天使で悪魔





真実の愛



  愛。
  人はその言葉に酔い、求め、貪る。
  愛の形は人それぞれ。定まった形は存在しない。
  そう、全ては個人の固有のモノ。
  人それぞれの愛の定義があるのだから、必然的に世界には人口分の愛の形がある。

  しかし、愛という言葉はあれどその存在は眼に見えない。
  本当に存在してる?
  ただの虚構、ただの虚無、ただの虚実?
  ただの……。





  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  放たれた電撃を回避し、あたしは魔力の糸を振るう。
  一度放てば、後はあたしの意思で不規則に動く。そしてその糸は不可視。常人では決して避け切れる者ではない。
  熟練の暗殺者ですら回避は不可能。
  ……。
  今のところ、あたしの魔力の糸を回避し、反撃し、あたしを敗北寸前にまで追い込んだのはフィーさんだけだ。
  「はぁ!」
  キヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  異質な悲鳴。
  魔力の糸は空中に浮かぶ、灰色の化け物を切り裂いた。悲鳴を上げながら地に落ちる。
  「若造っ! お前も真剣に戦えっ!」
  「あなたに命令されるのは癪ですね。……まあ、仕事ですから、言われなくても真剣にやってますよ」
  密林での戦闘。
  この近辺にある洞穴からやって来たモンスター退治が今回の仕事だ。
  「アーケイよ、力を。聖雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  電撃が浮遊する化け物を打ち落とす。
  チャッピーはドワーフ製のメイスを手に奮戦。化け物を、場外ホームランの如く吹っ飛ばす。
  残り三匹。
  キキキキキキキキっ!
  独自の言語なのだろうか、意思疎通をして三匹は高く上昇した。
  敵はインプ。
  丁度人の頭ほどの大きさ(翼を広げればそれ以上にはなる)のモンスター。形状としては、翼がある灰色の人間。まあ、顔が
  悪魔っぽいし純粋に人間の形状ではないものの、見栄えとしてはそれに近いものがある。
  悪魔っぽいけど、別にオブリビオンの悪魔ではない。
  こちら側の世界のモンスター。
  インプは魔法が使える。
  魔法は炎、氷、雷、必ずその一つを行使出来る。どういう理屈で扱える属性が決まるかは不明。
  さて。
  「ふぅん。逃げるつもり、ではないようですねぇ」
  呑気なシャルルさんの声に応えるように、魔法が頭上から降り注いだ。
  当たるような力量の人は、フラガリアにはいない。
  あたしは叫ぶ。
  「チャッピーっ!」
  「御意」
  こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。
  息を大きく吸うドラゴニアン。
  密林ゆえに炎は使わなかった。しかし相手が空にいるなら話は別だ。
  「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!」
  普段喋ってる時の声の面影は一切ない。
  チャッピーは吼えるように、炎を吐いた。炎のブレスは上空のインプを焼き尽くす。
  ……。
  一応、チャッピーは二種類の炎が吐ける。
  お手軽に、ためずに放てる炎の球。
  動作が多くすぐには放てないものの強力で、拡散型の炎のブレス。
  ドラゴニアンの特殊能力だ。
  さて。
  「任務終了ですね。皆、ご苦労様」
  「いえ。マスターのお力の賜物です」
  「さぁて楽しい報酬タイムですねぇ。お金お金お金ー♪」




  「いやぁ労働の後の買い食いは最高ですねー♪」
  「あたしもそれ分かりますけど、アメリカンドッグのアメリカンってどういう意味なんです?」
  「マスター、それは永遠の謎でございます」
  露店で買ったアメリカンドッグを頬張りながら、あたし達は労働の後の心地良さを堪能していた。

  通りを歩くあたし達。
  「皆、今日も一日ご苦労様です」
  「いやいやフォルトナさんこそお疲れ様です。魔力の糸を使えるあなたが常に主戦力ですからね。お疲れでしょう」
  「若造と意見が珍しく一致したな。……マスター、宿に戻ったら静養してください」

  「うん」
  冒険者の街フロンティア。
  インプの居場所を特定するのに時間を食った。殲滅は30分だったけど。
  朝から密林に出張って、帰ってきたらもう夕方だ。
  往来には冒険者が目立つ。
  今のうちにお宝を換金して、夜は騒ぐのが通例だ。
  その反面、この街の住人達は家路に急いでいる。まあ、当然だね。冒険者の生活に合わせるのは不可能だ。
  金銭的にもね。
  それに皆が皆、冒険者の生活のリズム狂いまくりの生活してたらこの街は成り立たなくなる。
  「ふぅ」
  今回の仕事は疲れた。
  インプが宙を飛び回るから、上ばっかり見て戦ってたら首が痛い。
  「フォルトナさん達は先に戻っていて結構ですよ。僕が冒険者ギルドに報酬を受け取りに行ってきます」
  「でも、いつも任せっぱなしじゃ悪いですよ」
  「いえいえ。報酬着服するのに同伴はまずいですから」
  「……」
  「ははは」
  爽やかに笑う。
  い、いや爽やかに笑われても。
  「冗談ですよ、冗談」
  「当たり前だ若造」
  「そもそも貴方の取り分はありませんからね、トカゲさんはフォルトナさんの丁稚奉公の身なんですから」
  「滅私奉公だ愚か者め。我輩は金ではない、忠義だ」
  今回の依頼《街の周りを徘徊するインプを倒して》は解決。気が付けば普通に冒険者してるのが、不思議でならない。
  少し前までは暗殺者だったのに。
  ……。
  毎日が楽しくて、幸せで、少し怖くなる。
  フィーさんが前に言ってた。あたしは、自分に似てるって。
  フィーさんも幸せな時は、怖いと感じるのだろうか?
  「どうしました、フォルトナさん?」
  「あっ、何でもないです」
  「マスター。働きすぎではございませぬか? 若造の金儲けにわざわざマスターが関わる必要はございませぬ」
  「トカゲさんはいいですねぇ。そうやって良い子演じてればフォルトナさんに庇ってもらえますから。羨ましい羨ましい」
  「貴様愚弄するかっ!」
  「働いてるから食べれるんです、その理屈をコケにした貴方が悪い」
  ……また喧嘩かぁ。
  最初は、シャルルさんがチャッピーを嫌うのはアーケイ関係だと思ってた。
  九大神の1人アーケイは不死を嫌う。
  その司祭であるシャルルさんも信仰の一環として実質無限の生命力(寿命では死なないという事)を持つドラゴニアンを嫌っ
  ているのだと思っていた。そういう理由だと思ってた。
  でも違うみたい。
  そもそも性格が、合わないらしい。
  ドン。
  「あっ」
  走って来る子とぶつかった。
  あたしはよろけただけ。でもその子は、転んだ。あたしは手を差し伸べ……。
  「あっ、シンシアちゃん」
  この間、出会った子。
  お母さん想いで、活発で、可愛い子。でも……。
  ……。
  シャルルさんの力で、体は治ったものの心の傷は癒えないだろう。
  永遠に。
  永久に。
  思わず涙ぐみそうになるあたしに、シンシアちゃんはキョトンとした顔で首を傾げていた。
  そ、そうだね。泣いたらおかしいね。
  手を掴んで立たせてあげる。
  「ありがとう。お姉ちゃん。それとごめんね、ぶつかって。痛くなかった?」
  「大丈夫」
  「お姉ちゃん達、冒険者? 格好良いね♪」
  「……?」
  冒険者?
  何でわざわざ聞いてるんだろう、この間会った時に……えっ?
  「体を治した時にね、薬で少々細工をしました」
  耳元でシャルルさんが呟く。
  薬?
  「彼女の母親も了承してます。いや、母親の希望なんですよ。暗示性のある薬をね、使ってあの日の事はなかった事にした
  んですよ。副作用はないですけど、まあ、あの日に出会った人も覚えてない……これは副作用に値しますかね」
  「な、何か手際良いですね、シャルルさん」
  「誉めてます、それ?」
  「やり方は正しいかどうか、判断しかねますけど……あんな記憶は、ない方がいいとは思います」
  「そうですねぇ。心の傷は、消せるなら消した方が得策です」
  そっか。
  そうだよね、あんな記憶、ない方がいいよね。
  ……あんな記憶……。
  「あたし達は冒険者で、フラガリアってチーム組んでるの。あたしはフォルトナ」
  「僕はシャルル。初めまして、小さな淑女さん♪」
  「我輩はチャッピー。……あ、遊んでやってもいいぞ」
  あっはははははっ。
  チャッピー、小さな子供に弱いらしい。子供好きなのかな?
  ……。
  ロリコン?
  ま、まさかあたしもそんな感情で主に祭り上げられてる?
  こ、怖い発想しちゃったっ!
  はぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「あのね、わたしはシンシア。……遊んで欲しいけど、夕飯だから帰らなきゃ。じゃあね、また今度遊んでね♪」
  「あっ」
  走り去る。
  送って行ってあげた方がいいよね。
  この間の貴族のような事をする冒険者はこの街にはいないとは思うけど、それでも心配だ。
  「必要ないですよ」
  「でも」
  「必要ないんです」
  「……?」
  意味が分からない。
  しかしそれは数秒で、シャルルさんの言葉の意味がすぐに理解出来た。
  「やあ。元気かい。じゃあね」
  そのまま走り去るエスレナさん。
  なるほど。
  お母さんが、冒険者ギルドに依頼したのか。ボディーガードを。そして受けたのがエスレナさん。
  吸血鬼ハンターなのに、吸血鬼と関係なくても仕事を受けるらしい。
  「エスレナさん雇ったのかぁ」
  「まあ、仕方ないですね。親ですから。それに、しばらくは怯えるのも仕方ないですよ。あんな事があったんですから」 
  「ベルウィック卿は約束護ってくれましたね」
  貴族二人は帝都の監獄行き。
  普通ならありえない。
  「まっ、その辺は賞賛に値しますけどね。僕から言わせれば、あんな貴族は死ねばいいんですよ」
  辛辣な言葉。
  シンシアちゃんとお母さんは、捕まったとはいえ貴族の行動の所為で縛られ続ける。
  お母さんは心配し、怯え、我が子が無事かと悩み続ける。
  家から出さない?
  それは無理だと思う。お母さんはお母さんで働いてるから、ずっと側に入れるわけじゃないし。
  一度、怯えたらいつまでもそれを引き摺るのは人間として仕方ないだろう。
  結果、冒険者ギルドにボディーガードを依頼した。
  決して安くはない。
  ……。
  心の傷が癒えるのは、いつになるんだろう?
  「こういう言い方は酷ですが、時間が解決してくれますよ。……それ以外は、不可能です」
  「そう、ですね」
  「では僕は冒険者ギルドに行ってきますよ。フォルトナさんはどうぞお先にお帰りになっていてください」
  「はい」
  「参りましょう、マスター。雑事は若造に任せていればいいのです」
  「おやおやトカゲさん、まだいたんですか? 発言ないから土に潜って冬眠してるかと思いましたよ」
  「貴様殺すっ!」
  「面白い冗談ですね。……どっちが強いか、確かめますか?」
  な、なんなのこの2人はーっ!
  シリアスな話をしてたと思ったら、喧嘩ばっかりっ!
  「もう知りませんっ!」
  あたしは1人で宿に戻った。
  ……いちいち付き合ってられません。



  「お帰りなさい」
  「ただいま戻りましたー」
  アーサン・ロシュさんは笑顔で出迎えてくれた。
  あたし達が投宿している《優しき聖女》。ご年配の女性である、アーサン・ロシュさんが経営している。
  基本的に宿は酒場を兼ねている事が多い。
  しかしこの宿は違う。
  料金も適正だし、雰囲気も良いし、清潔感が漂ってる。
  酒場で飲んで騒ぐのが前提の冒険者達は敬遠するけど、お酒がそんなに好きじゃない人や、駆け出しの新米、女性の冒険者
  には人気が高い。
  最初は何も知らずに泊まったけど、ここを選んでよかった。
  あたしもこの雰囲気好き。
  アーサン・ロシュさんも面倒見の良い人で、冒険者から人気がある。

  「フォルトナちゃん、お客様が待ってましたよ」
  「お客?」
  アーサン・ロシュさんの視線の先を見る。
  黒いローブの女性がいた。フードを目深に被っているので顔がよく分からない。ただ、女性なのは分かった。
  「えっと、どなたですか?」
  「依頼を持ってきました」
  「依頼?」
  冒険者ギルドを通さない依頼は危険。
  犯罪行為スレスレか、もしくは犯罪側の領域にどっぷり浸かっている依頼という事になる。
  冒険者ギルドは犯罪行為には加担しない。
  理屈は戦士ギルドと同じだ。
  ……。
  大抵、隠し事や犯罪行為に加担しかねない依頼を持つ者は冒険者ギルドを通さない。依頼人の身元が曖昧であったり
  依頼内容が規定に反している場合は冒険者ギルドはその依頼を拒否する。
  あくまで信用商売だからだ。
  だからこそ冒険者ギルドを通さない……いや、冒険者ギルドが通さない依頼を受けるのは危険。
  前回の運び屋で懲りてる。
  どんなに報酬が良くてもリスクが大き過ぎる。
  「すいませんけどあたし達フラガリアは冒険者ギルド以外からは依頼は受けないようにしてるんです。ごめんなさい」
  「いえ、フラガリアだからこそ受けて欲しいんです」
  「……?」
  「直接、破壊大帝に出会った貴女達だからこそ」



  数分後。
  あたしは、彼女を部屋に案内した。
  「つまり?」
  「つまり、生きた証を探して欲しいんです」
  破壊大帝の姉。
  女性はそう名乗った。
  この間フロンティアにオブリビオンの門を開き掛けた魔術師。同僚を殺害した為に所属していた魔術師ギルドに賞金を掛けられた。
  最終的に自滅。
  シャルルさん曰く、今現在は悪魔達の世界オブリビオンを彷徨ってるのだそうな。
  多分今頃死んでる。
  「その、どうしてあたし達なんです?」
  まだ2人は戻って来てない。
  勝手に依頼を受けた……いや、まだ正式には受けてはないものの、話だけでも聞いてるのは純粋に興味が湧いたからだ。
  「世間では、特にこの街ではあの子は殺人犯で、気の触れた魔術師だと思われています」
  「はあ」
  「しかし貴女達は実際、相対したそうですよね」
  「はい」
  密林で会った。
  その時は吸血鬼に邪魔されて、見失ったけど。
  二度目はフロンティア。オブリビオンの門を具現化させ、そのまま向こう側に引きずり込まれる様を見た。
  でもそれが依頼される理由になるのかな?
  「あの子の印象は?」
  「印象、ですか」
  「印象」
  「えっと、変わった人、かな。少し間抜けで、本当に人殺しなのかなって。……あっ、もしかして冤罪ですか?」
  「いえリアルに殺したそうよ」
  「……」
  やっぱり意味が分からない。
  冤罪なのを証明して欲しいのとか思ったものの、違うらしい。
  何なの?
  「ただ分かって欲しいのは、世間で言うほど悪人ではなかったという事。貴女は実際に会った。破壊大帝は凶悪……ではなく
  実際はただ間抜けで愚かで足が臭いだけの男だと貴女は認識してる」
  「い、いえそこまでは認識してないです」
  「ともかく偏見なく依頼を受けてもらえる。……冒険者ギルドに行ったら拒否された。依頼は受けられないってね」
  「……」
  「何でもいいのよ、弟の生きた証が欲しい。遺品ってやつね。父母も欲してる。この辺りにあの子が潜伏していた洞穴があるの。私
  が探しに行かないのは弟が従えてたゴブリンが洞穴に徘徊してるから。冒険者の力が必要なのよ。受けてもらえる?」
  「えっと」
  受けようと思う。
  シャルルさん達怒るかなぁ。
  提示された報酬は金貨20枚。この街で暮らす冒険者にしてみれば微々たる額だ。
  でも、遺品探しなら力になってあげたい。
  「はい。受けます」
  「ありがとうっ!」
  洞穴の場所を聞いた。
  彼女は隣の黒熊亭に宿泊しているらしい。路銀の関係もあるので3日以内に探して、持って来て欲しいという。
  ……あっ。
  名前聞くの忘れてた。
  「あの、そういえばお名前は?」
  「魂の名でいいかしら?」
  「魂の?」
  弟さんが破壊大帝だったから……もしかして、この人もそっち系?
  破壊大帝って魂の名だったんだぁ。
  ……。
  いや、魂の名って何?
  「私はヘドリアン女王。悪の華よ、禍々しくも華やかに咲け。ほーっほっほっほっ!」
  「……っ!」
  へ、ヘドリアン女王?
  か、格好良い。
  姉弟揃ってなんてセンスの良いネーミングなんだろう。あたし感激っ!
  「東映の悪の女王曽我町子女史の演じたヘドリアン女王こそ、悪の華、美学っ! ほーっほっほっほっほっ!」





  「……で、そんな妙な奴から依頼を受けたわけですね。勝手に。独断に。僕は今日は疲れてるのに。はした金なのに」
  「……すいませんでした……」
  辛辣にネチネチと、シャルルさんが呟く。
  金額安いのが労働意欲の湧かない理由でもあるらしい。
  それに、本日はインプ退治に一日中密林にいた。わざわざ本日二回目の密林ツアーが面倒らしい。
  まあ、あたしも正直疲れてるけど。
  「ごめんなさい」
  「いいですよ。この先僕の事をお義兄ちゃんと呼んでくれたら」
  「……お兄ちゃん」
  「シャラーップっ! お義兄ちゃんです。血が繋がってないからこそ、萌えなのです。その美学が分からないのですかっ!」
  「……」
  すいません分かりませんそんな美学。
  最近妙に性格の路線変更をしているっぽいシャルルさん。疲れてるのだろうか?
  「マスター、お気になさるな」
  「ごめんね、チャッピーも疲れてるのに」
  「いえ。そのお気遣いだけで我輩は幸せでございます」
  さっき街に帰った時に既に夕刻だった。
  今は完全に夜。
  3日は街にいるんだから、明日に回してもよかったけど……明日は明日で恒例のローヴァー家族への補給物資運搬の日だ。

  それに今回の依頼人に無駄な宿泊費を使わせるのもどうかと思ったし。
  「ふぅ。すいませんね、フォルトナさん」
  「えっ?」
  「今日は人と会うつもりだったので。急な依頼で街を離れた。それに対して少しイライラしてました」
  「人と……えっ、それなら言ってくれれば……」
  「いえ。フラガリアのメンバーですからね。チームとしての依頼は、一緒にこなすのが仲間ですから」
  「あの、それで会う人って……」
  「黄金帝の秘宝の情報をね。まあ、彼は情報屋ですかね」
  「黄金帝の」
  アイレイド文明の際にこの辺りに君臨した暴君。
  強欲で、執着心の強い王で街も民も自分自身も錬金術で黄金にしたらしい。だから、黄金帝と言うの。だそうだ。
  生来強欲だったその王は様々な秘宝の収集でもあった。
  あたしが欲しいのは千里眼の水晶とも呼ばれるサヴィラの石。
  シャルルさんは……。
  ……。
  あれ、シャルルさんは?
  「あの、黄金帝の秘宝で何が欲しいんです、シャルルさんは?」
  「僕ですか?」
  「はい。聞いてなかったです」
  「ウンブラ」
  「ウンブラ?」
  「魂を食らう魔剣です」
  「へー」
  それ以外に答えようがない。
  魂を食らう……聞いてる限りでは物騒だけど、別に欲しているものを否定する気はない。
  さて。
  「少々やさぐれてましたけど、働きましょうかねぇ。安い報酬ですが、まあ、一食分にはなるでしょうね。お金はお金、稼ぎましょうか」
  「シャルルさんやる気出てきましたね」
  「遅いのだ若造。我輩はマスターの号令の時点でやる気全開だぞ。我輩を見習え」
  「え、えっと、仲良く行きましょうね」
  目的の洞穴が見えてきた。
  ……そして徘徊するゴブリンの姿も。




  タムリエルにおいて、ゴブリンは雑魚ではない。
  適応と順応に優れているのでどんな場所でも生きられるし、環境に応じて個体の強弱が変わる。
  特に魔法に長け、部族を指揮するゴブリンシャーマン。
  ゴブリンの将軍とも呼ばれ強力な武力を誇るゴブリンウォーロードは強力な敵だ。
  ……。
  まあ、あたしはまだ話だけでそいつらとは遭遇した事ないけど。
  今まで暗殺者してた。
  つまり、対象は常に人。モンスターやオブリの悪魔達とは疎遠。あまり関わり合いがない。
  暗殺者は冒険者ではないからね。
  そんなにモンスターとのお付き合いはなかった。
  「はぁっ!」
  「アーケイよ、力を。聖雷っ!」
  「おらぁーっ!」
  魔力の糸が。
  電撃が。
  メイスが。
  洞穴内を徘徊し、向ってくるゴブリン達を蹴散らす。
  幸いこの洞穴にいるのはそんなに強くない。シャーマンもウォーロードもいない。……そもそも滅多にいない個体みたいだけど。
  洞穴内は死屍累々。
  結局、あたし達に一太刀も浴びせれないままゴブリン達は沈黙した。
  「歯応えないですねぇ」
  「珍しく意見が合ったな若造。同感だ、欠伸が出るほど弱いな」
  ゴブリン殲滅。
  元々この洞穴にいたゴブリン達を破壊大帝が従えていたのか、それとも方々のゴブリン達を率いてここに住まわせていたのか。
  どっちかは知らないけど、ゴブリンしか友達いないだなんて可哀想。
  「行きましょう」
  「御意」

  ゴブリン軍団を一掃し、洞穴の最奥に。
  そこは居住空間だった。
  生活の匂いがする。
  「どうやらここがお目当ての場所のようですねぇ」
  「そうみたいですね。手分けしましょう」
  「御意」
  ゴブリンは、モンスターの中では唯一の人間臭い連中。
  モノを食べる時に食器を用いたり、スプーンやナイフも使う。寝床も自分でこしらえる。
  しかしこの空間はゴブリンのモノではないだろう。
  少なくともゴブリンの感性で出来るレイアウトではないし、不潔を厭わないゴブリンにしては清潔感が漂っている。……洞穴の中
  にしては、だけど。
  錬金術の道具の数々や、薬草や毒草、魔道書や記録などが置かれている。
  魔道に精通している人物の部屋のようだ。
  あたし達は手分けして部屋を漁る。
  手分けして、といってもそんなに広い部屋ではない。依頼人が望む、弟の生きた証を探す。
  ……。
  まあ、どのような類がそれに当たるかが結構難しいけど。
  「シャルルさん、どんなのがいいんでしょうか?」
  「記録には色々と書き込みありますけど、生きた証ではないですねぇ。……そうですね、日記の類でしょうか」
  「しかし若造、日記などあるのか?」
  「僕の部屋ではないのでそんなの知りませんよ」
  「ちっ。無責任な奴め」
  ……すぐ喧嘩するんだから。
  今のところ口喧嘩だけで実力行使には発展していない。されても困るけど。
  ともかく口喧嘩だけで終わるのが最近分かってきたのであえて止めない時もある。疲れるもん、結構。
  黙々と部屋を探す。
  「あれ?」
  本棚の中から、表紙に何も書かれていない一冊の本を見つけた。

  ペラ。
  めくってみる。
  内容は、どうやら日記の類のようだ。読んでみよう。


  『下らない日々。研究、研究、研究』
  『いつになったらアルケイン大学に移籍できるのだろう。この才能をシェイディンハルで腐らせるのは間違ってるっ!』
  『私は、天才なんだっ!』

  『来る日も来る日も下らない実験』
  『魔術師ギルドの、ここシェイディンハル支部は建物の規模こそ大きいもののやっている研究は三流魔術師といい勝負の
  代物ばかりだ。そもそも支部長のファルカー自体、大した腕は持っていない』
  『何か楽しい事はないだろうか?』

  『ファルカーが追われたっ!』
  『あいつ実は隠れ死霊術師で、各地に潜伏していた死霊術師達とともに一斉蜂起するつもりだったらしい』
  『結局は大学の方が事前に察知し、反乱は叩き潰された』
  『ファルカーは逃げた』
  『おいおい、俺の時代の到来か? 俺が次の支部長に選出されるのは間違いない』

  『支部長になったのはトカゲだ。何故私じゃないっ!』
  『私は今世紀最高の魔術師なのにっ!』
  『ハンニバル・トレイブンは二十歳そこそこの女を愛人にしてるという噂もある。毎晩その若い体を楽しみ、痴夢に耽っているとか
  聞いた事があるな。私が唯一認めていた最高の魔術師も耄碌しているのか?』
  『そうだな、耄碌してるに違いない。私を抜擢しないのだから』

  『私の研究は桁が違う』
  『他の連中がやってる事なんてお遊びだ。私はタムリエルとオブリビオンを繋ぐ次元の門である、オブリビオンの門を具現化する
  だけの実力がある。結局、魔術師ギルドもこの程度か。大学も高が知れてる』
  『組織を離れて一人で研究した方が静かでマシだろうか?』

  『酒場で飲んでいると1人の女に誘われた』
  『アルトマーの良い女だった』
  『一緒に飲んだ。その後に何があったかは……ははは、誰かに読まれると困るので書くのはやめておこう』

  『彼女は最高の女だっ!』
  『彼女の微笑が頭から離れない。また酒場に行ったら会えるだろうか?』

  『あれから何度も会ってる』
  『名をルマ・キャモラン。私が知る限り、最高の女性だ。兄妹仲が良いのか、頻繁に兄貴の方も酒場に顔を出す』
  『私はあまり兄貴とは話さないけどな』
  『ルマとの話題は、魔法だ。いつも彼女は俺の魔法を聞きたがる』
  『2人きりになっても私の才能を正当に認め、周囲に認められなかった私の心を優しく慰めてくれる』
  『彼女は私の全てだっ!』

  『今度父に会って欲しいと彼女は言った。マンカー・キャモランとか言ったか?』
  『親を紹介される、つまりは……そうだな、私もそろそろ身を固めてもいいかな。ルマとなら大歓迎だ』

  『少し怪しい雰囲気の父親だった。危険な感じがした。気のせいだろうか?』
  『変哲のない指輪が欲しいと言っていた』
  『変哲のない指輪。強大な魔力を秘めた指輪の事で、ファルカーのコレクションの一つだ。あいつは指輪マニアだったからな』
  『今もその指輪はシェイディンハルの魔術師ギルド会館に秘蔵されている』
  『結納の品って事か?』
  『どうせ魔術師ギルドにはもう未練がない。ルマと一緒になれるなら、大したリスクじゃない』

  『ちくしょうっ!』

  『同僚に、変哲のない指輪を盗むところを見られた』
  『その同僚は告発の代わりに、私に金銭を要求してきた。一度払えばエンドレス。麻痺の魔法で奴の自由を奪い、ファルカー秘蔵
  の別の指輪を使った。加重の指輪とか言ったか。指に嵌めたら、強力な加重が掛かる指輪だ』
  『同僚に指輪を嵌めて井戸に沈めた。面白いぐらいに沈んだ』
  『ははは。溺死するがいいさ』

  『ルマは変哲のない指輪を持って消えた。街からいなくなった。俺は騙されていたのか?』

  『シェイディンハル支部のメンバー達は最近井戸の水が臭うと話題にしている。変な味がするとも言ってる』
  『そりゃそうだ。死体が沈んでるんだからな』
  『俺だけ井戸の水は呑まない』
  『……そろそろ潮時だ、いくらなんでもばれるな。逃げるとしよう』

  『冒険者の街フロンティアまで逃げてきた』
  『これからは自らの魔道の際を存分に発揮して生きよう。もう誰にも気兼ねしない』
  『我こそは破壊大帝なりっ!』

  『賞金が掛けられた』
  『単身では心許ないな。ゴブリンどもなら買収すればあっさり傘下に入るだろう。いつかはこの辺りを仕切ってやるっ!』

  『冒険者ギルドからの放たれた猟犬のような冒険者達の追撃をかわす』
  『いきなり吸血鬼が襲って来た時は正直、びっくりしたがとりあえず悲鳴をあげて逃げた』
  『うまく行けば死んだと思うだろう』

  『ここは暮らし辛い。モロウウィンドにでも逃げようか』

  『真実の愛を得る方法が分かった』
  『隠れ家に、愛しいルマが昨日、来た。彼女の目的がやっと分かった。私は彼女の望みを叶えよう』
  『この世界をオブリビオンに浸食させるのだ。そして魔王を呼び出そう』
  『今まで私は誰からも認められなかった』
  『性格?』
  『態度?』
  『それもあるだろう。しかし周囲が私の才能を妬んでいたからというのも間違いではないはずだ。私はルマに殉じる』
  『彼女だけが私を正当に評価してくれた。それは人生最高の法悦だ』
  『彼女の目的は変哲のない指輪。そして私の魔法の才能。決して私ではなかった』
  『でもそれでもいい。何か問題があるか?』
  『私は彼女に全てを捧げよう。生涯、彼女が望む事をやり続けよう。それこそが私の愛の形なのだ』

  『報われる必要はない。私は君を愛しているから。それで充分だ』



  パタン。
  「……」
  無言で、本を閉じた。
  この人は少し道を外れただけなのかな?
  よく、分からない。
  シャルルさんが手を差し出した。あたしは手にしていた日記を、手渡す。
  そして考える。
  「……」
  破壊大帝。
  やってる事は、悪人だ。
  ゴブリンを率いて街を襲撃(住人の死傷者はゼロ。ゴブリン軽く返り討ち)したし、この世界と悪魔達の世界を繋げようとした。
  賞金を掛けられたのだって、殺人を犯したからだ。
  でも日記を読む限りではそこまで悪人には思えない。
  認められたかった。
  あたしには魔法関係は分からないけど、魔法の使い手であるシャルルさんですら、あの時開いた門を見て驚愕した。
  あんな芸当、まず出来ないものらしい。
  実力があるのに認められない。
  それが一番辛いと思う。
  誰かに認められたい、という動機は決して不純ではない。
  それに、そもそも最初の犯罪は窃盗。
  そこから、色々な要素が、不運が降り注いできた。殺された人も必ずしも善人ではなかった。一度きりの脅迫かもしれないけど、
  エンドレスに続くと考える方が普通であり、そういう意味では殺された側の人にも責任はあったと思う。
  「どうされました、マスター」
  「えっ? な、何が?」
  「顔色が悪いです。何が書かれていたのです?」
  「大丈夫、変な内容じゃないから」
  微笑む。
  でもその微笑みは、どこか強張っていた。
  あたしは結局、子供だ。
  愛なんてまだ分からない。そして日記を読む限りでは、破壊大帝は同情すべき相手にも思えてしまう。
  この間まで、悪人だと思ってたのに。
  ずっとただの悪い人だって信じて疑わなかったのに。
  急に価値観が逆転した事により、あたしは少し混乱していた。
  真実の愛?
  真実の……愛って何……?
  「ふぅん」
  パタン。
  日記を閉じ、懐にしまうシャルルさん。
  「行きましょう。依頼人が待っています」
  「おい若造、コメントはないのか」
  「コメント?」
  「マスターがこんなにも心痛めているのに、何かフォローみたいな……」
  「ないです」
  さらりと言い切る。
  眼鏡を外し、ポケットから布切れを出して透明のレンズを拭く。
  「愛の形なんて人それぞれです。別にこの日記の主の愛の形をどうこう言う気もなければ、フォルトナさんが感じ、考えている愛
  の形にも興味がない……というか、口出しするつもりはありません」
  「人、それぞれ?」
  「ええ。人それぞれ。他人がどうこう干渉するものではないでしょう。少なくとも、彼の愛を否定はしませんよ、僕はね」
  「……」
  「あまり考えない事です」
  優しげな口調で、あたしの髪を何度か撫でた。何かくすぐったい。
  チャッピーはそれを見て少しムッとしたものの、あえて何も言わなかった。
  「愛なんて子供には分からない。でもね、大人にも分かりませんよ。本当に愛なのかなんて、自分ですら分からない」
  「そういう、ものなんですか?」
  「ええ」
  少し、安堵。
  そっか。分からないんだ。何か少し気が楽になった。
  「僕がフォルトナさんに感じているのは愛なのか、欲情なのかは分かりません。はあはあ♪ フォルトナたん♪」
  「……それ、ここ最近で三回目ですよ?」
  「ははは♪」
  あ、遊ばれてるよー。
  はぅぅぅぅぅぅっ。
  「しかし日記の内容ですと……ふぅん、フロンティアでオブリビオンの門を具現化させたのはルマ・キャモランの為になりますねぇ。
  となると最初から計画的に。まあ、結果として門は暴走し、奴は門の向こうに引きずり込まれましたけど」
  「何者なんでしょうか?」
  「さあ。僕にも知らない事はありますよ」
  「……ですよね」
  「まあ、いいでしょう。ともかく日記は手に入った。依頼人のところに戻るべきではないですか?」
  「そうですね。行こう、チャッピー」
  「御意」



  冒険者の街フロンティア。
  黒熊亭の一階にある酒場で依頼人である破壊大帝のお姉さんのヘドリアン女王さんが待っていた。
  ……。
  それにしても姉弟揃って……格好良い異名だなぁ♪
  何かときめいちゃう♪
  「これをどうぞ」
  日記を差し出す。
  中身を改め、弟さんの筆跡だと確認し、頷いた。満足そうな笑顔だ。
  弟さんの生きた証が欲しいという依頼完了。
  「ほぉーほっほっほっほっ!」
  口元を手の甲で覆い、突然高笑いをする依頼人。そして高らかに、朗々と語り出す。
  バッ。
  シャルルさんとチャッピーが構えた。
  何で?
  「お主達、よくぞこれを貰ってきてくれた。感謝するぞ? ……しかし悲しいかな、ここでお主達との関係も終わる。これが手に入った
  以上、もはや用がないと言うべきか。私の感謝の印を受け取り、消えるがいいっ!」
  「トカゲさんっ!」
  「うむっ!」
  構える2人。
  そして……。
  「ほほほ。ご苦労であったな、フラガリア。助かったぞ」
  「また何かありましたら、ご指名くださいね」
  金貨の入った袋をあたしの手の上に置いてくれる依頼人。微笑し、彼女は清算を済まして黒熊亭を後にした。
  早々に生家に帰るつもりらしい。両親に弟の遺品を見せるのだろう。
  ……。
  ……両親もそっち系?
  あ、ありえるかも。
  さて、問題はこの2人。
  依頼完了なのに、何で構えてるんだろ?
  「何してるんです、2人とも?」
  「い、いやだって彼女、悪の女幹部の如くに……ええ? フォルトナさん、これはどういう法則ですか……?」
  「……? 悪の美学を追う人だから口調はこんなものでしょ?」
  「……な、何て紛らわしい……交渉決裂かと思いましたよ……はぁ……」
  やたら疲れた口調のシャルルさん。
  チャッピーはチャッピーで深い溜息を吐いた後にカウンター席に行き、お酒を注文してる。何なの?
  「フォルトナさん」
  「はい?」
  「今の、彼女の、台詞の訳をお願いします」
  「訳?」
  「訳」
  「えっと、日記を持って来てくれてありがとう。でも悲しいわ、これでお別れなんて。でも日記が手に入ったから、もうお互いに留め
  る必要はないわね。私の感謝の印を受け取ってください。……だから金貨貰ったんだけど何か問題が?」
  「……理解不能です」
  「はっ?」
  「世代の違いですかねぇ。脳が柔らかい発想、出来ないようです」
  「……?」






  「はぁ」
  あたし達が長期滞在している《優しき聖女》という宿。あたしが借りてる部屋。
  湯浴みも済み、3人での食事も済み、1人の時間。
  借りてる部屋は二部屋。
  あたしの部屋。
  シャルルさんとチャッピーの相部屋。
  ……。
  さ、さすがにあたしも乙女だもん。
  男の人と一緒は無理。
  「愛かぁ」
  窓際から空を見上げている。
  星が瞬き、お月様が輝いている。ロマンチックなこの空の下で、たくさんの人が愛を語らっているのだろう。
  いいなぁ。憧れるなぁ。
  ……。
  も、もちろんプラトニックな愛の語らいにだからねっ!
  「あの人は純粋だったのかな」
  破壊大帝。
  日記を読む限りでは純粋だった。真実の愛を得る為に、懸命の努力をしてた。
  でも、結果はあんな風になってしまって。
  誰が報われたんだろう?
  少なくとも、彼は報われなかった。
  ……。
  ……そうでも、ないのかな?
  シャルルさんが言ったように愛の形なんて人それぞれ。あたしが報われてない、と思っても当の本人は報われた生きてて
  よかったと思っているのかもしれない。
  子供にも大人にも、愛の本質は分からないー……みたいな事を言われたけど、本当にそうなのかな?
  ただ言える事は一つ。
  「どうせあたしはお子様ですよー」
  精一杯背伸びしてるつもりなのになぁ。シャルルさんに、子供だと断定されたようなものだ。
  愛かぁ。
  いつになったら分かるようになるんだろ?
  いつになったら……。