり貴族っぽくはない、かな。
  氷の魔法を得意としている。

  ヴァトルゥス。ノルドの、レノスさんの用心棒。寡黙な性格で、あまり喋った事がない。
  主な武器はクレイモア。


  シシリー・アントン。インペリアルの魔術師。アルケイン大学では名の通った人物。かなりきつい性格。
  主な武器はメイス。

  炎の広範囲魔法を得意としている。

  マゾーガ。あたしの真の友で、オーク。意外に可愛い性格。
  主な武器はロングソード。
  騎士団と盾は付き物とは思うけど、このメンバーの中で唯一盾を使いこなす人物。

  アイリス・グラスフィル。種族ダンマー……言わなくても分かるけど、あたしの事だ。
  主な武器は魔法剣『黒水の剣』。

  一応、戦士ギルドから派遣されたブラックウッド団の隠し目付け。
  ……この、計6名が白馬騎士団のメンバー。
  確かに人数は少ない。
  でも、あたしも含めて……自分の事を誉めるのは苦手だけど、皆一芸に秀でた面々だ。伯爵が捨て駒として利用しようとしているの
  は周知の事実だけど、利用できるだけの能力を有しているのは疑いようがない。

  何故なら、利用できる能力もなければ捨て駒にもならないからだ。
  もちろん、利用される気はないけど。
  あたし達の真価、思い知らせてあげよう。






  昼になっても、雨の猛威は衰えない。
  雨は嫌いじゃないけどこの辺りの気候の所為か、どうも体に纏わりつくような生暖かい雨。
  あまり好きな感触ではない。
  がーがー。
  それは友人であるマゾーガ卿も同じなようで、訓練は諦めて高いびき。
  「ふぅ」
  少し、うるさい。
  思えばあたしも遠くに来たものだ。つい最近までは、コロールを出た事すらなかったのに。
  それが今、遠く離れたレヤウィンにいる。それも騎士として。
  「うふ、うふふふふふふふふふふふ。騎士あたしは騎士ぃー♪」
  ……失礼。

  舞い上がって当然。今まで、騎士なんてなれるとは思ってなかった。
  そりゃあたしの人生の最終目的は英雄だから、その流れで騎士にも叙任したいなぁとは思ってたし夢想してたけどまさかこんなに
  早くになれるとは正直、想像もしてなかった。

  隠し目付け。
  それは理解してる、理解してるけど……それはそれ、これはこれ。
  白馬騎士団員としてブラックボウの壊滅に全力を注がないとね。
  「だけどブラックボウとブラックウッド団、名前似てるなぁ」
  もしかしたら裏で繋がってたりして?
  うー、冒険小説だとよくある設定だよなぁ。ブラックウッド団は一応は戦士ギルドの廉価版。質は悪いけど、料金安い。
  だから、一応は治安維持組織。
  その治安維持と治安悪化させてる盗賊団は癒着してる……うー、ありがちな設定かなぁ?
  よく叔父さんはブラックウッド団の頭目をトカゲの親玉と揶揄してたけど……悪い人なのかなぁ?
  「……うまくやってるの?」
  「……ダゲイルの首飾りは手に入れた……」
  外から声が聞えてくる。
  雨の音が大きいから、よく聞き取れないけど……シシリーさんと男の人の声だ。
  騎士団のメンバーの人の声ではない。
  他の人達はレヤウィンの街に出て、色々とブラックボウ襲撃の手筈を整えたりや情報を入手してるはず。

  あたしとマゾーガはここで待機。
  一応、二人しかいないとはいえ白馬山荘は街道警備の要だから、空には出来ないという配慮から。
  確かシシリーさんは魔術師ギルドの友人に会いに行くとか言ってたけど。
  ……悪いとは思いながらも、窓の外の声に聞き入る。
  「カルタール、手筈はいいの?」
  「大丈夫。ダゲイルは錯乱してる、アガタも今のところは気付いてない。万事計画通り……」
  「支部とはいえレヤウィンが欠落すればそれなりに勢力拡大に繋がる。うまくやりなさいよ」
  「俺に任せとけって」
  「シェイディンハルのファルカーの事もある。あまり過信しない事ね」
  「脅す気か?」
  「念を入れろと言ってるの。滞りなく行けばあなたが支部長になれる。そう推挙する。だから気を抜かない事ね」
  「分かってる分かってるよ」
  ……?
  魔術師ギルドの内幕は、あたしにはよく理解出来ない。
  がちゃり。
  シシリーさんは白馬山荘に入ると、雨で濡れた合羽代わりのマントを脱ぎ捨てた。
  「何?」
  「あっ、何でないです」
  「話聞いてたの? ……まあ、聞えるわね、すぐ近くだし」
  「ご、ごめんなさい」
  「ふん」
  鼻先で笑い、インクとペンと羊皮紙を手に取り、テーブルの前に座って書き物を始める。
  サラサラサラ。
  それと雨の音だけが部屋の中を支配する。少し、居心地が悪い。
  「あのー、あの人は誰なんです?」
  「カルタール」
  「そ、そうですか」
  「あんたの恋人候補。今夜、空けときなさい。夢心地の夜を提供してくれるわ」
  「あ、あたしは恋愛結婚しかしませんっ!」
  「……あっははははは。ほんと、ネンネのお嬢ちゃんは弄り甲斐があるわねぇ。安心しなさい、冗談よ冗談」
  「よ、よかった」
  「でもその気があるなら紹介するけど?」
  「あぅぅぅぅぅぅ」
  くくくと、含み笑いするシシリーさん。弄られてる、あたし弄られてるぅー。
  がちゃり。
  騎士団長のオーレン卿、レノス卿、ヴァトルゥス卿が帰還。
  「ブラック・ブルーゴの動きが分かった。今夜、テリーブに現れるようじゃな」
  「テリーブ……アイレイドの遺跡ね」
  即答するシシリーさん。大学の出は、伊達ではない。
  うむ、と鷹揚に頷くオーレンさん。
  今夜、ブラックボウの首領ブラック・ブルーゴがテリーブという遺跡に、わずかな部下を引き連れて上納金を回収しに現れる。
  そこを狙ってヒットする。
  ぽろろーん。
  レノスさんが竪琴をかき鳴らし、一言。
  「敵は多くない方が動き易いですからね。深緑旅団がレヤウィンに居を定めるという噂もありますし、ブラックボウはここで叩き潰
  すが得策。今夜首領を倒せば組織は瓦解し、やり易くなりますしね」
  「御意に存じます、ご主人様」
  「愛を語る吟遊詩人のくせに、少しは目鼻が利きますのね。多少は見直しましたわ」
  「おお麗しきシシリー。見事名を挙げたならば是非とも一度、ディナーを」
  「ふん、お断り。私は生きた人間に興味はないわ」
  生きた人間?
  妙な台詞だと思うけど、それより妙なのがオーレン卿。新緑旅団の名を聞いて、顔色が曇っている。
  ……?
  「ともかく皆、今夜白馬騎士団は出撃する。それまでゆっくりと休んでくれ」





  深夜。
  夕刻から雨の勢いは次第に衰え、出撃時刻には雨は止んでいた。
  ……なかなかうまくいかないものね。
  豪雨に紛れて襲撃なら、こちらの姿をうまく隠せたのに。
  あたし達は雨露でびしょびしょになりながらも、草を掻き分けて前進。目的の場所はアイレイドの遺跡テリーブ。
  そこにブラック・ブルーゴが現れる。
  わずかな部下を連れて。

  精鋭とはいえこちらは6名、相手が強大な以上はそれに見合った戦い方が必要だ。
  相手の頭を潰す。
  この近隣の盗賊達の内情は極めて複雑。最大勢力であるブラックボウの首領が倒れれば、状況は一変する。
  そこを各個撃破して、叩く。
  まあ、後々の話はいい。今は、今出来る事に集中しよう。

  ぽろろーん。
  「見えましたね、あれがテリーブですか。過去の雄大なる麗しきエルフ達の遺物を見ると我々がいかにちっぽけ……」
  「……この馬鹿、黙らせた方がよろしいのではなくて?」
  「……同感じゃな」
  暗闇の中にひっそりと佇む、アイレイドの遺跡テリーブ。
  歴史の雄大さがそこに存在していた。
  天高く浮かぶ満月を背景に佇むその有史以前の歴史は、遥か過去の雄大な物語を語っている。
  確かに、神秘的。
  その周辺に、キャンプや焚き火がなければ、物々しい武装をした連中が歩哨にいなければ。
  遺跡の上部……屋根の上、というか屋上か。そう高くはない。
  そこに弓矢を携えた盗賊が二人。
  入り口に一人。
  計三名。
  まともに戦えばそう問題はないけど……内部にいるブラック・ブルーゴ達にばれると強襲は失敗する。立て籠もられると面倒。
  「入り口のだけ、殺せば問題ないわ」
  シシリーさんはそう、進言する。
  アルケイン大学はアイレイド遺跡の調査も手掛けてる。内部構造を知っているのかもしれない。
  「それは何故じゃ?」
  「あの遺跡、扉を開けるとまず階段。それが地下まで伸びてる。つまり、メインは地下にあるのよ」
  「なるほどのぅ。入り口の奴さえ倒せば……」
  「騒いで倒してもいいってわけか。私がやる」
  マゾーガは意気揚々と言うものの、騎士団長のオーエン卿はそれを退けた。
  確かにシシリーさんの情報は正しいのかもしれない。
  でも、どんなに声が地下にも届かないと言っても万が一という事がある。強襲は、相手に知らせれると威力は半減する。
  出来るだけ隠密に越した事はない。
  「ほっ」
  ひゅん。
  風を裂き、オーレン卿の矢が闇の中に消える。
  ボズマー全般、とは言わないものの、総じてボズマーは弓矢の扱いに長けている。右に出る者はいない。
  ぎゃっ。小さく、そう響いた。入り口の歩哨は崩れる。
  騒ぎ出す屋上の二人。
  ひゅん。
  しかし反論は許さない。二撃目が屋上に一人の眉間を貫き、三撃目は……。
  「爺さん、外れたぞ」
  「まっ、そんな事もあるわな。緑色の嬢ちゃん、ほっほっほっ」
  屋上のもう一人の賊は、瓦礫を盾代わりにしてオーレンさんの攻撃を防ぎ、こちらに向かって反撃を始める。
  飛来する矢。
  弓矢を携える、つまりそれに秀でているからこそ扱うわけであり、あたし達はこの場に釘付けになる。
  「レノス様っ!」
  「魔法で始末してもいいけど……ヴァトルゥス、音が地下に響くと面倒だからね」
  「同意ですわ」
  ひゅん、ひゅん。ひゅん。
  身動きが取れない。矢は間断なく、振り注ぐ。こちらからの攻撃は、瓦礫に防がれる。
  魔法なら瓦礫もろとも吹き飛ばせるのかもしれないけど、そんな事すれば地下に音が続き、気付かれる。
  接近して斬ろうにもこれじゃあ近づけない。
  どうするの?
  「なかなかの使い手だのぅ。あの弓兵。感心じゃな」
  「か、感心してどーするんですかっ!」
  「青色の嬢ちゃん、相手を認めるのは戦いの常。認めぬ者に先はない。……安心せい、まだワシの方が上手じゃよ」
  ギリギリギリ。
  弓を引くオーレン卿。狙いは弓兵……ではなく、空に浮かぶ満月。
  ひゅん。
  矢を放つ。矢は大きく弧を描き、そして……。
  「がぁっ!」
  そ、そうか。
  直線で放つとどうしても瓦礫が盾となり届かない。でも大きく弧を描いて放つようにすれば、相手の頭上に矢は落ちる。
  もちろん誰にでも出来る事じゃない。
  「さて、行くとするかの」
  歩哨を全て沈黙させたオーレン卿の、英雄の弓捌きを見て誰も声が出なかった。
  ただのボケたお爺ちゃんじゃないんだなぁ。





  テリーブ内部への強襲は、成功した。
  まさに快進撃。
  「冷たい視線っ! ……おお、僕にそんな視線を見せないでおくれ……」
  ぽろろーん。
  竪琴をかき鳴らしながら、広範囲の冷気魔法を室内に叩き込むレノスさん。威力はさほどないものの持続時間は長く、冷気は相手
  の体力はよりも相手の動きを鈍らせる。
  冷気渦巻くその空間に、クレイモアを軽々と手にして踊りこむのはヴァトルゥス卿。
  そう、彼はノルド。
  ノルドは寒冷地帯に住めるように、進化した種族。冷気属性には何の制限も受けない。
  それに対して敵は?
  「はぁっ!」
  文字通り、バッサバッサと斬っていく。まさに一方的。
  しかし敵も次第に立ち直りつつある。ダンマーが、黒い弓でそんな彼を狙う。
  「焔っ!」
  ごぅっ!
  シシリー卿の炎の魔法が、ダンマーを焼き尽くした。それを合図にオーレン卿が矢を放って敵を減らし、あたしとマゾーガ卿が敵の
  真っ只中に切り込む。ブラックボウの由来は、黒塗りの弓を持っているから。
  しかしここで弓はそれほど役立たない。
  「マゾーガ卿っ! 突っ込むわよぉーっ!」
  「うむ、行くぞアリスっ!」
  ……あ、あたしだけ呼び捨てなんだ。アイリス卿とか呼んでくれないんだ。
  あぅぅぅぅぅ。
  黒水の剣を振るい、相手の肩を切り裂く。決して致命傷ではない。しかし攻撃を受けた相手は突然力が抜けたような状態になり、あた
  しはそのまま相手の胸板を貫いた。
  黒水の剣は斬りつけた相手のスタミナを奪う。
  攻撃がヒットする限り、永遠にあたしのターンなのだ。白馬騎士団の強襲は成功した。
  ブラックボウは体勢を立て直す事が出来ないまま、結局テリーブでその運命を終わらせる事となる。
  「く、くそっ!」
  一人のオークが、階段を駆け上がろうと……テリーブから脱出しようとするものの、マゾーガが立ち塞がる。
  「どこへ行くブルーゴ」
  「て、てめぇはマゾーガっ! 誰に雇われた、どこの盗賊団だお前らはっ!」
  「私は白馬騎士団の、騎士。今の私は盗賊ではない」
  盗賊?
  人の生き方は人それぞれ。今は騎士でも、過去も騎士というわけじゃない。
  それはそれでいいと思う。
  「お前が騎士? う、裏切り者っ!」
  「何とでも言え」
  その時、彼の手下は制圧されていた。
  ……彼の、手下だけ?
  ここにいるのは全員、黒塗りの弓を手にしていた。つまりブラックボウのメンバー。
  ここには傘下の盗賊達から上納金を受け取る為に来る、と聞いてたけど傘下の盗賊らしき面々はいない。
  少なくとも屍の中にはいない。
  ……じゃあ、ここに何しに来たの?
  「何で来ねぇ、ロキサーヌとデュオスは何処だっ! ち、ちくしょうあいつらが俺を嵌めたのかっ!」
  ロキサーヌ?
  デュオス?
  その名前を聞いた時、オーレン卿の顔色が一変した。
  「深緑旅団はここに来るのか、そうなんじゃなっ!」
  そもそも深緑旅団って何?
  しかしブルーゴは答えない。追い詰められたもの特有の焦燥と狂気に満ちた笑みを見せ、生き残ろうと必死に血走った眼を向けてマ
  ゾーガに斬りかかる。数合切り結んだだけで、ブルーゴはその場に倒れた。
  膝を切り裂かれている。
  「ま、負けたぜ、マゾーガ。さすが、俺の見込んだ良い女だぜ」
  剣を投げ捨てた。
  見下すマゾーガの眼は冷たい。
  「付き合いは長いんだ、とっとと隠し持った短剣で私の心臓を貫いたらどうだ?」
  「く、くそぅっ!」
  短剣を手にしマゾーガに襲い掛かるもののあたしがそれを許さない。剣を一閃。ブルーゴの右腕は落ちた。瞬間、首も落ちる。
  マゾーガの一撃だ。
  「お前も、なかなか良い男だったよ、ブルーゴ」
  彼女の過去が、どんなものか知らない。
  でも、マゾーガはマゾーガだ。
  そして……。
  「……ロキサーヌ、やはり決着はつけねばならぬか……」
  オーレン卿は、沈んだ口調でそう呟いた。
  沈んだ口調で、そう……。























  意気揚々と引き上げていく白馬騎士団。
  彼らは気付かない。
  夜の闇の中に溶け込み、傍観してといる者達に。
  「……おいヴァルダーグ。また無駄足か?」
  「そのようですね」
  「ちっ。やってられねぇぜ」
  漆黒のローブに身を包んだ、デュオスとヴァルダーグ。
  テリーブでブラックボウ首領であるブラック・ブルーゴと落ち合う約束をしていた。
  「しかし若、今回の任務は仲介です。ブラックボウ残党に接触する必要もありますし……まだ任務は続行……」
  「分かってる分かってる。ロックミルクだったな、確か」
  「御意」
  「レヤウィンのトカゲの親玉が権勢振るってもらわなきゃ今後やり難いからな。重要性は理解してるぜ。さてヴァルダーグ、レヤウィン
  のボケどもに目を付けられてるテリーブで会談はまずかろう。場所をロックミルクに移す。そう、伝達しろ」
  「御意」
  「深緑旅団の親玉には、丁重に挨拶しろよ。あいつらがいないと、この先の展開がつまらんからな」
  「心得ております」
  「くくく。久々の、戦だな。楽しみだぜ」