私は天使なんかじゃない
Vジーン計画
受け継がれし悪魔の力。
「ほほう。これはこれは珍しい客が来たものだ。どうやったらお前をここに招待できるかと、頭を悩ませていたんだがね」
「あんたか」
レッドアーミーが拠点とするアンテナ基地の屋上。
拠点、と言っても既に内部は墓場そのものだった。正確な経緯は分からないけど西海岸から大佐にくっ付いて来たナイトキンたちと、ここ東海岸で拾われたスパミュたちが抗争を
繰り広げ、私たちが入った後は既に双方共倒れ状態だった。屋上から見える景色もまた、レッドアーミー終焉を予言している。
北部戦線総崩れ。
こちらに向かってスパミュ軍は撤退して来てる。
遠い地平線にはエンクレイブが展開してる、ここから見るだけでも大部隊だ。
勝敗は決してる。
それは別にいい。
謎解きもせずに勝手にレッドアーミーが壊滅状態なのも別にいい。
決着は既に時の問題。
だけど……。
「あんたが神ってわけ?」
「ああ」
そこに、奴はいた。
私、グリン・フィス、ミニガン持ちのアンクル・レオにも動じずにその男は立っていた。
レザーアーマーに身を包み、2丁の10oサブマシンガンを手にしている。
チョイスは悪くない。
2丁のサブマシンガンの弾幕は圧倒的だ。
……。
……まあ、私らに通用するかと言えば微妙ですけどね。
能力持ちの私とグリン・フィスは回避できるし、普通のスパミュより遥かにタフなアンクル・レオは耐えれる。
さて、相手するか。
神の。
「ジェリコ」
そう。
屋上に立つのはジェリコ。
ミカヅキとの通信の話を総合すると、こいつが神ってことだろう。
テンペニータワーでは人狩り師団の食客だった奴が、わずかな期間でレッドアーミーを統括する神とはね。
人生は不思議の連続だ。
「どうしてここにいるの?」
色々と憶測は出来る。
テンペニータワーで逃亡した後にここで拾われた、ということか。たぶんミカヅキに。
「しかし生きてたとはね」
「けっ。死んだと確信を持っていたか?」
「全然」
「だったら当たり前な質問はしないことだな。時間の無駄だ」
「そりゃ失敬」
アンソニーの体を融合という形で取り込んだ奴だ。
見た目は人間だけど、はっきり言って存在そのものはスパミュよりも厄介だ。ボルト87で改造されたこいつは能力者と化している。放射能を取り込むことで再生する体。全面核戦争から
200年とはいえ未だに世界は放射能に蝕まれている。この世界はこいつにとって無尽蔵のパワー供給元ってわけだ。
まさかこいつがここにいるとはね。
厄介なことだ。
「感動の再会だな」
「そうね」
こいつは頭だけになっても死なないだろう。
どう殺す?
まあ、頭を吹き飛ばすしかないか。
それでも死なない場合は面倒だけで粉々にするしかない。とはいえエンクレイブが謎の停止をしているけど、あまり時間があるわけではない。連中が雪崩れ込んでくる前には片付けないと。
「しかし間の悪い時に来たものだ」
「間が悪い?」
エンクレイブのことか?
確かに連中が到達するのも時間の問題だ。
「ここにタロン社の連中がいる。そいつらは何とか生き延びたくてな、エンクレイブ側と何らかの交渉をしてる。交渉案が何かは知らん。だが、何故エンクレイブが軍を止めたと思う?」
「……」
「おかしいだろ? 一気に踏み潰せる戦力があるのに」
「確かにね」
つまり内通の結果、軍を動かすことなくここを制圧できるってことか?
分からない。
どんな策があるのか。
「それにしてもあんたが神ってどういう冗談?」
「確かにジョークだな。ナイトキンどもは操れなかった、俺の精神感応では、知性がある連中は制御できないようだ。結果、連中は従がえないと反旗を翻した。俺の見た目が人間、というのもあるんだろな」
「精神感応?」
何だこいつ、テンペニータワーの時より厄介になってる?
何をしたんだ?
「どうやってお山の大将になったの?」
「そいつは後のお楽しみだ。言っておくが俺を殺さないことには、ここからは出られないぞ」
「終わらせるわ、力尽くで」
「力尽く、か。面白いっ! 試してみるがいい。お前の、力尽くというやつをっ!」
私は銃を構える。
出し惜しみはしない、最高の威力を持つミスティックマグナムで仕留める。
だが私より先にジェリコが吠えた。
「よくここまでやって来た、歓迎してやるぜっ! とりあえずこいつがあいさつ代わりだっ!」
「回避っ!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドっ!
激しい銃撃音。
奴が手にしている2丁の銃oサブマシンガンが大量の弾丸を吐き出す。
普通ならこれで終わる。
普通なら。
私は弾丸が見える、回避しながらミスティックマグナムを叩き込む。ジェリコの足や腕にそれは直撃し、四肢を吹き飛ばすもののすぐさま再生し意味を成さない。
それにしても、吹き飛ばすと視覚的には面倒ではある。
ぐろい?
いや、そうではなくて、吹き飛ばした衣服までは当然再生しない。吹き飛ばすほどに変態チックな格好になってくるというわけで。
嫌だなぁ。
さて、その頃私のお仲間はというと。
「……」
無言で走り回り、弾丸を回避するグリン・フィス。さすがに接近できる弾丸の量ではないから45オートピストルでちまちまと反撃している。……普通は回避出来る弾丸の量ではないという
突っ込みはなしの方向で。どういう鍛え方してるのかは知らないけど彼も大概デタラメですな。なお反撃はなかなか当たらない模様。銃の腕は、まだまだだ。
最後に気の良いスパミュの友人はというと。
「タタカイダイスキっ!」
おいおい、何か退化してません?
野生に理性が負けてますぜ。
10oサブマシンガンを物ともせずにミニガンで撃ち合ってる。
彼もまた、他のスパミュと比べると大概デタラメなスペックだなぁ。
ただ、今回はジェリコもデタラメ。
教授め、どんな改造したんだ?
完全に不死身じゃないのか、あれ。
私とアンクル・レオの攻撃で……グリン・フィスは命中率低いので除きます……ミスティックマグナムとミニガンの掃射でミンチになっているはずなのに、五体満足で立っている。
いや、ミンチにはなっているのだ。
だけどすぐさま再生するので攻撃の意味がなくなってしまっている。
……。
……ああ、わざわざ言いたくはないですけどジェリコは既にマッパな状態です。
嫌だなぁ。
「ちっ! 弾切れか、しょうがねぇなっ!」
そう言ってジェリコは10oサブマシンガンを捨てた。
あの銃弾のシャワーの中でも反撃してくるとはね。もっとも、弾切れ以前に10oサブマシンガンはボロボロとなっている。当然といえば当然の結果かな。
ガシャン。
10oサブマシンガンが床に転がった。
ジェリコは素手。
さらに言うなら全裸マン。変態です。
目のやり場に困る。
「なるほど。相変わらず、やるな。自ら力尽くというだけのことはある」
「他に処方箋知らないだけ」
私のコマンドには叩きのめすしか基本ありません。
「くくく」
「……? 随分と楽しそうね」
テンペニータワーとは様子が違う。
世界がつまらない。
あの時そう言っていた。分からなくはない。今の彼の状態からすると、確かにチート過ぎて世の中がつまらないだろう。あと、私がキャピタルを良い子ちゃんの世界にしただかで逆恨みしてた。
だけど今はどうだ?
心底楽しそうだ。
「何か良いことでもあったの?」
10oサブマシンガンが沈黙した今、グリン・フィスの接近戦を阻むものはない。彼は抜刀の姿勢で待機している。私の指示で、もしくは私の話が終わり次第斬りかかるのだろう。
殺気が凄い。
殺る気満々だ。
「主」
「ん?」
「油断なさらないようにお願いします」
「どういうこと?」
「主は先ほど出し惜しみなく戦っているように見受けられました」
「ええ。それが?」
ジェリコはニヤニヤしている。
「何故頭を砕かなかったのですか?」
「えっ? あっ」
そういえばそうだ。
狙わなかった、わけではない。
当然狙った。
私の射撃能力、能力を使ったと言えども必ずしも命中率が100%ではない。外れていたということもあるだろう。だけどアンクル・レオはミニガンだぞ。頭に一発も当ってないなんてあるか?
ありえない。
弾丸をジェリコに叩き込んだ限り防御力は普通の人間でしかない。
頭だけ石頭なのか?
ふむ。
試してみるか。
ドン。
頭を吹き飛ばす……はずだった。
「はっ?」
「良い火薬を使ってるな」
こいつ食いやがったっ!
大口開けて弾丸を食いやがったっ!
「ああ、それで頭は無事なのか」
「そういうことだ。全部食った」
弾丸の軌道を見ることは、ストレンジャー事件の報告書を見る限り特に特別ではないようだ。ガンナーとかいう奴は見えてた、らしい。
ジェリコも見えていたとしてもおかしくない。
だからこそ弾丸の軌道に口を移動して食っていた、のだろう。
「器用なことをするのね」
「器用?」
クククと含み笑いするジェリコ。
まただ。
また笑った。
印象がやはり変わってる。
楽しんでるんだ、こいつ。
「随分と楽しいそうじゃないの」
「悟ったのさ」
「うん?」
「神になったんだ、てめぇを殺すだけじゃつまらねぇ。世界を元に戻す? それもつまらねぇ。この世界を好きにするのさ、この、俺がな」
「ああ、そうですか。好きだけ弾丸でも食べて喜んでなさいよ」
「そんなくだらねぇ事じゃないさ、この口はな」
「……?」
「イーター……アンソニー・ビーンとか言ったか? 奴は自分の能力に気付いていなかったよ、お前らにしては幸いだろうがな」
「どういうこと?」
「奴はどんな対象も食あたりなく食える能力だとでも思ってたんだろうな。それはそれで間違ってない。だが真髄はそこじゃない。食った能力者の能力を取り込めるんだよ」
「……」
私は一歩下がる。
マジか。
食われるのが怖くて下がったわけでは……いや、それはそれで当然嫌だけど……私が警戒しているのは、私の能力だ。
タワーでアンソニーに私は指を食い千切られた。
咄嗟に叩きのめして指を吐き出させ、戦いの後でBOSに縫い付けて貰い、事なきを得た。現在指は普通に動くし特に支障もない。だけど、少し本来の長さが違う。
つまり一部は食われた。
本当に一部だけど。
ジェリコはアンソニーを取り込んでいる、そのお蔭で肉体をほぼ失った状態からここまで逃げられた。
私の一部を食ったアンソニーを取り込むことによりCronusの能力を得ているのであれば。
非常にまずい。
「安心しろ」
奴は含み笑いをする。
そして続けた。
「てめぇの能力は取り込んでねぇよ。どの程度食わなきゃならんかは知らんがな、あの程度では駄目だ」
「随分と、余裕ね」
ハッタリか?
本当は取り込んでいるんじゃないのか?
見極めなくては。
仮にCronusを取り込んでいたにして、私もCronusが使えるんだ、対抗する手段はある。
「面白いモンを見せてやる」
ずりゅ。
「はっ?」
何だ、あれは。
ジェリコの肉体から肉の蔦が……いや、触手が生えている。
「くっ! ハレンチなプレイをっ!」
いやいやグリン・フィス君、何言ってんのっ!
エロかお前は。
「何、それ?」
「ザ・マスターを知っているか?」
「ええ」
西海岸に昔いた、初めてスーパーミュータントを組織化した奴だ。どんな奴かは知らないけど、この間ハロルドに聞いたから予備知識はある。
確かボルト13の男に倒されたとか何とか。
この放射能の世界でスーパーミュータントこそが次世代の種だと信じて行動していたザ・マスターではあったけど、最終的にボルト13の男にスーパーミュータントには生殖能力がなく、次代には向かえ
ないその場限りの存在だと論破されて自爆したとか何とか聞いたな。そして自爆したそいつが何故か今も存在していて、この間までカーティス大佐の中にいたことも知っている。
ふん。
大体言いたいことは分かってる。
「あんたが今の寄生先ってわけだ」
あの触手はザ・マスターの力ってことなのだろう、多分。
前回はああいう攻撃してこなかったし。
「そんなことはどうでもいいのさ」
「どうでもいい?」
「ああ」
どういうことだ?
「別に伏線とか、展開が大きくなったとか、過去作品だとか、そういうのはどうでもいいんだ」
「訳の分からんことを」
「話は簡単だ。カーティスから奴は俺を寄生先に変えた。そう、能力を食える俺にな」
「……食った?」
「そういうことだ。俺が、取り込んだ」
「ふぅん。過去作のラスボスっていうのも大したことないのね」
「ほらぁっ!」
「ちっ」
触手を無数に伸ばしてくる。
私はミスティックマグナムを2丁乱射。
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
12連発っ!
肉の触手ごと奴の肉体を粉砕する。受けるごとに後ろに後退するものの、奴は瞬時に再生する。
ちっ、中々めんどいことだ。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。
ミニガンの掃射。
だがジェリコは小うるさそうに右手を払う。その瞬間、右腕は伸び鞭のようにアンクル・レオの体を打ち付けた。
「ぐあっ!」
タフな友人は大きく後ろに吹き飛ぶ。
どんな攻撃力だ。
「はっ! その気になれば俺は触手でボルトの扉の開閉だって出来るんだぜっ!」
何のカミングアウトだ?
伸びた腕は軌道を修正して私に迫ってくる。
弾丸は装填していない。
「Cronusっ!」
「能力は、ダーメっ!」
「……っ!」
頭が割れるように痛いっ!
こいつぅっ!
何かの能力を使っているのか、それが何かは知らないけど、能力者は任意能力同士は互いに相殺し合い、発動しない。いや、正確には発動するけど、それにはこの割れるような頭痛に耐える必要がある。
私はその場に膝を付く。
痛みは苦手だ。
ジェリコの腕が迫る、ジェリコの腕が……。
「斬っ!」
鋭い斬撃が腕を両断。
グリン・フィスだ。
さらに同時にミニガンが、ミニガン本体がジェリコの頭に直撃した。あれは痛そうだ。痛いじゃ済まないか、奴の首は完全にへし折れている。
「ふん。ミュータントにしては、しぶといじゃねぇか」
ゴキ。
自分で自分の首の位置を戻しながらジェリコは笑った。
腕はもう戻っている。
こいつどう殺す?
「主、連携して戦うべきです」
「そうね」
それぞれが独立して攻撃しているのでは効率が悪い。
体引き裂いてグレネード弾でも体内に叩き込んでやれば爆散して死ぬかもな。
試してみるか。
「お前ら、先に絶望を与えてやろう」
「まだ奥の手があるの?」
ハッタリだろ。
さすがに。
「てめぇらは強いよ、今の今まで生き延びて来ただけはある」
「そりゃどうも」
「だがこの程度では本当の俺を倒すことなど不可能。俺が取り込んだのがザ・マスターとかいう化け物だけだと思っているのか? いかにボルト87で強化されていようとも、あんな化け物を生身で
抑え込むなど無理というものだ。俺はカーティスなどと同じではない、寄生などされていない、抑えこんでいるのだ。そう、力尽くでな」
「何を言って・・・・・」
「茶番終わりだっ!」
ジェリコは大の字に体を広げる。
……。
……念の為言いますけど、奴は全裸です。
全身セクハラ男です。
嫌だなぁ。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
肉体は隆起し、肥大し、大型化。
皮膚は青くなり硬質化。
そして背中には巨大な、四つの白い翼が生えた。
「はあ、はあ、はあっ!」
「何その翼……まさか、変身……?」
ありえない。
ありえない。
ありえないっ!
今まで確かに化け物とは戦ってきたけど、変身なんて、あるはずがないっ!
それは既に放射能というレベルじゃない。
何だ、こいつ。
何なんだっ!
「教授は、あんたに何したわけ?」
「教授? 奴がしたのは放射能によって再生する肉体って奴だけだ。先に行っておいてやる、ミカヅキさ」
「Dr.ミカヅキ」
「ああ。奴がこういう体にしてくれたお蔭で、ザ・マスターを取り込む下地が出来たのさ。じゃなきゃカーティスの様に人形だっただろうな」
「あいつは何がしたかったわけ?」
視線を交差させながら私は弾倉を交換。
はっきり言うけど、手持ちの武器でどこまで通用するやら。
ミュータント、サイボーグ、アンドロイド、何でも来いの戦いをしてきた私だけど、ジェリコは完全に別のカテゴリーだ。
これこそ化け物だ。
本当の意味で。
普段は人間形態で、その気になれば化け物になる?
今までそんなのいなかった。
いてたまるかっ!
「全面戦争の時代、アメリカは人の遺伝子に別の生命体の遺伝子を組み込んで、兵隊を化け物に変えるおぞましい研究をしてやがったらしい。ビッグエンプティでな」
「ビッグエンプティ」
「んん? 知っているのか?」
「科学の墓場」
「そう。そこだ。ミカヅキのような頭のイカレタ科学者たちを使って研究してやがったのさ」
つまり奴はビッグエンプティの科学者?
そこにグリゴリの堕天使がいる?
ジェリコは続ける。
「Vジーン計画。そう呼ばれていた計画が、こうして遥かな年月を越えて完成したのさ。そう、その結果が俺だ。俺を無敵の存在に変えてくれたってわけだっ!」
「Vジーン計画?」
「こいつはミカヅキからの受け売りなんだがな、バイオ・テクノロジーで人間を生きた兵器に変える、それがVジーン計画だ。その計画の中生み出されたのが、変化の源となるメタモーフ細胞だ。メタモーフ
細胞の中には人間以外の遺伝子が組み込まれ癌細胞よりさらに猛烈な速度で増殖する。兵器の性能を上げる為、古代生物の細胞を再構築して使ったこともあったらしい。つまり」
「つまり?」
「俺こそがっ! 神なのだっ!」
「……」
これは、何の冗談だ?
放射能で再生する体。
能力者を食らうことでその能力を取り込むことが出来る、能力。
ザ・マスターを吸収。
そして人を化け物に変えるVジーン計画の産物。
……。
……デタラメすぎる。
こいつが神だとは言わないけど、それに近いものではあるだろう。
神だろうが悪魔だろうがどっちでもいい。
ただ、こう言える。
化け物だ。
スペックだけ見たら私らを完全に超えている。
どう倒す?
いや、どう切り抜ける?
「さあ、どうする?」
「どうしようかしらね」
「イーターの能力を取り込んだお蔭で俺は能力者を食えば食うほど、その能力を頂ける。ザ・マスターのお蔭で頭の程度の低い連中は意思1つで操れる。……まあ、あの青い連中は無理だったがな」
青い連中、ナイトキンだろう。
なるほど。
ナイトキンの知能は高いから操れなかったのか。
だとすると連中は西海岸からカーティス大佐に自由意志で従う形でここまで来てたというわけだ。
ジェリコでは無理だった、というわけだ。
それであの内部抗争か。
よくも分からないヒューマンに従えれるかってことなんだろう。
「自慢はそれで終わり?」
「可愛げのない女だ」
「あんたに可愛いって言われるのは嫌だから、そう言ってもらえて光栄ね」
「ふん。まあいい。すぐに吠え面掻くさ。ボルト87で得た再生の力、ミカヅキの野郎から得たVジーン計画による変異した体、まさに無敵じゃねぇかっ!」
来るっ!
喋り過ぎだ馬鹿め。
私ら3人で連携するならば、勝算はあるっ!
ドドドドドドドドドドドドドドド。
その時、銃撃音と激しいローターの音が響いた。
私たちを影が覆う。
「主、あれをっ!」
「スティッキーたちか」
ジェットヘリだ。
軍曹が上空から軽機関砲でジェリコを蜂の巣にしている。これは予想していなかった展開だ。ただ、人間バージョンでもミニガンにすら耐えたんだ、時間稼ぎにしかならない。
私が動こうとした時……。
「ミスティ、行け」
「アンクル・レオっ!」
「俺じゃあれには乗れない。あいつを取り押さえているからその隙に行け。大丈夫、また会える。フィス」
「承知」
「逃げれると思っているのか、てめぇらっ! 俺の背中を見てないのか? 知れ、空すら俺の領域だとっ!」
その瞬間、アンクル・レオが飛びかかる。
力任せに押さえつけた。
「行けっ!」
「主、お早くっ!」
ヘリがタラップを下ろす。
私は一瞬迷うが、迷いを断ち切った。アンクル・レオの行動を無駄には出来ない。彼は決して浅い考えの持ち主ではない、それが最善だと判断したのだ、私はそれを尊重しなけれりばならない。
躊躇えば、それは彼の好意を無駄にすることだから。
タラップを私は掴む。
続くグリン・フィス。
上から声が降ってくる、ガンスリンガーだ。
「急げっ! 逃げ出す潮時だっ!」
あれから皆で私たちを救出するタイミングを伺っていたのだろう。
感謝。
昇りながらちらりとアンクル・レオを見る。
落ちているミニガンでジェリコを、化け物を乱打している。激しいラッシュでジェリコの抵抗を力尽くで抑えている。
軍曹の銃撃は止んでいる、アンクル・レオを攻撃しない配慮だろう。
彼自身はアンクル・レオを知らないわけだけど、この場で私の撤退の為に行動しているわけだから私の仲間と判断しているのだろう。
「主」
「ええ。分かってる」
ガンスリンガーの言う通りなのだろう。
逃げ出す潮時だ。