天使で悪魔






それでも明日はやってくる






  世界は回る。
  どんな事があっても日々は動いていく。時は止まらない、止めようがない。
  時間という概念は神や魔王すらも及ばないのかも知れない。
  どんな不幸があっても。
  どんな悲劇があっても。
  ……それでも明日はやってくる。






  ブラックウッド団は壊滅した。
  本部にいた司令官リザカール、副指令ジータム=ジーは戦死。幹部達も全員死亡。本部付き戦闘員とも言うべき団員達も全員死亡。
  事実上ブラックウッド団の中枢は壊滅した。
  レヤウィン領主であるマリアス・カロ伯爵はブラックウッド団の後見役的な存在となり、戦士ギルドのレヤウィン支部を閉鎖に追い込んだ人物では
  あるものの今度は手のひら返して戦士ギルドに擦り寄っているらしい。
  療養の為に魔術師ギルドのレヤウィン支部にいた際にそう聞いた。
  ……。
  ……まあ、白馬騎士団時代から薄っぺらい人格者だとは思ってたけどね伯爵は。
  深緑旅団戦争の際には民衆も部下も全部捨てて真っ先に逃げたわけだし。
  まあいい。
  ともかくここにブラックウッド団は壊滅した。
  戦士ギルドの勝利だ。


  ブラックウッド団。
  黒馬新聞で読んだけど実際には戦士ギルドに取って代わるというのはただの建前でしかなかったようだ。
  欲しかったのは戦士ギルドが持つ特権状。
  特権さえあれば制限なしにメンバーを募れるからだ。ブラックウッド団はその特権を得る為に戦士ギルドを陥れるべく行動してた。そして特権を手に
  入れメンバーを際限なく増やしその後にクーデターを引き起こすつもりでいたようだ。
  連中はアルゴニアン王国の先遣隊。
  内乱目的の軍隊だったのだ。
  しかしその悪意の芽は完全に費えた。完全に。
  シロディールに一応の安息が訪れる。


  だが真相はいまだ闇の中。
  黒の派閥、深遠の暁。
  アルゴニアン王国の全面的なバックアップを受けていたブラックウッド団すらもおそらく凌駕する謎の組織。もしかしたらブラックウッド団を利用す
  らしていた可能性のある強大な組織。
  特に黒の派閥。
  深緑旅団戦争の裏側にもいた。
  実のところもしかしたらまだまだ安息は訪れていないのかもしれない。
  そう。
  これはまだ始まりでしかないのかもしれない。


  フィッツガルドさんは事が終わりコロールに向った。叔父さんに全ての報告をする為に。
  あたしは無理に動いたのが災いして再びダウン。
  魔術師ギルドのレヤウィン支部で療養。
  それが五日前だ。
  支部長のダゲイルさん、補佐のアガタさん達に感謝の言葉を行ってあたしは辞去した。そして舞い戻る。久々のコロールだ。
  自宅に帰る。


  「……えっ……?」
  思わず素っ頓狂な声をあたしは上げた。
  びっくりした。
  唖然。
  呆然。
  驚愕。
  うーん、他に何か似たような類語はあるかな?
  ともかく驚いた。
  ただいまの挨拶の後、叔父さんは突然あたしに辞令を発したのだ。ガーディアンの階級に格上げされた。戦士ギルドにおいてナンバー3の地位。
  現在ガーディアンの地位にいるのは2人だけ。
  シェイディンハル支部長のバーズさんとアンヴィル支部長のアーザンさんだ。
  その2人に並んであたしが加わるという。
  「えーっ!」
  驚くのは普通だ。
  そうだね。これはまっとうな反応だ。
  あたしは今まで準構成員とか見習いとか一番下っ端だった。
  それが一気に先輩達を追い越してガーディアンの地位に付く。今までに前例のない……ああ、フィッツガルドさんが前例か。フィッツガルドさんは
  加盟と同時にガーディアン就任したし。だけどあたしがその前例と肩を並べるとは思ってなかった。
  ……。
  ……あたしがレヤウィンで寝込んでいる間に時代は動いていたらしい。
  戦士ギルドが新編成になっていた。
  黒馬新聞にもさわりだけ記されていたけど詳しい詳細はなかった。
  ギルドマスターが代替わりしたのだ。
  ヴィレナ叔母さんからフィッツガルドさんに代替わりした。就任と同時にフィッツガルドさん……いえいえ、ギルドマスターはチャンピオンに叔父さん
  を任命した。叔父さんは再びチャンピオンに返り咲く。その際にマスターはこう命令したらしい。

  「アリスに幹部の地位を」

  叔父さんは天性の組織運営の実務能力を持っている。
  考慮した結果あたしにガーディアンの地位を与える事にしたらしい。
  「だけど叔父さん……」
  「ギルドマスターの意向だ。辞退は許されていない。嫌なら辞めるしかないな」
  「そんなぁ」
  内心では困ってる。
  認められるのは嬉しいけど、評価された結果なのは嬉しいけど……実力以上の『プレゼント☆』的な任命は正直困る。実際困りまくり。かといって
  組織脱退するのも嫌。あたしは戦士ギルドが大好きだから。
  叔父さんはニヤニヤしている。
  きっと『じゃあ辞めるかー?』とちらつかせる事であたしが受けざるを得ない展開を作っているのだろう。
  うー。
  「叔父さん、喜んでお受けします」
  「嬉しそうじゃねぇな?」
  「そんな事はないけど……大任過ぎて……」
  「そうか。じゃあさらに大任を与えようか」
  「さらに……?」
  「現在レヤウィン支部はガタガタだ。伯爵野郎の気まぐれのお陰でな。再開の目処が立ってない。お前、支部長として赴任しろ」
  「支部……はい?」
  「支部長だ」
  「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーっ!」
  「うるせぇっ!」
  「……ごめんなさい」
  「こいつも辞退は許されん。分かってるな?」
  「……」
  支部長ですか?
  戦士ギルドは帝都以外の全ての街に支部がある。しかし明確な支部長が存在しているのはシェイディンハルとアンヴィルのみ。
  今ここにレヤウィンにも支部長を置くつもりらしい。
  そして支部長があたし。
  全然そんな自信ないですよーっ!
  はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「いいな?」
  「……はーい……」
  「最下級のメンバーであるお前に輝かしい顕職を用意してやったんだ。マスターと俺に感謝するんだな」
  「……」
  不服?
  そんな事はない。
  レヤウィンの重要性はあたしにも分かってる。
  深緑旅団戦争の戦火で荒らされブラックウッド団に引っ掻き回されたレヤウィン。……ついでにマリアス・カロのアホさで展開が面倒になってる。
  ともかく。
  ともかく戦士ギルドの重要性は心得ている。
  ブラックウッド団との一連の流れてメンバーも信頼も落ち込んでいる以上、失敗は許されない。
  レヤウィンにおける戦士ギルドの責任は理解出来る。
  街の建て直しに貢献する。
  それはとても意味と意義のある事だ。
  「叔父さん、あたし受ける」
  「叔父さんはよせ。チャンピオンと呼べ」


  ブラックウッド団は潰れた。
  だけどヴィラヌスは帰って来ない。フォースティナさんも、死んだ他の皆も戻って来ない。諸悪の根源が潰れても死者は帰って来ない。
  悲嘆に暮れる?
  そうだね。
  それは正しい行為だ。
  だけど永遠に悲嘆に暮れてばかりはいられない。それは薄情ではないはずだ。
  生きている人間はこの先も生きていかなければならない。
  あたしは生きよう。
  皆の生きられたなかった明日の分も生きていこう。
  上を向いて?
  ううん。
  時には下を見て、左右を確認したり後ろに戻ったり……あたしはともかく毎日を生きていこう。
  それが生きているあたしの義務であり権利なのだ。
  生きる。
  生きよう。
  生きていこう。
  明日を見て、時に今を見て現状を把握し、過去を懐かしんで生きていこう。
  どんなに悲しくても明日は来る。
  それでも明日はやってくる。