私は天使なんかじゃない
暗闇を抜けて
暗闇を抜け、光差す場所へ。
「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ！ Robotics
Expert」
エンクレイブのシグマ分隊との戦い。
その交戦中、突如ブレークダウンが乱入してきた。
仲間を通り越して。
何やってんだ、皆っ！
ガクン。
その瞬間、エンクレイブアーマーを着た部隊はその場に倒れた。
えっ？
テスラも倒れはしないものの、その場から動かなくなる。
バチバチと緑色の放電をしていたテスラはその光も失っていた。
これはどういう……。
「何をするっ！」
テスラの、リナリィ中尉は叫んだ。
気付けば手に灯っていた緑の光も消えてる。
これは、まさか動力が落ちたのか？
這いつくばり、何とか立ち上がろうとしているパワーアーマー兵士たちはこちらにプラズマ兵器を向けてはいるけど、トリガーを引けど何も起こらない。
間違いない。
動力が落ちてる。
となればこいつらが着込んでるパワーアーマーはただの重たいだけの代物だ。パワーアシストが消えてるんだ、防御力はあるけど、身動きするのも容易ではない代物になり下がった。
「撃て撃て撃てっ！」
私は叫ぶ。
一斉射撃が始まった。
エンクレイブ製のパワーアーマーがBOSが使っている旧世代のリサイクル品より高級だとしても壊せないものではない。
何度かは弾丸を弾くものの耐えられなくなり倒れる。
的だ。
的でしかない。
反撃できないし、動けない的。
ただテスラはさすがにスペックがおかしい、ミサイルランチャーでも動いていたしおかしい。
タッ。
グリン・フィスがショックソードを手に肉薄する。
下から掬い上げるように一閃。
「ちぃっ！」
リナリィ中尉は動力の消失したテスラを着つつも、わずかに後ろに避けた。
だが回避できるものではない。
ばぁぁぁぁぁっと鮮血が飛び散った。
下から一文字に斬られた。
浅い。
動いたから浅い、苦痛を感じただけだ。
ドン。
切り裂かれた部分から私はリナリィの頭を撃ち抜いた。
死ぬ相手に苦痛はいらんだろ。
優しさかは知らない。
ただの介錯だ。
エンクレイブシグマ分隊、撃破。
「ふぅ」
力を抜く。
サラは動力の落ちたパワーアーマーでソドムの街を走ってたけど、あれは完全に動力が失われていなかったからなのかな。
エンクレイブ兵が貧弱なのか、エンクレイブ製はやたらと重いのか。
まあいい。
「グリン・フィス、ナイス」
「しかし外しました。この敵、まともに戦えば危なかったかもしれません」
私ら向けの刺客部隊のかな、こいつら。
確かに手強かった。
「ブッチ」
「あん？」
「いや、何でもない」
「……？」
「気にしないで」
「まあ、別にいいけどよ」
リナリィ中尉の中身はもう確認のしようがない。
ショックソードで顔斬られてるし、というか私がミスティックマグナムで吹っ飛ばしたし。
聞き覚えのある声、いつからかは知らないけど素顔で私の側にいた女性、メタルブラスター……導き出されるのはレディ・スコルピオンだけど、実際はどうだか分からない。メタルブラスター、
キャピタルでは出回っていないだけで西海岸とかでは普通の武器なのかもしれないし。憶測だけでは迂闊なことは言えない。
それに。
それに今それを言うべき場ではない。
ブレークダウンだ。
何故奴がここにいて、手を貸した？
エンクレイブは雇い主のはずだ。
リナリィも何をすると言っていた、同じ側だからこそ言える言葉だ。
裏切りか？
それとも……。
「それで、何で彼がいるわけ？」
どういう経緯でブレークダウンがこちらに付いたんだ？
レンジャーたちは困惑していたし、ブッチたちも要領を得ない顔をしている。
「どういう理由？」
誰に言うでもなく聞く。
ブッチが口を開いた。
「そいつがよ、手助けするって言ったんだ。優等生に危害を加える素振りを見せたら後ろから撃てとも言った。警戒はしてたんだぜ、ただ利用できるとは思ったんだよ」
「なるほど」
うん、意味分からん。
私の味方をした理由がさっぱりわからん。
初対面だろ？
「前に会ったことは、ないわよね？」
「ないな」
「じゃあ、何で？」
警戒しつつ聞く。
Break Downが解体。
Robotics Expertは動力を消失させる、ってところかな。
……。
……いやぁ、違うのか？
あの時Robotics Expertで謎の兵士の息の根も止めてたしなぁ。
命の鼓動も止めるのか？
能力は未知数だ。
「同志だろ、我々は」
「同志？」
「そうだ。我々は共に世界の謎、真実を知った者だ。だから狙われる。奴らにな。ふふふ、だろう？」
「……」
その顔には狂気。
こいつあかん奴やっ！
エンクレイブ、クリスティーナ派のシグマ分隊、撃破っ！
ブレークダウン、ミスティに接触。
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ！」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ！」
奇声と怒号を上げて、斧とリッパーを振り回す2人。
それをデリンジャーはコンバットナイフ片手に翻弄していた。
回避。
回避。
回避。
当たらない。
かすりもしない。
「遊んでる」
ライリーレンジャーのドノバンは呆然と呟いた。
確かに弄んでいる。
だが雇われストレンジャーの2人は気付かない。
殺した数で競い合い、殺人の数を価値とし、それを自分の強さと信じていた2人は気付かない。
格の差を。
可燃性のガスを散布し、銃火器を使えない状況にし、得意とする接近戦を挑んできた彼らではあるものの勝負になっていない。
知らないのだ。
知ろうともしてこなかったのだ。
上には上がいると。
強い者の上には、さらに強い者がいるということを。
他のレンジャー隊員たちも固唾を飲んで見守るしかなかった。
ただ、ライリーは違った。
ガン。
機敏に動いて戦いの場に踏み込み、アサルトライフルの銃底でジャック・ザ・リッパーの頭蓋骨を砕く。
銃が使えなくとも戦う術は彼女にある。
「ちょっとっ！ 俺TUEEEEEな状況を楽しんでいるんでしょうけど、私たちは急ぐのよ。急げば最終便に間に合うし、間に合わないにしても他の仲間の手助けしなきゃいけない。ミスティの為よ」
「ミスティの為、ああ、そうでした。この三下が思い上がっていたので忘れてました」
ガッ。
もう1人の足を払う。
その男の体が宙にあり、通路に転がるよりも前にデリンジャーはコンバットナイフで喉を切り裂いた。
倒れた時には死んでいた。
「これぐらいのことができて初めて殺し屋でしょうよ。ああ、死んでるか」
「……」
「ふぁぁぁぁぁぁ」
欠伸。
デリンジャーのジョン、最強の殺し屋。
思い上がりの新興の殺し屋など敵ではなかった。
「では行きましょうか、ライリーさん」
「命令は聞かないわ。あなたみたいな奴の言いなりになるなんて、ライリーらしくないからね」
「ミスティの為です」
「……そうね、仕方ないわ」
「殺し屋なのは事実なんで僕もあまり気にはしないんですけど、どんだけ僕嫌いなんですか？」
「ふふ、そうね。さて、行くわよ」
「ですねぇ」
ディスメンバラー＆ジャック・ザ・リッパー撃破っ！
それは唐突に訪れた。
炎は弱々しくなり、途切れ、完全に消失した。
通路の向こうで声が聞こえる。
「くそぅっ！」
何かを外す音、地面に叩きつける音、転がる音。
マキシーが呟く。
「ほう？ 怒りのあまり火炎放射器の残量を気にせずに放出し過ぎたようだな。これを狙っていたのか？」
「あ、ああ、当然だ」
嘘。
「なるほど、ミスティの仲間というだけあるな。彼女から学んでいるのだな、怒らせ方を」
「ま、まあな」
嘘。
全て偶然ではあるが、ポールソンとしてはこの機会に乗じる必要があるのは確かだ。
身を躍らせて通路に飛び出しショットガンを連射。
「ちきしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ！」
バーンマスターはミンチとなって転がった。
ポールソンの勝利だ。
「やっぱ、これだよな」
アサルトライフルよりショットガンの方がしっくりくる。彼の携帯しているアサルトライフルは背負われたまま、使われていない。
煙草を取り出して火をつけた。
「ふぅ」
白煙を吐く。
「一服しているところを悪いが行くぞ」
「ああ、行くか」
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ。
走る音。
それは次第に背後に迫り……。
「何だこいつっ！」
メトロの戦士の叫びと同時にポールソンは振り返り、そしてそのまま壁際に押し付けられた。
男が密着している。
男は顔を上げ、口を歪ませて笑った。
舌は蛇のように先端で切れている。
「ひゃはははははははははははははははははははははははぁーっ！ ストレンジャー随一の刃物マニア、スタブ・ハッピー様だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ！」
「ぐっ！」
男は、スタブ・ハッピーはナイフをポールソンの腹部に刺している。
奇声をあげて笑う。
「意表を衝いた攻撃ってやつだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ！ バーンマスターの野郎、まさか名前負けでこんなに雑魚だったとはな、まあ、良い撒き餌でした乙ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ！」
「ぐはぁっ！」
一度軽く抜き、体重を掛けて刺す。
それを何度も繰り返す。
「お、お前らは先に行けっ！ こいつは俺が片付けるっ！」
肉薄し過ぎて撃てない。
メトロもポールソンも。
そう判断し、マキシーたちを先行させ、列車の発車を任せようとしている。
マキシーもまた合理的だった。
この場で全員で右往左往する意味がないことを理解している。
「ザック、お前は残れ。治療を任す」
「わ、分かった」
そのままメトロの戦士たちは1人残して奥へと消えた。
あまりにも機敏な動き過ぎてポールソンは苦笑した。
「……素直過ぎるだろ」
「あいつはああいう奴だから。スティムパックはあるから安心しろ」
「……そりゃどうも」
そのままザックと呼ばれたメトロの戦士はアサルトライフルを構えた。
スタブ・ハッピーが動き過ぎるのでポールソンへの誤射が心配で撃てないものの、ポールソンが死ねばすぐさま撃つ、そういう準備だった。
「人情に篤くて泣けるぜ、本当」
敵は執拗にナイフで腹を嬲る。
スタブ・ハッピー、つまりナイフを突き刺すことに喜びを感じる、という意味だろうか。ポールソンは既にショットガンを落とし、煙草を加える余裕もない。
「けけけっ！ 楽しんでるかぁ？ スタブ・ハッピー？」
「顔を舐めるな、気色悪い。そんな趣味はねぇよ」
バーンマスター撃破っ！
VSストレンジャー、ニューベガス支隊スタブ・ハッピーっ！
ガトリングレーザー×2。
2丁アサルト。
トライビーム・レーザーライフル。
圧倒的な火力が迫りくるフェラル軍団を撃破していく。異様に痩せ細っている個体が多く、通常のフェラルよりも脆い。
だが数が数だ。
「くそっ！ きりがねぇぞ、これっ！」
ケリィが叫ぶ。
既にフェラルを引率していたと思わしき光りし者はいない。攻撃を物ともせずに肉薄して来たものの、フォークスによって殴られて首が吹っ飛んだ。
だが侵攻は止まらない。
「ケリィさん、マイクロ・フュージョンセルを再装填しますっ！ 少しお願いしますっ！」
「分かったアカハナっ！ お前らは弾幕絶やすなっ！」
ラッシュ。
ラッシュ。
ラッシュっ！
バタバタと倒れた分だけ死骸が積み重なるものの、フェラルたちはそんなことはお構いなしに死骸の山を登り、迫り、撃破されていく。
ガチャンとアサルトライフルを捨てたのはデズモンド。
「おい、どうしたぁっ！」
「弾詰まりだ、直してる暇はない。そしてこっちは弾切れだ」
45オートピストルを引き抜き、撃つ。
フェラルは倒れた。
だがおかわりは無数にいる。
「こりゃ赤毛さんには成功報酬として何か貰わないとな。……そうだな、農場でも貰うか。戦いが終わったら俺は農業でもやるよ」
「私は知ってるぞ、そいつは確か、死亡フラグというやつだろ？」
「ははは、フォークスも俗語ってやつを覚えてたか。どうだ、ボルト87の方が平穏だったと後悔してないか？」
「それはないな。外の方が楽しい」
「物好きな奴だぜ」
完全にミスティは目算を間違えた。
だが無理はない。
この数は想定していなかった。
100どころではない。
地上から今回の為に引きずり込まれたフェラルの群れは推定500.。牽引役の光りし者は既に亡骸ではあるものの、そんなものなくともフェラルたちはラッシュを始めている。
新鮮に血肉を得る為に。
ほんのわずかな血肉は早い者勝ちだ。
はるか後方でPIPBOYでこの様を鑑賞しているイザベラは笑った。
勝利への確信？
いや、この笑いは野望への笑いだった。
「これ、撤退した方がいいかも。エンクレイブいなくなった後、フェラルを操る技術があれば私がキャピタルを取れる。となれば、研究が完成した以上ストレンジャーはもういらない。縁切りね」
ボルトテック残党研究員イサベラ、撤退。
しかしフェラル・グールの群れは完全にケリィたちを餌と見なし猛烈ラッシュ中っ！
無線をしながらマキシーは話す。
制御室のBOSに対してだ。
「ポールソンという男が危ない、そちらでも確認出来るていると思う。1人を残してきたが輸血が必要だろう、そちらで対処可能だろうか？」
残ってもあの状況では手の出しようがなかった。
そう判断し、マキシーたちはあの場を離れた。
合理的に考えた。
列車を動かす為にコントロール室に行く必要がある。
「BOS、平気か？」
＜こちらでも確認した。今から軍医を向かわせる、輸血キットを持って行かせる＞
「では頼む。通信終了」
これで後方の憂いはなくなった。
ただ、唐突に前方の憂いが発生する。
「マックス、ガスだ」
「そのようだな」
マキシーたちメトロ組の前に、通路に充満するガスが行く手を阻む。
散布されているのは毒ガス。
ライリーたちの行く手を阻んだ可燃性のあるガスもまた、これを散布したものと同一人物。もっともその人物は散布後、ここから姿を消した。
「どうする？」
「どうする、か。どうもしないさ」
「ス☆タ☆ブ☆ハッピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ！」
「ぐはぁっ！」
ナイフは深く深く。
奥へ奥へと侵入する。
「クソ、狙いが定まらないっ！」
ザックと呼ばれたメトロの戦士はアサルトライフルを構えようとするもののスタブ・ハッピーはポールソンを刺したまま乱暴に動き回る。
迂闊に撃てないでいる。
だが、このままではポールソンが確実に死ぬ。
血は止まることなく流れ続ける。
どくどくと。
「……」
「んんー？ 死んじまったかぁ？ 死肉の塊も刺し心地は変わらんが、呼吸してる生肉の方がいい声で鳴くから楽しいんだがなぁ。おっさんっ！」
「……ぜー、ぜー……」
「ああ、生きてってか。よかったよかった。次はもっと深く行ってみっかぁ？」
「……俺を殺しても、そいつに殺されるとは考えんのか……？」
ザックがいる。
今のところ誤射の可能性が高いから何もしていないだけで、ポールソンが絶命したらザックは躊躇わずに撃つ。
「それはなら心配は知らねぇよ。俺は強いからな、そいつも即座に殺してやるよ」
「……ぜー、ぜー」
「ひっひひひひひっ！」
じゅるり。
蛇のような舌でポールソンの頬を舐めまわる。
「……臭いからやめろ……」
「感じるぜぇ。お前の呼吸と、死の影を。お前はもうすぐ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ！ 分かるか、分かるよなぁーっ！」
「……ザ、ザックとか言ったか、頼みがある……」
メトロの戦士に弱々しくポールソンは呟いた。
スタブ・ハッピーは喜色を浮かべた顔で、耳を澄まし、次の言葉を待つ。
死に行く者の言葉ほど愉快なものはない。
「……口外しないでくれ、特に女房にはな。これは、不本意だ」
ポールソンは動く。
口を大きく開け、スタブ・ハッピーの蛇のような舌を口の中に含んだ。
一瞬何が起きたのかザックも、当のスタブ・ハッピーも分からない。
舌が絡み合う。
そして。
そして声にならない声が大統領専用メトロ内に響き渡る。
「ぺっ！ クソ不味いっ！」
ポールソンは吐き出した。
奴の舌を。
「ザック、こいつも、浮気にカウントされるのか？」
「大丈夫だ、見てない」
「はあはあ、それはよかった」
素早く腰のホルスターにあるリボルバーを引き抜き、口から大量の血を吐きながら悶絶しているスタブ・ハッピーに銃口を向ける。
「までぇ、まっでぐべぇっ！」
「ハッピー・トリガー？」
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。
撃ち切った後も何度もトリガーを引く。
それだけ嫌悪感が激しい。
「くそ、口をウイスキーで消毒したいぜ」
「飲みたいだけじゃないのか？」
その場に倒れこんだポールソンにスティムパックを打ちながらザックは笑った。
「ああ、飲みたい」
「体を治してからにするんだな。……あれは……BOSだっ！ たぶんマックスが呼んでくれたんだな、医療キットを持ってるぞ、お前助かったぞっ！ よかったな」
「……ああ、そうだな……少し寝るわ……」
スタブ・ハッピー撃破っ！
ポールソン重症の為、制御室まで後退。戦線離脱。
「それで、私がどうして同志なわけ？」
ホームにはまだ列車は来ていない。
来てるならそのまま乗り逃げする。
こいつの能力はかなり厄介だ、武器を潰される可能性がある。それも面倒だけど、それ以上にPIPBOYの動力を奪われるのは勘弁だ。
パパとの思い出がたくさん詰まってる。
ならば。
ならば話を合わせるしかない。
何だか分からないけど今のところはこいつ私に好意というか何というか、ともかく敵対以外の感情を抱いている。
それが何か不明。
ともかく話し合いが出来る。
ブッチが軍曹に目配せしたけど、私は首を横に振った。
下手に攻撃はしない方がいい。
「グリン・フィス」
「御意」
長い付き合いだ。
出会った月日は短いけど、行動している時間は実に密だと思う。私の言いたいことを察した彼はレンジャーたちに周りを警戒させる。
ストレンジャーはまだいる。
警戒は必要だ。
こいつもね。
「ブレークダウン」
「……」
「ちょっと」
「……おい、そんなに大きな声で話すな、聞かれているぞ」
「……？」
声を潜め、ひそひそと彼は話す。
小さ過ぎて聞き取りづらい。
「奴らはこちらを盗聴している、分かってるだろう？」
「ええ、もちろん」
意味が分かりませんけどね。
「……ボス、こいつやべぇぞ」
軍曹はブッチにそう呟いた。
同意します。
こいつやばい。
精神的にもやばいけど、能力もやばい、そうじゃなかったらとっとと頭を吹っ飛ばしてる。
「分かってるならPIPBOYを破壊してやる」
「はあ？」
掌をこちらに向けようとする。
こいつっ！
「やめて」
「やめて、だと？」
「ええ」
「……そうか、うまく擬態したな。お前も奴らの仲間か。奴らに襲われたから同志だとばかり思っていたが……俺を騙す気かっ！」
「騙す？ いいえ、あなたこそ落ち着きなさい」
「何だとぉー？」
PIPBOYが問題なのか、これで誰かに盗聴されてると思ってるのか。
誰か、多分さっきの謎の兵士群だろう。
ふぅん。
盗聴云々は別として、奴らは確かに存在してた。
どこの兵隊か傭兵かは知らないけどこっちも敵として認識して来たんだ、まともな奴らではない。
……。
……まあ、こいつもだけど。
うー、あまりお近付きにはなりたくないなぁ。
どっちともさ。
おおぅ。
「PIPBOYに頼ると人は馬鹿になる、頼りきりになる。そこが奴らの目の付け所なのだ、情報を集めるデバイスとして連中は利用し、ハッキングし、世界から情報を集めてる。分かるだろう？」
「ええ、もちろん」
前半は分かる。
本当に最初だけ。
私がルックアウトでエリヤに言った言葉だ。
だけど後半が分からん。
ああ、分かる必要がないのか。
「分かってるなら、壊すべだろう、奴らは狡猾だからなっ！ ここで我々の会話を聞き、電波を飛ばして洗脳しようとしてくるかもしれないっ！ だろ？ そうだろっ！」
「そうね」
「おい優等生、まともに取り合うなって」
「黙っててブッチ。ブレークダウン、情報を奪われてるのは私も知ってる、むしろ奪わせてるのよ。……飼いならされてる振りしてる。分かるでしょ？ 裏を掻く為よ」
会話の後の方は声を潜めた。
聞かれてはならないように。
正直、この会話に意味など求めてないけど、無駄な時間過ごしてるな。
列車は来てない。
マキシーたちは足止めを食らってるのかもしれない。
ブレークダウンを怒らせると手持ちの武器やらなにやら破壊される、絶対にミスらない攻撃が出来るまではこの無意味な会話を続けるしかない。
不毛だけどさ。
「裏を掻く為」
「そうよ」
「なるほど、お前頭良いな。油断させるってわけだな、俺らは何食わぬ顔して、会ったことすらない顔して過ごして、最終的に連中を出し抜くってわけだな」
「そういうこと」
何がそういうことなんだかね。
ただ、分かんないのは敵が実在するってこと。
何者だろう、あの謎の兵士。
病んでるブレークダウンをどっかの病院に永遠に換金するための兵隊なのか、だけど、だとしてもこっちも見境なく攻撃して来たしなぁ。
謎だ。
「だけどエンクレイブはいいの？」
転がる死体をチラリと私は見た。
雇い主のはずだ。
なのに何故？
「ああ、そんなことはどうでもいい。俺は奴らに対抗する為にストレンジャーに入った、後ろ盾が欲しかったからだ。だがもうどうでもいい。真なる同志、そう、お前と出会えたのだからな」
「そりゃどうも」
話を合わせるのは簡単だな。
こちらに好意を持っている以上、ある程度の軌道修正で会話は成り立つ。
意味？
知りません。
ただ、引き出せるものは引き出しておこう。
「あなたの能力を教えて。対抗する為には能力を知らなきゃね。私はCronus。時間を止めれる」
「時間を？ ほう、すごいな。俺はBreak DownとRobotics Expertだ。Break
Downは構造を熟知している武器を破壊できる。Robotics Expertは一定範囲の動力を消失させる」
「へぇ」
構造を熟知、ね。
つまりカスタマイズされているモノとかだと解体できないのか。
そして後者の能力。
動力、と彼は発言してる。
レーザーやプラズマ等の動力を停止させれはするものの、これ、火薬は無理そうね。火薬は動力とは普通は呼ばないし。
なるほど。
意外に組し易い相手かもしれない。
「同志よ」
「何？」
「奴らは自分たちの飼い主を神だと崇めている。奴らの巣窟は分かってる。一緒に潰さないか？ それは我々の運命なのだ。奴らの巣窟は……」
ダダダダダダダダダダダダ。
その時、突然ブレークダウンの体が舞った。
血を吹き出しながら。
私が大元を探し当てた時、天井にある機銃型タレットは停止をしていた。
無線機を取り出す。
「制御室」
＜モニターしてます。我々ではありませんっ！ マーゴット、情報を検索してくれっ！＞
＜情報をサーチ。サーチしました。外部から私のシステムにアクセスされました。アクセスポイント、不明。特定できません＞
「そう、分かったわ。通信終了」
タレットを睨む。
見ると天井にはいくつかタレットがあった。
どういうことだ？
私らも殺せたはずだ、なのにどうして殺さない？
「神、か」
独語。
ブレークダウンは死んでる。
奴が言った、神がこれか？
だとしたらふざけてる。
タレットをハッキングする、神。お笑いの領域だろ。
列車が来た。
五両編成。
ぷしゅー。
真ん中の車両の扉が開いた。
へぇ。
これが列車、ね。
初めて見た。
残骸は地上にもあるけど稼働しているのを見たのは初めてだ。
「行きましょ」
「はあ？ おいおい優等生、何にも終わってないだろうがっ！」
「えっ？ ああ、そうか」
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
6連発っ！
天井にある、目に留まる機銃型タレットを全て破壊。
これでよしっと。
弾丸交換、ホルスターに戻す。
「行きましょ」
「優等生、違うだろうが」
「……？ 何のこと？」
「ミスティ、神様とやらだよ」
見かねた軍曹がそう言った。
「ああ」
そのことか。
「ブッチはあんた与太話を信じてるの？ あー、私は話し合わせてただけ。下手に扱って武器やらPIPBOY潰されても困るし」
「マジかよ。お前詐欺師かよ」
失礼な。
「しかし主」
「グリン・フィスも信じてるの？」
「いえ、思い出しました。人狩り師団長も何者かに操られた際に言ったのです、知性という武器を手にした悪魔の猿め、と」
「ああ、報告書で見た」
「ハーマンも言っていました。カメラ越しにこの世界の神様が見ていると」
「あはは」
笑う。
神様？
そんなものがいるとして、私は信じてないけど、ともかくいるとして、今回のようなせこいことするの？
それは笑える。
「優等生、笑ってどうする。バチ当たる時はお前が全部当たれよっ！」
「そんなに信心深かったっけ、ブッチ？」
「信じちゃいねぇよ。だがよ、バチとかは普通に恐れるものじゃねぇのか？ 大体あいつは本当に殺されたんだぞ、神はいるのかもしれないぜ、これは」
「人の宗旨は別にどうでもいいし口は出さないけどさ。あんなもの神でも何でもないわ」
「どういうことだよ？」
「全知全能の神が大地を砕いたり海を割ったり空から雷光を降らすでもなく、機銃型タレットにハッキングして人を殺すの？ そんなの、ふざけてる。ジョークのレベルだわ」
「……まあ、そう言われればそうか」
「そうよ」
タレットを使う神なんて聞いたことがない。
ただ、確かに何者かはいるのだ。
それは間違ってない。
だけどそんなものは神でも何でもない、神を気取っている何者かだ。レイブンロックのエデンもどきがどこかにいるのかもしれないわね。
「主は運命がお嫌いと見える」
「まあ、そうね、嫌いね。最初から神様が決めてて、私たちがその道を歩いているって？ そんなものクソだわ。だったら最初から何もしなければいいんだ、だってそれもまた運命でしょう？ 私の
生き方も、パパの生き方も、皆の生き方も、それぞれのモノだわ。そうじゃなかったら、人生の意味なんてないじゃない」
「御意」
いかんな、ちょっと脱線してる。
ブレークダウンが意味ありげな死にかたしたけど、それが真実だとしても私は手を出す気はない。
エンクレイブだ。
連中を何とかするのが先決だ。
「閣下」
声を掛けられた、私に対してだろう。
男がいる。
パワーアーマーの、ヘルメットを被っていない男だ。レーザーライフルを手にしている。ヘルメットの有無は、どうも士官級は被っていない傾向がある。
さらにしてもグロスさんにしても。
だがこいつのことを私は知らない。
「そこで止まって」
警戒は必要だ。
パワーアーマーを着ているからってBOSとは限らない。
味方かどうかも。
「誰？」
「パラディン・コディアックです。スター・パラディン閣下の命令で応援に来ました」
「スター・パラディン」
私の称号でもある。
BOSのNO.2で、エルダーに次ぐ階級。ただ名所職的な意味合いが強く、NO.3のセンチネルは軍権があるのにスター・パラディンにはなかったりする。もっともケースバイケースなんだろうな、外の
BOS部隊はグロスさんが仕切ってたし。まあ、エルダーあたりからここの部隊は任せる、と言われれば仕切れるのかもね。自分の権限では勝手に部隊動かせないだけで。
さて。
「グロスさんに言われてきたってわけ？」
「はい」
「制御室」
無線を使う。彼は苦笑した。
＜カメラで確認しています。彼の素性ですよね？ 素性は確かです、外からの連絡も来ています＞
「ありがとう。通信終了」
となると問題ないのか。
疑い過ぎだな。
「ごめんなさい、疑って」
「いえ。自分はリオンズ・プライドのメンバーです、これより閣下の指揮下に入ります」
「へぇ」
サラ直轄の精鋭部隊だ。
心強さが違う。
彼のことは知らないけどGNR前でのメンバーたちの戦いぶりを見る限りでは頼りになりそうだ。
「1人？」
「これでも自分は何でも屋と言われています。爆破、戦闘、情報収集、何でもお任せください」
「頼りにしてる。行きましょうか」
私が先頭切って列車に乗る。
次にグリン・フィス、ブッチ、軍曹、そして……。
ぷしゅー。
「はっ？」
扉が閉じた？
そしてそのまま列車は……おおーいっ！
「優等生、動いてんぞっ！」
「な、何でっ！」
「ちっ。ボス、俺が運転席まで行って止めてくるっ！ ……って駄目か、マキシーが列車はそもそも遠隔でしか動かないとか言ってたな。ミスティ、何かしたか？」
「私が？」
何もしてないけど。
「トラブルパワーってやつですね、主」
「……そういうことか、言わないで、傷付くから」
私の所為ですか？
くっそー。
だけどこれは困ったな、列車は動いている、線路を走っている。完全に他の仲間たちを置き去りにしてる。
マキシーは何やってんだ。
というかパラディンの下りは何だったんだ、完全に活躍する前にお終いじゃないですかヤダー。
出落ちってやつ？
パラディン何とかさん、カワイソス。
ピピピっ！
「主っ！」
PIPBOYの警告と同時にグリン・フィスが鋭い声を張り上げた。
私たちも素人じゃない。
瞬時に左右の車両の扉に銃を向けた。
「くそ」
小さく私は悪態を吐く。
左右の車両の扉から敵が現れる。
敵だろ、完全に。
ミニガンをこちらに向けて撃つ気満々でいる奴が味方なはずがない。左右にミニガン持ちがそれぞれ1人ずつ、そして右側の車両から西部劇のガンマン風の男女が1組、左側からは同じくガンマン
風の男が1人。ガンマンどもは腰に古めかしいリボルバーをそれぞれ2丁差してる。ガンマンか、雰囲気的にポールソンに任せたいところだけど彼はここにはいない。
……。
……油断したなー。
無線でマキシーに確認を取るべきだった。
これは完全にミスだ。
コントロール室はストレンジャーに抑えられているんだろう、そしてホームに列車を寄越し、私たちを乗せたわけだ。
ストレンジャーが乗っている列車にね。
厄介だな。
能力を使わなければ生き残れない。
少なくとも、私以外は。
グリン・フィスとて左右から攻撃されたら、特にミニガンに挟まれているこの状況では剣で捌き切れないだろう。ブッチと軍曹はそれよりも早く死ぬ。
出し惜しみは出来ないな。
一気に決めるっ！
「まずはご紹介を」
ほう？
アホがのこのこ現れたぞ。
デスだ。
わざわざ名乗りに出たか。
悪役の流儀なのか、これ？
とっとと撃てばいいものを。
彼がまだ透明化していない、現れたのは右側の車両から。へたれめ。大勢を盾にしないと不安ですか？
「デス、てめぇっ！」
「ふん、吠えるな生贄。お前は死神たる僕に捧げられた生贄だ。まだ分からないのか？ 死神の無慈悲な大鎌が、お前の首をスライスしたがっているのを」
相変わらず大仰な奴だ。
ああ、支隊の連中がいるからか。
連中的にはまだデスは無敵の存在なのだろう、私ら敵にはただの雑魚なんですが。
大鎌はあくまで比喩的言動であって、奴の得物は剣。
2振りの剣。
「まずは伝統あるアメリカの装束に身を包んだ彼らのご紹介を。ベガス支隊のダルトンブラザーズっ！ ロバート、エメット、リリー、主な犯罪は列車強盗、銀行強盗、カジノ襲撃っ！」
「よろしく」
「短い付き合いだがね」
「ふふふ」
余裕ぶってるな。
まあいい。
潰すか。
「次の紳士たちのご紹介を。彼らは……」
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
銃声。
44マグナムを手に、左右車両から、連中の後ろから発砲しながら2人が出てきた。
左車両モニカ。
右車両アッシュ。
レギュレーターだ。
瞬く間にミニガン持ちは撃破された。良い判断だ、真っ先に潰すべき相手だった。仲間たちも打ち合わせなくとも的確な判断を下せる面々だ。軍曹は腰の10㎜ピストルを引き抜いてリリーの
脳天に叩きむ。軽機関砲を使わなかったのはアッシュへの誤爆を避けたためだ。ブッチも9㎜ピストルを2丁引き抜いて連射。エメット、リリーの隣にいた奴をハチの巣にする。
ブッチはデスも狙ったんだろう、だが何だかんだ言ってもデスも手練れだ、持久力はないっぽいけど。
キィィィィィィンっ！
キィィィィィィンっ！
キィィィィィィンっ！
剣で銃弾を切り落とし、アッシュに襲い掛かる。
真剣にアッシュを切るつもりではなかったのだろう、彼が回避した瞬間に扉の向こうに、後部車両に消えた。
この時、最後のロバートは真っ二つに両断されていた。
うわぁ。
列車に乗ってアダムス空軍基地まで行くんだぞ、肉塊と大量の血液の列車か、嫌だなぁ。
「逃がすか」
ミスティックマグナムを引き抜いて私は追う。
「ブッチと軍曹は前の車両を調べて。グリン・フィスは付いてきて。アッシュとモニカはここで待機っ！」
やるべきことを伝達して後部車両に。
いない。
次の車両か。
「ここまでよ、デスっ！」
いた。
最終車両だ。
デスは私に背を向けて立っていた。
足元に血だまりを作りながら。
……。
……えっ？
「し、死神たる、僕が……」
「良い称号ですね。それは私が貰いましょうか」
ドサ。
そのままデスはひっくり返った。
「ミスティ、最終便にどうやら間に合いました」
「ソノラ」
「死神ソノラ、そう呼んでください」
「……は、ははは」
ぴったりな気がする。
「主、これで終了でしょうか」
「だといいけど」
無線機を使う。
現在この列車はまだストレンジャーの管理下にあるとみるべきだ。
「マキシー」
デス率いるストレンジャー残党、撃破っ！
列車は暴走中。
激しい銃撃音。
「馬鹿、な……」
ハチの巣にされて崩れ落ちる、ガスマスクをし、全身黒尽くめの男性。
マッドカッサー。
ガス系の武器を好んで使う、ストレンジャー本隊の生き残りの1人。
可燃性のガスを撒いたのも毒ガスを撒いたのも彼だ。
「馬鹿な、と言うほどでもないだろう？」
転がる死体に言ったのはマキシー。
彼女らメトロの住人は全員がライオット装備と呼ばれる、ガスマスクが一体化した装備をしている。ライオット装備は全身を隈なく軽装甲で固めている代物で、パワーアーマには当然劣る
ものの、それに次ぐ防御力があり、そしてパワーアーマーよりも生産性、コストが優れている。
防御力と機能面を考慮した結果ではなく、もちろんそれもあるが、メトロの住人は結婚相手以外には姿を晒さないという掟がある為、この装備となっている。
当然、ガスは効かない。
「お前たちは部屋の外で警戒していてくれ」
「分かった。マックス、無線が鳴ってるぞ」
「ん？ ああ、本当だ」
無線機を取ると同時に仲間たちは部屋の外に出た。
「私だ、マキシーだ」
マッドガッサー、撃破っ！
通路の毒ガス、マーゴットが施設外に排気したため無力化。
「そう、分かった。通信終了」
無線を切る。
マキシーたちはうまくやってくれたようだ。
列車の制御は戻った。
さて、このまま進むべきか、一度戻るべきか。
大統領専用メトロ前のエンクレイブとの戦闘は分からないけど、、戻ってライリーたちは回収した方がいいのかもしれないな。最終便にしては人数が少なすぎる。
「主、何と？」
「列車の制御をこっちが取り戻したわ。一度ブッチたちと合流しましょう」
「御意」
先頭車両に向かうとしよう。
ここにはもうデスの死体があるだけだ。
要はない。
「ソノラ、そういえばどこに潜んでいたの？」
デスたちも潜んでいた。
ソノラたちが連中に見つからずに隠れれる場所はないと思うけど。
「車体の上に」
「そ、そう」
さすがと言うべき？
危ないことを平然とするなぁ。
どこん。
「ん？」
車体が軽く揺れる。
なんだ？
どこん。どこん。どこん。
立て続けに揺れる。
断続的にだ。
なんだ？
「ミスティ」
前の車両からアッシュが駆けてくる。
「どうしたの？」
「フェラルが線路に群れているとブッチが言っている」
「ああ」
跳ね飛ばしている音と、振動か。
「マーゴット」
無線で制御室に繋げる。
＜はい、上級職員＞
「教えて。この車体、どの程度の強度？」
フェラルは多分路線に落ちたか、迷い込んだ連中だろう。
それともフェラル使いがやっぱりいるのか？
遭遇は意味がある？
だとしたらかなり面倒だな。
＜情報をサーチ。サーチしました。車体の強度は、公式では成人男性127名跳ねても平気であると発表されています＞
「そ、そう」
成人男性の人数は実証済みのデータなんですかね？
戦前もかなりぶっ飛んでたっぽいしなぁ。
怖い怖い。
「それは別として、制御室。BOSにお願いがあるんだけど」
＜はい、閣下。何でしょう？＞
「他の面々の戦闘は終わってる？ どんな状況？」
ストレンジャー相手に負ける面々ではない。
問題はフェラルだ。
数が面倒だ。
ラッシュされ続けたらケリィたちが危ない。
＜ミスティ、問題ねぇよ＞
「ポールソン？」
何だって制御室にいる？
何かあったのか？
＜ライリーって姉ちゃんたちが相棒たちのいるところに合流した、マキシーの方も問題はない。俺は、現在制御室で休憩中だ。煙草と酒で休暇ってやつだ。ホームの連中も相棒のところだ＞
「そっか」
仲間たちは合流済みか。
フェラル使いがいるかは知らないけど、あのメンツが合流したのであればフェラル使いがどんな作戦立ててラッシュしても負けはしないだろう。
問題なしだ。
よかった。
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ！
「つっ！」
嫌な音を立てて車体が軋む。
思わず無線機を落としてしまった。
「もしもし？」
ザーと音が鳴るだけ。
まずい。
壊した。
「アッシュ、報告なさい。これは何ですか？」
「いえ、さっきの状況ではフェラルがいるというだけです、ソノラ。これは……違うと思います。聞いてきま……うおっ！」
ドン。
いきなりアッシュは44マグナムを引き抜いて窓に向かって撃った。
げっ！
PIPBOY3000がいきなり警告する。
……。
……あのね、早く反応してくれないと私死んでたぞ、平地なら確実に。
機能が遅いな、たまには不要なデータ消さなきゃだな。
「主」
「見てない」
「はっ？」
「見てないっ！ 私はっ！ 何もっ！ 見てないっ！」
「おやおやミスティも現実逃避するんですね」
「そりゃするわよソノラ、何なのよあれっ！」
そこにはいた。
いたのだ。
列車に並走する、デスクローが。
「こんのぉーっ！」
ミスティックマグナムを撃つ。
頭部に決定的な一撃を受けてデスクローは視界から姿を消した。
そう。
一匹はね。
グリン・フィスは45オートピストルで応戦し、ソノラとアッシュは44マグナムで応戦している。前の車両で軽機関砲の音とかするからブッチたちの方にも行ったのか。
列車と並走、いや、追い抜くぐらいの速度。
どんな脚力だ。
全力で走行しているわけではないにしても、この列車の速度に追い付くとは。
まさに化け物だ。
「主、これは取り囲まれているのでは……」
「言わないで」
「ミスティ、さすがですね。レギュレーターとして凶悪な人間だけではなく凶悪な生物まで引き寄せる……」
「言わないで」
「またお前かミスティっ！ レイダー相手にしてた頃に戻してくれよ、俺の業務を……っ！」
「言うなっ！ 知らんっ！ 私は悪くないっ！ ……悪くないもん。ひーん」
「主の泣き方、萌え」
泣いてやるっ！
くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉデスよりも死神らしいじゃん、こいつらの方がっ！
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ！
並走している一匹が、鋭い爪を車体に突き刺した。
貫通する。
そしてそのまま速度を落とし、爪は列車の速度に合わせて車体を切り裂いていく。
ドン。
ミスティックマグナムで頭部破壊。
列車の強度はなかなかのものだ。フェラル程度ではいくら跳ねても問題はない、跳ねると切り裂くはまた別物だろうけど、こいつらデタラメだろ。
「くそぉっ！」
2丁の9㎜ピストルを手にブッチがこっちに合流してくる。
軍曹も、モニカもだ。
「ブッチ、状況は？」
「ここより前の車両と並走してる奴らは仕留めた。くそ、9＋P弾を結構使っちまった」
「9＋P弾？」
「ああ、貫通弾ってやつだ」
「へー」
私たちは銃を連射連射連射っ！
デスクローは列車の後ろから追い付いてきてる、私たちの車両を超える前に次々と撃破していく。が完全なる防御ってわけではない、車体が次第に破損していく。
くそ。
舐めやがってっ！
ミスティックマグナムを戻し、背中にあるガウスライフルに手を伸ばす。
「やめろっ！」
軍曹の制止の声。
衝撃波で車体が維持できなくなるのか？
やむなくミスティックマグナムを引き抜き、から薬莢を捨てて装填する。
「ミスティ、我々が現在真横にいる連中を仕留めますから、あなたは後部車両に行って後続のデスクローを仕留めてください。これ以上は車体が、危ない」
「分かったわソノラ。グリン・フィス」
「御意」
「ベンジー、お前も行けっ！」
「あいよボス」
私、グリン・フィス、軍曹は後部車両に移動。
メキャ。
その時、何か嫌な音がした。
私たちが向かう先からだ。
時折私たちの車両の真横をデスクローが追い越していくけど、可能な限りは撃って数を減らしていく。
……。
……これって、あんまり考えたないけどmaster系能力者だろ。
master系能力者、特定の生命体を操れる、私やガンスリンガーたち能力者とはまた別系統の能力者。報告書には意思一つで操れる、自分は能力使わなくても襲われない、視覚を同調できるとかある。
ともかく。
ともかくこれはデスクローの移動に巻き込まれたってわけではないだろ、絶対に。
ストレンジャーの、デスクロー使いか。
今までフェラル使い、ブロード・フライ使い、ラッド・ローチ使いとかいたけど、別格だ。
最後尾の車両に到着。
「うげっ！」
奇声をあげて小さなデスクロー、2回りほど小さいヤング・デスクローともいうべき奴が車内に居座っている。
車体の一部は完全に切り裂かれ、そこから入り込んでいる。
デスの死体はズタズタだ。
こいつの生態は知らなかったけど、食べたいんじゃないんだな、切り裂きたいんだ。デスの体はバラバラだけど欠損はない。
「撃て撃て撃てっ！」
一斉射撃。
ヤング・デスクローが飛び掛かってくる前に全て撃破。
さらに入り込んでくるも軽機関砲は凄い。
仕留めていく。
小型なだけあって、まだ成長過程にある小型デスクローだけあって全てにおいて成体よりも劣ってる。
撃破。
撃破。
撃破っ！
「軍曹、グリン・フィス、警戒しててっ！」
警戒を任せて私は奥に進む。
そこにいた。
路線を一際大きいデスクローが追走してくる。そしてそのデスクローの肩には１人の、お前はどこの部族だという恰好をした奴がいる。
あいつか。
あいつがデスクロー使いか。
「我の名はボーンっ！ 神たるデス様の命により、ザイオンから駆け付けた者っ！ 大恩あるポマー様の恩義に報いるべく……っ！」
「はい、ご苦労さん」
ドン。
言わせないよ、最後まで。
頭を吹っ飛ばす。
アホですか。
master系能力者は隠れていてこそ意味があると私は思ってる、姿を見せたら真っ先に狙われてお終いでしょうに。
だけど。
「厄介な相手だったな、デスクロー使い、か。」
敵はデスクロー使いで間違いなかったようで、デスクローたちは次第に統制を失って速度を落としていく。車内にいる私たちを殺そうと並走してくる個体もいるけど群れていなければとりあえず
何とかなる。この状況ならね。デスはデスクロー使いの使い方間違えてるだろ。あれBOSにぶつけてたらグロスさんたちは危なかった。
考えてみたらガンスリンガーの能力が狙撃向きだと気付いてなかったし、ストレンジャーってわりと隙がありますな。
「ふぅ」
デスクローたちは見えなくなる。
無線機、ああ、私のは壊れたんだった。
「軍曹、無線ある？」
「無線？ ああ、先頭車両にあるな」
「そっか」
脱落したデスクローは厄介だ。
現状私らの敵にはならないけど、居残った仲間たちの脅威になる。ならないにしても、あれが地表に出て四散されても叶わない。
駆除してもらわないと。
マーゴットならタレットで仕留めれるのかな？
「主、これで片付きましたね」
「まだよ」
「まだ？」
「前哨戦はお終い。さて、決戦に行くわよ」
「御意」
最終便に乗るのは7人。
BOS＆メトロ連合軍は既に前線で待機してる。
大統領専用メトロの向こう側、暗闇の向こう側で私たちを待っている。
さあ行こう。
暗闇を抜けて、私たちの最後の戦いに。
ストレンジャー、壊滅っ！
ミスティたちはアダムス空軍基地へ。