天使で悪魔
ブラックウッド団 〜炎上〜
燃える。
燃える。
萌える。……失礼。
全ては燃えてなくなる。
悪意も。
敵意も。
生命も。
ブラックウッド団の本部は今、炎上している。
今、炎上を……。
「はあっ!」
名称不明の魔剣を振るい、あたしは深紅の存在を切り伏せた。
炎で構築された人型の存在。
炎の精霊だ。
材質が何かは知らないけど炎の精霊は黒い鎧を纏っている。しかし漆黒の魔剣には敵わない。一刀両断だ。
「次っ!」
あたしは向き直る。
炎の精霊は無数にいた。
キリがない。
既に今ので五体目だ。
炎の精霊は悪魔の世界オブリビオン在住で普通はこっちに出て来れない。召喚されない限りはね。
それが今、無数にいる。
召喚されたのだ。
誰に?
……高笑いしている彼に。
「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
やたらとテンション高くなるノルド。
炎の紡ぎ手サクリファイスだ。
黒の派閥なんて組織は知らなかったけど……こういうのがいるのであれば、それは強大な組織だ。
単数の召喚は簡単だと聞いてる。
無数の召喚となると話は別だ。召喚そのものは魔力のキャパシティが範囲内だから無数に召喚出来るけど制御はまた別物。サクリファイスは
ダース単位の炎の精霊を召喚して的確に操っている。だとしたら召喚師として類稀な能力者。
ブラックウッド団なんか足元にも及ばない能力者を有する黒の派閥。
ある意味で真の脅威だ。
そして皇帝暗殺犯であるカルト教団深遠の暁。
……。
……戦士ギルドの脅威もこいつらが画策した?
そして連中にとってあくまで小事。
だとしたらまだ脅威は去ってない。戦士ギルドの脅威は小事。世界は今暗雲に包まれつつある。
だからと言って……。
「やああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
精霊の軍団に突っ込むあたし。
剣を振るって次々と相手を屠っていく。
だからと言って、小事だからと言って今までの事が全て小さい事だなんてまったく思わないっ!
ヴィラヌスの。
フォースティナの。
皆の。
報いを受けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
「たあっ!」
目前に迫る炎の精霊を撃破。
残りは三体。
残りは炎の弾を投げてあたしを寄せ付けまいとする。
あたしに炎は効かない。
タッ。
多少は痛いものの、痛みは無視して踏み込む。
ザシュ。
刃を振るうたびに確実に精霊は数を減らし、そして最後の一体を切り伏せる。
これでお終い?
……いいえ。
「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
再び召喚完了。
あたしに、フィッツガルドさんに、それぞれ相対する炎の精霊が補充される。
あの高笑いが召喚に関係しているのだろう。
……何故に?
理屈は不明。
正確にあたしは魔法戦士(魔道の原理を理解している上で行使する戦士。魔法が使えるだけの戦士は魔法戦士とは呼ばれない。魔術師で剣が使え
る者も魔法戦士とは呼ばれない)ではないので召喚の理屈はまったく意味不明。
ともかく。
ともかくあたしは目前の敵を倒すだけだ。
段々と面倒な展開になりつつある。
炎の精霊は周囲を燃やして存在している。
そう。
その場に存在するだけで建物を燃やしていく。
元々サクリファイスは炎系の能力者なんだろうけど、それ以前にこの建物を炎上させるのが目的なのだろう。
証拠の抹消。
多分そんな感じだ。
あたし達諸共炎で片を付ける気だ。
ごぅっ。
炎はあちこちから上がる。
炎上している。全焼は時間の問題。
この間にもフィッツガルドさんは炎の紡ぎ手サクリファイス&炎の精霊軍団と激闘を繰り広げている。……ぜ、全面的に任せようかなー。
「……暑いな」
「御意」
デュオス&ヴァルダーグはまだ脱出せずに屋内にいる。
高見の見物だ。
デュオスは階段に座り込み、ヴァルダーグはデュオスを護るように側に立っている。介入する気はないらしい。あくまで傍観希望の模様。
それは助かるなぁ。
正直あの2人のどちらかでも介入すれば……うん、あたしは死ぬね。
フィッツガルドさん?
あの人は生き延びるよ。だって強いもの。
つまりデュオス達が介入すればあたしを護る余力がなくなるのだ、さすがのフィッツガルドさんもね。つまりあたしは乱戦で死ぬだろう。
フィッツガルドさんは独力で生き延びるだろうけど。
……。
うー。
早くフィッツガルドさんみたく強くなりたいなぁ。
「やあっ! たあっ! はあっ!」
魔剣で次々と屠っていく。
炎の精霊で本当に良かった。建物が燃えるという二次被害は困るけど相手側の攻撃手段はあたしには通じない。もちろんあたしの持ってる唯一
の攻撃魔法である『煉獄』も効かないけどさ。今のところは剣だけで何とかなってる。
キリがないのは困るけどね。
サクリファイスは際限なく召喚出来るかのように、あたし達が倒した分を補充していく。
物量作戦?
そうかもしれない。
あたし達を足止めして蒸し焼きにするつもりなのだ。
どれだけの魔力のキャパシティがあるかは知らないけど地味ではある。派手さには欠ける。しかし確実だ。
面倒な相手だなー。
「裁きの天雷っ!」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
雷が炎の精霊を纏めて吹っ飛ばす。
さすがはフィッツガルドさん惚れちゃいます☆
「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
しかし全て高笑いが覆す。
どんなに倒してもすぐさま『おかわり』が召喚されるのだ。
これでは本当にキリがない。
これでは……。
「……暑いな」
「御意」
高見の2人。
何故だろう?
確実に殺すつもりなら一気に行動すればいい。……いえ、それは正直困るんですけどね……。
今になって思う。
どうして一網打尽にしないのか。
どうして?
ドゴォォォォォォォォンっ!
炎上が広がり柱が倒れた。焼け落ちるのは時間の問題だ。
撤退するには少なくともサクリファイスを倒す必要がある。もちろんこいつを倒したところでデュオス達が見逃してくれるとは思わないけど。
最低でもサクリファイスの撃破だ。
「こんのぉーっ!」
執拗なまでに炎の精霊達はあたしに付き纏う。
一刀の元に屠っていくものの次第にあたしは焦っていた。このままでは焼け死ぬ。
その時、別の行動があった。
デュオス達だ。
「ヴァルダーグ。頃合だ。撤退するぞ」
「御意。……炎・流」
……?
炎の魔法をヴァルダーグは天井に叩きつける。
吹っ飛ぶ天井の一部。
天井を吹っ飛ばす?
戦闘に介入するつもりではないのか。ホッとしながら炎の精霊を突き倒す。……今、あたしはデュオスとヴァルダーグが怖い。底がまったく見えな
いのが怖いのだ。おそらくフィッツガルドさんなら勝てるだろうけど、あたしなら確実に殺される。
今はね。
いつか見てろぉーっ!
いつか……。
「デュオス様、お迎えに上がりました」
「くくく。ディルサーラ、大儀っ!」
開いた穴から鳥が舞い降りる。
……。
……いや。
人だ。
美しい女性。背には大きな純白の翼がある。
ええーっ!
まさか伝説のフェザリアンっ!
何故伝説なのかは簡単だ。帝国の殲滅政策で根絶やしにされたからだ。飛べる、それはつまり城壁など意味がないという事だ。数代前の皇帝は
それを恐れて温厚なフェザリアン達を組織的に根絶やしにされた。ほぼ全て狩り尽された今なおフェザリアンは駆逐の対象。
生き残りがいたんだ。
そして今、黒の派閥のメンバーに。
理屈は分かる。
あたしでもそうする。
あたしでも……。
「デュオスっ!」
フィッツガルドさんが叫ぶ。
有翼人、デュオスを抱えて飛翔を始める。
撤退するのっ!
……ラッキー……。
ある意味助かります。
「くくく。生きていたらまた会おうぜブレトン女。……ウンブラは、そのダンマーに預けておいてやる。俺を楽しませてくれた礼にな」
デュオス、撤退。
有翼人はデュオスを抱えて上昇、戦線離脱。
残ったのはヴァルダーグ。サクリファイスとタッグを組んで圧倒するつもりなのかな?
剣を突きつけるフィッツガルドさん。
「あんたは置いてけぼりなわけ、ヴァルダーグ?」
「聖域」
「……はっ……?」
ポツリと呟いたと同時にヴァルダーグの姿は消えた。
姿がない。
もしかして瞬間移動?
そんなの反則だーっ!
さすがはモロウウィンドの英雄。
あたしが知る限り唯一フィッツガルドさんと互角に張り合える存在だ。……デュオス?
デュオスも強いけど、自身で言うように確かにヴァルダーグの方が一等上だと思う。生きた英雄、生きた伝説、世界最強の勇者だ。
さて。
「で、あとはあんただけよね」
残るのはサクリファイスだけ。デュオス&ヴァルダーグは撤退。
あたしは眼前にいた炎の精霊を屠った。
あたしの受け持ちはこれで終了。
何故だろう?
サクリファイスは召喚をやめている。
まあ確かに召喚は必要ないのだろうけど。既に建物は燃えている、どんな事をしても鎮火は出来ないだろう。
第一目的は果たしているわけだからこれ以上は必要ないのだ。
「フィッツガルドさんっ!」
「裁きの天雷っ!」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
雷の魔法が炎の精霊を一網打尽。
これで全滅。
残るはサクリファイスだけだ。
あたしは背後に、フィッツガルドさんは前面に立つ。
挟撃の体勢だ。
勝ったっ!
サクリファイスが大量の炎の精霊を召喚しても、もはや勝ち目はない。召喚した瞬間にあたしかフィッツガルドさんが切り伏せるだろうからだ。
勝ったっ!
「……ふははははははははは……」
「……?」
「殿下のお役に立てるこの瞬間に感謝を」
まだ戦意は失っていない。
まだ。
「自分はスカイリム解放戦線に所属していた。随分昔にな」
「……」
スカイリム解放戦線?
何それ?
あぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
また別の組織の名前ですかー?
どうか勘弁してください話に着いて行けませんってばー。
「……」
フィッツガルドさんは知的な輝きを表情に讃えていた。
知ってるのかその組織を。
さすがたなぁ。
「お前はスカイリム解放戦線を知っているか?」
「ええ」
ドゴォォォォォォォン。
柱がまた一本倒れる。完全に倒壊するまでに10分ちょっとだ。
サクリファイスは時間稼ぎのつもりなのか、フィッツガルドさんに延々と語り始める。
その間に斬り付けるべき?
無理。
隙がない。
「スカイリム解放戦線のそもそもの目的は我々が培ってきた文化を帝国に潰される事なく後世に伝える事だった」
「ふぅん」
「にも拘らず今はただのゲリラだ。それを批判した、結果として殺され掛けた。……リーダーであるにも関わらずだ」
「ふぅん」
「殿下には恩義がある」
「ふぅん」
「フィッツガルド・エメラルダ。お前は殿下の計画を妨げる者としてブラックリストに載っている。ここで殺すっ!」
「そうなの? 出来たらいいわね」
「我が生命を炎と代えてっ!」
「……?」
「殺すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
ごうっ!
ノルドの体は突然の炎に包まれる。
その炎は巨大な柱となり天井にまで達する。
自爆したのっ!
「……うそー……」
唖然とした。
自爆じゃない。こいつ変身しやがったよーっ!
どしんっ!
「うげっ!」
その巨大な火柱から足が出る。
炎のクマだ。
巨大な炎のクマがあたし達の前に君臨する。
どんな悪の組織の怪人だお前はーっ!
完全にパニくるあたし。
「どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどうするんですかフィッツガルドさんっ!」
「どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどうすると言われてもーっ!」
よ、よしっ!
フィッツガルドさんですら動揺してるんだもん。あたしは動揺しても恥かしくないっ!
しかしただ動揺しているだけじゃないのが彼女の凄いところだ。
すぐさま行動に移る。
「絶対零度っ!」
冷気の魔法だ。
まともに直撃するものの炎のクマはでかい。致命的の損害はなさそうだ。
一瞬身震いするだけどすぐさま動き出す。
駄目だ。
対象がでか過ぎるから冷気の魔法でも一気に片をつけるってわけには行かない。
もっとも対象がでかいから的としては容易い。
「あたしが……っ!」
「待ちなさい」
……?
待つんですか了解です。
指図はフィッツガルドさんに任せるとしよう。
それでどうするんですか?
「アリスっ!」
「はいっ!」
「リザカールの死体はまだそこらにある?」
「リザ……いえ、炭になってますけど剣だけは残ってますっ!」
ネコの死体?
見てみる。
死体は……ないね。完全に燃えてる。手に剣を持ったまま燃えている。……あの剣、頑丈みたい。まるで炎に包まれていない。
何かの魔力剣なのかな?
「そいつを持ってきてっ!」
「分かりましたっ!」
よっぽど強力な魔力剣なのだろうか。
まあいいや。
あたしは魔力剣の元に急ぐ。
炎のクマは徘徊している。あたし達になんかまるで興味がないように徘徊している。変身したら多分理性が飛ぶのだろう。
チャっ。
剣を手にしてフィッツガルドさんの元に駆け寄って手渡す。
「どうするんです?」
「伏せてて」
「えっ?」
「伏せててっ!」
「は、はいーっ!」
意味不明。
彼女は剣を左手で持ち、右手を刀身に当てる。
何するつもりだろう?
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
……っ!
うわぁびっくりしたーっ!
急に叫びだす。
何なの?
「絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度っ!」
炎のクマに、ではなく剣に冷気の魔法を叩き込む。
何の意味がある?
何の……?
……。
意味は分からない、分からないけど刀身が急に輝きだしているのは分かった。
さらに激しい声で警告。
「伏せててよアリスっ!」
「はいっ!」
バッ。
その場に伏せる。
……。
……。
……寒っ!
恐る恐る顔を上げる。
フィッツガルドさんの手にある剣が青く冷たい閃光を放っている。
吹雪だ。
これは吹雪だっ!
ゴオオオオオオオオオオオオオっ!
凍て付く嵐が室内を巻き込む。
本来ノルドに冷気は効かない。極寒地方で生きるべき進化した民族だからだ。
しかし今のサクリファイスは炎のクマ。
吹雪きは天敵だ。
そう。
変身した事が仇となった。
建物を舐める灼熱の業火諸共その炎は消えつつあった。全ての炎は掻き消え、凍りつく。
冷気の嵐の中でサクリファイスの絶叫が響き渡った。
「殿下申し訳ありませぬぅぅぅぅーっ!」
最後の命を振り絞った絶叫。
サクリファイスは。
炎のクマはこの冷気の渦の中で弱々しく小さくなり、そして最後には消えてなくなる。
変化はそれだけでは終わらない。
建物は完全に凍り付いていた。
炎の紡ぎ手サクリファイス、冷気の中に屈する。
撃破。
「はあはあ」
「だ、大丈夫ですか?」
「……無理」
フィッツガルドさんは床に引っくり返っている。
額には大粒の汗だ。
限界以上の魔力を使ったのだろうか?
サクリファイスを倒した理屈は分からないものの、あたしでは倒せなかったのは理解出来る。
……。
……そ、そう思えば危なかったなぁ。
フィッツガルドさんもブラックウッド団に突撃をしていなかったら今頃はあたしは死んでる。サクリファイスに殺されるよりも先にデュオスに殺されてい
ただろう。上には上がいる。
今後も思いあがらずに謙虚に頑張ろう。
ともかく。
ともかくブラックウッド団は壊滅した。
皆、仇は取ったよ。
「行きましょうアリス」
「はい」
炎は完全に消えている。
さっきの猛吹雪の現象でだ。理屈は不明だけど。
鎮火はしたので焼け死ぬ恐れはない。
しかし建物そのものの耐久度は既に尽きつつある。倒壊の可能性が極めて高い。もっとも炎がない分、脱出には用意だ。
その時……。
「ちくしょうっ!」
叫ぶ声。
また新手なの?
「ちくしょうっ!」
その声には聞き覚えがあった。
その声には……。
「……」
内心で溜息。
節操のないボズマーは八つ当たり的な憎しみをあたし達に向けていた。
マグリールさん。
かつて戦士ギルドのメンバーだった人だ。
彼は吼える。
「ここには仕事があったのにっ! 何で邪魔するんだよ俺には家族がいるんだっ! ちくしょう殺してやるぅーっ!」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
剣は宙を舞う。
無謀にもフィッツガルドさんに切り掛ろうとした彼の剣をあたしは跳ね飛ばした。
命を救った、とも言える。
彼女なら歯向かう者には容赦なく刃を振るうだろうからだ。
もろちん彼女の理屈の方があたしの理屈より正しい。敵として振舞う以上、相手を斬るのは普通の事だ。
だけどあたしは……。
「マグリールさん、正しく生きてください」
「……」
憎々しくあたしを睨むマグリールさん。
ブラックウッド団に鞍替えするのは思慮のない行動。彼の感性と善悪を疑う。しかし次は間違えないで欲しい。
次は……。
「いいの?」
「いいんです」
フィッツガルドさんは溜息混じりに問う。
マグリールさんは後ろも見ずに走って逃げた。見返りが欲しくて逃がすんじゃない、あたしの心に従ったまでだ。
いつか祟る?
それならそれでいい。
それならそれでね。
何かをして欲しいわけじゃないんだ、あたしはね。
それがあたしの生き方。
「帰りましょう、アリス。……とりあえずレヤウィンの魔術師ギルドにさ。脱走したんでしょうどうせ。……きつい治療が待ってるよー?」
「はぅぅぅぅぅぅぅっ!」
……ここにブラックウッド団は終わりを告げた。
……ここに終わりを……。