天使で悪魔
幼馴染
幼馴染。
それはとても心地が良い関係。
腐れ縁とも言う(笑)。
「全員防御体勢を取れっ!」
「防御体勢っ!」
ヴィラヌスが叫ぶ。
それに続いてあたしが叫ぶ。
声と同時に総勢20名の戦士達は一斉に行動を開始する。ここに素人はいない(あたしは玄人に位置するかは不明だけど)。いるのは戦士ギルド
の精鋭達ばかりだ。
総指揮の権限をヴィラヌスは与えられている。あたしはその補佐を受け持つ副官。
現在は演習中。
現在は訓練中。
しかし直に戦士ギルドにおいてここ最近ではもっとも大きい任務に就く事になる。大規模な遠征をする事になる。
ヴィラヌスが隊長、あたしが副長。
誰の任命?
これだけの精鋭を動員しての任務なわけだから叔父さんの一存では無理。
戦士ギルドマスターの命令。
つまりヴィラヌスの母親であるヴィレナ・ドントンの命令。
今回の大規模な任務が発令された際に即座にあたし達は任命された。
おば様がヴィラヌスに任務を与えたのは初めてだ。
ヴィラヌスのお兄さんであるヴィティラスが戦死した。その後、おば様は次男であるヴィラヌスを前線から遠ざけた。
母親の愛情だと理解しながらもやっぱりヴィラヌスも戦士。当然そんな状況に腐った。
でも今は?
「よし本日はこれまでっ! 解散だっ!」
ヴィラヌス活き活きしている。
まだ演習の段階だけど大規模任務はもうそこまで迫っている。
おば様の真意は分からないけど叔父さんの真意は分かる。ここでヴィラヌスに箔を付けようとしているのだ。
将来ギルドを背負うヴィラヌスの為の箔付け。
もちろんそれだけではなくヴィラヌスが任務を達成出来るという信頼もあってこそだ。
ヴィラヌス嬉しそう。
「ふふふ」
「何だよアリス」
「何でもない」
元気になって本当によかったなー☆
幼馴染として嬉しい。
「ふふふ」
幼馴染としての喜びもあるし、それとは別に今回戦士ギルドの精鋭を動員しての任務にあたしは副官として任命された。それもまた嬉しい。
期待には応えなきゃ。
それが期待された者の義務だ。
それが……。
大規模任務。
その根幹にあるのは魔術師ギルドとの提携。
錬金術に必要な材料の専属販売権をあたし達戦士ギルドは得た。おば様と叔父さんはあたしのお手柄だと誉めてくれたけど実際は異なる。
フィッツガルドさんの仲介があればこそだ。
あの人の一声がなければ多分成り立ってない。
……。
……いや。
完全にそんな流れにはならなかったと思う。
感謝♪
魔術師ギルドとの提携。
それは戦士ギルドの信頼を回復させるには絶大の効果。
事実ブラヴィルまで勢力を伸ばしていた亜人版戦士ギルドのブラックウッド団の基盤をわずかに削る事になった。いつの間にかブラヴィルに溢
れていたブラックウッド団の活動を封じる事になった。
元々任務達成率は戦士ギルドの方が高い。
親切丁寧もモットー。
そこは顧客に愛されている。
つまり魔術師ギルドとの提携で衰退の一途の戦士ギルドは再び盛り返しつつある。
メンバーも増えた。
錬金術の材料の入手は戦士にしてみればそれほどの難度ではない。
人数と資金。
それが整いつつある。
だからこその今回の大規模任務がこなせるのだ。
任務の概要。
レヤウィン近郊の見捨てられし鉱山に巣食うトロルの一掃。
かなりの数らしい。
……あたしにとっては因縁、かな。
深緑旅団が引き連れていたトロルの残党。旅団壊滅後、完全に野生化していて復興中のレヤウィンにとっての脅威の1つ。
かつては白馬騎士。
そういう意味では今回の任務は因縁。
現在戦士ギルドはコロールに本部がある。
支部はブルーマ、シェイディンハル、ブラヴィル、アンヴィル、スキングラード、クヴァッチ。
レヤウィン?
レヤウィンは閉鎖されたよ、大分前に。
ともかく本部&各支部の精鋭を集めての今回の任務。意思の疎通を兼ねて現在は演習中。直に派兵される事になる。
トロルの数はかなりのものらしい。
気を引き締めなきゃね。
……追伸。
何故かアンヴィル支部が精鋭として送り込んできた中にフォースティナさんがいました。
何故に?
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
あの人と一緒に洞穴なんか行ったらどーなるんだっ!
いつの間にか暗がりに連れ込まれて……ガクガクブルブル……。
アーザンさん、どうして彼女を推薦なんかしたのーっ!
はぅぅぅぅぅぅっ。
あー、ついでに補足。
シェイディンハル支部長バーズさんとアンヴィル支部長アーザンさん。
どちらも凄腕の戦士ではあるものの今回の任務には同行しません。……まあ、当然の配慮だよね。2人は支部長、叔父さんの次に偉い。
立場上2人が加わるとヴィラヌスが隊長、あたしが副長は成り立たない。
だって支部長だもん。
2人の方がそもそも階級が上だし、階級的に従える事が出来ない。
叔父さんの思惑としてはヴィラヌスの箔付け。
だからこそ2人は外された。
さて。
「良い天気だね」
「そうね」
「……」
戦士ギルド&魔術師ギルドの前にあるオークの大木。コロールのある意味で象徴的な大木であり、憩いの場所。
大木を囲むようにベンチがある。
あたし達はそこに座り午後の時間を過ごす。
時間は緩やかに流れてく。
時間は緩やかに……。
「良い天気だね」
「そうね」
「……」
一番目の声、あたし。
二番目の声、ダル。
三番目の声……というか終始無言で仏頂面のヴィラヌス。
あたし達は幼馴染3人衆。
昔はよく一緒に遊んだなー♪
懐かしい♪
最近はヴィラヌスがずっと腐ってたし、それに色々と立場的に皆急がしかったのでちょっと疎遠になったかな。
あたしは任務が忙しくてシロディールを飛び回ってたしダルは店番とハックダートで拉致られて忙しかった。ヴィラヌスは……まあ、1人暇過ぎた。
そんな感じですれ違いが多かった。
3人揃ったのは久し振り。
本当に久し振りだ。
「良い天気だね」
「そうね」
「……」
なのに何故話が盛り上がらない?
なんでかなー。
ヴィラヌス不機嫌一直線。
聞いてみよう。
「ねえヴィラヌス。あたしヴィラヌスを見てたらなんだか変な気分になってきたの」
「な、なんだ?」
「その年で反抗期になったの?」
「殺すぞちくしょうめっ!」
「……?」
男の子って分からない。
性別って結構壁になるんだなー。しみじみ感じる今日この頃。
その時、ダルが。腰を浮かす。
「店番があるから」
「店番?」
「そう」
「……? そんな事言ってなかったじゃないの」
「気を利かせてあげてるのよ、アリス」
「はっ?」
言っている意味が分かりません。
くすくすと笑うダル。
「じゃあね、アリス、ヴィラヌス」
「……?」
「ず、随分と気が利くじゃねぇか」
言っている意味が分かりません。
ヴィラヌスは少し頬を赤らめてる。ダルが店番なのに満更でもないみたい。……友達との時間が減るのに満更でもないの?
何故に?
男の子ってよく分からない。
ダルは立ち去り、取り残されるあたしとヴィラヌス。
「まあ店番じゃ仕方ないよね」
「そ、そうだな」
「……?」
声が上擦ってる。
「ヴィラヌスどうして緊張してるの?」
「そ、そうだな」
「体調悪いの?」
「そ、そうだな」
「体調悪いのっ! じゃあ早く休まないとっ! 任務はもうすぐなのにっ!」
「そ、そうだな」
「何を呑気に構えてるのよっ!」
「そ、そうだな」
「……ヴィラヌス?」
「そ、そうだな」
上の空の模様。
何故に?
よくは分からないけどモジモジしてる。これも男の子特有の奇妙な習慣なのだろうか?
あたしは女の子だからその習性はよく分からない。
ともかく。
ともかく上の空だ。
体調が悪いわけではなさそう。顔色は良いし。
……。
……。
……。
なるほどなー。
そうかヴィラヌスってばダルがいなくて寂しいのか。
少しからかってやろう♪
「ヴィラヌス、あたしは貴方が好き。滅茶苦茶にして♪」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ドサっ!
鼻血を垂らしてその場に引っくり返るヴィラヌス。
な、なんでーっ!
「ヴィラヌス死なないでーっ!」
「……」
「ヴィラヌスーっ!」
「……」
幼馴染との時間はゆっくりと過ぎていく。
そして。
そして任務は迫る。