天使で悪魔







邂逅






  いつか気付くだろう。
  あたし達は会うべくして会ったのだと。






  前回のあらすじ。

  モグラ=土竜。
  だからってこれはないだろー、みたいな展開。
  はぅぅぅぅぅっ。






  城塞都市クヴァッチ。
  農業地区。


  「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!

  天高く巨大な口を向けて咆哮する蛇。
  ……。
  ……いえ、土竜(泣)。
  土の中の竜でも、感じだと土竜……モグラ。
  すいませんこれ詐欺です。
  うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ展開がデタラメだよぉーっ!
  シルデスさんの嘘つきーっ!
  いくらあたしがモグラ退治のエキスパートでその筋では名の通った人物でもこんなのに勝てるわけないじゃんっ!
  はぅぅぅぅぅぅぅっ。

  「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!

  土で形成された蛇……いや、土の竜は吼える。
  「……」
  人生終わったかも。
  嫌だなぁ。
  前回レヤウィンで猛威を振るった邪神ソウルイーターを倒せたのはある意味で運が良かったから。
  それ以上でも以下でもない。
  この土竜(モグラではなく『どりゅう』と読んでくだされ)が狂魔術師ファシス・アレンが復活させた邪神ソウルイーターよりも強いのか弱いのかは分からない
  けどこの巨体だ。でかければでかいだけ攻撃力は純粋に比例する。……大抵はね。
  それにあたし達とのサイズの差があり過ぎる。
  でかい。
  ただそれだけでこちらを怯ませるには充分だ。
  ただそれだけで……。
  「俺が悪かったっ! 俺と組もうっ! 儲けは半々でどうだっ! 悪いなアリス裏切って俺には家族がいるんだよっ!」
  「……」
  ウザリールさん、混乱。
  てか最低。
  何を思ってアガタさんはこの人を前回の依頼の際に引き合わせたんだろ?
  何気に懐かれてる気がします。
  うーん。
  やっぱり寄生されてるのかも。
  早くバイバイしたいなぁ。
  ……。
  ……だけど誰に寝返ってるんだろ?
  土竜は多分迎えてくれないと思うけどなぁ。
  まあいいけど。
  「煉獄っ!」
  先手必勝。
  畑の中で……というか体の半分は畑に埋まったままの土竜に対して先制攻撃。
  あたしの煉獄はフィッツガルドさんの煉獄の五分の一の威力。
  だけど牽制程度にはなる。
  タッ。
  それと同時にあたしは魔剣ウンブラを構えて突っ込む。
  炎の玉は……。

  ぷしゅぅぅぅぅぅぅぅっ。

  「はっ?」
  炎は土竜の体に当たって消滅。
  魔法が効かない?
  ……。
  ……ああ、そうか。土に炎が掻き消されたのか。
  土竜の体は土で形成されている。
  あたし程度の炎の魔法では爆発で土を吹っ飛ばす事が出来ないのだ。小さな炎の玉は土竜の土に埋没して消滅。
  だけどっ!
  「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  喚声を上げて突っ込む。
  突っ込む。
  突っ込むっ!
  手にしているのは魔剣ウンブラ。
  レヤウィンの魔術ギルド支部のリーダーである預言者ダゲイルさん曰く『オブリビオンの魔王ですら恐れる魔剣』らしい。
  魂を食らうからだ。
  悪魔といえども魂を砕かれれば復活出来ない。
  唯一の弱点ともされる魔剣。
  それがウンブラだ。
  あの土竜がどの程度の存在かは知らないけど有史以前のアイレイド文明の邪神ソウルイーターすらも倒せた魔剣だ。
  土竜程度ぉーっ!
  間合いを一気に詰める。
  敵はすぐ間近。
  タッ。
  あたしは大きく跳躍、土竜に向って飛びかかる。
  狙うは頭っ!
  どの程度の強さかは知らないけど一太刀当たれば土竜は沈黙するだろう。
  当たった瞬間に魂が食らわれるからだ。
  ……。
  ……まあ、即座に魂が消失するわけではない。
  邪神も何発かは耐えたし。
  それでも。
  それでも一太刀浴びればダメージを与えられる。土竜、覚悟っ!
  「やあっ!」

  「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!

  「……っ!」
  土竜の口から大量の土砂。かなりの勢いだ。あたしはそのまま吹き飛ばされて転がる。
  数メートル転がった。
  「けっほけっほっ!」
  口の中に土入ったーっ!
  あの口から吐き出された土砂って結構な勢いだ。威力こそはないけど吹っ飛ばされた。間合が遠退く。しかしお陰で追撃されずに済んだ。土竜は相変わ
  らず畑の中にいる。奴は口を開けた。また土?
  だけどこの距離なら怖くはない。
  吐き出された瞬間に拡散される土砂。さっきは接近し過ぎて当たったけど距離が遠ければ遠いほど土砂は拡散される。特に怖くはない。
  殺傷能力はないし。
  そして……。
  「はぐぅっ!」
  ドサ。
  あたしはそのまま後ろに引っくり返った。
  頭に何かが当たった。
  そして引っくり返ってなおも礫のようなものが飛んでくる。それをあたしの全身に打撃の洗礼として浴びせてくる。
  何かが大量に転がる。
  「ジャガイモ?」
  そう。
  それは紛れもなくジャガイモだった。
  土竜の口から吐き出されたのはジャガイモ。……何故に?
  這いずりながらもあたしは畑から離れる。
  ある一定まで離れると土竜は畑の中に消えた。
  テリトリー?
  どうやら縄張り意識が激しいらしい。
  つまり。
  つまり近付かない限りはあいつは攻撃を仕掛けて来ないというわけだ。
  敵との間合を保つ。
  作戦会議だ。
  「ノル爺、どうします?」
  「うぅむ」
  小声で作戦会議。
  ……。
  ……マグリールさん?
  完全に怖気付いて逃亡しました。役立たずぅーっ!
  まあ、今さらなんですけど。
  むしろいない方が静かでいいかもしれない。
  何しろ前回から半々の割合でマグリールさんではなくウザリールさんだと思ってるし。……意外にセンスいいかも、あたし☆
  ネーミングセンス最高かも☆
  センスあるよ、あたし☆
  ヾ(〃^∇^)ノわぁい♪
  「アイリス殿っ!」
  「えっ? あっ、はい」
  「集中してくだされ」
  「ごめんなさい」
  怒られた。
  「ノル爺。あれはなんだと思います?」
  「うぅむ」
  土の竜。
  さすがにモグラの突然変異ではないだろー(泣)。
  「あれが何かは分からぬ」
  「そうですか」

  「ただ分かるのは奴が畑を形成した存在だという事じゃ」
  「畑を?」
  意味が分からない。
  「どういう意味ですか?」
  「ジャガイモを吐いたじゃろ」
  「ああ。確かに」
  「おそらく奴は前回の邪神ソウルイーターのように肉体を持つ存在ではないじゃろう。奴は魔道生命体じゃ。畑から離れられん理由もそれなら頷ける」
  「魔道生命体?」
  「そうじゃ」
  まったく知識がないので軽くレクチャーしてもらおう。
  その時……。

  
カッっ!

  光が満ちた。
  問題の畑は眩いばかりの光に包まれる。それは光が球体として畑を包んでいた。
  途端に土竜は土の中から躍り出る。
  ガンっ!
  だけど光に阻まれてその場に引っくり返った。
  破れないらしい。
  
  「
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!

  土竜の苦悶に満ちた声。
  苦しんでる。
  苦しんでるよ、あの土竜が。
  ……。
  ……当然ながらあたしがしたわけではない。てかあたしは何もしてないなぁ。今回の戦い。
  だけどそれでもいい。
  1人で戦ってるわけじゃないんだから別に戦功を主張するつもりはない。
  倒せればそれでいい。
  倒せればね。
  そしてそれを成せるだけの魔法が使えるのは1人だけ。

  「ノル爺、凄いっ!」
  さすがはフィッツガルドさんの兄弟子であり指導していた立場にあっただけはある。隠居してもその腕は健在だ。
  今度武勇伝聞かせてもらおうっと。
  土竜は完全に光の結界のようなものに閉じ込められて次第に弱っていく。結界を破る事も出来ずに、ただただ弱体化していく。
  土で形成された体が崩壊していく。
  まさに圧倒的な魔術だ。
  凄いなぁ。
  そういえば邪神ソウルイーターの『魂を食らう咆哮』も結界で阻んだもの。やっぱり魔術師って凄い。
  「ノル爺、さすがですね」
  「ワシではないっ!」
  「……?」
  「ワシではないっ!」
  「……? えっと、意味分かりません」
  「こんな高等な結界など、破邪結界など一体誰がっ!」
  「破邪結界?」
  えっと……つまりはノル爺ではない?
  ノル爺すらも驚く高等(らしい。あたしにはよく分からない)な結界。だけどノル爺じゃないなら誰が?

  「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははお困りのようだな、アリスっ!」


  高笑いとともに響く声。
  ウザリールさんだ。
  ……。
  ……あー、彼じゃないのは確かだ。結界を行使した謎の人物は誰、という流れに便乗してアピールしてるけど彼じゃあない。
  うん。
  あれはないなー。
  「ノル爺、一体誰が結界を?」
  「分からんのぅ」
  「……なかなか良い性格になってきたじゃねぇかアリス……」
  当然です。
  いつまでもウザリールさんに付き合ってたら日が暮れる。もしかしたら胃に穴が開くかもしれないし(泣)。
  だから。
  だから無視する時は無視する。
  うん。
  きっとこれは大切な事だと思う。そしてそれが出来るようになったあたしはレベルアップ☆
  ヾ(〃^∇^)ノわぁい♪
  そして。
  そして光の結界の中で土竜はただの土に戻った。
  土竜退治解決。
  だけど誰が?
  「うーん」
  土竜はただの土に戻り辺りは静寂に包まれた。光も土竜が消滅した時点で消えた。つまり術者が近くにまだいるのだろう。だからこそ敵を倒した→結界
  を解くかな、という流れなのだろう。
  この場にいる……とは、まあ、完全には言い切れないけどここを視認出来る場所にいるのだろう。
  「ノル爺。魔力の流れとかって追えますか?」
  「それには及ばんよ。ここにいる」
  「えっ?」
  カジートの老魔術師の声ではなかった。
  その声の主は……。
  その声の主は……。
  その声の主は……。

  『タヌキだーっ!』

  思わずあたし達3人は綺麗にはもって叫ぶ。
  ローブを着込んだタヌキの男性だ。
  ……。
  ……いえ。厳密にはタヌキに激似のインペリアルの男性だ。年齢は中年ぐらいかなぁ。
  彼はタヌキ発言に顔をしかめた。
  それはそうだろうと思う。
  初対面なんだし。
  「あの」
  「破邪結界は私が発動させた」
  「えっ? あの、貴方は?」

  「私はマーティン。九大神の主神アカトシュを信奉する神父だ。クヴァッチの聖堂に籍を置いている」
  「神父様?」
  「すまなかった」
  「はい?」
  「今消滅した存在は私が以前研究していた実験生物だ。……ああ、正確には魔道生命体だな。魔力の塊を元に創生した魂なき存在で……」
  「あ、あの、説明はいいです」
  「そうか」
  説明したかったのだろうか?
  マーティン神父は残念そうな顔をした。……まあ、だけど説明されても分からないし。
  あたしは魔法は無知。
  ……。
  ……あっ。そういえば自己紹介してなかった。
  マーティン神父はやってる事は『はちゃけてる☆』みたいだけど思慮がある大人みたい。そこは感謝かな。実験生物放置しない主義らしいし。ま、まあ、逃がし
  た時点で、暴走させた時点で駄目なんだけどね。だけどまあ怪我人いなかったし、よしとしよう。
  「あの、あたしは……」
  「君」
  「はい?」
  「歳はいくつだい?」
  「歳?」
  「そうだ」
  「えっと、18歳ですけどそれが何か?」
  「……そうか」
  残念そうな顔をした。
  何故に?
  「あの、どうかなされたんですか?」
  「……」
  「神父様?」
  「私の恋愛の範囲は7歳から16歳までなんだ。……君は私の心を躍らせない。実に残念だよ」
  「……」
  何なんだこの人はーっ!
  また妙に濃い人物があたしの人生に介入してキターっ!
  ……。
  ……ウザリールさんの方がまだマシだよぉ。ウザいだけだもん。でもこの人はきっとロリコンだ、ロリコンなんだ。
  神父様なのにロリコン?
  ロリコンなのに神父様?
  なんかやだなぁ。
  はぅぅぅぅぅっ。
  「今回の非礼のお詫びも兼ねてお茶でもご馳走しよう。……心配する事はない。君は私の興味の範囲外だ。何もしない。ハハハ☆」
  「……ははは」


  それが。
  それがマーティン神父との邂逅だった。
  ……。
  ……ロリコン神父かぁ。
  世も末だなぁ。































  「このロリコンどもめっ!

  バックベアード様、特別出演(笑)。













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