天使で悪魔





神々が苦しめる者




  この世界には数多の神々がいる。
  九大神、魔王、闇の神。
  全てを総称して神々。人外の、超越した力を持つ彼らは総じて神と呼ばれる。
  九大神は基本的に、世界に干渉しない。
  ……というか、干渉できない。
  対して魔王達は違う。
  世間的にはタムリエルとオブリビオンの間には魔力障壁があり、双方干渉できない事になっているものの、それはあくまで
  理屈でしかなく実際にはちょくちょくと干渉し合っているし、魔王達も遊び程度にちょっかいを出している。

  魔王の遺物。
  それが、今回の騒動の発端だった。





  ただの街の巡回、のはずだった。
  いらないお節介。
  ……はあ、お節介なんてするもんじゃないなぁ。
  「ただいま戻りましたぁー」
  がちゃり。
  レヤウィンから北にある、レヤウィンとブラヴィルの中間点にある白馬騎士団の拠点『白馬山荘』。
  お世辞にも綺麗とは言えない。
  それは、いい。
  あたしは巡回を終えて戻ってきた。
  ……正確には、あたし達。
  丁度食事時だった。マゾーガ卿はまだ街道の見回りから帰ってきていないようだ。
  「うっ!」
  「臭いっ!」
  「……最悪な臭いね」
  「腐った臭いじゃのぅ」

  テーブルを囲んで食事をしていたヴァトルゥス、レノス、シシリー、オーレンの四名は顔をしかめた。
  そりゃそうよね。
  あたしは一本の杖を背負い、異形の者達を従えている。
  臭いの根本は、その異形の者達だ。
  「……おチビちゃん、そのお友達は誰じゃな? 悪いが騎士団希望なら、お断りじゃぞ?」
  「じょ、冗談やめてくださいよー」
  はぁ。
  余計なお世話が招いた、人外の存在。……余計な事はしないに限るのかもー。
  でもあたしは馬鹿みたいに人の良い英雄志望。
  ……現実と理想のギャップって、すごい。
  はぅぅぅぅぅぅっ。

  「ふぅん。スキャンプ従えるなんてね。貴女、魔法使えたの?」
  席を立ち、興味津々とあたしと異形の悪魔達を魅入りシシリーさん。
  スキャンプ。
  オブリビオンの悪魔の中でも最下級の、小悪魔。
  炎の球を投げつけてくる、ただの雑魚。
  悪魔ではあるものの、実際問題ゴブリンと大差ない能力。
  ……あー、ゴブリンは意外に進化に富んだ、それでいてバリエーションも多いので実際問題のところゴブリンより劣るかも
  しれない。ゴブリンウォーロードとなるとオブリの中級悪魔とも張り合えるし。
  さて。
  「あたしは魔法使えませんよ」
  「へぇ、それじゃあこの杖? ……ふぅん、この杖は……確か文献で……」
  自分の私物の中から一冊の書物を取り出し熱心に調べだす。
  普段は冷静冷徹無関心なシシリーさんではあるものの、魔法関連となると熱を帯びた表情に早変わり。こういう点は世間の
  一般的な魔術師像と大差ない。
  この杖に関してあたしも何の予備知識はない。
  調べてもらおう。
  ぽろろーん。
  「時にダンマーレディ」
  ……ダンマーレディーって何?
  ぽろろーん。
  竪琴を掻き鳴らしながらレノスさんはあたしを興味深くじろじろ見ている。
  まあ、興味深いし普通にはない光景でしょうね。
  「何故こんな状況に?」
  「話せば長いんですよ話せばー」
  「じゃあいいや」
  ぽろろーん。
  聞けよおいこの没落腑抜けごく潰しの貴族さんよぉーっ!
  ……と言いたいっ!
  叫びたいっ!

  な、なんというジレンマ。あたしはただ無言で、思慮深く微笑む。
  にこぉー♪
  ……。
  ああ、叫びたいなぁ……で、でもそうしたらあたしの清く正しいダンマー像が崩れるもんなぁー。
  あぅぅぅぅぅっ。
  「それでおチビちゃん、このスキャンプを従えて何遊んでるんじゃ?」
  「遊んでいるわけじゃあ……」
  フーフーと鼻息の荒いスキャンプ四匹。
  何するでもなく、周囲をキョロキョロし勝手にテーブルの食べ物をつまみ、要は何の害意も待たずにそこに存在してる。
  命令は受け付けない。
  ただ、あたしの側を離れない。
  ……邪魔なんだよなぁ。
  「へぇっ!」
  シシリーさんが素っ頓狂な声を上げた。
  感嘆と驚愕に満ちている。

  「その杖、エヴァースキャンプの杖なのね。驚いた、それ伝説級の杖よ。へぇーっ!」
  熱の帯びた瞳で背に背負った杖に魅入る。
  ……それぐらいあたしにも分かる。
  ……ああ、杖の名前は今知ったんだけど、この杖が全ての元凶なのだ。この杖がスキャンプを自動召喚しているのだ。
  杖を捨てればいい?
  それが出来りゃ苦労しないわよ。
  「シシリーさん、これ呪いの杖ですよね?」
  「ええ。そうですね」
  書物を手にしながら丹念に調べる。かと言って、杖に手を触れるような事はしない。
  この杖は手にした者に取り付く性質を持っている。
  ……何故知ってるかって?
  ……あたしがその犠牲者だからよっ!

  あぅぅぅぅぅっ。
  「あの、この杖何とかなりません?」
  「本によりますと……」
  シシリーさんの話では。
  この杖は、オブリビオンの魔王の1人シェオゴラスの創造したモノらしい。
  オブリビオン16体の魔王。
  その中でタムリエルに災厄を齎す魔王は4体。シェオゴラスもその中の1人だ。
  ただ、直接的にタムリエルに災いを持ち込む存在ではない。

  つまりメイエールズ・デイゴンのように直接的な武力侵攻を企んじゃったりする魔王ではなく、こちら側に『狂気』を持ち込む
  間接的な災いを齎す存在。

  この杖も、そういった類の嫌がらせだ。
  「この杖はスキャンプを自動召喚し、持ち主の周りに付き纏うように設定されているようね。……ふぅん。さらに杖は触れた者の
  手から放れないように呪いを掛けられている、ようですね。新たな所持者が現れない限りね」
  「……シシリーさん、欲しくないですか?」
  「全然」
  「その、杖に触れてくれません?」
  「お断りします」
  「……」
  オーレン卿、レノス卿、ヴァトルゥス卿の顔を順々と見る。
  ズザザザザっ。
  全員、後退り無言で武器を構える。
  「皆、その構えは何?」
  「ほっほっほっ。まあ、何となくじゃ」
  「ええ。オーレン卿と同じく僕も何となくです。……ねぇ、ヴァトルゥス?」
  「御意」
  ……皆、冷たい……。
  思わず、強がりを言う。それぐらい言わなきゃ、あたしの気も済まない。
  「いいもんいいもん、欲しいって言ったってあげないもんっ!」
  『いりませんから』
  声はもらせて拒否る一同。
  な、なかなか連帯感が出てきたわね白馬騎士団っ!
  はぅぅぅぅぅっ。
  「ただいま戻った」
  ガチャリ。
  マゾーガ卿、巡察から戻ってきた。
  「さーて飯、飯っと」
  鼻歌交じりであたしの横を通り抜け、席に座ろうとして……突然、転げるようにして後退り。
  ……遅いって。
  「ア、アリスそれは何だ?」
  「えっと……」
  「この娘のお子様よ。実はママだったわけ。悪魔の伴侶を持ち、子供も四人いる。意外にアグレッシブな娘だったみたい♪」
  「シ、シシリーさんっ!」
  涼しい顔であたしを陥れるシシリーさん。
  悪い人じゃない。
  当初の冷徹の顔も最近は鳴りを潜め、意外にお茶目な性格を発揮してるしレノスさんに対しても辛辣な言葉は現在も吐き
  つつも最近では労わりも込められてるし、打ち解けてきている。
  そこで判明しました。
  シシリーさん、人をいじるのが大好きです。
  ……特に対象はあたしっ!
  はぅぅぅぅぅぅっ。
  マゾーガもまさか信じないだろうけど……。
  「お見それしましたぁーっ!」
  がばぁっ!
  土下座。床に頭打ちつけて、床に穴が開くんじゃないかというほどの勢い。
  ……前言撤回。この緑頭、全力で信じてます。
  ……唯我独尊女も、最近ではお茶目。
  はぅぅぅぅぅぅっ。
  「ま、まさかアリスが悪魔相手に……っ!」
  「あ、あの?」
  「そ、そんな清純そうな何も知らないような顔をしながら……っ!」
  「あ、あの?」
  「しかも四人の子供の母なんてっ! くっ、私はなんて世間知らずなんだっ!」
  「……」
  はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
  全力で溜息。
  こ、こいつら疲れる。本気で疲れる。
  も、もちろんそもそもの原因はこの杖だ。この杖が今回の、この、あたしに対する誹謗中傷の原因なのだっ!
  ……はぁ。
  「アリスがまさかそんなに遊んでいる女だったなんてっ!」
  「そ、それは聞き捨てならないわねあたしはまだ付き合った事すらないのにぃっ!」
  「へぇー♪」
  ニヤニヤ顔のシシリーさん。
  「まだまだお子ちゃまじゃのぅ♪」
  ニヤニヤ顔のオーレン卿。
  「清い心と清い体、それを有する者の名はアイリス・グラスフィル。……おお、穢れない娘は美しい……」
  ぽろろーん。
  竪琴掻き鳴らすレノスさん。
  「……ふっ」
  終始無言のヴァトルゥスさんは、鼻で低く笑う。
  い、一番ムカつくかもー。
  「そ、それでシシリーさん、呪いを解く手立ては?」
  「調べなきゃ分からない」
  「そ、そうですか」
  「一日掛かるから、待ってて」
  「お願いします」
  すぐには判明しない模様。一日かぁ。
  確かに、特に支障はない。延々と付き纏うスキャンプには正直閉口だけど、暴れるわけでもないしそれほど問題ないと思う。
  寝る時?
  杖は、触れた部分に張り付く。
  だから、寝る時は手に……ううん、お腹にでも貼り付けておこう。さすがに背中にあると寝れない。
  別にそれほど支障はない。
  別にそれほど……。





  本日二回目の巡回中にて。
  「……ああ、あたしが一番怪しいあたしが一番治安乱してるぅー。悪魔従えてるもんなぁ。ああ子供が泣き出したぁー」


  白馬山荘。トイレにて。
  「ちょ、ちょっとどこまで付いて来るのというかそこに居座るなーっ! 出て行けぇーっ!」


  白馬山荘。お風呂にて。
  「あ、あんた達あたしと一緒に浴槽に浸かってるんじゃないわよぉーっ! ……ああ裸見られたぁ……」


  白馬山荘。食事にて。
  「いただきまぁーす……やめて本気でもうやめてお皿空じゃんあたしのがないじゃん……」
  「おお子供に全てを捧げる、まさに母親の鑑……」
  ぽろろーん。
  そんなレノスさんに対してのコメント。
  「うるせぇーっ! あんまりゴタゴタ言うと竪琴と一緒に海に沈めるぞこんちくしょうめぇーっ!」
  「すいませんでしたっ!」
  ……ああ、あたしの化けの皮が剥がれた瞬間……。
  ……とほほ……。


  白馬山荘。ベッドにて。
  「ああ、ようやく解放……いやぁーっ! ベッドの中に潜り込んでくるなぁーっ!」





  ……で、翌日。
  はぅぅぅぅぅっ。
  「……」
  べたーと、テーブルに突っ伏す。寝不足。寝不足。寝不足ですともー。
  はぅぅぅぅぅっ。
  寝れるわけないじゃん。鼻息荒いし、臭うし、いつの間にかベッドインしてるし。あたしはこれでも繊細に出来てる。
  眠い。すっごい眠い。
  コトン。
  テーブルに陶器のカップが置かれる。
  顔を上げて見ると、湯気の立っている。ああ、良い香り。ココアだ。
  マゾーガ卿。
  「ありがとう、マゾーガ」
  「いいよ。子育て、大変だろう?」
  ニヤニヤとしている。
  状況が飲み込めてきているらしい。そもそもあたしに悪魔の子供いないし。
  ゴクゴク。
  その例の悪魔の子供達は、争ってココアを飲み干している。
  「……意外と可愛いなぁ」
  「……アリス、お前本気で危ないぞ……?」
  「そう?」
  「ダンマーは元々悪魔信仰の種族だからね」
  シシリーさんだ。
  彼女の眼も充血してる。あたしと一緒。徹夜して調べてくれたんだろうか?
  「ふぁぁぁっ。眠い」
  「すいません、あたしの為に」
  「……? 何の事?」
  「はい?」
  「おおシシリー。愛しの君。日の光の下で見る君も、美しい。まさに僕の天使ちゃんだ♪」
  「おはよ」
  「なんて美しいんだシシリー♪」
  ぽろろーん。
  妙に馴れ馴れしい、二人。レノスさんはともかく、シシリーさんも満更でもないし……?
  ……?
  「アリス、深く追求するな」
  「何で?」
  マゾーガの杞憂が分からない。
  ……?
  まあ、レノスさんとシシリーさんが仲良くなったのは、良い事だね。うん。
  二人は顔を見合わせてニコニコと微笑みながら巡察に出て行った。よく分からないけどマゾーガ曰く大人の事情らしい。
  ……?
  それで結局、あたしはどうなるの?
  はぅぅぅぅぅっ。
  「おチビちゃん。おはよう。緑の嬢ちゃんも、おはよう」
  「おはようございます、オーレンさん」
  「おはよう」
  欠伸を噛み殺しながら、オーレンさん起床。昨晩は、オーレン卿とヴァトルゥス卿が夜の巡回だった。
  ヴァトルゥスさんはまだ熟睡中。
  「ふぅむ。ワシの眼も大した事ないのぅ。あの二人、出来てしまったらしいのぅ。まあ、めでたいと言えばめでたいが」
  「だから、何の話です?」
  「はっ? ……ま、まあおチビちゃんには大人過ぎる話かの。それでまだ何とかならないのかの?」
  「ええ。スキャンプ、離れません」
  どこでもいっしょ。
  ……。
  ……こ、これが人の言葉喋る二足歩行の白い猫なら嬉しいんだけどなぁ。夢見がちな性格ぷりてぃー♪
  ……実際にいるのは、スキャンプだけどね。
  「そもそもこれをどこで連れて来たんじゃ? そもそもの流れが分からんのじゃが」
  「そ、そうでしたね」
  そういえばそこはスルーした気がする。
  それだけ、テンパってたわけだ。
  「それでアリス、どこでこんなに産んだんだ?」
  ガンっ!
  「マゾーガ今度そんな事言ったら殴るからねっ!」
  「カップを投げつけるより酷い事があるとは思えんな上等だ外に出ろぉーっ!」
  ……駄目。状況が不毛。
  ……とっても不毛。
  はぅぅぅぅぅっ。

  「それで、どういう流れでそうなったんじゃ?」
  「それはですね……」

  話は簡単。
  昨日、レヤウィン市中の巡回(ブラックウッド団の監視も兼ねて)して際に妙な噂を聞いた。
  ロゼンティア・ガレイナスという女性の家から、腐臭がするというのだ。
  行って見れば確かに。
  豪邸からは、妙な異臭がしていた。
  訪ねてみた。
  そこにいたのはロゼンティアとスキャンプ四匹がいて、そして荒れ果てた室内があった。

  エヴァースキャンプの杖の呪い。
  この杖は旅の魔術師が、富豪の彼女に売りつけたものらしい。
  二束三文の金額で最初は怪しんだものの、文献を調べる限りその杖は本物だと判明。これは儲けモノだと買ってのが運
  の尽き。それは呪われた品で、際限なくスキャンプを召喚し続ける迷惑な代物だった。

  もちろん魔術師は承知の上だったのだろう。
  厄介な品だから、売りつけた。
  そうして何人リレーしてきたのか、分からない。
  彼女はほとほと困っていた。スキャンプは始終付き纏うし、外出も出来ない。無駄飯ぐらいだし異臭はする。
  生活スタイルが維持できないと泣いていた。
  ……これも騎士としての務め、と思い受け取ったのが今度はあたしの運の尽き。
  今に至る、わけよ。

  「ほぅ。つまり、誰かが受け取らなければならんわけか」
  「アリスも大変だな」
  「……ごめんなさいどうして二人とも武器を構えてあたしを寄せ付けないの……?」
  『いや別に他意はないよ別に』
  「……」
  世間って冷たい。
  オーレンさんは身構えたまま……仲間に剣向けるのってどうなんだろう……?
  ともかく、話を続ける。
  「実はワシは何人か個人的に情報屋と繋がりがあっての。その杖の出所も分かっておる。意外に近い」
  「場所?」
  「そいつは、そのエヴァースキャンプの杖はダークファザム洞穴から出た悪魔の遺産での、その最奥にあるシェオゴラスの祠
  にある祭壇に祭られていたものらしいの。さらに……」
  わざわざ調べてくれたのだろうか?
  優しいなぁ。
  「魔術師ギルドのアルヴェス・ウーヴェニムという女性に聞いたところ、その祭壇になら杖は置けるらしい。つまり、神にその持
  ち物を返すというわけじゃな。神……まあ、魔王と言った方がいいのかのぅ」

  ダークファザム洞穴。
  地図を見ると……うん、記されてる完全に謎の洞穴ではなく、調査の手も何度か入ってるらしい。
  何でって、地図に載ってるから。
  完全に謎なら、地図に載るはずない。誰かが発見したから、地図に記載されてるわけだ。
  さて。
  「ただし、その洞窟には悪魔達が住み着いてるらしいからの、気を付ける事じゃな。ワシも行ってやりたいのじゃがこの間おチビ
  ちゃんに投げられて打った腰がまだ痛くての。戦闘は、無理じゃからな」

  ……ああ。この間のは今回に祟るわけか。
  レノスさんとシシリーさんは巡察でいないし、ヴァトルゥスさんは熟睡。となると……。
  「じゃ、用があるから」
  「助けてよぉマゾーガっ!」

  「ちっ。相変わらず世話の焼ける奴だ。……お願いしますマゾーガ卿、だ」
  「……お願いしますマゾーガ卿」
  「まあ、いいだろう。いつもお前の尻拭いの人生か。私も、甘いな。結果良い事なんて何もないのに」
  ムカつくっ!
  すげぇムカつくーっ!
  はぅぅぅぅぅっ。
  「では行くぞ、アリス」
  「……お願いします……」






  ダークファザム洞穴。
  何かが潜む、という噂ではあるものの……。
  「行くわよマゾーガっ! 行くぞ騎士団、駆けるぞ突撃っ! いざ進めあたしの騎士団、デイドラ機動戦隊ぃっ!」
  「……」
  無言で付き合ってられんぞこの女、というオーラを発しながら付き従うマゾーガ卿。
  あたしの背にした杖に惹かれて付き纏うスキャンプ4体。
  結局、昨夜はほとんど寝れてないのであたしは脳内麻薬エンドルフィン全開でナチュラルハイっ!
  滅茶苦茶テンション高いあたし。
  「邪魔する奴は皆殺しぃーっ! ひゃっほぉーっ!」
  「……」
  黒水の剣を振るい、この洞穴に住み着いていたスキャンプを撃破しながら暗い洞穴内を進む。
  悪魔達は無敵、ではない。
  幽霊のように鉄製武器が効かない、という特殊な条件もないしある意味で幽霊以下。
  当然能力は幽霊とは比べ物にならないけど、そういう特定の条件がないので、その点では劣ってるのかもしれない。
  さて。
  「ふん、歯応えのない連中っ! それに、あたしのスキャンプに比べて可愛げないし。……ねぇ?」
  「い、いや同意を求められても」
  「可愛い可愛い♪」
  悪魔を頬擦り。
  ダンマーが、ダークエルフがダークと言われる所以は肌の色や口の悪さ以前に、悪魔信仰だからだ。
  要はオブリの魔王が、九大神よりも偉大と考えているからだ。
  別に魔王信仰=邪悪、ではない。
  偏見もある。
  ……まあ、それほど善人的な種族でもないけど。
  「何か手放すの、嫌になってきたなぁ」
  杖。
  これを手放すと……ううう、この子達と別れるの、少し寂しいかも。
  「……アリス、お前シェオゴラスに感化されてるんじゃないのか?」
  「そう?」
  狂気を司る魔王シェオゴラス。
  あたし現在、狂気?
  「まともなつもりなんだけど。ほら、馴染めば大抵は順応できるでしょ?」
  「それはまあ、そうなんだが……」
  「マゾーガの緑色も慣れてきたしさ」
  「……順応する必要性があるのかそれは?」
  「まあ、いいじゃん」
  「ところでアリス、あれを見ろ」
  「あれが……シェオゴラス……?」

  好々爺。
  シェオゴラスの彫像は、気の良い老人の姿。
  しかしその微笑は、実は狂気を称えている。何故なら、シェオゴラスは狂気を司る魔王だからだ。
  狂気を振りまく存在。
  ついでに言うと魔王そのものも狂人らしい。
  まあ、分かりやすいよね。
  考えてみればエヴァースキャンプの杖も、狂気の産物だ。手にした者は杖が体から離れず、永遠にスキャンプが付き纏う。
  普通の性格は営めない。
  そして次第に狂っていく。まともな生活が出来なくて。
  これも一つの狂気の一環。
  ……。
  こんな代物、創り出してこちら側に送り込む……かなりの嫌がらせね、これ。
  「アリス」
  「うん」
  祭壇。
  あたしはエヴァースキャンプの杖を、ゆっくりと置いた。そして手を……あっ、放れたっ!
  「やったぁっ!」
  思わずガッツポーズ。
  杖を置いた途端、今まで付き纏ってたスキャンプ達が襲い掛かってくる……というベタな展開はなかった。
  杖を持っていない者には興味がないらしい。
  そのまま暗闇の中に消えていく。
  ……何か、寂しい。
  色々とあったけど、いざ別れるとなると悲しいかも。
  「御飯、ちゃんと食べるのよ」
  立ち止まり、四匹は振り向いた。まるで頷くように頭を動かすと、そのまま振り返らずに視界から消えた。
  マゾーガは不審気にあたしの顔を見た。
  「お、お前泣いてるのか?」
  「な、泣いてなんかないもん。泣くわけないじゃん、馬鹿っ!」
  「……」
  「ひーんっ!」
  「……」
  「……ううう、マゾーガ、子供が旅立つって、こんな心境なのかな?」
  「絶対違うっ!」
  「ひーんっ!」
  嗚咽は止まらない。
  少しの間だったけど、大変だったけど、楽しかったよ。あたしの子供達っ!
  「ひーんっ!」