私は天使なんかじゃない






1人じゃない








  君は1人じゃない。





  「くっ」
  降り注ぐ火の弾。
  敵はゆっくり、ゆっくりと散開しながら近づいてくる。距離は800メートルほど。まだ離れている、こちらの攻撃の有効範囲ではない。
  エンクレイブの部隊と思われるパワーアーマー部隊の数は推定100。
  .私を包囲するように進撃してくる。
  パワーアーマー付属のフルフェイスのヘルメット付きなのでどいつが表情も分からない。いや、表情なんてどうでもいい。今のところ距離もあるし。問題なのはどいつが指揮官なのかこれでは
  分からないということだ。無個性の恰好しやがって。特定するに骨が折れる。相手の数が多い以上、指揮官から潰すに限る。
  まあ、口先で炙り出すか。
  問題は……。

  ドォォォォォォォォォォン。

  問題は、この火の弾の雨だ。
  「……っ!」
  近くで炎が着弾、爆ぜた。
  飛び散る衝撃と炎で私はその場に転がった。拳大サイズの炎の弾、おそらく直撃したところで死ぬことはない。ルックアウトで冒険野郎やDr.サムソンが使用したズーロンよりも
  威力は高いけど致命的にはならない。仮に直撃を受けたにしてもだ。
  私は立ち上がり次弾回避。
  炎の弾は私の周囲に降り注ぐ。
  デタラメな攻撃?
  違う。
  これは訓練された軍隊の攻撃だ。
  基本的に私の周囲に炎の弾が降り注ぐ、気が付けば周囲は炎に包まれ、岩場に逃げ込むことも出来なくなっている。さらに私を休ませるつもりもなく、当然ながら私にも攻撃してくる。
  ……。
  ……まずいぞ、これ。
  地味ではある。
  地味ではあるけど、私を確実に殺しにかかってる。
  私の攻撃の射程外から炎を撃ちつつ私の逃げ道を封鎖、そしてさらに包囲すべく部隊を進めている。
  まずいですね、これ。
  一発一発は大したことないけど、100発降り注げばミートスライムなジェリコを抵抗する暇なく蒸発させた火力となる。
  確実に私は死ぬ。
  蒸し焼きか、照り焼きかはともかくとして、死ぬ。
  それにこいつら私の能力を熟知しているとしか思えない。
  私は時間を止めれる。
  銃弾が視界に入れば自動発動、任意でも止められる。
  これは最近気付いたことだけど任意で時間を止めている時は自由に動ける。今までは命中率100パーセントな銃撃的な使い方しかしていなかったけど、動こうと思えばもっと動ける。相手
  にしてみたら瞬間移動したようなものだろう。ただ、消耗が激しく頭痛で頭がやばくなる。相手はまだ距離を保ち、かつ包囲しだしている。能力の有効時間は短い。
  逃げるにしても反撃するにしても、こいつはやばいな。
  持続時間が短い以上、使いどころが難しい。
  今使ったところで包囲を駆け抜けるには時間切れになるし、時間切れになったら頭痛でほぼ抵抗なんてできない。

  ドォォォォォォォォォォン。
  ドォォォォォォォォォォン。
  ドォォォォォォォォォォン。

  「……っ! あっつっ!」
  直撃。
  背中に圧が掛かり、その場に倒れこんだ。さらに周囲にも降り注ぐ。
  くっそっ!
  遊んでやがるっ!
  どこの古代ローマ軍だよ、火責めなんて卑怯だっ!
  「はあはあ」
  逃げ場がない。
  この囲みを突破するにはさらに相手に近づいてもらわなければならないけど、まだ30メートルはある。能力を駆使したところで勝てる状況ではない。
  ジェリコの時よりも今の方がやばいな。
  勝てる見込みがない。
  
どうする?
  どうするっ!
  「止まった」
  進撃が止まった。
  距離は20、いや、20はないか。ガチャンと音を立てて火の弾を吐き出す火炎放射器もどきを一斉にこちらに向けた。
  完全に包囲されている。
  やばいな、これ。
  相手はレイダー風情ではないということだ。
  私の退路を断ちつつ、私の動きを牽制しつつ、そして包囲して止まる、距離を保ったままで。手堅く、崩し難い。
  今までの敵とは違う。
  統制も戦略も半端ない。私を一気に殺すべく攻め立てるのではなく、緩やかに攻め立てることにより私の基本行動を逆手に取られた。まだ大丈夫、覆す手はある、機を見極めてから、という
  私の行動が裏目に出た。この包囲は完全だ、でもだからといって私にまだ余力がないわけではない。
  能力の使い方が肝になる。
  とはいえ、まずい。
  無双は出来てもこれは生き残れないのは明白だ。

  「個としての力はお前が勝っているだろう、俺の隊員よりもな。だがヘルファイヤートルーパー隊は統率を最優先する。個人の力など、統率された軍隊の前では塵に等しい」

  男だ。
  男の声がする。
  包囲網の誰だか知らないけど、指揮官が私にそう宣言した。声の出どころからしてあのあたりか、かといって判断する材料はない。
  あのあたりを優先して撃ちまくるか?
  それとも……。

  「死ね、赤毛の冒険者」


  一斉に火を噴いた。
  これ以上の能力の出し惜しみは意味がないっ!
  「Cronusっ!」
  能力発動。
  突破するには包囲が厚過ぎる、レイダー程度ならともかくエンクレイブの部隊相手では、突破は無理に等しい。
  ならば。
  ならば、能力を温存しつつ、戦うしかない。
  時間停止中は動けば動くほど消耗が激しくなる。だったら、持続時間を短くして、回数を増やすしかない。
  私はその場に倒れこむ。
  能力解除。

  
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  炎の弾は私を通り過ぎ、エンクレイブの部隊はそれぞれが炎の弾を交換した形となる。
  つまり、全員が同士討ち。
  やったか?
  起き上がり、周囲を見渡す。
  炎に包まれたエンクレイブ部隊。
  「くっそ」
  そう。
  炎に包まれたエンクレイブ部隊が、ただそこに立っていた。
  全く効いていない。

  「ヘビーインシネーターの射角を10℃下げて待機」

  エンクレイブ部隊は手にしていた火炎放射器、ヘビーインシネーターと呼ばれる炎の弾を撃ち出す火炎放射器の発射口ををわずかに下げた。
  柔軟ですね。
  私の足元あたりに狙いを定めている。
  蒸し焼きにするのか、直火焼きにするのか。
  しかも今の私の回避は想定していたとみるべきだ。あのパワーアーマー連中は全員炎に包まれている、耐火は絶対というわけだ。それが分かった上で、回避すると分かった上で撃ったのだろう。
  炎の壁が形成されてしまった。
  能力を駆使して包囲を突破するにしても、あの炎の壁は容易ではない。

  「これまでだな、赤毛の冒険者」

  さっきと同じ声。
  大体の見当はつく、あのあたりだ。問題は隊長格を始末したところでこの状況を覆せないということだ。能力を駆使すれば無双は出来る、でも勝てはしない。
  現状、私は死ぬしかない。
  今までのように隊長が私を舐め切って一歩前にでも出てくれたらいいんだけど、その様子もない。
  挑発してみるか。
  「何を以てここまでって決めるわけ? まだ能力の余裕はあるんだけど?」

  「個としての力はこちらの隊員よりも強いだろうな。ああ、さっきも言ったな。だが状況はどうだ? 我々の統率が優勢だ。これは覆らんよ。個には、限界がある」

  駄目か。
  今までの敵とは格が違う。あくまで冷静だ。こちらを見下してはいるけど、驕ってはいない。
  ふむ、覚悟は決めなきゃか。
  別に私がいなくとも世界は回る、キャピタルの未来だって別の誰かが私の代わりをするだけだ。とはいえ死を達観しているわけでもなく。

  「お前は何故戦う? 1人で何が出来る。何も出来はしない。抗って何かを変えたいのかは知らんが、1人では何も変えれない。自分の運命さえもな」

  「ご忠告感謝」
  あのあたりか。
  土壇場で舐め切って間抜けなことをするタイプではないけど、喋り過ぎだ。
  大体の位置は掴んだ。
  候補としては6人ほどいるけど、その程度なら全員殺せる。
  勝てるかって?
  微妙。
  でも一矢は報いることが出来る。
  そしてそれが出来たら形勢を逆転する可能性はないわけではない。
  限りなく低い確率ですけどね。

  「終わりだ。死ね」

  さあ、やるぞっ!
  「Cro……っ!」

  ドサ。ドサ。ドサ。

  「えっ?」
  その時、一角が崩れた。
  数人の体が、四肢が切り裂かれ転がる。生きている者もいれば動かない者もいるけど、少なくと行動不能となっている。その一角の中で1人だけ立っている敵の右肩から刃が生えている。
  これは……。
  「グリン・フィスっ!」
  「お待たせしました、主」

  「き、貴様、どこから……」

  苦悶の声。
  ああ、こいつが隊長か。
  「自分は闇の一党ダークブラザーフッドの暗殺者。隠密スキルはとっくにMAXだ」
  相変わらず意味が分からない発言だ。
  グリン・フィスは続ける。
  「撃ちたければ撃てばいい。しかしこいつも道連れになるぞ。アーマーはすでに刃で貫通している、熱は伝導してこいつも確実に死ぬ。さあ、どうする?」

  ざわり。

  空気が一変する。
  隊長は撃てと叫ぶものの、部下たちは咄嗟には判断出来ないでいる。プロの軍人とはいえ、まだまだ甘い模様。
  まあ、そうじゃなきゃ私ら全滅ですが。
  「進め」
  はっ?
  隊長をこちらに押しやり、一緒に進んでくる。ショックソードは貫通したままだ。
  いやいやいやっ!
  部下たちがやる気になったら結局一網打尽の位置じゃん、グリン・フィスもこっち来たら死ぬじゃんっ!
  何考えてんだっ!
  「ちょっ! グリン・フィスっ!」
  「何でしょう?」
  「……マジか」
  私の横に並ぶ。
  一網打尽決定です。
  おおぅ。
  「ふん。戦略としては愚劣だな。所詮1人増えた程度。どうとでもなる。プラズマピストルで撃ち殺すことだって出来るんだ。これがお前の限界だよ、赤毛の冒険者」
  「主は1人ではない」
  「何だと?」
  「主、自分がいます」
  「うん、分かってる」
  何が言いたいんだろう?
  エンクレイブ部隊はプラズマピストルに武器を変更しだしている。これなら熱の伝導云々は関係ない。たぶんプラズマの直撃に耐えれる装甲なんだろう、上官ともどもの火責めを躊躇った
  部下たちが武器魔変更をし、構えているわけだし。

  タァァァァァァァァン。

  部隊員の1人が倒れる。
  銃声?
  それとは別の音も……。
  「ジェットヘリっ!」
  GNRのものだっ!
  「主、伏せてください」
  ショックソードを引き抜き、隊長の首を瞬時に切り落としたグリン・フィスは私の頭を上から押してその場に蹲らせる。
  瞬間……。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  
  爆発音。
  無数の、爆発音。
  遠方にカーゴトラックのようなものが見える、それも5台もだ。そしてミサイルランチャーを発射する面々も。
  何者だ?
  複数のミサイルで敵は吹き飛ぶ。発射したと同時に別の者が装填済みの別のミサイルランチャーを渡し、それを受け取ったものが空になった代物を渡して弾込めさせる。
  まさに連続攻撃、連携攻撃だ。
  さすがのパワーアーマーもミサイル攻撃には歯が立たない。耐えれても2発ぐらいだろう。どこ製の、何世代目かなんて関係ない。
  エンクレイブ部隊は完全に恐慌していた。
  包囲して絶対的な立ち位置にいた蓮が奇襲を受けているのだ、完全に混乱し次々と倒れていく。抵抗も散発的で統率も崩壊している。この機は逃せない、私も行かなきゃっ!
  ミスティックマグナムを連打。

  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン、ドン。ドン。ドン。

  12連発。
  発射しただけ敵が倒れる。
  いける。
  いけるぞっ!
  「主」
  「えっ?」
  「主は1人ではありません。自分もいます、スティッキーもいます。ライリーレンジャーも、そして……」

  「トンネルスネーク最強だぜぇーっ!」

  ジープに乗って特攻してくる。
  運転しているのはブッチ。
  後部座席には軍曹、レディ・スコルピオン、軽機関砲とテンペニータワーで見た拡散式レーザーライフルを乱射して敵を蹴散らしている。となるとどっかから狙撃しているのは
  軍曹ではなくガンスリンガーか。何かガンスリンガーを敵に回したらやばい気がしてきた。彼自身特性に気付いてなかったんだろうけど、彼の能力は狙撃向きだ。
  ともかく。
  ともかく、形勢が逆転した。
  「トンネルスネークもガンスリンガーもいます。あなたの仲間はこの地にたくさんいる。決して、1人ではありません」
  「そうね、ありがとう」

  キィィィィィィィンっ!

  「ん?」
  何か跳ね返った音?
  視界がスローに……うお、危なっ!
  こっちに飛んできた弾丸を避ける。
  仲間の誤爆?
  いや、でも私はヘルなんちゃらの集団の塊から離れてるし、誤爆はないだろ。ヘルなんちゃらは炎とプラズマの攻撃だけで実弾系は持ってないし。
  まあ、自動スローになる実弾ないからやりにくかったんだけども。

  キィィィィィィンっ!

  まただ。
  何の音だ?
  「主、あれはボルト101の……」
  「スージー?」
  ボルトスーツの上にレザーアーマーを纏ったスージー・マックがハンティングライフルで敵を狙撃してる。
  あんなものではパワーアーマーは貫通出来ない。
  そうか、さっきのは跳弾か。
  私に当たったらどうするんだ。
  というか何でいるっ!
  そんなスージーを護るように赤いパワーアーマーが1人いる、あれは、アカハナか。
  「グリン・フィス、彼女も来たの? その、私を助けに?」
  「さ、さあ? 少なくとも自分は知りません」
  アマタが2人を寄越したのか?
  いや、でも、私の状況を知れるわけないしなぁ。

  「ヒャッハァーっ!」

  雄たけびを上げてブッチはジープで敵を跳ね飛ばす。
  レイダーかお前は。
  戦いは一方的だった。
  ヘルなんちゃらは確かに強かった、その統率は確かに脅威だった。しかし統率さえ乱れてしまえば?
  個としては私の方が強いと隊長は言った、そして今の私たちは連携し、統率が取れている。一見でたらめな攻撃でも完全にバラバラになってしまっているエンクレイブなど取るに足らない。
  結果、被害ゼロで私たちは勝利した。
  エンクレイブ精鋭部隊は壊滅。
  「ふふ」
  強くなったもんだ。
  私たち。
  仲間たちが駆け寄ってくる。
  ライリーレンジャー、トンネルスネーク、そして何故いるか分からないアカハナとスージー。ヘリは上空を旋回している。哨戒しているのだろう。
  「それで、どうしてここに?」
  誰に言うでもなく、私は呟いた。
  北部戦線まで一緒に拉致られた面々はいい、ただライリーレンジャーと軍曹以外のトンネルスネーク、そしてスージーとアカハナがここにいる理由が分からない。
  一同は顔を見合わせ、それからブッチが最初に口を開いた。
  「簡単な話さ。俺らベンジーに呼ばれたのさ」
  「なるほど」
  納得。
  その繋がりと過程を把握、トンネルスネークの行動は確かに分かり易い。
  それにしても……。
  「レディ・スコルピオン」
  「何?」
  「その武器、内緒じゃなかったの?」
  「ああ、メタルブラスター」
  「そう」
  「別にいい。そろそろ決着だし、連中もあたしになんて構ってないだろうし」
  「……?」
  意味が分からない。
  ただ、彼女はそれ以上言うつもりがないのだろう、黙る。
  まあいい。
  特に本筋には関係ない。
  少なくとも、今の状況ではどうでもいい話だ。聞いたところであくまで知的好奇心を満たすだけだし。
  さて、次は……。
  「久し振り、ミスティ。来ちゃった」
  「来ちゃったって……」
  スージー・マック。
  ボルト時代は特に交友があったわけではなかったけど、当時から天然でした。
  何なのこの子行動が読めん。
  「ブッチが連れてきたわけでは……」
  「おいおい、俺様だってそんなアホなことはしないぜ。第一、別々に来ただろうが。登場だって俺らはジープ、こいつは徒歩だろうが」
  「だよね」
  ハンティングライフルだけでこんなところに何しに来たんだ、彼女。
  腰に10oピストルがあるけど、軽装過ぎるだろ。
  ボルトスーツの上にレザーアーマーだけだし。
  よく生きていたもんだ。
  「ボス、自分から説明を」
  「お願いするわ、アカハナ。まさかアマタの差し金ってわけでは、ないわよね? いや、ははは、ないか」
  「その通りです、アマタさんの指示です」
  「はっ?」
  スージーを私の援護に出したのか?
  北部戦線まで?
  「いえ、ボス、少し違います」
  私の表情を読んだのだろう、アカハナは首を横に振った。
  その時、ジェットヘリが着陸する。
  ヘリにはガンスリンガーが搭乗してる。
  ふぅん。
  空中からスナイプしてたのか、揺れすらも物ともせずに狙撃、ね。単純に狙撃の腕が良いというのもあるんだろうけど、それ以上に能力のお陰だろう。
  射線が見える能力、その通りに撃てば必ず当たる、か。
  リベンジマッチは勘弁ですね。
  思ってたよりもずっと厄介な能力だ。
  「実はスージーさん、ここまで単独で来たんですよ」
  「はっ?」
  単独で、来た?
  どゆこと?
  「自分はアマタさんに頼まれて連れ戻しに来た次第です」
  「ごめん意味分かんない」
  「つまりね、ミスティ、冒険してたらここに来ちゃったんだ、私。そしたらミスティがピンチぽかったから援護したの」
  「えーっと」
  マジでここまで辿り着いたの?
  アカハナがもっと早くに追い付いていたら、ここまで来る前に連れ戻されていただろう。つまり、ここにいるってことは、アカハナはたった今追い付いたってわけだ。2人でここまで来たわけではない。
  おいおい、マジですか。
  ちょっと前まで、本当にちょっと前まで北部はスパミュの巣窟だったんだぞ。
  無茶をする。
  それに、スパミュ抜きにしてもその過程はかなり困難なはずだ。
  初期の私なら確実に死んでる。
  ……。
  ……あれ?
  もしかしてスージーって私よりサバイバル能力ある?
  すげぇ。
  「おいスージー、まったく無茶するぜ」
  同意しますよ、ブッチ。
  「と、ところでアカハナ」
  「はい、ボス」
  「あなたの部下は?」
  ここにいるのは彼だけだ。
  「スプリングベールに待機です、ボス」
  「そう」
  賢明だ。
  エンクレイブがどこまでキャピタルの街々を襲うかはわからないけど、防衛力は必要だ。ここが連中にとって、エンクレイブ同士の戦争の場であって、地元民に興味がないにしてもだ。
  「それと、ボス」
  「ん?」
  「ピットから援軍が到着しました。現在はメガトンの指揮下に入ってます」
  「ピットから?」
  良いタイミングで来たな。
  アッシャーが送ってくれた援軍、それは今回の戦争用ではなく、不安定な情勢の為の治安維持の名目なのだろう。じゃなきゃこんなに早く来ないわけで。
  「数は?」
  「50名です」
  「そっか。デューク?」
  現在アッシャーの副官の名前を口にする。
  「いえ。指揮官はルルさんです」
  「ルル?」
  誰だ、それ。
  知らん。
  「ボスは知らないでしょうね、ボスがいた時は東のレイダー掃討で出張ってましたから。何というか、掴みどころのない女性です」
  「ふぅん」
  メガトンの指揮下、か。
  アカハナの采配かな?
  キャピタルにおけるピットの窓口は駐留部隊である彼だ。気心が知れたキャピタルの勢力ならともかく、他所から来た勢力がアマタたちのスプリングベールに駐留するのはちと危険だし。別に
  否定はしないんだけど、ピット軍の基本的な前身は大抵はレイダーだ。アッシャーの地元ならいいけど遠方の地ではアッシャーの目が当然届かない。
  羽目を外して無体なことをする可能性もある。
  そういう意味ではメガトンの指揮下は良い展開だと思う。現状キャピタルの中心地だから戦力も多い。よからぬことを考える輩がいたとしても返り討ちにあう。
  「あと、補足です、ボス。各街々はレギュレーター、BBアーミーが部隊を展開してます」
  「そっか」
  なら問題ないか。
  「ミスティっ!」
  痺れを切らしてライリーが叫んだ。
  あは。
  レイブンロック前でもこんな感じだったな。
  「それで、今回はどうしてここまで出張してるわけ?」
  「前回と同じよ。迷子を捜してたの」
  「迷子」
  ライリーは肩を竦めて笑った。
  ライリーレンジャーは彼女とフォークスを含めて30名いる。いつの間にか傭兵団としての規模が増したようだ。
  「久し振りだな、ミスティ」
  「ハイ、フォークス」
  「我々も力になりに来たんだ。探していたんだよ、BOSに頼まれてね」
  「BOS?」
  「そうよ、ミスティ。もっとも、今は少し展開が違うんだけど」
  「……?」
  「簡潔に、順を追って話すわ。時間は、そうないし」
  「そうね」
  エンクレイブの再度侵攻は始まっている。
  キャピタル・ウェイストランド自体には何の用がないにしても、この地で戦争を勝手に開始している。
  それを許すわけにはいかない。
  エンクレイブ同士で潰し合っているにしてもだ。
  私たちの故郷を護らなきゃいけない。
  絶対にだ。
  「私たちはエルダー・リオンズに頼まれたのよ、あなたを連れて来るようにね」
  「どこに?」
  「ジェファーソン記念館。そこが現在のBOSの総司令本部。リベットシティにも大部隊を駐屯してなんとか戦況を維持している状態。でも、状況は変わった。そこには連れて行かないわ」
  「エンクレイブに捕捉されるから?」
  「それもある。移動中に確実に一網打尽にされる。でもそれだけじゃなくて、サラ・リオンズが口を挟んできたのよ」
  「サラが? 何て?」
  「テンペニータワーに連れてきてほしいってね。彼女もそこにいる。BOSの残存部隊を引き連れてね」
  「ああ」
  ジェファーソンにしてもリベットにしても確実に敵に捕捉されて潰される。
  だけどテンペニータワーなら?
  あそこにはメトロのマキシーたちが移り住んでる。サラがメトロに協力を申し込む為にそこにいるのかは分からないけど、少なくとも悪い立地ではない。
  地下にはメトロが広がっている。
  キャピタルに地下を張り巡らされている、地下迷宮がある。
  そこからどこにでも行ける。
  そう。
  マキシーたちの助けがあればどこにでも行ける。
  悪い手じゃない。
  「……」
  「主?」
  「皆、聞いて。どこまで、付き合ってくれる?」
  一瞬沈黙。
  それからブッチが呆れ顔で言った。
  「今更何言ってんだ? とことん付き合うに決まってるだろうが。俺らの故郷だぞ」
  「よく言ったぜ、ボス」
  「主、こう言っては何ですが、愚問ですね」
  「あはは」
  今更、か。
  確かに。
  確かにそうなのかもしれない。
  「ライリーレンジャーとトンネルスネークはそのまま陸路で向かって。アカハナとスージーは私たちと一緒にヘリで行くわ。スージーは、スプリングベールで降ろすけどね」
  「えー」
  その言い方がおかしかったのか、一同笑う。
  エンクレイブの規模とか思惑とか知ったことか。
  ここまで来たんだ。
  やってやるさ。

  「全員武器を捨ててもらおうか」

  「はあ?」
  突然現れた一団。
  岩陰だ。
  岩陰に潜んでいたんだ。
  しかしこいつらは何しに出てきたんだ、赤く雑に塗装されたパワーアーマー。こいつらアウトキャストだ。岩陰に身を潜めながらレザーライフルをこちらを向けている。
  数は推定で20程度。
  少ないな。
  まあ、理由は分かる。
  最初にキャピタルを制圧された際にエンクレイブにぼこぼこにされ、その後は護民官キャスディンと護民官マクグロウが仲違いして分裂。マクグロウ率いる分派はルックアウトで全滅。当初は
  BOSに追い付け追い越せを目的としていたようだけど、現在は完全に時流に取り残されている、それがOC。どうでもいいんですけどね、特に関わりないし。
  「忙しいんだけど?」
  私が答える。
  実際忙しい。
  ロートルな連中を相手にしている理由はない。そもそも何でこんな展開なんだ?
  エンクレイブに付いた?
  それはないか。
  もしそうならさっきの時点で援軍として参戦してたはずだ。
  私らを怪しんでいるのか?
  「ミスティよ」
  名乗る。
  知らない故だと思ったからだ。それなりにネームバリューがある。まあ、私的にはどうでもいいんですが。
  ただ名前で引き奴もいる。
  それを期待した。
  もっとも、余計な厄介を招くことが多数なんですけども。
  「知ってるよっ!」
  「ああ、そうなんだ」
  知ってて狙うか。
  となるとエンクレイブの援軍だけど、出遅れた的な感じか?
  「何が御用?」
  「お前はBOSの規範を踏みにじったっ!」
  「はあ?」
  「リオンズの爺は確かに本部の意向を否定した、だがそれでもBOSの規範は護ってたっ! なのに今じゃこの地に国を築く気でいる。本部を無視してだっ! そんなこと許されるかっ!」
  「私に言われても」
  「どうすんだよ優等生、やっちまうのか?」
  「うーん」
  手っ取り早いけど、問答無用で叩き潰せばエルダー・リオンズは良い顔をしないだろう。私を責めないにしても、あまり良い思いはしないだろう。何しろ元部下だ、OCは。分派したとはいえ
  今日まで住み分けてきた、抗争はしてこなかった。おそらく意識的に。
  「誰も撃たないでよ」
  宣言。
  ドンパチしてこちらが傷付くのは嫌だ。
  相手は?
  知ったことではない。
  知ったことではないけど、喧嘩せずに終われるならそれに越したことはない。
  「そっちの責任者は?」
  「俺だ。キャスディンだ」
  「どうも」
  ヘルメット被ってるから顔は分かんないけど、とりあえず初顔合わせだ。
  そして御機嫌よう。
  「Cronus」

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  スローに、更により純粋に時間が止まる。
  2丁のミスティックマグナムを引き抜き、12発、全弾発射。
  そして……。
  「解除」

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  12丁のレーザーライフルが爆発した。
  何でだろ。
  手入れが悪いのかなー?
  爆発組はその場にひっくり返った。死んでないだろ、たぶん。いきなり戦力が半減したOCの生き残りは明らかに浮足立っている。
  「撃つなって、お前が撃ってんだろうが。物騒な時代だぜ、まったく」
  軍曹のぼやきが聞こえたような。
  「キャスディン」
  「……」
  「死んだ振りするなら今度は頭に叩き込むわよ」
  「よ、よせ」
  「もうあんたらに居場所はないと思った方がいいわ。キャピタルはキャピタルでやってく。そこにエンクレイブの新型装備がたくさんあるでしょ、それ持って西海岸に帰りなさい。敵対するなら今度は潰す」
  「わ、分かった」
  余計な手間を食った。
  時間は少ないんだ、有意義に使わなきゃ。
  「そろそろ行くわよ、みんな」



  テンペニータワーへ。