私は天使なんかじゃない
暗闇の襲撃
状況は既に変わっていた。
もう彼女らの敵ではない。
「能力者?」
私は無線機に向かってそう問い返した。
面倒になってきたな。
仲間を引率しながら、先頭に立ちながら私は大統領専用メトロを進みながらそう感じた。
無線機の向こうはデリンジャーのジョン。
元殺し屋。
……。
……いや、引退したわけではないのか?
仲間内では評判悪いです。
まあ、仕方ない。
現状私の仲間として行動しているとはいえ今までしてきたことを考えたら……何して来たかは私は知らないけど、レイダー連合やパラダイスフォールズの奴隷商人に雇われてた男だ。
今更寝首掻く為に仲間の振りをしてる、とは私は思わないけど、仲間たちの感情に対してデリンジャーを擁護する気はない。
というか擁護できません。
さすがに理屈的に無理だろ。
さて。
「どんな能力者? というかカメラの男よね?」
<ええ、その通りです。そいつです。こちらの武器を解体されました、ただし隠してたデリンジャーは向けるまでは無事でしたので、おそらく視認したものだけでしょう>
「マジか」
意外に面倒な能力だな。
こちらの攻撃力を奪う手立てがあるのか。
厄介だ。
「そいつの武装は?」
<10oサブマシンガンです。武器を無力化した後に攻撃してきました。意表を衝いた形での攻撃でしたが僕は避けれたので腕自身は大したことないかと>
「……あはは」
それはギャグですか?
時間止める能力Cronusで攻撃しても避ける奴に言われてもね。
あんた基準はおかしいです。
「ライリーは無事?」
<現在爆弾を解体してます。レンジャーも無事です。解体は順調だそうです。少なくとも、あの解体男が安全圏内に逃げるまでには解体できるそうです>
「そっか」
マーゴットでBOSの兵士たちが大統領専用メトロ内に設置されているカメラを使って監視してる。
敵が何者かは知らないけど、動きは分かる。
先制攻撃を受けた形にはなってるけど、こっちには相手の行動が分かるのは強みだ。
まあ、一部機能していないカメラがあるので穴があると言えばあるけど。
解体野郎が何者かは知らないけどマーゴットを完全に支配しなかったのはこちらを分散されるのが目的なのだろう、たぶんそれは間違ってない。
相手の数は大したことないと思ってもいい。
数がいるなら分散はしないだろ。
「デリンジャー、他に何か分かったことは? あいつには仲間がいたんじゃなかったっけ?」
最初にカメラで見た時には他に2人いた。
「サム何ちゃらとドリフターです、始末しました」
「名前まで分かるんだ」
有名人なのか?
それにしてもデリンジャーがいるとわりと楽だな、心強さが違う。
「何者なの?」
「サム何ちゃらはライリーさんが知ってました、狙撃型の殺し屋だそうです。僕は知りませんでしたけど。もう1人も狙撃型の男ですけど、こいつは殺し屋ではなく傭兵です」
「傭兵」
正直傭兵と殺し屋の違いが分からん。
私も正確に言えば何になるのかは分からない。特に区分なんてない気もするな、ハンターもスカベンジャーも傭兵も殺し屋も、何かしら同じことしてるわけだし。
気分の問題なのかねぇ。
まあいいや。
「有名な傭兵?」
「ちょっと待てよ、ドリフターってストレンジャーだろ?」
そう言ったのはデリンジャー、ではなくブッチだった。
ストレンジャー?
ああ、西海岸最強の傭兵団か。
ガンスリンガーの古巣だ。
<正解です>
「ブッチは知ってるの?」
「ああ」
「ボスはガチで奴らとぶつかったからな、そりゃ知ってるさ」
どことなく軍曹は自慢げに言った。
へぇ。
ブッチに付き合ってる、というわけではなく、軍曹は本気でブッチに惚れ込んでいるらしい。ボルト101時代には考え付かないほど男ぶりをあげましたね。
あの田舎チンピラギャングが今では大物か。
なかなか感慨ですな。
「ブッチ・デロリア」
「あん?」
分岐路。
マキシーはブッチに声をかけた。ああ、ここでコントロールルーム組は分岐か。
向かうのはマキシー、メトロ戦士5人、ポールソン。
「私はここでお別れだ」
「ああ、列車頼むぜ」
「……」
「……何だよ?」
「しばしの別れだぞ? 荒々しく荒縄で縛り上げて荒ぶる私のブツでお前を抱きたいのだが」
「……お、女なんだよな?」
「なぁに。すぐに慣れる」
「……」
相変わらず謎の奴だ。
仕草は女っぽいんだけどなぁ、動きとか。
ま、まあ、洗練されたオカマかもしれんが。
……。
……駄目だ、私も混乱してる。
洗練されたオカマって何だ?
おおぅ。
「くっ! 跪きたくなるほどのユーモアだっ!」
ジャンピング土下座でもしとけ。
うざい。
「私を見習い、この高みまで来るがいい」
意味分かんねぇよマキシー。
まったく。
「じゃ、俺も行くぜ、ミスティ」
「頼むわ、ポールソン。確かな戦力としてあなたが必要だと思ったのよ、だから、お願い」
「嬉しいこと言ってくれるぜ。全部終わったら女房のローチ料理食いに来い」
「そ、そうね」
それは勘弁したいところなんだが。
「相棒、ミスティを頼むぜ?」
「俺の助けなんてなくとも1人でエンクレイブぶっ飛ばしそうな感じだがな、赤毛さんは」
「ははは」
ポールソンはデズモンドの言葉に笑いながら、手を振って闇の中に消えていった。
マキシーたちもだ。
さて、話を元に戻そう。
「デリンジャー、まだいる?」
<いますよ。今、ライリーさんが最後の爆弾を解除したそうです>
「そっか」
ミッション終了ってことだ。
問題はまだ解体野郎がこのメトロ内を徘徊しているということだろう。別の爆弾の類とかある可能性はある。
仲間の数も知りたいところだが……。
「デリンジャー、今回のことはストレンジャーが関わっているということは?」
<ないとは言えません。ただ、正直何とも。ドリフターはリーダーであるポマーの招集命令を公然と無視した男です。そんな男がストレンジャーとして今回は参加しているのか、ただ
エンクレイブに雇われた1人なだけなのかは知りません。本隊とキャピタル支隊はほぼ全滅状態です。ポマーも死んだ。人数も指揮する者も限られるはずです>
「指揮する、か」
何名かはまだ残ってる。
私が知る限りではデス、そしてガンスリンガー。だけどガンスリンガーが今更そんなことするか?
となるとデスか?
何人生き残ってるんだ?
「デリンジャー、解体野郎はストレンジャー?」
<さあ? 少なくとも本隊ではないですね、本隊は顔が売れてるので西海岸から離れた今でも僕の耳に届きますから。いえ、正確にはこの間まで届いていました。現在は東海岸で壊滅ですからね>
「本隊ではない、か」
となると支隊か?
冒険野郎に私を殺す為に雇われ、失敗し、邪魔になったから冒険野郎に殺されて沼に沈められた奴がいたな。
サソリ使いの、確かブリーダーだっけ。
ルックアウト、唯一のストレンジャー支隊。
まだいるのかもしれない。
「デリンジャー、別の支隊ってことは?」
<あり得ますが、そいつらはあまり顔が売れてませんからね。招集したとも考えられますし……いえ、いずれにしても敵が複数いる、と認識しておけばとりあえずはいいでしょう>
「そうね。ブッチ」
「あん?」
「あなたはストレンジャーを潰したんだから、メンバー知らない?」
「俺様の武勇伝が聞きたいんだな?」
「いや、それはまた今度」
「ちっ」
舌打ちされましても。
柄悪いですな。
「それで、生き残りが知りたいんだよな?」
「ええ」
「俺が知る限りでは、あくまで名前で知る限りで見たこともない奴もいるが……そうだな、マッドガッサーって奴はメガトンでガンスリンガーと組んでアタックしてきたが、それ以降は出てきてないな」
マッドガッサー。
知らない名前だ。
「ボス、ハエ従えてる奴もいただろ」
「あー、スプリングベールの時の奴か。フライマスターって奴はヴァンスに腕斬られて撤退した。死んだかどうかは知らん」
「ハエ、ブロードフライか」
master系能力者か。
何とも言えないけどジェリコに吸収され、能力が奪われたっぽいなぁ。
吸収ってことは死んだってことだ。
もしかしたら、全く別のブロードフライ使いを取り込んだのかもしれないけどさ。
「他には?」
「レディキラーって奴もいたな、名前だけで俺は見たことないが」
「そいつは死んでるわ」
イーター、アンソニー・ビーンに食われて。
吟遊詩人の振りして私を殺そうと画策していたらしい。イーターに殺されなくても、偽デリンジャーやってて本物がマジ切れしてたから、どっちにしても殺される運命でした。
「他には?」
「確か、そうだ、トロイが西海岸に帰郷させた奴がいたな。ランサーだったかな? そいつはまともな奴らしいから、今回は関係ないだろ」
「ふぅん」
「デスは知ってるだろ?」
「うん、中二病」
「以上だ。悪いが後は知らねぇよ」
「ありがとう」
まともに生き残ってるのはデスとマッドガッサーか、ガンスリンガーはGNRと行動するらしいし……私殺す気ならさっさと攻撃できた。
今更敵対はしないと思うけど……。
うーん。
「デリンジャー、奴らってどの程度の規模なの?」
<正確には何とも。ただ、確かに別の地方の支隊という可能性はなくはないです。とはいえ、増えても……そうですね、多く見積もっても10人はいないかと>
「数は問題ではないんでけどね」
能力者がどれだけいるかだ。
今まで能力者とは何度も戦ってきたけど、ブッチの話と報告書を読む限りでは数多くの能力者を内包している傭兵団だ。
厄介な相手だと思う。
「それでデリンジャー……」
<ちょっとっ! 私に話は聞かないのっ!>
「つっ!」
突然の大声。
ライリーだ。
無線機越しにでも仲間全員に聞こえた声に、ライリーレンジャーたちは笑い、フォークスもまた笑った。
「隊長らしい」
ですよね。
「ライリー、そっちの状況は?」
<わざわざ聞く必要ある? この程度のことが出来ないなんて、ライリーらしくないわ。それで私たちはこれからどうしたらいい?>
回れ右して合流、いや、それでは芸がないな。
ならば。
「マーゴットと制御室のBOSのアシストで解体野郎の足跡を追って。あいつが私たちを狙ってるなら挟み撃ちが出来るし、爆弾設置しているなら解体してほしい」
爆弾に関しては特に気にしてない。
あの位置で起爆させたらアダムス空軍基地行きの路線が崩壊していただけで、別の位置で爆破させたとしても影響はない。
まあ、メトロそのものが崩壊する危険性はあるけど。
脆いし。
「頼める?」
<ええ。ただ、移動速度は少し落ちるわ。それでも構わないわよね? 部下をみすみす死なせるつもりはないの。殺し屋は、別にいいんだけど>
<絡みますねー>
移動速度が落ちる、か。
追跡用に爆弾を仕掛け、ライリーたちを狙ってる可能性を想定しているのだろう。
あると言えばあるけど……。
「マーゴットたちに連絡して、通路内のカメラを確認してもらって。ビデオ映像もあるでしょう、たぶん。検証して仕掛けたか確認し、それから追跡して」
仕掛けた云々は倍速で見ても分かる。
そんなに時間は掛からないだろう。
「以上よ、ライリー。任せるわ」
<ええ、分かった。ただそっちも状況に合わせて行動するのよ。最終便は、最悪私たちを置いて行ってもいい。あなたはライリーレンジャー枠だし、そっちに隊員もいる。レンジャーは参戦扱いでしょう?>
「あはは。頑張ります、ライリー隊長。通信終了」
無線機が切れた。
とりあえずは順調だ。
もっとも、まだ始まったばかりで、決戦ということに関してはスタートラインにすら立っていない。
全員無事に帰れるわけではないのは分かってる。
何人かは確実に倒れるだろう。
だけど、私は自分が出来る最善をしよう。
「主」
「ん?」
私の腕を掴んでグリン・フィスは止まった。
一同止まる。
「何?」
「あれを」
「あれ」
前方の暗がりに何か光ってる。
黄色のような、若干緑のような光が漂っている。
「ベンジー」
「ああ、見えてるぜ、ボス」
軽機関砲を静かに構える軍曹。
何がある?
いや、これは、何かいる?
「アカハナ、ケリィ」
「人型が見えます、ボス」
「ああ。そうだな、人型だな。距離が離れてるから何とも言えんが」
2人はパワーアーマーで、その系統なヘルメットをしている。
暗視機能がある。
人型、か。
距離があるようで何かは判別できないようだけど……。
ガリガリガリ。
PIPBOYが反応する。
ガイガーカウンターだ。
私のだけではなく、ブッチ、ケリィのPIPBOYの反応だ。人体に影響ない程度の、わずかな上昇率だけど濃度が上がった。問題は今の上昇率ではない、姿が判明しないほどの距離なのに
放射能が上昇したことに意味があるのだ。どの程度の距離かは暗がりで私らには分からないけど、離れていても上がる?
「まずいな」
私は呟き、無線機を起動させる。
「制御室、迂回ルートはない? 前方にいるのは何?」
<こちら制御室。閣下、この先はカメラが壊れているらしくモニター出来ません。迂回ルートはマーゴットに検索を……>
<情報をサーチ。サーチ完了しました。引き返し、20メートル先の右通路に入ってください。23分のロスでホームに到着できます、ミスティ上級職員>
「ありがとう。通信終了」
ガイガーカウンターとは別に何かざわざわと聞こえてくる。
「引き返すわよ」
「何で?」
名前も知らないレンジャー隊員が聞き返してくるけど、私は無言の圧を加えて引き返させる。
まずい。
まずい。
まずい。
非常にまずい状況だと思う。
世界を股にかけてきたデズモンドはあれが何か気付いたらしい。
「まさかあれはフラッシュフェラルか?」
「その呼び方が一般的かは知らないけど、危惧は私と一致してる。正式名称?」
「いや、俺が勝手に呼んでる」
「そうなんだ。私はあれを光りし者って呼んでる」
「主、レッドレーサー工場の同類ですか?」
少し嫌そうな声をグリン・フィスが吐いた。
そうね、後れを取ったもんね、あの時。
「ちょっと待て優等生」
「説明は勘弁。私も詳しい生態は知らない」
放射能をたっぷり吸収して発光しているフェラルグール、通称光りし者。肉体が強化されているのかグリン・フィスも苦戦した。まあ、初期の頃の私らは苦戦した。
今は、たぶん勝てるでしょ。
割と簡単に。
問題は……。
「なあ優等生」
「何よ」
「何かPIPBOYにあり得ない数の反応がするんだよっ! 冷たくするなよ、寂しいじゃないかっ!」
急に寂しがるなボケっ!
反応の数は知ってんだよ。
「まずい」
ケリィが呟いた。
「まずいですね」
アカハナも呟く。
「ミスティ、どうする?」
フォークスがガトリングレーザーに目を落とし、そう聞いてくる。
気付かれたな。
ブッチの所為でっ!
『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!』
奇声を上げて大挙して押し寄せてくる何か。
暗闇でまだ見ない。
距離は離れてる。
だが完全に捕捉された、こちらに気付いたっ!
あの光りし者が発する放射能に惹かれてフェラルどもが集まっているのだろう、光りし者は大勢引率してこちらに殺到してくる。
私たちは走る。
迂回ルートまでもう少しだ。
正面切って戦えば勝てる。
だけどPIPBOYの反応を見る限りではありえない数だ、大統領専用メトロにどれだけ犇めいてるんだって数だ。
反応を見る限りでは100。
フェラル使いがいるのか?
それともただ地下を徘徊しているのか、地上から流入してきた大移動に巻き込まれたのか?
いずれにしても面倒だ。
「じゃあな」
ケリィがそう言って立ち止まった。
アカハナもだ。
「お付き合いしましょう。ボス、お先にどうぞ。踏みとどまり、後方の安全を確保します。このまま逃げ切れる可能性もありますが、制御室やライリーさんたちが危険ですので」
正論ではある。
そして2人はパワーアーマーだ。
武器のエネルギーが尽きても食われることはない、パワーアーマーはフェラルが殺到したぐらいでどうにかなる耐久力ではない。
後方の備えは必要、か。
「フォークス、お願い」
「ああ。私に任せてくれ。ミスティは私に自由をくれた大切な友人だ、力になろう」
「ありがとう。デズモンド、お願いできる?」
「フェラルはグールを襲わない、か? はっきり言ってこちらから手を出せばその限りではないぞ? 俺は餌になるって寸法か?」
「まさか」
私は肩を竦めて微笑んだ。
「あなたがそんなことで死ぬタマ? 世故長けたあなたが?」
「へっ、言ってくれるね。任されてやるよ、赤毛さんよ。だから金輪際トラブルメーカー発動はやめてくれよ? 迷惑してるんだ」
「……私が好き好んでやってるとでも……?」
ニヤニヤと言い返すデズモンド。
くっそー。
痛いところを突きおって。
「行けよ、赤毛さんよ」
「頼んだ」
手にしていたアサルトライフルと弾倉をデズモンドに押し付けた。
2丁アサルトなら弾幕も厚い。
弾丸もあれだけあればいいだろう。
「行くわよ」
仲間たちに任し、私とブッチ、軍曹、グリン・フィス、ライリーレンジャーの隊員10名は奥へと進む。
列車の待つ、ホームへと。
……。
……ミスティたちが離れて数分後。
フェラルの猛ラッシュに対して圧倒的な攻撃で撃退しているケリィたち一同。光りし者が放射能で掻き集めたフェラルの軍勢は栄養状態が悪く、痩せこけ、非常に脆い。
だが数がいる。
そして現在交戦している以上の数が続々と集いつつあった。
「ふふふ」
けし掛けた光りし者とフェラル軍団の戦いを、後方から、腕にPIPBOYを付けた白衣の女性が観戦していた。
ハッキング出来るのはミステイたちだけではない。
彼女はケリィたちの付近のカメラをハッキングし、PIPBOYで状況を観戦していた。
30代前半の、眼鏡をした白衣の女性は静かに笑う。
「こんなものではないわ、私のグール研究の成果はね。グールの支配に能力なんていらない。ボルト32の恨み、晴らしてあげるわ。苦しゃしないわよ、ミスティ」
VSボルト32、ボルトテック社残党研究員イザベラっ!
激しい炎が通り過ぎる。
「くそ、これじゃ先に進めんぞ」
場所はT字の通路。
ポールソンは悪態を吐きつつゆっくりゆっくりと顔を通路の方に出そうとする。
その瞬間……。
ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
炎が通り過ぎる。
「くそっ!」
コントロールルームに続く唯一の道が占拠されている。
溶接用のマスクをした、レザーアーマーの男に。
火炎放射器を持つ男に。
「どうする?」
マキシーが聞くものの、ポールソンは首を横に振った。
これでは突破できない。
顔すら出せないのであれば戦うことすらできない。
「マックス、火炎放射器の残量が減るまで待つしかないのでは?」
メトロの戦士の1人がそう言うと同時にポールソンはそれを否定した。
「それではミスティたちの行動が遅れてしまう。駄目だ」
「だがな、この状況ではどうしようもないだろ」
また別の1人が答えた。
遅れも正論だし、どうしようもないのも正論。
決定打に欠けるのだ。
持久戦は避けられない。
もちろん持久戦になれば勝負自体はポールソンたちが勝てるだろう、持久戦、それはつまり火炎放射器のタンクの残量が尽きるということであり、敵の攻撃手段がなくなるということだからだ。
だが時間を掛けたら作戦行動に支障が出る。
アダムス空軍基地への合流が遅れる。
「クソ、俺は任されたんだ、何だってこんなところで足止め食わなきゃならん。……おい、てめぇは誰だ、名乗れっ!」
名前を聞くことに特に意味はない。
苛立って叫んだだけだ。
だが相手はそれに答えた。
「俺の名はストレンジャーのピット支隊バーンマスター様だっ! 弟のトーチャーを殺した奴はそこにいるかっ! ぶっ殺してやりに来たぜっ!」
「トーチャー」
呟くもポールソンに心当たりはなかった。
それもそうだろう。
関わり合いもなければ、トーチャーがメカニストに倒された時は彼はルックアウトにいた。
知らない怨恨で、知らない敵。
「ああ、あいつか。お前の弟を殺したのは俺だよっ! 縛り首にしてやったぜ、ざまあみろっ!」
ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
返事はなく、ただ火炎放射だけが通路を焼く。
温度が急激に上がる。
マキシーが面白そうに言った。
「どんな作戦だ? 相手を逆上させ、その後はどうする?」
「我を忘れて距離詰めてくる」
「うん、それはない。それで?」
「……」
「ああ、作戦失敗か」
「……ミスティは凄いんだな、相手を的確に怒らせ、自分の思い通りに今まで動かしてきた。俺もそのつもりだったんだが……」
「火に油という言葉がある」
「言うな」
VSストレンジャー、ニューリノ支隊バーンマスターっ!
大統領専用メトロ。
備品室。
マーゴットのカメラをここでハッキングし、モニターに映して観戦している者たち。
それは……。
「デス、戦端が開かれましたぜ」
「上々です」
西海岸最強の傭兵集団ストレンジャー残党のデス。
今回生き残りを招集したのはデス。
本隊生き残りのマッドガッサーは既に行動に移し、はデスを除くここにいる6人は各地方にいた支隊のメンバーだ。ガンスリンガーは完全にミスティ側で、要請したら足が付くと判断しデスは
要請していない。ランサーはとっくに西海岸に引き上げている。デスは報復の機会を伺い、各支隊を招集し、入念に作戦を練ってきた。
そこにエンクレイブのリナリィ中尉が依頼してきた。
渡りに船だった。
エンクレイブの戦力の後ろ盾があれば復讐も容易となる。
だから、乗った。
連中がこの地をどう抑えるかはどうでもいい。
興味もない。
問題なのは死神である自分の顔に泥を塗ったミスティたちへの報復だけだ。彼女らを殺した後は西海岸にいるトロイだ。
「しかしデス、既にドリフターたちが……」
「構いません。ここにいる者たちだけで代替は可能ですからね」
入念に備えてきた。
一番使える連邦支隊のブレークダウンはデスの手足となった先鋒として働いている。マーゴットのハッキングも彼の仕事だ。
それにイザベラ・プラウドという女。
彼女はストレンジャーではなく、ボルト32の生き残り。ボルト32はボルトテック社直轄であり、同社の生き残りがいた場所。エンクレイブの下部組織として中国兵計画に従事していた。しかし
ミスティの行動により(正確にはシュナイダー将軍を追い落としたクリスの策謀だが)ボルト32は壊滅。彼女はミスティを恨み続けていた。
そんなイザベラにデスは接近。
彼女に莫大な研究資金を与え、master系能力がなくともフェラルを従える方法をイザベラに開発させた。
結果、科学の力でイザベラはフェラル使い化(通常のフェラル使いとは違いmaster系能力ではない)。
フェラル軍団という手駒をデスは手に入れた。
もっとも。
もっとも掻き集めれたフェラルは栄養状態が悪く、脆いのが難点ではあるが。
それでも圧倒的な数だ。
他の支隊メンバーは、ここにいる以外のメンバーは既に配置に付いている。
作戦は完璧だ。
勝利条件、それは最後にデスだけが立って入れればいいのだ。
「さて皆様方、僕らもそろそろ出ますよ」
ストレンジャー残党、最終行動開始っ!
「もう、何だっていうのよっ!」
ライリーは叫んだ。
彼女は有能な指揮官だ。
そして勇気ある女性ではあるが、勇気があり余り過ぎて騒がしい一面もある。それが短所と言えば短所だなとドノバンは何となく考えていた。
もちろん口には出さないが。
現在、足止めを食らっている。
「致死毒では、なさそうですねー」
のほほんとデリンジャーが呟いた。
そう。
通路に何らかのガスが撒かれている。
ライリーたちはミスティの要請により解体野郎を追跡していた、制御室からの検証の結果通路には爆弾を仕掛けてはいないと判断され、追跡していた。その追跡している一本道にガスが撒かれている。
「制御室っ!」
無線にライリーは叫ぶ。
<聞こえてるよ。特定した。成分的に毒ではない、そいつは可燃性のあるガスだ。銃火器は使うな、月の裏側まで吹っ飛ぶぞ>
「了解した。通信終了」
BOSとのコンタクトを切る。
可燃性のあるガス。
それを撒く理由は?
何故毒ではない?
向こうもそれを使い爆発を狙っている、というわけではないだろう。そんなことをしたら向こうも生き埋めになる。
だとしたら……。
「私たちの銃火器を封じたってことか、でも何の為に?」
「それ、僕に聞いてます?」
「自問自答よっ!」
「あの、デリンジャー、あまり隊長を興奮させないでくれます?」
「あはは。苦労してますねー」
その時……。
「俺はディスメンバラー」
「俺はジャック・ザ・リッパー」
手に斧、肉の解体用の電動工具を持った2人の男が立ち塞がる。斧の方はレザーアーマーを纏い、工具の方はレイダーのような格好。
習慣で銃を構えるレンジャーたちだがライリーが制した。
銃はダメなのだ。
ガスが爆発する。
「なるほど」
デリンジャーが微笑した。
「銃を封じれば、近接戦で僕たちを殺せると踏んだわけですねー。なるほどー」
「俺らは共に殺しの数を競う同士っ!」
「デスに雇われ、今じゃ俺らもあの有名なストレンジャーだっ! さあて、ストレンジャーとしての初の獲物、やっちまおうぜ相棒っ!」
腕組みをし、デリンジャーは相変わらず微笑。
だが唐突に含み笑いをした。
目は笑ってない。
「へぇ? つまり近接なら僕に勝てるとでも? それは面白い」
気圧されたのか。
後ろに少し下がる。
敵も、味方も。
デリンジャーは宣言した。
「殺しの数を競う程度の小物が僕に勝てると思うなら掛かってくるがいい、雑魚どもめ」
VS雇われストレンジャー、ディスメンバラー&ジャック・ザ・リッパーっ!
「ええ、分かったわ。通信終了」
制御室からの無線を切る。
忙しいな、私。
「優等生、どうしたよ?」
「制御室から今回の敵の情報が来た。どうもストレンジャーらしい。現在仲間たちがそこかしこで交戦中」
「マジかよ。徹底的に潰したんだがなぁ」
「支隊って奴らみたい。別の地方から招集したんでしょ。フェラルの方は大移動に巻き込まれただけなのかストレンジャーのフェラル使いかは分からないけどさ」
現在マキシー組、ライリー組が交戦中。
となると解体野郎もそうだろう。
ブッチが潰した残党ならそれでいい。それで話は終わり。ただ今回いるのはどうも支隊の奴らのようで、だとすると残党をエンクレイブが雇っているだけではない。
各地方に散っている奴らを招集したんだ、時間的にもこれは最初から私らに挑むつもりだったとみるべきか。
それをエンクレイブが雇い……いや、実質私ら始末の為に組んでいるようなものか。
面倒なことだ。
「ブッチ。私もだけど、今回は容赦なくやりましょう」
「あん? 何を?」
「仕切ってるのはどうもデスみたい」
「はあ? あんの野郎っ!」
「だからなボス、言ったろ、ああいうのはやっちまった方がいいんだって」
軍曹の進言。
もっともですね。
「主、申し訳ない」
「仕方ないわ。私も見逃したもの、ただのヘタレ扱いで」
何度も始末できる機会もあった。
なのにしなかった。
まあいい。
考え方を変えればいいのだ。
「ブッチ、一網打尽に出来るチャンスじゃない? 各地方に散ってた奴ら諸共さ」
「へへへ。正義の味方ってわけだな」
「そういうこと」
楽観ばっかもしてられないけどさ。
ただ、デスの能力はそんなに怖くない。報告書を見る限りでは、足音無しの無音移動と、殺した相手の活力を奪う能力。活力奪う、要はスタミナ奪って乱戦では無双出来るってわけだ。
うん。
別に怖くない。
無音って言ったって気配あればグリン・フィスが分かるし、PIPBOYの索敵にも引っ掛かる。
活力奪って無双も、そもそも最初の1人が倒されない限りは問題ない。相手は普通にスタミナが消費していく。
怖くないです。
「ブッチ、デスって身体能力は高い?」
グリン・フィスには負けてたな。
だけど彼もデリンジャー同様に判断材料にはならない、強過ぎるからだ。
「サロン・パスみたく弾丸は斬れるけどよ、体力ねぇんだ、あいつ」
「ふぅん」
能力馬鹿ってことか。
能力ありきで戦ってるんだろうな、それは悪くないけど、私もそうだけど、活力奪えるからって持久力は鍛えてないのだろう。
問題は……。
「解体野郎は面倒だなぁ」
武器が解体されるのは困る。
能力持ちなのは明らかだ。
それにこっちは結構分散してる。
ライリーレンジャーの隊員10人いるからまだ数はいるけど、訓練はされてるわけだけども、やはり格が落ちる。
グリン・フィスはもちろん、ブッチや軍曹よりも落ちる。
メタ的に言うとネームドが少ない。
「主、あれを」
「えっ?」
何が言いたいのかすぐに分かった。
少し開けた通路で、大人数の連中が1人に詰め寄っている。仲間ってわけではなさそうだな、何話してるのかがよく聞こえないけど詰っているように聞こえる。
そのうちの1人、詰め寄られているのは解体野郎だ。
ストレンジャー同士の仲間割れ?
そんな感じはしないな。
「主、どうされますか?」
「様子見」
「俺の軽機関砲でやっちまった方が早くないか?」
「大人数の方が何者か分からない。様子見」
あれが味方だとしても、味方の心当たりないけど。
少なくとも私は知らない。
キャピタルのどっかの勢力が援軍として出したにしても、私に何か一言あるはずだ。
コンバットアーマーにコンバットヘルメット、手には柄と刀身が一体化して鋳造されている中国製の剣、随分とレトロだな。腰には9oサブマシンガンがあるから、なるほど、解体野郎向けか。
何というか印象に薄い顔してるな、あいつら。
全員がサングラスをしてる。
そいつらが解体野郎と思わしき奴と交戦していた。
BOS?
なわけないか、レギュレーターにも見えない。
どこかの傭兵団か?
「キャピタルの奴?」
ライリーレンジャーの傭兵の1人に聞いてみる。
彼は首を横に振った。
「知らないな、諳んじているわけではないが、あんな奴らは知らないな。新規の傭兵団かもしれないな」
「そっか」
別の地方かも。
そうね、あり得る話だ。
剣で挑む、そういうポリシーの傭兵団ならそれでもいいんだけど……解体野郎との戦いだ、奴に対抗するに適した装備と考えるのであれば。
解体野郎を仕留めに来た刺客部隊的な感じか。
「ここで終わりだな、知性という武器を持った悪魔の猿めっ!」
「破壊破壊破壊破壊破壊破壊ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーっ! 皆壊しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「裏切り者を始末せよっ!」
「Robotics Expertっ!」
バタバタと倒れる刺客部隊。
弱っ!
全滅ではないけど一気に半分近くになった。
……。
……いや、弱いとかじゃないのか。弱いのは別にいい、問題なのはあいつの能力だ。
相手の息の根を止めるのか?
手をかざしただけで?
武器の解体じゃないのか、どうなっているんだ?
向こうはこちらに気付いていない。
「主、どうしますか」
迂回は出来ない。
一本道だ。
ホームはすぐそこだし、気付いていないならこのまま殲滅するというのもありか。
バリバリバリ。
その時、謎の兵隊たちは銃を抜いた。
発砲。
銃撃戦は嫌なのか、苦手なのか、解体野郎は物陰に隠れてやり過ごす。
「そこにもいるぞっ!」
あー、面倒だ。
謎の兵士、こちらに気付き銃を乱射。
視界が暗いから私の自動発動は無理そうだな、撃つ前にこちらを認識した言葉を吐いたのが間違いでした、お陰で隠れる余裕が出来た。
レンジャーたちが応戦してる。
「やめて」
私はそれを止めた。
解体野郎は視認した武器を破壊できる、武器は隠しておきたい、最終決戦直前なのに調達するのが面倒だ。
「優等生、どうするよ?」
「主。ご命令あるのであれば自分が切り込みますが」
「私が行く」
言ったと同時に物陰から私は出てミスティックマグナムを発射。
能力を使うまでもない。
当てるだけなら当たる、今の私なら容易に当たる。
謎の兵士の1人の頭を吹っ飛ばした。
こちらの火力を察したのか何人かが銃を向けてくる。
能力で仕留めるっ!
「Break Downっ!」
武器が壊れた。
組まれた部品は、それぞれの部品に戻ることを主張して地面に転がった。
私の武器を除いて。
一瞬の動揺が勝敗を分ける。
「こんのぉーっ!」
ミスティックマグナムを連射。
立ち塞がる謎の兵士を一掃、解体野郎も手にしている10oサブマシンガンで全ての敵を転がした。
残るのは。
残るのは私らだけ。
「何のつもり?」
「ブレークダウンだ」
「名前?」
「コードネームと言うべきかな」
「そう。ミスティよ」
「知ってる」
「でしょうね」
Robotics ExpertとBreak Down。
なるほど。
こいつは2つの能力持ちか。
デリンジャーが言ってた解体能力はBreak Downの方か。
相手の目を見ながら私は銃弾を交換。
「……」
「……」
何故仕掛けてこない?
何故?
少し時間が経ってから、ブレークダウンは口を開いた。
「まだいるかもしれない。蹴散らしてくる」
「はっ?」
「続きはまた後でな」
「ああ、そう」
よくは分からないけど謎の兵士連中を狩るのが先のようだ。
ストレンジャー絡みの敵?
優先させるほどに?
まあいい。
そっちがそのつもりならそれでいい、こっちはストレンジャーを狩るまでだ。組まれて集団で来られたら厄介だから、別のストレンジャー狩るまでだ。
問題ないならそのまま列車でゴーするのもいい。
「じゃあな」
「仲間がそこにいるけど、攻撃しないでよ」
ダメ元で言ってみる。
「分かってる、何もせんよ」
「ならいいの」
彼は去った。
本当に、何も手を出さずに。
何だったんだ?
「優等生、よかったのかよ?」
「武器解体されて、息の根止められてもいい? あれかなりやばい能力よ」
「それは、分かるがよ」
「グリン・フィスも納得できないのは分かるけど……」
「いえ、そうではなく」
「ん?」
「知性という武器を持った、悪魔の猿、どこかで聞いたような……」
「ふぅん?」
まあいい。
とりあえず欠落無しで進める。
この先は分からないけど、とりあえず細心の注意を払って進むまでだ。
「行きましょう」
ミスティたちが立ち去った数分後。
謎の兵士たちの遺体はそこにはない。
ただ無色の液体があるだけ。
私たちミスティ隊は奥へ奥へと進む。
PIPBOYのデータではそろそろゴールだけど、列車絡みの連絡はない。ストレンジャーたちにまだ阻まれているのだろうか。
ザー。
「ん?」
無線機から音。
何だ?
「誰、何か用?」
<こちら制御室です。閣下、ホームにエンクレイブの部隊を確認。数13。その内の1人はセンチネル・リオンズから聞いただけで見たのは初めてなのですが、テスラアーマーです>
「テスラ」
オータムが着てたやつか。
まずいな。
あの防御力と攻撃力は正直面倒臭い。
ただ、こちらにはグリン・フィスがいる。彼の持つショックソードの前では特に問題はない。だけどまともにぶつかればこちらの被害は大きい。
わざわざその数で陣取ってるわけだから精鋭なのだろう。
テスラ持ちがいるわけだし。
ならば。
「全員聞いて。私だけで行くわ」
「主、それは……」
「犠牲を最小限にする為。もちろん私も死ぬつもりはない。倒せれないようなら呼ぶから、その時はお願い。敵もまさか私だけでここまで来るとは思ってない、なのに私しかいない。どうなると思う?」
警戒する。
新手を。
上手くいけば挟み撃ちが出来る。出来ないにしても敵を切り崩せる。
私が能力持ちだからこういう発想をし、提案をするだけだ。
そうじゃゃなければこんな自殺行為はしません。
純粋に正当に状況を判断してる。
その結果が、この作戦。
……。
……作戦、かな?
意表を衝いた無謀な大作戦ですね、はい。
まっ、やばくなったら時間止めて逃げよう。
「ブッチ」
「あん?」
「部隊はあなたが纏めて」
「よっしゃ。任せろ」
「ただ、グリン・フィスはあなたの判断で動いて。ブッチが連動するか、まだ機を見るかは、任せる。とりあえずは静観でお願い」
「御意」
「制御室、何かあったら彼らに教えてあげて。通信終了」
無線機を隊員に投げる。
さて、行くか。
「少し前にも言ったがガウスライフルは使うなよ。このトンネルが崩壊しちまうかもだからな」
「分かったわ、軍曹」
ミスティックマグナムを2丁引き抜く。
息を整え、歩く。
仲間たちは留まった。
「始めるか」
ホームに躍り出る。
列車はまだのようだ。
エンクレイブ兵士たちは一斉にこちらに対して攻撃を仕掛けてくる。プラズマピストルが12人、テスラは……隊長格奴はレーザーライフルだ、珍しいな、プラズマに比べたら型落ちだろ?
まあいい。
いきなり能力発動っ!
どくん。
どくん。
どくん。
全弾、敵目掛けてトリガーを引く。
能力解除っ!
「こんのぉーっ!」
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
12連発っ!
エンクレイブ製パワーアーマー兵士6人を吹っ飛ばし、残りは全弾テスラに叩き込む。
先制攻撃だっ!
「ちぃっ!」
ぐらり、何度も体を揺らすだけでテスラは倒れない。
ヘルメットの下の顔は知らないけど舌打ちが聞こえ、次の瞬間には赤い光がレーザーライフルに灯り、発射される。
9発のレーザーが。
「メタルブラスターっ!」
レディ・スコルピオンが持ってたやつかっ!
クソ、これは避けれないっ!
「Cronusっ!」
どくん。
どくん。
どくん。
能力発動。
時間を止め、私はすぐさまその場を離れてホームの柱に身を隠れた。
能力解除。
誰もいなくなった場所にレーザーが通り過ぎる。
「き、消えた?」
テスラではない、別のアーマー兵士が驚きの声を上げた。
ミスティックマグナムに弾丸はない。
急いで薬莢を交換する。
「はあはあ」
まずいな、息切れがする。
動悸も激しい。
Cronus発動後、停止した世界を自在に動けることに少し前に気付いたけど体力の消耗が半端ない。だから普段はこれはしたくない。だが仕方なかった、そうしなかったら避けれずに穴だらけになってた。
弾丸交換完了。
「狼狽えるな、シグマ分隊としての責務を果たせ」
『はっ!』
統率は悪くない。
残りはテスラ1人、兵士6人……いや、7人だ、最初に撃った奴の1人が動いた。普通に行動してる、ミスったか。
計8人。
シグマ分隊、か。
わざわざテスラ与えられてる奴が隊長なぐらいだから精鋭なのだろう。
「ねぇ、どっちの派閥?」
私は柱に隠れながら声をかける。
どうせすぐにバレるんだ。
声を掛けたとしても問題はない。そうすることで通路の先に潜んでいる仲間たちを護るということにもなる。ただ敵も当然馬鹿ではない、仲間の存在を認識している。まさか単身で私がここに
来るとは思わないだろうし、逆の立場でも私も例えそう言われても信じない。
テスラが答えた。
「クリスティーナ様の配下だ。私はリナリィ中尉、シグマ分隊の指揮官だ」
「へぇ。私はミスティ、どうぞよろしく」
クリスティーナ様、か。
大統領ではなくそう呼ぶってことは、こいつも親衛隊か?
そうじゃなかったら大統領とか閣下って呼ぶだろ。
勘ぐり過ぎかな。
まあいい。
「あのさ、私……」
「お前の下らない時間稼ぎのトークは私には通用しない。任務外だったから本気で殺しには掛かってなかったが、お前の巧妙で狡猾な手口は熟知している。ゲームオーバーだ、死ねっ!」
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。
何かの音。
これは奴の腕にプラズマパワーが収束し、こちらに撃ち出そうとしている音だ。
くそっ!
こいつ、私と会ったことがあるのかっ!
ペテンが通用しない。
疲れるけどCronusでもう一度移動するぐらいはできる。
だけどこいつ、私の知り合いだ。任務外だったから、本気で殺しには……云々、ね。
中身は知らないけど密偵として私のすぐ側にいた奴だ。
ヘルメットでくぐもってはいるが女だ。
誰だ?
レディ・スコルピオン?
いや、この声は確か……。
「主っ!」
グリン・フィスが叫んだ。
通路から出てきたっ!
被害ゼロで行きたいからって言ったのに、まだ避ける手立てはある……あれ、何だあいつ?
仲間たちも出てくる。
作戦とは違うけど、そこは問題ではない。
問題なのは……。
「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ! Robotics
Expertっ!」
眼帯野郎っ!
何だってこんな奴が、今この面倒な瞬間に、それも仲間たちを素通りしてここにいるんだっ!
後方は護ってくれよ、せめてっ!
そして……。
前門のシグマ分隊、後門のブレークダウン。