天使で悪魔





それぞれの明日




  シロディールに舞い戻った。
  太陽が眩しい。
  思わずあたしは眼を覆った。カザルトには太陽なかった。だから、太陽が眩しかった。
  物事には終わりがない。
  それぞれの明日が、確実にそこには存在しているのだ。






  「ふぅ」
  軽くあたしは息を吐いた。
  溜息、ではない。安堵からだ。
  「いかがされましたか、マスター」
  「なんでもないよ、チャッピー」
  街道を歩くあたし達一行。
  太陽が眩しい。
  青空が眩しい。
  こちらの世界に戻ってきて結構日が経っているものの空の輝きにようやく慣れてきた、そんな感じだ。夜は夜で月と星に感動して
  いたりする。別にカザルトが嫌いだったわけじゃないけど、こちらの世界は美しい。
  せめて向こうの世界にも月と星があればよかったんだけど。
  「これなら今日中に到着できると思う。さっ、元気出していこー♪」
  「御意」
  「理解しました」
  あたしの安堵感。
  それは従者に関する事だ。……ああ、従者って単語は上から目線かな。じゃあ、あたしの仲間に関する事、と訂正。
  ともかく仲間の事で心配だった。
  チャッピー?
  チャッピーも、そうだ。見た感じはアルゴニアンの亜種に見える。でも実際にはドラゴニアン。
  レヤウィンではアカトシュ信者に《アカトシュを侮辱する者》として狙われた。……思えばあれが長い旅への始まりだったなぁ。
  ともかく。
  ともかく、ドラゴニアンは龍人。アカトシュは龍の化身としてこの世界に降臨したという伝説がある。
  だからこそ同じ龍属性のドラゴニアンを侮辱として命を狙っていた。
  もっとも魔王ベライトの信者は逆に《魔王様の化身だ。ありがたやー》と敬服するんだけどね。
  世の中、色んな見方があるなぁ。
  「主」
  「何、ケイティー?」
  「お疲れでしたらお姫様抱っこして差し上げますが?」
  「い、いいよ」
  「理解しました。主は口では拒否しつつも本心ではそれを望んでいるツンデレだと記憶します」
  「するなボケーっ!」
  「人の感情は理解できませぬ」
  「……はあ」
  ツンデレって何?
  さらに文句を言わせて貰うならケイティーはお姫様抱っこ好きみたい。魔剣ウンブラ探しの時もそう言ってたなぁ。
  はあ。
  もう一度溜息。
  あたしが一番心配していたのはケイティーの存在だった。
  何しろケイティーはドレモラ・ケイテフ。悪魔の世界オブリビオンにおいて魔人に位置する悪魔。……厳密に言えば全ての魔王の部下、
  というわけではなく破壊を司る魔王メルエーンズ・デイゴンの部下らしい。
  まあ、いずれにしても悪魔だ。
  普通に街を歩き、街道を歩く。そこに問題があるのではないかと危惧していた。
  普通の人から見たら異界の存在だ。
  普通の人から見たら悪意の存在だ。
  そこが心配だった。
  でもそれは杞憂だったみたい。
  もちろん恐れる人もいるし、街道歩いてたら反対方向から旅人が歩いてきたけどケイティーの姿を見ると大きく迂回した。
  きっとあたし達がいるからだね。
  つまり、召喚師が召喚して野良と化している悪魔ではなく、ちゃんと側に人間がいるので安全だと判断しているのかもしれない。
  杞憂。
  それならそれでいい。
  ……。
  ま、まあ、ケイティーには常識が必要になるけどね。
  肉好き(フォールアウト風に言うと「奇妙な肉♪」)な性格は何とかしないといけない、かな。
  今現在の食事?
  肉系ならとりあえず何でもいけるみたいなので、鹿肉かな。ただ鹿肉に嵌り過ぎた為か、野生の鹿を見つけると「ひゃっはぁーっ!」と
  奇声を上げて狩りを開始したりする。
  さっき食べた昼食も鹿肉でした。……いい加減あたしは飽きたけど。
  毎食鹿肉はきついです。
  さて。
  「スキングラードはもうすぐだよ」
  目指す場所はスキングラード。
  女王様の力で帰還した先はフロンティア。北上してシェイディンハルを経由、帝都は素通りしてそのままスキングラードに向かう日程。
  スキングラードはもうすぐそこだ。
  半日もあれば辿り着く。
  その後の事?
  それは考えてないなぁ。
  さすがのフィーさんもこれ以上はローズソーン邸に住まわせてくれないだろうし。フィーさんの気持ちの問題以前に、これ以上住めな
  いというのが正確なところだ。
  どうしよう?
  冒険者チームのフラガリアは継続するから……まあ、お金に苦労する事はそんなにないはず。
  冒険者は儲かります。フロンティアの創設者冒険王ベルウィック卿も一階の冒険者から大貴族にまで成り上がったわけだし。そこ
  まであたしは成り上がりたいとは思ってないけど、生活する上で冒険者ほど最適な職業はない。
  ……まあ、儲かる反面危険も大きいけど。
  「もうすぐ街で寛げるから、頑張ってね」
  「御意」
  「理解しました」
  「よっしゃ。久し振りにガールハントでもすっかなぁー」
  「姫様。街に着いたらお寛ぎください」
  ……はあ。
  心の中で軽く溜息。この溜息は心痛から来るものだ。
  もう慣れたけどね。
  何しろフロンティアからの同行だ。いい加減慣れましたともー。チャッピーが食って掛かる。
  「お前らマスターに馴れ馴れしくするなっ!」
  「はっ、トカゲ野郎に指図される筋合いはねーよ」
  「まったくです。姫様の守護を爬虫類ごときに任せるなど言語道断。私が、生涯守護するのです」
  ……はあ。
  結構変わり身が早い2人だったなぁと思います。チャッピーとワイワイと口論しているのは犬と人形。
  つまり?
  つまり、魔王クラヴィカス・ヴァイルの従者のパーパスとマリオネット12ナンバーズの一体であるフォース改めシスティナさん。
  ……はあ。
  「そもそもなんでここにいるんだお前らっ!」
  「おいおいトカゲ野郎何度言わせるんだよ。……まさかあれか? 読者に分かり易いようにわざわざ説明させようってか?」
  「訳の分からん事を」
  「けっ」
  パーパスの姿は、黒い犬。
  犬の姿からポケットサイズの犬の置物にも変じる事の出来る悪魔。
  「クラヴィカスの旦那に楯突いたからな。元の世界には戻れねーんだよ。立場ないしな。まあ、それにシェオゴラスの爺にクラヴィカス
  の旦那は負けちまった影響で、次元の門は閉ざされちまった。どっちにしろ戻れねーんだよ」
  「だからと言ってマスターに纏わり付く……」
  「お前だって同じ……」
  ……はあ。
  パーパス、シャルルさんのポジションをゲットです。
  ポン。
  あたしの肩に手を置く人がいる。振り返るとシスティナさんだった。微笑を浮かべている。
  「姫様。参りましょう。キリがないですから」
  「……」
  「姫様に絶対の忠誠を捧げます」
  「……それはどうも」
  システィナさん。
  確かに死んだはずだった……のだけど死んでなかった。あの状態、正確には自己修復のプロセスの為に活動停止していだけみたい。
  マリオネットにも心臓と呼ぶべき部分がある。
  そこを破壊されれば人間同様に死ぬ。
  ただし場所が違う。あたしが貫いたのは左胸。マリオネットの心臓は胸の中央にあるみたい。だから、生きてる。
  こちらの世界に来れた理由?
  ファウストの右腕を使った。右腕はファウストの力の根幹であり、空間転移の能力もあの腕に秘められていたらしい。シャルルさん
  は腕が欲しい的な発言してたけどそれはあくまであたし達を助ける為の口実で、腕は持ち帰らなかった。
  その放置されていた腕を使いシスティナさんはこちらに来た。
  ……。
  さすがに女王様の元に戻るのは恥知らずだと判断したらしい。
  まあ、だからと言ってあたしの元に来て忠誠を誓うのは、世間から見て正しいのかどうかは分からないけど。
  さて。
  「我には理解できぬ。汝は主を憎んでいたのではないのか?」
  「私が憎んでたのは人形姫。フォルトナ様では、姫様ではないわ」
  ……うわー。
  意外にシスティナさん変わり身早いぞっ!
  あの時だって人形姫の人格ないのを知っていながら襲ってきたくせにーっ!
  気が付けばフラガリア、まともな奴いません。
  あたしは人形姫だしチャッピーは伝説的な存在であるドラゴニアン、ケイティーはオブリビオンの悪魔ドレモラ・ケイテフ、パーパスは
  魔王クラヴィカス・ヴァイルの使い魔、システィナさんはマリオネット。
  ま、まあ、いいけどね。
  何気にフラガリアは人外集団な気もする。
  「ところで姫様」
  「姫様はやめてくださいよー」
  「姫様は姫様ですわ」
  「そ、それで、何です?」
  「サヴィラの石はお役に立ちましたか?」
  「サヴィラ……」
  千里眼の水晶とも呼ばれる魔道アイテム。カザルトに行った理由の1つでもある。
  フィフスを探す為の道具。
  なのに……。
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  忘れてたーっ!







  その頃。
  「はあはあ」
  照りつける太陽の下を歩き回る者が1人いた。
  見渡す限りの砂。
  砂。
  砂。
  砂。
  太陽は灼熱。ここは砂漠。
  水気はなく、それだけではなく風の気配すらない。ただただ太陽の光と熱が体を焼き尽くすように降り注ぐ。
  ガク。
  男はその場に膝をついた。
  もう時間的な感覚すらない。左腕で額の汗を拭う。
  「はあはあ」
  男はファウスト。死霊術師ファウスト。
  カザルトの動乱を巧みに利用し人体実験をしていた人物。
  次元の門を開き空間転移する際にフォルトナによって右腕を切り落された。正確には右腕はマリオネットの義手。しかしただの義手
  ではなくわざわざ強度の高いマリオネットの腕を義手にしたのには意味がある。
  右腕こそがファウストの力の全て。
  肉体を強化するのには限度がある為、右腕に大半の能力を込めていた。力の源。そうする事で肉体への負担を緩和する狙いだった。
  だからこそ。
  だからこそ、右腕を失った以上、ファウストの能力は大幅に減少していた。
  「ここはどこなんだ?」
  運が悪いのか良いのかは判断しかねるものの、ファウストは死なない。
  渇きや疲れは感じるものの彼は死なない。もしろ死ねない?
  遺伝子を弄っている為、彼の細胞は加速的な再生速度を誇っている。心臓を貫かれた瞬間には、その傷は再生している。つまり彼は
  不死身だった。砂漠で何日も彷徨っているのに死なないのはその為だ。
  「はあはあ」
  最終決戦からの逃亡。
  彼はその際にシェイディンハルに飛んだ。空間転移する寸前にフォルトナに腕を落とされた為、転移場所は多少の誤差が生じた。
  ここはシェイディンハル周辺……のはず。
  しかし砂漠などない。
  それにシロディールに砂漠地帯は存在しないのだ。
  ならばここはどこだ?
  それほどの誤差はないはずなのだが……。
  「水……水……水ぅーっ!」
  死なないにしても半狂乱なのはもはや仕方ない。
  そう。
  既に死なないのではなく、死ねないのだ。精神が崩れ落ちない限り彼には救いなど存在しない。
  荒涼たる砂漠。
  渇きと飢えと疲れがファウストの襲い掛かる。
  今までにない強敵であり、力を失っている彼にはそれを覆す事など出来ない。
  「誰か水をっ! 水をーっ!」
  生命を弄んだ報い?
  罪を罰するのであれば速やかなる死は生温いと、誰かが言った。ファウストに対する裁きはまさにその言葉が相応しいだろう。
  彼は死なない。
  彼は死ねない。
  不死を望んだ彼にしてみれば、皮肉な結末だろう。
  「誰か私を殺してくれぇーっ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  そして……。


  「あなたっ! ちょっとあなたっ!」
  「……ん……んん……」
  ベッドに寝転がっていた男性が、女性の声で眼を覚ます。午睡を邪魔された為、また寝起きが悪い性格なので男性の顔にはイラっと
  した感情が立ち昇るものの女性の剣幕で慌てて居住まいをして起き上がる。
  恐妻家のようだ。
  男性の名はライス・ライサングス。シェイディンハル在中の画家であり、その名はシロディールに鳴り響いている。
  主な題材は風景。
  ライスは風景画の権威として名のある人物。
  ライスには秘密があった。
  それは《ディベラの筆》。この筆を手にしキャンパスの前に立つと、脳内に描いた風景がキャンパスに描かれる。そうして出来た絵に
  は筆を手にしている場合のみ(例外もたまにある。描いたばかりの場合空間が安定せず絵に触れたモノを引きずり込む)、絵の中に
  入れるのだ。
  ……。
  もちろんそれは虚名になる。画家としての実力ではない。
  だから。
  だから、ライスは基本的に《ディベラの筆》を封印している。しかし稀に《ディベラの筆》で絵を描くのも確かだ。この筆で鮮明な風景画を
  描いた後に、普通の筆で新たな絵を描くのだ。つまり手本として使うわけだ。
  さて。
  「どうしたんだ?」
  機嫌を取るようにライスは言う。
  妻は癇癪を起こすと怖い。だから怒らさないような口調を彼は弁えていた。
  「倉庫の絵を何とかしてよっ!」
  「倉庫、ね」
  苦笑。
  倉庫にはディベラの筆で描いた、売り物にしない絵がたくさん納められている。捨ててもいいのだが九大神の1人である女神ディベラの
  力を借りて描いた絵を捨てるのは不信神な気がしていた。だから捨てずに置いている。
  倉庫には既に一杯だ。
  「今度新しい倉庫を作るとするよ」
  「いっそ捨てたら?」
  「それは出来ないっ! 問題外だっ!」
  「……」
  語気を荒げるライス。
  問題外の発言だったのに気付いたのか、妻は作り笑いする。
  「ごめんなさい」
  「いや。私も悪かった」
  「その絵も、筆の力で描いたの?」
  「ああ」
  砂漠の絵。
  荒涼たる砂漠の絵だ。筆の力を使ったので、絵の中にはある意味で異世界が広がっている。砂漠の世界だ。
  うんざりしたようなライスの顔を見て、妻は察する。
  連れ添って長い。
  顔を見れば何を考えているか分かる。
  「失敗したの?」
  「……ああ。新しい境地をと思ったんだがね。砂漠は駄目だな、あまり筆が進まない」
  筆が進まない、それはつまりこの絵を手本に普通の筆で砂漠の絵を描く事が出来ない、という意味だ。
  ちなみに、絵が存在する限り絵の中にある異世界は存在し続ける。
  「これ、どうする?」
  「倉庫に入れておいてくれ」
  「はいはい」



  その後。
  絵は倉庫が火事で消失する48年後まで存在し続ける事になる。






  「これが魔剣ウンブラか。ご苦労」
  「全てはデュオス様の御意のままに」
  恭しく頭を下げて魔剣ウンブラを献ずるのはシャルル。かつてはフラガリアに所属していたアーケイ司祭。
  倣岸に頷き、献じられた剣に見惚れているのはデュオス。
  各地を暗躍する黒の派閥の首領。
  室内は広い。
  この場にいるのはデュオスとシャルルだけではなかった。いずれも一癖も二癖もある面構えの男女が集っている。
  デュオスの隣には生真面目そうな顔でヴァルダーグが待立しているし、ソファの上にはフェザリアンのディルサーラがやり取りを
  見ている。阿片は壁際に背を預けているし、その他にもいる。デュオス以外に総勢で12名。
  デュオスは呟く。
  「爺はどうした」
  「若。マスターは黒の派閥の各地の支部の調整に」
  「ふん」
  黒の派閥の首領はデュオス。
  ヴァルダーグが《マスター》と呼称するのはブレイズで言うところのブレイズマスターに当たる。
  「まあ、爺はどうでもいい。居ようが居まいがな。ともかく、この魔剣ウンブラさえあればマンカー・キャモランを出し抜ける」
  「御意」
  黒の派閥は横の繋がりが多い。
  黒蟲教団。
  ブラックウッド団。
  深遠の暁。
  特に深遠の暁とは密接な繋がりがあるものの、かと言って完全なる仲間ではない。出し抜ける材料は常に必要なのだ。
  それだけに魔剣ウンブラ入手を果たしたシャルルの功績は大きい。
  「よくやったシャルル」
  「ありがたきお言葉」
  「今後は俺の親衛隊である《イニティウム》に属せ。それが今回の褒美だ」
  「ありがとうございます。その名に恥じぬ働きをしたいと思っております。……アイレイド語で《はじまり》ですね」
  「そうだ。ここから始まるのさ。国崩しがな」
  くくくと笑い、デュオスは立ち上がる。
  ウンブラを無造作に抜き放ち掲げた。紫色の刀身が禍々しく輝く。
  「ヴァルダーグ、ディルサーラ、阿片、クリュセイス、ブリュンヒルデ、サクリファイス、グレンデル、リリス、バロル、黒き狩り人、セエレ、
  そしてシャルルよ。お前達は俺にとってのブレイズだ。存分な働きを見せてみよっ!」
  『御意に。全てはデュオス皇太子殿下の御心のままに』
  「くくく」







  「ちくしょうっ!」
  暗闇の中誰かが叫ぶ。
  暗闇。
  真なる闇。
  星一つない漆黒の空。……それはそのはずだ。ここはタムリエルではない。異世界カザルト(カザルトは世界の名であり国の名前)。
  夜だけの世界。
  永遠の夜。
  厳密にはそもそも太陽がないし月もない。別に夜が永遠に続いている分けてはない。
  さて。

  「ちくしょうっ!」
  再び叫ぶ。
  声は空しく木霊するだけ。
  男は女王の国家カザルトから追放された身だった。名をバルバトス。
  黄金帝に連なる血筋の末裔。
  最後の、末裔。
  カザルトを覆っていた謀略の日々により他の末裔は全員死に絶えた。現在生き残るのはバルバトス、彼だけだ。
  「俺が帝位に就いたらまずいのか何が不満なんだ愚民どもぉーっ!」
  その声に答える者はいない。
  いるはずがない。
  異世界において唯一ある生活空間は、女王の統治する国だけ。バルバトスはそこから既に遠くに離れている。
  愚痴を聞く者など誰もいない。
  バルバトスは反乱分子と密約を結んだ。それを利用して女王不在の黒牙の塔を占拠、帝位を宣言した。
  だが民衆がそれを許さなかった。
  簒奪者としてて玉座から引き摩り下ろされた。女王の絶大の支持には勝てなかった。
  女王は玉座に舞い戻る。
  その際、女王とバルバトスの間を泳ぎ回っていたシェーラは殺されバルバトスの派閥も一掃された。しかし女王はバルバトスに対
  しては何の罪も問わなかった。
  「くそぅっ!」
  だからこそ。
  だからこそ、バルバトスは出奔した。
  彼は元々プライドの高過ぎる人物。プライドが高過ぎるからこそ高慢に振舞い、暴虐な振る舞いが多かった。プライドがあったが為
  に彼は国に留まる事が出来なかった。屈辱に耐えられなかったのだ。
  そして国を離れた。
  「はあはあ」
  ドサ。
  その場に倒れる。衣服は既にボロボロであり、腰には鞘はあるものの肝心の中身がない。剣がない。
  バルバトスは疲れ切っていた。
  それもそのはずだ。
  休める場所なんかどこにもない。このまま野垂れ死にがオチだ。
  「……」
  自分の人生は何だったのか?
  バルバトスは考えた。
  貴族としての責任に応える為、プライド高く保持し生きてきた。
  何が間違っていたのだろう?
  何が……。
  バルバトスには何故こうなったのか、理解出来なかった。
  「随分と惨めな格好じゃのぅ。……いや。これはもしかして一昔前のヒッピーというやつかの? リバイバルブームの再来じゃな」
  「……爺」
  会った事がある。スラム街近くで会った気がする。
  名も知らない浮浪者のような老人。
  「お前に力を貸してやろうか?」
  「……?」
  「お前の時代を築いてやってもよいぞ?」
  「……なんだと?」
  「ここで成り上がられても困る。しかし、シロディールで成り上がる気があるなら力を貸してやらんでもない。この杖、お前にくれてやろう」
  「……杖」
  黒い卵形の石が先端にはめ込まれた杖。
  黒い卵形の石、それは黒魂石。人の魂を封じ込める効力がある、高位の死霊術師のみが精製可能な魔法アイテム。
  そしてその石に封じ込められているのは……。
  「支配の杖。欲しくはないか?」
  「支配……支配か、好きな言葉だ」




  ……TO BE CONTINUED。