天使で悪魔





深緑旅団 〜レヤウィン攻防戦〜




  まるで計算されていたように。
  まるで意図されていたように。
  全ての事柄は、琴線を一つ一つ鳴らして結末へと移行する。
  物事は収束しようとしている。
  例えそれが更なる動乱への、道標だとしても。
  願わくば。
  願わくば、それがその道標が誰かの墓標にとならない事を心から祈って。
  願わくば……。






  炎が風に乗って街を焼く。
  既に街は壊滅状態。
  街の名はレヤウィン。シロディール最南端に位置する、都市。

  「マゾーガっ!」
  「アリスっ!」
  白馬騎士であるあたしと、マゾーガ卿は互いに声を掛け合って燃える街の中を我が物顔で蹂躙している
  者達に突っ込む。

  向こうはようやく、こちらに向き直った。
  一足違いで虐殺された住人を貪っていた為、敵は対応が遅れた。あたし達の手にある刃が煌く。
  「はあっ!」
  「やあっ!」
  容赦なく振り下ろす。
  ……容赦は必要ない。向こうが人ではないから……ではない。
  敵だからだ。
  敵。
  「マゾーガ、周囲に敵は? もしくは……」
  「存在しない。少なくとも、生存者もな」
  「……そう」
  住人達を殺し、貪っているのはトロル。
  緑色の、三つ目のモンスター。両腕が異常に長く、発達している。
  後ろ足だけでも立てるものの、移動時には四足。その移動速度は軍馬とほぼ同等。
  ただのトロルなら、基本群れない。
  群れても数匹。多くても十匹。
  問題なのはその数だ。
  ただのトロルではない。別に特別な個体、というわけではなく率いる者が問題なのだ。
  深緑旅団。
  トロルを軍勢としてヴァレンウッドを恐怖に叩き込んだ、最悪な軍勢。
  「マゾーガ、オーレン卿は?」
  「分からん。完全にはぐれてしまったな」
  「そう」
  「まあ、いい。聖堂に都市軍の残存勢力が集結している。当初の予定通り合流しよう」
  「そうだね。向こうで会えるよね」
  「ああ、そうだな」
  あたしは顔を紅潮させながら、答えた。
  炎で顔が照らされているのか?
  ……。
  ……違うわね。
  最初の戦争。
  これは既に小競り合いじゃない。レヤウィンは陥落している。
  侵略者が人間ではなく、トロルではあるもののこれは既に戦争だ。そして大勢は既に決してる。
  レヤウィン都市軍は、敗北したのだ。
  「行こう、マゾーガ」
  「ああ」
  そしてあたし達は走り出した。
  聖堂目指して。
  聖堂へ……。





  事の発端は分からない。
  ただ、あたし達がロックミルク洞穴がトロルに襲撃されているという報告を受けて状況判断の為に赴いている間に
  レヤウィンは襲撃されていた。
  あたし達がいない間に。
  取って返した時、既にレヤウィンは事実上陥落していた。
  炎に包まれる都市。
  情報は錯綜していた。
  レヤウィン北のウォーターズエッジという村落に避難民達は一時的に身を寄せている。
  その際に都市軍の一部も後退し、警備に当たっているものの誰が指揮官すら不明。
  仕官クラスは分かる。
  不明、という意味は誰が指揮権を持っているか分からないという事だ。
  指揮系統が混乱している。
  わずかな情報だけを得て、あたし達白馬騎士団はレヤウィンで現在なお立て籠もっている……正確には
  炎とトロルによって閉じ込められている都市軍と住人達を救うべく急行した。
  指揮系統が混乱している。
  散発的に戦闘を繰り広げている部隊もいれば、避難民保護の名目で後退している部隊もいる。
  戦闘している部隊も計画的に連携している、わけではなく各々の判断であり戦渦はイタズラに拡大されている。
  突如レヤウィンを強襲したのは数百に及ぶトロルの群れ。
  深緑旅団。
  数名のボズマーが率いる、トロルの軍団は門扉を破ってレヤウィン市内に雪崩れ込み、蹂躙している。
  目的は不明。
  あたしはほとんど深緑旅団に対する知識がないものの、基本的に深緑旅団は小さな村落を襲うのが通例らしい。
  何故?
  金品目的ではない、トロルの腹を満たす為だけに襲う。
  都市を襲う意味が分からない。
  もちろん村落ならいい、とは絶対に思わないし言わないものの都市を襲う理由が分からない。
  トロルの腹を満たす為だけの襲撃であり、リスクが大き過ぎるのに何故都市を?
  ……。
  ともかく。
  ともかく、あたし達白馬騎士団はレヤウィンに突入した。
  目的は聖堂に立て籠もる都市軍残存勢力と合流し、避難民達とともに離脱する事。
  しかし計算が甘過ぎた。
  都市はトロルで満たされ、物の数分であたし達は分断され、仲間の居場所すら分からない。
  あたしはマゾーガと共に当初の目的地である聖堂を目指した。





  「そこっ!」
  胸板を貫いた。
  どんなにモンスターとしては中の上に位置していても、所詮は丸裸。
  厚い脂肪に覆われてはいるものの刃で斬れない事はない。
  ……グァァァァァ……。
  低い断末魔を上げて、その場に崩れるトロル。
  「ふぅ」
  マゾーガは低く呻き、額に汗を拭う。
  マゾーガも倒し終わったようだ。
  周囲にはトロルの死体がゴロゴロ。まあ、数えれない数ではない。八匹。
  倒しても倒しても湧いて来る。
  ウォーターズエッジに逃げ込んだ都市軍残党があの村の一角に駐屯地を設営して折、その際に聞いたんだけど
  城もまた陥落したらしい。
  情報が錯綜していて正確には分からないんだけど、伯爵は死んだとか逃げたとか。
  「ほんとだ、燃えてる」
  市内に入ったものの、城は遠い。
  しかし遠目でも分かる。
  城がオレンジ色に燃えている。まさかトロルの群れに城が落とされるなんて誰一人想像しなかったに違いない。
  それに……。
  「叔父さん、裏目に出たみたいだね」
  コロールにいる叔父を思い出す。
  レヤウィンでは既に仕事がないので、レヤウィン支部の戦士ギルドの面々にコロールで受けた依頼を回した。
  結果、レヤウィン支部の者達は、今この場にはいない。
  駐屯地でも既に悪口が満ちていた。
  戦士ギルドは最悪な事態が起こるのを知っていて、逃げたのではないかと。
  それに対してブラックウッド団は英雄だ。
  この街の気風として亜人は差別されていたものの、亜人版戦士ギルドであるブラックウッド団は剣を取ってトロルの
  群れに立ち向かい住人達を逃がした。
  叔父さんの行動が裏目に出てる。
  別にあたしはブラックウッド団に悪い感情は持ってない。持ってないけど、良いところ全て取られたね。
  「アリス、気にするな」
  心情を察したのか、緑色の親友はぶっきらぼうに言った。
  ぶっきらぼうではあるものの、彼女風の心がこもった言葉だと今のあたしには理解出来る。
  ……ありがとう。
  「しかし思ったより厄介だな」
  マゾーガは刃こぼれした自分の剣をしげしげと見つめ、溜息。
  確かに。
  倒しても倒しても際限なく……ってわけはないだろうけど、まともに戦ってたら剣が何本あっても足りない。
  あたしも自分の剣を見る。
  まだ、大丈夫だけど元々は自分の剣ではない。手入れもあまりよくないから戦闘中に折れるかもしれない。
  本来の剣は魔法剣である『黒水の剣』。
  帝都でブラックウォーター海賊団と激突した際に、リーダーのセレーネから奪ったものだ。
  すこぶる切れ味もよく使い勝手もよかったけど、デュオスという黒い悪魔みたいな男に切り落とされた。
  だから、デュオス&深緑旅団のトロル達によって壊滅させされた盗賊ブラックボウの鋼鉄製の剣を代用品として
  手に入れたんだけどこの激戦の中でいつまで耐えれるかが分からない。
  変に力入れて使ったらおそらく折れる。
  敵の数が圧倒的なのもあるけど、それ以前に手入れが行き届いてない。
  ……それにしても。
  ……あのデュオスという男は何者なのだろう?
  「ちっ」
  彼女は忌々しそうに舌打ちする。
  意味はすぐに分かった。
  「また来たぞアリス」
  「みたいだね。……マゾーガ、同じ色なんだから何とか戦闘回避するように説得出来ない?」
  「無茶言うなトロルは緑色は緑色でも『深緑色』なんだぞ本来相容れない間柄なのだっ!」
  「……あっ、色で相容れるかどうか決まるんだ、へー……」
  相変わらずすごい理論展開するなぁ。
  ……グルルルル……。
  値踏みするように、深緑旅団のトロル五匹があたし達の周りをうろちょろする。
  正直、食事として見られるのは不快だ。
  「行くよマゾーガっ!」
  「仕方あるまい。……制圧するとしよう」
  武器を手にすると同時に、トロル達は咆哮。
  そして……。
  『炎撃っ!』
 
 ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  炎の球が爆ぜ、トロル達を飲み込む。
  あたし達じゃない。
  あたしもマゾーガも魔法は使えない。シシリーさんか、と思ったものの違う。
  老女だ。アルトマーの老女。
  それに腰に剣を差しているノルドの女性。
  ……。
  ちなみに『炎撃』『氷撃』『雷撃』は三属性の基本魔法。
  これをベースに魔術師は魔法を開発する。
  シシリーさんの『炎の閃き』は『炎撃』を元に開発した魔法であり、根本は一緒。
  違うのは威力とか持続時間や範囲であり、見た目等はベースの魔法に依存する。以上、魔法の講習でしたぁー♪
  さて、本題に戻ろう。
  「すまない、助かった」
  「ありがとうございます」
  頭を下げてお礼。
  今のあたしならトロル五匹ぐらいなら、よっぽど妙なタイミングで襲ってこない限りは簡単に返り討ちに出来るし
  マゾーガだって
それだけの腕はある。
  むしろオークという種族の特性上、力が強いのであたしよりも容易く蹴散らせるだろう。。
  それでも数多いし面倒には違いない。万が一もある。
  素直に頭を下げた。
  「あの、あたしはアイ……」

  「アイリス・グラスフィル、そちらはマゾーガ。共に白馬騎士団員。アリスと呼ばれる貴女はブラックウッド団の
  監視の為に、そちらの自称光合成しマイナスイオンを出している貴女は敵討ちの為にレヤウィンに訪れた」

  ぞくっ。
  内心、寒気を感じた。マゾーガも同じ感じらしい。
  全てを見通すような老女の瞳。
  レヤウィンは燃えている、熱帯の気候も手伝って暑いぐらいだ。なのに寒気を感じてる。
  人の体とは不思議に出来てる。
  老女は静かに微笑んだ。
  「私の名はダゲイル。魔術師ギルドのレヤウィン支部を預かる者」
  「私はアガタ。師と共に貴女を待っていました」
  視線の先は、あたし。
  無言で手を差し出すダゲイルさん。
  「……」
  「……」
  何も言わない。握れという事だろうか?
  はじめましての握手?

  そういう人には見えないんだけどなぁ。
  しきりに周囲を警戒しているマゾーガ。当然だ、既にレヤウィンの支配権は深緑旅団にあるのだ。
  いつ何時襲われても不思議ではない。
  あたしも手を差し出し、そして……。
  ガッ。
  「痛いっ!」

  「貴様アリスに何をするっ!」
  「大事ありません。師に任せて、二人とも心を静めてください」

  ダゲイルさんは差し出したあたしの手を掴まずに、手首を掴んだのだ。いきなりだったから痛い。
  何も言わず、当の本人は無言。
  沈黙。
  沈黙。
  沈黙。
  三呼吸ほど置いてから、ダゲイルさんは口を開いた。
  「貴女は大いなる災いに身を転じる事になる」
  「えっ? 災い?」
  「貴女を包む災いは、貴女だけでは留まらない。この世界を包む災い、全ての人間の運命と命運を狂わす災い」
  「それはどういう……」

  「貴女は運命の者の傍らにてその刃となる者。刃たる貴女の持つ刃は、悪魔をも滅ぼすモノ。悪魔すら恐れるモノ」
  「……?」
  「魂を滅ぼす剣を探しなさい。魂を食らいし力を秘めた剣を」
  「……」

  意味が分からない。
  預言?
  戯言?
  いずれにせよ理解できないのは同じ。
  「運命とは絶対的なモノ。しかしその実矛盾に満ちたモノ。貴女は運命に選ばれし1人ではあるものの、今ここで
  死なないとも限らない。私は助力の為にここで待っていた。……アガタ、剣を」
  「はい」
  腰に差していた剣を、鞘ごとあたしに手渡すアガタさん。
  掴んでいた手首を離し、未来視なのか冗談なのか不明ではあるものの謎の言動多きレヤウィン支部長の老女は
  一歩下がって燃える町並みを見渡す。
  背を向けたまま語る。
  「その剣には炎の魔法をエンチャントしてあります。私の手製でそう強力でもないですが、どうぞ差し上げます」
  「えっ、その、あの」
  「くれるならもらっとけアリス。……私にはないのか?」
  「貴女は彼女の剣をもらえばいいでしょう」
  「……ちっ」
  炎の魔法の掛けられた剣を腰に差し、あたしは今まで差していた鋼鉄の剣をマゾーガに手渡した。
  マゾーガの剣は刃こぼれしているからだ。

  ゴゥゥゥゥゥゥゥっ。
  近くで建物が激しく炎上した。
  炎が風に乗り、街を舐める。街を覆う。
  トロル達が放火したとは考えられない。おそらく、深緑旅団襲撃の際に何らかの形で出火し、そして炎上を食い止める
  余裕がなかった。それがレヤウィンが燃えている理由だろう。
  風向き次第では街が灰燼に帰す可能性もある。
  しかしこれだけの大火事だ。
  例えトロルを全て蹴散らしても、消火なんて出来るだろうか?
  ……おそらくは無理……。
  「ダゲイルさん、あの、剣をありがとうございます。……マゾーガ、急ごう」
  「ああ」

  聖堂に行かなきゃ。
  聖堂に。
  別にあたし達が聖堂に行ったところで深緑旅団をどうにかできるとは思ってないけど、少なくとも微々たるものでも
  力にはなれる。そしてそれ以上に分断され行方知れずの白馬騎士達もそこに向かってるはず。
  まずは合流したかった。

  「お待ちなさい」
  ダゲイルが止める。

  「何ですか?」
  「いずれ来る災いは回避しようがありません。しかしそこに至る、そしてその結末は私の瞳にも映らない。私が知る得る
  のはただその事象が必ず起こることだけ。運命とは絶対であり絶対ではないもの。矛盾。二律背反」

  「あの、剣貰っておいてなんですけどあたし達急いで……」
  「貴女はその災いに関わる事になる。しかし私が視る貴女の未来は可能性の一つでしかないのです。いずれ運命の者の
  刃になるであろう貴女ここで死ぬ可能性だってあるのです。慎重に行動なさい。慎重に」

  「……」
  「ではこれで。アガタ、行きますよ」
  「はい」
  どこか飄々とした物腰でダゲイルさんは炎の街並みを歩き去る。
  アガタさんは丁寧に一礼し、師である彼女に続いた。

  他の魔術師ギルドのメンバーがいない、ところを見るとわざわざあたしを待っていたのだろうか?
  どこかで聞いた事があるような気がする。
  ……。
  ……ああ、そうか。

  今のが『未来視』という異名を持つ、ダゲイルさんか。
  あたしの運命。
  あたしの未来。
  あたしは運命の者……ではないらしいけど、つまり主役ではないらしいけどその脇を固める重要な役目。
  ……いやいやっ!
  主役の参謀、いや違う主役の腹心っ!
  主役が主役であるのは、あたしの助けがあってこそなのよーっ!
  「……うふ、うふふふー……」
  「……アリス、その笑いは不気味で怖いぞ……」

  バッサバッサ。
  来るべきあたしの華麗で優雅で存在感ある、未来に悦していると何かの羽ばたく音が聞える。
  思わず頭上を眺めるあたし達。

  「でかっ!」
  あのマゾーガが驚くほど、天高く飛翔する鳥は大きかった。
  燃え上がる建物から舞い上がる黒煙と炎から生じる熱により空気が澱み、陽炎がゆらゆらとしている為によくフォルム
  まで見えないけど何の鳥かは判別できないけど、とても大きい。
  上空を三回ほど旋回した後、鳥は城の方に飛んでいった。
  ……?
  ……あれ?
  あの大きな鳥、ロックミルク洞穴の上空でも飛んでなかった?
  この近辺の鳥はあんなに大きいのかな?
  かなり上空にいるはずなのに、地上のあたしたちから見ても大きい。実物はどんな大きさなのだろう?
  ……グルルル……。
  呻き声が聞える。
  既にそれが何の声であるかは、いやというほど分かっている。
  いやというほど、切り捨ててきた。
  「アリス、行くぞっ!」
  「うんっ!」
  喚声を上げて、あたし達は深緑旅団のトロルの群れに突っ込んだ。
  レヤウィン攻防戦は始まったばかりだ。









  レヤウィン城。
  既にレヤウィン伯であるマリアス・カロは秘密の抜け道から脱出し、それが直接的な原因となりレヤウィン都市軍
  の士気はまったくと言っていいほど上がらず、また結果として指揮系統が一致せず軍の連携は霧散した。
  結末。
  結末は、レヤウィン城陥落。
  厳密には城に拘る必要性がなくなった為、城を捨てて都市軍は撤退。
  深緑旅団が城を一直線に迫ってくるのが分かったからだ。
  城を餌として撤退し、決戦は後日に延ばした。
  残存戦力では恐怖もなければ打算もないトロルの軍勢には勝てず、それ以上に深緑旅団のトロル達は一糸乱れず
  連携した動きをする為に太刀打ちできないのが現状だ。
  レヤウィンの戦力は半数が戦死、残りの半数は避難民の保護などに裂かれ、あくまで戦闘を続けている部隊も散発的
  に交戦している状況でとても『連携』『一糸乱れず』、とは言えない。

  ……。
  静かな城内。
  無人となった玉座の間。

  ところどころに城内に人は残っているものの、既に息はしていないし心臓は止まっている。静かなものだ。
  全員、死んでいる。
  玉座の間にいるのは深緑旅団の関係者のみ。
  緑衣のローブの者達がここを占拠している。全部で10。
  「何故、ここに留まるのです?」
  1人が、声を掛けた。
  力関係はハッキリしている。今、声を掛けられた者は玉座に座っている。
  「何故、ここに留まるのです?」
  もう一度、声を掛けた。

  喋るのも億劫そうに、玉座の者は身じろぎをする。
  緑色のローブとフード。

  それが深緑旅団のメンバーの恰好ではあるものの、この首領はさらに徹底していた。
  フードとローブ、までは同じではあるものの眼以外は緑の布で巻いており、手には緑色の手袋。
  露出しているのは眼だけ。
  もう一度、声を掛ける。
  「ロキサーヌ様」
  「……待っているのだ」
  「待っている?」
  「……オーレン。ふふふ。あの死に損ないの老いぼれを待っているのだ。私の……」
  「……」
  「私の、精一杯の愛の証としてね」