天使で悪魔







紡ぐ者





  魔力の糸を紡ぎし者。それが人形遣い。
  有史以前のアイレイド時代に存在したアイレイド国家の1つであるガーラス・アージアに存在した一握りの術者達の総称。
  人形姫は全ての人形遣いの頂点に立つ女王。
  それがあたしだ。





  ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。
  無数の黒い生物は一箇所に集まる。
  どれだけいる?
  分からない。
  その生物の1つのサイズは親指ほどの大きさ。
  「……」
  あたしは沈黙のまま黒い生物の行動を見つめる事しか出来なかった。
  行動?
  出来ない。
  身動き1つ出来ない。
  攻撃の絶好のチャンスなのかもしれないけど……どこをどう攻撃していいのか分からない。一匹一匹、つまり全滅させるには魔力の糸は効率的ではない。
  魔力の糸の特性、それは貫通と切断。
  一掃には向かない。
  「……」
  黒い生物の正体は蜘蛛。
  無数にいる。
  無数に。
  それはカラーニャの死骸から無数に這い出してきた。そして今、一箇所に固まって何かしようとしている。
  つまり元々あの女の体の中は蜘蛛だらけ?
  そう言えば『アルトマーの振りをするのが疲れた』とか最初に言っていたような気がした。つまりカラーニャはアルトマーではなく、また肉体に蜘蛛を宿し
  ていた特異体質というわけでもなく、蜘蛛そのものがカラーニャだったと推測した方がいいのかな。
  ……。
  ……蜘蛛が正体かぁ。
  あたしもアイレイド時代に権勢を誇っていた人形姫という経歴の持ち主だけど……世の中って意外な展開が多いみたい。
  そうこう考えている間に無数の黒い蜘蛛は1つの塊となった。
  そして……。
  「えっ!」
  「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひぃーっ!」
  鼓膜の奥底にこびり付くような不気味な笑い声。
  夜聞いたらきっと怖くてトイレ行けなくなると思うなぁ(泣)。
  無数の黒い蜘蛛は一塊となり融合。それから数秒後には突然体が巨大化して五メートルほどの一匹の大きな黒い蜘蛛と変じた。
  八つの瞳があたしを見ている。
  不気味だ。
  巨大な漆黒の蜘蛛は忙しなく無数の足を動かしながら、あたしを見ている。
  動いているといってもその場からは動いていない、あくまで足を忙しなく動かしているだけ。もちろんそれだけでも不気味なんだけど。
  「カラーニャ、あなたは何者なんですか?」
  気になった事を聞いてみる。
  オブリビオンの悪魔?
  確か前に冒険者の街フロンティアでスパイダーデイドラという上半身が女性、下半身が蜘蛛という悪魔がいた。
  カラーニャはそれと同系統の悪魔なのかもしれない。
  それとも……。
  「私はただの蜘蛛よ」
  「えっ?」
  「元々は自分より大きな捕食者に食べられるだけのちっぽけな存在。それだけの存在。食物連鎖の下の方の存在。だけど今はそうじゃない、分かる?」
  「どうしてただの蜘蛛がこんなに……その、育っちゃったんですか?」
  「猊下のお力よ」
  「猊下」
  たぶん虫の王のことなのだろう。
  あたしはよく知らないけど。
  元々魔術師ギルド絡みにはまったく関与していないし、フィーさんがその組織に関っていないければあたしはあえて手を出そうとは思わなかった。そういう
  意味ではあたしは部外者。それも完全なる部外者。それ故に人名や称号はまったく分からない。
  「あのお方は私に強大な魔力をお与え下されたっ!」
  「……っ!」
  「誰にも負ける事のない魔力。そう、私こそが最強の四大弟子なのよっ!」

  バッ。

  巨大な蜘蛛が飛び掛ってくる。
  あたしはその場から飛び下がる。間合いを詰めるのは得策ではないし、何よりあんなものに圧し掛かられれば簡単に潰されてしまう。
  飛び下がるっ!
  飛び下がるっ!
  飛び下がるっ!
  「きっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ! 逃がしゃしないわよっ!」
  「くっ!」
  回避し続けるものの、相手は相手で迫ってくる。
  巨体に似合わず敏捷だ。
  あたしの方が小回りが勝っているので回避出来てるけど……魔力の糸を放つ余裕がないっ!
  カラーニャ、大きいだけではなく足が八本だからフットワークがとても軽やかだし素早い。八本の足であたしを踏み潰そうと肉薄してくる攻撃を何とか回避。
  だけど……。
  「逃げられるとでも思ってるのかいっ!」
  「しつこいっ!」
  執拗に迫り、執拗に無数の足で踏み潰そうとしてくる。

  ガンっ!
  ガンっ!
  ガンっ!
  ガンっ!

  巨大な体を支える以上カラーニャの足も巨大。
  その一撃一撃は非常に重い。
  回避しているけど、まともに当たったら確実に死ぬだろう。だけど回避出来ている以上、そこは問題ではない。相手の動きは単調だしかわせれない攻撃ではない。
  問題はあたしが攻撃に転じられない事だ。
  どうする?
  「ほらほらぁーっ!」
  「くっ!」
  腰に差していた、ある意味で飾りのショートソードを引き抜いてカラーニャに向けて投げた。

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  乾いた音と同時に剣は弾かれる。
  装甲のような体皮。
  「はあっ!」
  あたしは魔力の糸を紡ぐ。剣はただ相手の虚を作る為の一撃でしかない。まさかこうも簡単に弾かれるとは思わなかったけど……それでもわずかではあるも
  ののカラーニャの攻撃に間が生じる。その隙にあたしは必殺の一撃ともいうべき魔力の糸を放つ。
  蜘蛛の眉間に直撃っ!

  フッ。

  「えっ!」
  消えたっ!
  まさかこの状態でも空間転移が出来るのっ!
  それは想定してなかった。
  「どこに行ったの?」
  きょろきょろと周囲を見渡す。もちろん身構えながらなのは言うまでもない。
  視界には入らない。
  どこに……。
  「上っ!」
  突然嫌な予感がしてその場を飛び退く。次の瞬間っ!

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  「ふふふっ! 随分と勘が良い餓鬼ねっ!」
  「くっ!」
  冗談じゃないっ!
  あんなの受けたらミンチになっちゃうっ!
  少しよろけながらもあたしは走って逃げる。カラーニャは追撃してこなかった。空間転移の能力があるから距離は関係ないんだろうけど、あたしは攻撃
  する際にはある程度の間合が欲しい。あんな化け物と対峙する以上、ある程度の安心空間が欲しいものだ。
  カラーニャはお尻を高く上げた。
  ……。
  ……な、なんか、やらしいかな。
  訂正しますっ!
  巨大な蜘蛛は下腹部を高く上げた。

  ぶわっ!

  真っ白な糸が無数に放出される。だけどそれはすぐに目に見えなくなる。
  蜘蛛だから糸を放出するのは分かる。
  でも何する気かな?
  巣作り?
  放出後、しばらくすると可視出来なくなるからどういう状況になっているのか不明。もちろんわざわざ見てるだけのつもりはない。
  魔力の糸を紡ぎ……。
  「雷光の調べ」
  「えっ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  白い糸を放出する、そのまま状態でカラーニャは口から雷撃を放った。あたしは横に転がって回避。
  魔法までこの状況で使えるのっ!
  こ、これってやばいかも。
  蜘蛛状態になってもまるでデメリットがない。むしろ頑丈さや不気味さが増幅されているから強くなってる。物理的な攻撃力も増してるし。
  唯一でかくなり過ぎたから的には丁度いいんだろうけど空間転移という能力がある以上、巨漢はデメリットにはならない。
  「ええいっ! チョコマカと小賢しい餓鬼ねっ!」
  「小賢しいのはお互い様ですっ!」
  魔力の糸が当たりさえすれば勝てるのに。
  弾かれる?
  それはどうか分からないけど……少なくともさっきまでアルトマーの皮を被ってた時とは意味が違う。現在のカラーニャは擬態ではなく本体。全力の魔力
  を込めて魔力の糸を紡げば、そしてそれが当たれば勝てる可能性は大いにある。
  化け物めいた蜘蛛ではあるけど元々はただの蜘蛛っ!
  勝てないはずがない。
  あたしは人形姫。
  負けてたまるかーっ!
  「はあっ!」
  「毎度毎度同じ攻撃とはお子ちゃまねぇ。バリエーションはないの?」

  フッ。

  掻き消えるカラーニャ。
  「あなたに言われたくありませんっ!」
  毎度毎度同じように空間転移するのはどっちよっ!
  それにしてもあの能力は厄介。
  どの程度の距離まで飛べるのか、どの程度の魔力が消費するのか、そして何よりカラーニャの魔力はどれだけあるのか。その三つ全てがまるで不明な
  以上、まったく空間転移に対する対処法がない。ある程度の法則が分かればいいんだけど。
  「今度はどこ?」
  まだ出現していない。
  どこから来る?
  どこから……。
  「……」
  ゾク。
  寒気がした。本能的に上を見る。
  再び巨大な蜘蛛は頭上に存在していた。ただし落下してこない。まるで見えない床があるかのように空中に浮いていた。
  空中浮遊の能力?
  ううん。
  そうじゃない、多分さっき放出していた糸がそこら中に張り巡らせてあるのだろう。カラーニャはさながら巣の上に君臨する蜘蛛。
  「そろそろ終わりにしようか、餓鬼」
  「望むところです」
  「お前は絶対私に勝てない。何故だと思う?」
  「あなたが誇大妄想に浸っているからです。だからあたしに勝てるという妄想に没頭できる。。でも頭の中と現実は違うんですよ」
  「……」
  これぐらいはあたしだって言い返せる。
  気に食わないのだろう、カラーニャは少し沈黙した。
  全力の魔力の糸で撃墜してやるっ!
  「あれ?」
  放とうと構えると違和感を覚えた。
  カラーニャの足がない?
  目を凝らしてよく見てみる。
  うん。
  間違いない。
  足だけが消失している。
  何故だろう?
  「つうっ!」

  ズバっ!

  その時、何かがあたしの左腕を切り裂いた。二の腕の辺りが少しやられた。それがまるで合図かのように突然周囲に出現した無数の黒い刃のようなも
  のがあたしを襲う。それは虚空から生まれていた。まるで宙に浮かぶ黒い刃。
  「何なのっ!」
  必死にかわす。
  最初の一撃を受けた時にその場に留まらなかったのが助かった一番の要因だろうと思う。
  留まっていたならズタズタだった。
  「あ、足っ!」
  「ご名答」
  頭上から声がする。
  つまり。
  つまり足だけを空間転移……いやいや、それだと足が取れちゃうか。ニュアンスとしては空間を捻じ曲げて攻撃してるのかな。
  かなり鋭い一撃だった。
  「痛い」
  左腕、この戦いでは役に立たないだろう。
  まあ別に左腕は戦闘にはさほど使わないけど痛みは邪魔だ。集中の邪魔となる。あたしは回復魔法は使えないからしばらくこのままだ。面倒。
  出血は大した事はないのが救いかな。
  だけど長引かせたくはないっ!
  敵を沈めるっ!
  「はあっ!」
  「無駄よ無駄」

  フッ。

  また消えたっ!
  今度は体ごと消えた。だけどそれは予測の範囲内。次はどこから出てくる、次は……。
  「はぁい☆」
  「……っ!」
  目の前だった。
  すぐ目の前。
  蜘蛛の顔を間近で見るとやたらと怖いよーっ!
  「チェックメイトね」
  「……」
  「あんたはよく戦ったわ。子猫ちゃんに比べたら劣るかと思ったけど……まあ、劣るけど……それでもそれなりに楽しめた。今頃は子猫ちゃんは猊下の
  生贄になっている頃だし、他のお仲間も殺されてるだろうし、私も遊びの必要はなくなった。そろそろと殺すとしましょうか。それともまだ足掻く?」
  「……」
  「まあ、私はそのつもりはないんだけどね」
  「……」
  カラーニャの口に雷が宿る。
  雷光の調べか。
  この至近距離だからまず回避できない。そして何より相手はそろそろあたしを殺すつもりらしい。
  「バイバイ☆」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  放たれる雷。
  だけどあたしはその場にはいなかった。大きく跳躍、カラーニャを飛び越えた。そしてそのまま魔力の糸を放つ。
  「ぐぎゃっ!」
  魔力の糸はカラーニャの背に突き刺さる。
  よしっ!
  貫通できるっ!
  「餓鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「はあっ!」
  さらに一撃。
  柔らかい……と思う……まあ、ともかく蜘蛛の腹部に一撃。その時カラーニャが振り返って雷を口から放った。
  「死ねがいいわぁっ!」
  「遅いっ!」
  再び回避。
  あたしの敏捷性はさっきの比ではない。
  これこそが魔力の糸の真骨頂。
  人形遣い(あたしは人形遣い&自律型魔道人形マリオネットを統べる人形姫)はマリオネットと呼ばれる魔道人形を支配下に置く。しかし魔力の糸で操る
  わけではない、なのにどうして人形遣いと呼ばれるのか。その理由は簡単。自身を人形に見立てるからこそ人形遣いなのだ。
  魔力の糸は攻撃の手段の為だけではない。
  自身の体に魔力の糸を纏わせ、そして操る。故に人形遣い。
  人間の体は頭が制御している。しかしどうしても肉体としての反応速度は限定される。頭と体の疎通にはどうしてもわずかな間が生じる。
  だけど魔力の糸はそうじゃない。
  意思1つで瞬時にそのように振舞える。
  現在のあたしは魔力の糸により頭が体に対して指令を発するよりも早く動く事が出来る。
  ……。
  ……もちろん弊害もある。
  魔力の糸で強制的に行動している状態。つまり肉体的な限界を想定しない動きも意思1つで出来る。変な話、骨折してても魔力の糸で操る事により歩く
  事が出来る。操り人形のように、操られるがままに振舞える。今のあたしは人形の操り手であると同時に操られる人形。
  異世界カザルトから帰還後に体得した能力。
  問題は、まあ、限界以上の動きが平然と出来るようになるので、その代償として筋肉痛になる。もっと悪化すると寝込む(泣)。
  「はあっ!」
  一気に畳み込む為にラッシュ、ラッシュ、ラッシュっ!
  黒い巨体を貫通。さらに切り刻む。
  カラーニャはあたしの動きに翻弄されている。雷撃を口から放ったり足だけを転移攻撃したりと応戦してくるけど、あたしの動きには対応出来ていない。
  常にあたしのターンだっ!
  「眼が八つあるのに捕捉出来ない目、意味がありませんねっ!」
  「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  二列に並ぶカラーニャの目、その一列に魔力の糸の斬撃。
  よしっ!
  これで片方の視力を潰したっ!
  一気に……っ!
  「あ、あれ」
  突然体が動かなくなる。
  あたしの体は硬直したまま、魔力の糸を放つモーションで固まったまま、カラーニャを見た。
  不気味な哄笑が蜘蛛から発せられる。
  「きはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ! 調子に乗るからだよ、餓鬼ぃーっ!」
  「糸?」
  「そうだよぉっ! あんたは私が張り巡らせていた細い細い、可視する事もすら出来ないほどに細い糸に自分から絡めとられたのよぉっ! あんまり派手
  に動き回るからこうなるの。分かる? ねえ、分かる? きはははははははははははははははは頭からボリボリと食ってやるよぉーっ!」
  「それしか能がないんですか? 低俗ですね」
  「……なんだって?」
  「低俗だと言ったんです」
  「餓鬼がっ!」
  「殺したらどうです?」
  「……」
  あたしのその一言にカラーニャは戸惑った。
  多分あたしが普通の魔術師なら、もしくは普通の戦士なら躊躇わずにカラーニャは殺したかもしれない。しかしあたしは人形姫。
  異能の中の異能。
  ある意味でカラーニャは警戒している。
  「変な攻撃されても困るねぇ。絶対に攻撃が届かない、あんたの視界の範囲外から、そして頭上から攻撃するに限るねっ!」
  「ご自由に」
  「空間捻じ曲げて鋭利な足で斬り殺してやるっ!」
  「お好きに」
  「きはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」

  フッ。

  カラーニャは視界から消えた。
  高笑いと同時に。
  だけど。
  「な、なにぃっ!」
  カラーニャは視界の中にいない、多分あたしの後方のあたりの頭上にいるんだろうけど……見なくても何がどうなったか分かる。
  頭上に張り巡らされていた糸が切り裂かれているのだ。
  だから。
  だからカラーニャは落下する。
  支えられる場所など既に存在しないからだ。
  落下。
  だけどカラーニャが落下した音はしない。あれだけの巨体だから落下したら轟音がするはず。なのにしない。
  何故ならそれは……。
  「形勢逆転ですね」
  「餓鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  軽く指先をあたしは振るう。
  全身を絡め取っていたカラーニャの糸を切断。自由になったあたしは振り返って宙に浮かぶカラーニャを見た。
  奴自身の糸で浮いている?
  いいえ。
  「あたしもまたあなたと同じように紡ぎし者。それを忘れたんですか? 無知蒙昧ですね」
  「おのれぇーっ!」
  そう。
  糸を張り巡らせていたのはカラーニャだけじゃない。
  あたしもなのだ。
  戦いながら張り巡らせていた。そして今、カラーニャはあたしの魔力の糸に絡め取られて宙吊り。
  空間転移すればもちろん抜け出せるだろう。
  だけど……。
  「カラーニャ」
  「何よ餓鬼っ!」
  「根本的な差を教えます。あなたの糸は相手を絡め取るだけです。だけどあたしの魔力の糸はそうじゃない。絡め取ると同時に切り裂けるんです」
  「こんな餓鬼にっ! こんな餓鬼にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「さよなら」
  指を動かす。
  その瞬間、カラーニャの体は無数の肉塊となって降り注いだ。
  あたしは肉塊を見て呟く。
  「まるでお話になりませんね」


  四大弟子筆頭、虫の賢者カラーニャ撃破。