天使で悪魔





開かれた秘境の扉(前編)





  野営地。
  焚き火を囲み、談笑に耽る一団。
  アウトドアに長けた者達ではあるものの、それを愛するという善良な者達ではない。
  一度街の外を出れば弱肉強食の、美しくも残酷な世界が広がっている。
  だから。
  だから武装していてもおかしくないし、むしろ武器の類を何も持っていない方がどうかしている。
  人数は十名。
  男が六人、女が四人。
  腰には誰もが剣を差し、焚き火を囲み憩いの夜を楽しんでいるものの傍らには斧や大槌、そして黒い弓。
  この一帯で黒い弓といえば誰もが恐れる。
  そう、ここにいるのは盗賊ブラックボウの面々。
  近隣最強であり、最悪の盗賊団。
  出所不明の潤沢な経済力を背景に都市軍以上の武装を誇り、レヤウィン周辺の無数の盗賊団を傘下にして強大な
  兵力を有していた。
  しかしそれは既に終わりを告げた。
  新設された白馬騎士団に首領ブラック・ブルーゴが倒された事を契機に、傘下の盗賊団が相次いで離反、独立。
  新たなるトップの座を目指し、盗賊達は抗争を始める。
  その隙を突いて白馬騎士団は活躍し、それに鼓舞されたレヤウィン都市軍も一掃作戦を展開。
  ほぼ大半の盗賊団は壊滅し、ブラックボウももはや落日だ。
  「炎の閃きっ!」
  「氷撃っ!」
  突然、夜の闇を切り裂くように野営地に炎と氷が弾ける。
  魔法だ。
  「ふ、不意打ち……っ!」
  賊の一人が叫ぶ。
  しかし言葉は最後まで紡げない。吸い込まれるように、その男の額に矢が刺さった。
  怖気づくブラックボウ。
  「炎の閃きっ!」
  「氷撃っ!」
  士気の低下を狙い、駄目押しでもう一度放たれる。
  この魔法での被害者は全員、ではあるものの絶命したのは一人だけ。威力そのものは致命傷ではないものの、魔法は
  ある意味で恐怖。
  虚空に炎や氷、電撃や召喚など、魔法を使えない者にしてみれば恐怖でしかない。
  ともかく、被害は今のところ二人。
  「ゆ、弓を構えろぉっ!」
  リーダー格なのか、ボズマーの女性が悲鳴に似た声を張り上げる。
  ほぼ総崩れの状態。
  その時、あたし達の騎士団長が声を張り上げた。
  「白馬騎士団、突撃ぃーっ!」
  『おうっ!』
  白刃を構え、あたし達白馬騎士団は喚声を上げて突っ込む。
  ひゅん。
  騎士団長のオーレン卿の放った矢が、あたし達の先導役。あたし達を追い越し、敵の女性リーダーの脳を貫通した。
  「さあ、行きましょうかハニー♪」
  ぽろろーん。
  レノス卿が竪琴を奏でながら歌うように、声を出す。
  「まったく、厄介な性格ね」
  溜息交じりのシシリー卿。
  よく分からないけど『二人は出来た♪』らしい。
  『白い稲妻っ!』
  バチバチバチィィィィィィィィィィっ!
  二人の手から放たれる、稲妻。それは盗賊二人を絡め取り、その心臓の鼓動を掻き消す。
  いきなり半数となったブラックボウに、ヴァルトゥス卿とマゾーガ卿が切り込む。
  ノルドとオーク。
  純戦士種族の二人の攻撃は重く、受けたら最後即死の状態だ。
  「……」
  無言のまま相手の頭蓋を砕くヴァトルゥス卿。
  寡黙なの性格の人だ。
  「甘いっ!」
  ガッ。
  騎士団随一の盾の使い手(正確には他の誰も盾は使わない)でもあるマゾーガ卿は相手の放つ矢を見事に受け止め、再度
  矢を放とうとする前に間合いを詰めて相手の腹を切り裂いた。絶命。
  「ひぃぃぃぃっ!」
  「退けぇっ!」
  「ロックミルク洞穴に逃げ……っ!」
  逃げよう。
  そこまで言う事も出来ずに、倒れ伏す。茂みに伏せて狙撃する、弓矢の達人ほど恐ろしい存在はない。
  オーレン卿はさらにもう一人を討ち倒す。
  「待ちなさい」
  「くぅっ!」
  独りぼっちになって、何としても生き延びようとする最後の1人をあたしが立ち塞がる。
  「降伏しなさい」
  そう言いながらも剣を抜くあたし。
  相手の体力を奪い自分の物にする、魔法剣である『黒水の剣』。
  ここ最近の修羅場から、向こうが懇願した時でも剣は収めない方がいいぐらいの配慮があたしには今、ある。
  向こうに慈悲は通じない。
  降伏しても監獄に叩き込まれる、だから向こうは相手をなんとしてでも殺して逃げようとする。
  「わ、分かった降伏する」
  剣を捨て、両手を上げるカジート。そのままその手を頭の後ろに組んだ。
  「へへへ、降参だ」
  「……」
  あたしが拘束しようと近づく。
  すると突然、光る刀身をあたしに向って繰り出した。短剣だ。おそらく、背にでも仕込んでいたのだろう。
  黒水の剣を掬い上げるように一閃。
  ぎゃあ、と短く叫びながら落ちた右手首に眼もくれずに逃げようとする。
  しかしそれは叶わない。
  後頭部に矢を生やしたまま、そのカジートは息絶えた。
  自分が死んだ事も分からないままに。
  「終了じゃな」
  ぽつりと、オーレン卿が呟いた。
  凄惨な殺し合いは終わった。終わりが近づいている。盗賊掃討は、最終段階に。
  残るはブラックボウの本拠地『ロックミルク洞穴』のみ。
  「大勝利ですね」
  あたし、アイリス・グラスフィルはこのかけがえのない仲間達となら、どんな障害でも乗り越えれると確信していた。
  ……終わりが近づいている事も気付かずに。
  ……騎士団の終わりが……。






  「あー、頭が痛いぃー」
  白馬山荘の自分のベッドの上で、あたしはズキズキと痛む頭を押さえながら、再びベッドに沈んだ。
  駄目。立てない。というか立ちたくない。
  飲み過ぎだ。
  二日酔いだ。
  「アリスっ!」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! マゾーガ、お願いだから声、そんなに大きな声は止めてぇー」
  「何でっ!」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「理由を述べよっ!」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「さあてっ! 水でもっ! 飲んでくるかなっ! 喉っ! かっ! わっ! いっ! たっ! しぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  「何遊んでるの、あんた達?」
  難しそうな本を読みながら、興味なさそうにシシリーさんは呟いた。
  あたしは飲み過ぎ。
  あたしは二日酔い。

  昨晩、激戦を演じながらも大勝利を収めたお祝いに宴会したのがまずかった。
  ……いえ、宴会はいいのよ。悪くない。命の潤いに、必要よね。
  ただヴァルトゥスさんと飲み比べしたのがまずかった。
  向こうは、世間一般的な偏見から言わせて貰うと『歩く酒樽』なわけ。酒飲みの種族だから、勝てるわけがない。
  向きになったのがまずかったなぁ。
  あぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「アリスっ! 頭っ! 痛いのっ! かぁーっ!」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「心配っ! だなっ! お前はっ! 私の真の友っ! 何でも言ってくれよ、あっははははははははっ!」
  「お願いその口を糸で縫わせてぇーっ!」
  「おいおい物騒な奴だなぁーっ! さーてっ! 発声練習でもしようかなぁーっ!」
  「……お願い勘弁してくださいマゾーガ卿お慈悲をー……」
  「ふはははははははっ! 土下座したら考えてやるけどなぁーっ!」
  「……お、鬼ぃー……」
  わざとだ。マゾーガ絶対わざとだぁー。
  真の友。
  そう、あたし達は真の友になり、互いに安心して背中を預けれる仲になったしマゾーガのその飾らない性格も剛毅な生き方
  も好きだけど変に子供っぽいところがあるのも事実。

  こういう嫌がらせ、意外に得意なお人。
  「マゾーガあたしは頭が……ああ、痛いー……」
  自分の声に、自滅。
  はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。

  「あんた達、馬鹿?」
  冷めた言い方のシシリーさん。
  た、確かに傍から見たら馬鹿かも。人事ならあたしも笑うけど……自分の事だから笑えないー。
  そもそも笑うなんてとんでもないっ!

  自分の笑い声でも脳に響くんだから。まさに今、人生最大のピーンチっ!
  いえ冗談じゃなくて。
  がちゃり。
  「おおシシリー、今貴女の愛の狩人が帰ったよ。僕の弓矢がロックオン♪」
  ぽろろーん。
  「馬鹿じゃないの?」

  心底軽蔑したような口調ではあるものの目は笑っている。
  ふぅん。
  シシリーさんも最初と変わったなぁ。やっぱり人と人の関係って、時間も必要なんだなぁ。
  ……まあ。
  「……」
  無言のヴァルトゥスさん。
  この人と談笑した事、まだない。というか向こうは笑わないし喋らない。まあ、今はありがたいけど。
  「ところでレノス、何か歌って」
  えっ!
  「おお、私も聞きたい。真の友アリスを称える歌を頼む」
  ええっ!
  「レノス様、是非」
  えええーっ!
  「分かりました。ではジャンルはロックで行くとしましょうか」
  ……た、竪琴でロックは無理じゃあ……。
  こ、こいつらあたしが二日酔いなの知っててこういう残酷な行為に出るわけかっ!
  レノスさんは竪琴を……。
  がちゃり。
  「おお皆揃っておるか。仕事じゃ仕事」
  レノス卿、白馬山荘に帰還。
  騎士団長を前に、しかも仕事を前にしてあたしの嫌がらせなんて続行出来るはずがない。
  た、助かったーっ!
  ……。
  ……ああ、どうせ仕事か。二日酔いのまま仕事か。
  う、歌の方がまだマシだったこんな状態で働きたくないよぉー。
  あぅぅぅぅぅぅっ。

  椅子に座るオーレン卿。立っていた者達も手近な椅子に腰を下ろす。あたしもベッドから起き上がり……。
  「おチビちゃんはそのままでいい。二日酔いじゃろ?」
  「すいません」
  「なあにっ! 案ずるなっ! ワシはおチビちゃんの味方じゃっ!」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  ……こんな奴らばっか。
  ……あたしが思い描いていた騎士団像とは随分違うなぁ。
  ……現実と理想のギャップ?
  「さて」
  そう言い、言葉を区切る。
  厳粛な空気が作り出された。さすがヴァレンウッドでは白馬将軍と呼ばれた歴戦の軍人。
  さすがと言う他ない。
  「今回の任務は……まあ、依頼じゃな。ブルーマ伯のご依頼じゃ」
  ブルーマ伯。
  ナリナ・カーヴェイン女伯爵の事を指す。
  女なのに執政を、は男女差別。

  コロール、アンヴィルでも伯爵夫人が執政を取り仕切っている。
  「オーレン卿」
  シシリーさんが挙手をして、発言する。
  「なんじゃな」
  「どうしてブルーマまで出張する必要が?」
  もっともな発言。
  確かに治安維持部隊でしかない白馬騎士団は、ブラックボウが壊滅してしまえばお払い箱。何とか今後の道を模索
  しているオーレンさんは魔術師ギルドとも繋がりを持つべく前回『ギャリダンの涙』の探索を行った。
  ブルーマ伯からの依頼。
  どういう経緯で、は至極当然の疑問。あたしだってそうだ
  「実は……」

  オーレン卿自身、あまり納得していない様子。
  どんな依頼なんだろう?

  「実は先程、ブルーマ伯の使いを称するトルガンという執事が来ての。是非とも力を貸して欲しいと言うのじゃよ」
  「トルガン? ……ああ、彼ですか」
  ぽろろーん。
  竪琴を奏でるのは没落貴族のレノスさん。
  各地の領主達とも繋がりがあるようで、その領主達の手足とも言うべき執事にも精通しているらしい。
  つまりトルガンは、本当のブルーマ伯の執事。
  それで肝心の依頼の内容は?
  言い難そうなオーレン卿。
  「実は、ドラコニア狂石を手に入れて欲しいという依頼でな」
  ドラコニア狂石?
  何それ?
  「確かアカヴィリの遺産、でしたわね」
  さすが知識の宝庫であるアルケイン大学出身のシシリー卿。
  羨望と感嘆の視線を送るレノスさんに、多少はにかみながら優しい視線を返した。
  ……仲良いんだなぁ。
  その時、マゾーガが疑問をぶつける。
  「何故我々にそんな依頼が回ってくる?」
  「前回のギャリダンの涙探索の結果じゃな。どうも……言い難いのじゃが世間的に我々はトレジャーハンターの類と
  思われておるらしい。前回の流れでのぅ」
  『……』
  一同沈黙。
  そ、そうか前回の依頼でそんな風な流れになっちゃったのか。
  治安維持の為の騎士団なのにぃー。
  「つ、ついでに言うとの。既に次の依頼の予約も入っておる。ウンバカノが……」
  「アイレイド遺産のオタクですわね」
  ウンバカノはあたしも知ってる。
  大富豪の、アイレイドマニアで惜しげもなく大金をつぎ込んでるらしい。
  トレジャーハンター集団白馬騎士団。
  ……まあ、人様の役に立ててればそれはそれでいいんだろうけど……やっぱり何か違うよなぁ……。
  「ともかく、仕事は仕事じゃ。皆、ブルーマに行くぞ。せーの……」
  あたしを取り囲む面々。
  ま、まさか。
  「白馬騎士団出撃じゃあーっ!」
  『おおぉーっ!』
  パタリ。
  その場に倒れて悶絶。今回の教訓。
  ……酒は飲んでも飲まれるなっ!
  はぅぅぅぅぅぅっ。






  レヤウィンを離れるに当たり、レヤウィン領主であるマリアス・カロ伯爵には既に了解を得たらしい。
  そうよね。
  白馬騎士団は総勢6名の、小隊規模の少数精鋭。
  それに強権は持たない。
  伯爵は人使いの荒い、というよりは利用するのが上手な策士という噂もある。
  おそらくブラックボウ壊滅の暁には、白馬騎士団は潰されるだろう。
  だから。
  だから、オーレンさんは自活の道を模索し、他の組織との繋がり……ああ、そういう言い方すると少し策謀臭い感じが
  するから他の組織との交流を持とうとしている、と言い直そう。

  その結果が、今回のブルーマ行きになったわけだけど。
  でもそれならそれでいい。
  あたしはこの心強い仲間を誇りに思ってる。
  あたしは誇りに……。








  ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  雪化粧を施された、北方都市ブルーマ。北の要衝として成り立つ、重要拠点。
  ……昔はね。
  アカヴィリ、というのはかつて軍事侵攻して来た者達と名称であり、ブルーマはまだ統一される以前の帝国の北の
  要衝としての機能を求められた都市。

  そういう歴史の為にブルーマ伯は代々、帝国の一等領主として崇められている。
  確か『ベイル峠での戦い』だったっけ?
  「わわわわわわわわわわわわわわわわわ我々白馬騎士団、伯爵に拝謁したいのじゃが……」
  「お待ちしてました。どうぞこちらに」
  ブルーマの城に来た時、誰もが冷凍一歩手前になっていた。
  あたし?
  あたしは寒いの平気だなぁ。
  ダンマーは別に寒冷地帯仕様のモビルスーツ……じゃない、種族ではない。つまりあたしの個人的な体質だね。

  ノルドのヴァトルゥス卿も寒さには強い。
  彼は元々北方種族。
  ブルーマの気候は、故郷の環境に近い。雪国は、彼の故郷も同然だ。
  「だらしないなぁ、皆」
  「……」

  寡黙に、頷くヴァトルゥスさん。
  冷気が気持ちいい。
  頭の中がすぅっとなる。レヤウィンからブルーマまでの行程三日間。最初は二日酔いで気分悪く、皆にからかわれ
  たけどブルーマに近づくにつれてあたしの方が優勢に。だらしないなぁ、この程度の寒さでさぁー♪

  こちらです、兵士があたし達を誘導する。
  アイレイド遺産の第一人者……というかマニアは帝都に住む大富豪のウンバカノ。
  アカヴィリ遺産の第一人者でコレクターなのはブルーマ伯。
  街の反応はかなり冷たい。
  税金を自分の趣味につぎ込んでるとか、陰口も多い。

  あたしはこの街の出身じゃないし住人でもないけど、やっぱりそれはどうかと思う。
  依頼された身だけど、税金の使い方間違ってるなぁ。

  「ここでお待ちを」
  案内されたのは謁見の間。
  「ご苦労。待たせてもらおうかの」
  「では」
  鷹揚に受け答えするオーレン卿。
  倣岸に、でもなく諂うでもない。さすがは元将軍、威厳が違う。兵士が去ると、あたし達は周囲を見渡した。
  「……すごいわね」
  シシリーさんは目を丸くした。
  別に武器オタクでもないとは思うけど……ここにあるのは、全部アカヴィリの遺産。アカヴィリの武具。
  シロディールに対する侵略者アカヴィリの遺産は、製造法が不明とされている。
  つまり量産できない。
  現在この類の武器を使っている唯一のなのが皇帝直属の親衛隊であり諜報機関のブレイズのみ。
  ……だと思う。
  ともかく簡単にお目に見れる代物ではない。

  「随分と掻き集めたものですね」
  ぽろろーん。
  「御意」
  アカヴィリの刀の切れ味は最高と定評がある。
  細身の、反った形状のこの独特のフォルムの剣を持つ事は剣士にとってのある意味での夢。
  あたしもだ。
  美しいなぁ、この刀身。
  「……アリス、これは儲けモノじゃないか」

  マゾーガの言葉。
  言葉ほど、淡々とはしていないその表情。まるで甘いお菓子を貰って喜ぶ、無邪気な子供のよう。
  確かにの。オーレン卿も頷く。
  向かう先はアカヴィリの遺産が唸るほどにある。
  ……おそらくは。
  でもその可能性は高い。アカヴィリの刀、ほ、欲しいかもぉーっ!

  「珍しい魔法の品もありそうね」
  「シシリー♪ 君に似合う宝石の類もあるよきっと。……まだ見ぬ秘宝に身を彩るその容姿は女神も霞む♪」
  ぽろろーん。
  「……無骨で鋭利な武器、楽しみだな」
  シシリー、レノス、ヴァルトゥスも興味が湧いてきたらしい。
  果然やる気が出てきたぁーっ!
  「伯爵様がいらっしゃいます。粗相のないように」















  その頃、レヤウィン北の洞穴。ロックミルク洞穴。
  遠巻きに、異様なその会合を見つめている盗賊ブラックボウの面々。
  黒衣のローブの二人。
  緑衣のローブの五人。
  「ここ最近、この近辺は物騒でな。テリーブ遺跡での会合が今日にまで延びたのは、悪かったな」
  黒衣の一人はデュオス。
  もう1人はデュオスを『若』と呼ぶ、部下のヴァルダーグ。
  デュオスは横柄に続ける。
  「こんな面倒な話はさっさと終わらせようや。……これでも俺も、忙しい身でね」
  「……私もですよ、デュオス殿」
  緑衣のローブの1人がそう答える。立ち位置から見て、緑衣の集団の頭だ。
  喋り方からして女性。
  しかしその声は異質で、異音。ノイズの混ざったような聞き取りづらい、老婆のようで、人間ではないような。
  異質な声。
  「……結構な連中を飼っているのですね」
  ブラックボウの面々を見る。
  肩を竦めるデュオス。
  「こいつらは俺の友達のトカゲの親玉の飼い犬でね。目的は治安悪化。……まあ、どうでもいいさ。どの道勢力激減
  の落ち目集団だ。そこでロキサーヌ、トカゲの親玉のお友達は恥知らずにも君達とお近づきになろうというわけさ」
  「……友達は選んだ方がいい」
  「くくく。まあ、そうだな。それで……」
  どうする?
  そう、促す。ロキサーヌ、と呼ばれた女性の素顔は見えない。目深に被ったフード、口元はマフラーで覆っている。
  深緑の旅団の首領ロキサーヌ。
  「……私のトロルどもで治安悪化?」
  「そうだ」
  「……興味ない。交渉は決裂ね」
  「そうでもないさ。俺は死霊術師の親玉とも繋がっていてね。君の望む文献、手配してもいい」
  「……」
  動きを止めるロキサーヌ。
  マフラーの下でにぃぃぃっ、と笑っている。
  「……いいでしょう。手を組みましょう、貴方と」
  「俺と? ああ、違う違う。俺は仲介役だ。だかまあ、結局のところ手を組むんだからな。それでいい」
  「……いつ手に入りますか?」
  「ふむ、正確に分からんな。またここで会おう。ヴァルダーグを使いに行かせる」
  「……結構。それで、貴方は何の組織ですか?」
  「何?」
  「……好奇心ですよ。数多の組織と繋がる貴方。よほどの才覚。自前の組織も持っているだろうと思いましてね」
  「好奇心は身を滅ぼすぞ?」
  「……これは手厳しい」
  「はっはははははっ」
  ……レヤウィンに忍び寄る悪意は次第に近づき……。