私は天使なんかじゃない
放射能の王
生きることに飽いた、破滅主義者。
「撃って来い。攻撃できる内にな」
「そうさせてもらう」
バリバリバリ。
アサルトライフルを私は掃射。
ジェリコを蜂の巣にする。
……。
……何を考えているんだ、こいつ?
普通なら死ぬ。
いや、正確にはもう死んでいるはずだ。さっきも蜂の巣にしたわけだし。にも拘らず生きている、傷が癒えている状態で。
手は抜かない。
一気に蹴散らすっ!
「こんのぉーっ!」
グレネードランチャー発射。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
直撃。
かなり広いフロアだから私も巻き込まれるということはない。
左腕で顔を覆って爆風を防ぐ。
爆風で視界は失われているけどアサルトライフルのいるであろう場所に残弾を叩き込む。
「終わり?」
弾倉交換。
数歩下がって間合いを取る。
爆煙が晴れていく。
「マッチョエキースっ!」
ちっ。
晴れた煙の向こうではマダム・マッスルの筋肉が倍加していた。
マッド・マッスルやイヴ同様にその手で来るか。
面倒なことだ。
中華製ステルスアーマーの奴は姿が消えていた。攻撃はジェリコに向けてのことであり、ステルス野郎は巻き込まれて消し飛んだわけではないはずだ。
「おいおい、この程度か?」
「嘘でしょ」
ジェリコがいる。
服の残骸を纏った状態で立っている。
損傷はない。
無効化しているのか?
そういう能力?
「あんた化け物?」
「おい。能力者のお前にそんなことは言われたくないぞ」
「……あー、そうですね」
思わず苦笑。
確かに私は私で人類規格外だ。
忘れてました。
反省。
「あんたも能力者だったわけ?」
「俺は……」
「やっぱいいや」
バリバリバリ。
頭をアサルトライフルで撃ち抜く。
吹っ飛んだ。
無効化ってわけではなさそうだ。
ドサ。
崩れ落ちるジェリコ。
これで終わりだろ。
ついでにダメ押しで攻撃しておくか。
グレネード弾を装填。
はい発射ー。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
お終いお終いってね。
死んだろ。
ブワッ。
煙を裂いて物体が飛び出してくる。
マダム・マッスルっ!
「順番通り戦うって思い込んでない? 悪党だよ、私たちは」
「……っ!」
膝打ちがお腹に入る。
ライリーレンジャー製の強化アーマーへの直撃だからダメージは軽減されるけど衝撃までは消えない。ぐえっと美少女らしくない声を出しながら私は吹っ飛ばされた。
床を転がる際にアサルトライフルを手放してしまう。
「はっはぁーっ!」
全力ダッシュしてくるマダム・マッスル。
私はまだ立ち直れない。
仕方ない。
「Cronusっ!」
能力発動。
時間がスローになって行く。素早くミスティックマグナムを一丁引き抜いて引き金を引き、能力解除。
死んどけっ!
ドン。
「ちぃっ!」
舌打ちをしつつマダム・マッスルは横に転がった。
回避された。
連続攻撃っ!
ドン。ドン。
「……後ろの正面だーれだ……」
「……っ!」
ぞくっとする。
後ろから誰かが私を抱きしめ、後ろ髪を手で撫でた。
ステルス野郎っ!
肘打ちを叩き込み、銃を向けるも呻き声一つ残して姿が見えない。
くそ。
面倒だぞ、かなり。
マダム・マッスルはファイティングポーズを構えながら不敵に笑う。
たぶんあのポーズが格好良いと思っているのだろう。
ださいっす。
「弟の仇、取らせてもらうよっ!」
「勝手に襲われたのですが」
「雑言っ!」
「マジっすか」
問答無用ですか。
嫌だなぁ。
だけどイヴたちに付いては今言及しなかったな。やっぱり自身のクローンだから希薄な感情なのかな?
「待てよ」
「ああ、まだやるの?」
「俺の獲物だ」
ジェリコだ。
完全に衣服が吹き飛んだ状態だけど傷はやはりない。
ケリィの一件で一度バラバラにされたのに生きているんだ、別に驚く気はない。あの報告書の真偽は疑ってたけど、どうやら正しいらしい。
「あんた不死身?」
「かもな」
「かもなって……」
「どの程度のダメージまでなら生きていれるかは俺も知らねぇよ。そういう意味では、かもなとしか言えんだろ。ええ、赤毛の冒険者さんよ?」
「まあ、そうね」
もう1人の姿が見える敵、マダム・マッスルを私は見る。あいつはあいつで油断ならない。
マダム・マッスルは後ろに下がり腕組みしている。
今度こそ。
今度こそ邪魔するつもりはないらしい。
ステルス野郎は姿を消したままだ。
逃げた?
いやぁ。ここにいるだろうなぁ。
「ジェリコ、あんたは何なの?」
ミスティックマグナムの弾丸を装填しながら、私は油断なく奴を見る。もう一丁を引き抜いて出方を伺う。
奴は不敵に笑う。
全裸で。
……。
……その、ぶら下げた状態で悪役っぽく不敵に笑っても恰好良くないんですけど。
そして目のやりどころに困るんですけど。
目が腐る。
「どうした、赤毛の冒険者。俺が怖いのか?」
「ううん、きもい。ぶらぶらさせないで」
19歳です、私。
まだまだ清純派なのです。
仕方ない。
ドン。
股間を撃ち抜く。
ヒャッハァーっ!
汚物は消毒だーっ!
「うわぁ。これは痛そうだ」
「……GJ……」
マダム・マッスルの半ば同情と、半ば嘲笑の声。
姿が見えないステルス野郎の呟きも耳に届く。何故か称賛でした。
この世の終わりのような顔をしたジェリコは膝を付き、両腕を高く上げて吼えた。
「くわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
そんなに痛いのか?
めんごめんご(適当)
これで視覚的に楽になった。
カッ。
突如ジェリコの体が淡く光る。
そしてPIPBOY3000がけたたましく鳴った。これは、ガイガーカウンターが反応している?
「くふぅーっ!」
「なっ!」
ぬちゃ。
嫌な音を立てて股間が生える。……嫌な表現だ、生えるなよ、そんなもん……。
再生、した?
「はあはあ、さすがに股間だけ再生させるのは、初めてだよ。この、クソ女がっ!」
「……」
確かに。
確かに再生している。
その、キモイのが。
トラウマになりそうだ、清純派なのに(号泣)
「約100秒あれば完全再生するんだがな、今回は一気に再生させてもらったよ。てめぇには分かるまい。この痛さと喪失感がっ!」
「……分かるわけないでしょうよ」
分かってたまるか。
アホが。
だけど別のことは分かった。
ジェリコは放射能を発生させて再生させた、ということだ。もしかしたら再生したら放射能が出るのか?
さっきまではそんなことはなかったし、奴の言葉を肯定すると、一気に回復させるには放射能が放出される、ということなのだろうか。
そしてもう1つ分かったこと。
「あんた能力者か」
「ああ。そうさ」
「なるほどね」
これで異常なまでの耐久力が分かった。
能力の種類が分からないけど、再生とかそんな類かな。
「餓鬼はどこにいる?」
「餓鬼?」
「ランプライトの餓鬼どもだ。俺をこんな体にした連中だよ。殺してやりたかったが、出た時にはもういなくなってたからな」
「全員卒業したのよ」
「そりゃ残念だ。復讐してやろうと思ったのによ」
色々と分かってきたぞ。
マクレディ前市長はランプライトを攻撃してきたジェリコを殺人通りに縛って捨てた。それをボルト87のスパミュどもが回収し、教授が能力者もどきにしたのだろう。ボルト87にもその類がうようよしてたし。
なるほど、そういうことか。
「世界がつまらないってそういうことなのね。チートみたいな能力だし。でしょ?」
「チート? 楽ではあるが死ねない体に意味なんてあるのか? いや、限りなく不死に近い体か。限界は知らんよ」
「能力の名前は?」
「Rad Regeneration、ボルト87の奴はそう言ってたよ」
「へぇ」
「俺は放射能を吸収することで再生する。微量の放射能でいい。そして蓄積した放射能を放出し、それを吸収することでさっきのように瞬時に再生することも可能だ。放射能は別に蓄積しなきゃいけ
ないってわけではないがな、緊急時の今の時のように常に一定以上は帯びているようにしている」
「ネタバレしていいの?」
「言ったろ。蓄積しなければならないってわけではない。てめぇを一気に被爆させて殺すことも出来るんだよ。さすがに放射能は見えないし避けようがないだろ?」
「放出する前に時間止めて殺せるけどそれが何か?」
「ちっ。化け物だな」
「お互いにね」
放射能で再生する、か。
この世界は未だに放射能の影響下にある。
そういう意味では、言い方はあれだけど、使い勝手が良い能力だとは思う。
……。
……まあ、ああなりたいとは思わないけど。
さらに奴自身が体内の放射能を増幅させて発生させられるというのも注目するところだ。わざわざ体外に放出してから再生する、という点を見ると、体内に放射能が蓄積している状態では
再生できなくて、わざわざ放出して吸収しないと再生できないということかな?
だとしたら勝算はある。
どうするかって?
放出する前に瞬殺する。
それだけだ。
それにしてもマクレディ前市長たちは命拾いしたなぁ。
あのままランプライトに留まっていたら全滅していただろう。住人達と接触してないってことは、ジェリコはジェファーソン決戦後、少し経ってからボルト87から出て来たってわけだ。マクレディ前
市長たちがビッグタウンに移住したのはジェファーソン決戦直後。わずかな時間の差で命拾いしたってわけだ。
さすがに今の状態のジェリコに子供たちが勝てるとは思わない。
「そろそろ終わらせようぜ」
「まだ分からないんだけど」
「何がだ?」
「人狩り師団と組んで何がしたいの?」
「組む? ふん。こいつらが何を企んでいようがそんなことは知ったことじゃねぇ。俺はこんな体になってつまらないんだよ、そして何よりお前が世界をつまらなくした。ワクワクしたいんだ、分かるだろ?」
「ごめんまるで分らない」
「道端で酒飲んでよ、ツバ吐きながら歩きてぇんだよ」
「そこまでお上品な世界じゃないし好きにしたら?」
「今の世界を見ろ。誰もがお前を畏怖し、憧れる。お前が歩いた道を誰もが続こうとする。BOS然り、レギュレーター然り、だ。クソつまんねぇ。安全なキャピタルの歩き方だぁ? まるでクソだな」
「つまり、あんたが貧相なだけでしょ」
「……何?」
「BOSやレギュレーターが主体性なく私の後に続いている、とか言いたんでしょうけど、それってあんたにも適用されるでしょ。世間に流されて何も出来ないとか抜かしてる。まるでクズね」
「てめぇっ!」
「それがあんたがいい歳して捻くれてる理由? 子供よりもたちが悪い。あんたはただ、自分が主体となって何も出来ないことを認めたくないだじゃないの」
「くわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ピピピっ!
放射能レベルが上がったっ!
PIPBOYがけたたましく警戒している。
「おい、約束が違うわよっ!」
「知ったことかっ!」
マダム・マッスルの言葉を跳ねのける。
さすがに放射能は他の物理攻撃と違ってマダム・マッスルも回避のしようがないらしく、ジェリコの行動を無視できないようだ。
さらに放射能が上がって行く。
「くくく、ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
やばいな。
こいつ完全に切れてる。
「俺は放射能を操る、放射能に落ちたこの世界なんか怖くないっ! そうともっ! 俺こそは放射能の王なのだっ!」
「台風チョップっ!」
イヴが使った技だっ!
怒涛の連続チョップをジェリコに叩き込むマダム・マッスル。さすがに放射能汚染をしようとしているジェリコに付き合ってられないのだろう。
だが……。
「俺の防御力はゴミだ、お前の攻撃であっさり切り裂かれ、貫通するだろう、しかしすぐ再生する」
「な、何っ!」
「死ねぇっ! こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「……」
ドサ。
急激な放射能上昇に耐え切れなくなってマダム・マッスルは倒れた。
マジかっ!
私はその場を離れる。
気休め?
気休めだ。
だけど……何ともない?
もしかしたら奴の放射能放出は一時的な物で、瞬間的に放射能濃度が高まるけど留まらない性質なのか?
そんなのがあるのかは知らないけど、あれは奴の能力の一部だ。
別に放射能の性質に当てはめる必要はない。
ただ、分かったのは、近付いたらまずいってことだ。
どの程度の距離かは知らないけど近付かないようにするとしよう。
「ここで終わる、終わるぞっ!」
「何が?」
「お前の時代がさ。この放射能の世界は俺が頂く。そうともっ! 俺こそが玉座に付くのにふさわしいのさ。そして戻すんだ、お前が這い出てくる前の、正しいキャピタル・ウェイストランドにっ!」
じりじりと私は下がる。
奴はゆっくりと前に詰め寄ってくる。
マダム・マッスルはあれで果てたようだ。ステルス野郎も透明化したまま死んでいるのか、機会を伺っているのか、死んだのか、いずれにしても当てには出来ない。
「楽しいのか、俺は? ああ、楽しいぞっ!」
「よく喋る」
イカれてるな、こいつ。
だらだら喋って何もしてこないのは余裕からか、私に恐怖を味あわせたいのか、それとも遠距離での攻撃手段を持たないのか?
私は立ち止まる。
奴もつられて止まった。
「ジェリコ」
「何だ?」
「世界があんたにとってクソかもしれないけど、私はこの世界が好きなのよ。より正確に言うなら、私の友達が好きなのよ。それを壊されるのは我慢ならない」
「ふん、正義の味方ってわけだな。天使様はこの世界を救う為に舞い降りたってわけか? クソ天使が、マジうぜぇっ!」
「悪いけど私は天使なんかじゃない」
「そうかい」
「そうよ」
「だったらこの場に引き摺り倒してただのくだらねぇ女だってことを教え込んでやるよ、救世主気取りのクソ女っ!」
「Cronus」
どくん。
どくん。
どくん。
全てがスローに。
そしてミスティックマグナムを全弾発射。
能力解除。
時間は元の動きを取り戻す。
「吹っ飛べ」
弾丸はジェリコの頭、心臓、四肢、ありとあらゆる場所を吹き飛ばす。四肢を吹き飛ばして行動不能にし、主要臓器を吹き飛ばすことで殺す。
スプラッターな肉片となってジェリコはべちゃべちゃと転がった。
「ジェリコ、私は天使なんかじゃない。だから容赦なんてしない。お分かり?」
返事はない。
ただのグロ肉片のようだ。
グレネード弾には耐えたけど、ミスティックマグナムの貫通力には奴の再生能力は対応できなかったらしい。マシーナリーの腕を簡単に吹き飛ばしたあの威力を全弾受けたんだ、再生する前に
肉体を吹き飛ばし、肉片に変えた。爆発系より貫通系がこいつには効くってわけだ。まあ、死にましたから無駄知識ですけども。
ここまでぐちゃぐちゃになったんだ、再生不可だろう。
だが念の為だ。
アサルトライフルに装着しているグレネードランチャーで念入りに吹き飛ばしてやる。私は床に転がっているアサルトライフルに近付き、手を伸ばそうとする。
「やあ」
「なっ!」
そこに突然顔が現れた。
宙に浮かぶ顔。
顔だけ。
中華製ステルスアーマーのフェイス部分だけ外したのだろうけど、いきなり顔だけが現れたので面食らう。
だから。
だから対応が遅れた。
そしてその顔も対応の遅れの要因だった。
「アン、ソニー?」
「そうです。正式名はアンソニー・ビーン、そしてイーター。ジェリコは気付かなかったようですけどね。ずっと思ってた、あなたって美味しそうだって」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ゴリ。
右手の指を、中指を奴に食い千切られたっ!
そしてアンソニーは笑うのだ。
「おいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! これが、これが天使の肉の味かぁっ!」
「くっそっ!」
VSイーター戦、開始。