私は天使なんかじゃない







見上げた空





  そして私たちは空を見る。





  アダムス空軍基地。
  BOSのベルチバード編隊が飛ぶ。
  既に移動要塞クローラーの機銃と砲台は完全に沈黙し内部に突入していた地上軍は続々と撤退している。
  大方の予想を反して展開はBOS&メトロ連合軍の圧勝となった。
  もちろん攻め手は勝つつもりでいた。
  悲壮な覚悟の突撃ではない。
  ただ、ここまで圧勝するとは想定していなかったのだ。
  もちろんそれは嬉しい誤算だ。
  地上軍はミスティの命令で一時撤退、移動要塞内から離脱したものの、この現状の流れであるならば再度攻撃して完全制圧も不可能ではないと部隊長たちは叫ぶ。
  「許可できない」
  そう突っぱねたのはパラディン・トリスタン。
  階級と規律を重んじる彼は時に傲岸ではあるものの、それ故に指揮系統は重視する。
  ミスティは後退しろと命令した。
  だから。
  だから彼はそれに逆らわない。
  そしてそれは正しいことなのだと後に知ることになる。





  アダムス空軍基地。上空。
  既に勝敗は決した。
  BOSのベルチバード編隊は8機撃墜されたものの移動要塞の攻撃力を完全に無力化させた。
  大勝利だ。
  あとは甲板にあるベルチバード群を奪う為に降下するだけだ。
  先ほどから甲板にエンクレイブの兵士が続々と上がりつつある、おそらく撤退するつもりだろう、ベルチバードで。だがそれを許すつもりはなかった。
  逃がさない、というよりは、ベルチバードを押さえておきたいからだ。
  今後を見据えて。

  「サラ隊長、緊急通信です。Dr.ピンカートンからです」

  ベルチバード内の兵士が、編隊の指揮を執るサラに報告した。
  無線を繋げるように命令する。
  無線の向こう側の相手は、ジェファーソン記念館にいるDr.ピンカートンだった。要塞がか陥落した後、BOSはジェファーソン記念館とリンカーン記念館を拠点としている。
  その片方の拠点からの報告。
  それもエルダーの相談役でもある老科学者からの緊急報告。
  何かキャピタルでエンクレイブの動きがあったのか?
  サラは緊張する。
  「Dr.ピンカートン、何か?」

  <簡潔に言う。時間があまりないからな。要塞に核が落とされた、数発な。エンクレイブ両軍は全滅だ、形すら残っておらん>

  「……はあ?」
  すぐには意味が分からなかった。
  エンクレイブ両軍?
  つまりどちらも?
  「それはどういう……」

  <攻撃衛星からだ。衛星通信ステーションを木っ端微塵にしたのと同じ衛星からの攻撃だ。あれはエンクレイブが制御している衛星だった、なのにこうなった。理由は知らん。我々では、ない>

  「……」
  誤爆、と見るべきか?
  真相は分からないものの、つまり今回出張ってきたエンクレイブはアダムス空軍基地にいる勢力だけということになる。
  もちろんキャピタルにいたエンクレイブは要塞に全ていたわけではない。
  各地に点在しているだろう。
  だがそれはわずかに過ぎないし掻き集めても大した勢力にはならない。
  吉報?
  ……。
  ……いや、そうでもないだろう。
  誰が撃ったか分からないのだ。限りなく可能性は低いものの誤爆ということもある、だがそれ以上に別の勢力が介入してエンクレイブ両軍を潰したとも考えられる。そう考える方が妥当だ。
  何よりDRr.ピンカートンの声が弾んでいない。
  「何か問題があるのね?」

  <さすがはセンチネル・リオンズ、良い着眼点じゃ。攻撃衛星がそちらに対して攻撃しつつある、何とかハッキングして制御を奪おうとしてはいるものの無理じゃ。30分以内に撃たれる>

  「素敵ね。それだけ時間があればお風呂入ってリラックスする時間がある。それからベルチバード群を奪うわ」
  たった30分。
  たった、だ。
  ミスティの撤退命令がなければ大混乱となるところだったろう。だが念を入れて基地の外まで撤退命令を出した方がいいのかもしれない。
  問題はまだ中にいる面々だ。
  その時間はあるだろうか?

  <ディナーも豪華に食べれるな。ではな。通信終了>

  「……やれやれ」
  「隊長、時間的な余裕は……」
  「パラディン・トリスタンに通信」
  「了解、通信回線開きます」

  <センチネル・リオンズ、何か御用でしょうか?>

  「そちらに直に核が落とされる。直ちに全軍をアダムス空軍基地内から撤退させなさい。それと、要塞内の撤退はどうなっているの?」
  カウントダウンは始まっている。
  ここで取り乱されれば時間はロスしてしまう。
  だがパラディン・トリスタンはサラが直々に地上軍の指揮官に任命した男で、傲岸で融通が利かないものの、有能だった。

  <負傷兵に至るまで完全撤退しております。ただ閣下とその仲間3人が依然として移動要塞内に。救出部隊の編成を終え、先程突入させたところなのですが……>

  「ミスティ、本当に運が悪い。……救出部隊は撤退させていい。あなたも直ちに撤退を。通信終了」
  ミスティとグリン・フィスだろう。
  残る2人が誰かはサラには分からなかったものの、顔を合わせたことがある誰かだろう。
  撤退命令を出した本人が未だに中にいる。
  ミスティの体質に彼女は心底同情する。
  「甲板に降りるわ」
  「甲板に、ですか?」
  「当初の予定通りにベルチバードを奪う。ミスティのことよ、おそらく下から入るより上で待っている方が早い。彼女のPIPBOYに現状を通信して」
  「了解です」





  「……まだだ」
  よろよろと立ち上がるグリン・フィス。
  脇を抜けて甲板に向かおうとしていた橘藤華は足を止めて露骨にため息を吐いた。
  「しつこいですね」
  「悪いか」
  「良いか悪いかは分かりませんけど面倒です」
  「そうか」
  「なので早急に死んでもらいます」

  ジャキン。

  両手を握って掲げると、指の指の間にナイフが現れる。
  「トドメ」
  無数のナイフを放つ。
  傷付いた体でグリン・フィスはそれらを全て回避した。
  「それだけか?」
  「……」
  「お前にも譲れないモノがあるだろうが、それは当然自分にもある。このままお前を行かせるわけにはいかない」
  「私が行かねばクリスティーナ様も動けないとでも? 閣下は先に脱出なさる。計算違いね」
  「お前を倒し奴も倒す」
  「ふぅん?」
  「主の手を煩わせるわけにはいかない。自分が、全てを終わらせる」
  「なるほど。彼女の心情を考えて自分で全部終わらせるというわけか。なるほど、対した忠誠心だ」
  橘藤華は悠然と立つ。
  これが彼女の構え。
  「やれるものならやってみろ。暗黒舞踏」
  「何度も食らうかっ!」

  バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  双方相打つ。
  橘藤華の蹴りがグリン・フィスの首に決まり、グリン・フィスの拳が彼女の足に決まる。
  「ちっ! 破甲脚っ!」

  ブン。

  後ろに飛んで回避。
  彼女の蹴りは空を裂いただけだった。
  瞳は閉じている。
  グリン・フィスの瞳は閉じている。
  「貴様、何のつもりだ?」
  「暗黒舞踏とやらは氣とやらを纏って連続攻撃してくる技、なのだろう? 視界に頼っては氣に惑わされる。ならばいっそ目を閉じてみた。それだけだ。視界に惑わされない分、感覚が鋭くなった」
  前身は闇の一党の暗殺者。
  暗闇の中での戦闘も経験がある。その経験故の戦い方。
  橘藤華は少し驚愕の混じった声を上げた。
  「鷹の目、というわけではないようだな」
  「鷹の目?」
  聞き覚えのある単語。
  「シロディールで聞いたことがあるな。魔力を見る目、とやらだな。万物には魔力が宿っている、人にも自然にも世界にも。鷹の目を持つ者は全ての動きを先読みできる、らしい。アカヴァルにもあるのか」
  「魔力? そんないかがわしいものではない、氣とは崇高なるものだ」
  「これでお前の技は通用しない」
  「ふん。つまりは、惑わされない為に目を閉じ、勘で戦っているというだけ。私と同じ土俵ですらない。閣下の為に排除する」

  2人は同時に床を蹴る。
  渾身の一撃。
  それを決める為にお互いは同時に動き、そして……。

  「ハイ、ストーップ」

  「……っ!」
  「……っ!」
  橘藤華。
  グリン・フィス。
  両者は動きを止める。止めるしかない。お互いの額数pの位置に銃口が突き付けられているのだから。
  突き付けられているのはデリンジャー。
  「きりがないので僕がジャッジします。引き分け、いいですよね平和的で。ねぇ?」
  言葉が出ない。
  銃口を突き付けられているということに言葉が出ないというわけではない、デリンジャーの力量に対して言葉が出ないのだ。
  彼は割って入っている。
  両者の間に。
  一歩しくじればどちらかの攻撃をまともに受ける……いや、両者の攻撃を一身に受けることになる。
  それをやってのけた力量、そして平然とした態度。
  それはつまりデリンジャーにはこの仲裁方法が成功すると最初から踏んでいた、その余裕の表れ。
  橘藤華もグリン・フィスも強い。
  それ故にデリンジャーの力量は認めるしかない。
  「仲良くしましょうよー」
  数秒、両者は攻撃のモーションで止まったままだったが、まず橘藤華が構えを解いて後ろに下がり、グリン・フィスもそれに続く。だが橘藤華の闘志は薄れない。度肝を抜かれたものの今のは
  グリン・フィスとの戦いに完全に集中していたから、サシでの勝負に集中していたからであって、仕切り直せば2人相手でも戦えるだけの自信がある。
  その闘志を感じグリン・フィスも構える。
  だがデリンジャーは違った。
  「あなた、クリスティーナって人の仲間ですよね?」
  「だとしたら?」
  「これを差し上げます」
  USBを投げる。
  それを彼女はキャッチした。
  「何だこれは?」
  「NCRの諜報員のデータです」
  「NCR?」
  「おい、何の話をしているのか自分にも……」
  「後で説明してあげますよ。さて、それはですね、サーヴィスって人からいただきました。彼自身もNCRのメンバーだったようですよ」
  「……そうか、なるほど。合点が行った」
  みるみると闘志が薄れていく。
  橘藤華は有能だ。
  優先順位が分かっている。
  「今回妙な妨害が多かった。オータム側の動きに妙なところがあった。……そういうことか、この内乱は、NCRが煽っていたのか」
  「それともう1つ。これは重要です、お互いに」
  「NCRが攻めてくるとでも言うのか?」
  「そこまでシンプルなら対策も出来そうですけど違います。直にここに核が落ちます。無線をね、傍受させてもらいました。まっ、僕って大抵は何でもできるので」
 




  見えない敵の、見えない動き。
  幸いなのが奴が対戦車ライフルを床に放置しているということ。
  ……。
  ……とはいえ。
  「うひゃっ!」
  大きく後ろに下がる。
  空気が唸り、何かが通り過ぎた。
  ステルス化しているレッドフォックスの攻撃だ。奴はどうもサイバーウェアというサイボーグよりも次世代の存在らしい。あのステルス化はデスのように中国製ステルスアーマーのように自身だけ
  透明化させるというよりも、デズモンドが使っていたステルスボーイのように武器も透明化できるフィールドか何かを発生させているのだろう。
  現に武器が見えない。
  「そこっ!」

  ドン。

  外れ。
  弾丸は通り過ぎて壁に当たる。
  レッドフォックスは止まらない、足音は聞こえる、そして私はそれを頼りに移動しまくって相手の攻撃を回避している。
  回避、いや、遊ばれてますね、ええ。
  あいつの使っている剣はグリン・フィスのショックソード同様に完全に今の時代のモノではない。超高速振動剣とか言ってたっけ、あれ。衝撃波を発生させる、厄介な代物。
  最初の一撃、回避したけどあの時点で衝撃波発生させたらお終いだ。
  なのにしなかった。
  「アハハハハハっ!」
  「舐めんなぁっ!」

  ドン。ドン。ドン。

  ヴォン。

  撃つと同時に空気が震える。
  カランと弾丸が3つ床に転がった。
  「マジか」
  「マジだよ」
  相手の動きが止まる。
  「ステルス、OFF」
  実体化する。
  レッドフォックスの言葉を信じるなら再生機能は失われているから、殺せる。さっきまでは直撃しても再生機能で常時傷を癒していた、だから死ななかった。
  だけど、これは面倒だな。
  この女衝撃波を防御に使ってる。
  弾丸の威力を殺した。
  「何でステルス切るわけ?」
  「やっぱ、つまんないし」
  「つまらない?」
  「あの状態なら簡単に殺せるわけでしょ、つまらないと思わない?」
  「楽しいとかつまらないは分からないけど確かに私を殺せてはいたでしょうね」
  「へぇ? 楽しいとかで判断しないの?」
  「した試しがない」
  「へぇ、変わってる」
  デリンジャーにも同じようなことを言ったな。
  戦いって楽しむものなのか?
  考えたこともなかった。
  「ブッチ」
  「おっ、とうとう俺様の参戦か? よしよし、交代してやるからそこで見とけって。このブッチ様の、トンネルスネークの戦い方をよ」
  「ごめんそうじゃない」
  「ちっ、だったら何だよ、くそ」
  柄が悪いですね。
  「戦いって楽しい?」
  「はあ? 遊びじゃねぇんだぞ、楽しかねぇよ。喧嘩なら楽しいがな」
  「だよね」
  喧嘩が楽しいって発想も私にはないけど、まあ、ブッチ的には肉弾は楽しいんだろう、たぶん。
  一応殺し合いが前提なことは楽しんでないってことだ。
  「レッドフォックスは楽しいのね」
  「楽しいね。そのように改造されてるし。まあ、この体だ。なっちまったもんはしょうがない。楽しむのが、アタシ流なんだよ」
  「ふぅん」
  まあ奴の考えはどうでもいい。
  ステルス切ってくれるのであれば対処のしようがある。
  可能な限り時間を止める。
  可能な限り。
  Cronusさえ使えば私の勝ち確定だ。
  奴の再生機能が現在失われているのであれば、いや、それが嘘だとしても再生機能を超える攻撃をしてやればいいだけだ。
  来いっ!

  ピピピ。

  PIPBOY3000が鳴る。
  何かを受信した?
  その一瞬の隙を衝いてレッドフォックスが私に向かって猛攻してくる。
  素早く、鋭い一撃を構えて。
  ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああこんな時に何受信してんだ対応が遅れたーっ!
  ええいっ!
  間に合うかっ!
  「Cro……っ!」

  バヂィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  赤い閃光が視界を遮った。
  カランと音を立ててレッドフォックスの大剣が半ばから切断されている。レッドフォックスは止まらず、何気ない動作でその切っ先を拾って乱入者に向かって投げた。
  「見つけたよ、ティティスっ!」

  ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。

  軽機関砲の激しい弾幕に切っ先は撃ち落とされた。
  銃口をレッドフォックスに向けるのは軍曹。
  ティティスと呼ばれたのは、メタルブラスターの銃口からまるで赤い刀身のようにレーザーを放出しているレディ・スコルピオン。
  トンネルスネークの2人だ。
  「お前ら待ってたぜっ!」
  「ボス、遅れて悪かったな。途中でレディ・スコルピオンと会ってよ、ここまで来たって寸法さ。俺と一緒にいた兵隊なら心配ない、もう脱出してるぜ。俺らはボスを探してきたんだ。なあ、そうだろ?」
  「まあね」
  これで形勢逆転だ。
  ブッチ1人なら真っ先にレッドフォックスに彼が狙われて終了だけど、さらに2人加わればそうはならない。
  勝てる。
  それにしてもメタルブラスターのあの使い方、あそこまで出力があるものなのか。
  確かにテンペニータワーで鋼鉄の扉も焼き切った。
  超高速振動剣は衝撃波を放つという構造が刀身内部にあるわけだからそれ以上の硬度だと思ったけど、すごいな。
  まあ、もしかしたらあの剣の耐久性は大したことないのかもしれないけど。
  「ボス、あたしは……」
  「お前はお前だ。別に名前なんてどうだっていいさ」
  「相変わらず適当な性格ね」
  「ほっとけよ」
  「だけど悪くないわ。少しだけ、気に入ってる。少しだけね」

  パチパチパチ。

  拍手したのはレッドフォックス。
  顔にはまだ余裕の色がある。
  ステルス機能があるし、床には対戦車ライフルが残ってる。
  油断はできない、か。
  「ティティス、まさかここで会えるなんてね。自分の首にNCRがどれだけの賞金を賭けたのか忘れてない? アタシが賞金金稼ぎだってことも。狙われた理由は知らないし、どうでもいいけど……」
  「NCR諜報部隊は全滅した」
  「……へぇ?」
  「あなた、このままここにいたら死ぬわよ? 強者と戦っていれればそれでいいなら、話は別だけど。ミスティ、PIPBOYを起動してみて」
  「分かった」
  起動する。

  <サラよ。ミスティ、聞いて。攻撃衛星からそちらに対して核が発射される。阻止は出来ない。時間があるなら地上ルートで脱出を。ないなら甲板まで来て。限界までは待つわ。急いでっ!>

  「はっ?」
  攻撃衛星が、核を発射する?
  何だそれっ!
  「さっきまでデリンジャーがいた。ミスティの仲間、なんでしょ? あの有名な殺し屋が仲間だなんてにわかには信じられなかったけど、まあ、ミスティだからで済むって考えるあたしもだいぶ毒されてる」
  デリンジャー?
  あいつここにいるのか。
  相変わらず行動範囲がデタラメだな、大統領専用メトロからどうやってここまで追ってきたんだろ。
  「仲間よ、それで?」
  「奴が無線で傍受したのよ、今のと同じ内容を。あたしはここからさっさと脱出するべくここに来た、デリンジャーはグリン・フィスの方に回るみたい。あいつ、何なの? ここの情報全部抜き出してる」
  「……あはは」
  何者なのか私も聞きたいです。
  チート過ぎる。
  しかし、これで展開が一気に変わってしまったな。
  「レッドフォックス、どうする?」
  「依頼はこの際どうでもいい。アタシとしてはあんたと遊ぶのも楽しいんだけど、ここで核で吹き飛ぶっていうのは面白くない。どうせ死ぬならもっとドラマチックな動機が欲しいし」
  「……」
  こいつもデリンジャー同様に訳分からん。
  感情の流れが理解不能。
  「いいよ、西海岸に帰る。ここにいても、もう楽しいことはなさそうだし」
  「私との決着は?」
  聞きたくはない。
  聞きたくはないけど、聞いておかないと後々落ち着かない。
  「ミスティもバトルマニア?」
  「違う」
  否定しておきます。
  少なくとも私はそのつもりはない。
  今まで数えきれないぐらい死線を超えてきてるにしても、私が望んだわけではない。
  「西海岸で会ったらまた遊ぼう」
  「よかった。行かないから会わない」
  引きこもろう、キャピタルに。
  そしたら戦うこともない。
  「で? 彼女はどうするの?」
  ティティス、レディ・スコルピオンを見る。
  「別にいいよ、もう。NCRが退場しているなら、作戦は失敗ってことだし。今更殺しても特に意味がない。彼女に関してはビジネスなのよ、だからそれが成り立たない以上はどうでもいい」
  対戦車ライフルを拾う。
  不意打ちをブッチたちは警戒するけどレッドフォックスにはその気はなかった。
  「じゃあね」
  そう言って彼女は消えた。
  文字通り、ステルス機能をONにしてその場から消え、立ち去った。
  さて。
  「ブッチ、撤退するわよ」
  「おう。トンネルスネーク、行くぜっ!」



  階段を駆け上がり、私たちは空を見た。
  甲板だ。
  何だかんだでここまで来てしまった。
  ……。
  ……撤退するつもりで何故にここに来た?
  うー。
  また私の貧乏神特性が発動してしもうた。
  おおぅ。
  「ボス、どうするっ!」
  「一難去ってまた一難だぜ」
  いつまでも空を見上げてはいられなかった。
  その空から、空中にあるベルチバードからBOSのパワーアーマー部隊がラベリングしつつ降下してくる。レーザーライフルを撃ちながら。
  エンクレイブだ。
  エンクレイブの部隊が甲板にいる、数にしたら30ぐらいか。
  最後の抵抗ってわけね。

  「極力ベルチバードには当てるなっ!」

  甲板に着地し、レーザーライフルを手に指揮している人物はサラ・リオンズ。
  なるほど。
  わざわざ降下してきているのは甲板にあるベルチバード群を確保する為か。確かにその必要性はある。先を見据えるのであれば、ここでの確保は必要不可欠だ。
  鹵獲して運用は出来ても今のBOSでは量産は出来ない。
  ここで抑えておきたい代物だ。
  BOSの降下人数は10名前後、数は少ないけどパワーアーマー持ちだし、エンクレイブの残存勢力ぐらい圧倒できる。
  「ミスティ? ミスティ、よかった、今行くわっ!」
  サラが私を発見。
  こちらに向かいつつ部下たちに命令する。
  「エンクレイブの部隊には構うなっ! 核が落ちるまでに撤収する必要がある、ベルチバードに搭乗、各自離脱せよっ! 撤退ポイントで会いましょうっ!」
  悪くない手だ。
  ここで構っていても得策ではない。長引けばベルチバード確保が困難になる。
  パワーアーマーだから多少撃たれても問題はない。
  空中のベルチバード隊から撤退支援の掃射があるし降下部隊は悠々とベルチバードを奪い離脱していく。
  「優等生、どうするんだ?」
  「撤退する。サラ、操縦頼める?」
  「あなたの為にわざわざ来たのよ、当たり前でしょ。さあ、行くわよ」
  「いえ」
  「えっ?」
  「決着は付けておきたいのよ。離陸の用意はしておいて、決着付けてくる」
  私はミスティックマグナム2丁で空中からの攻撃に対して抵抗を続けるエンクレイブ部隊に向き直る。
  そこにいるのだ。
  彼女が。
  「クリスっ!」
  「妙な縁だな、我々は」