天使で悪魔
魔術師と鎧の騎士
強さには限界がない。
そして確実性は存在しないのだ。どんなに強くても慢心してはいけない。
常に自分よりも強い相手が存在するのだから。
初戦は華麗に勝利。
ノルドの戦士&アルゴニアンの魔術師は戦闘不能。それによりあたし達の勝利となった。
このまま連戦に突入。
この戦いに勝てば明日の決勝進出だ。
『試合開始っ!』
『わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』
休憩もほとんどなく第二戦目が開始される。
相手はBブロックを勝ち抜けたペアだ。
……。
……何気にシードの方が面倒かもしれない。連戦だし。
まあいいけどね。
第一戦目、結構きつかったけどまだ体力に余力はある。動けないほどじゃあない。
さて。
「マーティン神父、今回はどうします?」
「私が魔法を叩きこんで援護する」
「連携ですね」
「そうだ」
「ただし気をつけろ」
「はい?」
「私は基本一匹狼だ、孤高の男だ、連携とは無縁の人生を送って来た。私の援護を信じて突撃した奴を誤爆で消し飛ばした事も多々ある」
「……」
「その時は立派なお墓を立ててあげるから祟らないでくれたまえ。もちろん私が直々に供養もしよう」
「……」
「ぐっじょぶっ!」
「……」
この人、どこまで本気か意味不明です。
限りなく本気?
それはそれで困るなぁ。
そもそも自分で自分の事を『一匹狼』と断言しちゃうあたり悲しい人間な気がするのはあたしの気のせいかな?
ともかく。
ともかく相手に対してあたしは叫ぶ。
「勝負ですっ!」
チャッ。
雷の魔力剣を引き抜く。背中には魔剣ウンブラを背負ってるけど使う気はない。
物騒過ぎる魔剣だからだ。
フルとマーの魔術師は笑った。鎧の騎士は無言。
「くくく。我らに勝てるかな?」
「……」
対戦相手はアルトマーの魔術師と全身を鎧で包み盾を持った騎士。
騎士の方はフルフェイスの兜を被っているし生身はどこも露出していない。
妙なペアだと思う。
恰好は別段問題ではない。
何というか変な感じがする。異質な感じがする。それが何かは分からないけど、そんな感じがする。
何だろ、この感じ。
アルトマーの魔術師は右手をこちらに突き出した。
「お主達の挑戦はここで終わるっ! 破っ!」
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
アルトマーの魔術師が放った炎の弾があたし達のすぐ目の前で爆発。
不思議と熱は感じなかった。
爆風も。
「ロリコンの力を舐めるなよっ!」
すいませんそこは強調するとこですか?
特に見得を切る台詞ではない気がするけど……ともかく、マーティン神父が魔力障壁を展開したのだろう。
炎は届かない。
「光撃っ!」
お返しとばかりに光の球体を放つ。
その時、魔術師の間に鎧の騎士がガードに入り光の球体を盾で受け止める。
ザザザザザザっ。
光の勢いでニメートルほど押されるものの、光の魔法を受け流す。受け流された光の魔法は彼方に飛んでいった。
「飛翔っ!」
力ある言葉とともに天高く舞うアルトマーの魔術師。
飛んだっ!
「破っ!」
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
「うひゃーっ!」
舞いながら、滞空しながら炎の魔法を放ってくる。
あたしはダンマーだから炎に耐性があるけど敢えて受けようとは思わない。フィッツガルドさんなら完全に無効に出来るだろうけどあたしは
そうじゃないので逃げ回る。直撃受けても死ぬ事はないだろうけど、熱いものは熱いし痛いものは痛い。
完全に相手のペースだ。
あたしは空を飛べないし煉獄を1発打ち返したものの豆鉄砲でしかない。結局逃げ回る。マーティン神父は冷気の魔法で応戦、そのまま2人は
魔法の応酬を始める。結局この流れか。連携終了。それぞれサシで勝負。だけどやり易いのは確かだ。
あたしの相手は鎧の騎士だ。
「勝負ですっ!」
「……」
ガチャガチャ。
鎧の騎士は金属音を立てながら無言であたしに向って突っ込んでくる。鎧の所為か足は遅い。
構えるあたし。
「えっ!」
バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
飛来物があたしを吹っ飛ばす。
盾だ。
盾を投げたのだ。
顔に当たらなくて良かった。当たったのはお腹だ。鉄の鎧を着こんではいるものの衝撃までは防げない。
引っくり返る。
次の瞬間、鎧の騎士の速度は高まる。
機動性のなさはあたしを油断させる為のフェイクかっ!
間に合わないっ!
まだ立てないでいるあたしに対して剣を大きく振り上げる鎧の騎士。
「光撃っ!」
鎧の騎士、吹っ飛ぶ。
横合いからマーティン神父の魔法の援護。ナイスですっ!
だけど援護ばかりを当てには出来ない。
何故ならマーティン神父はマーティン神父でアルトマーの魔術師との戦いで忙しいからだ。今のだってたまたま手が空いたから援護出来ただけ
であって、あまり頼りにするのはよくないと思う。あたしはあたしで鎧の騎士との戦いに専念しよう。
鎧の騎士、立ち上がる。
「……」
「……」
無口な質なのかな?
それにしても鈍そうな外観に騙されたのはあたしの不覚だ。鎧着てるから鈍い、あまりにも単純過ぎる考えだったと思う。
そもそも、あたしはまだまだヒヨッコ。
油断出来る立場じゃない。
いい気になってたなぁ。
「……」
「……」
相手はクレイモアだ。本来は両手持ちのクレイモアだけど鎧の騎士は片手で軽々と使っている。
それに。
それにあのクレイモア、普通のより少し大きいし長い。
つまりリーチが長いし威力が高い。
迂闊に踏み込めばあたしの間合にする前に、相手の間合の前に倒れる事になる。だけどあたしは戦士。剣を振るってこそ意味がある。それに相手が
意外に素早いのは分かったけど敏捷性ではあたしの方が上だ。
タッ。
「はあっ!」
地を蹴る。
ブン。
相手の剣の一閃が頭の頭上を過ぎる、ほんのわずかでも身をかがめるのが遅れたら頭がなくなってた。
怖かったよー(泣)。
そのままあたしは相手の腹部を薙ぐ。
鋼鉄の鎧とはいえフィッツガルドさん特製の雷の魔力剣の前では鋼鉄など何の意味も成さない。
ギィィィィィィィィィィィンっ!
鋼鉄を切り裂く。
勝ったっ!
そう思った瞬間、垂直に相手の刃があたしの頭上に……うひゃーっ!
バッ。
大きく飛び下がる。
相手はまだ動いている。まるで痛みなど感じないように。鎧を深くは切り裂いてないけど、少なくとも刃は肉体には届いたはず。
無痛なの?
ドサ。
その時、アルトマーの魔術師がマーティン神父に撃墜された。
体中が焦げている。
それでも。
それでもアルトマーの魔術師も鎧の騎士同様に動いている。普通に立ち上がったし。鎧の騎士はダメージが分かり辛いけど、アルトマーの魔術
師は完全に焦げてるのに動けるって何で?
あたしの隣に並ぶマーティン神父。
彼に聞いてみる。
「あの2人、不死身なんですか?」
「この世界に不死身という概念は存在しない。あの2人は何らかのトリックを使用しているに過ぎないのだよ、アリス君。臆する事はない」
「はい」
「大切なのは……」
「大切なのは?」
「まずは試してみる事だ。こういう風にな。……光撃っ!」
光の弾が鎧の騎士の頭を吹き飛ばす。
ええーっ!
スプラッターだっ!
過激だなぁ。
「やはりな」
「えっ?」
「見てみたまえ」
「……あっ」
カラン。
転がっている兜の一部には頭部の一部はない。
えっ?
鎧の騎士は未だ立っている。頭がないのに、立っている。
「空っぽだろ?」
「ほんとだ」
「憶測の1つだが奴はおそらく魔術師に操られている鎧に過ぎん。もしくは……」
「もしくは?」
「まあ、憶測はいい。どっちにしろ押して押して押すしかあるまい。私は魔術師を引き受ける。君は鎧の騎士を粉砕して欲しい。粉砕すれば動かない」
「確かに」
タッ。
その言葉と当時にあたしは間合いを詰める。
アルトマーの魔術師が魔法を放つものの、それはマーティン神父が放った魔法で相殺される。しかしアルトマーの魔術師はそのまま鎧の騎士の側に
駆け寄ってその体に触れ何かを呟く。瞬間、鎧の騎士が淡く光った。
能力強化の魔法っ!
「光撃っ!」
「飛翔っ!」
マーティン神父の魔法の一撃を恐れてアルトマーの魔術師、鎧の騎士から離れて空に舞う。
これで戦いは再びサシでの対決だ。
「はあっ!」
あたしは雷の魔力剣を叩き込む。
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
強いっ!
相手の太刀筋は正確で操り人形とは思えないほどに正確だ。
次第に押されていく。
「くっ!」
押されて。
押されて。
押されて。
あたしは段々と後ろに下がっていく。
そして……。
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
「あっ!」
雷の魔力剣が弾かれた。握る者なき剣は宙を舞う。
無手となった。
マーティン神父はアルトマーの魔術師を再び地面に叩き落したものの、それでも動き続ける魔術師相手に魔法の応酬をしている。
援護は期待できない。
咄嗟にあたしは背にある魔剣ウンブラを抜いた。
ブォン。
妖しく光る刀身。
「やああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
鎧の騎士の胸元を貫いた。
相手は無機質な存在。
魂はない。
ならば使うのを躊躇う必要もない。そう思った。だけど……。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「えっ!」
鎧の騎士から絶叫が響いた。
生きてるっ!
鎧の騎士から魔剣ウンブラが何かを吸収しているのが分かった。
魂だ。
妖しく輝く魔剣ウンブラは鎧の騎士の魂を吸っている。なんなのこの鎧はっ!
「くぅぅぅぅぅっ!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
そして。
そして……。
ガチャアアアアアアン。
鎧が地面に転がった。
そのまま動かない。
「はあはあ」
肩で息をしながら崩れ去った鎧の残骸を見つめる。
額の汗を腕で拭った。
右手にある魔剣ウンブラが妖しく輝いている。新たな魂を久方振りに取り込んだからだろう。少なくともあたしはこの魔剣を使わないようにしている
ので魔剣ウンブラが魂を食らったのは本当に久し振りの事だろう。
……。
……あー、そうでもないか。この間、邪神ソウルイーターを倒す際に使ったよね。
だけど使ったのはその時だけだ。
以前フィッツガルドさんやダゲイルさんに『魂を食う魔剣』だと忠告されているのであまり使わないようにしている。だってこれで斬られた相手は
二度と輪廻転生しない。強力すぎる魔剣だけど物騒過ぎる魔剣でもある。
だからあまり使わないようにしてる。
さて。
「はあはあ」
鎧の残骸は動かない。
宿っていた魂が消失したからだ。今、完全にただの鎧の残骸と化した。
そこに生命は宿っていない。
アルトマーの魔術師も既に動いていなかった。鎧の騎士を撃破した瞬間、魔術師もその場に引っくり返った。
そして、それだけでは終わらなかった。
急速に肉体が乾いていく。
一分ほどで完全なるミイラと化した。水分なき遺体になった。
何なの?
何なの、こいつら?
「マーティン神父」
「うん?」
相変わらず飄々とした神父に聞いてみる事にした。
魔道の領分だと思う、鎧騎士と魔術師の存在は。だから聞いてみる事にした。マーティン神父は博識だし。
「何だね、アリス君。言って置くが告白されても私は幼女にしか体が反応しない」
「……」
幼女にしか体が反応しないの意味が分かりませんけどセクハラかな?
あたしは思う。
裁判負けて欲しいとっ!
……。
……うーん。最近あたしってば性格悪いのかもしれないなぁ。
マグリールさんは完全にウザリールさんで通してるし。
少し心を改めよう。
例え声にしないにしても相手への誹謗中傷は結局は自分の価値を傷つける事になるのだから。こういうのって因果応報、だっけ?
「マーティン神父」
「何だね?」
「あの2人は何だったんですか?」
鎧の騎士には中身がなかった。
がらんどう。
おそらくはアルトマーの魔術師が魔法で動かしてたんだろうけど……いや、低級霊を鎧に憑依させてたのかな?
前にフィッツガルドさんがゾンビは死体に低級霊を憑依させて作るって言ってたし。
原理は同じかもしれない。
だけどアルトマーの魔術が干乾びるってどういう原理だろ?
魔法に詳しくないあたしには意味不明。
だけど……。
「先ほどとは異なる私のもう1つの憶測ではあるが、おそらく鎧の方が本体だったんだろうな」
「鎧が本体?」
えっ?
アルトマーの魔術師が鎧の騎士を操ってたんじゃないの?
マーティン神父は続ける。
「リビングメイルだよ」
「リビング滅入る? ……それってリビングにいると気が滅入るという意味合いですか?」
「駄洒落てる場合か。ははは。君は愉快だな」
「えっと、至極真面目なんですけど」
「だとしたら救いようがないな」
「……」
何気にそう言われると凹むんですけど。
救いようがないだなんて真性のロリコンに言われたくないよーっ!
はぅぅぅぅぅぅぅっ。
「そ、それで?」
話を促す。
「リビングメイル、生きた鎧だよ」
「生きた鎧?」
「文字通りの意味だ。魂を宿した鎧だ」
「へー」
「大抵は魔道実験で失敗した結果だな。別に鎧に限らず剣でも箒でもなんでもありだ。別に鎧に魂を定着させたのではなく魔道実験失敗の際に魂
が肉体から離れて手近なものに定着するんだ。もちろん故意に鎧に魂を吹き込む奴もいるがね」
「何故ですか?」
「理由はそれぞれ異なるさ。病で死に掛けてやむなくとか強くなりたいとか。強固な鎧に吹き込むのが一番都合がいいしね」
「なるほど」
「これは補足だがね。死霊術の場合、失敗したら肉体が腐る。腐った肉体に魂が宿ったまま生きる事になる。グールだな」
「あっ。それは知ってます」
前にアンヴィルで遭遇したし。
だけどリビングメイル、生きた鎧かぁ。
そんな事もあるんだ。
知らなかったなぁ。
「じゃあ、あの魔術師のアルトマーは何なんです? どうして干乾びて、勝手に死んだんですか?」
「推測だがね。アルトマーの方がフェイクなんだと思う」
「えっ?」
「鎧が空っぽと気付く、アルトマーの魔術師が操ってるのだと誰もが思う、そしてアルトマーの魔術師に注意が集中する、鎧騎士に対しての注意
は散漫になる。魔術師さえ倒せば、と誰もが思う。油断を誘う為のフェイクだな。そして鎧の本体も狙いが甘くなるから安心だろ?」
「じゃあ……」
「あのアルトマーは元々死体だ。鎧が本体だとは誰も気付くまい。……まあ、私は薄々分かってたがね」
「それ本当ですか?」
「ああ。生きている感じがしなかった」
「ふぅん」
空っぽの鎧が術者で、生きてるように見えたアルトマーの魔術師が実は死体だったって事?
何者だったんだろ。
だけど、いずれにしても凄い能力者だったのは確かだ。
実況側もこの状況に戸惑っていたのだろうけど、落ち着いたのか、ようやくあたし達の勝ちを高らかに宣言した。
『モグラっ娘&ロリコンダー、華麗に勝利ですっ! 決勝進出の権利を得ましたっ! 明日の決戦が楽しみですっ!』
『わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』
歓声があたし達を包み込む。
明日は決勝。
明日は決戦。
明日は……。
「絶対に勝たなきゃね」
自分に言い聞かせる。
明日の決勝の相手はウザリールさん&ノル爺だ。一度全力で戦ってみたいかったのは否定しない。ノル爺はフィッツガルドさんに魔法の手
ほどきをしたほどの実力者だし、ウザリールさんのウザさは天下一品だ。
……。
……ウザリールさんに関しては特に興味ないかも。
うーん。
ま、まあ、思いっきり殴ってみたいのは確かかも。……最近のあたしってばちょっと悪い子かも。
気をつけよう。
ともかく明日の決勝、そしてその決勝を勝ち抜けばグランドチャンピオンに挑戦出来る。
頑張ろう。
頑張ろーっ!
観客席。
セエレとリリスの会話。
「タムリエルは広いですね。あのような能力者がいたとは……」
「確かにそうね」
「我々がもっと早くに鎧の騎士に出会えていれば若にイニティウムとして推挙したのですけどね。惜しい逸材でした。それにしてもあのダンマー、侮れない」
「私が殺すと決めた相手よ? あの程度の相手を倒せなければ私が困る」
「結局ご自分の手で殺す事に拘るのですね、リリスさん」
「当然」
「まあいいですよ。明日の試合が実に楽しみです」