天使で悪魔





一族の末路




  家族。
  人は常に、母親から生まれる。
  母性は偉大。
  母性は敬意。
  子は母を慕い、敬い、愛する。
  母は子をそれ以上に愛し、身を挺して護るもの……ものらしい?
  最近ではそうでもない?
  ……。
  あたしは人形遣い。
  手からは糸が伸び、マリオネットを従える。そしてあたしはる知るのだ。あたしもまた、誰かに操られるものだと。
  子は母を愛する。
  母は子を愛する。
  その愛の強さは、どれだけ強靭なものなのだろう?
  ……あたしは、知りたい……。
  ……そして叶うならばあたしも愛され……。






  「君に任務を与える。……準備は?」
  「出来ています」
  「まっ、フォウが出来てるなら、俺様も任務に出る必要があるわな。……あー、面倒」
  クヴァッチ聖域。
  聖域管理者クロウの執務室。

  しかし当のクロウは、大枚叩いて購入した悪趣味なご自慢の椅子には腰掛けず、その横に直立不動に立っている。
  座っているのは別の人物。
  マシウ・ベラモント。
  闇の一党ダークブラザーハンドの幹部である『奪いし者』の称号を持つ男。
  幹部十名で構成されている集団『ブラックハンド』の1人。

  支部一つ任されているクロウよりも上の立場。
  右隣に立つのがクロウ、左隣に立つのがキリングス。
  アルゴニアンの暗殺者で、シャドウスケイル出身であり、現在の立場は監察官。運動不足が祟り、椅子に座れずにゼイゼイ
  と荒い息で疲れ果てているクロウとは対照的に、いつも通り平静そのもの。
  内心、何を考えているか分からない。
  クロウをよいしょしながらも常にその地位を狙っているのは、クヴァッチ聖域において公然の秘密。
  気付いていないのは当のクロウだけ。
  さて。
  「任務を受ける心構えがあるか。結構な事ですね」
  丁寧口調ではあるものの、マシウ・ベラモントは不気味そのもの。
  眼が怖い。
  常軌を逸している、その眼。
  闇の一党=暗殺集団であるものの、血に彩られ染み付いてる連中の集まりであるものの、少なくとも使い分けが出来てる。

  暗殺の時はそんな仮面を。
  普通の時はそんな仮面を。

  あたし達はそれを器用に使い分けてる。別にこれは変な事じゃない。
  街に住むまっとうな人達だって、平然と使い分け、数多の仮面を交換し、状況に応じて使い分けて生きているのだから。

  だから、仮面を使い分けれるは何も暗殺者のあたし達だけじゃない。
  でもマシウ・ベラモントは違う。
  ……確かに。
  ……確かに、彼も仮面を被ってる。常識のある、人間の仮面を。
  でも眼までは代えれてない。
  あたしには分かる。
  彼は狂ってる。その瞳には、狂気を称えている。冷静に、彼は冷静に狂っている。
  ……怖い。
  ……怖い。
  ……怖い。
  「聞いているのかね、フォルトナ」
  「は、はい。聞いてます」
  びくっ。
  体が震えるなんて、初めてだ。
  確かに今まで他の聖域メンバーやサーシャ達に抑えつけられ、震える事もあったけど……狂気に怯えるのはわけが違う。
  「フォルトナ。今回の君の任務はアップルウォッチ農場に行き、ベレニア・ドラニコスを暗殺したまえ」

  「はい」
  「しかし今回の任務はそこで終わりではない。彼女の子供達計4名も抹殺の対象だ」
  「はい」
  「ただし、我々が所在を掴んでいるのは母親だけ。息子や娘達はシロディール全域に分かれて、独自の暮らしをしている。場所
  の特定には至っていない。君が見つけ出せ、そして殺せ。ドラニコス家の全員の始末。それが任務だ」

  「はい」






  「あの子供、使い物になるのか?」
  フォルトナとフィフスが退室した後に、マシウ・ベラモントはまずそう呟いた。
  傍らに立つキリングスが書類の束を差し出す。
  今までの経歴だ。
  ペラ。ペラ。
  何気ない様子でそれを眼を通していたマシウに、冷笑が浮かぶ。
  経歴。
  そのいずれも暗殺に彩られている。
  誰しもが親から生まれ、育てられ、平穏な日々から何らかの要因で暗殺者になる。それが今まで普通だった。
  生まれながらの暗殺者。
  闇の一党といえどもそんな経歴の持ち主はいない。
  「面白いな。……しかし、私がここに来た目的は、あの人形だ」
  「フィフスでございますか?」
  恭しくクロウが答える。
  闇の一党は、聖域管理者以上の階級に至るには暗殺に長けていないといけない。経営手腕は必要ない。
  必要なのは、どこまで残酷になれるか。
  必要なのは、どこまで人間やめれるか。
  人としての良心を捨てたものだけ、効率的な殺しを楽しめるものだけダークハンドの一員になれる。
  逆らえば?
  そして粗相があれば、躊躇わず誰であろうとも殺すだろう。

  クロウもそれを知っている。
  だから本来の小心な性格が地として出ている。

  「ダークハンドではあの人形を高く評価している。アルゴニアン同様に水中に何時間何日でも潜める機能、オーク以上の
  攻撃力、魔法に対しての抵抗は皆無のようだが即時抹殺を旨とする以上、問題はない」
  フィフス。
  アイレイドが創り出した戦闘型自律人形。
  そもそもが、当時魔法を使えない人間鎮圧用の兵器である為に魔法に対する抵抗力は考慮されなかった。
  「あの人形、欲しいな」
  「し、しかしお言葉ですが……」
  睨まれ、黙る。
  キリングスは動じる事なく、丁寧にクロウの言葉を継いだ。
  「お言葉ですが閣下。あの人形、所有は魔術師ギルドにあります」
  人形を調整し、その研究をしているのはクヴァッチ支部長であるサーシャ。実戦データの収集と銘打って、闇の一党に貸して
  いるに過ぎない。備品目録には支部の倉庫に置いてある事になっている。

  マシウは意に介さない。
  「知った事か」
  「ごもっとも。しかし、扱えるのはフォルトナのみ。どういう原理か理屈かは、サーシャが何年もフォルトナを研究し尽くしているの
  ですが解明出来ていません。お持ち頂くのは結構ですが、あの娘とセットになりますが」
  「……つまり、簡単には手駒にならんと言いたいわけか?」
  「あの娘、はねっかえりですから」
  「……薬で……」

  「薬に対して強い抵抗があります。サーシャが実験で投与した、結果ですね。耐性が出来てしまい毒では死なないし操れない。
  それに万が一その為にフィフスが暴走すれば……失礼ながら止める手立てはありません」

  「……」
  このアルゴニアン、油断ならないとマシウは思った。
  正直マシウの個人的感情では上層部の意向など知った事ではない。
  ただ自分の手駒にフィフスが欲しいだけだ。
  「クロウ」
  「は、はい」
  「私はしばらくここに留まり、考えるとする。……あの人形はともかく、研究資料の写しでもいいからサーシャに用意させろ。金
  は幾らでも払うと言え。いいな?」

  「ははっ!」









  アップルウォッチ農場。
  北方都市ブルーマの西に位置する、個人の農場。
  使用人も使わず、ベレニア・ドラニコスがただ1人で切り盛りするその農場は、個人規模としては妥当な大きさ。
  農作物を売って生計を立てる。
  ……いいえ。違うか。
  自給自足の生活の為ね。ブルーマから結構離れている。暮らすには環境が悪いだろう。

  雪が年中舞う地。
  もちろんブルーまで暮らしてても、雪は降っているものの人々が暮らす密集した場所ではなく遠く離れた場所に住む
  その理由が分からない。人嫌いなのか人と付き合うのが苦手なのか。

  単純に孤独が好きなのかもしれない。
  あたしは、1人で畑を耕している老女を屋根の上から腰を下ろして見ていた。
  ……よく働くなぁ。
  「ふぅ」
  溜息。
  これから死ぬのに、精一杯自分の生を肯定して生きているのが、酷く滑稽に見える。
  彼女は悪くない。
  悪いのは依頼人であり、次に悪いのは闇の一党。
  一番悪いのは、あたし。

  「どうしたフォウ。とっとと殺っちまおうぜ」
  「……」
  「何だよ。お前寒くないのか? ……まあ、俺は寒いの関係ないけどな」
  「……痛みもね」
  「はっ、心の痛みもってか?」
  「……」
  沈んだ瞳であたしはフィフスを見て、それから懸命に働く老女に向ける。
  懸命に生きても、賢明とは限らない。
  運命なんてそんなもの。
  神様の勝手な気分で狂わされ、奈落へと落ちていく。
  生と死は、容易く逆転する曖昧な事象。
  「おいおいフォウさんよぉ。何考えてるかぐらい分かるが……」
  「へぇ驚き。何考えてる?」
  「嫌味で皮肉な言い方だぜ。……まあ、いい。お前は今マーティン神父の下着姿を想像してるな?」
  「し、してないわよ」
  「おいおいフォウさんよぉっ! パンツ脱がしてるな今っ! ……おっさん神父に手を出すとはやるなぁー……」
  「し、神父様下着を元に戻して……っ!」
  「このもーそー女」
  「はぅぅぅぅぅぅっ」
  想像しちゃった。
  マーティン神父が下着脱ぐところ想像しちゃったー。
  あたしの清いイメージが崩れていくー。
  はぅぅぅぅぅぅっ。
  「あ、あたしの愛は……そう、プラトニックなのっ!」
  「まっ、50のおっさんを落とすには15の餓鬼のお前じゃまだまだ経験地足りんわな。しかしお前にも勝機はあるぞ」
  「ど、どんなよ?」
  「あいつロリだぜロリ。脈ありだな、お前。ぐっじょぶ♪」
  「……」
  あたし、一応フィフスのご主人様なんですけど?
  従え切れない人形。
  力不足の人形遣い。

  ……はぁ。
  「けけけ。まあ、あれだな」
  「……」
  「人は死ぬ。どこでも、いつでも、誰でも、死ぬ。寿命で死ぬ奴もいれば病気で死ぬ奴もいる。事故で死ぬ奴もいれば、お前
  のような殺し屋に殺される奴もいる。別にお前を肯定しないよ、否定もしないがな。つまり……」
  「……」
  「あの神父はロリコンという事だ。結論はな」
  「関係ないっ! それに愛してくれるならあたしは受けれるもんっ! 愛があれば歳の差なんて性癖なんて関係ないっ!」
  「おーおーめでたくロリ結婚だな。やるなぁー」
  「てへへ♪」
  「……お、お前たまに皮肉通じないよな。まあ、いいけどよ。それで幸せなら。うん、どうぞお幸せに」

  な、何かムカつく。
  畑仕事に精を出す老女を眺めながら、フィフスは断定する。

  「殺すならグダグダ言うな。後からメソメソ泣くな。その辺は、礼儀だぞ。そうじゃなきゃ何の為に殺されるか分からんからな」
  「分かってる。……あたしがやる、フィフスはそこにいて」
  「へいへい」
  言われるまでもない。
  あたしは後悔しないし、心動かされない。殺す。殺す。殺す。
  屋根から飛び降りる。
  雪が丁度、飛び降りた時の音を消した。
  あまり音は立てていない。そのつもりだった。しかし突然、老女は振り向いた。

  「ひぃっ!」
  老女は、小さく悲鳴を上げる。あたしはまだ何もしていない。
  深呼吸しながら、何とか言葉を紡ぐ。
  「びっくりした。脅かさないで、1人で孤独に生活していると神経質になっているんですよ。それで、どうしたの?」
  最後の方はあたしが子供と見て、幾分か優しくなっている。
  「お母さんは? お父さんは? 迷子になった?」
  「違う。届け物を……」
  ……貴女に死を。
  ……子供に死を。
  あたしは暗殺者。届ける物は死と殺意。それを与えるべく現れた。
  あたしは……。
  「届け物……ああっ! そうですか、小さいのに、働いてるなんて偉い子ですね」
  「……?」
  何か勘違いしているらしい。
  「そうだ。中にチョコレートありますから、食べながら話しませんか?」
  「……」

  優しい瞳。
  優しい人。
  母親、という匂いをあたしは知らない。これが、母親か。
  こういう女性を初めて見た気がする。

  大体、常に接しているのはサーシャぐらいだけど、あの女からそういう匂いは感じない。
  ……どこか心地良さを感じていた。






  「はい。どうぞ」
  「あ、ありがとう」
  チョコレートを差し出す。犬は暖炉の前で気持ち良さそうに寝ていた。
  あたしに椅子に座るように勧めてくれる。

  特に断る理由がないので、腰を下ろした。どうやって聞き出そう?
  ……子供達の居場所を。
  「偉いわね働いてるなんて。大変でしょう?」
  「う、うん」
  「貴女の働いているお店の、ギフトサービスは私のような子供をたくさん持つ母親には嬉しい限り。何せ私の子供達は
  シロディール中に散らばっているから大変なんですよ。プレゼントを贈るのはね」
  ギフトサービス?
  プレゼント?

  ふぅん。何かの宅配サービスのアルバイトか何かと思っているのか。
  ……なら、好都合。
  一枚の紙が渡された。そこに書かれているのはプレゼントのリストと、子供達の居場所。

  「どうか子供達に、愛の込めたプレゼントを選んであげてくださいね」
  「……」

  「あっ、ココアも飲む? 暖まって行って。ほんと、こんなに小さいのに頑張るのね」
  カップを受け取り、あたしは手で押し抱いた。
  暖かい。
  手に生気が戻ってくる。感覚が戻ってくる。
  ……大切な事だ。
  だって、手の感覚がないままで糸を振るうと即死させてあげれなくなるから。狙いがミスる可能性があるから。
  優しく殺してあげるわ、おばさん。

  ココアを飲みながら、あたしはプレゼントリストを見る。ご丁寧に標的のデータが全て書かれている。
  ……そして、母親の愛の込められた文章も。


  『お力添えを頂き、重ねてお礼申し上げます。
  そちらのお店に相談したら言いと友人に勧められた時は、跳ね上がらんばかりに喜びました。
  今回のプレゼントの宅配がうまくいった暁には、今後も贔屓にさせていただきます。
  お分かりいただけると思いますが私のようなお婆ちゃんがあちこち出掛けるののは本当に大変なのです。
  子供達は最愛の存在。

  なので最高の贈り物をしようと毎年思っているのですが、愛と絆の込めた贈り物をする事はここ何年もなかったように
  記憶しています。でももう安心っ!
  うちの子供達の住所を記します。そして希望の贈り物も。
  こんなにも役立つサービスをご用意して頂き、本当にありがとうございます』

  マティアス。帝都タロス地区。
  アンドレアス。酔龍という酒場兼宿屋。
  シビラ。マックバレー洞窟。
  シーリア。レヤウィン警備隊長で兵舎。

  ご丁寧にも全ての住所、名前まで書かれている。
  殺すのは容易。
  探すのは容易。
  万事、問題ない。全員を殺す、恐怖を与えてでもいいし何も知らないままにでもいい。
  あたしは殺し屋。
  命じられるままに殺す、殺戮人形。
  でも……。
  「おばさん」
  「なあに?」
  「子供って、可愛いものですか?」
  「うん?」
  「あたし、両親知らないから分からないんです。可愛いものなんですか?」
  ニコニコした微笑を絶やさない標的。
  ぎゅっ。
  物言わず、あたしの体を抱き締めた。
  ……いい匂いがする。
  「そうね、可愛いわ。貴女も愛されて生まれてきたの。誰しもが祝福されて生まれてくるの」
  「……」
  そうだろうか?

  あたしはそうは思わない。
  愛されて生まれるくる者もいれば、愛されずに捨てられる者だっている。捨てる事が愛?
  そうする事が一番幸せだった?
  そんなの、親の勝手。
  ただの偽善。
  あたしは両親を知らない。捨てられたとか、両親揃って闇の一党の暗殺者だったとか、はっきりしない。
  誰もあたしの親を知らないし、あたしだって知らない。
  この人は間違ってる。
  誰もが等しくなんてありえない。
  誰もが等しくなんてありえない。
  誰もが等しく……。
  ……。
  死の順番だって不公平。
  真面目にコツコツとやってても簡単に死ぬし、悪意の限りを尽くした者は金で命が買える。
  結末として皆死ぬ。
  結末として皆死ぬけど、そこに至るまでは全然平等じゃない。
  ……教えてあげる。
  ……不平等を。
  ……血塗られたての暗殺者が、真面目に生きてきた貴女を殺す皆殺す全部殺す。
  「ココアのお代わり、入れてあげるわね」
  「さよなら」
  ひゅん。
  ……ごとり。
  背を向けた老女は、立っていた。首のないままで。しばらく立ち尽くし、それから床に崩れた。
  「ワンっ!」
  犬が警告の声を上げる。
  もう遅い。ご主人様は逝った。……あなたもお逝き。
  ひゅん。
  ……。
  暖炉で、パチパチと炎が燃えている。
  静か。
  静か。
  静か。
  ……本当に、静かだ。まるで気が狂いそうなまでの静寂。
  生ある者はあたし1人だけ。
  「よお。終わったか」
  「ええ。始末した」
  「けけけ。さすがの手並みだな。まさに暗殺者の美学ってやつか? お前はまさに、プロだな。けけけ」
  「……」
  無言のまま、あたしはテーブルを蹴倒した。

  上に乗っていたモノが全て落ちる。あたしはチョコレートを踏み潰した。
  「あたしチョコ嫌いなの」
  何か喋り出しそうな、口を開いたままの生首。死んだ事すら気付いてない顔。
  あたしを慰めた言葉を吐いた口。
  あたしを……。
  ガンっ。
  壁を叩いた。イライラする。何でこんなに、イライラするっ!
  優しくされるのは嫌いじゃない。
  嫌いじゃないけど、暗殺にそれは必要ない。あたしはきっと殺すだろう。任務ならマーティン神父でも殺すだろう。
  ……。
  「もうっ!」
  「な、なんだよ?」
  ……どうしてあたしはこんな事しか出来ないんだろう?
  ……どうして?
  「フォウ?」
  「なんでもない大丈夫」
  「そうか? けけけ、まあいい。ともかくこれで任務の第一段階は成功だな。後は……分かるだろう?」
  「ええ。聖域に戻って失敗報告をするだけ」
  「はっ?」
  ぼぅっ。
  プレゼントリストは、暖炉の中で燃えた。これでもう、子供達の居場所は分からない。
  闇の一党は子供達、としか言わなかった。
  子供の名前すら把握していない。場所もまた然り。時間を掛ければ探し出せるだろうけど、そこはあたしの問題じゃない。
  あたしが闇の一党を運営しているわけじゃない。
  そこまでは干渉出来ない。
  「お、お前何してるっ!」
  「この方がいいの。あの老女は闇の一党に居場所を知られてた。あたしが殺さなくても、逃がしても結果として殺される。拷問
  されて子供の居場所は吐かせた上で殺される。だから、あたしは殺した。そうよ、それだけよ。それで、お終い」
  「そうか。だが何で燃やした? 何で助けようと思う? それは、何でだ?」
  「……人形も、たまには逆らってみたいのよ」

  「はっ、無理だなっ!」
  「……えっ?」
  「どんなに操り人形が操られたくないと逆らっても糸は強制的に自分を舞わす。人形は操り手には勝てないんだよ、絶対に」
  「……そうかもしれない」
  「それが嫌なら人間に戻りな。お前、フォルトナだろう?」
  「……?」
  「運命の女神の名を冠しながら、運命に翻弄されてるんじゃねぇよ。逆らってみろ、人間になってな」
  「……」
  フォルトナ。
  運命の女神?
  聞いた事ない。オブリビオンの16体の魔王でも九大神でも闇の神シシスでもない、別の神の名前。
  ……運命。
  ……人間。
  ……あたしは……。

  ……あたしは、誰……?




  《お前は四番目》
  《都合がいい。四番目だからフォウ……いいや失礼だな。フォルトナと名付けよう》

  《神よ》
  《神よ》
  《神よ》
  《どうか我々を導きたまえ。裁定を。我らの道を照らしたまえ。罪を裁きたまえ》






  ……何、この感覚?
  ……何、この思考?
  妙な可視感があたしを襲う。体がまるで揺れるよう。
  自分が保てない。
  自分が変化する。

  ……あたしは……誰……?
  「フォルトナ様っ! ……い、いやフォウっ!」
  「フィ、フス?」
  「何ぼけっと突っ立ってんだ。寝ぼけてるのか? 任務失敗、今からサーシャにお仕置きされるんだ。自我保っとけよ」

  「う、うん」
  「まったく現実逃避してるんじゃねぇよ。……それともロリ神父と愛の逃避行するか?」
  「そ、そんなまだ告白もしてないのにぃー♪」
  「……満更でもなさそうな顔するな。おら、帰るぞ」
  「う、うん」

  神様。
  もしもいるなら教えてください。たった一つでいいんです。どうか、教えてください。
  ……あたしは、ナニ……?