天使で悪魔





レヤウィン監視兵の日記




  この日記はレヤウィン城内勤の、城に隣接している監視塔勤務の兵士の日記である。
  また日記は一部抜粋である。

  〜黒馬新聞〜






  『皇帝が暗殺されて二ヶ月。
  最近特に盗賊ブラックボウが活性化しつつあるように思える。
  賊だけじゃないか。
  皇帝が死に、重しが消えた為に俄かに情勢が騒がしくなってきた。各都市の領主も、また然りだ。
  皇帝亡き帝都軍と、各領主が従える都市軍。

  内紛、起きなきゃいいがな。
  ……。
  やれやれ。
  やっと外回りで雨に濡れる事もない内勤になれたのに、戦争なんてごめんだぞ。
  まあ、我らの敬愛すべき腰抜けのマリアス・カロ伯爵にそんなクソ度胸はないだろうがな』




  『ブラックウッド団が基盤を固めた。
  最近売り出し中の、亜人版戦士ギルドだ。
  料金も戦士ギルドの半額以下で、しかもこの街の住人の半分は亜人。
  連中が勢力伸ばしたのは自然の流れだな。

  落ち目の戦士ギルドの面々は仕事がなくなって荒れている。市中巡察のスティーブが今日も無銭飲食した戦士ギルド
  のメンバーを拘束し留置所に放り込んだと言ってたな。

  こりゃ時代が変わるかもな。
  ただこの街でこれ以上伸びたいのなら、亜人排斥運動第一人者の伯爵夫人に好かれなきゃな』




  『帝都から査察団が来た。
  皇帝崩御してから、初めての査察団。
  査察が終了し、引き上げて行った一団を憎々しく見ていた我らの敬愛すべき腰抜け伯爵。
  どうも治安ワースト一位となったらしいな、ここレヤウィンが。
  最近まではブラヴィルだったのに。
  まあ、しかし当然だな。
  盗賊ブラックボウが街道を堂々と歩き回ってるここレヤウィンの情勢は、普通に考えなくてもおかしいだろう。
  まっ、内勤の俺には関係ないが』




  『ちくしょう。
  アイスの奴、絶対カードでイカサマしやがった。5回も連続で勝つなんてありえるか?
  お陰で今月の小遣いがなくなっちまった。
  隣のテーブルでロドウェンが熱心に語ってやがる。仲間内では夢想の評論家と呼んでるノルドなんだが、政治論
  大好きで喋りだしたら止まらない。

  もっとも、大半は夢想でしかないんだけどな。
  今回の話題はブラックウッド団の危険性と来たもんだ。
  アルゴニアンの故郷ブラックマーシュから支援されてるとか、治安を悪化させて情勢不安を作り出す為に
  盗賊ブラックボウを作り出したとか、愚にもつかない事ばっかり喋ってやがる。

  あいつ、気付いてるのかな?
  誰もまともに聞いてないのを。
  酒の肴として、馬鹿話……失礼、戯言を楽しんでるだけなんだが……まあ本人も幸せそうだからよしとしよう。
  それにしても、アイスの奴すげぇな。

  イカサマなら、やり方教えてもらいたいものだ』



  『敬愛なる腰抜け伯爵に拍手を。
  ブラックボウ壊滅を掲げ、新たに白馬騎士団を創設するらしい。
  あの小ずるい伯爵閣下の事だから、使い捨てにするつもりなんだろうな。まあ、俺は関係ない。内勤だしな。
  大々的に公募したのに、大々的に無視されてる。
  ははは。まあこんなものだな。
  アイスとも喋ったが、いっそのことブラックウッド団に盗賊退治の全権を任せたらいいと思うがな。
  レヤウィン都市軍を普通に投入すれば勝てる。
  勝てるが、やっぱり損害も大きくなるだろうし、金も掛かる。伯爵としたら、そんな風に動くのは軽率であり手腕のなさを
  露呈するものだから軽はずみな行動に出れないのは分かる。

  だが安心してください伯爵閣下。
  誰が見ても貴方は腰抜けの無能者ですから。
  ……。
  ……この日記、世間に公表されたら俺は免職になるか?
  ……エロ本と一緒に、ベッドの下に隠すとしよう。
  この場所ならブレイズだって探し出せまい。俺って奴はもしかして天才か?』




  『喜劇だ。
  本日の晩酌の話題は、白馬騎士団だ。
  スティーブの奴、三日で潰れると明言してるし、賭けにもなってる。
  俺は五日で潰れるに、金貨三十枚を賭けた。
  応募して来たのは全部で6名。
  1人は元軍人で、将軍職に就いていた人物だが既に老いぼれのボズマー。何の役に立つ?
  経歴的にまともなのはそいつだけで、後はデタラメ。
  アルケイン大学の女に没落貴族とその用心棒、最近城に居座ってたオーク女に駆け出し冒険者風のダンマー女。

  こいつらに何が出来る?
  まったく、お笑いだな』




  『今日、英雄が死んだ。
  アダマス・フィリダ。元帝都軍総司令官。

  闇の一党ダークブラザーフッド壊滅を掲げていた、ご苦労な爺さんが死んだ。
  よく知らないが失態を犯して免職、治安回復の名目で体よくレヤウィンに左遷&出向させられた小うるさい偏屈爺は、
  結局闇の一党の暗殺者に殺されちまった。
  あれだな、君子危うきに近寄らず、だな。
  敬愛なる小心者伯爵は、別に犯人逮捕を明言しなかったし、警備隊のシフトもいつもと同じ。
  英雄も死ねばただの屍ってわけだ。
  ……。
  追伸。
  五日経ったが白馬騎士団は潰れてない。くそ、母ちゃんに泣きついて小遣い来月分前借したのにパァだ。
  ちくしょう。白馬騎士団め、覚えてろっ!』



  『快挙だっ!
  盗賊ブラックボウ首領のブラック・ブルーゴが死んだ。白馬騎士団の快挙だ。
  アイレイドの遺跡であるテリーブにノコノコと現れたあの忌々しいオークを白馬騎士団の連中が討ち取った。
  俺が言ったとおり、あいつらはやる時はやる精鋭集団だ。
  あのオークが死ねば、情勢は変わる。
  ブラックボウは求心力を失うし、その傘下の盗賊団は自立し、独立し、いずれはブラックボウと敵対するだろう。
  悪党同士仲良く殺し合えばいい。
  ……。
  ただ問題なのは深緑旅団だな。
  トロルどもを軍勢として従えるボズマーの一派。

  ヴァレンウッドの連中は対処しきれない連中への対策として、罪科の抹消をし、その引き換えに深緑旅団を
  ヴァレンウッドから追い出した。正確には丁重に辞去願ったわけだ。
  もっとも深緑旅団は従えているトロルの軍勢の餌として集落を襲う事はあってもレヤウィンのような城壁を備えた
  大都市は襲わない。目的は侵略ではないからだ。無抵抗な集落を狙う方が楽だしな。
  だから城に内勤の俺は絶対に安全なわけだ。
  白馬騎士団よ。
  俺はお前達を信じてるから、全員屍になってでも深緑旅団と刺し違えてくれ』




  『伯爵夫人がコロールに里帰りしてるから、偉大な低俗野郎の伯爵閣下は意気消沈してるらしい。
  静かでいいと思うがな、あの女がいないと。
  いない、と言えば白馬騎士団の面々もレヤウィンを離れた。
  最近トレジャーハンターの仕事も始めたらしい。
  ブルーマに行ってるんだっけか?
  しかしまあ、好きにしたらいいさ。偉大なる邸脳野郎の伯爵閣下は、レヤウィン周辺の浄化作戦が既に終了に向いつつ
  あるので白馬騎士団を解散させようとしているらしいしな。

  まっ、ブラックボウもほぼ壊滅状態で、ロックミルク洞穴に立て籠もってるのを一掃するだけだし、無用の長物だろう。
  騎士なんて必要ない。俺達衛兵が治安を護ってるんだからな』




  『特に何もない。
  俺達衛兵の働きにより、既にレヤウィンの治安はほぼ回復された。
  白馬騎士団?
  あんなの、もう潰れるの待つだけの集団だ。
  存在理由がそもそもなくなりつつあるからな。ブラックボウが潰れれば、連中も必要ないわけだ。
  アイスとスティーブが巡察からさっき帰ってきたが、妙な事言ってたな。
  トロルがうろついてるとか何とか。
  目撃情報が最近増えてるらしい。別に洞窟やら人里離れた山奥にいるモンスターなわけで人前に出て来てもそれほど
  珍しいわけじゃない。

  トロル怖くて軍隊やれるか』



  『スティーブが緑が動いてると騒いでいる。
  アイスは俺に監視塔に上がるように叫んでる。
  うるさい奴らだ。夜勤が終わって今から寝ようとしてるのに……あいつら、新手の嫌がらせか?
  緑って何だ?』




  『門が破られたっ!
  たった三十分で門は破られ、緑色の軍勢が街になだれ込んできた。トロルどもの群れ。少なくとも二百はいるぞっ!
  深緑旅団だっ!
  どうしてこんな大都市を襲ってきた?
  慎ましく無抵抗な村々を襲っていればいいじゃないかっ!
  やっと出世するのにっ!
  ちくしょうっ!』




  『街の西側が炎に包まれているのが監視塔から見える。
  文官のマーセルが言ってたんだが、ブラックウッド団が率先して街の住人の避難させているらしい。
  鎧が日々の普段着です、と言わんばかりに完全武装してトロルどもを蹴散らしてる。
  何て勇敢な連中なんだっ!
  魔術師ギルドだって協力してるのに、戦士ギルドは何してる?
  マーセル曰く、仕事でレヤウィンを離れているらしい。
  ふざけるなっ!
  まさか連中、ここが襲われるの知ってて逃げたんじゃないだろうな?
  ブラックウッド団、万歳だな』




  『状況が変化した。
  ブラックウッド団は逃げ遅れた住民を護りながら、後退していく。
  その隙に深緑旅団はレヤウィン城付近の広場にまで達した。
  ……やばくないか?
  スティーブは白馬騎士団を呼びに行ったっきり戻ってこない。良い奴だったけど、死んだか?
  借りてた金貨百枚はなかった事にしておいてくれ。
  迷わず成仏しろよ。
  それにしても白馬騎士団なんか今更役に立つもんか。たった六人で何が出来る?』




  『偉大で負け犬のマリアス・カロ伯爵に敬礼っ!
  ……ありえない。
  ありえないっ!
  あの腰抜け、抜け道から逃げやがったっ!
  文官のマーセルが謁見しに行ったら、玉座が空だったそうだ。私室も、もぬけの殻。

  この先どうなる?
  ちくしょう。こんな事なら親父に言われたとおりに漁師を継げばよかった。

  少なくとも漁師なら、スローターフィッシュに齧られる事はあってもトロルに食われる事はないからな。
  深緑旅団が最終防衛線に到達する』




  『わずか数分で最終防衛線が突破されたっ!
  完全に城に到達するぞっ!
  俄かに絶対安全だと思っていた場所が、一番物騒な場所になりつつある。
  今のところ残った兵力を集結させて、何とか食い止めてるけど駄目だろう勢い的にっ!

  ここに至ると俺も戦闘に参加するんだろうな。
  願わくば、トロルどもが街の連中を食って腹一杯でありますように。
  そしたら殺されない可能性だって出て来る』




  『シーリア・ドラニコス隊長の主張が、今後の方針に決定された。
  深緑旅団の猛攻は防ぎ切れず、既にレヤウィンは火の海だし都市軍も壊滅的だ。
  伯爵が逃げたからな。
  それがいつの間にか各隊長達に伝わり、兵士達にも伝わっちまった。
  どんなにボケでもトップは必要だ。
  既にトップが真っ先に逃げちまったから、指揮系統はバラバラだし優先順位も一致しない。戦える状態じゃない。
  ともかく、我らがアイドルである聡明で美しいシーリア隊長は城の放棄を提言した。
  どういうわけか深緑旅団は餌の人間食うより、城に一直線に向ってるのは監視塔から見てたから分かった。

  城を放棄し、極力戦闘を回避し、民衆を先導&誘導しつつ撤退する。
  城の奪還は後日。
  生き延びてから考えようというのが、基本方針。そりゃそうだ。城を枕に討死は流行らないし、英断だ。
  急いで撤退準備をしなきゃな。
  この日記、騒動が終わったら黒馬新聞にでも持ち込むとしよう。高く売れるかもしれないしな』