天使で悪魔





死霊術師ファウスト




  創造。
  破壊。
  この二つは矛盾を抱きながらも共生する関係。
  あたかも光と影が切り離せないのと同義。
  創造なき破壊はなく。
  破壊なき創造はなく。
  二つの命題は、二律背反となる。

  わらわはアイレイドの人形姫。
  父王に改造され、創造と破壊を与えられた者。
  選択を与えられたのだ。
  どちらか選べと。

  わらわは気付いた。
  アイレイドの再建は不可能だと。当時完全に腐りきっていた世界、もはや救えぬと。
  わらわは破壊を選択した。
  おそらくは、父王は敵国を破壊し、自国を創造するようにとの意味合いで選択を与えたのだろう。いや、選択ではなく命令。
  しかしわらわは受け付けぬ。そんな戯言。弱腰。

  全てを滅ぼす。
  そう。わらわこそは神。神となり、アイレイドエルフと奴隷の双方を統べて真なる平等な世界を築く。
  それこそがわらわの全て。
  そして存在理由。
  それは今でも変わらぬ。アイレイド滅びし今でもな。

  ……なのに仮初の人格風情が邪魔をする……。
  不届きっ!






  「ほほほ」
  眼を細めて、目の前で怪訝そうにわらわを警戒している小僧を見つめる。
  ポキポキ。
  首を回すと、気持ちの良い音。
  久方振りじゃな、外に出るのは。今年はわらわの年のようじゃ。
  この間表に出たのはクヴァッチとか言ったか?
  ずっとわらわは中で見ていた。
  「ほほほ」
  クヴァッチでわらわと張り合った、あの忌々しい女を何度殺す夢見た事かっ!
  あの女は殺す。
  しかしその前に……。
  「お前も殺さんといかんな。肩慣らしと言った方がよいか。……ほほほ。悪いが付き合ってもらうぞ」
  「ふん。私を誰だと思っている? この程度、予測の範囲内だ」
  「予測とな?」
  「お前が多重人格なのかは知らんよ。しかし、この程度の事態はいつでも考慮している」
  「ほっほぅ?」
  「なかなか楽しい人材だ。……捕えて解剖してやるっ!」
  「やってみよ。小僧」
  「ああ。してやるさ。吠え面かくなよ、小娘っ!」
  「お前がな」

  カッ!
  足元が突然、光る。
  嘲笑う人間。
  光は床を走り図形を描く。……ふん。結界か。
  「小賢しい」
  結界の外に出ようとする。
  途端に……。
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  図形を出ようとした瞬間、雷が結界内を踊り狂う。
  ……捕縛結界か。
  「あっははははははははははははっ! お前が誰だろうと、この結界は破れまいっ!」
  パチン。
  人間は指を鳴らす。
  それと同時に宙を飛んで何かが部屋の向こうから飛来した。
  拳程度の球体。
  なるほど。わらわをどこかに転送するか。
  「……」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  結界からは出られない。
  出ようとすると、雷が足元から襲ってくる。
  この間にわらわを転送するつもりか。
  これが《多少骨がある者》の捕え方か。用意周到ではあるものの……まだまだ甘い。
  自分の事を世故長けて頭の良い、と思い込んでいるようだがただの青二才に過ぎぬ。わらわを誰と思う?
  我こそはアイレイドの人形姫なり。
  ……。
  ふん。
  この程度の結界でわらわを捕えようなどと……馬鹿な事を考えるものじゃ。
  結界の器が小さいな、小僧っ!
  「児戯っ!」
  「……っ!」
  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  床を力一杯に踏みつける。
  軋んだ音を立てながら結界は消失。
  下らぬ。
  下らぬ。
  下らぬ。
  まことに、下らぬ。
  「この程度の戒めで自由になるわらわではないわ。……わらわは安くはないぞ、小童。お高い女じゃぞ?」
  「……っ!」
  冷笑。
  案の定、人間は食いついてきた。この手のタイプは自分がお利口だと思い込んでいる。
  挑発すれば乗ってくる。そしてその通りに。
  ふふふ。
  まだまだ楽しい味付けが出来そうじゃな。
  簡単には殺さぬ。
  ふふふ。
  「わらわの復活に立ち会ったのじゃから、しばらくは付き合ってもらうぞ。……死ぬまでな。ほほほ」
  「ほざくな小娘っ!」
  バッ。
  床を蹴り、飛び掛ってくる。
  「死ね小娘ぇ!」
  「……ふん」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  放たれた炎の球がわらわの直前で爆発。
  炎は届かない。
  この程度、容易に遮断できる。
  ぶわっ!
  炎と煙を掻き分けて、人間が右手を突き出して現れる。首でも絞める気か?
  ……下らぬ。
  「散れ」
  ひゅん。
  糸を振るった。この体はわらわのもの、そしてわらわこそが元々のこの肉体の主。
  心と体が完全にリンクしてこその力。
  今こそ本調子。
  肩ならしに付き合ってもらう気であったが……まあよい、死ぬがよいっ!
  魔力の糸は人間の全身を切り裂いた。
  全身から血を噴出しながら人間は倒れ……。
  「舐めるなっ!」
  「ほうっ!」
  踏み止まったっ!
  致命傷であるのに耐えた……ふぅん。この男、自らも改造しているのか。瞬時ではないものの再生していく。
  そして右腕。
  傷一つ付いていない。
  ……どんなトリックかな?
  試してみるか。
  「滅びろ、小娘っ!」
  「ほうっ!」
  仕切りに繰り出してくる右手の攻撃を避け、避け、避け、わらわは大きく飛んでかわす。
  幾分か感じた寒気。
  あの腕、わらわを滅ぼすだけの力を込めているようじゃな。
  わざわざ受けるほど、試すつもりはない。
  ならばっ!
  「腕をもぎ取るまでじゃっ!」
  ひゅん。
  魔力の糸は……奴の右腕に弾かれた。切り裂けぬとなると……あれは肉ではないか。鋼鉄以上の強度の、義手の類か?
  そして感じた寒気。
  何かの魔法がエンチャントされているようだ。
  ならば付け根から切り裂くか。
  「その腕、貰うっ!」
  ひゅん。
  魔力の糸を振るう。不可視の糸。
  鉄すらも切り裂く……が、どうもあの腕はそれよりも強度があるようじゃな。
  どこまで義手か?
  まあ、それは分からんが……肩ごと持っていけば間違いあるまい。
  そして……。
  「なっ!」
  掴んだっ!
  若造は笑う。魔力の糸が見えているのか。こやつ、どこまで改造してある?
  少々侮れぬな。
  「改めて聞くけど……君は誰だい? さっきまでのレディではないようだけど」
  魔力の糸を掴んだまま、若造は問う。
  「わらわはアイレイドの人形姫」
  「人形姫?」
  少し戸惑う。
  わらわを人形遣い程度と思い込んでいたのは、間違いないな。
  ふん。片腹痛いわ。
  人形遣いはわらわの部下。
  「これは掘り出し物だ」
  「ほぅ?」
  「お前を解析して、増やす」
  「……増やす?」
  意味の分からぬ事を。
  「まさかいやらしい事ではあるまいな?」
  「究極の生物の実験の為にお前のホムンクルスを造る。無数の実験台をね。……オリジナルのお前は永遠に私のものだっ!」
  「ふん。下らぬ」
  「私をただの研究馬鹿だと思うなよっ!」
  「……自分で言うとはやれやれじゃな」
  ブン。
  魔力の糸を掴んだまま、わらわの体を振り回す。
  ふぅん。
  力も大したものじゃな。
  ……しかし芸のない奴じゃ。
  「うおっ!」
  魔力の糸は、わらわの意思一つで消せるもの。
  糸を握ってグルグルとわらわを振り回していた若造は勢いがついたままその場に転がった。
  ……幕引きじゃ。
  「死ね」
  「ランド・ドゥルーっ!」
  ガコン。
  壁が一部、スライドして開く。そこから無数に這い出してくる……なんじゃ、こいつらは?
  見た感じオブリビオンの悪魔であるスハイダー・デイドラに似ているものの、かなり細部が違う。
  カニ?
  カニじゃな。何となく、カニ質なモンスター。
  無数の足を持つ、上半身カニな人型モンスター。どちらにしても自慢の改造生物なのだろう。
  ……面白い。
  若造の首を刎ねるはずだった魔力の糸の動きを修正し、カニ型モンスターに。
  ザシュ。
  無数に這い出してくるモンスターの群れを這い出たと同時に切り裂いて屠る。一撃必殺のこの力の前に物量の差など問題はない。
  わらわはそのように改造された。
  父王に、単身でも敵国の軍勢と戦えるように造られた。
  ……邪魔は父王は始末し実権を奪った上で敵国と争った。懐かしい過去じゃなぁ。
  殺意を振り撒き、死体の山を築く。
  久し振りの残虐。
  「ほほほっ!」
  いつしか哄笑していた。
  楽しい。
  実に楽しいっ!
  「ほほほっ!」
  愉快。
  実に愉快っ!
  どれだけいるのかは知らんが、強化生物如きでわらわに敵うものかっ!
  死ね。
  全部死ねっ!
  「ほほほっ!」
  わらわが八つ裂きにしたランド・ドゥルーとかいうモンスターの首が若造に直撃。その場に崩れ落ちた。
  ふん。惰弱な。
  その程度でわらわを生涯自分にモノにしようとしたなど不届きっ!
  全て壊す。
  全て殺す。
  全て……。
  「フォルトナさんっ!」
  「フォルトナっ!」
  「お嬢さんっ!」
  見た事のある連中が駆けて来る。
  ……?
  仮初の人格の仲間か。
  まあ、そこはいい。理解している。中から見ていたからな。
  しかしあの色黒女は死んだのではなかったのか?
  水晶の映像は……ふん、虚像か。
  まあお陰であの小娘は自らの殻に閉じ篭り、わらわが外に出れた。感謝はしておる。
  「……ほほほ」
  ここで全部殺せば。
  本当に殺せば二度とあの小娘は外には出て来れまい。
  「死ねっ! わらわの為にっ!」
  腕を振り上げ魔力の糸を放つ動作を取る。
  これでこの体はわらわのモノになる。再び、わらわのモノになっ!
  わらわの……。
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ガクっ。
  その場に膝を付く。
  誰だ?
  誰だ?
  誰だ?
  誰がわらわに干渉している?
  一体……くぅ、そうか、お前か……。

  「くぅっ! 歯向かうか、仮初の人格よっ!」
  頭を押さえて身悶えする。
  頭痛。
  頭痛。
  頭痛。
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  思念が逆流するっ!
  これは、浸食?
  「……くくく……」
  含み笑い。
  小賢しい。たかだか仮初の人格風情が……わらわに対して逆に浸食するとは……。
  「……くくく……」
  小癪。
  小癪。
  小癪。
  「仮初風情が、小癪っ!」
  魔力の糸を放つ。
  無差別に。
  柱を切り裂き、壁を切り裂き、ファウストとか抜かす青二才の低レベルな創作生物を切り裂く。
  ……全員殺してやろうか?
  くくく。
  そうさな。拠り所も全て切り裂くっ!
  「消え去れっ!」
  魔力の糸は仮初の人格の大切な大切な仲間を襲い掛かり……。
  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  ……は、弾いた……?
  「なにぃっ!」
  「ふっ。ATフィールドはその程度では破れませんよ」
  物理障壁かっ!
  眼鏡の男は不敵に笑う。
  わらわの魔力の糸を弾くとは……ちっ、まだ本調子ではないのか?
  それほど高度の障壁ではないはずだ。なのに何故破れん?
  ……そんなはずは……。
  「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
  力を誰かが抑えてる。
  そう。
  仮初がわらわに干渉しておるっ!
  「不届きっ!」
  そして……。





  《嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だまた閉じ込められるのは嫌だっ!》





  ……。
  ……。
  ……。
  あたしは誰?
  あたしは……えっと……そう、フォルトナ。
  闇の一党クヴァッチ聖域所属の、元暗殺者。
  フィッツガルド・エメラルダさんに拾われて、ローズソーン邸で暮らしてる。
  あたしは……。
  あたしは……。
  あたしは……。
  「……」
  どうやら倒れているらしい。側に誰かがいる。
  何喋ってる。
  でも何を話してるかは分からない。
  あたし、どうしてたんだっけ?
  ……。
  そうだ。
  死霊術師ファウストに改造された人達との戦った。ファウストは究極の生物を決める《十血の武闘会》とか言ってたっけ。
  全部倒した。
  それからファウストを引っ張り出して……えっと……どうしたんだっけ?
  思い出せない。
  ともかく、起き上がろう。
  ガン。
  「つっ!」
  起き上がるものの、あたしは頭痛でその場にひっくり返った。
  頭痛いよー。
  「はぐぅっ!」
  パタリ。
  呻きながら、誰かが倒れた。
  呻きはあたしだったのかもしれないけど……少なくとも、誰か倒れた。
  状況が分からない。
  ……。
  そういえば眼が見えない。
  眼は開いてないのかな?
  状況がまるで分からないのに、あたしは冷静でいられる。……もしかしたら眼が潰れてるのかもしれないのに。
  声が聞える。
  「いたたたたたたた」
  「……だから人工呼吸はやめときなって言ったんだ。いきなり頭突き食らったじゃないのさ」
  「まったくだぜ」
  じ、人工呼吸?
  ど、どうやら未遂だったみたいだけど……シャルルさんだろうなぁ。きっと。
  仲間の声を聞いて、あたしの意識はまた闇に落ちた。



  「……あっ……」
  眩しい。
  温かい光を手のひらに宿し、シャルルさんはあたしにかざしていた。
  ゆっくりと眼を開く。
  「うまく行きましたね」
  「よかったよフォルトナ、あたいは心配したよ。まったく、あんたって子は……」
  「報酬払う前に死なれちゃ困るぜ。ははは」
  シャルルさん。
  エスレナさん。
  スカーテイルさん。
  皆無事だ。
  だけどあたしは……一体どうしてたんだろう……?
  「あたし、どうなってたんですか?」
  「僕の妙技の前に気絶しました♪ いやぁ僕もついにその高みまで来ましたかー♪」
  「はっ?」
  ガンっ!
  ガンっ!
  無言でエスレナさんとスカーテイルさんがシャルルさんを殴る。
  連携が素敵です。
  さて。
  「それで、実際にはどうなってたんです?」
  「あの状態がどういう意味なのか僕達にも分かりませんよ。どっちが本当のフォルトナさんのなのかもね」
  「……?」
  あの状態?
  どっちが本当の……痛い、考えると頭痛がする。
  意味が分からない。
  「えっと……」
  「まあ、話を進めましょう。……ともかく、消耗しきった貴女は瀕死でしてね。体力も魔力も使い果たしていた。生命維持すらまま
  ならない状況でした。人が人を超えた代償でしょうかね」
  「人が、人を……?」
  「ともかく。貴女は瀕死になった。起き上がって僕に頭突きをするだけの体力しかなかったわけです。あれが最後の体力。眼は開い
  てましたが視力も一時的に失っていたようですね。瞳に光がなかった。まあ、僕の魔法で快癒しましたが」
  「ありがとうございます」
  体を起こす。
  ズキズキとするものの、動かせないほどではない。
  ……あー、魔力はほぼカラだ。
  回復するまでに少し掛かりそうだ。
  「あれ?」
  「どうしたんだい、フォルトナ? 今は休んでな。胸糞悪い奴は……あの通りだからさ」
  指差す先には、ファウスト。
  後ろ手に手錠で拘束されている。鋼鉄製の手錠。
  今まで実験台に使ってた、ファウストの持ち物だろう。いい気味だ。気絶しているらしい。
  「殺してやりたいが、一応は拘束が約束事だろう?」
  「はい」
  「食糧援助してくれたシスティナへの義理立てだからね。拘束して、引き渡す事にしたのさ。……まあ、二、三本の骨は折らせて
  もらったがね。ついでに歯を三本ほど。ふふふ。正当な報酬さね」
  「そうですね」
  あたしは特に否定はしなかった。
  エスレナさんの感情は正しい。殺さなかっただけ、寸止め出来ただけ偉大だろう。
  ファウストは万死に値する。
  ファウストも気になってたけど、でも一番気になるのは……。
  「どうしてここにいるんです?」
  拘束されてたはずだ。
  脱走したのだろうか?
  「お嬢さん。俺と契約してラッキーだったぜ?」
  「えっ?」
  ニヤニヤしているスカーテイルさん。
  ……。
  いや。もしかしたら無邪気な笑みなのかもしれない。
  ただアルゴニアンの感情は読み辛い。見た感じではニヤニヤに見えてしまうだけ。別にスカーテイルさんに他意はない。
  さて。
  「スカーテイルさんのお陰なんですか?」
  「ああ。まあ、俺のお陰だな。特別報酬で頼むぜ? ははは」
  「まっ、彼の言うとおりですよフォルトナさん。彼がいなければ正直僕達は危なかった。感謝感謝です」
  「どういう意味なんです?」
  「俺はシャドウスケイル出身だからな。透明化できるんだ」
  シャドウスケイル。
  ブラックマーシュ地方にあるアルゴニアン王国の暗殺集団。
  生まれながらに透明化できる能力を有する者達を掻き集め、暗殺者として育成する。
  ……。
  ちなみに闇の一党とは提携している。
  シャドウスケイルの人材を派遣する代償に、闇の一党は殺しのノウハウを提供している。人材は一応、貸し出し……という形では
  あるものの完全に移籍する者もいる。
  クヴァッチ聖域のキリングス、現在ローズソーン邸に住んでるオチーヴァ&テイナーヴァさん達もシャドウスケイルだ。
  まあ、そこはいい。
  「えっと、スカーテイルさんも拘束されたんじゃないんですか?」
  ファウストの周囲に漂っていた球体は視認した相手を牢へと転送する。
  どうやって逃れ……ああ、そうか。
  視認か。
  スカーテイルさんは明かりが落ちた瞬間に、咄嗟に透明化したのだろう。
  それで免れた。
  ファウストは常にあたしの側にいたから、全員が牢に転送されたかは確認していなかった。
  明かりが消えた、点いた時にはあたし以外いなかった、全員牢へと無事に転送した……そう思い込んだのだろう。
  その隙にスカーテイルさんは皆を救った。
  あたしは頭を下げた。
  「ありがとうございます」
  「よ、よせよ」
  照れ臭そうに笑う。
  「ま、まあ、礼を言ってくれたから、ボーナスはなしでいいぜ。さて、トカゲの親類さんを探すか」
  「はいっ!」










  《……必ず這い出してやる。お前をこちらに押し込んでな……》
  《……永遠の闇の中に落としてやる》
  《……永遠の……》