天使で悪魔




占い師




  占い師。
  様々な方法、先天的能力等で未来を視て、吉凶を占う者達。
  常人には視えないものを、視る。
  当然、自分だけが視える事をいい事に……また、縋る者の気持ちを利用して視えていないのにその不安を煽り
  金銭をむしり尽くす占い師の類も数多い。
  ともかく、あたしフォルトナは基本信じていない。
  それでも。
  それでも、藁にも縋る気持ち。
  今なら追い詰められた人の気持ちが少し分かる気がする。
  あたしはレヤウィンに。
  アントワネッタさんに教えてもらった有名な占い師に、占って貰う為に。
  ……フィフスの居場所、占ってもらおう。





  「やっと着いたぁ」
  感慨深く呟く。
  実に長い道のりだった。それでも、どこか楽しくもあった。
  闇の一党の任務で各地を回ってはいたものの、冒険として歩くのは初めてであり、結構楽しかった。
  日暮れが迫っている。
  早くしないと宿が一杯になっちゃう。今日は宿をとって、休もう。
  占い師探しは明日だ。
  「んー。眠い」

  レヤウィン。
  ここにいる有名な占い師を探しに、スキングラードからやって来た。
  レヤウィンの街は荒れている。

  深緑旅団。
  ボズマー率いる、トロルの軍団がつい最近攻め込んだ。
  レヤウィンの都市軍は惨敗、一時城は奪われレヤウィンは事実上陥落していた。
  結局、レヤウィンの『白馬騎士団』により首領は討たれ、帝都軍&ブラヴィル都市軍の援軍を得てレヤウィンは奪還された。

  戦火に包まれた都市。
  その結果が、今のこの街の状況だ。
  三分の一の建物が焼失し、多数の死傷者を出した。
  その所為かどこか人はすれている。
  「お風呂に入って、今日はゆっくり寝ようっと」

  ……と思ったものの、甘かった。
  宿は全て満室。
  まだそこまで込み合う時間じゃないと思うけど……部屋が取れない。どうしよう?
  宿という宿を周るのに費やした時間により、既に夕暮れは過ぎ去り星が瞬き始めている。
  レヤウィンの気候は亜熱帯。
  野宿したところで凍死はしないものの出来れば部屋で眠りたい。
  虫がすごいし。
  「うー、どうしよう」

  宿がどこも満室な理由はなんだろう?
  特に観光名所もない街だし、それに深緑旅団との戦火により街は荒廃している。観光客の類ではないはずだけど。
  一瞬、戦火により家を失った人達が宿住まいしているのかと思うものの、それは違うだろう。
  毎日宿住まいでは金銭的に立ち行かなくなるからだ。

  平均的な月収を考慮すると、宿の宿泊料はありえないぐらい高い。
  まあ、そこはいい。
  それよりどうしよう?
  「……」
  途方にくれながら街を歩く。
  家の窓からは光が溢れ、おいしそうな匂いが漂ってくる。これは、シチューの匂いだ。
  エイジャさんのシチューおいしかったなぁ。

  ぐぅぅぅぅぅぅっ。
  お腹が鳴る。
  宿は無理でも、どこかで食事しないと。ブラヴィルからお昼御飯以外は休憩せずにやって来たから足が痛いし時間的
  にもお腹が空いた。

  幸い、お金は不自由しないだけ持っている。
  何を食べよう?
  「そこの幼女」
  「よ、幼女……」
  呼び止められる。
  振り向くと、鎧姿の女性。レヤウィン都市軍だ。女性は2人、兵士を連れている。

  立場から見て、女性は士官クラスかな。
  「私の名はシーリア・ドラニコス。治安維持の為に巡察中だ」
  「ご苦労様です」
  軽く頭を下げた。
  そんなあたしの態度に気を良くしたのか、軍人的に態度は崩さないも
のの、表情は少し柔らかくなる。
  聡明で、綺麗な顔立ちだ。
  「幼女、こんな時間に何をしている」
  「よ、幼女……」
  そこまであたしは幼くないけど……外見はそう見えるのかな……いやいや、ありえないでしょうっ!
  だって15歳だもんっ!
  若く見られるのは、女の子としては嬉しい事かもしれないけど幼女は行き過ぎだと思う。
  はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。

  「幼女」
  ……ある意味、イジメかも。
  「幼女」
  「あの、宿が満杯で」
  「ああ、なるほど。どういう経緯かは知らないが、アカトシュとベライトの信者達が長期滞在しているからね」
  アカトシュは九大神の主神。
  ベライトはオブリビオンの魔王の1人。

  九大神がポピュラーな神々ではあるものの、別にオブリオンの魔王を信仰しても罪にはならない。
  ……破壊活動とか犯罪行為には知らない限りは。
  ……まあそれは九大神信仰でもNGだけど。
  アカトシュを祀る聖堂は城塞都市クヴァッチにある。マーティン神父もアカトシュ信仰だ。
  そのアカトシュ信者がどうして遠いレヤウィンにいるのだろう?
  同じ九大神とはいえ、レヤウィンで信仰されているのはゼニタール。
  それにベライトの信者が街にいる理由もよく分からない。
  大抵、魔王信仰は人里離れた場所に祭壇がある。つまりそれだけ、ひっそりと信仰しているのに街にいる理由は?
  特に気になるのが、同じ街同じタイミングで居合わせるのは偶然だろうか?
  ……違う気がする。
  もちろん、あたしには何の関係のない事だろうけど。
  「宿がないのは困ったわね。我々が日夜巡回しているので治安は回復しつつあるが……やはり漆黒の闇が覆う夜は物騒だ。
  戦火で家を失った者達が追い剥ぎに成り下がる事も最近多い。ふむ、困ったな……」
  「あの、そんなに真剣に考えてくださらなくても……」
  「いやこれは治安を負う者の責務だ」
  「フォルトナさんじゃないですかぁ」
  男性が弾んだ声を掛けてきた。ブラヴィルで別れた、シャルルさんだ。
  あたしに何か言おうとしてから、シーリアさんに気付き真面目な口調で彼女に問う。
  「失礼。何か問題でも?」
  「私はシーリア・ドラニコス隊長だ。治安を維持する者として、職務質問していただけだ。貴殿は彼女の連れか?」
  「僕はアーケイの司祭、名はシャルルと申します。フォルトナの身分は保証しますよ」
  ……シャルルさん、良い人だなぁ。
  一度共闘しただけなのにあたしの身分保障を請け負ってくれてる。良い人だ。
  そういえばどこかマーティン神父に似てる。会いたいけど……どんな顔して会えばいいのか分からない。
  毒殺しようとしたのに、今さら会えるはずないよね。
  ……会っていいはず……。
  「アーケイの司祭、貴殿に頼みがある」
  「何なりと」
  「幼女は宿がない。夜が深まれば、今のレヤウィンは物騒だ。出来れば……」
  「ええ隊長、言いたい事は分かりますよ。ゼニタール聖堂に僕からお願いしましょう。……フォルトナさん、聖堂に泊まれる
  ように手配しますから宿の心配はしないでください。快適とは言い難いですけどね」
  「ありがとうございます」
  頭を下げる。
  シャルルさんに下げて、それからシーリアさんに。

  宿の確保が出来た。
  それが職務熱心のシーリア隊長の危惧を解消したらしい。
  夜は物騒なのに宿がない=隊長として何とかしなければ、だったのだろう。部下を引き連れ、巡察に戻る。
  取り残されるあたしとシャルルさん。
  改めて頭を下げた。
  「本当に今夜の宿、ありがとうございます」

  「気にしないでください。社交辞令ですから。では、これで。風邪ひかないでくださいね」
  「えぇーっ!」
  「冗談です」
  「ほっ」
  「というのが、冗談です」
  「えぇーっ!」
  「……楽しい性格ですね、フォルトナさん」
  「はぅぅぅぅぅぅぅっ」
  弄られてる弄られてるぅー。
  くすくすと笑うシャルルさんは、どこか子供っぽい人だと思った。……子供っぽ過ぎるけど……。
  何となくフィーさんに似てるかも。
  あの人も子供っぽい人だし。
  そういうところが憧れる。なんか、凄く魅力的だし。
  「あっ」
  ふと、お互いによく知らない事に気付く。
  「あたしはフォルトナです。改めてよろしくお願いします」
  「これはどうもご丁寧に。僕はシャルル。アーケイの司祭。教会の特命を受けて旅をしています」
  「特命、ですか?」
  「ええ」
  人はそれぞれ、様々な理由で旅をする。
  特命、か。
  少し気になるけど……人の理由は、詮索しない方がいい。
  「ところでフォルトナさんはどうしてレヤウィンに?」
  「えっと、占い師を探しに」
  「占い師?」
  「その、知り合いの人に聞いたんですけど凄く有名な占いの人がいるって」
  「……ふむ」
  考え込むシャルルさん。
  彼はこの街の人ではない。生まれはどこかは知らないけど、住んではいないだろう。
  断定する理由は、簡単。
  彼がアーケイの司祭だからだ。この街にあるのはゼニタールを祀る聖堂。都市によって信仰する神様は違う。
  アーケイは、シェイディンハルで祀られている神様だ。
  そういう理由でシャルルさんはレヤウィンにあまり接点がないとあたしは見ている。
  自然、地理にも情報にも精通していないはず。
  「僕はこの街の事はあまり知りませんけど、噂は聞きましたよ」
  「噂、ですか?」
  「占い師の三姉妹の話を聞いた事があります。……よく当たって、皆幸せ気分……らしいですよ」
  「幸せ気分、ですか?」
  「きっと三姉妹の妙技の数々で幸せ気分なんですねぇ。姉妹に同時に責められる、男は誰でも蕩けますね♪」
  「はっ?」
  「冗談です。さて」
  行きましょうか、そう促すシャルルさんに着いて行く。

  星が、夜の空を流れた。






  ゼニタール。
  九大神の1人で、労働や商業、交易を守護し司る商売の神様。
  九大神はタムリエルを守護する神様達で、それぞれ守護の領域は違うものの神様達は一枚岩。仲良しさんだ。
  神様同士の繋がりもあり、それを信奉する各神様の信者達も仲良しさん。
  ……多分ね。
  あたしは信者じゃないから、内部事情は分からない。
  ともかく。
  そういう繋がりだから、信奉する神様が違っても九大神繋がりという事もあり、アーケイの司祭がゼニタール聖堂に
  一夜の宿を求めても無下にはされず丁重にもてなされるのだ。

  ただオブリビオンの魔王達は互いに反目し、敵対している。
  その関係で各魔王を信奉するそれぞれ信者達の繋がりは皆無で、場合によっては敵対関係だ。
  さて。







  「ありがとうございました」
  ぴょこんと頭を下げて、あたしは翌日聖堂を後にした。シャルルさんは聖堂で調べ物があるらしく、別れた。
  知り合って間もないのに……というかほとんど知らない関係なのに、良くしてくれて本当に嬉しかった。
  ……。
  闇の一党ダークブラザーフッドの暗殺者として生きてきた。
  世の中の残酷な部分ばかり見て来たけど、世界は残酷だけではないらしい。
  美しくも残酷な世界ではあるものの。
  「さて、三姉妹の占い師っと」
  昨晩、シャルルさんから聞いた占い師を探すとしよう。
  ゼニタール聖堂の司祭達も言ってたけど『奇跡の占い姉妹』として評判らしい。的中率100%。
  ……100%、かぁ。
  そう言われるとすごく嘘臭いけど、占いしてもらおう。
  「幼女」
  「……またかぁ……」
  小さく、溜息。
  何気に誉められているとは思えないし、妥当とは思えない呼称。
  シーリア隊長だ。
  「おはようございます」
  「ああ、おはよう。……昨日の連れはどうした?」
  「聖堂で調べ物だそうです」
  「ふむ。……あまり一人歩きは感心しないな、例え昼間とはいえ」
  「そうなんですか?」
  「うむ。治安を預かる者として、誉められた状況ではないがな」
  自嘲気味。
  職務熱心な人だ。
  レヤウィンの領主であるマリアス・カロ伯爵は『腰抜け』として有名だけど、そんな伯爵に忠誠を誓う有能な女性。
  ……。
  ああ、違うのかな。
  伯爵にではなく市井の為に懸命に働く女性、なのだろう、きっと。
  「幼女、それで何をしにこの街に?」
  「凄い占い師がいると聞きまして」
  「ああ、それで。戦士ギルドのレヤウィン支部は最近閉鎖されてね。その施設を買い取ったのが『奇跡の占い姉妹』だ」
  レヤウィン戦士ギルド支部。
  ……。
  そ、それってすごくない?
  訓練施設まで内包されている大きな建物を買い取るだけの財力と、それに見合う収入のある占い師。
  本当に凄いのかも。
  「占いの館は亜人版戦士ギルドのブラックウッド団の建物の真向かいにある。すぐに分かるだろう」
  「ありがとうございます」
  昨日からお礼ばっかり言ってる気がする。
  ブラックウッド団の建物の前。
  元々戦士ギルド支部の建物。
  これ以上、分かりやすい場所はないだろう。改めて教えてくれたシーリア隊長に謝し、あたしはその場を後にした。





  奇跡の占い姉妹。
  深緑旅団騒動の後に、レヤウィンに流れて来た三姉妹で占い師として超一級、らしい。
  百発百中の腕の占い師。
  占い客には圧倒的に男性が多いのは、三姉妹目当てでもあるらしい。
  おそらく、美人なのだろう。
  「……」

  場所はすぐに分かった。
  元は戦士ギルド会館であり、その真向かいには最近売り出し中の亜人版戦士ギルドであるブラックウッド団の本部。
  ブラックウッド団は深緑旅団騒動の際に真っ先に自主的な尽力をした組織であり、レヤウィン領主であるマリアス・カロ伯爵
  はその行為に感謝し、全面的に支援を約束した。
  ……。
  ……亜人嫌いの伯爵夫人は離縁してコロールに帰ったけど。

  暑い。
  日差しが……これは暑いじゃなくて、熱いかも。
  「……」
  待ち時間、長過ぎ。
  それだけ繁盛しているのだろうけど……出来れば建物の中で、待たせて欲しい。
  建物に入れるのは一人だけ。
  つまり、占ってもらえる人だけが入れるわけだ。あんなに建物大きいのに、他のお客は外に行列で並んでいる。
  暑い。
  熱い。
  日差しがとても暑い。ジリジリと焼かれるような、せめて空気がカラッしてればいいんだけど湿ってるし。
  あーつーいー。

  そこまでして占って欲しい?
  ……。
  占って欲しい。
  フィフスの居場所、占って欲しい。
  他のお客はどうだろう?
  一様に男性客が多いし、手には花束。……男の人って、変な事で一生懸命になれるんだなぁ。
  そして……。

  「どうぞこちらに」
  「あっ、はい」
  待つ事三時間。係員に呼ばれ、部屋に入る。
  奇跡の占い姉妹。

  純白のローブを着込んだ3人の女性。インペリアルの女性達で、顔立ちがよく似ている。三姉妹なのは本当らしい。
  1人が厳かに言う。
  「よくいらっしゃいました。どうぞ、そこにお座りになってください」
  「あっ、はい」
  「気を落ち着けて」
  「はい」
  部屋の中にはどこか甘い果実のように匂いが満ちている。お香だ、お香が焚かれている。
  言われた通りに椅子に座った。
  リラックス、リラックス。

  すーはーすーはー。
  深呼吸。
  この匂い、何のお香かなぁ。とても心地良い匂い。気分がとても落ち着く。
  「……」
  リラックス、リラックス。
  すーはーすーはー。
  ……。
  い、いけない。
  あまりにも良い気持ちだから、眠くなってきた。旅の疲れもある。きっと蓄積されてるんだろう。
  「それでお嬢さん、何を占って欲しいんですか?」

  「……」
  「お嬢さん」

  「……あっ、はい……」
  「気持ちを楽にして」
  「……あっ、はい……」
  カチャリ。
  姉妹の1人が扉の鍵を閉めた。入り口に、玄関に通ずる扉だ。もう1人はあたしの側に焚かれたお香を置く。

  甘い香り。
  「くすくす。お嬢ちゃん」
  お嬢さんがお嬢ちゃんに変わる。
  「じゃあ、身体検査しようか。お洋服、全部脱ぐの。……脱ぎたいでしょう? 見て欲しいでしょう?」
  「……はい……」
  「くすくす♪」
  いけない。
  いけない。
  いけない。

  頭の中で警告が発せられる。でも、理解出来るものの体がいう事を効かない。
  「姉さん、リティ、この子の服全部脱がしてあげて」
  「分かったわ」
  「手の焼ける子ねぇ」
  お香だ。
  お香があたしの頭を混乱させているんだっ!
  こ、こいつら何が目的っ!

  「さあ脱ぎ脱ぎよぉ」
  「……はい……」
  「良い子ね」
  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
  「……っ!」
  突然、あたしは眼が醒めるような感覚に襲われた。
  思わず椅子を立つ。
  無理もない。銀色のアルゴニアンが、扉を蹴破って入って来たのだ。占い三姉妹も驚愕。占いの演出でない事は確かだ。

  ……。
  あっ。この間の火を吐く、珍しい銀色のアルゴニアンだ。
  そもそもアルゴニアンのカテゴリーなのかな?
  色はともかく、オブリの悪魔であるデイドロスのように炎を吐くアルゴニアンなんて聞いた事もない。
  ピッと親指を立てて、シニカルに笑う。
  「邪魔したな。……後に来るのは、我輩とは無縁だ。請求は連中にしてくれ。じゃあな」

  立つ鳥跡を濁しまくり。
  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
  別の扉を蹴破り、ズンズンと隣の部屋を進んで何かを割る音。多分、窓を破って逃げたのだろう。
  ……何て自分勝手な人……。
  『探せぇっ! アカトシュを冒涜する奴を生かしておいてはならんっ!』
  その後を追って、ドカドカと入り込む小奇麗な法衣を纏った集団。
  蹴破った扉を勝手に通り抜け、そのまま走り去る。
  唖然となって見送るあたし達。
  走り去る集団。一体何だったんだろう?
  さらに。
  『追え奴らに先を越されるなぁーっ! 我らの信仰の為にあの方をお迎えせねばならんっ!』
  ドカドカ。

  同じ法衣姿ではあるものの、どこか擦り切れた法衣を着込んでいる集団が……以下略。
  ……。
  何だったの、結局。
  あの銀色のアルゴニアンを追ってるのは分かるけど……。
  ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  生暖かい空気が、部屋を通り過ぎる。甘い匂いが、薄れた。
  「姉さんっ!」
  「はぁっ!」
  ひゅん。
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  姉妹の1人が抜き放って剣を、魔力の糸で瞬時に切り落す。三姉妹は動きを止めた。
  「動くと命はない」
  『……』
  三姉妹、顔を見合わせる。
  焚かれ部屋に充満していた香の匂いは換気が良くなった結果、レヤウィンの風で飛ばされた。
  一種の催眠剤だったのだろう。
  あたし以外に聞かないのは、当の三姉妹に聞かないのは解毒剤の類を服用していたに違いない。
  「武器を捨てて」
  押し殺した声で、警告。
  未知の攻撃を振るわれた三姉妹は驚愕し、動揺し、抵抗をやめた。
  カラン。
  手にしている、剣だった代物を床に捨てる。
  「良い子ね」
  揶揄して、あたしは笑った。







  「あの、占って欲しいんですけど。その、友達の事を、フィフスの居場所を占って……」
  「……」
  「あの、ダゲイルさん?」
  「……」
  奇跡の占い姉妹の一件から一日が過ぎた。
  あのインチキ姉妹は当局に引き渡した。お客の心を惑わしていた薬は姉妹の手製であり、魔術師ギルドで学んだ薬学
  だったらしい。つまり、元々は魔術師ギルドに在籍していた錬金術師だったわけだ。

  錬金術師。
  元々は黄金の錬成を志した魔術師の総称。
  実験に実験を重ね、発達したのが薬学。黄金の錬成に必要と仮定した薬剤の研究の結果により薬学が発達し、その
  発達し精製した薬が大金を生む形となり、錬金術=薬学、となったのだ。

  インチキ姉妹はシーリア隊長に引き渡した。
  その際、レヤウィン魔術師支部から聴取の為にやって来たのがノルドの魔術師アガタさん。
  言葉を交わしたところ、彼女の師匠であるダゲイルさんこそが『有名な占い師』らしい。
  正確には預言者。
  アガタさんの紹介でやって来たのが、今いる場所であるレヤウィン魔術師ギルド支部の会館。

  そして目の前にいるのが、当のダゲイルさん。
  「あのー」
  「……」

  預言者のおばあちゃん、無言のまま。
  師の脇に控えるアガタさんに視線を送るけど、静かに微笑を浮かべるだけ。
  ……こういう人なんだ、ダゲイルさんは。
  「あのー」

  「あなたは特異な運命をお持ちですね」
  「……?」
  ダゲイルさんは、静かに語り始める。
  あたしの言った事、聞えなかったのだろうか?
  ……フィフスの居場所、占って貰いたいだけなのになぁ……。

  「二つの影、二つの魂、そして一つの肉体」
  「あの」
  「実にイレギュラーな存在として、あなたはこの地に立っている。本来ならば過去の存在、現在と未来の事象に介入すべき
  存在ではない。しかし今、こうしてあなたはここにいる。そして全ては書き換えられた」
  「……」
  「定められた運命は必ず到来します。しかしあなたの存在があるが為に、より混迷を極めるでしょう」
  「……」
  突然何を言ってるのだろう、この人は?
  あたしが、過去の存在?
  あたしは……。
  「あの、あたしは何者なんですか?」
  「あなたはあなた、それ以上でも以下でもない。世界は常に軌道修正されている。別に自身を責める必要はありません」
  「いや、その、あたしが聞きたいのはそうじゃなくて……」
  「紡ぎし者よ」
  「紡ぎ……」
  「運命を紡ぎなさい。あなたの、そして世界の。……それは偶然であり、必然。あなたはあなた、それ以上でも以下でもない。
  自身の赴くままに行きなさい。歩みなさい。いずれ全ての運命が重なり合うその日まで」
  「……」
  「全ての命運が、運命の者の元に一つとなりて集うその日まで」











  帝都随一の情報網と情報力を持つ黒馬新聞から一部抜粋。

  『レヤウィンで名を馳せていた奇跡の占い姉妹が実は虚名を売っていた事が発覚した。
  彼女達は薬で客の心を乱し催眠状態にして操り人形にして心を操作していた錬金術師であり魔術師ギルドのメンバー。
  数年前に追放処分を受けていた身ではあるものの、最近不祥事続きの魔術師ギルド関係者。

  客を操り人形にしては、金貨を巻き上げていたらしい』

  『アルケイン大学の評議員の高弟ワイズナーの事件の際に、魔術師ギルドの罪を糾弾した評論家ベルウィング氏はこの件
  に対して大いに憤りを感じており、声を大にして糾弾を宣言している。

  本誌では、今後も魔術師ギルドの傲慢な体質を叩きたいと考える』