私は天使なんかじゃない






彷徨う心







  そして彼女は気付く。





  アンダーワールド解放戦。
  エンクレイブ側はオータム派、クリス派ともに壊滅。
  対するアンダーワールド側は救援要請を受けたリンカーン記念館の迅速な援軍派遣により被害は軽微。
  戦闘はエンクレイブ側の大敗によって幕を閉じた。



  「主、主」
  「うー」
  目を開ける。
  一瞬ここがどこだか分らなかった、そうだ、アンダーワールドのキャロルの宿で仮眠取ってたんだった。
  「何?」
  不機嫌なのは自分でも分かってる。
  戦闘は疲れるものだ。
  肉体的よりも精神的に張りつめて疲れてしまう。
  周りを見る。
  ポールソンとデズモンドも寝てる。いや、ポールソンは寝煙草して起きてる。何か本を読んでいた。私に気付くと軽く右手を挙げ、読書に戻った。
  ブッチと軍曹はいないな、酒場かな。
  酒場の店主のMr.クロウリーとかいう人と知り合いだったみたいだし。
  なお歴史博物館前には引き続きシモーネの部隊が展開して防御に当たってる。ご苦労様です、お陰でゆっくり休めました。
  まだ寝たりないけど。
  「何で起こしたの? 時間?」
  「いえ、彼女が」
  「彼女?」
  「私です、ミスティ」
  「ひゃっ!」
  声がした。
  女の声だ。
  声の方を見ると、そこにはソノラが立っていた。
  「悪趣味だからやめてよ、気配殺すの」
  「意味が分かりませんね。自然体ですが」
  「……そっすか」
  こいつ物騒だなぁ。
  敵には回さないようにしておこう。
  「ミスティ」
  「何、まさか仕事?」
  「この状況でレギュレーターの仕事を回すほど私は非常識ではありませんよ。だけど安心してください。あなたの分の仕事は、ちゃんと戦争の後に用意してますから」

  「……そっすか」
  果然士気が下がった。
  負けたな、戦争(号泣)
  「わざわざ戦勝祝いに来たの?」
  「そうです」
  「マジか、適当に言ったのに」
  「プレゼントです」
  彼女が手を叩くとレギュレーターの面々が入ってくる。恰好で分かる、お揃いの保安官風の衣装だ。そんな彼ら彼女らが2人の人物を拘束していた。
  見覚えのある2人。
  「差し上げます」
  「嬉しいお土産ね、ソノラ」
  「喜んでくれて何より」
  アンダーワールドは解放された。
  私たちの目的はアダムス空軍基地への強襲、もうここには用がない……はずだったんだけど、戦闘終了後5時間経ってもここに滞在していた。どのみちホワイトハウスでの合流予定時刻には
  まだ余裕がある。私たちはここで一時の休息をすることとした。私も休息してた。そんな中、彼女がここに来た。
  ソノラが。
  そして彼女率いるレギュレーターはカロンとハークネスを拘束していた。
  捕らえたらしい。
  これはこの街の滞在延長確定ですね。
  「どうする?」
  「それぞれ別室に捕らえておいて」
  「分かったわ」
  ソノラが指示すると部下たちはそのように動いた。
  実に助かる助っ人だ。
  「ソノラ」
  「何かしら?」
  「どこまで手伝ってくれる?」
  「そうですね。各街々に部下を派遣して護らせてますから、ここにいる手勢が全てです。13名。どこまで出来るかは知りませんが、悪党を退治できるなら喜んで進みますよ」
  「悪党、か」
  そこまで単純ならいいんだけど。
  残念ながら展開はそこまでシンプルではない。
  ただ、ソノラはシンプルだった。
  思っていたよりもずっと。
  私の考えを察したらしく、全く笑っていない目で笑みを浮かべた。
  「キャピタルの為にならない者=悪です」
  「なるほど」
  苦笑する。
  苦笑するしかなかった。
  その時、アンダーワールドのあちこちで怒号が飛ぶ。
  ああ、カロンかな。
  ここの住人にしたら彼は裏切り者なわけだ。
  それは間違ってない。
  「ミスティ、よくは分からないけど拘束する直前に彼らは通信をしていた。おそらく敵の本部。その時、グールの彼はこう言った。本部が降伏しろと言っていると」
  「どういうこと?」
  「連中はこう推測していた。本部が、移動要塞が落ちたと」
  「……」
  あながち情報提供者は嘘を言っていないのか?
  クリス側が私たちを利用する為に誘き寄せようとしているのかと思ったけど、これを聞く限りではカロンたちは知らなかったことになる。
  ふぅん。
  なかなか興味深い情報だ。
  「尋問、こちらでしましょうか?」
  「指をゴリゴリしながら?」
  「ええ。効果的な拷問です。大抵片手の指がなくなった時点でこちらが最後までやることを悟って饒舌になる」
  「は、ははは」
  本気?
  本気なんでしょうなぁ。
  「私がするわ」
  「ゴリゴリと?」
  「……それは、しない」
  「そうですか」
  ソノラに礼を言い、私は宿を出る。
  グリン・フィスがついて来ようとするものの彼には休んでるように言い、有無を言わさなかった。休める時に休むべきだ。どうせこの先忙しいのは確定なんだから。
  「よお」
  通路に出るとアッシュが声をかけてくる。
  「どこに拘束したの?」
  「グールの方はDr.チョッパーって奴に預けた。アンドロイドの方は便所だ。安心しろよ、使用されてない便所だから」
  「何だってトイレ」
  「狭いフロアがなかったんだ、仕方ない。監視できない場所に入れて逃げられたり、怒りに駆られた群衆に嬲り殺しにされても困るだろ?」
  「まあ、そうね」
  特にカロンは危ない。
  「それぞれの場所にはレギュレーターが張り付いているから暴動は大丈夫だ。まっ、暴動が起きたら真っ先に差し出すけどな。悪党を護るのに死ぬのは俺たちもごめんだ。案内するか?」
  「大丈夫よ、前に来たことあるし」
  まずはカロンのところに向かうか。
  ハークネスはトイレ、ね。
  どこのトイレかは分からないからそれは聞かなきゃだ。
  私は医務室に向かう。
  医務室では私が来ることが既に想定されていたのか、あっさりとレギュレーターの一団に扉を通してもらう。中に入るとDr.チョッパーが見当たらない。
  人払いされているのか、所用なのか。
  まあいい。
  「お久し振り、カロン」
  「クリスティーナ様に聞けっ!」
  Dr.チョッパーの医務室に彼は拘束されていた。医務室、正確にはそのガラス越しにある隔離部屋。
  ここでは善意あるフェラル・グールがグール化の解明の為に拘束される場所らしい。前にそう聞いたことがある。善意、まあ、フェラルには理性なんてないわけだけど。
  カロンはそこにいる。
  椅子に縛られて。
  ガラス越しでは話がし辛い。
  隔離部屋に入る。
  「色々と聞きたいことがあるわ」
  「俺はないな」
  「そう、でも私はある」
  チャ。
  ミスティックマグナムを抜く。
  「脅しか?」
  「脅しはしない、脅してそっちがやってみろって言ったら面倒でしょ? やったら情報源を失うし、やらないとヘタレ。あなたは私を舐めてまともに話さなくなる。非生産的。これは、逃げようとしたとき用」
  「……」
  「私をあんまり甘く見ない方がいい。敵には容赦しない。ああ、言ったか、戦闘の時に」
  「変わったな、あんた」
  「そうでもないと思うよ。視点の違いじゃない? あなたは今は敵だから、味方だった時の私とは別物に見える。でも私からしたらあなたが変わったから、私も対処を変えているだけ。立場って
  大切よね。そしてそれを明確に表現することも。情報源はもう1人いるし、私も強制はしない。さあ、どうする?」
  「脅してるじゃないか、結局」
  「かもね。好きに受け取って。私は私の今の立場を尊重したうえで、そう接してるだけ。さあ、どうする?」
  「……はぁ」
  露骨に大きく溜息を吐く。
  しばらくの間の後、彼は口を開いた。
  「何が聞きたい?」
  「あなたの今の階級は?」
  「中尉だ。ハークネスもな。ただし俺たちに階級は関係ない。俺たちはクリスティーナ親衛隊、大統領直属だ」
  「親衛隊?」
  「階級に関係なく命令できる権限がある」
  「ああ、出世したのね。おめでとう」
  「ふん」
  こいつは驚いた。
  結構な大物だ。
  となるとクリスは本気でキャピタル入りしている可能性があるな。
  「この地は無線が使えない。何故?」
  「ジャミングで分断してある。我々の使っている周波数以外は使えなくしてある」
  「それでか。場所は?」
  「場所か」
  ジャミング発生装置の正確な場所を聞き出す。
  よし、全部潰す。
  分断されたままだと共同体としてもやりにくい。
  「クリスは来てるのよね?」
  「ああ」
  「ふぅん」
  「なんだ、その反応は?」
  「隠さないのね」
  「隠す必要があるのか? こんなもの機密でも何でもない。だろ?」
  「そうね」
  「他にはなんかあるのか?」
  「投降しろって何?」
  「さあな、何の話だか」
  「そっか」
  話は終わりだ。
  私はそのまま隔離部屋を出て、カロンはその場に放置する。医務室を出ると屯しているレギュレーターにジャミング発生装置のことを話す。
  「すぐにソノラさんに指示を仰ぎます」
  「お願い」
  医務室前に2人の歩哨を残して残りはこの場を後にした。
  私もここに留まる理由はない。
  とりあえず当てもなく歩き出す。歩きながら考えよう。
  次はハークネスか。
  しかしどうするかな。
  カロンは饒舌だったけど、確かにあれは機密でも何でもない。知りたいことではあったけど、戦局に有用かと聞かれれば全くそうではない。かといって拷問したところで何も話さないだろうし私の
  趣味ではない。カロンにしてもハークネスにしてもクリスに忠誠を誓ってる。そして口が堅い。無理に口を割らそうとしても死を選ぶだろう。それでは意味がない。
  私が話を打ち切ったのはその為だ。
  やはり要はハークネスか。
  このやり方は正直嫌だけど、仕方ないのか。
  「ねぇ、ウィンスロップいる?」
  手近なグールに聞く。
  たぶん男性。
  服装的に。
  「ウィンスロップ? ああ、チューリップの店にいたかな」
  残念、女性でした。
  グールの性別は見分けが付き辛い。
  「呼んできてあげようか?」
  「いいの?」
  「いいわ、救世主さん。ここで待ってて」
  「ありがとう」
  壁に寄りかかって私は待つことにする。
  こんな時煙草でも吸えれば手持ち無沙汰に悩むこともないんだろうなぁ。
  おや?
  「元気そうね」
  「そ、そうね」
  見知った奴がいた。
  ベリー家とやり合った時以来だ。まさか生きているとは思わなかったけど、そういえばトドメ的なことは何もしてなかったな。
  「お久し振り、シドニー」
  「ど、どうも」
  「ここで何してるの? まさか、私をまだ狙ってる?」
  「いやいやいやっ! あんたと喧嘩するのはもう嫌だよっ!」
  失礼な。
  まるで私から吹っかけたみたいじゃないか。
  「ここで何してるの?」
  「方々で信頼を失った結果だよ。ワシントンの爺さんを敵に回したし、お陰であの爺さんはあることないこと言いふらしたんだ。ここ以外には居場所がなかったんだよ。それで流れてきたんだ」
  「ないことは、まあ、可哀想だけど、あることに関してはあなたの自業自得でしょうよ」
  「と、ともかくっ! ここで傭兵して暮らしてるんだ、生活を壊さないでほしいっ!」
  一方的に言って彼女は早足に去っていった。
  ええー?
  私の所為ですか?
  何か傷付いたんですけど。
  私何か悪いことした?
  いやぁ、完全に自分の所為でしょうよ、シドニーさん。
  頭に鉛玉叩き込まない私の方がどうかしてる状況ですぜ、結構被害被ったのは私です。
  まったく。
  「連れてきたよ」
  「えっ? あっ、ありがとう」
  「じゃあそういうことで」
  女性グールは去っていく。
  さて。
  「久し振りね、ウィンスロップ」
  「ああ。まったくだ。だがあの時のスムーススキンが、今じゃこんな大物になるなんてな。何だ、再現ドラマで俺も本人役で出られるのか?」
  「あはははは」
  「それで、どうした、何かやってほしいことがあるのか?」
  「機械工学に詳しいのよね。どこまで出来る?」
  「どこまで、そうだな、キャピタルあるロボット系統なら解体と組み立ては出来るぞ。そうそう、エンクレイブって連中の装備でいらないものを貰ってもいいか? 見たことないものが一杯だ」
  「そうね」
  BOSもここに寄るかもしれない。
  「早い者勝ちだから、必要なものは確保しておいた方がいいと思う」
  「あんたのお墨付きなら安心だ。とっとと貰っておくとするよ。それでー、俺は結局何をしたらいいんだ?」
  「アンドロイドに関すること」
  「アンドロイド? そいつは、うーん、俺の手だけでは余るな。同じ程度の技術者が欲しいんだが……」
  「大丈夫よ」
  ケリィの顔が思い浮かぶ。
  彼なら問題ないだろ。
  「適任がいるから」
  「だとしてもだ」
  「まだ何か?」
  「そいつも俺と一緒で専門外なんだろ? アンドロイドのOSはロボットとはまた別物だ。解体は多分的確に出来る、直すとなると荷が重い。直したいのか、壊したいのかによるんだが」
  「んー、中間」
  「何だそれ」
  「サポート系のロボはないの?」
  「そんなものはないよ。アンダーワールドにはケルベロスがいるだけだ」
  「ケルベロスか」
  軍事用のMr.ガッツィー。
  これは使えるか。
  「どこにいる?」
  「ケルベロスか? アンダーワールドのどっかを彷徨ってると思うが」
  「レギュレーターに、ミスティに言われたって伝えてハークネスのところに行って。それともう一つ、人格チップない? 何もデータ入ってないやつ」
  「どうかな、備品庫探してみないと分からん。急ぎかい?」
  「ええ。色々要求して悪いけど、諸々とお願い」
  「よく分からんが、了解だ。取り分としてエンクレイブの装備はいくつか貰うぞ。あんなレアもの、多分この先手に入らんからな」
  「早い者勝ちだから欲しいやつ持ってって」
  「分かった。また後でな」
  さて、次はケリィか。
  どこにいるかな。
  宿にはいなかったからチューリップの雑貨屋に……いや、戦い後だから、飲んでるのかもな。
  ナインスサークルという酒場に行ってみる。
  酒場ではグールの飲み客でごった返していたけど、カウンター席はヒューマンで占められていた。グールたちは私をチラリと見て、それから即席の演台の上で何か喋っているグールに注目した。
  「ケリィ」
  「よお、ミスティ」
  上機嫌のケリィ発見。
  カウンター席でグリン・フィスたちと一緒に飲んでいた。
  グールのバーテンは感嘆したように言った。
  「ほう? ミスティ? 彼女があの有名な赤毛の冒険者か。お噂はブッチとケリィから聞いてるよ」
  「どうも」
  軽く会釈。
  「優等生、彼はMr.クロウリーだ。良い奴なんだぜ?」
  「そうなんだ」
  ブッチも顔が広くなったなぁ。
  ルックアウトに行っている間に色々と活躍してたし、今じゃキャピタルでも有力なチームだ、トンネル・スネークは。軍曹はボス万歳と言ってビールを煽り、グリン・フィスは木箱で作られた急ごしらえ
  の舞台の上で何やら喋っているグールに時折振り返って見ては、ブッチたちと談笑している。ああ、あれがMr.グリフォンのトークショーか。というか寝ずに飲みに来たのか、グリン・フィス。
  まあ、これも休養の一つか。
  「優等生」
  「ん?」
  「お前大丈夫か?」
  「何が?」
  「顔色は別に問題ないけどよ、なんか、変じゃねぇか?」
  「……?」
  言っている意味が分からない。
  「主、お加減でも?」
  「いや別に」
  グリン・フィス的に見ても問題ない。
  ブッチは何言ってんだか。
  「俺様と優等生は何だかんだで付き合いが長いからか? 何か、こう、変に見えるんだが。テンペニータワーあたりからよ」
  「ふぅん」
  心配してるのかな?
  でも特に問題はない。
  カロンの次はハークネスの尋問だ、やることは多い。落ち込んでたり考え込んでいる暇なんてないんだ。
  レッツポジティブっ!
  「ケリィ、頼みがあるんだけど」
  「俺?」
  「うん」
  「今忙しいんだが」
  飲んでるだけだろうが。
  私なんて休憩なしだ。
  こっちの気分を察したのか、ケリィは分かったよと言って立ち上がった。
  「また後でな、クロウリー」
  「ああ。こいつらの飲み代もお前にツケとくよ」
  「なっ!」
  Mr.クロウリーはケリィの慌てぶりを見てくくくと笑い、軍曹はご馳走になるぜと笑った。ありゃ結構飲み食いされますねー。
  可哀想可哀想。
  「仕方ねぇな」
  やれやれと呟いてケリィは私と一緒にナインスサークルを出た。
  彼は私に付いてくる。
  「で? 俺は一体何すりゃいいんだ?」
  「アンドロイドって弄れる?」
  「アンドロイド?」
  「うん」
  「さあなぁ。やったことないが……まあ、精神構造の部分以外は他のロボと変わらんだろうから何とかなるかな。機械に精神構造っていうのも変かもしれんが。俺にアンドロイド作れって?」
  「記憶媒体をちょっと抜き出してほしい」
  「それ、たぶん俺には無理だぞ」
  「大丈夫。サポートに徹してくれたらいいから」
  「お前まさかアンドロイドの構造知ってるのか?」
  「私じゃない」
  「言っている意味が分からないが……」
  「すぐに分かるわ。あっ、ちょっと、ハークネスどこ?」
  壁に寄りかかっていたレギュレーターの女性を見つけ、声をかける。
  私の知らない人だ。
  「通路をまっすぐ行った、右の男性トイレです。トイレ類は撤去されているので結構広いですよ」
  「どうも」
  「あっ、あなたに言われたっていうグールの男性とMr.ガッツィーが中で待ってます」
  「重ね重ねどうも」
  お礼を言って通り過ぎる。
  ウィンスロップはもう待ってくれてるようだ。
  ……。
  ……ああ、そうだった。
  「ねぇ」
  少し戻り、再び女性レギュレーターに声をかけた。
  「何ですか?」
  「無線機ある? 貸してほしいんですけど」
  「ええ、どうぞ」
  素直に私に差し出した。
  私が名前が売れているからか、ソノラに全面的に協力しろと言っているのか、どっちだろ。
  「ソノラは?」
  「アッシュとモニカを連れてどこかに行きました。我々は、アンダーワールドにいる我々はこのままここで待機とのことです」
  「ふぅん。どうも」
  無線機を貰ってトイレに向かう。
  ソノラはジャミングを壊しに行ったのかな。カロンに聞く限り発生器はすぐ近くだし、無線はそろそろ使える頃かな。使えない場合は、ちょっと展開が長引くけど、問題はない。
  「ところでケリィ」
  「あん?」
  「今回はパワーアーマーは普通に着れたのね」
  今は当然着てないけど。
  体型は太っちょのまま、前回はダイエットしてきてたみたいだけど、どういうことだろ。
  ケリィは自慢げに話す。
  「逆転の発想ってやつさ」
  「逆転の?」
  「アーマーを拡張改造したのさ。クロウリーが命の恩人への礼って言ってな、金出してくれたんだ。お陰でダイエットなしでも着れるようになったんだぜ?」
  「そ、そうなんだ」
  言ってて情けなくはないのだろうか?
  うーん。
  逆転の発想ねぇ。
  まあ、いいけど。
  「あのレーザーライフルは?」
  「あれか。トライビーム・レーザーライフルってやつさ。三つの銃身を付けたからな、同時に三条のレーザーを撃てる。まっ、キャピタルじゃ俺ぐらいだろうな、あんなの持ってるのはよ」
  「そうね」
  彼のオリジナルの武器なのかな?
  自慢げだけど、レディ・スコルピオンのは八条のレーザーだからなぁ。ただ、ケリィが上を知らないってわけではなく、レディ・スコルピオンの武器が異常過ぎるスペックなのだ。
  さて。
  「ここか」
  トイレの前に到着。
  扉のとこにレギュレーターが2人詰めていた。
  「ミスティよ」
  「どうぞ」
  顔パスです。
  扉を開けてもらい、中に入る。
  椅子に拘束されたハークネスと、ウィンスロップ、ケルベロスがいた。ケリィが私の後に中に入ると、扉がレギュレーターによって閉じられた。
  「ケルベロス連れて待ってたよ。それで? 一体何するんだ?」
  「ちょっとした実験。ウィンスロップ、頼んだものはあった?」
  「ああ、あったよ」
  「よかった。ケルベロス」
  「気を付けーっ! 尋問室に民間人が何の用だっ!」

  ピピピ。

  PIPBOY3000でハッキング開始。
  キーボードを叩く。
  「尋問室なんだから、尋問に決まってるでしょ」
  「ほほう? つまりはここに招かれた俺もこの裏切り野郎の尋問が出来るってことだなっ! 俺のプラズマでじっくりと陰謀を吐かせて……ヤルー……」
  「悪いわね」

  ぷしゅー。

  ケルベロスの、背面にあったジェネレーターの起動をストップさせる。
  この程度なら簡単にハッキング出来る。
  問題はハークネスだ。
  彼の場合は精神構造が人間に近いから、機械の体を持ちながらほぼ人間という厄介な存在。私のハッキングは効かない。だから丸投げするとしよう。
  博識な、機械のプロにね。
  「ウィンスロップ、人格チップ頂戴」
  「まさかケルベロス壊さないよな? こいつはアンダーワールドの……」
  「壊さない。信用して」
  「わかった、ほらよ」
  「ありがとう」
  やり取りを無言で見ていたハークネスが私に声をかけてきた。
  不安そうには聞こえない。
  さすがというべきか。
  クリスが側近にするだけはある。
  豪胆だ。
  「おいおいミスティ、何するんだ?」
  「ちょっとした実験」
  ケルベロスの人格チップを外し、無印の、何も入っていないチップを嵌める。
  無線でメガトンに連絡。

  「こちらはメガトンです」

  ルーカス・シムズではなく、市長の秘書のオフルディテさんだ。
  不在なのかな。
  まあ、無線の相手は別にどっちでもいい。
  市長に用があるわけではないし。
  「私です、ミスティです」

  「無事で何よりです」

  「どうも」
  そうか。
  彼女とはオールドオルニーで拉致られて以来、初めて連絡し合ったのか。直前まで一緒にいた私が拉致られたわけだから心配してたんだろう。
  声には安堵があった。
  優しい人だ。
  「モイラを呼んで……いえ、彼女の持ってるワッズワース……対外的にザ・ブレインって名乗ってるのかな、ともかく、彼女のMr.ハンディに飛んで来いって言ってください。意味は分かると思います」
  アンダーワールドにいること。
  座標とケルベロスの識別番号を伝える。

  「言えば分かるのですか? ともかく、伝えます。市長は巡回中で不在ですので、連絡があったこと、無事なことを伝えておきます」

  「どうも。通信終了」
  無線機を切る。
  ふぅん。
  カロンが言ってたジャミング発生器の場所は確かだったのか、まだ言ってないのがあるのかと思ってたけど、少なくともメガトンとの封鎖は解かれている。
  ケリィが焦れて言った。
  「それでミスティ、いい加減教えてくれよ、何するつもりだ。俺……ら、でよな? そっちの紳士と一緒に、俺らに何をさせるつもりだ?」
  「内緒」
  「はあ?」
  「何というか、結構えぐい気はする」
  「……おいおい、心配になるからそういうのやめてくれよ」
  椅子に拘束されているハークネスから苦情の声。
  私は可愛くウインク。
  「ケリィ」
  「あん?」
  「見張ってて」
  「わーったよ。ただな、秘密主義は……」
  「ちゃんとやるときは言うから。まだ確証がないから何とも言えないの、ごめんね、ケリィおじさん」
  「お、おう」
  私は退室。
  何の理由もなしにケリィを使うのはまずいのは分かってる、ケルベロスに悪いことしてるのも分かってる。
  やろうとしている尋問も私の趣味ではない。
  だけど今は止まれない。
  走り続けるだけ。
  「ボス」
  「ん?」
  アカハナだ。
  彼は別ルートで向かってはずだけど……どうしてここにいる?
  「何してるの?」
  「一部のBOSはこちに進路を変更しています。自分は、ボスが心配でここに駆け付けたのですが、申し訳ありません」
  「謝らないで。嬉しいわ、ありがとう。だけど、どうしてBOSが?」
  援軍にしては遅い。
  エンクレイブの装備を鹵獲しに来たのか?
  まあ、戦力増強は急務だ。
  悪いことではない。
  「ベルチバードです」
  「ベルチバード?」
  「地元住民、たぶんリンカーン記念館だと思うんですが、行軍中のBOS部隊にベルチバードが大量にある場所を見つけたと」
  「ああ」
  ここに来た連中のベルチバードか。
  「それを回収に?」
  「はい。サラ・リオンズもこちらに向かっているそうです。おそらく、彼女らは空から向かうつもりなのではないでしょうか」
  「二方面作戦ってわけか」
  「はい」
  悪い手ではない。
  ただ、その場合BOSの飛行部隊が当然目立つし、エンクレイブ側に捕捉されるだろう。
  ほぼ確実に。
  囮になるつもりか、サラ。
  「あと、行軍中の部隊の先発部隊がメトロの先導でアダムス空軍基地へと通じる地下道に入りました。全軍の合流完了予定時刻は覚えてますよね?」
  「大丈夫。遅れないから」
  まだ時間的にかなり余裕あるし。
  「それと」
  「他にも何か?」
  「ライリー・レンジャーがこちらに到着しつつあります。何やら憤ってましたが、よく分かりません。自分はボスの安否を確かめる為に急いでいましたし」
  「へぇ?」
  ライリーが怒ってる?
  解放戦に参加できなかったからか?
  「それともう一つ」
  「それは悪い知らせ?」
  「いえ。かといって良い知らせなのかはわかりませんが、カンタベリー・コモンズからボスを訪ねて人が来てます。エントランスにいるはずです」
  「分かった」
  「主」
  その時、グリン・フィスが駆け寄ってきた。
  アカハナに気付き、軽く頭を下げる。
  結局追ってきたのか。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「まだ出撃まで時間はあるから、アカハナと酒場で飲んで来たら?」
  「いえ、しかし、先ほどのブッチの言うことも気になりまして。その、何やら無理されているのではと」
  「飲みたいんでしょ? いってらっしゃい」
  「……」
  「大丈夫。疲れただけ。行っていいわ」
  「はっ、ご命令とあれば」
  「じゃあね」
  2人に手を振る。
  何だかんだで2人は楽しそうに酒場に向かっていった。
  さて。
  「エントランスね」
  カンタベリー・コモンズから来た、か。
  誰が来たやら。
  私はエントランスに向かう。途中見知ったグールたちから励ましと感謝の言葉を受ける。誰だか分かんなかったけど、手を振っとく。
  さて。

  「よお、ミスティ。ウルフギャング家で一番の品揃えがある俺のご登場だぜ」

  「ウルフギャング」
  エントランスにいたのはクレイジー・ウルフギャング。
  キャラバン護衛の傭兵が2人。
  「何これ」
  一瞬目を疑う。
  何故ならエントランスには大量の木箱が置かれていた。
  「えっ、これを運んできたの?」
  「さすがにそれはジョークだよな? こんなに運べるわけないし、売りさばけてもキャップの山を回収できないぜ」
  「じゃあ、これは何?」
  「そこの彼のプレゼントってやつさ」
  「彼?」

  「これは我々の支援物資というやつだよ、ミスティ」

  「ハンニバル」
  リンカーン記念館の指導者がそこにいた。
  「拠点から抜けて大丈夫なの?」
  「実は大丈夫じゃない。すぐに帰る」
  「あはは、何それ」
  「ミスティには毎回助けられてる。リンカーン所縁の品集めにも協力してくれたしな。これはその礼であり、我々の友情の証だ。使って欲しい。言ったろ、いつか恩に報いると」
  「でも、いいの?」
  「これしか出来ない心苦しさを分かってくれ。本来なら兵力も出したいのだが、今回のことで我々は悟った。アンダーワールドの救援の為にシモーネたちを出したが、我々では到底叶わなかった」
  「装備の差は仕方ないわ。連中は、特別よ」
  「そう言って貰えると助かる。物資はBOSと一緒に使ってくれ」
  深々と彼は頭を下げる。
  良い人だ。
  本当に良い人だ。
  「その装備の差なんだがな」
  ウルフギャングが言う。
  手には見たことのない、いや、どこかで見た武器があった。
  「こいつを使ってくれよ、ミスティ」
  「これは……」
  レーザー系の武器?
  プラズマ系の武器?
  いや、これは……。
  「ガウスライフル」
  「がうす……ミスティはこいつを知っているのか? そういう名前の銃なのか?」
  「夢で見たことがある」
  「ははは、予知夢ってやつか?」
  宇宙船の夢。
  ただ、あれが本当にただの夢なのかどうかは謎だ。
  ポールソンや軍曹も宇宙人とか肯定してるし、彼らの話は私の見た夢にかなり近いし。
  うーん。
  謎だ。
  「どうしたの、これ?」
  「クライスラスビルでスカベンジャーが見つけて、俺のところに持ち込んだのさ。ガラクタとしてな。ただメカニストが何かの書物でこれを知っていたらしくてな、何でも伝説級の武器ってやつ? それで
  書物を頼りに俺らで修理したってわけだ。マイクロフュージョンセルを動力とした……何だっけな……」
  「レールガンってやつでしょ?」
  「それっ! 結局書物頼りだし、本来の威力かは知らないが、こいつは化け物の威力だぜ。衝撃波だけで対象以外も吹っ飛ぶしな。人狩り師団でテスト済みだ」
  「へぇ」
  クライスラスビル、か。
  たぶんロケットマンが使ってた武器だ。
  「幾ら?」
  「おいおい、友情にキャップはいらんだろ? まっ、あれだ、縁ってやつだな。最初に、あの場面で俺らが会わなかったら、このプレゼントはなかった。出会いってある意味で奇跡だよな」
  「あの場面で会わなかったら私は死んでたかな」
  確実に野垂れ死んでた。
  確実に。
  ガウスライフルをありがたく受け取る。
  こうなるとアサルトライフルはいらない……いや、武装は動きが妨げられない限りはしていた方がいいか。ミスティックマグナムにしてもガウスライフルにしても威力が高過ぎて生け捕りって選択が
  やりにくい。単発の威力としてはかなり落ちる、アサルトライフルがあった方がいい。
  「カンタベリー・コモンズは大丈夫?」
  「ああ、ドミニクがいるしな。メカニストとアンタゴナイザーもいる。それに商人の街だぞ? コストを度外視したら、武器も防具も医療品も物資も腐るほどあるんだ。誰が来ても敵じゃねぇよ」
  「でも、戦いの後の経費の計算が敵じゃない?」
  「……そいつは、ラスボスだな」
  「あはは」

  「ちょっと観光客さん」

  「ウィロー」
  女グールの警備兵が、部下らしき人たちを連れて奥から出てくる。
  忙しいな、私。
  「ウィンスロップが探してたよ、ケルベロスが何とかって」
  「分かった」
  ハンニバルとウルフギャングにバイバイして私はアンダーワールドに戻る。
  ウィローは警備の交代に来たのかな?
  結局のところリンカーン記念館もここに増援送ったから手薄だ、ハンニバルはシモーネたちを連れて撤退するのかな。
  トイレに向かって私は歩く。
  「うー」
  何か頭が痛いな。
  昔馴染みを撃って、尋問して、皆が私に期待して、ガンスリンガー曰く私がいないとこの土地はバラバラで……頭痛なんてしている暇ないんだ、働かなきゃ。
  私の故郷の為に。
  トイレ前のレギュレーターは私を見ると会釈して扉を開けてくれる。
  中に入ると扉は閉じた。
  ウィンスロップが慌てたように声をかけてきた。
  「な、なあ、こいつに何したんだ?」
  「大丈夫よ。ザ・ブレイン、よく来てくれたわ」
  「ハッ! わざわざ呼ぶなんて横着で横暴ですね〜。やぺー、こいつバルトよりやべー」
  「ミスティ、こいつどうしたんだ? てかバルトって誰だ?」
  「気にしないでケリィ」
  わざわざカルバート教授のこととかルックアウトのことをここで長々と説明するつもりはない。
  話がやたら長いし。
  「ザ・ブレイン、定着してる?」
  「ハッ! 完璧っすよー。やべー、馬鹿正直に完璧だなんて言ったらきっと面倒が待ってるマジやべー」
  よし。
  無人格のチップにザ・ブレインが人格飛ばして、この機体に降臨した。
  この教授の手下の生き残りは、おそらく最高の頭脳を持っている。ケルベロスには元々制御用のリミッターがあるし暴れることはあるまい。
  「ザ・ブレイン、呼んどいてなんだけど向こうの方はどうなってるの?」
  「ハッ! コピーして増殖してるわけじゃないので安心してくれていいですよー。向こうは無人格に戻ったけどそれが何かー?」
  「改めて聞くけど、教授はもうどうでもいいのよね?」
  「ハッ! 心配しなくてもこれが終わればメガトンの体に戻りますよー。あそこにいれば浮世の面倒がないから楽ですからねー。それでー、何すればいいんですかー? さっさとしろよカス」
  「……」
  やばいムカついてきた。
  バルトよく耐えたなぁ。
  「彼からデータを抽出して」
  拘束されているハークネスを指さす。
  「な、何だとっ!」
  さすがに慌てるハークネス。
  そうですよね。
  要は頭の中を弄るようなものだ。ただ、スイッチそのものは切ってから処置するし、データそのものを消すわけではない。あくまで必要なデータをコピーするだけだ。
  移動要塞クローラーのデータを。
  説得して協力?
  いやぁ、それはないです。
  裏切られるのがオチ。
  立ち位置が違う。
  途中まで利用し合えても結局は切られるのは明白。だったらデータを奪った方が早いし、お互いに喧嘩しなくて済む。
  「あのな、お前それ結構えぐいぞ」
  「だから言ったじゃない、えぐいって。軽蔑した?」
  ケリィの目を見つめて私は言う。
  私は首振る。
  横に。
  「失言だった。お前はそういう奴じゃないもんな。そうするしかないからするだけだ、悪かったよ」
  「いいわ、別に」
  ハークネスとカロンが私の仲間だったのを彼は知ってる。
  ビッグタウンでは共闘もした。
  「なあ、ミスティ」
  「何?」
  「お前、大丈夫か?」
  「……?」
  「何か変だぞ、やらなきゃいけないことだとは確かに思うが……お前無理してないか? いや、自分でも気付いていないのか?」
  「言っている意味が分からない。私は元気だけど」
  「まあ、何だ、あとは俺らに任せろ。何か要求とかあるか?」
  「処置する前にスイッチだけ切っといて」
  「ああ、分かった。データは俺のPIPBOYに入れてから、お前のとこに転送しとく。それでいいか?」
  「うん」
  「それと、ちょっと休め」
  「分かった」
  スイッチの件。
  そうすればハークネスにしても寝てる間に何かされた程度の感覚だろう。意識がある内に処置をされたら痛むのか、怖いのかは分からないけど、良い気持ちはしないのは確かだ。
  これが私なりの、かつての仲間に対しての礼儀だ。
  「ザ・ブレイン、2人は助手。あとは任せたわ」
  「ハッ! 任されたくはないけどとっとと終わらせてメガトンに帰るわー、やぺー、俺マジ社畜ーミスティマジ鬼畜ー」
  「じゃあよろしく」
  全てを任せて私は外に出る。
  早足で私は酒場に向かった。何か飲みたい。
  「ふぅ」
  とりあえずこれで全ては済ませた。
  問題はない。
  問題は……。
  「……?」
  何だ、これ。
  何か勝手に涙が流れてきたぞ。
  どうしたっていうんだ。
  謎だ。
  通路に立ち止まる。
  幸い誰もいない。私は自分の感情に困惑して、壁に寄りかかった。手で顔を拭う。
  うん、確かに泣いてる。
  意味が分からない。
  「あれ?」
  不意に意味が、ここにいる意味が分からなくなった。
  何故ここにいる?
  私は、そうだ、パパを捜して旅をした。
  それだけだ。
  それだけだった。
  既にパパはこの世の人ではなく、なのに私は今ここで何をしているんだろう。どうして戦っているんだろう。
  疲れるだけなのに。
  「駄目だ」
  感情が分からなくなる。
  視界がぐるぐると回って立っていることすら叶わなくなる。
  涙を拭うと、私は方向を変えて宿に向かった。
  これは飲むという気分ではない。
  宿に戻る。
  カウンターにいたグールの女性、キャロルは私の異変に気付いたのか声をかけてきた。
  「ミスティ、どうかしたの? 大丈夫?」
  「ええ、まあ」
  心配そうなキャロルの声に、私は曖昧に答えた。
  大丈夫かって?
  元気。
  私は全然元気だ。
  エンクレイブを月の裏側まで吹っ飛ばしてやる。
  何でも来いだ。
  裏切った昔馴染みに容赦なく弾丸を叩き込み、非人道的な尋問を手配し、それを仲間に依頼し、敵を殺して殺して全部殺してキャピタルを救う覚悟は出来ているんだ。
  そうだ、何だって出来るんだ、私は。
  赤毛の冒険者だぞ?
  レギュレーターで、メガトン共同体の名士で、BOSのスターパラディン、ライリーレンジャーの副隊長、さらにはこの国の大統領だ。
  やらなきゃいけないんだ、全部私が。
  ……。
  ……本当に、私が?
  違う。
  何か、違う。
  「ミスティ?」
  「疲れたから寝ます」
  既に先払いしてあるので私はキャロルに軽く会釈してその場を離れ、ベッドに転がった。ポールソンたちはいなかった、起きてどこかに行ったのだろう。
  宿の外では次第に声が高まりつつある。
  BOSたちが来たのかな。
  枕に顔を埋める。
  眠たくはない。
  ただ、私はどこか虚しさに捕らわれていた。
  「ここはどこ?」
  私はここで何してる?
  パパを捜してボルト101を出た私は今どこで何をしている?
  冒険野郎は、名声の果てにあるのは虚無だと言った。
  私は否定した。
  それに関しては、今も否定しているし、旅をするそもそものスタンスが彼とは違うから理解できないまま生涯を終えることだろう。
  内に沸き起こる虚無感はそれとは違う。
  「パパ」
  私はたくさんのものを得た。
  それとは逆に、捨てなければならないこともあった。
  やりたいこと、やれないこと、やれること、やらなければならないこと、得たもの、捨てなければならなかったこと、たくさんの命を救い、奪い、たくさんの想いを受け、踏みにじり、ここにいる。
  そして私は思うのだ。
  「違う」
  そう、違う。
  私がなりたかったかった自分は、今の私ではない。
  私はどうしてここにいるだろう?
  何がしたい?
  何になりたい?
  仲間を救う為に、仲間を撃ち、尋問し、これからかつて戦友だと信じた女を殺しに行く。
  違う。
  そんなんじゃない、私がやりたいのはそんなんじゃない。
  今の私には何が足りない?
  私は……。



  ワタシハ、ダレ?