私は天使なんかじゃない
旧交は血の温もり
旧交を温める、その温かさってどの程度?
「久し振り、かな」
私はDC残骸へと舞い戻ってきた。
こっちまで来るのは実に久し振りだ。
奴隷商人の絡みでユニオンテンプルと共闘したのが最後だったな、そう考えると実に久し振りだ。まあ、ナショナルガード補給所もDC残骸の区分に入るんだろうけど長居はしなかったしノーカンで。
ともかく。
ともかく私はここに舞い戻ってく来た。
「主、問題なく来れましたね」
「ここまではね」
マキシーたちから提供されたアサルトライフルを私は構え直してそう答える。今回アサルトライフルは全員に支給されている。
決戦だし、出し惜しみはなしってわけだ。
「警戒態勢」
「御意」
テンペニータワーで集結した、三日後。
私たちはDC残骸にあるホワイトハウスを目指して移動を開始した。
軍勢で?
違う。
それぞれ少数で移動している。
とりあえずテンペニータワー地下のメトロからDC残骸まで移動し、そこからは少数で分散して移動。エンクレイブに捕捉されない為にだ。人狩り師団は地下を動き回ってキャピタル中で暴れまわっ
てたし、今回はその戦法を我々が利用させてもらったってわけだ。軍勢だと目立つから小集団で移動。ホワイトハウス、正確にはその近くにある要人専用のメトロに潜入が目的。
そこからアダムス空軍基地まで殴り込みって寸法だ。
「なあ、優等生」
「何、ブッチ」
私たちのメンバーの内訳。
当然、私。
あとはグリン・フィス、ブッチ、軍曹。他の面々は別行動。ライリー・レンジャーは一度自分たちの本部に戻るといって別行動だし、ポールソンたちも別行動、サラは動けるBOSを再招集の為に別行動
だし、メトロの面々も別行動だ。スティッキーはガンスリンガーを護衛としてNRに戻り、テンペニータワーに向かってた肉欲のサンディ大尉は結局来なかったけど、まあ、いいか。
そしてトンネル・スネークのレディ・スコルピオンはタワー集結中にどこかに消えたらしい。
何故に?
あの人も謎だよなぁ。
「なあ、何か聞こえねーか?」
「銃声かな」
「だよな」
散発的に銃声が聞こえる。
どこか遠くでだ。
スバミュがDC残骸から消えて結構経つ。非常に静かだ。だから物音が実に目立つ。
誰かが戦闘をしているのだろうか?
「ボス、どうするんだ?」
「俺に聞くなよ。今回は優等生が仕切るんだからよ。だよな? 俺は楽でいいぜ」
「主、どうしますか?」
「反響してるし出所が分からない。とりあえずは進む。予定通りに」
「御意」
それが約束ごと。
そもそも少人数で移動しているのも捕捉を避けるためだし、それはつまり戦闘を回避しつつ目的地に到着することだ。
だから戦闘は避けたい。
なるべくね。
「ねぇブッチ、私も聞きたいんだけど、彼女はどこに行ったの?」
「あん? レディ・スコルピオンか?」
「そう」
「分かんねぇ」
「でも途中まで一緒だったんでしょ?」
北部まで私を助けに来たメンツの中にいたし。
あの後で消えたってわけだ。
「あいつはあいつの理由があるんだろ、だけどそれは知らねぇ。トンネル・スネークはチームだが、それぞれが独立した人間だからな。別に問題はねぇよ」
「……」
「なんだよ?」
「いや、格好良いこと言うなぁって」
「なっ! 何言ってやがるっ!」
「……? 何故に動揺するわけ?」
謎の奴だ。
モノ言わずにグリン・フィスが無言の圧力をブッチにかけ、軍曹ははやし立てた。
「おいおいボス、レディ・スコルピオンとマキシーに殺されるぜ?」
ニヤニヤ顔。
何故に?
まあいいや。
「よお、ミスティ」
「ポールソン」
デズモンドもいる。
別ルートで移動中だった2人だ。今回はポールソンもショットガン、マグナムの方かにアサルトライフルを持っている。
「デズモンドがお前さんを見かけたんだ。なあ?」
「ああ。野郎2人で花がなかったところだ、一緒に行こうぜ」
「そうね」
私はくすりと笑い了承する。
心強い限りだ。
今のところはうまくいっている。
エンクレイブに捕捉されることはなく展開は進んでいる。どこかで断続的に銃声は聞こえるけど距離は離れている。どこで、誰が戦っているんだ?
サラはBOSを動かせるほど動かすようだけど、最終的にどの程度の戦力になるんだろ。
メトロも動いているけど今回の戦いは前回のジェファーソン決戦とは違う。
動員力は前回ほどではない。
ただ、エンクレイブ側は完全に分裂しているのが救いだ。
謎の情報提供者の言葉通り要塞のオータム派はそこにクリス派を引きずり込み、現在オータム派がクリス派を要塞に閉じ込めている状態。ここまでは正しい情報だ。ただアダムス空軍基地に
あるとされる移動要塞クローラーに関しては未知数だ。オータムが乗り込んだ、とされているけど、どうなんだろ。
展開は動いている。
刻一刻の戦況は変わっている。
救いなのは、今のところキャピタル勢力に対してエンクレイブが好戦的ではないということだ。
視界に入れは攻撃してくるって感じ。
とりあえずはエンクレイブの主導権争いが前提らしい。
私たちの故郷でね。
迷惑な話だ。
「ふぅ、うまいぜ」
煙草を吸うポールソン。
「この時代で一番良いことが何か分かるか、ミスティ? 煙草がうまいってことだ。あとは、クソみたいな世界だけどな。まっ、お前さんのお陰で悪くはない世界だけどな」
「煙草かぁ。私には分からないです」
「なあ、俺にもくれよ」
「おお、いいぜ、兵隊さん」
軍曹は煙草を受け取り、不健康の塊の煙を美味しそうに吸い込んだ。
私にはよく分からん感性だ。
「世界は変わっちまったが、煙草の味は変わらねぇ。悪くない。悪くないぜ」
「ははは。あんたと話が合いそうだな」
そういえばポールソンも軍曹も宇宙人に冷凍付けにされたって言ってたな。
近しいものがあるのか?
うーん。
「ねぇ、デズモンド、聞きたいことがあるんだけど」
「ん? 何だ?」
「あなたは移動要塞って知らないのよね?」
「移動……」
「レイブンロックで大統領が言ってた移動要塞」
「あー、二基あるとか何とか」
「それ」
「知らんよ。俺は確かに戦前生まれだが、アメリカ人ではなくイギリス人だからな。この国の軍事情報なんて知るわけないだろ」
「それもそっか」
「ほお? あんた戦前の人間か。俺もだ」
今日の軍曹はイキイキですな。
楽しそうだ。
デズモンドは彼はマジで言ってるのかと私で目で語るが、私は頷いた。軍曹は嘘言ってないだろ、たぶん。
まあ、グールでもないのに戦前生まれですと言われれば疑いもするだろ。
「軍曹は移動要塞知ってるの?」
「そんな噂は前に聞いたことがある。アンカレッジの前だったかな、パターソン大尉に聞いた。だが実物は知らないし、あるのかも知らん」
「そっかぁ」
ジョン・ヘンリー・エデン……い、あの時点では奴を演じていたクリスの可能性がある。
ともかく。
ともかく、クリスのあの話がハッタリ成分多いにしても何らかの真実はあるだろう。エンクレイブは実在しているし、本国がここではないのに大規模な動員をしているのは移動要塞もしくはそれに
準ずる何かがあるのは確かだ。アダムス空軍基地に最初からそれだけの人数がいたとは考えられない。いたのであれば侵攻スケジュールが遅過ぎる。
こちらには余力がないわけだからジェファーソン決戦の後にすぐにでも来れたはずだ。
だけどそうしなかった。
移動要塞か何か知らないけど輸送能力の格段に高い代物で乗り込んできたのだろう。
「なあ優等生、おっさんズ話が合いまくりだな」
「そうね」
「若年層の俺としては疎外感を感じるぜ」
「そう?」
「というわけで俺らはボルトネタで盛り上がろうぜ。このクアンタム・ハーモナイザーを君のフォトニック・レゾナンスチャンバーに入れるぞっ!」
「冗談じゃないっ! ……あっはははははははっ!」
「最高だな、はははっ!」
「……主」
「あははははははは、えっ?」
仲間外れだったか。
悪いことした。
「何が、面白いのですか?」
「何がって、クアンタム・ハーモナイザーをフォトニック・レゾナンスチャンバーに入れるのよ? マジやばいでしょ? あっはははははははははははははははははははははははははははっ!」
「やめろ優等生笑わすなっ! 腹がよじれるぅーっ!」
「……安心しろグリン・フィス。俺にも分からん」
「俺もだ」
「ああ、俺もだ」
なんだいなんだい戦前世代には分からないのかい。ユーモアレベルが低いですね、グリン・フィス君は。
だけどだれが考えたんだろ、このネタ。
面白すぎだ。
「ああ、あなたはっ!」
「ん?」
誰だこの男。
私のことを知っているようだが……。
「久し振りね、元気してた」
とりあえずこう答える。
誰だか知らないけど。
「ええ、あなたが奴隷市場から我々を解放してくれたおかげで、今ではリンカーン記念館でハンニバルさんのお世話になってます」
奴隷市場。
あー、偽ワーナーに誘い込まれたあの一件か。
そうか。
あの時に助けた彼か。
「それで、何してるの? 急いでいるようだけど」
「援軍を要請しに戻るんですよ」
「援軍?」
「無線は何故か封鎖されてまして……」
「ああ」
思い当たることはある。
ルーカス・シムズ市長が言ってたな、DC残骸と連絡が取れないと。
エンクレイブ側が封鎖してるんだろ。
たぶんね。
「何かあったの? 援軍って、穏やかじゃないけど」
「アンダーワールドが攻撃を受けているんです、エンクレイブって連中に。救援要請を受けてハンニバルさんはすぐにシモーネさんに部隊を預けて向かわせたんですけど、敵はあまりにも強大で……」
「それでシモーネがあなたを援軍要請に向かわせたと? もっと呼んでくるように?」
「は、はい」
「分かった」
「……?」
「私たちも行く」
「ほ、本当ですかっ! 百人力ですよ、赤毛の冒険者がいるならっ!」
「あなたは援軍を呼んできて。私たちは先行する」
「は、はいっ!」
シモーネたちの居場所を聞き、彼をリンカーン記念館に向かわせた。
おそらくハンニバルが前線に行かないのはエンクレイブの襲来を予測してリンカーン記念館から離れられないのだろう。
別にそれは悪くない。
わざわざ指導者である彼が本拠地を留守にする必要はない。
無駄に危険を煽ることになる。
少なくとも住民の心を慰撫するのに、彼がいる必要がある。
しかし……。
「シモーネが対処できない、か」
勇猛果敢な彼女が援軍を要請するのは、エンクレイブがよほど大部隊だからか、それとも装備で優り過ぎているのか、おそらく両方か。
「ブッチ」
「わざわざ言わせんな。俺様もアンダーワールドには知り合いが多いんだ。優等生がいない間に有名人になったんだぜ? ベンジー、行けるな?」
「愚問って言葉知ってるか、ボス? トンネル・スネークらしく行こうぜ」
「俺らにも聞くことはないぜ、なあ、相棒」
「赤毛さんの御心のままにってな。どうせ赤毛パワーでトラブルに巻き込まれるなら、自分から飛び込んだ方がいいからな」
「ははは。違いない」
ジョークですよね、デズモンドくん?
一同笑う。
失礼しちゃうわ、ぷんぷんっ!
「主、自分たちの居場所の為に誰もが戦っています。聞くまでもないことですよ」
「頼もしい限り。ありがとう」
私たちは先行、使いの彼はリンカーン記念館に援軍要請。
そして私たちと増援は前線へと向かう。
アンダーワールド、歴史博物館を見下ろせる崩壊しかけたビルの内部にリンカーン記念館の面々がいた。
スナイパーライフルを構えて警戒している指揮官に声をかける。
「シモーネ」
「ああ、ようやくハンニバルが援軍寄越し……何だってあんたがここにいるのよ?」
「成り行き」
シモーネたちアンダーワールド解放勢力は総勢30名ほど。
この近辺で動く人数としては多い方だ。
そして私を含めてここに来たのはさらに20名。
「手を貸してくれるってわけ?」
「うん」
「ふん、あんたらなんかの助けなんて嬉しくないんだからねっ! ……さて、エンクレイブの連中は中にも入り込んでる。で、どうする?」
「……」
そのツンデレは社交辞令か何かか?
イミフです。
おおぅ。
「どれだけ入り込んだの?」
「こっちの攻撃を物ともせずに50名ほど突入した。防御を外に残してね。そいつらだけでもこちらの攻撃をしのぐだけの強さでね、援軍待ちでここに待機してたんだ。その後しばらくしてから
敵の援軍……なのかな、そいつらが来て歩哨連中をなぎ倒して突入した。数30.。今いる歩哨は第二陣の連中だよ。で、これはどういうことなんだ?」
「派閥があって、お互いに敵対してるのよ」
「わざわざこの地で?」
「そう」
「何て迷惑な奴らなんだ」
同意します。
つまりクリス派とオータム派がアンダーワールドに殴り込みかけたのか。
何しに来たんだ、ここに何がある?
議事堂漁る拠点欲しさか?
よく分からん。
「つまりだ優等生、三つ巴になってるってことだよな?」
「たぶんね」
まだ手はある、か。
純粋なエンクレイブの攻撃力ではアンダーワールド勢ではどうにもならない。シモーネたちリンカーン記念館の面々でも太刀打ちできない。事実、足止め状態だ。
だけど内部でエンクレイブ同士で潰し合いもしている。
これは使える。
「ボス、どうする?」
「俺としては突撃しかないと思うぜ。アンダーワールドの戦力は知らないけどよ、このままじゃグレタやMr.クロウリーたちがアブねぇ。優等生はどう思う?」
「私の作戦にはガンガン行こうぜしかかないから」
「ははは、何だよ、それ」
「決まりだな」
煙草を捨てて靴で踏みつぶしながらポールソンは言った。
戦うまでだ。
中が全滅する前に。
「シモーネ」
「何だい?」
「人数貸して、選りすぐりの面々。内部に突入する。シモーネはここで待機して、援軍が来たら足止めして。まずは中を開放する」
「私に命令するな、と言いたいところだけど、従うよ。守り手の要として私を残すんだろ?」
「ええ。指揮官は必要だからね。頼むわ」
「了解だよ」
人数を25名借りる。
シモーネが選出した、選りすぐりの面々。残りはそれぞれが物陰に潜み、エンクレイブの援軍部隊が来た場合の対処。
もちろん来ない場合もある。
ただ、全員を突入するほどアンダーワールドは広くはない。人数が固まるとそれだけ戦死者が増える。
さてさて。
「全員準備は良い? 攻撃開始」
アンダーワールド解放戦、スタートっ!
シモーネたちの援護射撃でエンクレイブ歩哨部隊を襲撃。
早々に蹴散らす。
私たちは建物内部に、エントランスに突入。
喧騒に包まれていた。
エントランスでエンクレイブの両派閥、アンダーワールド内部に通じる扉の前にグールたちの勢力が陣取っていた。
三つ巴の戦闘状態。
よかった、まだ街の中には突入されていない。
敵はまだこちらに気付いていない。
背中がら空きですよ?
「なあ赤毛さんよ、どっちが、敵だ?」
デズモンドが困惑したように言った。
だろうね。
エンクレイブは分裂している、そしてこの場でもエンクレイブ同士が戦っている。アンダーワールド勢が交戦しているにもかかわらずだ。端から見たら、前情報なく見たら一部のエンクレイブが
アンダーワールド側に転んだと見えるかもしれないけど、現実はそうではない。
バリバリバリ。
アサルトライフルを私は掃射。
エンクレイブアーマーには効かないけど、全員が全員着ているわけではなく軍服兵士が大半。そいつらはバタバタと倒れた。
「どっちも敵」
「ははは、分かり易いな」
「でしょう?」
私は弾倉交換。
アンダーワールド前の防御を突破して来た私たちにエンクレイブ軍は反射的に振り返り一斉に攻撃をしてくる。
……。
……まあ、とりあえず最初の一斉射撃は私たちが無条件に入るんですけどねー。
「撃て撃て撃てっ!」
突入した全員で掃射。
軍曹が持つ軽機関砲はエンクレイブアーマーでも耐えられないのか、軍曹大活躍。
ポールソンが叫んだ。
「ミスティ、行くぞっ!」
その声に呼応するように仲間たちは戦闘開始っ!
「トンネル・スネーク、始まるんだぜぇっ!」
「了解だ、ボス」
「やれやれ。赤毛さんに出会ったお陰で教授を倒しても楽隠居できないとはな。ただ、まあ、同胞さんが多いこの街だ、助けなきゃいかんよな」
「主、あれを」
グリン・フィスが指さす。
ほほう?
ハークネスとカロンがいる。
アンダーワールドにエンクレイブの両派閥が何の用かは知らないけど、クリス側の指揮官はあいつらか。見た感じ、そう見える。
やる気出てきたっ!
「行くわよ。グリン・フィスっ!」
「御意」
私たちは戦場に突っ込む。
片手にはミスティックマグナム、片手にはアサルトライフル。
撃つ撃つ撃つ。
走る走る走る。
最初の決定的な掃射でエンクレイブ側は浮足が立っていた、それでも共闘しないとか、私たちにしてみればイージーモードだ。
「ミスティかっ! ありがたい援軍だぜっ!」
おやおや。
アンダーワールド側にパワーアーマーの奴がいる。ケリィだ。銃身が三つあるレーザーライフルを手に奮戦している。
何人か見た顔があるな。
あー、シドニーがいる。
そういえばまだ死んでなかったなー(ゲス顔)
どうしてここにいるかは謎。
ただ、アンダーワールド勢に交じって10oサブマシンガンを乱射している。私と目が合う、彼女は嫌な顔をした。
うーん。
別に私に非はないんですけどね、関係性。
まあいい。
戦闘は乱戦の体を見せてはきたけど、こちら優勢になっている。最初の掃射の後にアンダーワールド側もそれに呼応して攻撃してるからエンクレイブ側は挟まれた形となった。両派閥は
共闘できない以上はどうにもならない展開だ。何故なら両派閥は、私らと交戦しつつ、お互いに交戦もしている。こんな状況で連中が勝てるわけもない。
ハークネスとカロンは群を抜いた力を見せてはいるけど、この状況を覆す決定的なことにはならない。
何故?
私らがいるからだ。
グリン・フィスはもちろんのこと、ブッチにしても軍曹にしても、ポールソン、デズモンド、今まで修羅場を戦い抜いてきたんだ。
装備で優っているエンクレイブとて敵ではない。
喧騒は終了しつつある。
私たちは一致団結している、それに対してエンクレイブには派閥がある。クリス派とオータム派。互いに争い合っている、この期に及んでも。
もちろん争ってくれていい。
ご自由にどうぞ。
御機嫌よう。
「そこっ!」
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
六連発っ!
エンクレイブアーマーは貫通され、虎の子の連中は倒れていく。もう一方の片手でアサルトライフルを斉射、一般兵もバタバタと倒れていく。
正直、どっちがどっちの派閥かは私には見分けがつかない。
襟章が違ったりするのか?
エンクレイブはよく分かるものだ。
まあいい。
ともかく戦いは終わりつつある。
そんな中、私は戦いの中で彼らを見つけた。
弾倉の空になったアサルトライフルを捨てホルスターに差してあったミスティックマグナムを引き抜く。これには全弾入っている。
「投降しなさい」
「ミスティか」
ハークネスだ。
ピットで見たプラズマライフルを持っている。私を見てカロンはコンバットショットガンを手にしたままハークネスの陰に隠れた。
ハークネスはアンドロイドで耐久力が高い。防弾代わりかな?
無駄なことを。
「投降しなさい」
「……」
「色々と聞きたいことがある」
「……」
ちらりとハークネスはグリン・フィスを目で追った。
彼は私と離れて無双している。
撃墜王は彼だろう。
ブッチも軍曹も善戦してるし、駆けつけてくれたポールソンもデズモンドも私とは離れて戦っている。ケリィもエンクレイブーアーマー部隊に忙しい。
つまり私は孤立している。
援護は入らない。
すぐにはね。
押し黙ったままのハークネスは頭の中で色々と思案しているってわけだ。
さてさて。
どう出る?
この人がごったかえす乱戦の中で私は確かに孤立しているけど、それは彼らも同じだ。
「ハークネス」
「オーケー、分かったよ」
彼は両手を挙げた。
武器を持ったままだ。
「捨てなさい」
「分かった」
「潔い良い男って好きよ」
「そいつは嬉しいな」
手を放す。
武器が落ちていく。
「獲ったっ!」
カロンが叫びながらハークネスの陰から躍り出てくる。
コンバットショットガンを手にして。
ドン。
撃った。
私は躊躇わず銃を撃った。
それは寸分違わずにコンバットショットガンに命中、銃は破壊。そしてハークネスの右腕をもう一発撃って吹き飛ばす。
カロンはその場に蹲った。
銃を破壊した際に暴発したのか、肩から血が出ている。
「はぁ」
私はため息。
冷たくなったな、私。
いや、これは覚悟の表れか?
そうかもね。
キャピタルを護りたい、仲間を護りたいと思うから、優先したのだろう。自分の立ち位置を。
そうだ。
今の彼らは敵でしかない。
クリスチームは敵。
現に私を殺そうとしたわけだし、これは、当然のやり方か。
「動くな」
「……こいつは、容赦ないな」
「弱くなったねハークネス。エンクレイブ入りして2人してデスクワークにでも回された?」
「ふざけてろよ。お前さんが、強くなったんだ」
「ああ、そっか。そういう考えもあるのか」
強くなった、か。
つまり殺し方がうまくなったってわけだ。
確かに私は彼らを無力化することを無意識に行った。殺さずに済ませた、それも容易に。昔馴染みを始末しなくてすんで喜ぶべきか、無邪気なボルトっ子でなくなったことを悲しむべきか。
今の私にはもう分からない。
「カロン、無駄なことはしない方がいいわ。今度はハークネスの左腕がなくなる。直すのはそう容易ではないと思うけど」
「……マジかよ。なんで俺……」
ハークネスの呟きは無視する。
1人いればいい。
情報源は、何か知ってそうな奴は1人でいい。にも拘らず私は2人を捕らえようとしている。
こんなんで私はクリスを撃つことが出来るのか?
まあ、いい。
今は考えることではない。
「カロン、投降しなさい」
「クリスティーナ様に聞けっ!」
「馴染みだから殺せないと思ってたなら甘い。敵対してからこうなることは想定はしてたけど、実は想定してなかったことがある。こんなに簡単に引き金が引けるとは思ってなかった。投降しなさい」
「くっ」
「旧交を血で温めたいなら、加減はもうしない。さっきだって殺せた。能力を使うまでもなかった。さあ、どうする?」
「敵、さらに増援っ!」
誰かが叫んだ。
それと同時にエンクレイブ部隊が雪崩れ込んでくる。
ちっ。
シモーネの部隊では捌き切れないだけの援軍が来たのか。
「カロン、潮時だ。退くぞっ!」
「仕方あるまい」
その後、乱入してきたエンクレイブの増援部隊を殲滅。
どっちのエンクレイブかは謎。
クリスの方か、オータムの方か。
乱戦のどさくさに紛れてカロンとハークネス逃亡。
逃げられた、か。
私たちは陣容を整えるべくアンダーワールドで補給をすることに決定した。
近隣まで来ていた別部隊が合流してくる。
決戦は近い。
アンダーワールドの戦いから30分後。
瓦礫の山に身を隠し、ハークネスが周囲を警戒している。その陰でカロンは無線機で救援を要請していた。
カロンはスティムを使い止血されているので問題はないが、ハークネスの失われた右腕はどうにもできないでいる。それでも生き延びたことには変わりがない。彼らは撤退を模索していた。
幸い、ミスティたちは追撃を出していない。
正確には出せるだけの戦力がない。
別行動しているBOSたち連合軍の小部隊は近隣を通って移動中ではあるものの、手を出さなければ気付かれることもない。しかし時間的に余裕がないことも確かだ。
クリスは読み違えた。
キャピタルの結束力を、もっと言うのであれば自尊心を低く見ていた。
まさか撃って出るとは考えてもなかった。
「こいつら、アダムス空軍基地に向かってるな」
ハークネスが独語する。
不意を突いて移動要塞クローラーを奪うつもりだろうか?
キャピタルに暮らしていたハークネスとしてはこの流れはありえなかった。クリスが読み違えても仕方ないとすら思っている。
赤毛だ。
赤毛の冒険者がここまで纏め上げた。
彼女がそもそもいなければここまでの展開にはならなかっただろう。
いや。
ここまで展開が長引かなかったに違いない。
ジェファーソン決戦すら起こらなかった可能性が極めて高い。ピットとキャピタルが同盟を組むなんてありえなかっただろう。
何としても連絡を取らなければならない。
早く、本部に。
「くそっ!」
この時、カロンが叫んだ。
慌ててハークネスは周囲を探る。声は聞かれていないようだ。少なくとも近くを行軍中のBOS部隊は気付いていない。エンクレイブの軍服を脱いで身分を詐称するのは容易いが、あいにく
アンドロイドのハークネスは右腕を失い機械が露出している。それでエンクレイブのメンバーとは直結はしないだろうがハークネスはこの地では珍しいタイプの存在だ。
見つかれば面倒なことになるのは明らかだ。
「カロン、声が大きい。控えろよ。何だ、どうした?」
「クリスティーナ様に聞けっ!」
「……だから、そのクリスティーナ様に連絡取ってるんだろうが。で、本部は、移動要塞クローラーからは何て言ってる?」
「降伏しろと言っている」
「はっ?」
「間違いない、降伏しろと言っている。クローラーがオータム側によって落ちたと。オータム側が降伏を呼び掛けてる」
「馬鹿なっ!」
移動要塞の攻撃力、防衛力は現在の世界では最強に位置する。
エンクレイブ側の戦力の要の一つであり、全戦力から見たら移動要塞一基でエンクレイブの戦力三分の一に当たる。
それが落ちた。
偽報か?
オータム側の策略か?
「カロン、そいつは、本当にクローラーの周波数か?」
「当たり前だ。こんな時にギャグ出来るか」
「クリスティーナ様に関しては何か言っているのか?」
「いや。ただ降伏を呼び掛けている」
「……となるとクリスティーナ様はまだご無事、と考えるべきか。橘大尉が奮戦しているのか。クリスティーナ様が拘束されているのであればそれを言うはず、そう見るべきか、いや、しかし……」
「どうする、ハークネス」
「正直、俺もクリスティーナ様に聞けと言いたいよ。判断しづらい。他の部隊と合流するべきか、だが主力は要塞に足止めだし近隣の部隊は全滅だ。どうするべきか」
「では答えを言いましょう。我々に投降しなさい」
女性の声。
同時に複数の銃声がしてハークネスは数発をその身に受けた。彼はアンドロイドで、この程度では死なないものの、銃弾は重かった。
44マグナム。
カウボーイハットに、コート、保安官のような衣装。
レギュレーター。
「ソノラです。ああ、何度かお会いしたかもしれませんね、ミスティを通して。旧交を温めましょうか、我々も。アッシュ、モニカ」
『了解っ!』
2人のレギュレーターがカロンに銃を向けた。
ハークネスは理解した。
囲まれている。
レギュレーターに取り囲まれている。
「旧交を血で温めるか、積もる話で温めるか、選ばせてあげましょう。我々はどちらでも構いません」
ソノラは温かみの欠けた笑顔で、そう宣言した。