私は天使なんかじゃない
過去へのトンネル
その先にあるは、過去に通じる何か。
デリンジャー戦後。
DC残骸。
私は血を失い過ぎたので一日半ほどダウンしてたけど、現在復帰中。
「荒らされた?」
「そうよ、ミスティ」
「誰に?」
「知らないわ。うちの宿舎の前には監視カメラが仕掛けてあるんだけど引っかかってない、よっぽどの凄腕よ」
「ふぅん」
DC残骸を歩きながら、私は合流してきたライリーたちライリー・レンジャーとともに大統領専用メトロを目指す。
重い。
足取りがすごい重い。
精神的には立ち直ったけど、吹っ切れたけど、強化型コンバットアーマー纏って2丁のミスティックマグナムをホルスターに差し、背中にはガウスライフル、手にはアサルト
ライフル、各種の弾丸と最低限必要な医療品を持っての行軍は非常に辛い。なお各々基本装備の他に今回はアサルトライフル持ち。
現在のメンバー。
グリン・フィス、ブッチ、軍曹、ライリー・レンジャーの面々20名、ポールソン、デズモンド、ケリィ、アカハナ、デリンジャー。
フォークスとアカハナはレーザーガトリング装備。
「主、あいつは信用できるのですか?」
「デリンジャー? 大丈夫でしょ」
「告げ口は聞こえないところでしてくださいね。いえいえ、そんな僕は気にしませんけど」
「案ずるな、聞こえるように言っているのだ」
「いやぁ意外に陰険ですねぇ」
「見ているぞ、ずっとな」
険悪だな、2人。
分からないではないし、まあ、たぶんデリンジャーを仲間に引き入れた私の感性が特殊なんだろうけど。
アンダーワールドでの一件が全て終了。
クリス派、オータム派のエンクレイブ軍はともに全滅。オータム派はどうやら議事堂探索の拠点にする為に乗り込んできたらしい。クリス派はオータム派がアンダーワールドを軍事拠点化するの
を阻止するために乗り込んで来て、そして戦端が開かれたのが真相のようだ。
迷惑な話。
殺し屋デリンジャーのジョンの件も終了。
別に口説き落とすというか説得するつもりはなかったのだけど……仲間となりました。
信用?
まあ、出来るんじゃないかな。
こっちを謀って殺す意味はない。
あの時、あの場所で私にトドメを刺そうと思えばできたわけだし。
本音はどうかは知らないけど、刺客ってわけではないだろ。
……。
……ああ、あと、私の情緒不安定の終了しました。
鬱か、あれ?
ギャン泣きしたのは……黒歴史っすな。
おおぅ。
「ライリーレンジャーの宿舎を荒らすなんて……くそ、見つけ出して脳天に弾丸叩き込んでやる」
「あはは」
「あはは、じぉないわよ、まったくっ!」
「マジ切れだ」
ライリーとともにこちらに合流してきたドノバンたち隊員は、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに顔を背けて歩いている。新規隊員のフォークスとアカハナは手にしているレーザーガトリングを物ともせず
戦闘を真っ先に歩いて不意打ちを警戒している。頼りになる重装備使いの2人です。これだけの火力があればエンクレイブの部隊に遭遇しても怖くない。
それにしても。
「ケリィも付き合ってくれるなんてね」
「ん? 今更知らん顔は出来んだろ」
ケリィ参戦。
アカハナと同じく彼もパワーアーマーだ。
ポールソン、デズモンド、ブッチと軍曹、そしてお馴染みのグリン・フィスと新顔のデリンジャー。
結構な大所帯となったな。
人数が増えればそれだけ戦力アップなんだけどエンクレイブに捕捉される可能性もあるから、私たちはライリーの先導で比較的人目の付かない裏ルートで移動中。距離は大して変わらないけど
瓦礫の絨毯が延々と広がっているので歩き辛い。鉄骨が剥き出しで危ないし。
BOSを中心に、アメリカ再建国家樹立ーっ!という流れだけどこれ復興できるのか?
まあ、DC残骸は残骸として、キャピタル・ウェイストランドの荒野に新しく街とか作ればいいのかな。
この瓦礫を撤去するのに何年掛かるんだろ。
「なあベンジー、レディ・スコルピオンは参戦すんのかな」
「さあな。野暮用が終われば来るだろ。野暮用が何かは知らんが、ボス見捨てて逃げるような奴じゃないだろ」
軍曹はそこで一度言葉を区切り、ニヤニヤと笑った。
「愛しのボスを放っておいてよ」
「愛しの? はあ? 何言ってんだ、あいつは俺に敬意を払ってるだけだろ。俺がすげぇギャングスタだからよ」
「……ボス、鈍感ってレベルじゃねぇぞ?」
「おい見ろポールソン、こいつも天然記念物だぜ? こいつもボルトの奴だったよな、ボルトって天然記念物の宝庫なのかもだぜ、ははは」
「あんまりからかってやるなよ相棒、まだ餓鬼なんだよミスティもブッチも」
何ですか何ですかこいつら?
馬鹿にしてる?
馬鹿にしてるのか、こいつら。
「グリン・フィス、彼ら何語で話してるの?」
「いえ、その、色恋の話だと思いますが。その、失礼ながら主たちは鈍感ですねという趣旨かと。いえ、ブッチは鈍感だろうと鈍臭いだろうが構わないのですが」
「何だとてめぇぶっ殺すぞおらぁーっ!」
あーあ、また喧嘩始めた。
面倒だからいいや。
話を戻す。
「ライリー、何か被害はあったの?」
「ヌカ・ランチャーよ」
「ヌカ・ランチャー」
携帯用最強の武器で、小型核を投擲する武器だ。
ただ当然ながら発射するのに小型核であるミニ・ニュー久が必要であり、こんな代物は現在は制作できない。結果ミニ・ニュークは過去の遺物を使うしかなく、非常にレアで、並んでも
めちゃくちゃ高い。更に言うなら使い勝手が難しい。レイダー程度に使うのもあれだし、下手したら自分も巻き込まれる。
「ミニ・ニュークごと盗られたのね、嫌な盗人ね」
「違うわ」
「違う?」
どういうことだ?
「金庫にミニ・ニュークが2つ隠してあったけど、そっちは無事だった」
「えっ? ヌカ・ランチャーだけ盗まれたの?」
小型核を投擲する本体のヌカ・ランチャーは別に高くもないし、製造も難しくない、店にも普通に並ぶ。
「盗まれた、というか、バラバラにされてた」
「はあ?」
「組み立てようとしたんだけど部品が足りなかったわ」
「つまり、ニコイチで修理の道具にされたってこと?」
「そうよ」
「変な盗人ね」
「金庫には気付かなかったのか開けられなかったのか、そもそもそっちには興味がなかったのか。よく分からないけどお陰で宿舎に戻った意味がなかった。癪に障る」
「ああ」
一度別行動取ってレンジャー宿舎に戻ったのは虎の子のミニ・ニュークとヌカ・ランチャーを取りに戻る為だったのか。
そしてヌカ・ランチャーをバラバラにされて部品をいくつか盗まれた。
なるほどな。
ここでアカハナの言った、ライリーが歩きながら憤ってたに繋がるわけだ。
「大丈夫よ、ライリー。副隊長として私がこいつで活躍するから」
ウルフギャングに貰った、背中に掛けてあるガウスライフルをポンと叩く。
まだ使ってはない。
「見たことあるとは思ったが、それはまさかガウスライフルか?」
「ええ、そうよ」
信じられないものを見た、という顔で軍曹はガウスライフルを見ている。
知っているのだろうか?
「まさかこんな代物をこんな世界で見れるとはな」
「使ったことあるの?」
「俺はない。俺はないが、アンカレッジでパターソン大尉が使ってた。そいつはすげぇ武器だぞ、中国野郎をまとめて万里の長城の向こう側まで吹っ飛ばすんだぜ」
「主、万里の長城とは何ですか?」
「さあ」
「主も知らないことがあるのですね」
「あはは、別に私は歩く辞典じゃないから」
知らないものは知りません。
「赤毛さん知らないのか? 万里の長城っていうのはな……」
「ボルト87のターミナルで私は学習したよ。ミスティ、万里の長城とは中国にある異民族を防ぐ為の、長い長い城壁のことだ」
「フォークスっ! 俺の知識披露の場面だろうがっ!」
「これは失礼した」
思わず私は噴き出した。
仲間っていいな。
「ともかくガウスライフルは強力って意味だ、ミスティ。そいつを軽々しく使うなよ。下手に使うと仲間ごととか、脆い通路で使うと生き埋めとかなるからな。衝撃波が凄いんだ」
「マジか、軍曹」
「マジだ」
「使い勝手が微妙だなー」
「広いところで使えばいいんだ、一方的に攻撃できるぞ」
「なるほど」
使い方のレクチャー終了。
確かに夢の中ではテクロノジー的に圧倒的優勢だった宇宙人も瞬殺だったし、強力過ぎる武器ってわけだ。
ライリーは先行しているフォークスに指示を出した。
「フォークス、次を左」
「了解した、ライリー隊長」
「そろそろよ、ミスティ」
「そう」
大統領専用メトロ。
戦前、かつてホワイトハウスの大統領や閣僚、要人は大統領専用メトロからアダムス空軍基地へと逃れ、そこから各地の対核施設で現在のエンクレイブの基盤を作った、らしい。ただし
今回は私たちがエンクレイブ打倒の為にそのルートを使う。歴史の皮肉ってやつですね。
与り知らないことであるけど、西海岸でエンクレイブは壊滅し、逃れ、今回私たちは東海岸で活動&遠征してきたエンクレイブを叩き潰す。
これでエンクレイブは再起不能になるだろう。
もちろん連中の底が知れない。
しかし決定的な打撃になることは確かだ。
戦争は変わらない。だから、人間が変わるしかない。しかしそれは戦争を捨てるというメルヘンではない、今この状況は戦うという選択肢しかない。エンクレイブが純血至上主義である以上、
黙って平伏すれば連中にいいようにされるのは明白だ。前回のキャピタル制圧の教訓から、明白だ。
戦って、勝って、平和はそれからだ。
悲しいけど、それが真実だ。
「ライリーレンジャーの隊長としてではなく、友達として言うんだけど、ミスティ、どうしてそいつがここにいるの? さも仲間ですって顔して」
「まあ、色々と」
「久し振りですね、ライリーさん」
顔見知りなのか、デリンジャーと。
まあ、有名人みたいだしな。
そういえばケリィも前に、ビッグタウンでデリンジャーのことを知ってたし、顔が売れている殺し屋なのだろう。ケリィも口を挟む。
「ライリー、俺も言ったんだ、やめとけって」
「脳天に弾突っ込んででもそいつは置いてくればよかったのに」
どんな言われようだ、デリンジャー。
嫌われているというか純粋に警戒されているんだろうな、まあ、好かれてはないみたいだけど。
「優等生、あそこで到着じゃねぇか?」
「そうみたいね」
BOSとメトロの面々がホワイトハウス……の残骸で屯っている。
到着だ。
グロスさんが手を振っている。
私も手を振り返す。
……。
……あれ。表情微妙じゃね?
てか何で屯ってるわけ?
「主」
「言わないで」
「主、何故電車とやらに乗らないのでしょう……」
「言わないで」
「御意」
また面倒発生っすか?
最後の最後まで嫌だなぁ。
おおぅ。
「ここに入ってろ。友達と仲良くな」
アンダーワールド。
レギュレーターの男にドンと背中を押され、ハークネスは医務室にある隔離部屋に押し込まれた。
かちゃりと鍵が閉じられる。
「やれやれ」
ハークネスは首を振った。
親衛隊でありながら、まさかこんなところで捕虜となるとは考えてもなかっただけに自身に対しての失望が大きい。ただ、彼にしてみたら相部屋はありがたかった。アンドロイドではあるが
人間のように悩み、考え、機械的に割り切れない。同じ境遇の仲間がいるのはありがたいことだ。たとえ同じく捕虜だとしても。
「ハークネス、何でここにいる?」
「独房仲間にお前を指名したのさ、カロン」
「俺が指名したのはイカしたグールの美人だ、お前じゃない」
「……マジ顔で言われてもな」
現在2人は拘束されている。
敗戦の結果だ。
先ほどまで別々に拘束されていたのが相部屋になった理由、その一つがレギュレーターの一部がソノラの命令で前線に出ることになったからだ。つまり駐屯人数の縮小。同じ部屋に拘束する
ことで少ない人数で護れるようにするという意味合いがある。ハークネスはともかくカロンは元アンダーワールド住民。裏切り者としていつ殺されてもおかしくない。
それを防ぐ為にレギュレーターが警備している。
そしてもう一つの理由、別々に拘束する意味がなくなったからだ。
必要な情報は既にハークネスから抜き取られている為、2人が共謀して口裏を合わせるのを警戒する必要がなくなった。
だからこそ相部屋にした。
「カロン」
「クリスティーナ様に聞けっ!」
「……聞きようがないだろ」
「聞けよ、アンドロイドだろ、通信機能とかあるだろ?」
「ない。それも連中にばれてる、正確にはミスティにかもな」
カロンが通信機で本部と連絡を取っていた、それはソノラからミスティに伝わった情報だ。
ハークネスに無線機能があるのであれば、わざわざ無線機は使わない、確かにミスティの進言。だからそこまで警戒する必要はない、援軍は呼べない、ミスティはそう進言した。
だからレギュレーターはそのあたりは警戒していない。
「カロン、ミスティは頭の冴えが尋常じゃないな。機械の俺もびっくりだぜ」
「クリスティーナ様が手元に置き違ったわけだな」
「それに失敗して色々とこじれてきた気はするよ」
「ところでハークネス、俺たちはどうなる?」
「レギュレーターの話ではこのままジェファーソン記念館に移送されるらしい。俺たちが……いや、お前がここにいると暴動が起きかねないんだとさ。よお、裏切り者、ご機嫌はいかがかな?」
「ふん。リベットシティにお前を放り込んでも同じ結果だろ、裏切りセキュリティ隊長殿」
「お互いに傷口を開き合うのはやめるか。お互いに脛に傷ありまくりだからな」
「脱走はするのか?」
「とりあえず様子見だ」
「まさか処刑されないだろうな」
「それも様子見だ」
「だがミステイたちの動きはどうする、クリスティーナ様に報告する必要はあるだろう。本部の状況も気になる、何とかしないとまずいんじゃないか?」
「安心しろ、まだ彼女がいる」
「ミスティ側に潜り込んでいるリナリィ中尉か」
「刺客部隊であるシグマ小隊がミスティの首を取るさ。彼女は状況を全て把握しているはずだ。それで、お終いだ」
「助けに来ると思うか?」
「全部終わればな。ミスティほったらかしにして助けには来ないはずだ、彼女は合理的だからな」
「期待薄か」
「そういうことだ」
そこまで言ってハークネスは黙り、天井を見た。
思えばこじれた関係だと思った。
あの時、ミスティの父親をクリス側が抑えていたらどうなったのだろうと考えた、ミスティは仲間になっていただろうか。
「カロン」
「ん?」
「俺たち、もうキャピタルにはどこにも居場所はないな」
「付いていくだけだ、クリスティーナ様に。あの方が築く次世代に付いていくだけだ。ここには俺たちの次世代はない、だろ? だから俺たちはあの人の側に付いたんだ。ミスティたちを捨ててな」
「滑稽だな。居場所を求め、故郷をなくしたってわけだ」
ハークネスは笑った。
カロンも笑う。
お互いにどんな感情で笑っているのか、分からなかった。
「というわけでよろしく」
……。
……と、軽い感じでグロスさんに頼まれ、ここまで来た私ら御一行はそのまま大統領専用メトロへと入った。
BOS&メトロの部隊の三分の二は既に前線へと向かったものの、グロスさんたち残りの部隊は現在足止め中らしい。何でも大統領専用メトロを管理している人工知能コンピューター<マーゴット>が
何者かによって操作されて現在アクセス拒否され、その上セキュリティロボットが侵入者を攻撃してきて身動きが取れないらしい。電車も停止中で運行不可。そこに行くまではセキュリティ地獄。
私らの任務はコンピューターの制御を奪い返すこと。
このままではアダムス空軍基地までの移送が出来ないからだ。
「……はあ」
「主、元気出してください」
「……そうね」
「主、心機一転したんですから」
「……ですよね」
部隊がメトロの外で待っている理由。
セキュリティロボの攻撃で被害を受けたから。攻撃してきたロボは殲滅したらしいけど、メトロ内は明かりが落ちている為、留まるのは危険だと判断して外で待機しているらしい。
真っ暗だ。
真っ暗。
どこもかしこも闇ばかりだ。
ピカー。
PIPBOY3000の照明で道を照らしつつ進む。
遠くまでは見えないけど、とりあえず足元はこれでオッケーだ。
道順は簡単。
ひたすらまっすぐ。
脇道はいくつもあるけど無視しろと言われてる。メトロの面々曰く、どこに繋がっているか分からないとのこと。元々メトロの面々は地下を通って暮らしてる。大統領専用メトロは独立した場所で
あって、メトロの面々が普段使っている移動ルートではない。アダムス空軍基地といくつかの道順は確認済みらしいけど、全てがそうではないらしい。
一応、マーゴットがある制御室までは敵はいない。
進んでいる一本道はね。
脇道は?
BOS、それはスルーです。
はぁ。
脇道からセキュリティロボ出てこないでしょうね?
そこらに残骸あるけど、安心できない。
暗がり嫌いなのかBOS。
歩哨で何人か残すなりしてくれよ。
まったく。
「主、壁を」
「壁」
PIPBOYの照明を照らす。
ひび割れ。
どこもかしこも酷い。
これが留まらない理由かもな。要はベルトバードで空爆されたら崩壊の可能性がある、大統領専用路メトロの構造はかなりガタが来てる。だから運航が確認できるまでは外で待機しているの
だろう。メトロ内で戦わずに生き埋めになるよりは、迎え撃つ方を選んでいる、というわけだ。
照明を壁から再び足元に戻す。
足元暗いとコケる。
「ブッチ」
「あん?」
「あなたたちは少し離れて付いてきて。グリン・フィス、あなたは私のすぐ近くにいて」
「御意」
「はあ? 何で俺らはダメなんだよ」
「察しろボッチ・デロリア。主は自分と一緒にいたいんだ。……暗がりでは俺がリードしてやるから、ちっとは大胆に攻めて来いよ。俺が天国見せてやるからよ」
「グリン・フィス死ぬ?☆ニッコリ」
「ユ、ユーモアですっ!」
「死ぬ?というか死ねっ! デリンジャー、10000キャップで彼殺して☆ニッコリ」
「初依頼、ありがとうございます」
うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああシリアスやろうぜーっ!
イライラします。
イライラっ!
「私には分かるぞ、さすがはミスティだな。リスク回避ということだな」
「さすがフォークス、分かってらっしゃる」
そう。
リスク回避だ。
こんな暗がりだ、侵入している敵も明かり頼りに攻撃してくるに決まってる。
つまり先頭の私たちを。
後続を無灯で進ませれば敵は気付かない。そして後続は速やかに反撃できるって寸法だ。もちろん後続の仲間に後ろから撃たれる心配もあるけど、それに関しては大丈夫だ。
「ケリィ、アカハナ、見えてるわよね?」
「ああ。パワーアーマーヘルメットは暗視機能があるからな、暗がりでも昼間見たくよく見えるよ」
「大丈夫です、ボス」
「いざとなったらあなたたちが反撃して。というわけで私ら先頭行く。ブッチたちは無灯で、少し離れて私のPIPBOYの明かり頼りに付いてきて」
「分かったぜ、優等生」
ケリィかアカハナノどちらかを先行班にしてもいいんだけど、パワーアーマーを前方に置くと敵に警戒される可能性がある。相手を油断させるために私とグリン・フィスだけで先行する。
敵、ロボ以外の奴だ。
セキュリティをけしかけた奴がいる。奴ら、かもしれない。ともかく確実に誰かいるぞ、メトロ内に。
エンクレイブだろうか。
待ち伏せ?
それとも……。
「というわけでライリー、後続組はあなたが指揮を執って」
「私が?」
「ええ。ジェファーソン決戦、成り行きで大軍を率いてはいたけど、あれは別に私に指揮能力があるというとかじゃなくてあくまで全体の顔としていただけだし。その点ライリーはライリー・レンジャー
を率いてる。この中で一番人数を率いている経験がある。だから任せたい。軍曹はー……」
「俺はパターソン大尉の副官として行動してただけだ。部隊指揮はしてない。ミスティ、彼女に任せるべきだ」
「ライリー、任せた」
「分かったわ」
この人数の大半の割合はライリー・レンジャー。
別に率いている数が多いから指揮官に任せたわけじゃないけど、まあ、でもそういう意味合いもあるかな。行動を円滑にする為にだ。
「じゃ、進むわよ」
打ち合わせ終了。
私たちは進む。
前に。
前に。
前に。
まっすぐと、進む。
グロスさんの話では人工知能マーゴットのある制御室でマキシーたちが待っている、らしい。何人かは聞きそびれた。
何故いるのか、要は復旧の為だ。
……。
……BOSの方が適任だとは思うけどなぁ。
まあ、話ではスクライブたちは議事堂前で鹵獲したベルチバード群の整備の為に、サラに引き抜かれてここには不在らしい。その所為か?
暗闇に留まって損害出したくないのは分かるけど、うーん。
わりとBOSって人任せなのか?
今まで、別の地域も含めて、BOSと協力関係にあった人たちって大変だったのかもなぁ、とメタ発言してみる。厄介全て押し付けられてそう。
さて。
「グリン・フィス、何者かしらね」
「敵、ですか?」
「敵」
展開からいけばエンクレイブだろうか。
ただ、マーゴットにアクセス出来る無権限を奪っただけっていうのが引っ掛かる。
そこに留まらないのも意味が分からない。
まあ、セキュリティロボを差し向けてきてるわけだから悪戯ってレベルではないけど、何というか、脇が甘い。ハッキングして私がアクセスすればいいだけなんだから。一応BOSはハイテク集団だ、
なのにハッキングを警戒していないというのはおかしい。何か別に意味があるのか。こちらの注意を、マーゴット奪還だけに向ける為に?
手が込んでる。
いや、正確には回りくどい。
これはエンクレイブの仕業ではないのかもしれない。
もっとも、メトロの面々ですらどこに繋がっているか分からないルートもあるんだ、どっか亀裂か何かからエンクレイブ以外の誰か入り込んでいる可能性もある。
レギュレーターが追う超悪党の仕業かもね。
「気配は?」
「しません」
「そっか」
PIPBOY3000の索敵もしてる、グリン・フィスの気配読みと二重でしてるんだ、敵がいたら捕捉できる。
狙撃された場合は、ちとやばいかもね。
私の能力は視界に頼ってる。
まあ、暗くはあるけどPIPBOY3000の照明で完全な闇ってわけでもない。一メートルぐらい先は辛うじて見えるから、スローになってもギリギリ回避できる距離だとは思う。
そんなに近くでのスローは怖いから嫌だけど。
闇の中からいきなり弾丸が飛び出で来るわけだから、ビビります。
「安全の為、動いている列車に近づかないでください。線路に立つことは絶対にやめてください」
女性の声だ。
だけどどこか機械的だから、マーゴットの駅内放送なのかもしれない。マーゴットは私らのアクセスを拒否し、私らを異物としてセキュリティを差し向けているだけで、駅内放送の業務を続行して
いてもおかしくない。もちろん全面核戦争から200年経っていることを認識していないみたいだから、その放送内容はどこか滑稽だけど。
「お客様がご利用しやすいよう、メトロの至るところにヌカ・コーラ販売機がございます。さわやかなヌカ・コーラを今すぐどうぞっ!」
提供はヌカ・コーラ社なのかな?
ヌカ・コーラは200年経った後でも、キャピタルっ子のソウルドリンクだ。バザーの一件で西海岸で主流のサンセットサルバリラという飲み物が大量に入ってきたけど、私はヌカ・コーラの味が好きかな。
今のところ敵はいない。
周囲がほぼ見渡せないので距離の感覚がないけど、結構歩いたと思う。
ぶっちゃけ現在外で待機している部隊はそのまま待機でもいい気がするな、三分の二が既に前線で待機し、サラはベルチバード隊でアダムス空軍基地に向かうわけだから、兵隊の数は足りてる。
もちろん多いに越したことはないんだけど。
「メトロ監理局は戦地で戦っている兵士の皆様たちのご幸運と、無事に素早く帰還できることを祈っています」
「時代遅れの遺物、か。俺も同じか」
後ろの方で誰が呟いた。
軍曹かな。
正直彼が本当に戦前の軍人で、宇宙人に今の今まで氷漬けにされていたのか、私には分からない。
だけど、それはどうでもいいかな。
「何言ってたんだよベンジー、トンネル・スネークとして成り上がる絶好のチャンスだぜ? 俺らの時代だ、楽しもうぜ」
「ボスのそういうところ、嫌いじゃないぜ」
巡り合わせか。
出会いとは不思議なものだ。
こつ。こつ。こつ。
靴音だけが響く。
意外だな。
何も起こらない。
……。
……あれ?
もしかして余計なことを考えたせいで何かフラグ立ててしまったような……。
「主」
グリン・フィスの声、それと同時にPIPBOY3000が警告の音を立てた。
前方の闇から何か来るっ!
アサルトライフルを身構える。
「グリン・フィス、敵?」
「殺意は感じませんが……来ます」
後続組も立ち止まり音を立てずに闇の中で息を殺している。
来た。
「グッドタイミングっ! BOSよね、あたしを保護……あれ? ミステイじゃん」
「シー?」
何してんだ、こんなとこで。
いつも通りのバラモンスキンの服で市民ルックだけど、レザーアーマーを今回は上から着てた。腰には10oピストル、背中には何か背負ってる。
軽装っすね、そんな装備で何してるんだろ。
ん?
手に何か持ってる、紐の類だ。
「ミスティ、ここで何してんの?」
「正義の味方」
「ああ、エンクレイブの基地に行くんだ。ご苦労さんです。そうだ、ご苦労ついでにあいつら何とかしてよ。しつこくて。あたしは戦闘向きじゃないからさ、殺すのって慣れてなくて。やる時はやるけど」
「あいつら、ね」
闇の中から現れる。
こちらを値踏みするように見ている3人。
全員男だ。
市民ルックの男は32口径ピストルを大仰に振って私に失せろと言った。
身の程知らずですな。
もう1人はレイダー、ハンティングライフルを持ち。もう1人はキャピタルでは完全にレアとなったタロン社の傭兵だ。アサルトライフルを手にしてる。
何なんだこいつら?
ここは一応BOSが抑えてる、少なくとも出入り口からは入れない。とはいえシーが忍び込んでいるわけだから、どこか別の場所から入り込んだのか。
「グリン・フィス、様子見」
「御意」
「それで、あなたたち何者?」
さりげなくシーは私の後ろに隠れた。
私が矢面っすか?
いい性格してる。
「お前になんか用はねぇっ! 大人しくセクシーな寝間着を俺に寄越せっ!」
「……はっ? はっ? はあー?」
何言ってんだ、この兄ちゃん。
セクシーな寝間着ェ?
「シーリーン殿」
「シーでいいよ、イケメン君☆」
「その、それ紐ではなく……」
「セクシーな寝間着だよ☆」
「主、彼女から言い値で買い取りますのでぜひ来てください。赤毛の冒険者のニューコスチューム爆誕です」
「死ねっ!」
あれ寝間着なわけないだろあんたなの露出度MAXのただの紐だっ!
というかこの男どもは何なんだ。
あれ狙いでシーを追ってるのか?
あんな、紐を?
「主、何故嫌なのですか?」
「食い込んで痛いわあんなのっ!」
「具体的にどこに?」
「そりゃ股か……ん……ふーふーふー」
「あ、主、これはユーモアであって……」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ全員攻撃用意ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!」
発狂です、発狂。
私の指示で一斉に銃火器を構える後続組。
ぴたりと止まる男ども。
男ども?
ええ、グリン・フィス君も含まれてますよー。
あいつマジうざいっす。
「ラグナット、ラグボルト。高い金払ったんだ、追い払えっ!」
「よくは見えないが、結構な数がいるぞ。これは白旗挙げるしかないと思うんだが……」
「あ、ああ。兄貴の言うとおりだ。前金返すぜ。だから降伏しよう」
意外にヘタレだ。
いや、現実的っていうべきか。
「ん? その声、お前もしかしてロナルド・レイトンか?」
ポールソンがそう言いながら暗がりを引き離して出で来る。
知り合いか?
「ああ、やっぱりか」
「……ポールソン保安官」
ギルダー・シェイド在住のようだ。
あー、こいつサロンド乙姫に拉致られた脳みそピンクの兄ちゃんか。前に話は聞いたことがある。
そんな奴がここで何してんだ?
シーがマジマジとポールソンを見る。
「わお。依頼人見っけ。運ぶ手間省けた、ラッキー☆ 報酬持ってる?」
「ああ。ルックアウトの時は助かったぜ」
「いいってことよ☆ はい注文の品。ミッション終了☆」
「ありがたいぜ」
お前かよ。
お前がその紐の依頼人かよっ!
何してんだよおっさん。
あの紐はここにあったのか、それとも入手後地上のどっかからあいつらに追いかけられてシーはここに逃げ込んだのか。
いずれにしても分かってるのはトレジャーハンターであるシーはあれを入手し、そしてロナルドもそれを奪おうとしていたわけだから世間的にあれは有名な代物なのだろう。
何なんだこの旧世界。
乱れすぎだろ。
「保安官、そのセクシーな寝間着を寄越せ」
「あのな」
デズモンドが今度は出てくる。
何やら言いにくそうに頭を掻き、それから言った。
「シエラ狙いなんだろ」
「ああ、そうだっ! あれは彼女が欲しがって寝間着で、あれを贈ればきっと俺と結婚してくれるっ! だからレイダー連合とタロン社崩れの2人を傭兵に……」
レイダー連合とタロン社ね。
時代を感じますな。
完全に前時代の悪党の生き残りだ。
しっかしあんなの欲しがる女性ってなんだ?
シエラって確かスティッキーにローチ料理食べさせた女性だったような。
「悪いがシエラは相棒と結婚したぞ」
「な、何っ! 本当か保安官っ!」
「ああ。こいつは女房に頼まれてた品なんだ。悪いな」
何頼んでんだ奥さん。
「そ、そんな……つまりあのおっぱいはもう……」
おっぱい目当てかこのおっぱい星人め。
「俺のものだな」
お前も何渋い顔で言ってたんだ。
ポールソンはダンディ、そう信じてた頃もありました。
「な、なんてこった……」
どさっとその場に膝を付くロナウド。
えっ?
何この滑稽なショーは?
立ち会わなきゃダメ?
「ポールソン、結婚したの?」
「ああ、何か言い忘れてたが、それだった」
「へー」
息子さんと一緒に食事いかがと誘われてたとか前に言ってたけど、あれはフラグだったのか。
「お幸せに」
「ああ、ありがとな。ミスティも頑張れよ」
「別に頑張らないけど」
特に意識してないし。
それにしてもあんなモノを欲しがる奥さん……いや、名前は有名だけど、実物は誰も知らないってこともあるんじゃないのか?
ま、まあいい。
脱線してる。
「私らの前から引き取らないなら、息を引き取ることになるけど?」
傭兵の兄弟は顔を見合わせ、頷き合ってからロナウドを引きずって暗がりに消えた。どっかに地上出るルートがあるのだろう、私らが来たルートの出口はBOSがいるし。
はい終了。
「主」
「killっ!」
「そ、その、真面目な話です。あいつらは見逃してもよかったのですか?」
「別にいいわ」
あんな紐探しに雇われる傭兵なんて大したことないだろ。
そもそも時勢に疎すぎる。
今更タロン社とレイダー連合を売りにしている、少なくともロナウドはそう言ってたわけだから、売りにしている可能性がある。
そんなもの、今更売りでも何でもない。
鼻で笑うぞ、皆。
「行きましょ」
私は少し疲れた声で言い、それから気付いてシーに声をかける。
「あなたはどうするの?」
「明るいとこに出てキャップ数える」
ポールソンから報酬を受け取りながらシーはそう答えた。
その時、シーの背中にあるのはヌカ・ランチャーであることに気付いた。
「シー、それ」
「これ? これは……あ、ありゃ、ライリー、ひひひひひひひ久し振りだね」
知り合いらしい。
まあ、シーはシーで顔広いし私よりキャピタル長いしな。
「そうね久し振りね。最近調子どう? 私は散々。宿舎を荒らした奴がいてね、お陰でレンジャーが保有してたヌカ・ランチャー3つがバラバラに分解されてたわ」
「そ、そうなんだー」
こいつだ。
こいつが犯人だ。
何やってんだ。
「ハ、ハロー、デズモンド、キャピタル出ていくとか言いながら馴染んでるねー」
「まあな、ここも悪くない」
「ケリィは貸したお金返してっ! 返済は人としてあるべき姿だよっ! ぶーぶーっ!」
「今度でかい山があるんだ、ジョーさんのネタでな。お前も噛ませるよ、それで勘弁してくれ。取り分はそっちが7でいい」
「おっけー☆」
動揺したり怒ったり喜んだり忙しい奴だ。
そういえばピットでケリィにお金貸してるとか言ってたな、まだ返してなかったのか、ケリィ。それは人としてダメだろ。結構前の話だし。
「僕には何かないんですか? ねぇ、シーリーンさん? 返済は人として……ですよねぇ?」
「バ、バーカバーカっ!」
餓鬼かよ。
何だかんだで私より少し年上のシーさんです。
「じゃ、じぁ、あたしはこれでー」
逃げる。
まあ、わざわざライリーに告げ口しなくてもいいかなぁ。微妙なところですね、悩みどころです。
立ち去ろうとして歩き出すも、シーは止まってこちらを振り返った。
「あっ、そうだ、ミスティ」
「ん?」
「あたしさ、GNRと同行することに決めたんだ」
「……? えっと、どういうこと?」
「あれ聞いてない?」
「知らない」
「スリードッグがジェットヘリでアダムス空軍基地を実況するんだってさ。操縦者はGNRの身内で、あとは護衛として元ストレンジャー。それと、今回はあたしも同行するんだ。シーちゃん参戦☆」
操縦者はスティッキーだろう、元ストレンジャーはガンスリンガーか。
ふぅん。
アクティブですな、スリードッグ。
「それにしても珍しいわねシー。そういうの好き社なさそうだけど」
「全然好きじゃないよ。でも、あたしもやれることはしないとね。今回の戦争見る限り、エンクレイブはこの土地なんて本当にどうでもいいのが分かる。支配されたら、悲惨そうじゃん?」
「まあね」
支配、というか管理かな。
純血至上主義の連中からしたら私らは人ではないってわけだ。
「出発まで時間があったから受けてたトレジャーハントで時間潰してたんだ。ミスティに会えてよかったよ、またね」
「うん、それじゃあね」
彼女は立ち去った。
ロナウドたちと同じくわき道にそれた。
やっぱりどっかで地上と繋がってるのか。
「ボス、何か時間掛かってますね」
「そうね、アカハナ。話が脇にそれまくり。少しペース上げて進みましょう」
私たちは進む。
奥へと。
前へと。
大統領専用メトロ。
それはキャピタル中に張り巡らされたメトロ群とはまた別の、完全に独立した場所。かつてこの場所から大統領を始めとするこの国の重鎮たちがアダムス空軍基地へと向かい、そして各地の
耐核施設へと潜んだ。エンクレイブの基盤はその時生まれた。
このトンネルの先に、アダムス空軍基地がある。
過去がある。
過去の栄光を振りかざし、縋る連中がいる。
エンクレイブは強要する、かつてのアメリカの栄光とやらを。私たちは進み、過去と対峙し、未来を掴まなくてはならない。
そう、進むのだ。
キャピタルを苛み続けている過去の妄執を晴らす為に。