私は天使なんかじゃない







頂上決戦





  出会ったしまった以上、どちらも退けなかった。
  ただ戦うのみだ。





  移動要塞クローラー。
  エンクレイブの切り札的な存在。
  最大兵員数1000人。
  対地対空砲撃用の砲台と機銃を装備し、衛星軌道上を漂う攻撃衛星とリンクさせる機能を持つ、旧世代の最強最大の要塞。
  「そこっ!」

  バリバリバリ。

  私はアサルトライフルを掃射。
  通路から不用意に飛び出してきた灰色の軍服を着たエンクレイブの歩兵を3人撃破。
  死体となって転がる。
  「ふぅ」
  弾倉交換。
  既に私たちBOS&メトロ連合軍は移動要塞クローラー内に突入している。
  「優等生、潰しておくぜ」
  「ええ。お願い」
  ブッチが天井にある機銃型タレットを9oピストルで破壊。
  起動はしてない。
  やはりセキュリティは死んでいるらしい。機銃も砲台も結局攻撃してこなかったし。
  「なあボス、もっとマシなの使えよ」
  「ポリシーだ」
  同意見ですね、軍曹。
  ブッチはここでも9oピストルを使ってる。2丁ピストルで、弾丸も9+P弾という貫通弾ではあるけれども、さすがに威力が軽いと思います。
  ……。
  ……ま、まあ、相変わらず剣で敵に突っ込んでくる御仁がいるわけですけども。
  ブッチ、服装は相変わらず革ジャンだし。
  まあ、革ジャンに関してはエンクレイブの軍服と大差ないからいいのか?
  そういえば防弾素材を裏地に使ってるとか言ってたな。
  「警戒して」
  「了解しました」
  答えたのはBOSの兵士。
  突入後、エンクレイブの激しい抵抗にあって部隊は分断されている。だけどそれに関しては想定内だ、元々部隊を分けて、個々に制圧していくつもりだったし。
  私に従っているのはBOS兵士8名。全員がパワーアーマーで、レーザへライフル持ちだ。
  ブッチと軍曹もいるし、無敵のグリン・フィスもいる。
  それはいい。
  それはいいんだけど、突入してみると意外に敵が多いなと感じた。
  もちろんキャピタルにおける連中の最後の砦だ。
  敵は多いだろう。
  ただ、私としては、外にあれだけロボ群を展開させていたからてっきり人員が少ないんだと思ってたわけよ。

  「いたぞっ!」
  「侵入者を殺せっ!」
  「クリスティーナ・エデン大統領の為にっ!」
  「攻撃開始っ!」

  4名新たに攻撃してくる。
  自動小銃で。
  馬鹿め。
  真正面からやり合ってこっちをどうにかできる人数ではないし、実弾は自動スローになるんだ。
  リサーチ足りませんね。
  ひょいっとー。

  バリバリバリ。

  弾丸避けて、はい終了。
  「お終いっと」
  「トンネルスネーク始まるんだぜぇーっ! 始まる……あん?」
  「ボス、終わりだ」
  「ふっ」
  「てめぇサロン・パス笑ってんじゃねぇーよっ!」
  一発でいい。
  スローになる条件は、視界に一発でも入ればそれでいい。
  敵の弾が仲間に当たるなんてない。
  私の前に出た瞬間に、死亡確定。
  「……凄い」
  「……あ、ああ、本当に凄い」
  「……サラ隊長の言ってたことは、本当だったんだな。まさか、こんな戦い方があるとは……」
  BOSがこそこそと何か囁きあってる。
  気持ちは分かる。
  大概私も化け物だ。まあ、ジェリコには負けるけども。あいつは人型ですらなかったし。
  それにしても。
  「クリスティーナ・エデン?」
  こいつらオータムの手下ではないのか。
  よくは分からない。
  よくは分からないけど、これオータムの作戦じゃないのか?
  どっかに隔離してた兵士たちを、解放して私たちにぶつけよう的な。
  まあいい。
  今のところ特に問題はない。
  抵抗は激しいけど、出てくる人数は一回一回は大したことはない。この人数でも行けるだろ。
  移動要塞の内部データ自体はハークネスから抜き出してある。
  そしてそれを連合軍にも提供してある。
  だから。
  だからそれぞれがどこを制圧するかは分かってる。
  ところどころ隔壁が下りてて進めないけど迂回するルートもすぐに分かる、特に私にはPIPBOYがあるわけだからすぐに検索して分かる。

  キィン。

  金属に何か当たる音。
  何だ?
  後ろから聞こえたぞ。
  「敵発見っ!」
  BOSの兵士が振り返ってレーザーライフルを撃つ。
  ああ、パワーアーマーに当たった音か。
  無敵ではないけどあの程度ではアーマーは壊せない。私たちが戦闘に移行するよりも前にBOS兵士たちはエンクレイブ兵士たちを鎮圧していた。
  鎮圧=射殺なんですけどもね。
  彼らはモブじゃないし雰囲気要員でもない。
  強力な戦力だ。
  「主、まだ進みますか?」
  「そうね」
  考える。
  予想よりも兵隊の数が多かったこと以外は予定通りだ。
  敵はこちらを分断するように戦ってたとは思うけど、分散するのは当初の作戦だし、別にそこも問題ではない。
  一見すると問題ない。
  順調過ぎるぐらいだ。
  ……。
  ……気に入らないな。
  結局、情報提供者が誰だか知らないけど、その通りになってる。
  セキュリティは死んでて、敵は小出しにしか来ない。
  楽勝だ。
  それが気に入らない。
  ここはエンクレイブの最後の砦だぞ、こんなに簡単でいいのか?
  疑り深いだけかもしれない。
  前に私の脳みそが言ってたけど、前提を疑ってかかる、それが私の悪い癖だ。
  この楽勝の裏に何かある?
  慎重に行くべきだ。
  ここから先はより慎重に。
  ただ……。
  「進みましょう。まだ余裕はある。後続はどんな感じになってる?」
  BOS兵士に聞く。
  名前は知らない。
  ナイトなのか、パラディンなのかすらも。
  今の私は慎重論傾いてはいるけど、それでいて迅速に大胆に行動する必要もあると考えてる。
  まあ、要はいつも通りのごり押しってやつです。
  「報告では戦闘そのものは問題ないとのことです。ただ、隔壁が上がったり下りたりとしていて、一番近くの部隊でも我々に合流するには少し時間が掛かりそうです」
  「上がったり下がったりね」
  オータム側かな。
  たぶん監視カメラを通じて通路の隔壁を上げたり下げたりでこちらを分断してる、そしてクリス側のエンクレイブをこちらにぶつけてる。
  「他には?」
  「パラディン・トリスタンが一層の武器庫を制圧したとのことです」
  「へー」
  なかなかやるじゃん、あのおっさん。
  ああ、いや。
  そりゃやれて当然だろう、サラがここの指揮官に任命した男だ、口が悪かったり小物臭がしたとしても、実際には出来る男なのだ。
  「で、優等生、結局どーすんだ?」
  「進むわ」

  進撃再開。





  アダムス空軍基地近郊。
  空中を進むベルチバードの編隊。
  サラたちBOSが鹵獲した空挺戦力。
  元々この編隊は議事堂制圧の為にクリスティーナが派遣した部隊が使っていた代物で、派遣部隊はオータム派の部隊がアンダーワールド攻撃の為に展開していたのを知り、背後を衝いて
  強襲、その後ミスティたちと交戦状態となって両エンクレイブ部隊は全滅した。議事堂は現在無人で誰もいないものの、クリスティーナは戦争後を見据えて制圧するつもりで派遣していた。
  その後乗り手のいなくなった編隊はサラたちによって奪われ、空にいる。
  それより少し遅れて飛ぶジェットヘリ。
  GNRの専用機。
  操縦者はスティッキー、護衛にシーリーンとガンスリンガー、そしてもう1人。
  それは……。
  「皆聞こえているか? スリードッグだっ! 俺は現在空を飛んでいる、そう、俺はネ申だったんだっ! ……ははは、冗談だ。リスナーの諸君、現在俺はアダムス空軍基地に向かっている」
  マイク片手に軽い口調で語るスリードッグ。
  彼のいつものスタイルだ。
  ただ。
  ただ、今回はどこか口調の端々が熱っぽかった。
  それはそうだろう。
  この一戦でキャピタル・ウェイストランドの今後が決まるのだ。
  「詳細は後程だ。BOSの編隊が高度を下げている。そろそろ始まるらしい。こちらはキャピタル・ウェイストランド開放放送ギャラクシーニュースラジオだっ! どんな辛い真実でも君にお伝えするぜ」





  同刻。
  GNRのジェットヘリの前を進むベルチバード編隊、その一機内のやり取り。
  「サラ隊長、アダムス空軍基地上空です。パラディン・トリスタンの報告通り、移動要塞の反応はありません」
  「とはいえ、このまま油断するな。全機にそう伝えろ」
  「はい」
  「あの移動要塞、材質は何だか分からないがある程度は耐えれるはず。加減は難しいが地上部隊が潰し損ねた砲台と機銃を潰しておくべきね。ああ、あとの監視塔は攻撃するな、友軍がいる」
  「はっ」
  「全機に攻撃命令を。爆撃開始」
  「了解。全機爆撃開始。地上部隊を支援せよ」

  サラ率いるベルチバードの編隊、アダムス空軍基地に到着。
  攻撃開始。





  揺れる。
  移動要塞の通路が揺れる。
  「何?」
  「サラ隊長の編隊が攻撃を開始した模様です、閣下」
  「そう」
  私たちは制圧した医務室で待機。
  残弾の確認中。
  調子に乗って撃ち過ぎたな、アサルトライフルの弾丸がもうない。
  「くっそ」
  ガチャン。
  私はアサルトライフルを床に捨てた。
  まあいい。
  ミスティックマグナムがあれば問題ない。
  今のところエンクレイブアーマー持ちの兵士は出てこないけど、例え出てきてもミスティックマグナムなら問題はない。
  テスラは、勘弁ですが。
  「皆、弾丸は大丈夫?」
  「俺は平気だぜ」
  「主、自分も問題ありません」
  グリン・フィスの場合は剣メインだし、たまに45オートピストル撃ってるぐらいだから弾丸の心配はないわよね。
  1人だけ土俵が違う戦いしてるなぁ。
  別にいいけど。
  「ベンジー、お前はどうなんだ?」
  「まだまだ大丈夫だぜ、ボス。と言うわけだから安心しろ、ミスティ。まだやれる」
  「頼りにしてる」
  実際、軍曹の軽機関砲の火力は馬鹿に出来ない。
  大きな戦力だ。
  懐古主義ではないけど、一応言うなら彼はかつてのハークネスポジションのアタッカーだ。いるといないとでは全然違う。
  「そっちは平気?」
  「フュージョンセルはまだあります、行けます」
  「分かった」
  今のところ脱落なし。
  ただ、ここは敵地なわけだし万全の用意はしておきたい。
  「よっと」
  壁に備え付けられていた医療バックを開ける。
  おお、スティムあるじゃん。
  それぞれいくつか携帯してるけど、まだ使ってないけど、補充しておこう。
  「欲しい人いる?」
  誰に言うでもなく言う。
  「優等生、サロン・パスは撃たれたがり野郎だから必要だろうぜ?」
  「ふっ。弾丸の動きも見えない雑魚に言われたくないな」
  「見えねーよ普通はっ!」
  まあ、見えませんよね。
  グリン・フィスは見えてるらしい。
  結局来れなかったけど、デリンジャーは見えてたのかなぁ。バンバン撃ってたけど、あいつ普通に避けてたしなぁ。
  あいつも大概デタラメだ。
  「それで、サラの方はどんな感じ?」
  「爆撃して砲台と機銃はあらかた潰せたようですが要塞の装甲はビクともしなかったようです、閣下」
  「マジか」
  ソノラたちのヌカ・ランチャーの支援でも平気だったし、移動要塞はセキュリティ働いてなくても無傷でいられる装甲があるってわけだ。
  そう考えたらガウスライフル半端ない威力だな。
  装甲貫通したし。
  あれを何とか量産出来たらエンクレイブも敵じゃない気がする。
  うーむ。

  「探せっ!」

  ドタドタと廊下を走り回る音。
  やれやれ。
  どっちの派閥かは知らないけど、エンクレイブの連中が大騒ぎしてる。
  狩るか。
  せーの。

  ガチャ。

  扉を開けて私は通路に出る。
  右手を右通路に、左手を左通路に、それぞれミスティックマグナムを手にして飛び出た。
  「いたぞっ! 医務室にいたっ!」
  「Cronus」

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  心臓の鼓動が聞こえる。
  ゆっくりと。
  よりゆっくりと世界は進み、そして静止する。
  吹っ飛べ。
  能力解除、そして全弾発砲っ!

  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン、ドン。ドン。ドン。ドン。

  12連発。
  「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  響く断末魔。
  さっと私は後ろに飛び退いて医務室に戻った。
  「よろしく」
  「おうっ!」
  軍曹が体を隠したまま軽機関砲を左通路に牽制で撃ち、右通路にはBOSの兵士たちが防御力頼りに飛び出してエンクレイブ兵士と交戦。
  激しい戦闘が展開される。
  「はあはあ」
  空の薬莢を排出し、弾丸を込める。
  能力はまだ使える。
  大丈夫。
  大丈夫だ。
  「主、大丈夫ですか?」
  「ええ。ブッチ」
  「あん?」
  「軍曹を援護してあげて」
  「よっしゃ」
  軽機関砲を手にした軍曹は本格的な戦闘を展開、ブッチはその後方支援に回る。
  弾丸はまだある。
  アサルトライフルの弾はもうないけど、ミスティックマグナムの弾がある。
  死んでるエンクレイブ兵士から奪えば確かにアサルトライフルは弾と銃を獲得できるんだけど、私としてはミスティックマグナムがあればそれでいい。
  旅のほとんどが44マグナムだった。
  使っているのはミスティックマグナムだけど、ある意味では44マグナムの上位版。
  旅の終わりもこいつを使っていきたい。
  それにエンクレイブパワーアーマーが出た時にアサルトライフルからミスティックマグナムに持ち直すのは、時間のロスだ。
  「閣下」
  「何?」
  銃声は止んでいる。
  BOS兵士が私を呼んだ。
  「戦闘終了です」
  「ご苦労様」
  「ただ、2名ほどパワーアーマーの動力が落ちつつあります。銃撃で動力に損傷を受けたようで」
  「そう」
  この辺りが潮時かな。
  パワーアーマーといえども何度も銃撃されたら装甲が耐えられない。
  退くべきか。
  一度に全部を制圧せずとも、少しずつ陣地を広げるとしよう。
  問題はない。
  今のところはこっちが優勢だ、人数も多い、こっちは300人はいる。
  対するエンクレイブは真っ二つに割れ、セキュリティが起動していない状態。さらに我々には空挺支援が来てる、負ける道理はない。
  ここは一度下がるべきか。
  「全員、後退するわよ」

  ガタン。

  「ん?」
  何の音だ。
  通路からだ。
  「おいマジかよっ!」
  「どうしたの、ブッチ」
  「退路が隔壁降りて通れなくなってんぞっ!」
  「マジか」
  「マジだっ!」
  「……はぁ」
  逃がさないってことですか。
  面倒な。
  「動力はどの程度大丈夫なの?」
  「調べてみないと分かりませんが移動する程度は出来そうです。幸い銃撃は動力部付近に集中しているだけで貫通していませんし、迂回ルートで脱出したとしても耐えれるはずです、閣下」
  「しつこいようだけど、武装は?」
  「問題なしです、閣下」
  「分かった」
  しばらくは平気か。
  迂回して撤退するしかないな。
  「やれやれ」
  行きましょう。
  準備を整えて私たちは進む。
  PIPBOYでルート検索。
  一度上の階層に上って、それから下に行く必要がある。

  「いたぞっ!」

  銃撃が飛んでくる。
  後ろからっ!
  隔壁閉じたのはどっちの派閥だか知らないけど、戦力整える為の時間稼ぎだったのか。10数人が追ってくる。
  結構いるな。
  「ボス、先に行け。俺がここで時間稼ぐ」
  「ベンジーっ!」
  「行けよボス。悪いがBOS、何人か援護してくれ」
  「分かった、任せてくれ」
  BOS4人がここに残り、軍曹と共にここで敵を迎え撃つ。
  私たちは先に進み、退路を確保する。
  可能なら友軍と合流する。
  配置は動力を失いつつあるBOS兵士2人は退路確保の私たちのチームにいる。
  「さあて。小僧どもに戦争のやり方を教えてやる」
  頼もしい言葉を呟く軍曹に後ろを任せ、私たちはその場を後にした。
  走る。
  「次、こっち」
  指示。
  通路を曲がる。
  直後、天井にあったレーザー型タレットが起動。赤い光線にBOSの1人が胸部を貫かれた。
  セキュリティが起動したっ!
  それも、よりによってレーザータイプとは。
  私の自動発動能力の発動条件は弾丸のみだ。
  「こんのぉーっ!」
  タレット破壊。
  「大丈夫っ!」
  声を掛けるものの、兵士を抱きかかえていた別の兵士は首を横に振った。
  くそ。
  これは戦争だ。
  分かってたこととはいえ、やはり誰かが死ねばやり切れない。
  私が知らないだけでたくさん死んでる。
  そして死なさない為には敵を殺すしかないという、戦いという人類が生み出した最大の矛盾。
  人は過ちを繰り返す、か。
  それでも。
  それでも戦う必要がある。
  こっち側の人たちを助ける為に。
  違う意見を叩き潰す気はない、エンクレイブはこちらを下に見ているから今日この日までの展開に繋がっている。
  勝って、対等だと宣言する必要がある。
  その後?
  ……。
  ……あんまり考えたくはないな。
  メルヘンはありえないから。
  エンクレイブが退けばお終いだけど、メンツ云々でまた来たら、今度は多分……。
  「閣下、ご指示を」
  「パラディン・トリスタンに連絡は?」
  「取れません。無線が妨害されているようで」
  「くそ」
  こんな時にか。
  いや、待て。
  「通信室に行って。そこからなら要塞内に放送できるはず。放送だから一方通行でトリスタンの反応は分からないけどさ。ここからすぐよ、行けるでしょ?」
  「何と放送しますか? ご指示を」
  「今更だけど、私に指揮権はあるの?」
  「この状態ですのでおそらく外部との交信は不可能でしょう。閣下がここを指揮しても問題ないはずです」

  「いたぞっ!」

  「クソ、来やがったぞっ!」
  「主、ここは引き受けますが、お話はお早く」
  さらに敵の増援。
  まずいな。
  相手の用兵は上手い。オータムだかクリスだか知らないけどさ。こっちはここまで誘い込まれたってわけだ。セキュリティはおそらく本当に死んでいた、ここまでフルボッコにされるまで起動しな
  かったのはおかしい。だけど起動の目途はあったんだろう。だからここまで誘導し、分断し、各個撃破するつもりらしい。
  策は悪くない。
  だけど攻撃セキュリティの大半は死んでる。ここに至るまでのタレット系は全て潰してきた。
  外部兵器も目が届く範囲は潰した。
  「閣下、何と放送しますか?」
  「撤退」
  「撤退、ですか?」
  「一度退く。移動要塞の足は潰した、ガウスライフルで。どこにも行けはしない。修復は出来るでしょうけど、これだけの大きさだ、すぐには出来ない。パンクしたから帰るって手軽さじゃない。一度
  アダムス空軍基地に設けた私らの司令部、倉庫まで後退。相手に時間なんて与えずにサラの編隊で叩き潰す。ミニ・ニュークの一斉投下で潰す。でも問題がある」
  「問題、とは?」
  「あなたたちに活躍してもらう必要がある。ここは私らで受け持つ」
  「つまり」
  「つまり、英雄になってきて。勝利の為に、一時後退する。それを全軍に伝える役目よ」
  「了解しました、閣下」
  敬礼。
  それから生き残りのBOS兵士は通信室に向かった。
  残る戦力は私らだけだ。

  「つ、強い。化け物か……」

  最後のエンクレイブ兵士が倒れた。
  だが、ガシャンガシャンと音が聞こえる。
  BOSの兵士たちだ。
  外装は黒く、異質な外観、プラズマ兵士、うん、どこからどう見てもBOS兵士だ。
  あははは♪
  手を振っちゃお♪
  「はぁ」
  「主?」
  「何でもない」
  現実逃避出来ないなんて厄介な性格だなぁ。
  あれはエンクレイブの増援だ。
  まあ、現実逃避出来ないんじゃなくて、あの程度なら逃避する必要がないってことかな。
  さて。
  「やるわよ」
  「御意」
  「トンネル・スネーク始まるぜぇ。始まるんだぜぇっ!」





  アダムス空軍基地。
  監視塔。
  「ソノラ、これはやばいんじゃ……」
  「落ち着きなさいアッシュ」
  移動要塞がついに起動した。
  砲台と機銃を上空を飛び交うベルチバードへ向けて放つ。ただ、BOS&メトロ側にとって幸運だったのは無傷で鹵獲という当初の作戦を実行せず、可能な限り破壊してから鹵獲するという
  ミスティの作戦に変更したことだった。その結果、ベルチバードの編隊の攻撃も苛烈ではなく、負傷兵を連れて倉庫まで後退する地上部隊に対しては攻撃する方法すらない。
  彼女は正しかった。
  彼女は移動しない要塞、つまり固定要塞として運用する腹積もりだった。
  だから移動可能な車輪を潰し、万が一セキュリティが起動した時のことを考えて外部兵器を破壊、可能な限り被害を抑える戦いにした。
  それ故の結果。
  ただし……。

  ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン。

  「……落ちた」
  モニカが呟いた。
  そう。
  どんなに最善を尽くしても人は死ぬ。
  殺し合いだからだ。
  「ソノラ、アッシュの言う通りではないかと思いますが」
  「そうですね」
  監視塔も射程圏内に入っている。
  BOSは制圧済みだと知って攻撃してこないが、エンクレイブもまた制圧済みだと知っている。そしてエンクレイブ側は、知っているからこそ攻撃してくるだろう。
  「仕方ありませんね、後退します。行きますよ」
  「了解しました、ソノラ」

  レギュレーター、監視塔放棄。





  移動要塞クローラー。
  内部。指令室。
  「これはどういうことだっ!」
  誰かが叫んだ。
  オペレーターの1人だ。
  それだけではない。
  指令室内はざわざわと混乱していた。
  攻撃セキュリティ復帰後は一気に沸き立ち、これで我々の勝利だと叫んだオペレーターが数分後には混乱と同様の叫びをあげていた。
  無理もない。
  外部に通じる扉が開かないのだ。
  最後に出たのはサーヴィス少佐。それ以降、誰も出ていない。いや、指令室内部にいるオータムの兵士たちがBOS追撃に出ようとしたとき、初めて開かなくなっていることに気付いた。
  ざわめきは最高潮となる。
  
  「おい、解除しろっ!」
  「システムに問題はない。……いや、問題ないはずだ、システム上にはなにもおかしいところはない」
  「オータム大統領、攻撃衛星とのリンクが切断されましたっ! これは、乗っ取られた?」
  「キャピタル・ウェイストランドの攻撃部隊から緊急通信っ! 要塞が、攻撃衛星からのミサイルで壊滅したとのことです。その、クリスティーナ軍と我が軍の、両主力が消し飛んだと……報告が……」
  「システムにおかしなところがないか徹底して探せっ!」
  「か、閣下、これは明らかに第三勢力がいるのではないかと……」
  「BOSだっ! 連中の仕業だっ!」
  「ありえないっ! ここのシステムは完全に独立してる、外部から侵入することは無理だっ! BOSが入り込む前から仕込まれていた、何者かによってなっ!」
  「閣下、どうしますか、閣下っ!」

  1人、オータムだけは、カールだけは椅子に深く体を預けてこの事態を見ていた。
  傍観者。
  彼は既に傍観者だった。
  ここまで仕込んだのはサーヴィスと古巣の仲間たちで、彼らは自分たちを逃がすミスはしない。
  絶対に逃げられない。
  カールはそれを感じていた。だから命令するつもりはなく傍観者でいられた。
  低く呟く。
  「俺の葬式は随分と派手らしいな。だがサーヴィス、お前はどうするんだ? お前の思惑は、NCRとは無縁だろ? お互いに色々と演じているが、最後ぐらい自分でもいいんじゃないか?」





  移動要塞クローラー。
  第9エリア。
  「……はぁ」
  「行き止まりだな、優等生」
  隔壁が下りてる。
  くっそ。
  迷ってはないけど、ハークネスから得た情報はあくまで全体図だ。指令室かどっかから隔壁下してるんだろうけど、これ袋のネズミだろ。
  逃げても逃げても都合の良いところまで追い込まれる。
  面倒だ。
  「あいつ、どうしたんだろうな。サロン・パス」
  「グリン・フィス」
  「そうそう、それ」
  「……軽口聞きたい気分じゃない」
  「だろうな。俺も何も言わずにビール飲んでごろ寝したいぜ」
  追われて。
  追われて。
  追われて。
  気付けばこんな上まで来てしまった。
  幸い敵はあれから出てこない、放送も移動要塞内に響き渡った。トリスタンたちは撤退するだろう。
  それで?
  「私らどうしようか」
  「名案があるんだ。俺がお前をエンクレイブに引き渡すんだ、俺は助かる」
  「そりゃすごい。で、私はどうなるの?」
  「18禁ルートだろ」
  「死ねカス」
  「……辛辣だな、お前」
  「軽口聞きたくない私が、そんなエロ話聞きたいと思うの? 死ぬか、雑魚」
  「悪かったよ。気を紛らわせてやろうと思ったんだよ」
  「はぁ」
  額に手をやる。
  「私も悪かった。ごめん」
  「いいさ、別に」
  「ふぅん、優しいじゃん」
  「ほ、惚れてもいいんだぜ?」
  「何で?」
  言っている意味分からん。

  「実はアタシも名案があるんだ」

  「……っ!」
  私とブッチは銃を構えて振り返る。
  そこにいたのは赤髪の女。
  片目を髪で隠し、体のラインを強調したライダースーツのようなもので身を固め、身の丈ほどある大剣を背負った女性。そして片手で軽々と対戦車ライフルを私に向けている。
  「レッド・フォックス」
  「久し振りだね、ミスティ」
  「そうね。何でここにいるの? ああ、まさかBOSに雇われてここにいる? 助かった、私たち疲れてるから部屋用意して。私には熱いお風呂。彼にはビール。チップに5キャップあげようか?」
  「アハハハ。残念。アタシはNCRに雇われてるんだ」
  「NCR」
  西海岸にある大国だ。
  それは知ってる、彼女が雇われているのも。だがそれは賞金首を追ってのことだ。
  ここにいるのか?
  いや待て。
  いたとしても入り込めるわけがない、エンクレイブが手伝う道理もない。何かの裏取引をして……違うな、これは別の何かの思惑がある。彼女はその思惑によって動いている。
  何でここにそんな勢力に雇われた奴がいるんだ?
  まさか。
  「介入してるのね、NCRがこの戦争に」
  「たぶんね。アタシは知らないよ。アタシが探していたのは、その計画の邪魔になるであろう赤毛の女だけ。結局見つからなかったけど。それで今、別のアルバイトしてるんだ」
  「アルバイト?」
  横目でブッチを見る。
  彼も私を見て、それからレッド・フォックスを見た。視線を私に戻す。
  私は首を軽く横に振った。
  手を出すのは得策ではない。
  少なくとも、まだ。
  相手の出方を見てからだ。組めば勝てるとかいうレベルではない、敵対するのであれば私単体の方がいい。ブッチが弱いとは言わないけど、レッド・フォックスはおそらくデリンジャーかグリン・フィス級。
  ブッチが絡めば、悪いけど足手纏いだ。
  「アルバイトって何?」
  「クリスティーナって奴を殺すことだよ」
  「別に止めないけど?」
  「多分もう逃げたんじゃないかなー。甲板にはベルチバードがある。さすがのアタシも空飛ばれれば見逃すしかない。そこで、さっき言った名案に繋がるのさ」
  「名案って?」
  「アタシと殺し合いしようよ、ミスティ。強い奴は好きなんだ、男も女も」

  VS西海岸最強の賞金稼ぎであり最凶の賞金首レッド・フォックスっ!





  同刻。
  移動要塞、第11エリア。
  「……どうやって我々の先回りをしたかは知らないが久し振りだね、グリン・フィス。相変わらず非常識な奴だ」
  「クリスティーナ」
  乱戦の中ミスティとはぐれたグリン・フィスはミスティより上の階層、そして脱出間近だったクリスティーナの部隊の前に到着した。
  彼にそのつもりはなかったものの先回りしたことになる。
  この時点でのクリスティーナの部隊数は30名。
  橘藤華もいる。
  兵士たち一斉に銃を向ける。
  「グリン・フィス、軍門に下れ。私に従うならミスティをここの知事にしてやる。たまに指示を出す、毎月税金を払え、あとは好きにやれるぞ。良い話だと思わないか? 誰も死なない、良い提案だ」
  「良い話だな」
  「だろう?」
  「自分は従ってもいいが、主は気に食わないと思うだろうな」
  「ではお前だけでも下ればいい。悪いようにはしない」
  「腑抜けたなクリスティーナ。お前は主の側にいて何を見てきた? 主がそんな支配を受けると思っているのか? あの方は自由だ、自由そのものだ。貴様のやり方は趣味ではない」
  「官僚的、と言って貰いたいものだな。確かにミスティは自由だろう。しかしこの地に国を築くつもりなのだろう。だとしたらいずれは官僚的になる、それが国というものだ。それを否定したいので
  あれば表舞台から降りればいい。自分の目線で這いつくばって誰かを助ければいい。これは政治の話だ。政治は綺麗ごとだけでは語れない。私は200年見てきたのだ、人は変わらない」
  「残念だ、クリスティーナ」
  腰を低くし、抜刀の構えを取る。
  橘藤華がクリスの前に立つが、クリスは彼女を手で払いのけた。
  「残念、だと?」
  「貴様も自由だと思っていた」
  「自由、そんなものはどこにある? この世は鎖に縛られた人間が這いつくばる地獄だっ! それを管理し、鎖を鎖と思わないように支配する、それこそが私の役目だっ! 綺麗ごとなど、唾棄すべきだっ!」
  「ならば何故お前はカロンやハークネスを親衛隊として身近に置いた? グール嫌いのお前がだ。本当はお前もやりたいんじゃないのか、主と一緒に新しい何かを」
  「……黙れ」
  「グールは次世代に向かえない、だが本音はお前自身が次世代に向かいたいんじゃないのか? だから、お前は主の元から去ってエンクレイブにいるんじゃないのか?」
  「……黙れ」
  「なるほど、政治とは支配なのかもしれないな。だがお前の視点、主の視点、それらを統合したらそれは素晴らしい世界が広がるんじゃないのか? だからお前は……」
  「黙れと言っているっ! 貴様に何が分かるっ! 200年だっ! 必要な時だけ起こされ、不要な時は氷漬けっ! それを繰り返して時代を超えてきたんだ、私は世界を知っているっ!」
  「それはお前の狭い世界だけだ。友人が言っていた。世界はどこまでも続いている、戦っているのはお前らだけじゃないと。視点を変えろ、きっと素晴らしい世界がある。お前が望む世界も」
  「藤華、そいつを殺せぇーっ!」
  「仰せのままに」

  VSクリスティーナ親衛隊であり元シグマ分隊隊長橘藤華大尉っ!





  同刻。
  移動要塞クローラー。第7エリア。
  「まったく。直通のはずじゃなかったの? 甲板までさぁ」
  「申し訳ありません、アイリッシュ中佐」
  エレベーターは第7エリアに止まり、そこから起動しなくなった為NCR諜報部隊27名は通路を早足で進んでいた。エンクレイブはどちらの派閥もBOSの連合軍の攻撃で返り討ちに合い、移動要塞
  陥落までカウントダウンが開始した状態だ。そうなるように仕向けはしたものの、ミスティ率いる連合軍の勢いが凄まじく、完全に予定とは異なる状況だった。
  このままここに悠長いたら巻き込まれてしまう。
  攻撃衛星はまだ発射態勢のままで待機させてはいるものの、長居は出来ない。
  BOS側は一時撤退を決定している。
  そう放送で流れた。
  今が絶好の機会なのだ。
  エンクレイブ両軍のトップ、キャピタルの実質トップである赤毛の冒険者、この3人とその主要人物たちをまとめて消し飛ばすチャンス。
  こんな機会はもうない。
  NCRがいずれ東海岸まで手を伸ばすつもりなのかはアイリッシュ中佐たちも知らなかったものの、ミスティは動き過ぎた。西海岸にとっても無視できない存在となりつつある。どう化けるかは不明
  ではあるものの、NCRのキンバル大統領はミスティが毒虫に化けるかもしれないと判断して纏めて殺せと指示を出してきている。
  ここで吹っ飛ばせば後腐れはない。
  流れとしてミスティが今の状態ではクリスティーナとオータムを下すだろう。
  その後に襲撃ではいささか無理がある。
  何故ならその時ミスティはキャピタル・ウェイストランドの女王だからだ、彼女に近付くのは無理だろう。今回の作戦は数年がかりとはいえ、下地にはアイリッシュ中佐たちの両親がエンクレイブ所属
  だったということがあった。だから潜り込むには、原隊復帰扱いで潜り込むには問題はなかったがキャピタルではそうはいかない。
  ミスティの側に近付く下地がない。
  数年掛ければ何とかなるかもしれないが、少なくともアイリッシュ中佐たちはさっさと帰国したかった。
  異国の地で数年は長い。
  これ以上過ごすつもりはない。
  早々に甲板まで行き、そこからベルチバードで本国に帰還する。
  だから。
  だから自然足も速くなる。
  「アイリッシュ中佐」
  「んー? 何だい、サーヴィス少佐」
  「帰国したら何がしたいのですか?」
  「はあ? とりあえず西海岸の男と一発やるよ。エンクレイブの連中は好きじゃないし、かといって原住民なんか相手には出来ないしね。何だ、立候補するのか? 報酬の半分で乗ってやるけど?」
  「……」
  「サーヴィス?」
  「志半ばで死ぬあなたに哀悼を捧げます」

  ばぁん。

  後頭部をカールから貰った9oでピストル撃ち抜く。
  振り向き様に自分の銃も引き抜いて2丁拳銃で次々と諜報部隊員を撃っていく。
  「サーヴィス少佐、謀反っ! ぴぎゃっ!」
  「はははっ!」
  撃ち殺しながらサーヴィスは笑った。
  反撃は来るものの、数発受けるものの彼は笑いながら銃を撃ち続ける。
  「カールっ! こいつは良い銃だよ、本当にっ!」
  その時、諜報部隊の背後が赤く光った。
  瞬間、赤い光が数条に分かれて部隊員たちを貫いて行く。
  「見つけたよ、サーヴィス」
  「ティティスかっ!」
  現れたのはレディ・スコルピオンと名乗っていた女性だった。
  部隊員たちは完全に動揺し、混乱していた。
  「サーヴィス、過去の借りを返しに来たよ」
  「……返してほしくないですね、正直。良い話ではないんでしょう?」
  「殺す」
  「だと思いました」

  VS裏切り者サーヴィス&NCR諜報部隊っ!





  そして……。
  「ようやく追いついた。さてさて、ミスティはどこですかねぇ」

  デリンジャーのジョン、アダムス空軍基地に単独で到着。